文化審議会著作権分科会
法制・基本問題小委員会(第3回)

日時:令和元年10月30日(水)
10:00~12:00
場所:東海大学校友会館阿蘇の間


議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)写り込みに係る権利制限規定の拡充について
    2. (2)研究目的に係る権利制限規定の創設について
    3. (3)その他
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料1
写り込みに係る権利制限規定の拡充に関する中間まとめ(案)(209.5KB)
資料2
研究目的に係る権利制限規定の創設に当たっての検討について(案)(253.3KB)
参考資料1
デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方(著作権法第30条の4,第47条の4及び第47条の5関係)(令和元年10月24日 文化庁著作権課)(913.5KB)
参考資料2
インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表について(2019年10月18日 内閣府、警察庁、総務省、法務省、文部科学省、経済産業省)(350.7KB)
参考資料3
「侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関するパブリックコメント」関係資料一式(1.5MB)
出席者名簿(43KB)

議事内容

【茶園主査】では時間が参りましたので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会第3回を開催いたします。

本日は御多忙の中,御出席頂きまして誠にありがとうございます。

議事に入る前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照いたしますと特段非公開にするに及ばないと思いますので,既に傍聴者の方には入場していただいております。この点,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【茶園主査】ありがとうございます。それでは本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴していただくことといたします。

では,まず事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】それでは,お手元の議事次第に記載の配付資料一覧をごらんいただければと思います。

まず資料1が,写り込みに係る権利制限規定の拡充に関する中間まとめ(案),資料2が,研究目的に係る権利制限規定の創設に当たっての検討について(案)と題する資料でございます。

また参考資料といたしまして,参考資料1が,先日公表した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方,参考資料2が,これも先日公表されました海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表についてと題する資料,さらに参考資料3として,現在実施中のパブリックコメントに関する資料一式をお配りをしております。

不足などございましたら,お近くの事務局員までお伝えいただきたいと思います。

【茶園主査】よろしいでしょうか。それでは議事に入りますけれども,初めに議事の進め方について確認しておきたいと思います。本日の議事は(1)写り込みに関する権利制限規定の拡充について,(2)研究目的に係る権利制限規定の創設について,(3)その他の3点となります。

では早速議事に入りたいと思います。まず議題の(1)写り込みに係る権利制限規定の拡充についてでございます。前回の審議の結果,主査一任とされておりました論点整理(案)につきましては,会議終了後,若干の修正を行いまして,9月27日に事務局からお知らせしたとおり,論点整理として取りまとめを行っております。

本日は,この論点整理と同じ内容の資料を中間まとめ(案)としてお示ししております。これを正式な中間まとめとして取りまとめの上,速やかにパブリックコメントを実施したいと思っておりますけれども,この点,特に御異論はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【茶園主査】ありがとうございます。それでは,後ほど事務局において準備の上,パブリックコメントを実施していただくことといたします。

では続きまして議題の(2)に入りたいと思います。これは研究目的に係る権利制限規定の創設についてでございます。本議題につきましては,前回,検討の進め方について御了承いただくとともに,検討に当たっての視点について様々な御意見を頂きました。この前回の議論を踏まえまして資料が更新されておりますので,事務局より,その資料について簡単に御説明をお願いしたいと思います。

【大野著作権課長補佐】お手元の資料2をごらんいただければと思います。資料2の右肩に記載しておりますとおり,前回お配りした資料に前回頂いた御意見を赤字で追記しております。赤字の部分中心に御紹介をしたいと思います。

まず資料の4ページをごらんいただければと思います。現行法における権利制限規定との関係についての御意見を1点頂いております。進め方としては,今後調査研究を実施し,そこでニーズの把握なども行うということにしておりましたが,そのニーズが上がってきた際に,既存の権利制限でどこまで対応できて,どこから対応できないのかということをよく検討する必要があるという御指摘でございます。

また3ポツ(1)検討の進め方につきましては,先ほど主査からございましたとおり,進め方について御了承いただいておりますが,5ページに記載のとおり,調査研究の実施に当たっての留意点について幾つか御意見を頂いておりました。

1点目は,今回,研究目的の権利制限規定を創設することにしておりますが,研究という行為をなぜ取り上げるのか,ほかにない重要性が何なのかという点についても,調査研究の過程で明らかにすべきという御意見がございました。

また2点目,3点目は,同趣旨の御意見かと思いますけれども,調査研究によってしっかりとニーズの調査をする必要があるという御指摘だと受け止めております。

とりわけ三つ目の意見にございますとおり,権利制限が新設された結果,今まで黙示の許諾などで自由にできていた行為が,かえって使いにくくなることがあるとまずいということで,真のニーズがどこにあるか,慎重に調査研究する必要があるという御意見でございました。

また4点目は権利制限規定の創設という,いわゆるハードロー的な対応のほかに,ソフトロー的なアプローチがどのぐらいできるかということも調査を行っていくのが良いという御意見でございました。

次に6ページに参りまして,来年度以降,具体的な制度設計を行うということにしておりましたが,その際の進め方について1点御意見がありました。具体的には,研究は非常に漠然としており射程が広いため,全てを対象にするとなかなか議論が難しいのではないかということを前提に,ニーズを丁寧に拾った上で,まず本丸の研究,特に必要性が高いところから段階的に検討を進めていくべきという御意見がございました。

次に(2)検討に当たっての視点は,制度設計に当たっての論点になる部分でございます。

まずマル1,契約等による対応可能性の関係では,現在,既に大学等の研究機関で権利処理がされているということであれば,それを改善・ブラッシュアップしていくことが取り組みやすいという御意見がありました。

またマル2,対象とする「研究」の範囲につきましては非常に多様な御意見を頂いております。

まずローマ数字のⅰ,主体に関しましては,いわゆる在野の研究者など組織に属さずに研究をする人たちもおられますので,こういう人を包摂するようなルール形成が望ましいという御意見がございました。

また7ページ目の二つ目の丸でございますけれども,自然科学・社会科学の一部では共同研究,組織やグループで研究を行うということが行われておりますので,こういった取扱いも検討する必要があるという御意見がございました。

またローマ数字のⅱからⅴまでは権利制限の対象にする研究をどういう切り口で特定していくかという部分でございますが,1点目の御意見にございますとおり,客観的な規定で認定するということではなくて,ソフトロー的・手続的に一定の審査プロセスを経ていれば対象として認めるという考え方もあり得るのではないかという御意見がございました。

一方で,この御意見に対しましては,審査プロセスの前段階での資料収集なども重要になってくるため,このプロセスで対応できるものにも限界があるのではないかという御趣旨の御意見がございました。

ローマ数字のⅵは,研究成果の公表や社会への還元ということを何らか権利制限のメルクマールにできないかという点に関しての御意見でございます。必ずしも研究というのは成果に結び付かない場合もあるでしょうし,時間を要する場合もある,また公表すべき媒体を見付けにくい立場の人が研究する場合もあるということで,そういった点にもよく留意する必要があるという御意見がございました。

次に8ページに参りまして,マル3,研究と著作物利用との関連性という論点についての御意見でございます。今回の検討の射程についての御意見だと思いますが,研究目的の利用といった場合に二つの対応があるということで,一つ目は,その著作物自体を研究の対象にする,その著作物を分析するという場合でありまして,もう一つは,著作物を使いながら研究を行う場合,この二つの場面を区分して考える必要があるという御指摘でございます。前者は,いわゆる柔軟な権利制限規定である程度カバーがされておりますが,後者については必ずしもカバーができないところ,今回の議論は後者を中心に議論をしていくのではないかという御趣旨の御意見でございます。

次にマル4,対象とする著作物の種類につきましては,特にアウトオブコマース,絶版図書などにつきましては,権利者に不当な不利益を与えないことが前提になっているので,特別な扱いを検討する必要があるのではないかという御意見でございます。

マル5,情報源の適法性に関しましては,諸外国との比較で,フランスでは適法性を要求しているものの,ドイツの最新の立法では要求していないという御紹介もあり,こういう点も踏まえて検討を進める必要があるという御意見でございました。

マル6は著作物の利用態様でございます。これに関しては,複製権の権利制限に限定すると検討がしやすいけれども,公衆への提示・提供まで含めると様々な論点が出てくるので慎重な検討が必要という御意見がございました。

また9ページに参りまして,これも先ほどの指摘と共通しますが,文系の研究では個人や少数で利用する場合が多い一方で,理系の研究などでは共同研究などもありますので,そういう場合は公衆送信なども問題になるため,よく研究の対象,分野の違いを踏まえた上で検討を行う必要があるという御指摘でございました。

また9番のその他関連する課題についても幾つか御意見がございました。

1点目と2点目は共通する御意見かと思いますが,今回新しい権利制限規定を整備することを御検討いただいておりますが,それに加えて,図書館関係の規定を含めまして,既存の権利制限規定の改善もセットで検討した方がより効果的なのではないかという御意見でございました。

また三つ目は具体的な御指摘でございます。欧州各国の中には,図書館の資料をファクス,メール送信ができる国も存在しているけれども,日本ではそこまではできないため,この際,デジタルネットワーク環境に対応した形で考え直していくことが重要という御意見でございました。

前回頂いた御意見は以上でございますが,更に追加で検討に当たっての視点などございましたら御意見を頂ければと思っております。よろしくお願いします。

【茶園主査】どうもありがとうございました。ただいまの説明を踏まえまして,更に御意見等がございましたらお願いいたします。

研究目的に関する権利制限規定を創設するに当たっては,いろいろなことを考えなければいけないということで,その論点なり視点というものについていろいろ挙げていただいて,前回それらに関して様々な御意見を頂戴いたしたところですけれども,更に御意見等がございましたら,御自由にお願いいたします。何かございますでしょうか。井上委員。

【井上委員】資料を拝見しておりますと,ニーズを踏まえた上で検討を進めていくという方向性がうち出されていますが,その際,現在顕在化しているニーズを特定した上で,その範囲でだけ権利制限を認めるというようなことになると,「それ以外のものについては権利制限の範囲でない」というメッセージを国民に送ることになってしまいかねませんので,どこまで細かく制限規定の中に書き込むのか,十分に慎重に検討する必要があると考えております。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかに何かございますでしょうか。では奥邨委員。

【奥邨委員】私,前回休んでおりましたので,議論を把握できていないところはありますが,基本的に,きょうおまとめいただいた資料で賛成です。1点,調査研究に関して,とりわけということで,多分視野に入っているかなとも思うんですけれども,一言申し上げますと,現在,比較法的なことについては言及あるんですけれども,やはり他の知財法,特に特許法での「研究」に関する議論ついても視野に入れる必要があるのではないかなと思います。

もちろん法目的が違いますので,特許法と著作権法で「研究」の範囲などが一致しなければならないわけでないですし,それは必ずしもいいことではないかもしれないとも思うのですが,ただ一方で,現場での実際を考えますと,今現在は試験・研究のための特許発明の実施は許されるわけですけれども,そのときに関連する資料を複製したいと思っても,これが例えば企業だったら,基本的には権利制限規定はないわけでして,そうすると,研究のために,発明は実施できるけれども資料はコピーできないという状態が,厳密に言うと起こっているわけであります。

そういう意味では,現場では悩ましいのだろうと思います。適用場面が重なってくる部分が実際問題としてあるということであれば,そのときに,将来そごがないような形で,実施もできる,複製もできる,利用もできるということを,ある程度視野に入れておく必要があると思います。ですので,新たに項目を立てていただく必要はないんですけれども,例えば2の中の様々な研究活動における著作物の利用実態・ニーズの中の一つとして,そういう場面も捉えていただければ,より実際的な使える規定になるのではないかなと思っております。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかに何かございますか。では大渕委員。

【大渕主査代理】やはりこれは非常に大きなテーマであります。広い意味での研究というのは非常に広い範囲に及び得るのですが,喫緊のニーズがあるものは権利制限規定の立法が既に次々になされています。情報解析などの企業等のニーズがあるものは,もう今までにやっています。その意味では,喫緊のニーズが必ずしも高くないものがむしろ残っているといえますので,かえって対応しにくい面があります。また,前回も申し上げましたとおり,我々が普通に研究上のコピーをすることについても,今まで特に問題が発生しているわけでもありません。学者同士の黙示の許諾等があるという状態で来ています。「超権利制限」ともいいますが,権利制限規定がなくても,今までどおりの黙示の許諾等でも十分ともいえます。

データベースで見ていても,研究関係で争われた裁判例がほぼないぐらい非常に幸せな状態で来ています。明確性は重要なのですが,立法の仕方を誤ると,かえって非常に使いづらくなってしまいますので,慎重にニーズをよく拾っていただく必要があると思います。また,例えば,特許の消尽法理がそうですが,不文の法理のままにしておくと,いろいろ柔軟に対応できる面もあるのですが,条文を作るとなると,やはり大変なことになりますので,そこのところは慎重に対応することが必要だと思います。

まずは,基礎研究のところで,どこにニーズがあるのかしっかりと見極めていく必要があります。特許法の試験・研究とは関連はしつつも,大きく異なりますので,全てをにらみながら,まずは今後やられる基礎研究のところで前広に,じっくりと調査検討をやっていただく必要性が高いと思っております。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかに何かございますでしょうか。では前田委員。

【前田(健)委員】既に記載されている御意見に含まれていることだと思うんですけれども,研究目的の権利制限がどういうアウトプットで出てくるかと考えたときに,無償で権利制限するだけではなくて,契約による対処とか,若しくは著作権者に対価が還流される形での権利制限規定というのも当然視野に入っていると思うんですね。

先頃35条が改正されまして,補償金付きの教育の情報化に関する権利制限規定ができたと思いますけれども,あそこで使われている仕組みというものを応用できるものがあれば,ここでも使う可能性というのは視野に入れてもいいと思うんですね。

というのは,特に大学での教育というのを考えたときに,そこで対象となっている著作物というのは,研究目的において対象となる著作物と重なってくる部分は多いんだと思うんです。そこで著作物者に対してうまく対価を還流する仕組みが出来上がったとしたら,そこでできたインフラを流用するというか,使うことができると思うので,そういった可能性というのも将来的には検討してもいいのかなと思います。

以上です。

【茶園主査】ほかに何かございますでしょうか。では龍村委員。

【龍村委員】若干話題が横にそれてしまうかもしれませんけれども,特許の話が出ましたので,指摘させて頂きますと,今まで,特許の明細書の著作物性,著作権の問題が余り議論されてなかったのではないかと思います。一説によると通常どおりの著作権があるというような意見があるわけです。しかし,特許明細書について,果たしてそれでいいのかという問題があるのではないかと思います。研究そのものの問題ではないのですが,発明の研究に関連した権利制限の問題点として指摘しておきたいと思います。

それと,参考になるものとして,例えば裁判上の手続上で著作物を使うことについて権利制限規定があったり,あるいは,先般,GIや種苗法の審査手続の過程で著作物を使用することについて権利制限を付したりするケースがあるわけですが,紛争解決過程だけでなく,それを拡大させれば,何らかの権利取得行為に向けて,その過程の手続上,著作物を使用することについて権利制限を付けたりするという発想もあり得るのではないか。特許出願などの何らかの研究のアウトプットに向けてのプロセスにおいて何らかの権利制限が効くという発想は,比較的,紛争解決過程のアナロジーで,そういうものに近いのではないか。そうすると,アウトプットをどこに向けて,どういう着地点に向けてのプロセスの中で権利制限を掛けたらいいのかと考えたときに,特許出願とか,一定の手続下の研究成果の公表とか,そういうことと絡めて考えるのも一つあり得ないではないという気もいたします。

ただ,御指摘にあるように,公表まで至らないこともありますし,どのような研究成果の公表,どういう形を持った研究成果を捉えるのかということについてもいろいろあるでしょうし,そこは難しいと思いますけれども,一つの視点として,そういう発想があり得ないかと思った次第です。

【茶園主査】ありがとうございました。では小島委員。

【小島委員】実態調査をしていただくということになっているかと思うのですけれども,実態について調べる際に,例えばクリエイティブ・コモンズなどのように,著作物の利用を促進する方向で自主的な取組というものが既になされているかと思ったりしておりまして,いわゆる国家法だけではなくて,そういう業界ですとか,あるいは学術コミュニティーなどのそういう実質的なルールの洗い出しなども是非していただきたいなと思っているのが第1点でございます。

もう1点なんですけれども,研究目的の権利制限というものを作るときに,直接には関係しないかもしれないのですけれども,利用促進ということでいきますと,権利者不明の著作物の問題なども出てくるのではないかと思います。

実は,これは私の実体験なんですが,私が今所属しておりますところの名誉教授の方,かなり高名な方だったんですけれども,その方のご著書が,権利者不明,行方知らずになっているということを知りまして,御遺族の方を見付け出すのに,出版社の方にもかなり御尽力頂いたんですが,かなり時間が掛かりまして,やっぱり1年,2年掛かって,やっと見付かったという状況でございました。

研究を行いたいというときに,やはり速やかに著作物にアクセスをして利用したいというニーズもあろうかと思いますので,権利者,それから出版社含めて,なかなかこういう苦労があるということを体験しまして,このあたりについても併せて御検討を進めていっていただけるとありがたいなと思っております。

以上でございます。

【茶園主査】ありがとうございます。では奥邨委員。

【奥邨委員】1点追加としまして,きょうおまとめいただいた資料の3ページから4ページのところで直接的に関係しそうな条文が出ているわけなんですけれども,個人的には,ここに113条3項が挙げられるべきなのではないかなと思います。技術的利用制限手段の回避規制に関して,今,技術的利用制限手段に係る研究又は技術の開発の目的上正当な範囲内で行われる場合その他著作権者等の利益を不当に害しない場合を除くことになっているわけですけれども,実際問題,これで十分なのだろうかと。この点は,これから「研究」が何を意味するかということにもよるんですけれども,例えば,アクセスコントロールが掛かっているようなものを,技術的利用制限手段の研究開発以外の目的で研究する場合どうするのだろうかと。研究のために複製などはしてもいいけれども,そもそもアクセスコントロールを外してはいけないということになりますと,若干矛盾するようなことになるわけです。もちろん,それは,現行規定の「その他」の中で読むんだという考え方もあるのかもしれませんけれども,今,特別に,技術的利用制限手段に係る研究って書いちゃっていますから,それ以外の研究はどうするんだとか,いろんな議論にもなるんではないかと思います。さっきのニーズ調査の中で,きっと出てくる問題だとは思いますけれども,条文としても挙げておいたいただいた上で,ニーズの中でも,そういうものも本当にあり得るのか,理屈だけの話なのかということも見ながら手当てをしていくことが必要かなと思います。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。ほかに何かございますでしょうか。では今村委員。

【今村委員】9ページの権利者の利益保護への配慮の権利制限に伴う補償金の要否という部分で,この補償金制度を取り入れるかどうかというのは,これからいろいろ考える部分で,どこまで入れるかということ,あるいはそういうのを入れない制度にするかということも含めてということだと思うんですが,仮に補償金制度を入れるとしたら,例えば31条の図書館における複製などの既存の権利制限規定でも,調査研究の用に供するためにはコピーを提供できるということになっていますが,そこには現在は補償金がないわけで,そこはコピー代しか取らない,あと手数料しか取らないという建前で運用しているわけですけれども,そういう既存の権利制限の部分で調査研究のために適法に複製ができる場合についての補償金の要否というところも考えていかなければならなくなるのではないかと思うんです。

だから,研究目的に係る権利制限規定の創設に当たって補償金の要否を検討する場合,その点も含めて,つまり既存の権利制限規定における補償金の要否という問題も併せて問題とするべきなのではないかと思います。

【茶園主査】ありがとうございます。では大渕委員。

【大渕主査代理】以前は補償金というと教科書補償金等と30条くらいしかありませんでしたが,今度35条でできたし,ドイツの著作権法を見ると,非常に補償金がたくさん付いています。これは経済学的にうまくワンセットになっていて,無償で使える場合にはあまり広くない、ただで使えるぐらいの範囲の狭い範囲でしか権利制限されないが,補償金を付ければ,無許諾で利用できる範囲がもう少し広がる。その同じ理屈が今回35条にも適用されて,補償金を付ける代わりに幅広くICT教育ができるということであります。そのような点では、研究についても全く同じだと思います。どちらがよいかは別として,補償金の可能性も選択肢の一つとして視野に入れつつ,検討するのがよいと思われるというのがまず1点です。

それから,研究というものは,定義の仕方によっては,ほぼ全てが入ってしまうという面もあって,その意味では,外縁を広げると結局,本丸がおろそかになってしまうおそれがあります。また,私的使用等と大きく混同している人もいます。しかし,私的使用と研究は全く違う話なので,そこのところはきちんと区別する必要があります。やはり,前にも申し上げたように,段階的にやらざるを得ない。周辺までやると,何年掛かっても議論が進みませんので,まずは誰が見ても研究ということに異論のないようなところから着実にやっていくということ以外に解はないのではないかと思っております。

【茶園主査】ありがとうございました。では鈴木委員。

【鈴木委員】念のためという程度の話ですが,国際条約との関係に関し,例えば,資料2の注7に引かれている平成23年度の文化庁委託による調査研究報告書では,国際条約に関する記述がやや中途半端な印象を受けました。ベルヌ条約の交渉過程では,研究目的の権利制限について,いわば当然という感じで明記されなかったこと,そしてWIPOの著作権条約と実演・レコード条約では前文に明記されていること,さらにローマ条約の15条に権利制限の一例として明記されていることあたりは,今後の検討において念頭に置いていいのではないかと思いました。

【茶園主査】ありがとうございます。ほかにございますでしょうか。では前田委員。

【前田(哲)委員】今後,調査研究をしていただくに当たっては,利用対象となる著作物の性質がどういうものかによって大きく状況が異なるということを意識していただけるといいんじゃないかなと思います。著作権者がどういう行為からの対価回収を合理的に期待しているのかということは,著作物の性質・目的によって随分異なるのだろうと思います。

例えば漫画の著作物を研究するという組織があったとして,その会員は,みんなが特定の漫画作品を読んで,それについて意見を述べ合うというような活動が行われているときに,それは研究目的だから,大勢の会員が特定の漫画作品を無料で読めるようにすることも,研究目的で許されるのかというと,それは常識的に許されないだろうと思いますし,他方,先ほど大渕委員からも御指摘ありましたけれども,学術論文などについては,著作権者の方も広く研究者に自由に読まれることを期待しているということもあるでしょう。もっとも学術論文の中でも商業出版社が投資をして深く関与しているものについては,ちょっとまた事情が変わってくるかもしれません。そのように著作物の性質には様々なものがあって,それによって,あるべき権利制限の姿が随分変わってくるのかなという気がいたします。

以上です。

【茶園主査】ありがとうございます。よろしいでしょうか。

これから調査研究を実施していただきますけれども,特にその調査研究において注意してもらいたいこと等がございましたら,そのようなことについてもお願いいたします。では井奈波委員。

【井奈波委員】特に調査していただきたいことですが,研究というのは,やはり大変広い射程を持っていると思います。例えば趣味と研究との境目は,非常に曖昧なところがあると思います。そうすると,制度を設けることによって,逆に,これまで趣味で自由に行えていたことが行えなくなってしまうのではないかという危惧があり,狭める方向にならないように注意する必要があるのではないかと思います。

そのような意味で,調査研究によって,現段階において権利制限規定の範囲で許容される行為を明確にしておく必要があるのではないかと思いました。

【茶園主査】どうもありがとうございます。よろしいでしょうか。

では,どうもありがとうございました。本課題の検討に当たっての視点につきましては,前回に引き続きまして本日も様々な御意見を頂戴いたしました。そこで,事務局におきましては,これらの御意見を十分に踏まえながら,調査研究を実施していただきたいと思います。来年度の本小委員会では,その結果を受けまして,具体的な制度設計等について議論を深めていきたいと考えております。

本日の審議事項は以上となります。

最後に,事務局から幾つか報告事項があるということですので,御説明をお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】それでは,参考資料につきまして簡単に御紹介をさせていただきたいと思います。

まず参考資料の1について,委員の先生方には既に個別にお知らせをしておりますが,10月24日付けで柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方という文書を文化庁著作権課として公表しております。平成30年の改正で本規定ができて,本年1月から施行になって1年弱がたっておりますが,我々の把握している限りだと,この規定を使った新しいサービスというのは必ずしも多くは行われていない状況でございます。そういった中で,この規定の趣旨,内容を正確に御理解頂いた上で新しいサービスに活用いただきたいという想いで,この文書を作成をしております。

詳細な中身の紹介は割愛いたしますが,目次にございますとおり,第一部,一問一答というQ&A集と,第二部の逐条解説のようなものの2部構成で資料を作っておりまして,とりわけ第一部におきましては,一般的な規定の趣旨や解釈に加えまして,具体的な事例を多数取り上げて,それが権利制限の規定の対象になり得るかという考え方を整理しております。その際には,本小委員会で昨年度,政令のニーズ審査を行っていただいた際に,政令で指定するまでもなく権利制限の対象になり得ると整理いただいた事例も幾つかございましたので,そういったものも含めて,なるべく具体的なものを多く取り上げるようにしてございます。

この資料につきましては,今後,実際のサービスの状況ですとか,事例の蓄積,事業者の方からの問合せなどを踏まえて随時更新をしていくことを想定しているものでございます。先生方からも,お気付きの点があれば,また御指摘を頂きたいと思っております。

次に参考資料の2が,10月18日付けで公表した資料で,「インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表について」というものでございます。従来から知的財産戦略本部の検証・評価・企画委員会などで議論が進めてこられたものでございますが,先日,官房長官の下に関係閣僚が集まり,これに基づいて政府一丸となって対策を進めていこうということが確認されました。それを受けて,10月18日付けで内閣府,警察庁,総務省,法務省,文部科学省,経産省という6省庁名で公表しているものでございます。

内容は御承知のとおりかと思いますが,1ページに合計で11項目の対策が記載されております。できることから直ちに実施する第1段階の項目と,導入・法案提出に向けて準備をする第2段階の項目,ほかの取組の効果,被害状況などを見ながら検討する第3段階の項目という,大きく三つの段階に分かれております。

このうち上から五つ目の検索サイト対策,それから第2段階の中に入っているリーチサイト対策及びダウンロード違法化につきましては,本小委員会でも議論を頂いてきたものでございます。

その関係で,次に参考資料3を御紹介をしたいと思います。侵害コンテンツのダウンロード違法化につきましては,昨年度の本小委員会で審議を頂き,2月に著作権分科会としての報告書を取りまとめいただいております。それに基づいて政府として法案の準備を進めておりましたけれども,国民の皆様の不安,懸念を払拭するに至らず,提出を見送ることにいたしましたので,これを踏まえて再度,丁寧に検討を進めていく必要がございます。

その際の,まず最初のステップといたしまして,国民の皆様が抱えておられる懸念,御意見を幅広くお伺いしたいということで,現在,パブリックコメントを実施をしております。9月30日から,ちょうど本日まで実施をしているところでございます。

今後は,このパブコメの結果も十分に踏まえながら,海賊版対策と国民の情報収集,これが両立するような制度設計を議論していきたいと考えておりまして,具体的には,漫画家の方をはじめとした関係者,有識者の方を交えた検討の場を新しく設置をしまして,そこで本小委員会及び著作権分科会でまとめていただいた報告書の内容をベースに,より具体的にどのような制度設計をしていくかという議論を深めていただくことを想定をしております。

その検討の状況につきましては随時,本小委員会,若しくは著作権分科会の場にも御報告を差し上げたいと思っております。

事務局からは以上です。

【茶園主査】ありがとうございました。

柔軟な権利制限規定につきましては,文化庁において,この資料の周知等を進めていただいた後に,しかるべき段階で改めて政令で指定すべきサービスのニーズ募集を行っていただきたいと考えております。

また侵害コンテンツのダウンロード違法化等に関しましては別途,有識者の検討会を設置して検討が進められるということですので,検討の進捗に応じて,本小委員会にも御報告をお願いしたいと考えております。

では最後に,事務局から連絡事項がございましたらお願いいたします。

【大野著作権課長補佐】本日はありがとうございました。2時間,時間をとっていただきましたが,短い時間になってしまって恐縮でございました。

次回につきましては,改めて日程の調整をさせていただきたいと思いますので,よろしくお願いいたします。

【茶園主査】どうもありがとうございました。

それでは,以上をもちまして文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会第3回を終了とさせていただきます。本日はどうもありがとうございました。

――――

Adobe Reader(アドビリーダー)ダウンロード:別ウィンドウで開きます

PDF形式を御覧いただくためには,Adobe Readerが必要となります。
お持ちでない方は,こちらからダウンロードしてください。

ページの先頭に移動