文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第6回)

日時:平成30年11月26日(月)
15:00~18:00
場所:東館3階3F1特別会議室


議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)ダウンロード違法化の対象範囲の見直しについて
    2. (2)アクセスコントロールに係る規定の在り方について
    3. (3)著作権等侵害訴訟における証拠収集手続の強化について
    4. (4)その他
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料1-1
ダウンロード違法化の対象範囲の見直しに関する論点について(141.2KB)
資料1-2
インターネットユーザー協会からの追加提出資料(1MB)※一部音声読み上げソフト非対応のデータです。
資料1-3
全国地域婦人団体連絡協議会からの提出資料(121.2KB)
資料2
アクセスコントロールに係る規定の在り方に関する論点整理(案)(952.1KB)
資料3
著作権等侵害訴訟における証拠収集手続の強化に関する論点整理(案)(295.2KB)
参考資料1
私的使用目的の複製に係る権利制限について(規定の趣旨・概要、これまでの改正経緯、諸外国の状況)(275.2KB)
参考資料2
第5回法制・基本問題小委員会(11/9)における主な意見概要(ダウンロード違法化)(99.4KB)
参考資料3
第4回法制・基本問題小委員会(10/29)におけるヒアリング結果概要(ダウンロード違法化)(98.1KB)
参考資料4
御提出いただいた改正著作権法第47 条の5第1項第3号に基づく政令のニーズに関する取扱いについて(ニーズ提出団体への通知文)(79.4KB)
参考資料5
改正著作権法第47 条の5第1項第3号に基づく政令のニーズに関する審議の経過(94KB)
参考資料6
「著作権法施行令の一部を改正する政令(案)」及び「著作権法施行規則の一部を改正する省令(案)」の概要について(174.9KB)
出席者名簿(45.1KB)

議事内容

【茶園主査】それでは,時間が参りましたので,ただいまから,文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第6回)を開催いたします。本日は,御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。

議事に入る前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思いますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところですけれども,この点,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【茶園主査】ありがとうございます。

それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴していただくことといたします。

では,まず,事務局より配布資料の確認をお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】それでは,お手元の議事次第の配布資料一覧を御覧いただければと思います。

まず,資料1-1「ダウンロード違法化の対象範囲の見直しに関する論点について」と題する資料でございます。

資料1-2が,同じくダウンロード違法化に関しまして,インターネットユーザー協会から追加で御提出いただいている資料でございます。

資料1-3も同じく全国地域婦人団体連絡協議会から御提出いただいた資料ということでございます。

資料2が,「アクセスコントロールに係る規定の在り方に関する論点整理(案)」,資料3が「著作権等侵害訴訟における証拠収集手続の強化に関する論点整理(案)」,いずれも事務局で作成した資料でございます。

参考資料1につきましては,「私的使用目的の複製に係る権利制限について」ということで,前回と同様,基礎資料としてお配りしております。

参考資料2が,前回の小委員会におけるダウンロード違法化に関する主な意見の概要。

参考資料3は,前々回の小委員会における出版社等からのヒアリングの概要でございます。

参考資料4につきましては,前回御審議を頂いた政令のニーズにつきまして,事務局からニーズ提出団体に通知した文書でございます。

参考資料5は,同じく政令のニーズに関する小委員会での審議の経過をまとめた資料となっております。

参考資料6につきましては,先般の法改正に伴いまして,事務局で政省令の改正案を作成し,現在,パブコメを実施しておりますので,その概要を御参考としてお配りしているものでございます。

不足などがございましたら,お近くの事務局までお伝えいただければと思います。

【茶園主査】よろしいでしょうか。

では,まず初めに,議事の進め方について,確認しておきたいと思います。

本日の議事は,(1)ダウンロード違法化の対象範囲の見直しについて,(2)アクセスコントロールに係る規定の在り方について,(3)著作権等侵害訴訟における証拠収集手続の強化について,(4)その他,以上4点となります。

では,早速議事に入ります。1番目の議題,(1)ダウンロード違法化の対象範囲の見直しについてです。

本日は,まず,これまでの議論等を踏まえまして,事務局で論点の整理を行っていただきましたので,その御説明をお願いしたいと思います。

また,事務局からインターネットユーザー協会と全国地域婦人団体連絡協議会に対しまして,ダウンロード違法化に伴い,ユーザー側として懸念されている具体的な事例等の照会を行っていただきましたので,それに対する回答につきまして,併せて事務局から紹介をしていただきたいと思います。

では,お願いいたします。

【大野著作権課長補佐】それでは,まず,資料1-1を御準備いただければと思います。「ダウンロード違法化の対象範囲の見直しに関する論点について」ということで,前回の小委員会における議論を踏まえまして,事務局として整理した資料でございます。

まず,1番のところにございますとおり,前回の小委員会におきましては,海賊版サイトによる被害実態などを踏まえまして,ダウンロード違法化の対象範囲を漫画など一定の範囲に拡大していく必要があるということにつきましては,おおむねの共通認識が得られたものと承知しております。

一方で,具体的な対象範囲をどのように設定するかについては,様々御意見があったと受け止めております。多様な分野における海賊版被害や諸外国の取扱いを踏まえて,著作物全般に拡大することを支持する御意見も複数ございました。

一方で,音楽・映像以外の著作物の特性などを踏まえて,慎重な検討が必要であるという御意見や対象著作物,対象サイトの限定についての御提案も頂いたところでございます。

これを踏まえまして,本日の小委員会におきましては,まず,音楽・映像以外の著作物(静止画・テキストなど)につきまして,どのような特性があるのかということを確認した上で,その特性を踏まえた配慮,具体的な対象範囲の在り方について御議論をお願いできればと思っております。

資料の2番が,音楽・映像以外の著作物の特性についてでございます。前回,委員の方から御指摘を頂いたものを中心に3点記載しております。

まず,1点目が,創作の容易性,アップロードの容易性などを背景にしまして,ブログ,SNSを含めて,多様な場所に多様な違法ファイルが掲載されている可能性があるということでございます。ユーザーの方から見ますと,一般のユーザーの方でも気軽にダウンロードを行いやすい環境にあるということかと思っております。

また,2点目としては,有償で販売するために作成されていない著作物,いわゆる商業ベースではない著作物が多いということがございます。

また,3点目としては,ファイル容量が小さいということで,瞬時にダウンロードが完了することから,ユーザーの方が思い留まる時間がないということも前回御指摘を頂いたところでございます。

米印で書いておりますが,このほかに考慮しておくべき特性があれば,後ほどの議論の中で御指摘を頂きたいと思います。

3番は,このような特性を踏まえた配慮についてでございます。

まず,(1)番は,前提として主観要件がしっかりと設定されているということを確認しておきたいと思います。現行でも,「事実を知りながら」という要件が掛かっておりますし,これは当然,維持していくという理解でございます。この「事実を知りながら」という要件が厳格に解釈される場合には,違法にアップロードされた著作物だとユーザーが確定的に知っている場合にのみ,ダウンロードは違法化になります。逆に申し上げますと,括弧書きにあるように,「違法だと当然に知っているべきだった」とか「違法か適法か判断が付かなかった」という場合には,ダウンロードは違法にならないということでございます。こういった限定が既に掛かるということを前提にして,さらに何か特別な措置が必要かどうかという議論をお願いしたいということでございます。

次に,(2)番は,対象著作物・対象サイトによる限定の選択肢ということで,前回頂いた御意見を大きく3つに分類して御紹介しております。

まず,2ページの丸1,民事においても有償で提供・提示される著作物に限定するという方法でございます。御案内のとおり,刑事罰につきましては,現行でも有償のものに限定されていますが,民事の段階から有償なものに限定するという御提案だと理解しております。

趣旨としましては,音楽・映像以外については,有償で販売するために作成されていないような著作物も多いということや,現に被害が顕在化・深刻化しているのは有償のものだろうということで,対象を限定すると理解しております。

この点につきましては,例えば,漫画におきましても,専用のアプリで無償配信をし,一定期間経過後に単行本として販売するといったビジネスモデルも存在しているところでございまして,商業ベースの著作物だから配信が有償だとは必ずしも限らないという状況があることをどう考えるかということが論点になると思います。

また,2つ目のポツにございますとおり,音楽・映像につきましても,地上波の放送番組のように無償で提供されている著作物というものも相当程度ございます。その中で,音楽・映像以外について,有償に限定するということになりますと,それが法的な取扱いに差を設けるだけの正当化できる事情なのかということも検討が必要になろうかと思っております。

次に,丸2番,著作物の種類・分野を限定するという方法でございます。

この趣旨としては,現に被害が顕在化・深刻化しているのは,全ての著作物というわけではないだろうという認識の下での御提案だと受け止めております。

これに関しましては,漫画以外にも雑誌,書籍,論文,プログラムなどについて,一定の被害実態が明らかとなっております。その中で,具体的にどのように線引きをしていくことが想定されるかということが,まず,大きな論点になろうかと思います。

また,2つ目のポツに記載しておりますが,海賊版サイトは短期間で急成長する可能性があるという指摘がされております。その中で,現に被害が深刻化しているところだけを手当てするといった後追い的な法整備で権利者の利益を適切に保護できるかということも検討が必要だと思います。漫画につきましては,ダウンロードが違法化されていない中で,こういった被害が生じているわけでございまして,ある程度未然防止の観点も考慮した法整備というものも求められるのではないかと考えております。

米印は参考でございますが,現行法上,ダウンロードが違法化されているのは,録音・録画の場合ということでございまして,厳密に対象著作物が限定しているわけではないということがございます。「例えば」と書いておりますが,言語の著作物,落語や小説であっても,オーディオブックのようなものを録音する場合には,ダウンロードが違法化されております。また,ダンス,舞踏の著作物を録画するという場合にも対象になっているということでございまして,対象著作物で,現状でも厳密に線引きされているわけではないということは,参考としてお伝えしておきたいと思います。

次に,丸3番。こちらは,リーチサイトの議論と同じように,いわゆる悪質なサイトからのダウンロードに限定してはどうかという御提案でございます。

趣旨としては,現に被害が顕在化・深刻化しているのは,いわゆる海賊版サイトのようなものからのダウンロードだろうということで,対象を限定していってはどうかという提案と受け止めております。

この点につきましては,3ページに記載しておりますとおり,リーチサイトと同様の事情が認められるかということが,まず,議論の前提になるかと思います。リーチサイトにつきましては,リンク情報の提供行為が「表現の自由」の対象になるということを前提にしまして,緊急に対応する必要がある悪質なところだけを取り出して対応しようというのが前提としてあったかと思います。ダウンロード違法化について,同じような枠組で検討するのかどうかということでございます。

また,2つ目にございますとおり,例えば,汎用的なストレージサービス(クラウドロッカー)におきましては,違法なものが二,三割,適法なものが七,八割程度ということも状況としてあり得るかと思います。そういった場合に,違法な著作物のダウンロードを対象外とすべき理由があるのかどうか。また,海賊版サイトに限定しますと,P2Pのようなものが対象から漏れますが,そのようなことでいいのかどうかということも議論の必要があろうかと思っております。

次に,(3)番,追加的な法的措置の要否,内容についてでございます。

まず,丸1で,そもそも追加的な措置が必要かどうかということを御議論いただきたいと思います。先ほど御紹介した3つの限定の選択肢は,いずれもユーザー保護の観点から,何らかの限定をすべきという観点だと思いますけれども,主観要件によって,違法にアップロードされたものだと,確定的に知っている場合に限定されるということがございますので,そういう場合であっても,なおダウンロードを行うユーザーを保護すべき事例があるのかどうか。この点は,できるだけ具体的に想定した上で議論する必要があるのではないかと思っております。それは,そういった事例に正当性があるのかという検討も必要だと思いますし,実際に限定していくに当たっても,どういう限定をすれば,そういった事例が排除できるのかという観点をよく詰めておく必要があるからでございます。

次に,(イ)にございますとおり,そのような場合,つまり違法にアップロードされたと確定的に知っている場合におけるユーザーの行為。これは,言ってみますと,括弧書きにございますとおり,「違法にアップロードされた著作物から積極的に便益を享受しようとする行為」と評価されるものだと思います。こういった行為を著作権者の利益保護よりも優先するような正当性があるか。こちらも,具体的な事例に即して明らかにしておく必要があろうかと思います。

その上で,丸2番,措置の内容でございます。まず,(ア)といたしまして,仮に,正当性のあるユーザーの行為が想定できるとして,どのような形で限定していくことが望ましいかということでございます。これは,限定するということは,その分,著作権者の利益が一定程度犠牲になるという側面もございますので,できるだけ具体的な事例に即して,必要最小限の限定になっているかという観点で議論が必要なものと認識しております。

また,(イ)にございますとおり,そういった限定につきまして,音楽・映像との取扱いの差異を合理的に説明できるかどうか,また,公衆送信権の侵害につきましては,著作物の種類などを問わずに同様に適用されますので,この関係をどう考えるかということも整理していく必要があろうかと思います。

それから,(ウ)につきましては,少し観点が異なりますが,ユーザー側の不安というのは,詰まるところ,適法か違法かよく分からない中でダウンロードが違法化されてしまうというところが大きいのではないかと事務局としては受け止めております。これは,「事実を知りながら」という要件が広く解される可能性があるということが懸念の背景にあるのではないかと思っておりまして,仮にそういう懸念なのであれば,主観要件の規定の仕方を見直すということも含めて,厳格な取扱いを担保する方策も検討する必要があるのではないかと考えているところでございます。

最後に,(4)刑事罰の取扱いについてでございます。

まず,前提として,音楽・映像につきましては,違法化(民事措置)がなされました。ただ,それだけでは十分な効果が上がらないということを理由にして刑事罰化が行われまして,刑事罰化によって,一定の抑止効果が見られたということは,前回御紹介したとおりでございます。音楽・映像以外につきましても,同様に抑止効果を高める観点から,刑事罰を課すべきかどうかということがございます。

また,丸2といたしましては,音楽・映像については,刑事罰化されましたが,現状では検挙例がなく,専ら抑止効果として機能しているということがございます。それをどう評価していくかということでございます。抑止力として機能するような措置でもよしとするのか,若しくは,刑事罰を掛ける以上は,積極的に発動されないといけないものと捉えるのかということだと理解しております。

それから,3点目は,法定刑の水準でございます。当然,有償で提供・提示されたものに限定して刑事罰を課していくということになりますが,法定刑の水準を音楽・映像と同水準とすべきかどうかということでございます。

資料1-1については,以上でございます。

続いて,資料1-2を御覧いただきたいと思います。一般社団法人インターネットユーザー協会から追加で御提出いただいた資料になります。前回,ヒアリングに御出席いただきましたけれども,その中では,必ずしもユーザー側の具体的な懸念事例につきまして,明らかにならなかったのかなと事務局としては受け止めておりますので,改めてインターネットユーザー協会さんに照会をして御提出いただいた資料ということになります。簡単に御紹介させていただきます。

まず,1番,音楽・映像について,御質問をいたしました。ユーザー側に,当初懸念されていたような不利益・混乱などが生じた事例を把握されているか。ダウンロード違法化によりインターネットの利用の萎縮が生じたかということを御質問しております。これにつきましては,インターネットユーザー協会からは,10年前の違法化の際にも,また,6年前の刑事罰化の際にも,様々具体的な事例を示してユーザーに不利益が及び得るという御指摘がされておりました。そういったものが現実化したのかどうかということを把握するために御質問したものでございます。

回答につきましては,事務局で必ずしも趣旨を理解し切れていない部分もございますので,読ませていただくことにしたいと思いますが,少なくとも具体的に当初懸念されていたような事例が顕在化したということは記載されていないところでございます。

次に,2ページの2ポツ,静止画(漫画・雑誌・書籍)についてでございます。この点につきましては,前回のヒアリングでも静止画の対象範囲が明確にならないと,なかなか議論が難しいということもございました。ただ,静止画の範囲が明確となり,また,「事実と知りながら」という主観要件が課され,確定的に知っている場合のみ違法になるという状況でも,なお懸念される事例があるのかどうかということを御質問したものでございます。

この点につきましては,3ページ以降,回答を記載しておりますが,やはり静止画の定義というものが明らかにならない現状では,なかなかお答えが難しいという回答でございました。

こちらも詳細は割愛いたしますが,この回答の中では,やはりユーザー側が違法にアップロードされたものかどうか,判定することが難しいということが繰り返し記載されております。違法かどうか分からなければ,当然ダウンロードは違法化にならないわけでございますが,いずれにしましても,主観要件の部分に対する懸念が大きいのではないかと事務局としては受け止めたところでございます。

次に,4ページに参りまして,3番,著作物全般についてという部分でございます。前回の委員会におきましては,委員の方から,いわゆる静止画に限らず対象を広げていくことも考えられるという御意見がございましたので,そういったプログラムなどに広がった場合に懸念される事例があるかということを別途お聞きしているところでございます。

この点につきましては,特にプログラムに関しまして,オンラインライセンス認証などを通じて,しっかりと管理ができているから,違法化の必要がないという御指摘がされております。

この点につきましては,前回,BSA様から意見書の中で言及があったかと思います。ソフトウェアの不正な利用の対応としては,不正なシリアルキーの提供と違法にダウンロードできるようなURLの紹介と併せて行われておりまして,不正なキーと違法にダウンロードされたファイルと,それがセットとなって不正利用が助長されているという御指摘もあったところかと理解しております。そういう意味で,両面を規制していく必要性というのは,一定程度あるのではないかと事務局としては受け止めております。

また,技術的手段で保護できているから,権利が要らないということもなかなか難しい議論なのかなと思っております。当然,コピーガードが掛かっているから複製権が要らないということにはならないわけでございまして,権利の範囲を議論するときには,こういった技術的な手段が実態としてどう関わっているかということは,また別途議論する必要があるのではないかと認識しております。

また,5ページの中ほどにおきましては,ネットオークションで不正キーが販売されている場合,不正競争防止法で対応できるということも言及されております。恐らく,著作権法で対応する必要がないという御指摘だと思いますが,御案内のとおり,不正競争防止法では,営業上,用いられている技術的手段だけが保護されておりますし,また,ユーザーの回避行為については規制が及んでおりません。そういう意味で,著作権法で措置をすべき部分もあろうかと思いますし,そもそも両者では保護法益が異なりますので,両者で重複するような領域が当然あってもいいということは,これまでも前提とされてきたものと理解しております。

続きまして,資料1-3は,全国地域婦人団体連絡協議会から御提出いただいた資料でございます。インターネットユーザー協会のほかに,消費者団体の御意見もお伺いしたいということで,事務局から照会したものでございます。同じく,具体的な事例をお示しいただきたいということで照会したところでございますが,必ずしも具体的な事例が示されたわけではないということでございます。

紹介については,割愛させていただきます。

2ページを御覧いただきたいと思います。ダウンロード違法化に当たって,どのような措置が必要になるかということをお伺いしましたところ,研究目的,その他の公正利用についての例外を導入すべきという御意見がございました。これは恐らく,著作権侵害の作品を集めようとすると,規定に抵触してしまうということを懸念された御提案だと理解しております。この点自体は重要な御指摘だと思いますけれども,「研究目的」と書かれておりますので,私的使用とは別の文脈で議論すべき話なのかなと受け止めております。

また,この段落の3段落目,「また」という部分におきまして,静止画に関しては,いわゆる一枚絵を左クリックでダウンロードできる手軽さから考えて,一定程度の分量(電子書籍程度の分量)のダウンロードが違法化という形での量的制限が必要という御指摘もございます。これも,限定の仕方のオプションとして貴重な御提案だと受け止めておりますが,著作権法におきまして,こういったデータ量の多過を保護の必要性と結び付けて議論するのがいいのかどうかということは,慎重な検討が必要かなと思っております。

写真につきましては,当然1枚の写真でも価値のある著作物だと思っておりまして,音楽・映像と比べてデータの量が少ないから保護の必要性は劣るということではございませんので,そういう点にも留意した検討が必要だと事務局としては受け止めているところでございます。

少し長くなりましたが,事務局からは以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

それでは,ただいま御説明いただきました内容を踏まえまして,委員の間で議論をお願いしたいと思います。

前回の議論では,今,説明の中にもありましたように,著作物全般を対象にすべきという意見のほかに,対象を一定の範囲に限定すべきという意見もございました。そこで,本日は,具体的な対象範囲について,一定の方向性を取りまとめていきたいと考えております。

このため,特に以下のような点について,議論をお願いしたいと考えているところであります。

1番目。音楽・映像以外の著作物の特性を踏まえまして,ユーザー保護の観点から特別な配慮が必要となるかどうか。

2番目。その配慮として,「事実を知りながら」という主観要件による限定では不十分な事例があるのか。

3番目。仮に,違法化の対象を限定すべきという場合には,具体的にどういう形で限定するのがよろしいのか。

4番目。その限定によって,ユーザーを保護する必要性は,著作権者の正当な利益保護よりも優先すべきものと言えるのか。

5番目。音楽・映像と取扱いに差を設けるということを正当化するだけの理由があるのか。このような点を特に中心にして,議論をお願いしたいと考えております。

それでは,この点につきまして,御意見等がございましたら,どうぞお願いいたします。

では,前田委員。

【前田(健)委員】ありがとうございます。

まず最初に,前提となる音楽・映像以外の著作物の特性という点について申し上げたいと思います。既に3点ほど指摘があって,いずれもそのとおりと思うのですが,それに補足する形で私から2点ほど指摘させていただきたいと思います。

まず,1点目ですが,音楽・映像以外の静止画やテキストというものを念頭に置いたときに,違法ファイルと一口に言っても,違法な部分が一部分に留まる場合が多いのではないかと思っております。例えば,ある長い文章があったときにその中に1つ違法なテキストが入っているとか,若しくは,何か図が掲載されていてその部分が違法だとか,静止画,テキストというものを全般的に捉えた場合には,そういう可能性も大分入ってきてしまうと思います。

漫画,書籍といった形で特定できるのであれば,今言った懸念は余りないのかもしれませんが,静止画,テキストというものを含めて一般的に捉えると,そういう懸念は出てくると思います。

2点目ですが,その点と裏返しの部分がありますが,ダウンロードする目的が多様なのではないかと思います。音楽や映像の場合には,違法かどうか知っていたかはとりあえず置いておいて,当該音楽の著作物や映像の著作物を入手しようと思ってダウンロードしているということが比較的明確だと思いますが,先ほど申し上げたように,一部に違法な部分があるというときには,余りその辺を自覚的にならずにダウンロードしている場合が多いのと思います。

また,入手自体が目的ではないということで,別にその目的がある場合もあるのではないかと思います。そういった目的の中に,もしかしたら何か正当化できるものがないのかどうかというのは,検討しなければいけないのかなと思います。

ただ,私として,今2点ほど申し上げましたけれども,いずれも大部分は恐らく主観要件を厳格に運用すれば対処できるものがほとんどなのではないかと思っております。具体的に主観要件の内容次第ですけれども,そこを適切にすれば,対処はできるのかなと思っております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

奥邨委員。

【奥邨委員】まず,特性のところで,1つは今,前田委員からあったのと同じようなことですけれども,例えば,書籍であれば,その中に32条の引用を満たさない形で引用部分があったという場合に,1冊丸ごとダウンロードすることに非常に問題があるとまで評価する必要があるのかどうかということは,やはり事例としてはあり得るのではないかと思います。

それから,これは実際にウェブの場合によくやられていることですし,機能としてもいろいろ使われていますけれども,ウェブクリッピング,若しくは,後で読むという機能で,ウェブページを端末やクラウドに一時的に保管して,後で読むということも行われています。

また,そういう形でウェブページがあったということを記録して,一種のスクラップブックのような形で皆さんがいろいろなツールに残すということも多々行われていて,それが一般的であろうと思います。ビジネスの世界等々では,個別具体のツールの名前を出すと問題があるかもしれませんけれども,そういう形でウェブクリッピングができるツールを使って生産性を高めるということが,今,極めて当然のこととして行われております。

もちろん,前田委員がおっしゃったように,主観要件をどうするかというところはあるんですけれども,そういう行為に影響が及ぶんだということを,まず,前提として認識する必要があるんだろうと思います。

それから,インターネットユーザー協会さんや婦人団体さんなどにいろいろ聞かれている関係なんですけれども,録音・録画のダウンロードを違法化して,何か問題があったのかと聞いたけれども,具体的なものが出てこない。これは,やむを得ないのではないかなと思います。なぜなら,そもそもほとんど権利行使がされていないわけですから,権利行使されていないものについて,どんな問題があったと聞いても,それは一歩も進まない。以前言っていた状態と変わらないということはやむを得ないのではないかなと思います。

実際問題としては,少なくとも刑事については,私が知る限りは,ダウンロードだけ事件化したということはなかろうと思いますし,民事についても,録音・録画のダウンロードだけで訴えたということはなかろうと思います。そうなってくると,それがどういう問題を起こしたかといっても,実際に権利者の方が権利行使しづらいぐらいですから,それを利用して何らかの悪いことをしようとか,トロール的なことをしようとする人だって,しにくいのは当たり前なので,そういうことについては,なかなか出てこないというのはやむを得ないところがあるんでしょう。したがって,出てこないからといって,問題がないと整理してしまうのは,若干アバウト過ぎるかなという気はいたします。

最後,もう一つは,主観要件。私も,特に3ページの(3)の丸2の(ウ)のような形で,より厳しくしていくことが1つだと思いますけれども,さらに申し上げますと,この録音・録画を違法化したことによる実際の効果は,抑止効果なり,メッセージ効果なりでしかなかったわけであります。実際の事件として,ほとんどが機能していない。そうであれば,メッセージにしかすぎないのですから,今回もメッセージとなるレベルでよくて,水も漏らさぬようにする必要性はなかろうと思います。

したがって,例えば,「例外として権利者の利益を不当に害しない場合」という少し大きめの柔軟な形の例外の例外を入れておくということをしても,基本的には違法になっているのだから,違法になってあなたが訴えられた後,自分で権利者の利益を不当に害しないということを説明しないといけないんですよと言えば,十分メッセージとしては伝わって,そんなことはできないと思って悪いことはしないわけです。そういうことでいいのであって,余り家庭の中に法律が入っていくということを,水も漏らさぬ形でやる必要が今の段階であるのかということについては,若干の疑問を持っているということです。

以上です。

【茶園主査】済みません,奥邨委員。先ほど,前田委員もいろいろと音楽・映像以外の著作物の特性についておっしゃられましたけれども,主観的要件の問題に関しては,特性自体を強調する必要はないのではないかという御意見であったと思います。奥邨委員も,いろいろな特性をおっしゃっていましたけれども,対象範囲自体の問題については,何か御意見がございますでしょうか。

【奥邨委員】まず,対象範囲のところについては,そういう意味では,まとまりが前提。著作物の種類ということではなくて,まとまりのレベルということで,例えば,先ほども出ていました作品単位としてしまうと難しいんですけれども,漫画1冊,若しくは漫画の1話ということがあっていいんであって,一部分ということを取り立てて問題にしなければいけないような状態が出ているんだろうかという気はいたしております。

それから,あともう一点は,ここのところで出ていましたけれども,差を付けるというところで,2ページの丸2です。録音・録画のところは,別段著作物が限定されていないということですけれども,逆に言うと,録音・録画以外の複製については,若干規律を違えるということはあってもいいのかもしれない。著作物で切るのが難しいのであれば,録音,録画以外の複製については,録音・録画に比べれば違う扱いをするということはあってもいいのかなと思います。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

ほかに何か御意見ございますでしょうか。

では,生貝委員。

【生貝委員】私も,まず1つ,2の「音楽・映像以外の著作物の特性」というところに関して意見を述べさせていただきます。1つは,今,両委員がおっしゃったところを全体的に私も同感するところがあるのですが,それに加えて,特にソフトローの観点からという形で申し上げますと,前提として,今回,静止画を対象に広げるということで,実際にダウンロードを行う側の違法化される人や行為の数も非常に大きく広がるであろうということは共通の認識であろうかと思います。それは,一方で,ここで強調したいのは,権利行使をすることのできる,つまり権利者の側というのも,静止画に広げることで非常に質としても量としても大きく広がるだろうということがございます。

この議論の前提として,やはりダウンロードの違法化を導入するに当たっても,権利者の側からむやみな権利行使は,恐らくなされないだろう。実際に音楽や映像に関してもなされてこなかったといった議論が立法事実の大きな1つとしてあるところでございます。それというのは,ソフトローの言葉で言えば,権利者側のあくまで自主規制によって成り立ってきた秩序であると申しましたときに,今回,例えば静止画のダウンロード違法化によって権利行使ができる人間が質,量ともに増えるということは,一般論として,ソフトローによる自主的な秩序といったもの。これは,ある種の紳士協定といったものが非常に成り立ち難くなるということは,一般論として言えるところかと思います。

ですので,広く広げた際に,我々が想定していないような権利行使が行われる可能性も非常に広がるということは認識しておくべきであり,1つの対応の在り方としては,やはりある程度範囲を狭めるとか限定する,ないしは,しっかりとそういった長期的なビジネスをやっていらっしゃる代表権利者の方々のいるところにいかに限定していくかといったことを考えるのが1つの方策であるかと考えるところです。

それから,もう一つ,関連して範囲の限定というところに関して,特に知的財産本部等で議論されてきた施策の観点で1つ申し上げさせていただきます。今回,例えば,このダウンロードの違法化の議論というのは,フィルタリングでありますとか,あるいはアクセス警告方式といったような利用者の注意を喚起する方法と組み合わせて運用されていくということが1つの想定としては置かれているところだと思います。

そのようなときに,非常に遵守することが難しい法律という広い網の掛け方をしてまったときに,そのメッセージ効果や抑止効果といったものは,むしろ非常に希薄化してしまうのではないか。であれば,こういった対象なら,広くグレーにするというより,黒いところをしっかりとしておく方が,利用者への注意喚起の説得力,メッセージ効果も増す面があるのではないかと考えている部分もございます。

以上,2点申し上げさせていただきます。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

ほかに何かございますでしょうか。

では,大渕委員。

【大渕主査代理】今までいろいろお聞きいたしまして,要するに現状としては,録音・録画については3号の対象になっていますが,それ以外はなっていない。これは,現状としてそうなっているのですが,一番ストレートに問題設定すると,そこに合理性があるのかということの1点に尽きるかと思っております。

この観点から,参考資料1で諸外国の制度が紹介されているのを見ますと,日本のような制度は余りありません。この中で一番参考としやすそうなドイツは,いろいろなところを配慮しているかと思います。4ページにあるように,明らかに違法に製作又は公衆利用可能化された原本を用いた複製については,私的使用目的の複製に関する例外規定の適用対象から除外しているだということで,この「明らかに」というあたりが,恐らくドイツでも主観的な限定など,いろいろ考えた上でこのような条文になっているかと思います。

ドイツは,主観のところを明らかに云々ということで絞り込んでいますが,対象範囲は限定していません。ほかの国は「明らかに」が付いていなかったりしますが,対象範囲は区別しないということが基本路線のようです。それが,先ほど事務局にも整理していただいたところにも関係してきます。要するに,明らかに違法だと確定的に分かっているような状態でダウンロードするということを正当化できるのかという点が1点。それから,録音・録画とそれ以外で,今の点について同じかと言われると,法制度としての大前提は先ほど言われたように確定的に違法であることを知っているという前提で,それにもかかわらず,権利者の利益を犠牲にしてと言われたかと思います。そのようなことが正当化できるのかと考えると,今まで録音・録画だけを対象にしてきたことは間違いないのですが,それはそれとして,現時点でそこに限定して,法制度として区別することに合理性があるかというと,なかなか難しい点があると思います。ただ,先ほど言われたような一部の点などは,また別の観点かなと。

それと全く別の点ですが,先ほど研究というものが出てきて,研究のために一部違法ソースからというあたりは,また別の問題もあると思います。このようなものについて中途半端に言うのは危ない面もあるのですが,現行法上,明文の権利制限規定はないとしても,30条の勿論解釈で読めるかと思います。

そのようなものは,研究としてどうかというのは別として,私的複製の範囲で考えると,先ほど言われたように,公衆送信ならば限定していないのにここだけ限定するというアンバランスが生じるので,先ほどあった一部かどうかというのは,必要に応じて,また別途どういう形でやるのがよいのか考える必要があると思います。

先ほど言われたように,余り一般条項を増やしてしまうのは好ましくないと思います。そのあたりはどういう範囲で捉えるのかというところ,論文だけコピーすればいいのに,別の図表までコピーするという問題は,どのような単位で捉えるかという各論のような気がします。かつ,先ほど言われたように,主観のところで確定的に知りながらということを要求すれば,かなりの程度吸収できるのではないかと思います。そのような細かい話は別として,基本線として,法制度として録音・録画とそれ以外を機械的に切ってしまうというのは,正当化は難しいのではないかと思っております。

【茶園主査】今村委員。

【今村委員】諸外国の様々な法制度を見たときに,少なくとも民事の規律に関しては,著作物ごとに異なる形で,私的使用の複製を規律しているというケースは余りないように思うんです。逆に,刑事に関しましては,この資料では整理されていないので,そこは後で少し整理した方がいいのかもしれませんが,我が国で私的使用のための複製に当たらないケースで刑事罰に必ずしもなるかといったら,そうでもないということのようです。要するに,刑事罰のハードルがかなり高いという部分もあって,その部分も含めて検討する必要があるのではないかと思うんです。

民事は,結局のところ差し止めと損害賠償ですから,抑止効果としては刑事罰の方がはるかに高いわけで,そこのハードルが高いか低いかということは,全体としてダウンロードを違法とする際に,対象範囲を著作物の類型や分野で限定するかどうかということと関わってくると思います。なので,刑事罰の要件をどうするかということも含めて,録音録画と同様に有償著作物のような限定は入ってくるんだとは思うんですが,そのレベルではなくて,私的使用の複製全体に関して,今までは権利行使が刑事罰に関してはなかったという現状も踏まえて,もう少しハードルを高くするという議論もあっていいのかなと考えました。

【茶園主査】ほかに何かございますでしょうか。

では,井奈波委員。

【井奈波委員】著作物の種類・分野を限定するという問題に関してですが,録音・録画とそれ以外について,区別することを正当化できる理由はないと考えております。例えば,現在の状況でも,オーディオブックであれば保護され書籍は保護されないということになりますが,それを正当化できる理由は特になく,逆に,そのような差別的な取扱いをすることの方が,むしろ不合理ではないかと考えております。著作物の範囲を広げたとしても,主観的要件である程度歯止めを掛けられる問題と思っております。

ただ,プログラムに関して,インターネットユーザー協会から出たレポート4ページ目に,オンラインライセンス認証やサブスクリプション契約で提供されているソフトやソフトウェアベンダーの認証によって十分排除可能であると記載されています。実際にこのとおりなのかどうかは,少し疑問があり,権利者側に実際に排除が可能なのかどうかを確認する必要があるのではないかと考えております。

【茶園主査】では,前田委員。

【前田(哲)委員】私も著作物の種類・分野を限定するのは,なかなか難しいのではないかと思います。

ただ,先ほど,奥邨委員からお話がありましたように,今は録音・録画という行為が対象になっているわけですけれども,録音・録画以外の複製については,録音・録画と並列する場合に,何らかの限定を掛けるという可能性はあり得るのではないかと思います。

例えば,録音・録画以外の複製については,原作のままの複製に限定するという可能性はあり得るのではないか。そういう限定をするならば,先ほど,奥邨委員から御指摘がありました,ダウンロードした著作物のごく一部に適法引用と言い得る範囲を超えて他人の著作物が引用されており,そのことを知っていたような場合を除くことができるのではないかと思います。

【茶園主査】ありがとうございました。

ほかに何かございますでしょうか。

奥邨委員。

【奥邨委員】著作物の種類・分野を限定するということに関しては,基本的には著作物なんだから差はないではないかという議論はあり得ると思いますし,それはそれで説得力があると思います。

ただ,問題は,この前の録音・録画だけ違法化するときの議論であれば分かるんですけれども,既に私たちは録音・録画だけを違法化して,それ以外については,とりあえず私的使用のままでいいですよということにして,それが約10年ぐらい続いてきたという状況があるわけです。その前提の中で,一般の方がいろいろな使い方を当たり前のようにされている。その状態を覆すわけです。

したがって,今,逆に言うと,権利者の権利を制限すると言っても,もう制限されているんですね。制限されているのを,取り戻してあげるんだけれども,100取り戻す必要があるのか,70でいいのか,80でいいのかという議論をしているだけであって,改めてここで権利者にプラスアルファの権利制限をしようということではないのです。制限されているものを元へ戻します。ただ,過去,録音・録画だけですよ。それ以外は,今までどおりですよと言ってきた状況をころっとひっくり返す。ひっくり返すときに,いきなり全部オセロのように白黒ひっくり返すのがいいのか,ところどころグレーで残すか。ただ,それでも,漫画などいろいろな形で非常にお困りの部分についてはきちんとするけれども,それ以外の後で読むといったものについて,主観要件があれば大丈夫ではないかということで割り切りるほど,立法事実があるんだろうかという気がいたします。

具体的にどうするかということはありますけれども,私は可能な限り小さく,少しずつ限定解除という言い方をしますけれども,限定解除していけばいいのではないかなという気がいたします。

以上です。

【茶園主査】では,大渕委員。

【大渕主査代理】今の点をお聞きしていて想起したのが,前に教育に関する権利制限を議論していたときに,補償金は公衆送信だけ付けて,結局複製の方には拡大しなかったことです。あのときは私もそれに賛成しましたが,本当は多くの人が言われたように,別に公衆送信と複製とは差があるわけでもないのだから同じようにやればよかったのですが,教育現場が複製までやるのは大変だからということで,教育における複製については補償金の対象外としたのですが,その後,かえって制度が分かりにくかったために,いろいろ御批判を受けたりしたこともあります。

そのような既得権に基づく発想も重要なのかもしれませんが,中途半端なことをし出すと,いろいろなところで制度の不整合が起きてしまいます。諸外国のように全部にしてしまえば,プログラムだろうが何だろうが,確定的に知りながらダウンロードすれば違法になるということが非常にクリアに分かるわけです。しかしながら,それを静止画像に限定すれば,前に誰かがおっしゃっていたように,静止画の定義ということで,また大変になって,当たるか,当たらないかで,争いが生じて,かえってユーザーから見ると,静止画でないと思ったら静止画だったといったことも起きかねません。

理論ではっきり切れるようなところですら,要件を立てれば,当たる,当たらないかで争いが生じてくるかと思いますが,そこのところが余りはっきりしないのに,既得権などの理由で要件を作ってしまうと,結局当たるか,当たらないかで,また無用の紛争を起こすことにもなりかねません。既得権も重要なのかもしれませんが,やはり制度としては,理屈がきちんと付き,その理屈でクリアに線が引けるということが確保できるということが重要であると思っております。

【茶園主査】では,上野委員。

【上野委員】静止画ダウンロードに関しましては,いろいろ御懸念があるところでありますので,新たな権利制限規定が――先ほどから研究目的のダウンロードについて御議論がありましたけれども――やはり問題になるところかと思います。ただ,研究など一定の正当な目的の利用を確保すべきというのは,ダウンロードだけに限らない話ですので,静止画ダウンロード違法化とは別に検討を続けるべきだろうと思います。

その上で,先ほど,前田哲男委員からも「原作のまま」という文言でデッドコピーに限定するという御発言がありましたけれども,私も確かにこれは一案になると思います。現状の録音録画はそうした限定がありませんので,今度新しく録音・録画以外の行為について規制をするという部分だけそのように限定するという考えもあるでしょうし,この際,既存の録音録画についても,改めてデッドコピーのみに限定することを考えてみるというのも1つの案になるかと思います。

さらに,現在の方向性は,最終的に,非常に主観要件に頼っているところがありますので,「事実を知りながら」というものが,あくまで現実の認識であって,確定的に知っているということを意味するのだということに関して誤解のないように,このことを明示する何らかの解釈規定を置くということも検討されてしかるべきではないかなと思います。

以上です。

【茶園主査】では,奥邨委員。

【奥邨委員】私,研究目的だけということよりは,冒頭申し上げましたように,今回,TPPで入る技術的利用制限手段の回避のところで,「不当に害しない限り」というバスケットが入っていますけれども,私はそういう形が必要だろうと思います。「不当に害しない限り」なり何なりのバスケットを入れておいても,そのことによって漫画単体が全部コピーされるという場合までダウンロード違法化が排除されるということはないと思いますので,むしろ安全弁的に働くんだろうなと思っています。

【茶園主査】大渕委員。

【大渕主査代理】先ほど,原作のままという話がありましたが,出版権では,契約的に設定で決まるところなので余り問題となりませんが,ここで「原作のまま」と言うと,また「原作のまま」かどうかというところで,解釈論上の大きな争点が生ずることとなってしまい,判例が固まるまで法的に不安定な状態が続くことになってしまいます。「原作のまま」かどうかというのが,実体上は関係ない割には,そのような要件を立ててしまうと,そこがまた争点になってしまうし,他方,少し付け加えたら潜脱できるのかということになってきます。

また話が戻りますけれども,諸外国でも「原作のまま」となどとは規定していないのであり,そのあたりはクリアカットなルールにしておいた方がよいのではないかと思います。

【茶園主査】ほかに何かございますでしょうか。

では,深町委員。

【深町委員】委員の先生方の御意見を伺っていて,まず,第1点目に指摘しなければならないと思いますのは,主観要件について,それがどの程度頼りになるか,あるいは主観要件にどの程度依拠できるのかという点について,やはり刑法の観点からも一言言った方がいいと思います。

「事実を知りながら」というのが確定的故意の話であるという形で,刑法でも同じように確定的行為のみをという形になれば,本当に限定的になるのかというところが,なかなか難しいところがございます。というのは,結局,違法であることについて確定的に知りながらということの解釈が,これまで従来の動画などの判例でも,まだ出ていない状況でございま。そうしますと,実際に解釈として,裁判所の解釈がまだ示されていない段階で新たに処罰対象が広がっているということになりますと,やはり具体的に主観要件が限定されているんだなといっても,本当にそうなるのかという保障が,少なくとも規律においてはないということが1点目でございます。

2点目でございますが,そうすると,対象について,主観及び刑事の方は,もう既に有償著作物に限定されるということですが,本当にそれだけで威嚇効果あるいはメッセージ効果という話になるのかということでございます。難しいところはここでございまして,違法ということが持つメッセージ効果とともに,萎縮効果ももちろん巨大になるわけです。動画などについての萎縮効果に比べると,恐らく静止画も含めたこういったものの萎縮効果は相当程度大きくなることは避けられないと思うわけです。範囲が不明確であるとなると,萎縮効果が大きくなることは,恐らく当然である。

今度は,萎縮効果と,さらに同時に存在するメッセージ性,メッセージ効果というものを比較したときに,果たして従来よりも踏み込んで,刑事の違法化まで含めた形で規制すべきなのかということは,もう少し慎重になってもよろしいのかなと私は思うわけです。

先ほど,生貝委員がおっしゃったところとかぶるところがありますけれども,メッセージ効果を維持するという観点と,もう一つは,それと同時に得られる萎縮効果の点も,これは奥邨委員がおっしゃいましたが,従来検挙もされていない状況で,具体的な萎縮効果の有無を測ることはなかなか難しいということを考えますと,現在,多くの方々に示されている懸念というものが,萎縮効果を測る上でも想定されなければならない。

クリアカットの議論というのは,私も刑法研究者としては非常に好ましいと思う反面,やはり従来の立法で培ってしまった基礎というものを基に,我々は萎縮効果なり何なりを考えるということがございます。そうすると,従来は許されてきたことが許されなくなるということから,改めて萎縮効果とメッセージ効果のそれぞれの考量をすべきだと思っているところです。

以上です。

【茶園主査】ほかに何か御意見ございますでしょうか。

では,前田委員。

【前田(健)委員】既に先生方が御指摘されたとおりだと私も思います。ダウンロード違法化の対象を適切に限定していく必要があるのかなと私は思っております。

先ほど来,議論が出ていますように,著作物の種類・分野で限定するというのは現実的ではないので,違法性が特に高くて,メッセージ効果も高い部分に絞って規制するということが求められるのかなと思います。それをやるために,今提案されているのが主観的要件を厳格にという話と,原作のままということだと思いますが,主観的要件が現状のままでどういう運用されることになるのか。つまり裁判所に行ったときにどういう判断をされることになるのかというのは,深町委員もおっしゃったとおり,不透明な部分があると思います。

違法かどうかを決定付ける要素というのは,権利制限規定のことを除けば,許諾を得ているか,得ていないかというところが一番のポイントになるのではないかと思います。例えば,許諾を得ていないということを確定的に意識していたとか,もう少し明確な形でどういう認識が求められるのかというのを定めていくことが1つあると思います。

客観的に原作のままという形でダウンロードするものに限るのはどうかというのは,私も案としてよろしいのではないかと思います。原作のままというか,若しくは作品の単位,その固まりでダウンロードするというものか,定義の仕方はいろいろあると思うんですけれども,実態として被害があるというのが,そういう部分に限られるというか,その部分が一番大きいと思います。有償か,有償ではないかというのは,確かに余りメルクマールにはならないかもしれませんけれども,作品単位でダウンロードされているかというところは,1つのメルクマールになり得るのかなと思います。

ただ,漫画などの場合で,どの単位で考えるのかという問題があって,1こま,1枚だけダウンロードしている部分が,例えば原作のままとやったときに除かれるのかどうかというのは,少し分からない部分がありますので,そこは議論を詰めて明確にやっていく必要があるのかなと思っております。

以上です。

【茶園主査】ほかに何かございますでしょうか。

今まで御議論いただいた中で,事務局に作っていただいたペーパーの中に書いていないものとして,例えば,録音・録画以外のものについて「原作のまま」という要件を設けるという御意見もありました。この点について,何かほかの観点で御意見がありましたら,お願いしたいと思います。

また,先ほど,深町委員あるいは今村委員もおっしゃっていましたけれども,もし仮に民事などで,ともかく著作物の種類で限定を付さないというダウンロード違法化をしたとして,刑事罰はどうするか。当然,民事の前提を変えてもいいわけですけれども,刑事罰について,もし何か御意見等がございましたら,さらにお願いいたします。

では,深町委員。

【深町委員】私の立場からしますと,刑事罰につきましては,2つの点を指摘すべきだと思います。

1つ目は,今回,民事の方で対象範囲を広く設けるとしても,それはやはり従来違法ではなかったものを違法にするのだということを踏まえて,刑事罰については,なるべく抑制的にした方がよろしいのではないかというのが,一番最初の出発点です。

そうすると,次に出てくるのは,従来の音楽・映像との平仄ということが一番大きな問題だと思います。従来の音楽・映像と全く同じような要件で,ただし,対象だけが元の民事の方でも限定されるべきなのか。それとも,やはり刑事の規定の中でより限定的な要件を付けるべきなのかということは,民事の問題とも大きく関わってしまうのですが,少なくとも有償著作物に限定するということはもちろんのこと,主観的な要件につきましても,「事実を知りながら」のところよりも限定的な要件を付け加えることも,私は構わないのではないかと思っております。

具体的に申しますと,新たなところに刑事罰を設けるという観点からして,刑事について,より限定的なことをとりあえずは付けるという観点もあり得る。ただし,従来の規定と平仄を合わせたいというのであれば,要するに元の規定を変えることはもはやできないとするのであれば,新たな規定についても,元の客観的な客体自体を絞っておく必要があろう。ここで何とか努力をするという方が,恐らく従来の規定との関係では,平仄が取れる形になる。要するに新たに作るところだけ,突然より重い規定を設けるということが難しい。それがもし難しいのでなければ,最初から民事の方でも違法の範囲を限定していただいた方が,形としてはやりやすいのかなと思っているところが1点目です。

もう一つですが,それとの関係で,もしどうしても刑事罰を設けるということであれば,従来ですら検挙件数がないような状況において,メッセージ性を重視するのであれば,法定刑について,そこを同じようにするのかという問題は,やはり論じた方がよろしいかと思うわけです。法定刑というのは,一種のメッセージです。これも含めた上で,この犯罪について,我々がどのようにこれを評価しているかというメッセージ性を高める,あるいは低める,あるいは適切に評価するという要因であると考えるのであれば,私としては2つの可能性を前回では指摘いたしました。現状と同じものを設けるか,あるいは類型的に小さいものと考えるかという2つを言いましたが,私個人としては,現状よりも少し小さく,例えば1年以下あるいは100万円以下という形にすることも1つの手だと思っているところです。

それは,このようなものを違法化することに意味があるのであって,それを重く処罰するということよりも,まずは違法化のメッセージ性を維持したいという観点をとりあえずは申し上げておきたいと思います。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

ほかに何かございますでしょうか。

では,松田委員。

【松田委員】私の意見は少数意見になるかと思いますが,今まで審議した中で,これまでの萎縮的効果が具体的にあったかについては,確たるものはなかった。先般,私はその点について質問させていただいた。今回のペーパーにもそのことが出ていると思います。

P2Pの萎縮効果があったというのは,その後,ソフトウェア自体の普及の問題が萎縮したというのであれば,これはダウンロードの問題ではなくて,まさに最高裁判例も含めて,そういうソフトウェアに対する違法なものがあり得るという判例による効果だろうと私は思っております。

あとは,客観的な範囲,原作のまま,ないしは主観的要件をより明確に厳しく要件を備えておこうということを加えて検討したらどうかという意見ですが,ある程度,私も分からないではないけれども,果たして今までの映像や音楽に対するダウンロードの規定と今回の新たに設ける規定とのコンテンツの間に,それほどの差異を設けるような,むしろ微妙な差異を設けるような立法事実があるかということであれば,その間には立法事実はないのではないですか。現実に被害があり,そして,それを今度の規定を設けようというところに被害をリカバリーするためのアナウンス効果を設けようとする場合においてのコンテンツ間の立法を異にする立法事実はない。このように私は思います。

したがいまして,私の意見は,格別の規定,特別な扱いを設けず,従前と同じようにパラレルに範囲も主観も刑罰も同様に立法化すべきだろうと思っております。

【茶園主査】どうもありがとうございます。

では,大渕委員。

【大渕主査代理】改めてもう一回考えてみて,話がまた戻ってしまうので恐縮ですが,参考資料1にあるような各国での出発点としては,録音・録画というところで切らずに,著作物一般について同じように扱っています。「明らかに」と付いていたり,付いていなかったりしますが,ドイツの場合だと明らかに違法な原本からであれば,私的複製から外して違法化するということになっており,このあたりは共通しています。日本の場合には,ここに至るのになかなか抵抗感があって,立法した際には,ある程度両者の調整が付いたということで,録音・録画だけ先行的にやったという事情はあったのですが,果たしてそこだけが本当に特別だったのかと言われると,そこで切れるという問題より,一部か,一部ではないかというのは,もしかしたら録音・録画も同様のことかもしれないので,共通の問題ではないかと思います。

そう考えると,別に扱うというのは,先ほど言われたような既得権論しかないのですが,果たしてあのときにこの一部だけを先行してやったということが既得権と言うほどのものかというところには疑問があります。メッセージ性は言い出せば切りがなく,法制度として組むからには,やはり説明が付くように組まないといけないのですが,お聞きしている範囲では録音・録画とそれ以外でさほど本質的な差があるようには思えません。

先ほどの刑罰も,録音・録画は2年で,それ以外は1年というと,法益侵害の重要性を表す1つの大きな指標になるわけですが,お聞きしていて,録音・録画とそれ以外とで半分になるというほどの質的な差異があるとも思えませんので,そのあたりは,制度を作るからには,みんながきちんと納得できるような説明の付く形にすべきだと思っております。

【茶園主査】ほかに何か。

では,まず,深町委員。

【深町委員】済みません。1点補足させていただきたいんですが,法定刑を決めるときの一番のポイントは,法益侵害の上限だと思うわけです。したがいまして,2年というときの法益侵害は,このような録音・録画で想定されている一番大きな法益侵害性は何かという問題だろうと思うわけです。

それに対して,今回導入されるべき制度の中で,静止画といったものを含めた中でどういうものが一番権利侵害性が大きいのかといった,想定される権利侵害性の大きさを考えた上で,それは従来の規定と同じくらいだというのであれば,2年以下,200万円以下でも構わないし,そうではなく,基本的にはそこまで大きくならないのだろうということであれば,それに応じた法定刑にすべきであるという形で,これはもはや法益侵害性をどう評価するかという問題である。要するにそこで想定される法益侵害性は何かということに尽きるので,まさしくこれはやや水掛け論になるところもあるというのはもちろん承知しております。そのような実態を見た上で,あるいはそこでなされるような行為の一番悪質な類型は何なのかということも考えて,恐らく従来作ったときの2年というのと,今回作るときが同じくらいだとみんなが思うか,国民がそう思うかどうかというのが,一番重要なところであろう。

私の言う法定刑のメッセージ性は,まさにそういうところでありまして,法定刑が余りにも重いと不調和である。かといって,余りにも軽いと何のために作ったのか分からないという中で,従来の規定との平仄を合わせて作っていくというのが重要なことだろうと思っている次第です。

以上です。

【茶園主査】前田委員,お願いします。

【前田(哲)委員】今,深町委員から御指摘がありました法益侵害の大きい方で比較するという観点から考えますと,仮に今回対象を広げて,コンピュータープログラムも対象に含めるとなりますと,恐らく一般的な録音・録画物よりも高額なソフトウェアもたくさんございます。それから,静止画におきましても,非常に価値の高いものもあると思いますので,法益侵害の大きな方で比較するとなると,録音・録画と有意な差はないのではないかと思います。

逆に,低い方ではどうかということは,深町委員の先ほどのお話ですと,法益侵害の軽い方は余り考えなくてもいいということだと思いますが,仮に軽い方を考えてみたときに,軽い方が広がる可能性はあるかもしれません。しかし,だからといって,今は2年以下の懲役又は200万円以下の罰金だと思いますけれども,それにさらに拘留・科料を付けるかというと,今の著作権法の中では拘留・科料を付けている犯罪はございませんので,それは余り現実的ではないのかなという気がいたします。

結果としては,法定刑は従前どおりのものでよろしいのではないかと思います。

【茶園主査】ほかに何か御意見ございますでしょうか。よろしいでしょうか。

では,太田委員。

【太田委員】私も前田先生と同感でして,メッセージ性を考えたときに,法定刑が小さくなれば,こっちは少しはやっていいんだ,というようなメッセージになるおそれがあるのではないかという心配があるという点だけ補足したいと思います。

【茶園主査】ほかによろしいでしょうか。

では,前田委員。

【前田(健)委員】法定刑について1つだけ。侵害行為となるべき行為が広く規定されると,違法性が軽いものも入ってくるのではないのかという話です。確かにそのことを考えて法定刑を下げるということはないのでしょう。むしろ考えるべきは,そういう違法性が低いようなものは,刑事罰の対象とならないように刑事罰の要件を適切に限定するということが求められるのではないかと思います。

以上です。

【茶園主査】では,今村委員。

【今村委員】今の点と関連するんですけれども,刑事罰の要件を厳しくするという部分に関しては,諸外国の例を見ると,民事に関して著作物の種類・分野を限定せずに違法にしている場合でも,我が国の私的複製に該当するようなものは,刑事罰の対象にならない場合もあるようです。ただ,そのことを考えたときでも,今の録音録画の場合から,更に対象を限定する要件を刑事罰の規定に設けて調整するのは難しい部分もあって,そこをどうしたらいいかということが1つの重要な課題になると思います。ちょっとアイデアが思い浮かばないんですけれども。

【茶園主査】では,龍村委員。

【龍村委員】これは,刑事法の先生にもお伺いしたい点ですけれども,余りにも軽微な場合はどうなのでしょうか。実際には,可罰的違法性を欠くといった議論である程度抑えが効くのではないかという気もするのですが。これを法文化するとなると,軽微なものは除くというようなものが考えられますが,規定の仕方が非常に難しいというのは,御指摘のとおりかと思います。

もちろん刑事法については,謙抑主義あるいは補充性,刑法の断片性など,そういう観点で限定的に拾って行くというアプローチもあろうかと思いますけれども,録音・録画でこのような一般性のあるものが既にあることとの比較では,今回のものだけを特に軽くするということに,もう一つ決定的な理由が見当たらないという中では,むしろ別の行き方はないのでしょうか。軽微なものについては,既存の刑法上の法理で,ある程度カバーできないものなのでしょうか。

これは,先生に御質問ですが。

【茶園主査】では,深町委員,お願いいたします。

【深町委員】済みません。軽いものについてどうかというのは,実は刑事法のところではとても難しくて,今,可罰的違法性という場合が龍村委員からありましたが,可罰的違法性論というのは,一時期非常に専門の刑法ではやったのですが,実際に余り可罰的違法性論の話にもはやなるまでもなく,普通は起訴裁量,起訴の段階でセレクションされてしまいますので,現在では,もはや裁判の場で可罰的違法性論という形で決着が付くことは,少なくとも訴訟の場で決着が付く前に,基本的には起訴裁量のところの問題になってしまう。少なくとも刑事ではそのように考えられたと思います。

そのことを前提にしますと,要するに我が国の起訴便宜主義の中で解消されていくようなことについて,どの程度期待するのかということに,多分この問題は尽きると思います。要するに,どなたの委員がおっしゃったか忘れましたが,権利者の質も量も格段に広がるという世界の中で,客観的に見ると,そこまで権利侵害性が大きくないとしても,もちろん権利者の方にはそれなりにこだわりがあるという中で,非常に強く権利主張されていき,なおかつ告訴もするということになったときに,検察がどの程度それを吸収するのかということの信頼,あるいは我々がそれに対して依拠できるかどうかというところにほとんどの時間が掛かるわけです。刑事実体法の立場から言うと,軽微性の問題について,直ちに処罰されない,あるいは犯罪が成立しないという言い方をすることは,なかなか現状では難しい状況になっている。これが1点目でございます。

そのことからしますと,なかなか軽微事案については,実は従来,ほかの刑事法のいろいろな分野でも軽微な事案というのは,ほとんど起訴裁量で処理されているのだから,ここでもそこまで変わらないのだと考えるかどうかに多くの場合は掛かると思っていただければと思います。

そのことを前提にして,では,法定刑についての問題なのですが,改めて御発言を受けて考えてみますと,もし本当に最も重い事案について全く変わりがない,あるいは同等のものが容易に想定できるという状況であれば,同じような法定刑を設けるということもやぶさかではないのかなという気はします。

ただ,先ほど言ったところですが,結局その前提として,本当に対象を下限についても絞らなくて,あとは刑事法についてはそこに任せてしまえばいいのではないかと言われると,私としてはそこまで言っていいのだろうか。もっと言うと,それについて,やはり萎縮効果というものが懸念されるのではないかということを,刑法研究者としては言わなければならないと思っているところです。

以上です。

【茶園主査】では,大渕委員。

【大渕主査代理】先ほどの法益侵害の関係では,静止画像,漫画なども入るし,プログラムも入るし,録音・録画より多種多様なものがあり,マックスで考えれば,むしろ高いぐらいかもしれないので有意な差はないのではないかと思います。

それから,恐らく軽微なものは, 法119条の1項というか,普通の侵害でも,一厘事件ではないですけれども軽いものはあり得るので,それを言い出したら全ての犯罪について,殺人にはないかもしれませんが,普通の犯罪ならば一般的にある話であります。殊さら,それを言い出したら,全ての犯罪が下限のところが抜いてあるかというと,窃盗でも何も抜いていませんので,最終的には余り入らないかもしれませんけれども,可罰的違法性等での対処が可能ですし,恐らくその前の起訴裁量で,そもそも検察官が起訴しなければ実体法の議論には入りませんから,そのようなところで吸収される話なので,余りそこを細かくやり出しても仕方がないと思います。

先ほどの,全く検挙されていないというのは,もしかしたら起訴裁量で吸収されているということかもしれません。今までの歴史を考えると,制度として起訴裁量で小さいものは外れるし,万が一なっても,先ほどの可罰的違法性で対処できるような話なので,そこのところは余り気にしなくてよいのではないかと思っております。

【茶園主査】では,奥邨委員。

【奥邨委員】私から一言だけ申し上げておきます。もちろん先生方,御案内のところですけれども,起訴裁量ということは,その前に警察で捜査はされるということですから,そのこと自体が,一般の方が,「後で読む」などをやっただけのときに巻き込まれる。さらに,先ほどお話があったように,非常にこだわりのある方で,厳しく警察に対して告訴,告発をするということをした場合,とりあえず警察が捜査だけはしようということになった場合に,そのことの萎縮効果は免れないわけですね。罪にならなかったからよかったということではないのではないかなと私は思っております。

もちろん,これは皆様いろいろ御意見があると思いますし,ほかのものだってそうではないかということはあると思います。ただ,私が申し上げましたように,既得権と言いつつ,事実実態として,ここまで広くやられていることを一気に変えるときに,やはりその辺の配慮をすべきなのではないかなということを思います。

それから,この話が出てきたのは,何もウェブを少しコピーするのが問題だとか,そういうことで出てきたのではなくて,漫画がそのままダウンロードされているとか,非常に具体的な被害があったということでお話を聞いたと思います。その定義ができないから,全部ひっくるめてやりましょうというのは,若干私としては一般の方を巻き込むレベルが大き過ぎるので,やはり心配だなという気がするということだけ申し上げておきたいと思います。

【茶園主査】よろしいでしょうか。

今までいろいろな方の様々な御意見をお伺いいたしました。これまで多様な分野における海賊版被害あるいは未然防止の必要性と諸外国の取扱いなどを踏まえますと,著作物全般を対象にするという考え方に一定の合理性があるのではないかと思います。

ただ,他方で,対象を限定すべきという意見も幾つか頂きました。しかしながら,音楽・映像との取扱いに差を設けるということは,なかなか正当化しにくいのではないかと思います。

そこで,事務局におかれましては,著作物全般を対象にするということを基本にしつつ,本日頂きました対象を限定すべきという意見あるいは音楽・映像以外の著作物について何らの要件を設けるとの意見等も考慮し,明記した上で,論点整理案の作成をお願いしたいと思います。今後は,その論点整理案を踏まえて,議論を行っていきたいと思っておりますけれども,よろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【茶園主査】ありがとうございます。

事務局は,それでよろしいでしょうか。

では,どうもありがとうございました。いろいろ御意見を頂きましてありがとうございました。

では,続きまして,2番目の議題,(2)アクセスコントロールに係る規定の在り方について,御議論をお願いしたいと思います。

先の通常国会におきまして,不正競争防止法が改正された結果,アクセスコントロールに関しまして,著作権法と不正競争防止法との間で相違点が存在するという状況になっております。そこで,関係団体からは,著作権法においても,近時のソフトウェアの不正使用の態様に対応するために,不正競争防止法と同様の見直しを行うべきとの要望を頂いております。

本日は,この点について,事務局で論点の整理を行っていただきましたので,その御説明を受けて,議論をお願いしたいと思っております。

また,前回,本小委員会におきまして,本件に関する意見書を提出いただきましたザ・ソフトフェア・アライアンスから村本弁護士にお越しいただいておりまして,技術的な側面について,御質問にお答えいただくということになっております。よろしくお願いします。

それでは,まず,事務局より御説明をお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】それでは,資料2をお手元に御準備いただければと思います。「アクセスコントロールに係る規定の在り方に関する論点整理(案)」ということで,事務局で整理した資料でございます。

まず,「問題の所在」の1段落目にございますが,御案内のとおり,いわゆるTPP整備法が平成28年に成立いたしまして,著作権法の中にもアクセスコントロールの回避規制が導入されたところでございます。その際,アクセスコントロールは技術的利用制限手段という形で定義されておりまして,具体的な定義の内容につきましては,著作権法の「技術的保護手段」いわゆるコピーコントロールの定義,それから,当時の不正競争防止法における「技術的制限手段」の両者を基に規定をしているところでございます。

この点,次の段落にございますとおり,近年,ビジネスソフトウェア業界,ゲーム業界などでビジネスモデルが変化しております。ライセンス認証などのアクティベーション方式と言われる保護技術が多く用いられるようになっているということで,平成30年に不正競争防止法が改正されております。

具体的には,(1)にございますとおり,「技術的制限手段」にアクティベーション方式が含まれることを明確化するための定義規定の整備。

それから,(2)といたしまして,「技術的制限手段」の効果を妨げる機能を有する指令符号(シリアルコード)などの提供等が新たに規制対象に追加されております。著作権法がTPP法の整備を行った後に不正競争防止法がさらに改正されましたので,著作権法と不正競争防止法の間で定義規定,規制対象行為に相違が存在する状況となっております。

先ほど,主査からも御紹介いただきましたとおり,関係団体からも見直しの要望がされているという状況でございます。

次の2ページ以降が「論点の整理」でございます。

まず,「(1)定義規定について」でございます。

丸1は,「著作権法と不正競争防止法における定義規定の相違点」を記載したものでございます。

著作権法におきましては,アクセスコントロールは「技術的利用制限手段」として規定されております。具体的には,かぎ括弧で記載しておりますとおり,「電磁的方法により,著作物等の視聴を制限する手段であって,著作物等の視聴に際し,これに用いられる機器が特定の反応をする信号を著作物,実演,レコード若しくは放送若しくは有線放送に係る音若しくは映像とともに記録媒体に記録し,若しくは送信する方式」。これが,いわゆる信号方式と呼ばれているものでございます。また,その後ろに,いわゆる暗号方式というものがございますが,今回の議論とは直接関係ございませんので,省略いたします。

一方で,不正競争防止法につきましては,次の段落にございますとおり,著作権法の下線を引いた何とかと「ともに」という規定の文言が原因で,アクティベーション方式のようなものが含まれないのではないかという疑義が生じておりましたので,これを削除した形で,ここに記載したような定義規定がなされているというところでございます。

次に,丸2番,「アクティベーション方式の仕組み及び不正競争防止法における検討経緯」でございます。

アクティベーション方式,いわゆる認証システムのようなものでございますが,典型例を申し上げますと,ユーザーが無料体験版のソフトウェアをダウンロードし,その後,製品版を購入して入手したシリアルキーを入力することで製品版としての認証がされ,使用期間,機能等の制限なく使用が可能になるようなライセンス認証システムなどを指して用いられている用語でございます。

これにつきましては,次のページで正規の認証の仕組みと,それを不正に回避する仕組みを簡単に記載しておりますので,御紹介したいと思います。

図の上側が正規の認証の仕組みでございます。ユーザーの方は,まず,左側にございますとおり,無料体験版のソフトウェアをダウンロードされます。その際に,同時に丸1に記載しております体験版認証データ(未認証ID)というものが生成され,ソフトウェアと同時にパソコンに保存されることになります。この未認証IDを使いますと,体験版として期間の制限があるという形でしか使用できないということになっております。

これを製品版として認証する仕組みが丸2から丸5で記載したものでございます。まず,ユーザーの方は,製品版を購入しまして,そこで示された製品版用のキーを入力します。そうしますと,丸3にございますとおり,ユーザーのパソコンから業者のサーバーに対して製品版認証リクエストというものがなされます。これを受けて,丸4として,業者のサーバーにおきまして,ユーザーのデバイスID,製品版情報が登録されまして,その後,丸5として製品版認証データ(認証済みID)というものが送信され,ユーザー側のパソコンに保存されるという仕組みでございます。この認証済みIDがあれば,製品版として期間や機能の制限なくソフトウェアが利用できるようになるということでございます。

一方で,下のクラックプログラム,それから,不正なシリアルキーを使った回避の仕組みを御紹介したいと思います。まず,ユーザーの方が無料体験版をダウンロードするというところまでは共通の仕組みでございます。その後,本来であれば,正規の製品版を購入して,正規のキーを入力するところ,この回避におきましては,丸2のように不正に販売されたキーを入力することになります。正規の認証システムにおきましては,こういった不正なキーを入力しても使用ができない仕組みが設けられておりますけれども,この回避におきましては,クラックプログラムというものを利用しまして,正規の認証システムを阻害するということが行われております。

まず,丸3といたしまして,クラックプログラムを利用して,ソフトウェアに組み込まれたファイル情報の書き換えが行われます。この書き換えが行われますと,丸4に記載しておりますとおり,本来であれば,業者のサーバーへの認証が働くわけですけれども,認証サーバーへのアクセスが阻害されるということになります。そうしますと,業者のサーバー側では不正な利用を感知できないということになります。その上で,さらに丸5といたしまして,クラックプログラムを通じて,製品版の認証データが偽造されまして,丸6のようににせの製品版認証データがソフトウェアに記録され,正規ではないにも関わらず,正規品と同じように不正使用ができてしまうという仕組みが講じられているところでございます。

このような状況を踏まえて,不正競争防止法でどのような考え方の整理がされたのかというのが,3ページの下の部分でございます。

このライセンス認証システムにおきましては,上の図で申し上げますと,丸1の「未認証ID」というものと丸5の「認証済みID」の2つが不正競争防止法の「技術的制限手段」における「視聴等機器が特定の反応をする信号」という保護対象となる信号でございます。この信号のうち,丸1につきましては,プログラム(無料体験版)と同時にコンピューターへの送信記録が行われます。一方で,丸5については,その後から保存されるということでございます。

改正前の不正競争防止法の2条7項というところを見ますと,「プログラムとともに記録媒体に記録し,若しくは送信する方式」と規定されておりましたので,特に丸5の「認証済みID」が後から記録されますので,この「ともに」という要件を満たさないのではないかという疑義が生じておりました。実際に,警察,検察による起訴に至らないというケースも生じていたものと把握しております。

ただ,これにつきましては,注釈の6番に記載しておりますとおり,もともとの規定でも対応し得るのではないかという解釈も示されておりました。例えば,(ア)に記載しておりますが,「とともに」というのを「同時に」と仮に解したとしても,丸1の「未認証ID」自体につきましては,プログラムの送信記録と同時に行われておりますので,全体を一連の技術と評価すれば,要件を充足するという解釈もあり得たわけでございます。

また,イのように「ともに」というのを「同時に」ではなくて「一体的に」と捉えますと,信号とプログラムは同一のコンピューターのハードディスクに結果として記録されることになりますので,これをもって「ともに」という要件を満たしているという解釈もあり得たというところでございます。

一方で,上の本文に戻っていただきますと,疑義が生じているということでございますので,経産省の産業構造審議会で対応すべきかどうかという議論がされました。

結果としては,4ページの上の部分に記載しておりますとおり,解釈上の疑義によって不正な利用が放置される結果になることは望ましくないということで,解釈を明確化するための改正を行うべきということで,定義規定から何とかと「ともに」という文言が削除されたということでございます。

これを受けて,丸3,著作権法においてどういう対応をしていくかということを御議論いただければと思います。

まず,1段落目に記載しておりますとおり,著作権法では,アクセスコントロールの規定は,今年の12月30日から施行ということになっておりますので,当然何か現実に問題が生じたという事例はございません。

ただ,規定自体は,改正前の不正競争防止法と類似したような規定になっておりますので,不正競争防止法で生じていたのと同じような困った事態が生じる可能性は十分にあるものと思っております。

また,不正競争防止法は,定義規定を改正されておりますので,その反対解釈のような形で,著作権法にはアクティベーションが含まれないという解釈をされる危険性が高まっているという捉え方もあるのかなと思っております。当然,著作権法におきましても,こういった解釈上の疑義で本来対応すべき不正使用に対応できないというのは望ましくないと考えておりますので,事務局としては,この「ともに」という文言を削除しまして,アクティベーション方式が含まれることを明確化してはどうかと考えております。

なお,なお書きのところにございますとおり,こういったアクティベーション方式,認証システムのようなものは,ソフトウェアをインストール,ダウンロードするときにシリアルコードを入力するといった方式もあり得るところから,著作権法におきましては,「技術的保護手段」(コピーコントロール)におきましても,同じような明確化を行っていく必要があるのではないかと捉えております。

次に,(2)番,「規制対象行為について」でございます。

丸1は,著作権法と不正競争防止法でどのような相違点があるのかという事実関係を整理した部分でございます。まず,著作権法におきましては,「技術的利用制限手段」に関して,3つの規制を設けております。

まず,(ア)回避を行う行為について,著作権者等の利益を不当に害しない場合を除き,著作権等を侵害する行為をみなすということで,民事措置を設けております。

また,(イ)として,回避装置,プログラムの公衆への譲渡などを刑事罰の対象とするということ。

また,(ウ)としまして,業として公衆からの求めに応じて回避を行う行為を刑事罰の対象にする。こういった3つの観点で規制を行っております。

次の5ページ,不正競争防止法におきましては,従来は(エ)と書かれた規制だけがございました。「その効果を妨げる機能を有する装置・プログラムの公衆への譲渡・提供等」。これだけが従来の規制対象でございましたが,今般の法改正によって,(オ)に記載した「その効果を妨げる指令符号(シリアルコード等)の公衆への譲渡・提供等」,それから,(カ)として「効果を妨げる役務の提供」が新たに不正競争行為として規制の対象に加わっております。

この結果,両法でどのような差異が生じているのかというのが,下の表でございます。上から2段目の「回避装置・プログラムの提供」と「回避サービスの提供」につきましては,いずれの法律でも規制の網が掛かっておりますが,一番上の「単純回避行為」,ユーザーによる回避行為におきましては,著作権法でのみ規制が掛かっており,一方で,「不正な指令符号の提供」については,不正競争防止法でだけ規制がされているという状況になっております。このうち,特に赤い枠線で囲った部分につきまして,著作権法においても規制を及ぼすかどうかということを御議論いただきたいということでございます。

丸2が,不正な指令符号の提供について,不正競争防止法でどのような検討が行われたかということでございます。

こちらにございますとおり,アクティベーション方式におきましては,それを無効化する手段として,不正なシリアルコードをネットオークションで販売するなどの行為が発生しております。産業構造審議会で検討した結果,こうした不正なシリアルコードの提供は,無効化行為に直結する悪質なものだということで,新たに規制の対象にすることが適当という結論が出されまして,先ほど御紹介した法改正がなされたということでございます。

なお,次の段落に記載しておりますとおり,産業構造審議会におきましては,無効化するためのマニュアルなどの提供行為につきましても取扱いが議論されましたが,こちらについては,必ずしも無効化行為に直結するものとは限らないということと,情報提供,一般に対する規制のようなものにつながりかねないということも考慮しまして,規制対象とはしないという取扱いがされているところでございます。

これを受けて,丸3,著作権法における対応を御議論いただきたいということでございます。

まず,1段落目に記載しておりますとおり,不正なシリアルコードが提供されますと,ユーザーが「技術的利用制限手段」を回避するという行為に直結するという意味で,悪質な行為だという評価ができるものと思っております。また,こういった回避行為が行われますと,正規のライセンスが減少し,ソフトウェアの著作権者の経済的利益が不当に害されることだと思っております。そういう意味で,著作権法におきましても,著作権者の利益保護という観点からも,新たに規制対象とすることが適当ではないかと考えております。

次の段落は,措置の具体的な内容について言及した部分になります。現行で「技術的利用制限手段」の回避装置・プログラムの提供についても規制が掛かっておりますが,こういった装置などにつきましては,提供段階ではどの著作物の制限手段を回避するものかという結び付きが明らかではございませんので,一般的・抽象的に著作物の不正利用を助長するものだと評価をして,刑事罰だけを科すという取扱いになっております。

一方で,今回規制対象にしようと考えている不正なシリアルコードの提供につきましては,一般的に特定のソフトウェアと結び付いた形で不正なコードが提供されるということだと思いますので,刑事罰のみならず,民事措置の対象にもする必要があるのではないかと考えております。その場合の手法としては,従来から取られている著作権を侵害する行為とみなすということが適当ではないかと考えております。

次の段落になお書きで記載している部分がございます。これは,アクティベーション方式につきましては,先ほど御紹介したようなクラックプログラムというものを通じて回避が行われております。このクラックプログラムにつきましては,特定のソフトウェアを改編するということで,特定の著作物と結び付いた形で提供されているということも想定されるのではないか。この点を捉えると,みなし侵害として民事措置も行うということが選択肢になり得るものと考えております。

ただ,この点につきましては,現行で回避装置・プログラムにつきましては,全般として刑事罰のみという扱いがされている中で,一定の行為類型だけを取り出して民事措置の対象にできるかどうかということについては,慎重な検討が必要ではないかと思っております。

このため,まずは,この点につきましては,回避装置・プログラムの提供などの実態や民事措置がないことでどのような影響が生じているのかといった把握をしながら,それも踏まえて,必要に応じて,別途対応を検討することが適当ではないかと思っております。

次の段落に,不正なシリアルキーの提供に係る刑事罰の水準について記載しております。この点は,回避装置・プログラムの提供と回避サービスの提供と同様,3年以下の懲役,300万円以下の罰金又はその併科とすることが適当ではないかと記載しております。

最後に,シリアルコードの提供につきましては,先ほど御紹介したようなソフトウェアをインストール,ダウンロードする際に入力するといったシリアルコードもあり得ると思っておりますので,「技術的保護手段」(コピーコントロール)につきましても,同様の取扱いを行うことが適当ではないかと考えてございます。

資料の7ページ以降につきましては,関連する著作権法の条文と不正競争防止法の条文を記載しておりますので,必要に応じて御参照いただければと思います。

事務局からは以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

それでは,ただいま御説明いただきました内容につきまして,御質問,御意見がございましたら,お願いいたします。

奥邨委員。

【奥邨委員】なかなか難しいことで付いていけないところがあって,幾つか確認というか,質問になってしまうんですけれども,まず,問題とするのは,「技術的保護手段」と「技術的利用制限手段」がありますけれども,今回は「技術的利用制限手段」だけが問題になっているということでよろしいんでしょうかというのが1点。

それから,7ページの21号,「技術的利用制限手段」の定義のところがあります。上から5行目の終わりから,「特定の反応をする信号」の後ろのところの「著作物」から始まって「ともに」のところが問題であるというのが今の御指摘かと思うんです。この「信号」というのは,先ほどの図で言いますと,シリアルキーになるんですか。それとも,認証データになるんですか。どちらなんでしょうというのが,まだ技術を十分よく分かっていなくて少し混乱しているんですけれども,そこを教えていただければなというのが2点目ということになります。

とりあえず,以上です。

【大野著作権課長補佐】ありがとうございます。

まず,1点目につきましては,現在,特に問題になっているのは,「技術的利用制限手段」の部分だと理解しております。ただ,「技術的保護手段」につきましても,同じような場合が想定され得るのかなと思っておりまして,併せて議論を頂く必要もあり得るかと思っております。

それから,2点目の「信号」の扱いにつきましては,図で申し上げますと,事務局としては,丸1の「未認証ID」というものと丸5の「認証済みID」,この丸1と丸5がここで言う「信号」なのかなと捉えているというところでございます。

シリアルキーにつきましては,この「信号」とはまた別のものなのかなと理解しております。

【茶園主査】奥邨委員,よろしいですか。

【奥邨委員】はい。

【茶園主査】ほかに何かございますでしょうか。特にございませんでしょうか。

【奥邨委員】済みません。御議論がないようならもう一つ。

【茶園主査】では,奥邨委員。

【奥邨委員】まだよく分かっていない。不競法のとおりになるかどうかは横に置いておかないといけないと思うんですけれども,参考ということで言うと,2番がシリアルキーですかね。これについては,不競法の17号の「指令符号」というのがシリアルキーに当たるという理解でよろしいんでしょうか。

以上です。すみません。

【大野著作権課長補佐】まさにおっしゃるとおり,シリアルキーは,この「指令符号」というところで捉えているものと理解しております。

【茶園主査】どうぞ。

【奥邨委員】これは,限定しようという話ではないんですけれども,今,例としてプログラムが出ているんです。実際問題は,著作物が限定されるわけではなくて,映像や音声などもプログラムと同じように基本的には対象になり得るということなのかなと思うんですが,それでよろしいでしょうかというのが1点。

仮にそうだとしますと,いろいろな形で,特にプラットフォームを経由して提供されるようなコンテンツを考えますと,シリアルキーについては特定の著作物と結び付きがあるケースは多いかなと思うんですが,クラックプログラムについては,あるプラットフォームで提供される全てのコンテンツに共通ということがありそうな気もする。まだ今は技術を十分把握していないんですけれども,コンピュータープログラムの場合は,メーカーさんごとに認証システムを作っておられると思うんですが,映像コンテンツなどであれば,ある特定のフォーマットやプラットフォームごとで認証システムなんかも共通しているという可能性がある場合は,結び付きが弱い可能性もあるのかなと思ったんですが,そういう理解でよろしいんでしょうかというあたりで済みません。

【大野著作権課長補佐】済みません。まず,1点目につきましては,今回プログラムを例示して御説明を差し上げておりますけれども,こういった手段がほかの著作物で使われるということも想定はされ得るものだと思っておりますので,規定するときには著作物を限定しない形で,一般的なものとして規定することを想定しております。

2点目につきましては,おっしゃるとおりだと理解しておりまして,クラックプログラムは様々なものがあり得るかと思います。ここで言うソフトウェアのアクティベーション方式につきましては,恐らく何らか特定の著作物と結び付いた形で使われているのかなと思っておりますが,それ以外に広げた場合にどういう形態があるかという十分な把握ができておりませんので,その中で一部だけ切り出して早急に規定するというのも難しいかなと思っております。まず,事務局で実態の把握をさせていただきまして,改めて,別途御議論をお願いしたいと思っております。

【茶園主査】ほかに何かございますでしょうか。

では,上野委員。

【上野委員】私も十分理解できているか余り自信がないのですけれども,今回のような「技術的利用制限手段」の定義が変わりますと,すでに法改正により回避行為を侵害とみなすということになっているかと思いますので,例えばマジコンを使ってゲームをプレイするというのがみなし侵害になるところ,本日検討している改正がされますと,コンピュータープログラムがライセンス認証されているのを回避する行為も侵害とみなされるということになるのでしょうか。

また,もう一つお聞きしたいのは,例えば映画などでも3日間しか見られませんという形でダウンロードして,それが3日たったら見られなくなるのだけれども,ある信号を送ってもらえば引き続き見られるというものがあったとすると,ユーザがこのような形でライセンス認証を回避して見るという行為もみなし侵害の対象になるという理解でよろしいでしょうか。

【大野著作権課長補佐】いずれもそのとおりだと理解しております。

【茶園主査】井奈波委員,御意見がございますか。

【井奈波委員】はい。

【茶園主査】では,井奈波委員。

【井奈波委員】技術的な面がよく分からないのですが,3ページ目の図表に,クラックプログラムと製品版用キーを入力が別々に書かれていることに関して,これは,クラックプログラムさえあれば,不正が可能という趣旨に捉えればいいのか,それともクラックプログラムが作動する前提として,不正に販売された製品版用キーが必要で,この2つが組み合わさって初めて不正が可能になるのかという点は,いかがでしょうか。

【大野著作権課長補佐】いろいろなケースがあり得るかと思いますが,事務局としては,クラックプログラムと不正なキーがセットになって機能した結果,不正な利用が可能になるものと捉えております。

もし技術的な点で補足がありましたら。

【村本氏】御説明いたしましょうか。

【大野著作権課長補佐】はい。では,お願いします。

【村本氏】村本でございます。クラックプログラムと製品版のキーが2つなければ制御ができないということは当然でございまして,ここで言う体験版認証データが生成される仕組みを御理解いただければなと思います。

これは,まず,シリアルキーあるいはマイクロソフトであればプロダクトID,プロダクトキーなんですが,その製品,プログラムをインストールする際に入力するわけです。入力した段階で,体験版の認証データ,未認証IDができるという仕組みでございます。

次に,認証済みのIDなんですが,これは体験版の認証データとコンピューターのハードの情報をハッシュ化いたしましてメーカーに送信する。送信して,メーカーで的確なインストールであると判断すると,それで得た情報でもって認証済みのデータをユーザーに送信する。それが,ユーザーのコンピューターに保存されることで,検知したプログラムが実行できるという仕組みでございます。

だから,先ほどシリアルキーあるいはプロダクトキーと認証データとの関係性に若干疑義があったと思うんですが,これはひも付けされておりまして,シリアルキーが入力されなければ,体験版認証データも作れないし,そういう意味では,体験版の認証データがなければ,認証済みのIDも生成されないという仕組みでございます。

【茶園主査】井奈波委員,よろしいでしょうか。

【井奈波委員】はい。大丈夫です。

【茶園主査】では,奥邨委員。

【奥邨委員】それは,全部ですか。必ずそうなりますか。認証サーバーを立てる形でシリアルキーを入力する場合はそうですけれども,認証サーバーなしにシリアルキーだけを入力するという形式はないんでしょうか。別にそれが効果的かどうかは別として,シリアルキーだけを入力する。そうしたら解除されるという形式はないんでしょうか。

【村本氏】シリアルキーは,体験版も,もちろん製品版もそうなんですけれども,シリアル番号を入れて未認証データができなければ,プログラムは実行できないわけですね。

しかし,未認証データがパソコンに生成されたとしても,一定期間使用制限されるということでございますから,認証サーバーを介さないで永久に製品,プログラムを使用することはできない仕組みでございます。

【奥邨委員】そういうシステムをお取りになるのは分かるんですけれども,それ以外のシステムはないということでよろしいんですね。

【村本氏】私の経験した限りはございません。

【奥邨委員】そうすると,私が申し上げているのは,現状の定義はクラックプログラムと指令符号が必ずしもセットということにはなっていないと思うんですよ。別にクラックプログラムがなくても,シリアルキーだけというのでもいいような感じがするんです。むしろ何かそこを結び付けないといけないのかなと思ったんですが,大丈夫なんでしょうかというところです。

【村本氏】クラックプログラムの機能なんですが,要するにメーカーの認証サーバーを経ないでキー認証のデータを作るという仕組みでございますので,それはセットだろうと思います。

【奥邨委員】すみません。私の問題点は,指令符号というのは,必ずしも認証システムと結び付く定義にはなっていないのかなと,条文上は思ったんですね。回避するプログラムを提供するという中に,指令符号を提供することを追加するという話になったときに,指令符号というのは,必ずしもアクティベーション方式とは結び付かない話かなと思っていたんです。今のは,指令符号は必ずアクティベーション方式と結び付きますと。アクティベーション方式というか,認証サーバーを使ったアクティベーション方式の場合は,クラックプログラムがないとだめだと分かるんですけれども,そこが少し条文と整合しているのかなというのが,まだ十分技術が分かっていないんですが,少し気になったというだけです。済みません。

【村本氏】条文と整合するかどうかは別として,一応私どもが扱っている事件では,認証符号を入力しなければプログラム自体が不正できない仕組みなんですよね。それで,プログラムが複製されると同時に認証のデータが作成されるということでございますので,確かに今の条文の建て付けからするとそうかもしれませんけれども,実際のメーカーの認証システムというのは,実はシリアルキーなりプロダクトキーの入力から非認証データの複合までという一連の仕組みをライセンス認証システムと呼称しているわけです。

【奥邨委員】済みません。十分分かっていないので……。分かりました。

【茶園主査】では,大渕委員。

【大渕主査代理】非常に詳細に説明いただいたのですが,少し分かりにくいので,別の観点からお伺いします。今の資料2の5ページの真ん中のところに著作権法と不競法を非常に分かりやすく対比していただいています。今回は,赤枠で囲んだ不正な指令符号,先ほどシリアルキーと一緒だと言われましたが,これについて,不競法では改正後に右側のボックス(オ)で民事制裁,刑事罰の対象にしています。今はないものを不競法に合わせてこちらもというのは分かるのですが,この性質が,不競法にあるからには,ほぼ一律に左側に来るような性質のものなのか,それとも不競法と著作権法で一定の差異があるようなものかという点を,少し御説明いただければありがたいというのが1点目です。

2点目は,また少し別の話で,先ほど1ページ目の御説明で,「技術的利用制限手段」の点が中心ですが,「技術的保護手段」の点にも関係するという部分です。著作権法としては,コピーコントロールとアクセスコントロールというのは,昔からある永遠の課題のようなところがあって,著作権法というのは以前はコピーコントロールが中心だったのですが,コピーコントロールのためのアクセスコントロールというように,だんだんアクセスの方に広がってきている。そのような話なのか,それとも,実は著作権法といっても,別にコピーコントロールだけではなくて,著作者の利益を保護するためであれば,コピーコントロールとアクセスコントロールが2つの別の手段として成り立つということかもしれない。今回は技術的な改正ではあるのですが,このようなところを触ると,コピーコントロールとアクセスコントロールという,いわば著作権法の根幹のようなところにも関わってくるので,そのあたりがどの程度この話で影響を受けるのかということも少し御説明いただければと思います。以上の2点をお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】ありがとうございます。

まず,1点目は,不正競争防止法と異なる配慮が必要になるかという観点の御指摘だと思います。この点につきましては,6ページの一番初めの部分で記載しております。著作権法で捉えた場合,著作権者の利益を保護する観点から,同様の規制が必要になるかという観点の確認が必要だと思っておりますが,シリアルコードを提供されますと,ほぼ間違いなくユーザーによる回避行為につながります。この回避行為自体は,著作権法で既にみなし侵害にされているものでございまして,実質的にもソフトウェアの著作権者の利益を不当に害するものだろうということで評価されると思います。不正競争防止法で行ったことを著作権法に照らしてみても,必要性はあるのかなと捉えているところでございます。

当然,双方の保護法益などは異なりますので,例えば著作物以外にシリアルコードを掛けている場合には,著作権法では網が掛からない。また,回避行為については,著作権法でしか規制をしておりませんので,そういう部分については,多少措置の内容が異なる部分もありますけれども,著作権法で措置をする必要性自体は認められるのかなと認識しているところでございます。

2点目につきましては,コピーコントロールについても措置を行うことで,著作権法の本質の部分にも関わるのではないかという御指摘だと思います。今回,あくまで不正なシリアルコードなどの提供が行われていて,そこを抑える必要があるかという観点ですので,アクセスコントロールに関しても必要性があると思いますし,ダウンロード,インストールをするときにシリアルコードを使うという方式も技術的にはあり得るものと思いますので,同様の措置を行うということが適当だと思っております。

このこと自体で著作権法の体系に何か大きな影響が及ぶということは,事務局としてはないのではないかと捉えております。

【茶園主査】ほかに何か御質問,御意見ございますでしょうか。

それでは,本日の事務局に作っていただきました整理案に対して御異議は特になく,御了承いただいたと思いますので,この内容で取りまとめを行っていきたいと思います。どうもありがとうございました。

【澤田著作権調査官】先生,申し訳ありません。村本弁護士から補足があるそうですので,補足の御発言を。

【茶園主査】お願いいたします。

【村本氏】申し訳ございません。6ページ目の3パラグラフなんですけれども,回避装置・プログラムの提供等の実態や云々というところがございます。実際に回避装置・プログラムの提供が問題とされた民事事案としては,不正競争防止法違反もございますし,商標法違反がございます。実際に商標法はプログラムに商標を付けて販売するという形で規制する。不正競争防止法は,プログラムの提供という形で規制することなんですが,実際にプログラムの提供をしていない,又はクラックプログラムが譲渡されたウェブサイトを紹介する。紹介して,それを使って回避装置・プログラムの利用方法を示すマニュアルを販売する案件がございます。

実際に,それで事件になった案件がございまして,平成29年8月10日の長野地裁の判決がございます。これは,商標法違反で民事訴訟が提起されました。しかし,実際には,長野地裁は商標法違反は退けました。それは,メーカーの販売が日本でされていないということで,商標の使用の実態がない。それで棄却されたんです。それは退けられたんですが,実際にそのときに不法行為も同時に主張しております。それで,不法行為では,クラックプログラムの提供は,実態的には違法性と同じですよねという判断を示しまして,不法行為を認めたという判決がございます。

これは,地財高裁,平成30年3月29日でございますが,明示されております。現在,最高裁に掛かっておりまして,まだ判断は出ておりませんけれども,そういう民事案件がございます。

それから,日にちについては明らかにできないんですが,不正競争防止法違反で,神戸地裁で判決が出た案件がございます。これも,実は非常に損害額が低い民事といいますか,不正競争防止法違反なんですけれども,民事的には非常に低い賠償しか得られなかった。実態は,正規の侵害と同じような瑕疵なんですけれども,損害賠償で言いますと,商標法にしろ,あるいは不競法にしろ,著作権法に比べると非常に低い救済しかメーカー側は得られていないという実態がございます。

以上でございます。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

村本弁護士,いろいろお教えいただきましてありがとうございました。よろしいでしょうか。

では,ここで議題の2番は終わりということで,続きまして,3番目の議題に移りたいと思います。(3)著作権等侵害訴訟における証拠収集手続の強化についてです。

裁判所による文書提出命令に関しましては,各知的財産法で同様の規定が置かれていたところ,先の通常国会におきまして特許法等が改正されまして,インカメラ手続の充実が図られております。

本日は,これを受けた著作権法における対応につきまして,事務局で論点の整理を行っていただきましたので,まず,その御説明をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【澤田著作権調査官】それでは,資料3を御覧ください。資料3「著作権等侵害訴訟における証拠収集手続の強化に関する論点整理(案)」というペーパーでございます。

まず,「問題の所在」ですけれども,現行著作権法114条の3という規定におきまして,著作権等の侵害訴訟において,当事者からの申立て基づいて,侵害の立証や損害額計算のために必要な書類については裁判所が文書提出命令を発することができるということが定められております。その際に,当該書類を所持する当事者が提出を拒む正当な理由があるときには,文書提出命令を発することができないという定めがございますけれども,裁判所は,その正当な理由の有無を判断するに当たって必要と認めるときは,書類を所持する当事者に対して,裁判所に限って当該書類の提示をさせることができるという規定が置かれております。このような手続を,一般にインカメラ手続と呼ばれております。

このインカメラ手続におきましては,原則としては裁判所限りの開示を求めるものなんですけれども,裁判所が当事者等に書類を開示して,その意見を聞くことが必要であると認めるときには,当事者や代理人に対して,その書類を開示することができるとされております。

このようなインカメラ手続につきましては,冒頭,主査からございましたとおり,特許法等の他の知的財産法においても同様の規定が整備されていたところでございます。

2パラグラフ目に参りまして,このインカメラ手続に関しまして,主として特許法との文脈で産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会におきまして,インカメラ手続のより充実した制度の導入についての提言がなされました。同様に,不正競争防止法に関しても提言がなされました。これらの提言を受けまして,不正競争防止法等の一部を改正する法律によって,特許法の105条等が改正されまして,書類提出命令の必要性の判断に当たってもインカメラ手続を用いることができるようになったという点と,インカメラ手続において専門委員を関与させることができるような規定の見直しがなされました。

これは,特許法105条が改正されまして,商標法・意匠法・実用新案法につきましては,その条文を準用する形になっており,また,不正競争防止法においても同内容の改正がなされたということでございます。

改正後の手続のイメージというものをこの資料の末尾に別紙として付けておりますので御覧いただければと思います。

原告から侵害立証等に必要な書類の文書提出命令の申立てがなされた場合に,裁判所がその書類が侵害立証等に必要であるか否かを判断するために,その書類を実際に見る必要があると考えた場合にインカメラ手続というものを用いることができるようになりました。その場合に,裁判所からの要請を受けまして,被告が書類の提示をするといった場合に,裁判所は書類を見た上で,侵害立証等に必要であるかということを判断することができるようになりました。

また,併せて,右下に書いてありますけれども,専門委員によって,書類の内容等について技術的な説明によるサポートが受けられるようになったという改正が行われております。

資料1ページ目にお戻りいただきまして,最後のパラグラフですけれども,この改正がなされるまでは,著作権法におけるインカメラ手続に関する規定と特許法等に関するインカメラ手続に関する規定の内容は同じであったということを踏まえまして,こうして特許法等でインカメラ手続に関する充実がなされたことを踏まえて,同様に著作権法も見直しをすべきかどうかについて検討する必要があると考えて,問題を提起させていただいている次第でございます。

2ページ目から「論点の整理」というところに入らせていただきます。まずは,「書類提出命令の必要性判断におけるインカメラ手続の導入について」でございます。

まず,「規定の見直しの必要性について」でございますけれども,先ほど申し上げたとおり,現行著作権法では,必要な書類であるか否かを判断する場合にインカメラ手続を用いることができることとはされておりません。実際の状況といたしましては,文書提出命令の申立てに関して,裁判所が侵害立証のために必要性がないとして申立てを却下する例は存在しておりまして,現行法上は裁判所が侵害立証等のために必要性を判断するに当たって,対象書類の内容を把握する方法がございませんので,裁判所において,その必要性に関する判断が困難であるという場合に,侵害立証等のための証拠としての価値がある書類について裁判所において適切な判断がなされずに文書提出命令の申立てが却下されてしまうというおそれが存在していると考えております。

また,侵害立証や損害額の計算のために必要な書類というのは,被疑侵害者の側に構造的に偏在しておりまして,特許法に関してでございますけれども,侵害立証段階における必要性の判断が高いハードルになっているといった指摘もなされております。このような事態が生じることは,権利の適切な実現の観点から望ましくないと考えられます。

また,裁判所が書類を実際に見て,必要に応じて当事者やその代理人等からの意見を聴取した上で,その必要性を判断することとした方が,紛争の実情に即したより適切な書類提出命令の活用が可能となるものと考えられるとしております。

こうしたところを踏まえますと,文書提出命令の必要性判断の場面においても,インカメラ手続を用いることができるようにする必要性は認められるのではないかとさせていただいております。

続きまして,3ページに参りまして,このようなインカメラ手続を拡大することによる書類提出者に与える不利益についてでございます。先ほど申し上げましたとおり,原則としては裁判所以外の者は,その開示を求めることができないこととされておりまして,書類提出者の営業秘密が漏洩するおそれはなく,書類提出者に不利益が生じることは考えづらいとしております。

裁判所は,インカメラ手続を用いる場合に,当事者の意見を聴取する必要があると認めるときには,当事者やその代理人等に対して書類を開示することは認められておりますけれども,その場合には,裁判所は秘密保持命令を発することができ,これに反して営業秘密を訴訟以外に用いる行為は罰則の対象となることや,不正競争防止法違反ともなり得ることから,営業秘密の漏洩が起こらないような制度的な措置はなされていると考えております。そこから,インカメラ手続の範囲を拡大することによって書類提出者に与える不利益というのは,極めて限定的であると考えられるとしております。

続きまして,インカメラ手続における専門委員の関与の部分でございます。まず,必要性としては,インカメラ手続で提示される書類としては,技術的に複雑かつ高度なものもあり得るというところでございまして,昨今のデジタル化・ネットワーク化の進展に伴い,著作権等の侵害態様はより一層複雑化していることを踏まえますと,文書提出命令の申立ての対象書類が必要な書類であるか否かや文書提出を拒む正当な理由の有無について判断される際には,専門的な知見が一層求められることとなると考えております。

また,裁判所が公正中立な判断をするためには,当事者からの説明だけではなく,中立的な技術専門家からも知見を得られるようにすることが望ましいと考えられます。

そういたしますと,インカメラ手続におきまして,技術専門家を手続に関与させることは必要であると考えられます。この技術専門家は,その専門的な知識を活用して,民事訴訟における様々な場面において重要な役割を担っている専門委員に入っていただくというのが適切なのではないかと考えております。

知的財産権訴訟に関する専門委員としては,大学教授や弁理士,公的機関の研究者や民間企業の研究者等の専門家が,現在は選任されているものと承知しております。

この点につきましても,「書類提出者に与える不利益について」でございますけれども,専門委員をインカメラ手続に関与させる場合には,改正後の特許法では当事者の同意を得ることとされていること,それから,専門委員には非常勤の裁判所職員として秘密保持義務が課されていること。こうしたことを踏まえますと,専門委員を関与させることによって,書類提出者に与える不利益は極めて限定的であると考えられるとさせていただいております。

御審議いただきたい点としましては,以上,私から御説明いたしました規定の見直しの必要性及び文書提出者に与える不利益についての評価が妥当であるかといった点と,規定の見直しの必要性,文書提出者に与える不利益の程度,他の知的財産権法との整合性を踏まえますと,特許法等と同様の規定の見直しをすることが適当と評価できるかといった点につきまして御議論を頂ければと思います。

5ページ目には,参考として,現行著作権法の関連条文を挙げさせていただいております。

6ページ目には,改正後の特許法の関連条文を挙げさせていただいております。

事務局からは以上です。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

それでは,ただいま御説明いただきました内容につきまして,御質問,御意見等がございましたら,お願いいたします。

では,大渕委員。

【大渕主査代理】非常に詳細に資料3に基づいて御説明いただきありがとうございました。

これは,特許法においてこのような改正がされたということで,著作権法も同様の改正を横並びというか,同じ知的財産訴訟としてやるかという話かと思います。そのような観点からすると,共通点と相違点ということを考えて,特段の相違点が,特許法では当てはまるけれども著作権法では当てはまらないというものがあれば,特許法に採用したからといって,著作権法には必ずしも当てはまらないということが言えるわけです。

ここに書かれているところから見ると,特許法と著作権法で有意な相違点は余りないということでしょうか。このような規律を新たに設けるという観点から,そのあたりを少し御説明いただければ分かりやすくなるかと思います。

【澤田著作権調査官】ありがとうございます。

事務局といたしましては,特段の相違点はないものかなと考えております。特許法において,技術的にかなり理解が困難な文書等が提出されることが想定されるということかと思いますけれども,こうした制度は商標法・実用新案法・意匠法などにも入っているというところもございます。著作権の侵害訴訟におきましても,昨今,プログラムの著作物やネットワーク上における著作権侵害等で技術的な書面が提出される可能性は十分に存在するものと考えておりますので,そういった意味では,違いはないものと考えております。

【大渕主査代理】違いがあるとしたら,技術的な専門性という観点であり,その観点からいうと,先ほどは特許法だけ言いましたが,意匠法と商標法とどちらが専門性から遠いのか分かりませんが,著作権も物によっては,特にプログラム著作物などは特許並みの非常に専門的なものがあり得ると考えると,別に著作権だからそれが当てはまらないということはなくて,同様のことは当てはまるのではないかということになると理解しました。

【茶園主査】ほかに何かございますでしょうか。

太田委員,お願いします。

【太田委員】結論に異議があるわけでは全くないのですけれども,表現で少し気になるのです。例えば,2ページの第2パラグラフで,「文書提出命令の申立てに関しては,裁判所が侵害立証のための必要性がないとして申立てを却下する」とあって,「必要性に関する判断が困難」とあります。「拒む正当な理由の判断」と「証拠の必要性の判断」というものは別物でして,そこをもう少し書き分けた方がいいかなと思いました。と言いますのも,証拠の関連性があるか,証拠の必要性があるかの判断ためにインカメラ手続きで当該証拠を見て,必要がないと判断すれば,それは証拠力がないのですから,心証形成に関係ない,影響がないと言えます.逆に必要性があれば証拠採用されるでしょう.いずれにせよ問題はないと言えます.他方,「拒む正当な理由の判断」の場合には,本当は証拠力はあるんだけれども,別の理由から提出させないかさせるかということです。そうすると,見てしまえば,裁判官は心証形成してしまうのですが,多分それでもいいというのが特許法の規定なんですね。

言い換えると,裁判所が,そこはちゃんと区別して心証形成してくれるというリアリズム法学から言うと若干疑義のある想定の下だと思います。そこの区別をちゃんとした形でお書きになった方が,民訴学者などから見るともう少し納得がしやすいのかなという気がしたわけです。

以上です。

【澤田著作権調査官】ありがとうございます。

御指摘を踏まえて,記載ぶりについては検討したいと思います。ありがとうございます。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

ほかに何かございますでしょうか。

では,前田委員。

【前田(哲)委員】済みません。単なる質問でございますが,今の太田委員からの御指摘に関することかと思いますが,もともと今回の改正というのは,必要性の判断と拒む正当な理由の判断とが別のものであることを前提として,後者についてのみ規定があったものを,今度は前者にも拡大してはどうかと。ここが,今回の改正点であり,それにプラスして,専門委員を関与させることを可能にすることが今回の検討課題だという理解でよろしいのでしょうか。

【澤田著作権調査官】はい。御理解のとおりでございます。

【茶園主査】よろしいでしょうか。

【末吉委員】一言だけいいですか。

【茶園主査】では,末吉委員。

【末吉委員】今の点なんですけれども,この資料の2ページの脚注の9に髙部さんの論文が引いてあります。まさに,ここに記載されているとおりだと実務家としては思うので,その点を,今,前田先生はわざわざ確認されたんだと思うんです。結局,必要性の有無が判断しやすくなるという点と,当事者がより納得しやすくなるというプラクティカルな効果があるので,この点においては,著作権法も同様に改正しておくことに極めて大きな意義があると思います。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。

龍村委員。

【龍村委員】特許法にこの制度がある以上,特許侵害と著作権侵害が同じ訴訟の中で問題になるケースもあるわけで,その場合,特許法部分だけインカメラ手続が使えて,著作権部分については使えないなどという切り分けは,恐らく難しいだろうと思います。その意味で,こちらも入れなければ制度としては完成していないと思いますので,これはやらなければならない改正だと思います。

【茶園主査】ありがとうございました。

ほかに何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。

では,事務局に作成いただきました本日の整理案で御了承いただけたと思いますので,この内容で取りまとめを行っていきたいと思っております。どうもありがとうございました。

では,続きまして,最後の議題ですけれども,議題(4)その他といたしまして,前回までに議論いただきました「改正著作権法第47条の5第1項第3号に基づく政令のニーズ」とそれを含めた政省令の改正案に関しまして,事務局より報告があるということですので,御説明をお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】ありがとうございます。

参考資料の4から6までを御準備いただければと思います。

まず,参考資料4につきましては,前回,前々回の小委員会で御議論いただいた政令のニーズに関する資料でございます。審議の結果を踏まえまして,事務局としてニーズを提出いただいた団体にお送りした文書をお示ししております。

内容は,御案内のとおりかと思いますので,詳細は割愛いたしますが,政令の制定は今回のニーズを基には行わない。一方で,立法的な対応など,必要な部分もありますので,順次,小委員会で検討を行うということをお示ししております。

また,資料の3番のところで記載しておりますとおり,ニーズ募集は,今回1回のみということではございませんので,法改正の趣旨,内容などの周知もしっかり行った上で,また一定期間を置いて実施するということを提出団体には改めてお伝えしているところでございます。

また,この文書をお送りした後,ニーズ団体から個別に話を伺いたいという話もございましたので,そういう部分につきましては,事務局から可能な範囲で個別に詳しく御説明をしているということも申し添えたいと思います。

続いて,参考資料5につきましては,この政令のニーズに関する審議の経過,概略的な部分を記載した資料となってございます。

こちらも詳細は割愛いたしますが,提案団体からのヒアリングを2回に分けて実施したということ。また,それを受けて,委員の方々で御議論いただいたものの,結論のところを中心に概略をまとめているものということでございます。

最後に,参考資料6につきましては,この政令のニーズの議論も踏まえた上で,先般の法改正に伴う政省令の改正案について,事務局で検討し,現在,パブコメに掛けている状態でございます。

11月17日から12月9日の期間で実施しているものということで,現時点では案の段階でございます。パブコメが終わりましたら,その意見も踏まえて対応を考えた上で正式に制定していくことになるものでございます。来年1月に施行する内容も含まれておりますので,年内には制定する予定でございまして,また制定した段階で,この小委員会にも御報告を申し上げたいと思います。

簡単でございますが,以上です。

【茶園主査】今,御説明いただきましたことについて,何かございますでしょうか。よろしいでしょうか。

では,他に特段ございませんでしたら,本日はこれくらいにしたいと思います。

最後に,事務局から連絡事項がございましたら,お願いいたします。

【大野著作権課長補佐】本日は,長時間にわたりありがとうございました。

次回の小委員会につきましては,12月7日金曜日の10時から3時間程度を予定しております。今後ともよろしくお願いいたします。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

それでは,以上をもちまして,文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会(第6回)を終了とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

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