(平成20年第5回)議事録

1 日時

平成20年7月25日(金) 9:00~12:00

2 場所

虎ノ門パストラルホテル 新館6階 「アジュール」

3 出席者

(委員)
青山,大渕,清水,茶園,道垣内,土肥,苗村,中山,松田,森田の各委員
(文化庁)
高塩文化庁次長,関文化庁長官官房審議官,山下著作権課長,ほか関係者
(ヒアリング出席者)
喜連川 優 (東京大学生産技術研究所戦略情報融合国際研究センター長)
前川 喜久雄 (独立行政法人国立国語研究所研究開発部門 言語資源グループ長)
菅並 秀樹 (NHK放送技術研究所 企画総務部 企画部長)
四方 康嗣 (NHK放送文化研究所 計画・総務部 計画担当部長)
太佐 種一 (社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)著作権専門委員会委員)
西郷 雅志 (社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)著作権専門委員会委員)
山田 安秀 (独立行政法人情報処理推進機構(IPA)セキュリティセンター長)
久保田 裕 (社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)専務理事・事務局長)
中川 文憲 (社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)事業統括部法務担当 マネージャー)
水越 尚子 (ビジネスソフトウェアアライアンス(BSA)日本担当コンサルタント)

4 議事次第

  • 1 開会
  • 2 議事
    • (1)研究開発における情報利用円滑化について
    • (2)リバース・エンジニアリングに係る法的課題について
    • (3)その他
  • 3 閉会

5 配布資料一覧(※現在掲載準備中です。)

資料1

各ヒアリング団体からの説明資料

参考資料1
参考資料2
参考資料3
参考資料4

6 議事内容

【中山主査】 それでは,時間でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第5回を開催いたします。
本日は,お暑い中ご出席賜りまして,まことにありがとうございます。
議事に入ります前に,いつものことでございますけれども,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段非公開にするには及ばないと思われますので,傍聴者の方々には既にご入場いただいておりますけれども,このようなことでご異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【中山主査】 ありがとうございます。
それでは,本日の議事は公開ということにいたしまして,傍聴者の方々にはそのまま傍聴をお願いいたします。
それでは,議事に入ります。
本日検討していただきたい議事は2つございまして,第1は研究開発における情報利用の円滑化,第2はリバース・エンジニアリングに係る法的課題,この2点でございますけれども,前回の小委員会においてお知らせいたしましたとおり,今回は関係者からのヒアリングを執り行います。
まず,事務局から,配布資料の確認とご出席の関係者のご紹介をお願いいたします。また,事務局に人事異動があったようでございますので,併せてご紹介をお願いいたします。

【黒沼著作権調査官】 それでは,まず事務局の人事異動から紹介させていただきます。
7月11日付で文化庁長官官房審議官,吉田の後任として関裕行が就任いたしております。
引き続きまして,本日お越しいただきました関係者の皆様方をご紹介させていただきます。
東京大学生産技術研究所戦略情報融合国際研究センターの喜連川センター長でございます。
独立行政法人国立国語研究所研究開発部門,前川言語資源グループ長でございます。
NHK放送技術研究所企画総務部の菅並企画部長でございます。
NHK放送文化研究所計画・総務部の四方計画担当部長でございます。
引き続きまして,社団法人電子情報技術産業協会からお二方いらしていただいております。著作権専門委員会委員でいらっしゃいます太佐様,西郷様でございます。
引き続きまして,独立行政法人情報処理推進機構セキュリティセンターの山田センター長でございます。
社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会からもお二方いらしていただいております。久保田專務理事・事務局長,中川事業統括部法務担当 マネージャーでございます。
ビジネスソフトウェアアライアンスからは,水越日本担当コンサルタントにお越しいただいております。
引き続きまして,配布資料の確認をさせていただきます。議事次第の下半分に配布資料一覧が書いてございますが,事前に配布資料に番号を割り振ることができなかったので,全てが資料1,各ヒアリング団体からの説明資料となっております。それぞれのご発表者から1部ずつの資料をいただいておりして,合計で8団体ですので,8個の資料がお手元にあろうかと思います。なお,国立国語研究所からは,メインテーブルだけでございますけれども,資料のほかにパンフレットを1部いただいております。大変恐縮でございますけれども,ご確認いただきまして,過不足等ございましたら,お知らせいただければと思います。
それから,参考資料といたしまして,参考資料1は,今ご紹介いたしましたヒアリング予定者の一覧。参考資料2から4までは,前回お配りした資料をもう一度お配りしているものでございます。
以上でございます。

【中山主査】 よろしいでしょうか。
それでは,まず本日の議事の進行方法でございますけれども,最初に研究開発における情報利用の円滑化について,各発表者からそれぞれ10分程度でご発表を頂戴した後,そこで一度切りまして,質疑応答を行いたいと思います。その後,リバース・エンジニアリングにつきましても,同様な流れで,発表,質疑応答ということにしたいと思います。
なお,喜連川様につきましては,この後,ご都合がございましてご退席とのことでございますので,少し変則的になりますけれども,喜連川様のご発表についてのみ,ご発表のすぐ後に質疑応答ということにさせていただきたいと思います。
それでは,まず,研究開発における情報利用の円滑化について,東京大学生産技術研究所戦略情報融合国際研究センター長,喜連川様からお願いいたします。

(1)研究開発における情報利用円滑化について

【喜連川氏】 喜連川でございます。一介の地味な研究者でございまして,このような著作権の審議の場に出させていただくということは想定しておりませんでしたので,資料が不完全かもしれませんが,ご容赦いただきたいと思います。今,情報処理学会の副会長をさせていただいているのですけれども,パワーポイントの資料を紙でご説明するというのはこの10年来初めてでございまして,うまくいくかどうかよく分からないのですが,それもご容赦いただければと思います。
この資料の左から右に下へ下がって,シックス・イン・ワンの資料をご紹介したいと思います。いわゆるボーンデジタルと呼ばれている情報が,ノンボーンデジタル,非ボーンデジタルでない情報量に比べまして,ざっくり言いまして,概ね100万倍ぐらいの情報空間量になってきているというのが昨今でございます。そういう中で,ウェブという技術は情報技術者にとりましても,50年後に今を振り返ってみて,ウェブというものはかなりサブスタンシャルな技術であろうと感じる次第でございまして,社会を大きく変えた,つまり今や社会基盤としての技術であると,世界中全人類が情報を発信する極めて重要なメディアになってきたというふうに感じております。
その中でタイムが,パーソン・オブ・ジ・イヤーを"ユウ"と言い方をしておりますが,この"ユウ"というのはウェブを通して個人の意思を初めて自由に,これだけ自由闊達に発信することができるような世界になったということでございます。こういう中で著作権等,従来のレギュレーション,つまり100万分の1のメディアのレギュレーションというものも少し改変していっていただける可能性があればありがたいなと感じている次第でございます。
真ん中の行の左はテクノラティのブログ量についての資料でございます。小さくて恐縮ですが,赤いところとブルーのところがございまして,ブルーが英語でございまして,赤が日本語でございます。2006年の段階では,いわゆるブログというものは,日本語と英語がボリュームとしてワールドワイドで見て同じであると。そんなことがあるのかなと思っておりましたら,2007年になりますと,日本というのは非常に先進的な技術を持っているものですから,更に増えて言語単位で見たときに世界で最もブログ量が多いのは日本であるということが言えます。
こんなふうに,とりわけメンション量,言葉の発現というものは日本におきましては非常に活発になされているという事実がございます。ご存じのようにソーシャルネットワークは,右の図のように,例えばMySpaceは,実態的な国のレベルで言いますと,ワールドワイド3位から4位の国の規模になってきているということもございます。そういう観点から,我々はウェブメディアを,社会を見るためのメディアと考え,いろいろな研究をしてきているということでございます。
1ページ目の右下の図を見ていただくと分かるのですが,実世界とウェブ世界というものがありますと,我々は実世界で生活しているわけですけれども,時代とともにサイバーな空間で滞留する時間が非常に増えてきております。実世界での重要なことはほとんどウェブの世界に転写されてきています。これをデュアルな,つまり相対な見方をいたしますと,ウェブというのはある種社会をセンスするセンサーと見ることができまして,いったんこのウェブの空間に入りますと,コンピュータで処理可能ですので,社会の現象を,今まではメディアの方が一生懸命足で情報をかき集めておられたことを,ウェブ空間上で把握できるような時代に入ってきている。カミオカンデでニュートリノに質量があるかないかというのを検出することも非常に難しいサイエンスですけれども,人類が今何を求めていて,何に苦労しているかということを,一言でざっくり分かれる技術の確立も挑戦的で,そんなことがこのウェブによってやっとできるようになったわけで,この研究素材を多くの研究者が自由に使えるようにしていただけると大変ありがたいと思っております。
その次をめくりまして,では何がツールとして利用可能かと言いますと,現行のサーチエンジンでございます。人間の理解というのは,絶対観ではなくて相対観が非常に重要でございます。つまり,過去はこうで今はこうなってきているという,この変化が大きなある種理解を助ける部分でございます。そういうことから,私どもの研究所では10年ぐらいにわたりまして,約100億ページのウェブページを集めたインターネットアーカイブを作ってきております。このピンク色の部分が固有URL数でございまして,ブルーの部分は重複ビジットを示しておりますけれども,アメリカのインターネットアーカイブが今800億,北京大学が20億持っておりまして,一国として100億ページを持っているのは世界レベルで見ても極めて珍しい。アメリカの場合は全世界分を集めているということでございます。
こういうものを持ってきますと,社会の構造が何となくぼやっと見えてきます。真ん中の行にありますように,ある種の空間図,社会の連関図のようなものを見ることができるんですけれども,右下のように時系列的なものが一番おもしろうございます。例えば,これは9.11の直後に我々が日本のクローリングをしたわけですけれども,日本にはテロという概念がございませんでした。その前と言いますと,オウム真理教ぐらいだったわけですけれども,これだけテロに対しての意識高揚が社会の中で起きたということが分かります。
その次のページを見ていただきたいと思います。3ページの左上でございますが,お茶の水のジェンダー研究センターのセンター長の舘先生との共同研究ですけれども,99年に男女共同参画社会基本法が成立しまして,政府の施策がどの程度の進展度合で日本全体にプロパゲートしていっているかということが分かりました。社会学のドメインの中で論文をいろいろとお書きになられています。そんな学術共通基盤になっております。その横は銀行という比較的安定したセグメントでございますけれども,インターネット銀行が,端から3行目のところにピンク色でぽこっとできている。つまり,人間にとってパーシーバルな新しいオブジェクトができているということも,こういうことから把握することができる,捕捉することができます。
真ん中の行へいきますと,いろいろなサイバー空間でのアクティビティは,パワーシフトがどこに起こっているか。一番左上のところでは稠密なブルーは左上にありますが,右下の部分では右の下の方に稠密なブルーの部分が移っていいます。ある種の業界の動きをイージーに捕捉することもできます。これは7月5日の朝日新聞に大きく紹介されておりますけれども,大学ですのでややのほほんとした,生協の白石さんというページですが,右下で,今一番注目を集めているところのページをバックトレースしていきますと,3週間ぐらいでこういう風に世界は大きく変動してきまして,オリジナルはのは,この人ではなくて別の人が情報発信源であるということが,全部捕捉することができるということです。学術的には,その左下にありますような,あるメジャーをデファインしながら数理的に解いていくということを行っております。
3番目は右下でございますけれども,これは我々のツールを電通さんが,右上に電通のロゴが入っておりますが,お使いになられまして,マンスリーベースでサイバー空間を解析したものです。3月,4月,5月,6月という数字が左上に見えると思いますけれども,3月に発売を開始し8月にあるブランドをトップブランドに押し上げたというところをきれいに捕捉することができております。
次の5ページを見ていただきますと,マンスリーの広告投入費と,こういうブログメーション量がそこそこプロポーショナルである,あるいは,社会は一体どういうところに反応しているのかというようなことが,従来ここまで精査にとることができなかったことが,このサイバー空間を丸ごと捕捉していますと,体感することができるようになってきているということでございます。
真ん中の行でございますけれども,朝青龍がモンゴルに勝手に帰ってしまいまして,一時,社会でバッシングを受けましたが,本当はポジティブ,ネガティブ,どっちなんだということを解析いたしますと,最近よく負けてまた弱くなってきているので困っているんですけれども,当時といたしましては,強さということが前面に出ている。これはポジティブ,ネガティブの文法解析を精査に,巨大なコーパスを利用して解析することによって,従来とは違う新しいセンチメント解析と言われている,感情解析が可能になってきているということです。
一番下の行でございますけれども,ウェブからの言語の抽出もおもしろいことがあります。例えば,現在のサーチエンジンでは,辞書にない言葉が多くサーチエンジンのウィンドーに入れられます。つまり,我々が知っている言葉ではない言葉を聞かれること,そちら側がデフォルトであるということです。これはよくメディアさんが取り上げておられるんですけれども,「ハラシマる」という言葉がございます。これは一体何なのだというのは,6ページに答えが出ていますが,「原稿」の「稿」という字はのぎ偏なんですけれども,最近はあまり言葉の分からない学生が多うございまして,のぎ偏が糸偏になりまして,「原稿」が「原縞」になって,私のように日々,原稿,レポートに追われてしがない生活を送っているときに「ハラシマる」というんだそうであります(笑声)。ブログ解析をするときに,こういう言葉が分からないと何を言っているのかが分からない。
右側を見ていただきますと,例えば「ググる」という言葉があります。今日は国語研究所の先生にお越しになられていますが,私などは素人でございますけれども,ヤフーを使っても「ググる」ということになっております。そんなふうに言語の意味論というものが時代とともにどういうふうに受け入れられているのかというものが,普通の言葉ですと,横水平で時代によらず何も変化なかったり,あるいは,一過的なものであったり。この「ファブる」というのは,時代とともに急成長しており,花粉症でファブリーズをよく使うようになるということなんだそうです。そう言われればそんなものかなというところがございます。
ちょっと画像が飛んでしまっておりますけれども,いろいろなメディアさんが私共に取材に楽しくお越しになられております。
それから,ブログからのトップの話題の抽出ということ。これは別にお金をいただいているわけでも何でもありませんけれども,日刊スポーツさんの社会面で私どもの技術で「今週のトップ話題」みたいなものを抽出して紹介したりしております。
さて,次の7ページを見ていただきますと,同様のことはインターネットアーカイブというところでもやっております。これはISPと協調しておりまして,サーチエンジンがデータを捨てるときにもらってきまして,自分たちでクローリングしている量はそれよりて少ないのですけれども,私ども東京大学がやっておりますのは,全部自分たちで収集しているということで,保存に力点がおかれ我々とエモーションがちょっと違うんですが,彼らの方が3年ぐらい早くこの活動を行っています。
その横に特定領域研究というのがございます。私どもは文部科学省のレベルではかなり大きな予算で,現在250名以上の研究者が,これだけではございませんけれども,大量の情報から新しいおもしろい価値を出すという研究に邁進しておりまして,『現代用語の基礎知識』と呼ばれている分厚い,一般の方がお読みになる本の1ページ目にこの「情報爆発」という言葉もお出しいただいていまが,その際のターゲットがサーチエンジンでございます。7ページの一番下に書いてありますように,オープンサーチエンジン,誰でもいじれるようなものを作っています。
8ページをご覧いただきますと,今のグーグルではうまいこと出せないようなサーチがどんどんできる。例えば,「インドの経済発展の障害は何なんだ」というようことを,こんな長い文章をグーグルに入れても答えは出てまいりませんけれども,私どもの開発しているサーチエンジンではかなりシャープに出てきます。こういう研究を行おうと思いますと,コンテンツを山のように集めて,ウェルオーガナイズしたデータベースを作らなければいけないわけですけれども,著作権のことなどを気にしていると少しやりにくいなということがございます。
それから,グーグルで一番問題になりますのは,ロングテールと呼ばれているものでございまして,マジョリティの意見は上に出る,マジョリティでないものはその存在すら見えないということで,例えば赤ちゃんポストというのは,それほどマイノリティとマジョリティの差が強くはないかもしれませんが,小さな意見でも正しい視座というものは数多くございまして,トップ100ページだけを解析するのではなくて,全部を丸ごと解析したときどんな意見分布があるか。真ん中の行にありますけれども,そのときにページ全部ですと読めませんので,サマライゼーション,意見のポイントをうまく抽出して表現するようなことを行うわけですが,これも著作権法上諸般問題があるかもしれません。ただ,研究という観点ではぜひお認めいただければありがたいなと思っております。
それから,こういうウェブを利用することによりまして,辞書,知識ベースを従来に比べてかなり精度よく,飛躍的にプリサイスなものができます。例えば,安全・安心ということを目的に,卑猥な言葉や,あるいは,こういう場合には自殺幇助になるというようなものを,きれいに引っ張り出すことができるわけです。
その次のページでございますけれども,こんなものを具体的に社会に適用しようということで,ISPさんにお渡ししていいのかどうかと。お金をとるとかいうことではなくて,合法的にお譲りしていいものかどうかというのは研究者としてはやや心配なところもあるということでございます。
今日はNHKさんがお越しになられておりますので,動画の部分を私どもが申し上げることもございませんけれども,国立情報学研究所では過去かなりの期間にわたりまして,2001年から全部のニュースを蓄積しております。この蓄積したものから,最近は殺人事件が山のように起こっていますので,どの殺人事件の裁判はいつやっているのかさっぱり分からないわけですけれども,そのスレッドをきっちりと表示するような新しいテレビのユーザーインターフェースのようなものを研究している先生方もおられまして,使ってみるとものすごく使いやすい。しかし,こういうものを学会で発表して映像を出すということは今のところ非常に制約が強くて,なかなか研究が進まないということがございます。
例えば,最近一番大きな話題になりましたのは,ユーチューブにいじめの動画が載ったと。それを2チャンネルが見て,その2チャンネルをメディアさんがとられて報道された。ユーチューブが一番の原点になっている。そんなところでクロスメディアの解析というものも,これから研究者にとっては極めてチャレンジングな領域なのでございますけれども,動画に関してはまだまだ著作権法上敷居が高いと思っております。
このように研究開発に関しては,広がりは非常に多様でございまして,情報処理学会のメンバーからしますと,ほんの一部をご紹介したまででございますけれども,できれば先ほどのようなアーカイブも全日本に広く展開して,皆さんに多く使っていただきたいと考えております。また,こういうものが西海岸で起こっているようないろいろなビジネスにシームレスにつながるような,法制度体系についてご配慮いただけるとありがたいと,そんなふうに感じている次第でございます。
ありがとうございました。

【中山主査】 ありがとうございました。
それでは,先ほど申し上げましたように,ここで喜連川様のご発表についての質問等をお受けしたいと思います。何か質問ございましたら,お願いいたします。
どうぞ,苗村委員。

【苗村委員】 内容は大変分かりやすい,おもしろい話を含めていただいたのでありがたいと思います。質問は,ご要望と言いますか,具体的に自由に利用できる範囲がインターネットウェブ上において無料で提供されるものに限ると考えてよろしいのか。あるいは,インターネット上でも有料で提供されるコンテンツはたくさんあるわけですが,それも含めて自由にアーカイブし,また分析し,利用できるようにしてほしいというご要望なのか。その点についてお答えいただければ幸いです。

【喜連川氏】 私どもが現在クローリングをかけておりますのは,基本的に無料の部分でございます。ただ,サイトによりましては,例えば新聞社のようなものでございますと,露出期間は極めて短期間に限定されまして,その後アーカイブしたものは有料で提供なされているということがございます。我々,ぺリオデッククローラーを最適化いたしますと,開示期間が短いものに関しても全部捕捉することができますので,後から見ると有料になっているものも,その時点においてはただで全部とってしまっているというものもあり,この辺がややグレーな部分ではないかなと思っております。
そういうことでご回答になっておりますでしょうか。

【中山主査】 よろしいでしょうか。
ほかに何かご質問等ございましたら。
最後にお話になった,これをシームレスでビジネスにつなげてほしいということは,具体的に言うとどういうことになるのでしょうか。

【喜連川氏】 具体的にと言いますと,山のようにそういう事例は出てまいります。今日の最初のページには書いておりませんが,私,経済産業省の情報大航海プロジェクトの取りまとめのお世話もさせていただいているのでございますけれども,日本の中では一時固定さえ許されていないという現状の中で,サーチエンジンの研究は極めて大きく阻害されておりまして,グレーな段階では大きな企業はそれに対してビジネスをしようという気力が全く起きていないということがございます。
それから,どこまでをやっていいのかというのが分からない。つまり,ブログの破片を集めて一つのコンテンツとしてレポートするというのは,極めてニーズの高い領域でございますけれども,そういうものは著作権に抵触する可能性があるということは,大きな心理的な障害になっておりまして,ケース・バイ・ケースで,この場合,この場合と,今回幾つかを並べようと思えばそういうことをまとめることもできたわけですけれども,西海岸をご覧いただくと分かりますように,山のようなビジネスが学生の新しいアイデアの中で出てきて,そこはやや緩やかなフェアユースという考え方の中で,国民に実際に資するものというのはおおらかに見ようというような流れがあろうかと思います。
我が国では制限規定の中で個別法としてとらえられているものですので,ビジネスが動くという面で言いますと,非常にタイムディレイが大きいわけでございます。そういう意味で,日本がGDP世界20位に下がってしまったというところをもう少し力強くするためには,やや緩やかで機動的な法制度枠をご配慮いただけるとありがたいなと感じている次第でございます。

【中山主査】 ありがとうございました。
ほかによろしいでしょうか。
それでは,喜連川様に対するご質問はこのくらいにいたしまして,続きまして,独立行政法人国立国語研究所研究開発部言語資源グループの前川グループ長にお願いいたします。

【前川氏】 前川でございます。私どもの資料といたしましては,小さな紺色の『KOTONOHA』というパンフレットと,A4,1枚のハンドアウトを用意いたしました。以下,ハンドアウトに沿って話をさせていただきます。
私の話のキーワードといたしましては「コーパス」という言葉になろうかと思います。最近,皆様,「コーパス」という言葉を耳にされることがあるのではないかと思います。コーパスと申しますのは,最初に書いてありますように,英語で言いますと「ボディ」に当たる言葉,何かの集まり,塊というような意味なのですが,実際には言葉の研究,あるいは研究開発のために,電子的に集積された大量のテキストというものでございます。
そういったものがなぜ必要になるか,誰が使うのかということでございますが,そこにまとめてありますように,私のような言語学とか国語学という言葉の研究の人間ももちろん使いますけれども,そのほかに工学よりの自然言語処理とか音声の研究といったところでも,1980年辺りから広く使われるようになってまいりました。我が国ではむしろそういう工学的な利用の方が先行してということかと思います。
これはその時代背景がございます。要するに,このころからコンピュータの能力の発展によって,人間が言葉のルールみたいなものを考えなくても,統計的な機械学習によって計算機がある程度現象を理解してしまう,機械的に学習してしまうという技術が実用レベルになってきた。パターン認識の技術ですけれども,そういったものを利用して言語もある程度処理できるようになってきて,それが現在我々の身の回りでいろいろな形で実用化に達しつつあると。まだ性能的に十分ではないでしょうけれども,身の回りにそういうものが出回り始めた。そういう流れが言語の研究などにも及びつつある,そういう時代の流れの中での話であります。
実際にそれがどういうふうに使われているかということをその次にまとめておきました。実際には,例えば音声の自動認識とか,機械翻訳,あるいは,その2つを組み合わせた音声の自動翻訳といった工学的なアプリケーションが一つあります。そういうところでコーパスはどういうふうに使われていたかと言いますと,言葉のつながりの確率を決めるとか,音のつながりの確率を決めるとか,そういう言語モデルとか,そういう言語モデルとか音響モデルと言われるようなものを計算するために主に使われております。
したがいまして,その内容は全く関係ないのですね。いったん大量のデータからそういったものを計算してマトリックスを作ってしまえば,データ自体はいわば使い捨てになります。そういう意味では学習結果だけが重要だということになるかと思います。そういった場合に,著作権上でそこを保護する必要があるのかどうかということは考えるべきことであろうかと思います。
以上は工学的な面での利用でございます。続きまして,いわゆる文科系的な言語研究では,どういう目的で利用されるかと申しますと,主に学習者用の辞書で使うとか,日本語を母語としない外国人のために種々の用例,日本人なら分かるんだけれども,外国語として勉強していると難しいということがいっぱいございますので,そういった学習者用の辞書の開発とか,文法書の編纂,あるいは,日本語の研究として,この言葉はどういうコンテクストで,どういうふうに用いられるのか,ある動詞がどういう名詞とよくあらわれるんだとか。先ほどの喜連川先生のお話の中にもそういった実例がございましたが,そういったものが現在,言語研究でもコンピュータの普及とともに実際にそういう研究が行われるようになってきているということでございます。
それからまた,そういったものを組織的に保管しておくことは,将来に向けて文化財を構築していくことにもなるかと思います。すなわち,現在の日本語が正確に適切な情報とともに保存されているということは,これから50年100年,あるいは,何百年たってくると大変な価値を発揮いたします。例えば,平安時代の日本人が話していた日本語が録音されていたというようなことを考えると,その価値は容易に理解していただけるかと思います。そういう言語研究におきましてはデータを共有する,そのためにデータを公開する,誰でも使えるようにするということが非常に重要でございます。この場合,先ほどの工学的な利用とはやや異なりまして,データそのものを読めるようにいたしますので,その意味では先ほどの工学的な利用に比べればやや著作権上の配慮が必要であろうかと考えます。
4番目以降は,文科系的な研究におけるコーパスをどのように作るか,あるいは,そのためにどのような著作権処理をしているかという話をさせていただきます。まず,どのように作るかですが,現在,大きく分けて2つ技術があると思います。1つは,先ほどの喜連川先生のお話の中にもありましたけれども,クローリング技術を利用して自動的に作ってしまうという形です。これは,速い,容易である,大量のもの,あるいは,多言語のものを,比較的短時間で作り上げることができるというような特徴がございます。
ただ,そこに入っているテキストがどういうテキストなのかという,書誌情報のようなものは必ずしも得られない。それから,場合によっては,インターネット上にあるテキストは言語としては偏りがあるというような問題がございます。したがいまして,文科系的な観点からいたしますと,インターネット上にないテキストですね,本とか雑誌として世の中に出回っているものも含めたコーパスを作りたいということで,今日持参いたしました『KOTONOHA』というコーパスを作っているところでございます。
このパンフレットの4ページをお開きいただきたいと思います。この『KOTONOHA』というコーパスは,4ページの下の方の図にかいてございますように,一定の時間を区切っておりますが,2001年から2005年の間に出版された全ての書籍,雑誌,新聞を母集団といたしまして,そこからランダムにサンプルをとってきて,その時代の日本語が,この『KOTONOHA』を調べればその母集団の性格を知ることができるという形の設計でございます。もちろん全体が使えればそこに越したことはないんですが,このような手づくりの方法で行う以上それは不可能ですので,サンプルをとるという形を行っております。
そして,公開を目指しておりますので,著作権処理を実際に行っております。今まではランダムに選ばれたサンプルに対して著作権処理を実際に行うという,ある意味ばかげたことは,どなたも行ったことがないと思います。その意味で今日報告させていただこうと思います。それが5番でございます。
この『KOTONOHA』において処理を要するサンプルというのは,書籍の部分だけを取り上げまして,全体で約3万件ございます。このプロジェクトを開始してから,過去19カ月の間にその約半分の1万5,600サンプルをとりまして,それの処理に着手いたしました。体制といたしましては,そこに書きましたように,専任の研究員が2名,補助員が3名,その他アルバイト数名という体制で仕事を行ってきております。その1万5,600件のうち,現在までに連絡先が判明したもの,要するに,「お願いします」という依頼状を送ることができたものが9,324件です。
その9,324件に関しまして,どういう反応があったかということが下にまとめてございます。5,554件は無償で使ってよろしいという許諾をいただけました。それから,駄目だというのが372件,それから,エージェント金銭要求(翻訳)というのは,海外の翻訳本の場合,原著者にも著作権がございますので,そこに連絡をとろうとすると,翻訳エージェントが介在しておりまして,連絡をとりたければ我々を介してください,1件5万円いただきますという形になるわけです。これはとてもできませんので,その結果,実際上コンタクトできない,そういうものが624件。あと,回答待ちの状態のものが2,774件ということで,その次に書いてございますように,権利者ご本人の意思によって駄目だというものは4%に満たないぐらいの率でございます。あるいは,先ほどのエージェントのものを入れても,全体の9割近くは無償で利用していいというような回答をいただいています。これは私どもが当初予定しておりましたよりも,はるかに好意的な回答をいただいております。
ただ,問題は,全体の6割にしかコンタクトができない,残りの4割に関しては種々の理由で,権利者がどこにおられるのか,あるいは,誰が権利者なのかということが分からないという状態でございます。出版社等への問い合わせも行っているんですが,なおかつ分からないということでございます。あるいは,教えていただけないということでございます。
以上をまとめますと,2つのことを申し上げました。1つは,情報処理領域での利用ですが,これに関しましては,実際上の著作権侵害は生じませんので,これに関しては原則として自由な利用を認めていただきたいというのが私の希望でございます。
2番目に,内容の公開を前提とした言語研究用のコーパスの場合,著作権処理は必要であろうと思いますが,今申し上げましたように,本人の意思による拒否率は非常に低い。そういったことを考えますと,現在の手続は余りに敷居が高いのではないかというのが私の考えでございます。特に,有限の時間内に安いコストで処理が終了するような方式をぜひ実現したいと。逆に申しますと,一定の手順を経ていろいろなことをやっても連絡不能な場合の著作物は自動的に利用できるというような体制が可能になれば,私どもにとっては幸いであるということでございます。
以上でございます。

【中山主査】 ありがとうございました。
それでは,質問は後にいたしまして,続きまして,NHK放送技術研究所企画総務部,菅並企画部長からよろしくお願いいたします。

【菅並氏】 菅並でございます。冒頭,私どもの研究所の紹介をさせていただきたいと思います。私どもの研究所は,1930年,今から78年前に設立されまして,放送技術に関する基礎から応用まで幅広い分野をカバーする研究を行っているところであります。3年後の7月24日に地上放送は全てデジタル化になりますが,そのデジタル放送に使われているハイビジョン技術とか,デジタル放送を家庭でご覧いただいているPDP,こういったものについて私どもの研究で開発した成果が利用されているということでございます。
そういった新しいメディア開発と同時に,私どもは放送局の研究所でございますので,番組制作関係の技術開発もやっております。よりよい番組をこれから提供していくということについては,最先端技術を使って,それを番組手法の中に取り入れていくということで,その中に我々の放送番組を研究の対象にしているという事例がございます。本日はそういったケースについて,この資料を基に幾つかご紹介したいということでございます。 まず,資料の1ページですけれども,実際の番組を使って研究しているという例を幾つかにカテゴライズしました。1つは,番組制作の自動化技術を開発するためにコンテンツを使っているというケースでございます。番組を制作すると言いましても,そこにはいろいろな人が介在する。PDとか私どものような技術,それから,大道具さん,小道具さん,あるいは,デザイナー,照明さんといったいろいろな人たちがかかわってくる,人手のかかる作業でございます。そういった部分をコンピュータを使って効率的に行えないかと。単に機械的な置き換えだけではなくて,それによって人より迅速にあるいは正確に行うことができるようなシステムにすることが目的でございます。具体的に申しますと,音声認識を使った自動字幕制作装置とか,後ほどご紹介しますけれども,メタデータの制作,こういったところがこのカテゴリーに入るのかなと思います。
2つ目としては,番組の演出効果のために実際の番組の映像処理技術を開発するということでございます。情報番組等をご覧になると,実写と背景のCGの合成がよく行われておりますが,実際の映像の中から特定の対象,オブジェクトと申しておりますけれども,これを抽出する技術を開発するには,実際の番組を使ってそういったことをやっていくことが必要になってきます。具体的に言いますと,野球のボールの投球軌跡を抽出して表示するといったような技術の開発がこれに相当します。
3つ目が番組の視聴の分析ということです。前の2つが短いところでの実用化を目指しているのに対して,どちらかというとロングスパン,基礎研究の分野に相当します。例えば,視聴者が番組のどの部分に注目して見ているのかというようなことを分析することによって,その番組の評価が行えないかという研究で,一例として視聴者の視線を解析することによって,どこに興味の対象があるかというようなことを研究しているということでございます。
2ページ目以降で具体的な事例を紹介していきたいと思います。最初に申し上げた番組制作を自動化するための技術ということで,1つ目に音声認識による自動字幕制作システムというものを取り上げました。ニュース等の番組において聴覚障害者のために字幕を付与しているのですけれども,これを音声認識を使って自動的に機械的に表示するシステムでございます。私どもの研究しているシステムの特徴は,特にニュースなどの生番組にリアルタイムに字幕を付与できるということにあります。
ここにその仕組みを図にしております。ニュース番組のアナウンサーの音声を認識する,その認識する過程で,過去の原稿のデータベースあるいはアナウンサーの声のデータベースから,認識した部分に対して幾つかの候補が出現します。その候補と実際の音声分析をした結果との距離を計算して,一番確率の高いものを結果として決定して,それを表示していくというシステムでございます。原稿のデータベースあるいは声のデータベースが充実していくほど,認識結果も向上していくというシステムでございます。
それから,2つ目の例として高品質な音声合成ということであります。音声合成も幾つか手法がございますけれども,私どもで研究しているのはいわゆる録音合成といったタイプのものです。実際に生の声を録音したものを,そのテキストに合わせて組み合わせて編集して発声させるというものですけれども,特に放送用途だと高品質性が要求されます。ということで,データベースもなるべくたくさん大きなものを用意して,その中から,例えばこれの例で言いますと,「茨城から美都がお伝えします」というところですが,音素単位で過去のデータベースがあるんですけれども,それをつないでみて,前後の関係等も加えて一番自然に聞こえるような組み合わせで音声として発声するということです。そういったところに我々のやり方の特徴があるということでございます。
4ページ目の例はメタデータの制作ということでございます。メタデータというのはどういうものかと申しますと,実際の番組にその番組を補完するような情報を記述して付与するデータでございます。例えば,その番組の収録された日とか,その番組のジャンル,あるいは,番組の権利関係がどうなっているか,そういった情報を付与しているわけです。近年,このメタデータを番組単位ではなくてシーン単位で付与することが,メタデータの活用上非常に有効だということが言われております。
具体的には,シーン単位に付与できれば,例えばニュースのハイライトシーンだけを抽出して見られるとか,あるいは,ここに「マルチメディア百科事典」と書いてありますけれども,ある特定の課題,例えば動物百科事典を作ろうと思えば,ライオンならライオンといったものを過去のアーカイブスの中から拾ってくると,そのビデオクリップとテキストを編集すれば動物百科事典ができるといった用途があるということで,シーンごとにメタデータを付与することの有効性が言われています。
ただ,これを人手を介して付与するということは大変な労働になります。実際の番組をリプレイして,そのシーンごとにチェックして,そこにいろいろな情報を打ち込んでいくという,大変時間のかかる作業になります。ここを自動化できれば,大量なアーカイブスにもメタデータを自動的に,人手を介さずに付与できるということで,利用価値のある技術でございます。ただ,これは簡単ではありません。人間は目で見て,過去のいろいろな経験から,ここはこういうシーンだというふうに判断しますけれども,これを機械にやらせることになると,そう簡単ではありません。
5ページはあくまで一例,イメージでして,実際にこのようにできていますという話ではないんですけれども,サッカーのシーンです。これに生でメタデータを付与するということになった場合に,どういったシステムでやっていけるかということを説明した図であります。一番上が放送映像でして,その中からサッカーのシュートシーンを抽出して,ここがシュートシーンですよというメタデータを自動付与したいという場合です。この放送映像だけでシュートシーンを検出するのは,それだけでは信頼性等についてまだまだ難しいと。その下に,放送用映像のほかに,検出用映像ということで,グラウンドをずっと引いて全体が映るようにする検出用カメラを置いて,全体の人間の移動等について検出します。
それから,音声も使う。会場の音を抽出して,観客が盛り上がっている部分,ここでいうと音声波形を分析して,その振幅が大きい部分ですけれども,ここでは何かイベントが起きているということで,そういうところを使ってマークする。さらに,そのイベントが起きた近辺の音声,アナウンサーの解説を音声認識すると,そこで例えばシュートとか,シュートした選手が山田選手であるというようなキーワードを抽出することができます。
こういうことで,映像,音声,あるいはテキストの組み合わせでその部分がシュートしたシーンであるということをある程度特定して,そこに付与していくといったやり方になるであろうということでございます。
それから,6ページに移りまして,今度は番組の演出効果のための映像処理技術の一例です。ここに挙げましたのは,サッカーの敵味方のフォーメーションを分析して,オフサイドラインをオンエア中の画面に自動表示しようというものの研究でございます。この場合は,選手のユニフォームの色,敵味方,青と赤に分かれているということで,この中から動くものとその色を検出して,ディフェンス側の選手の最終ラインを検出し,そこからオフェンス側の選手がそこを越えてきた時点で,例えばオフサイトだというふうに判定すると,そういう演出上の効果に利用できる技術も開発しております。
それから,最後の例として番組そのものを分析するための技術ということで,7ページ目に挙げたのは,小学生26人に「子どもニュース」という番組を見てもらい,その小学生の視線を計測して,画面上のどこに注意が向いているかというのを時間を追って記録していき,それでもって番組の視線をトレースしていく。例えばこの瞬間ですと,女性の司会者と男性の司会者の顔の部分にピークができているということで,このシーンについてはその部分に子どもたちが集中していると。
その視線と実際に意識の集中との一致度を測ったものが右側のグラフです。どういう実験をしたかというと,多くの小学生がそこにピークが出ている,あるいは,そのピークにバラツキが出ているというような,それぞれのシーンについてそこに関係した質問をします。例えば,「このシーンのときに女性アナウンサーは何と言っていたでしょうか」みたいなことを質問すると,視線が集中していたところほどアンケートの正答率がいいというのが,このグラフから読み取れるということで,そういった視線と意識の相関性を研究しているという例でございます。
以上,私どもの放送番組を使った代表的な研究例をご紹介させていただきました。私どもは映像・音声にかかわる研究を幅広くやっておりますけれども,分野によっては実際の放送番組を使わなくても,通常の映像・音声でいいという場合もあります。例えば,映像信号の符号化,圧縮の研究などについては,標準画像というものがあって,その符号化にとって苦手な映像が標準画像として提供されていて,それを使って研究開発を進めていくということもございます。
特に実際の放送番組を使う必要があるというケースについては,先ほども申し上げましたように,放送局のワークフローも含めた自動化あるいは高度化といったものに対して,技術的に寄与していくというところにおいて,実際の番組を使ってやらなければならないということでございます。例えば,その技術が汎用的に使われる技術であるというところを目指さないのであれば,今の技術はデータベースが勝負といったところもございます。放送局の番組のこういう部分についてこういうふうなことができればいいという限られた条件下であれば,データベースを充実させていくことでかなりの実用性が生れてくるということで,今後もこういったタイプの研究が増えていくのではないかと思っております。
私からは以上です。

【中山主査】 ありがとうございます。
引き続きまして,NHK放送文化研究所計画総務部,四方計画担当部長からよろしくお願いいたします。

【四方氏】 四方でございます。今,技研からありましたけれども,NHKに2つの研究所がありまして,技研は調査・研究開発,私どもは研究・調査ということで大分性格が違います。今お話がありましたけれども,技研については基本的にNHKの番組映像で処理できるようなことが多かったかと思いますが,調査・研究となりますと,そうはいかないということで,特に今から申し上げるお話は,「放送番組」と私は言いますけれども,ウェブ動画配信の時代ですから,それは「映像コンテンツ」と読み替えてお聞きいただければと思います。
私どもの研究所は,アカデミズムとジャーナリズム両方を兼ね備えているということで,特異な研究所でございます。お手元のレジュメに沿ってお話をしていきますと,こちらはアカデミズムではなく,コンテンツホルダーとしてNHKの立場を簡単に書いておきました。基本的に放送は放送番組以外には使用しないという大原則がありますので,視聴者から「あの番組をコピーしてもらえないか」という依頼はものすごく多いですが,全て断らざるを得ないと。当然のことながら,教育目的であれ研究目的であれ駄目というのが大原則です。12月にNHKオンデマンドというのが始まりますが,ごく一部の番組,膨大に放送されている番組の中のごく一部,つまり権利が完璧にクリアされたものだけは可能になるということです。例えばBBCがほとんどの番組をアイプレイヤーで,国内ではネットで見られる。そういったものとは全然レベルが違うと思っていただいた方がいいと思います。
それから,我々は民放の番組あるいは映画を研究のためにお借りしたいということもございますが,これは一筋縄ではいきません。逆に,民放連の研究所がNHKの番組を求めてきた場合でも同じです。「駄目です」と言わざるを得ない,これが現状です。ただ,ごく一部であれば例えば秒単位2,000円とか3,000円で購入することは可能です。ただし,権利がクリアになったものという条件の下です。つまり,そういった膨大なコストがかかってくるということは,研究にとってはものすごい制約であるというのが現状で,そのことをとりあえず踏まえておいていただきたいなと思っております。
では,実際に一般の研究・調査でどうやって映像を入手しているかということでありますが,国内での視聴方法としてとりあえずこちらに3つ書いておきました。NHKのアーカイブスというのは,12月からのNHKオンデマンドでもネット公開されますけれども,こちらへ行って見るか,あるいは,NHKの各放送局へ行ってライブラリーを見る,あるいは,放送番組センターというのが横浜にありまして,そちらで1万本程度は見ることができる。それから,川崎市民ミュージアムでは「地方の時代映像祭」絡みのものは見ることができる。この程度です。つまり非常にプアです。例えば,いついつのあのドキュメンタリーを見たいという場合,まず見ることは不可能と思っていただいた方がいいと思います。
ただ,我々はNHKの企業内の研究所ですので,前にも書いていますけれども,放送文化の発展に寄与する調査・研究ということで,NHKの番組の利用に関しては権利者団体との了解事項で,NHKの番組のみは我々はほぼ自由に使うことができる。NHKのものだけですけれども,その点で我々は非常に恵まれていると思います。ところが,問題なのは学術研究者の方々ですね。情報通信学会とかマスコミ学会の方々は,我々もそういったところに入っておりますので,いろいろ話を聞きますが,そういった方々の研究の制約たるやものすごいものがあります。
以前にマスコミ学会の理論研究部会というところで検討会をやりましたけれども,「本当に文研さんはうらやましい」と。それでは皆さんはどういうふうにしているかというと,先ほど喜連川さんから「全てのニュース情報を蓄積されている」というお話がありましたように,教育目的であれば合法なのでしょうけれども,研究目的ということになると,私は専門ではないので分かりませんが,違法になるのかもしれません。今,サーバーなども充実していますので,6局の番組を全て24時間録画することは可能ですけれども,それを研究目的で使うのはちょっとまずいのかなというようなこともございます。ただ,実際にはそうせざるを得ない。つまり,研究のため,フェアユースと言っていいか分かりませんけれども,そういった目的のために違法的な行為をやらざるを得ないというのが日本のマスコミ関係の研究の実態と思っていただいていいのかなという気がします。
翻りまして,海外を考えますと,フランスにINAというところがございます。ご存じの方もあるかもしれません。こちらはフランス国内の放送番組に関しては全て拠出を義務化,法定納入ということを1995年からやっておりまして,その全てをデジタルアーカイブ化しております。最新情報では,テレビで183万時間分のアーカイブができているそうです。先ほど横浜の放送番組センターは1万本と言いましたけれども,桁違いですね。本数と時間で若干のあれはありますけれども,比べてみると全く問題外となるような施設ができていると。
基本的に研究目的であれば全ての視聴が可能と。つまり,権利関係の制約を受けないということで,フランスのメディア研究者は年間200本の博士論文をINAのデータによって出しているという状況があると承っております。しかも,研究目的であれば,放送日時,キーワード,ジャンル,テーマ,そういったものから横断的な検索ができるメタデータも充実している。これは番組ごとと,先ほど技研からもありましたけれども,カットごとのデータも充実している状況にあります。こういった話を聞くにつけ日本の研究の状況は本当にお寒い限りといわざるを得ないというところです。
フランス以外でも,例えば先ほどちょっと紹介しましたBBCのアイプレイヤーは今年から本格稼働していますけれども,例えば国際的なスポーツの試合はちょっと難しいものがありますが,ほとんどの番組のウェブ公開が既になされている。それから,アメリカでは4大ネットワークは動画配信のウェブサイトを3~4年前から充実させてきているということもありまして,いわゆる見逃しサービス的なことがほとんどの番組ができるようになっているという状況の中で,ご存じのように日本では動画配信がまだほとんどできていないというのが今の状況ということになります。
駆け足でお話してまいりましたけれども,文研は,今言いましたように非常に恵まれてはいるのですが,それでもNHKの番組だけで研究が成立するわけではない。放送が何をどういうふうに描いてきたのかを研究する場合に,NHKの番組で事足りるわけではありません。そういったときに,民放の千九百何年のこの辺りでどんな報道がなされていたかを研究するというようなことをやろうとしても,文研でもできないし,大学の研究室でも基本的にはほぼ不可能というような状況にあるというのが現実だということを申し上げたいと思います。
最後に,まとめといたしまして,ここに概略を書いておきましたけれども,特に日本では放送番組というのは権利関係が非常に複雑に入り組んでいます。ですから,放送番組の考察や分析が大きな制約を受けていて,学術研究のみならず,番組批評とかジャーナリズムの歴史の研究に対しても,大きな阻害要因になっているという現実がございます。
私は放送現場でずっと番組を作ってまいりましたけれども,放送が文化として認知されることがほとんどなかったというのが私の印象でして,文芸とか美術,音楽といったものが健全な批評空間によって文化的に成熟してきたというような歴史を見るにつけ,放送がなぜそうならなかったのか。もちろん文化的レベルが低いと言われてしまえばそれまでなのですけれども,それだけではないだろうなと。批評空間というものがなかった。なぜなかったか。もちろんVTR技術がかつてはなかったということが大きいですけれども,その後に関してもそういったものがついぞ生れてこなかったというのが放送の世界だったのではないかなと思います。
テレビ局としては,営利目的ではない研究利用については権利が侵害されるということはないと思いますし,そのためにコピーを提供することは,コンテンツホルダーとしてのNHKとしてもそう問題はないのではないかなと思いますし,研究者としてのNHKとしてもそういったことができると,非常にありがたいなというのが今の我々の思いです。かといって,各局がそういったものを個別に判断するという態勢を整えるのは現実的には不可能ということから考えますと,先ほどのフランスのINAのような事例を参考にしつつ,学術研究とか教育分野での放送番組の利用がより円滑にできるようになれば,先ほど言いましたように,批評空間としても全く違うものになっていくだろうし,ましてや研究の分野では非常に発展していくのではないかなと思います。
つけ加えますと,番組制作者というのは,より広く見てもらってより多くの人に訴えたいという本能を持っています。仮に自分の番組がユーチューブにアップされたら,NHKとしては公式的には削除を求めますけれども,制作者としては個人的に非常にうれしい,これが我々の正直な思いでもあります。こういったことは公式のこういう場で言うべきではないかもしれませんけれども,広く見ていただいて,広く論議していただいて,広く研究していただくということができると非常にありがたいという思いを持っております。
以上でございます。

【中山主査】 ありがとうございました。
続きまして,社団法人電子情報技術産業協会著作権専門委員会委員,太佐様と西郷様にお願いしたいと思います。
なお,社団法人電子情報技術産業協会様につきましては次の課題のリバース・エンジニアリングにつきましても,ご発表をお願いしておりますので,この場で併せてご発表いただければと思います。
よろしくお願いいたします。

【太佐氏】 どうもありがとうございました。太佐でございます。こちらで用意させていただきました資料はA4で2枚ございますけれども,2枚目の方は,先の「知的財産推進計画2007」の見直しに関するパブリックコメントの募集への意見書でして,参考程度ということで,実質的には1枚目の資料だけで説明をさせていただきたいと思っております。
まず,JEITAという団体は,主に家電製品やIT関連機器のメーカーの団体でございまして,一般的には著作物の利用者ということで見られることが多いかとは存じますけれども,実際には,とりわけプログラムの領域においては権利者という側面もあります。そこで総論として我々の立ち位置を説明させていただきますと,利用者であるとともに権利者でもあるという立場から,保護と利用の両方のバランスのとれたアプローチを基本的には権利制限規定に対しては臨むというのが基本的なスタンスでございます。
今回ヒアリングの対象になっているのは,2件とも個別の権利制限規定ということですので,法的安定性を目指すというのが最大のメリットでございます。極力明確な目的と言いますか,要件の規定が必要になってくるだろうと思っておりますけれども,過去の経緯を踏まえますと,全てを網羅するのは難しいということも十分に認識しております。したがって,ある一定のすくい切れない部分をカバーするような,一般条項も同時に考えていく必要がある分野ではないかと考えております。
資料の総論部分で 例1),例2)と書いておりますけれども,例1)は,一般的にはいわゆるフェアユースと言われているような,広い権利制限の話でございます。例2)というのは,便宜上,我々としてこういった表現を用いておりますけれども,特定の意味を具体的に持つというよりは,ある程度の目的を修飾句としてかけることで,小さな一般条項のようなものを用意するというアプローチもありえるということであり,これらが総論的なところのJEITAのスタンスでございます。
では,個別の中身に入らせていただきます。冒頭ご紹介がありましたとおり,JEITAについては,本日のテーマ2点双方についてのヒアリングということで要請がきておりますので,1枚の資料で両方説明させていただくという形をとらせていただいております。2つのトピックは,一部において重複するといいますか,関連する部分もございますので,そういう意味でもその方がよろしいのではないかと思います。
まず,研究・開発における情報利用の円滑化という1つ目のトピックについての意見でございます。これについては,後ほど具体例を説明いたしますけれども,試験,研究の過程において必然的に生じ,権利者の利益を害しない一定の利用行為は許容されるべきということでございます。特に,ということで,「著作物しての享受を目的としない利用行為」というものを例として挙げさせていただいております。
具体例をご説明する方が理解しやすいかと思いますので,そちらの方に触れます。1つ目の例ですが,新たな技術・機器の研究・開発の過程で,その機器の機能・性能を評価・検証するということがございます。その過程で著作物の複製・上映が必要になるというケースがあると,これは明文上権利制限にかからない部分ですので,なかなか難しい問題があるということです。例えばDVDレコーダーのような製品を研究・開発している中で,実際に録画したものが設計どおり動くかどうか,見られるかどうかといったものを評価する場合,NHKの方がいらっしゃるので恐縮なのですけれども,NHKのテレビ放送を録画してみて,それがきれいに映るかを確認するために,不特定の開発者の前で上映するということが想定される場面でございます。
これも現行法上は明確には白という行為にならないということで,実際の現場では評価用の映像サンプルを用いたり,個別の許諾を得るという形で対応していると聞いております。そうはいっても限界がございますし,今後,地デジ対応等で各種の製品の開発が急ピッチに行われるということもございますので,こういった部分については権利制限によって一定の利用行為を認めていただきたいということでございます。
2つ目の具体例は,既にご発表のあった学術研究の目的での利用と近いエリアと思いますけれども,情報処理技術の研究・開発のために著作物を分析する過程で必要となる複製・翻案ということでございます。例えば,翻訳ソフトを開発するにあたっては,翻訳の精度を上げる過程で幾つかトレーニングに使うデータ,文章などが必要になってくるわけですけれども,そういったものとして,一般にはウェブ上で使えるものを探す,個別にライセンスをとる等していろいろな文章をいただくわけですが,そういった文章を自由に複製して翻案する。とりわけインターネット上のデジタル化されたテキストを使えると非常にありがたいということですね。
こういったところが研究・開発という文脈で我々の考える要望でございます。また,どういう規定ぶりにするかはさておきまして,この目的で複製等された著作物については,それ以外の目的で使われないようにする歯止めが,権利者等との関係で必要になってくるだろうということで,現行法49条,「目的外使用等の禁止」というタイトルだったと思いますが,のような目的外での利用を禁じるといった手当も必要になってこようかと思います。
続きまして,2点目のリバース・エンジニアリングに関する法的課題というトピックに移らせていただきます。
これについては過去にもいろいろ議論がありましたし,細かいところを詰めていきますと,各社若干スタンスが異なるというところもございまして,なかなか難しいトピックであるかと思います。JEITAといたしましては,リバース・エンジニアリングは一切駄目とか,逆に制限なく自由に認めるべきだという,両極のスタンスではなくて,一定レベルのリバース・エンジニアリングは許容されるべきではないかということを意見として述べさせていただきます。特にリバース・エンジニアリングの対象となる著作物としてはプログラムということになりますけれども,絵画などに比べますと,ぱっと見た瞬間にその表現とか,それによってあらわされる思想といったものを感得できない性質のものですので,ある程度はいた仕方がないのではないかというところでございます。
具体例として2つ挙げております。1つ目は,いわゆる相互運用性(インターオペラビリティ)の確保・達成のために必要な複製・翻案については認めるべきではないかということでございます。ご承知のとおり欧州のディレクティブや,米国の裁判例,立法例などで既に認められている領域でございます。欧米においては認められて実際にできる行為が,日本においてはできないという不均衡が現実として存在するわけでございます。これがないがために非常に困っているという問題というよりも,これがあることにより開発についてのインセンティブがより働くという部分での効果がある権利制限規定ではないかと思います。
2点目は,プログラムの性能,バグ等の障害の調査・分析に必要な限度の複製・翻案ということでございます。これについて,プログラムの特にバグの障害の調査・分析という段階で,ここではそれより先の行為までは言及しておりませんけれども,少なくともその問題を特定するという文脈においては,一定のリバース・エンジニアリング行為は認められるべきではないかということでございます。この辺りは,後ほどIPA様がもう少し踏み込んだ議論をされるであろうと思いますけれども,JEITAとしては一定限度での複製・翻案を何らかの形で吸収するようなものが必要ではないかと考えております。
1点目のインターオペラビリティに関しては,実際の立法例もございますけれども,この目的のための権利制限に関する条文において,例えばEUディレクティブでは英文にして何ワードだったか忘れましたけれども,それなりの条件を重ねないとこの目的制限は達成できないというのが現状でございますので,立法技術としてこれをどう規定するのかというのは難しいところだろうと思います。したがって,明確性をもって目的を規定できるレベルまでは個別規定で対応する一方で,一般条項による個別判断を許容するというアプローチも必要になってくるのではないかと考えております。
これに関連して,1点目の研究・開発の文脈での権利制限というところで,研究・開発では著作物を文章とか映像に限っているわけではないと理解しておりますので,プログラムも同じ対象になってくるのであろうと思います。ですので,研究・開発に関する権利制限の定め方によっては,リバース・エンジニアリング的な行為を許容するという部分も出てくるだろうということで,規定を作るに当たっては両者のバランスを見る必要があると思われます。
JEITAからは以上でございます。

【中山主査】 ありがとうございました。
それでは,ただいまの4団体のご発表についてご質問を頂戴したいと思います。なお,ただいまのJEITAのご発表のリバース・エンジニアリングの部分につきましては,まとめて後で質疑応答の時間を設けたいと思いますので,とりあえずここでは研究開発の関連に限ってのご質問をお願いしたいと思います。
何かご質問等ございましたら,お願いいたします。どうぞ,松田委員。

【松田委員】 発表の中には,研究目的,研究のための著作物の利用ということでありますが,言葉を見てみますと,研究目的という大きな概念がありますけれども,「学術研究」という言葉も使われておりますし,プログラムなどでは「研究開発」という言葉も使われています。学術研究というのは一定の学術目的を有する団体が研究をする場合,研究開発というのは新しい製品等を開発する一般私企業が技術的な研究をする場合と,あえて言葉の意味を考えてみるとそういう幅があるのではないかなと思うのであります。
少なくとも研究のための制限規定を何か考えようかなというふうにここの段階で議論をしたときには,リバース・エンジニアリングとはちょっと違う範疇のもの,すなわちどちらかというと教育や学術の研究のための著作物の利用を考えていたと思います。そうではなくて,もっと広げなければいけないのだと,企業活動が活性化するために技術を開発するための研究開発も広げなければいけないのだという意図が,特にJEITAさんの今のご説明ではあるように思うのですが,その辺のご意見はいかがでしょうか。

【中山主査】 それでは,太佐さん。

【太佐氏】 これについては,研究・開発の場合の具体例の2点目の行為を見ていただきますと,単語の出現順位や仕掛かりを分析するためにといったものは,例えば大学の方がやられる行為と企業がやる行為,行為だけを見るとほぼ同じようなことをやっているんだろうと思います。ただ,ご指摘のとおり,企業活動においては,研究があり,開発があり,製造があり,販売があるという,一連の企業活動の中での前段階としての研究開発ということですので,一私企業として,研究開発のための権利制限というと,実際のビジネスにつなげるというところはいかんともしがたいことであると思います。
その一方で,プログラムの文脈では,権利者としての立場もございますので,なかなか明確なポジションをとりにくいというところが現状としてはあるというのが正直なところでございます。ご指摘のとおり,我々がこのペーパーを作るに当たって,2の最初に「研究・開発等」と「等」を入れているのですけれども,何をここでいう「研究」とみるのか,「開発」とみるのか,条文に落とすときにはその辺りの範囲を明確にしていく必要はあろうかと思います。
すみません,回答にはなっていないかもしれませんけれども。

【松田委員】 分かりました。私も私企業が新しい技術を開発するための研究を著作権法が邪魔してはいけないのだと思ってはいるのです。しかし,どこかで線が引けるかというところも慎重に考えなければいけない。私企業の研究開発がいいということになると,リバース・エンジニアリングなんて考える必要はなくなるのですよね。一般的に新しい技術を開発するために,製品を開発するために,他の著作物を研究できるということになれば,リバース・エンジニアリングの議論はある意味では吹っ飛んでしまうと思うのです。ところが,リバース・エンジニアリングの議論が必要だというのは,学術の研究ではない分野で,製品開発の分野で研究する場合には,一定の歯止めが必要だというところがあるからなのだろうと私は思っているのです。その辺の見定めをしなければならないと思っているのです。

【中山主査】 先ほど松田委員が見える前に東大生産研の喜連川教授から,「大学での研究のためにそれをやっているのだけれども,アメリカの西海岸でも無数に起きているビジネスにシームレスにつなげてほしい」というお話がありましたので,ちょっと。

【松田委員】 時代の要請ですよね。

【中山主査】 ほかに何かございましたら。どうぞ,苗村委員。

【苗村委員】 前川さんのご説明に関して質問をさせていただきたいと思います。後半の『KOTONOHA』の関係なのですが,具体的に権利許諾の要請をしたところ,反応がないものもあるということでご苦労されているということが,大変分かりやすいお話としてありました。資料の最後の要望のところで,「一定の手順を経ても連絡不能な著作物は利用を認めていただきたい」と書いてあるのですが,これは裁定利用ではうまくいかないという趣旨でしょうか。具体的には期間がかかりすぎるということなのか,あるいは,無料にしてほしいということなのか。
それに関連しますが,今日お持ちいただいた『KOTONOHA』に関する印刷物の7ページに,コーパスの一般公開に関して有償のものがあるということが書いてあるわけですけれども,この有償というのは,対象となるコーパスの中に含まれる具体的な日本語の文章などを提供するために料金をとっているのか,あるいは,それは無料なのだけれども,検索のプログラムの部分で料金をとっているのか,その辺りが今回のご要望との関連で重要ではないかと思うので,お答えいただければ幸いです。

【前川氏】 まず,最初の裁定制度の方ですけれども,もちろん利用したくないというわけではないのですが,現実問題といたしまして,過去に三十数回しか用いられていないという事実がございます。三十数年の歴史において三十数回ですので,現実において敷居が高いのかなという印象を受けております。
それから,許諾金と申しましたでしょうか,手数料の問題もございまして,1件がどのぐらいになるのか私には分かりませんが,数万件という規模になってまいりまして,1件に関して数万円ということになりますと,予算的にかなり厳しいということもございます。ですから,裁定制度自体が簡便化されれば喜んで利用させていただきたいと考えております。この中にはレスポンスの速さということも当然必要となってまいります。それが前半のご質問に対する回答でございます。
それから,もう1つは有償利用のことでございます。これはちょっと話がややこしいのですが,現実にこういうお問い合わせをいただくことがございます。「収入は何に使うのですか」と聞かれました場合は,「サーバーの維持費に使います」というふうにお答えしております。これはオンラインでかなり複雑なデータを提供いたしますが,その場合のサーバー及びそれを維持するための人件費というようなものの一部です。実際にはとてもそこまではカバーできないと思いますが,そういったもののカバーにあてたいと思っております。
2つ申しますのは,私どもは独立行政法人としての仕事としてこういうものを行っておりました。実際には文科省の特定領域研究からも補助をいただいておりますが,基本的には独法,歴史をたどりますと,試験研究機関としてのスタンスでそういうことをやっておりまして,ある程度収入を得ろということを強く言われておりますので,こういうことを考えておりましたが,私どもは来年から大学共同利用研究機関に移行することになっておりまして,そうなりますと,そこら辺の要請が変わってくる可能性もあるかなと,そうなってきた場合は全くフリーで出してしまうということも視野の中に入ってくるかなと考えております。
以上でございます。

【中山主査】 ほかに。どうぞ,土肥委員。

【土肥委員】 私も同じく前川さんにお尋ねしたいと思います。今,苗村委員がお尋ねになったことにかかわるのですが,現状の無償オンライン公開というのは,例えばヤフーとかグーグルのような検索サービスと同じように考えていいのか,あるいは,先ほど最後のところで苗村委員に対するお答えの中でおっしゃった,現在有償だけれども,今後無償に変わってくる可能性があるというのは,そういう段階のサービスは検索サービスがやっているのと同じようなことで考えていいのか。つまり,同じようにウェブクローリングをやってデータを集めると,そこは同じような集め方をして,同じようにサービスを考えておられるのかということなのです。

【前川氏】 無償検索の実際の検索画面のイメージに関しましては,パンフレットの11ページをご覧いただきますと,これまで著作権がクリアできた2,500万語程度に関しましては,今お試しいただけるような環境になっておりまして,その画面のイメージが11ページに表示されております。私どものサービスはあくまで言葉を引くためのサービスです。
例えばここですと,「国語」なら「国語」という文字を入れますと,それがどういうふうな文脈の中で使われているかという実際の用例がドサッと出てくると,そういうサービスを提供しているということでございます。これに関しましては,将来的に一番簡単な形でのこういうサービスは無償でずっと提供し続けようと考えております。
それから,有償というのはどういう場合かと言いますと,これは研究者が複雑な条件で,例えばこの単語がこういう品詞で,こういう条件で,こういう語と一緒に前後10文字以内に別のこういう単語が出てきて,その間に修飾関係があるとか,そういう条件を指定して,それだけ引くとか,そういう複雑な検索を行えるような環境を行えるような環境を提供して,それに関しては維持費として有償のフィーをいただこうということを当初は考えていたわけでございます。
それから,クローリングということですけれども,現時点では私どものデータベースでは,クローリングをして,その結果を直ちに提供するということは考えておりません。インターネット上のデータは大量に含まれておりますが,それは全て一部のプロバイダーの協力をいただきまして,そこで著作権法上ある程度問題がないという保証のされたものを,なおかつサンプリングして入れていくという情報でございます。将来的にクローリングが可能になった場合には,そういうことを考えさせていただきたいと考えております。
以上です。

【中山主査】 茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】 今のところについて質問させていただきたいのですけれども,国立国語研究所でコーパスを作られて,そこで日本語の研究をされているというのは,まさに著作物を研究のために利用されているということなのですが,データを公開するということは,それだけからすると,公開されているものをどのように使おうが,それは使う人の自由であり,そうであれば,場合によっては,研究目的とは全く関係ないところで使われることも考えられると思うのですけれども,ここでは公開されるコーパスのデータの利用は,研究目的以外には考えられないということなのでしょうか。
まずこの点をお伺いしたいと思います。

【前川氏】 確かにそういう問題はございますが,無償で公開している部分,先ほどの11ページで絵が出ている部分に関しては文脈を切っております。ある単語に関しては,その前後例えば20文字までというような形で,最低限の文脈だけを提供しておりますので,そういう意味では言葉の用例を知る以外の目的にということは考えにくいのではないかと考えております。ただ,データ全体を提供いたしますと,当然ほかの目的での利用というのが考えられますので,そこのところで研究以外で用いる可能性がないということを担保するのは難しいかなと考えます。

【茶園委員】 今度はNHKさんに質問させていただきたいと思います。先ほどのご報告では放送番組データを公開したいということで,それは,多くの人が見ることができるようにして,それによっていろいろな研究を行ってもらいたいということだと思うのですけれども,過去のものはともかく,これから製作されるものであれば,放送するために権利処理をされるわけですから,その権利処理の際に研究目的のために提供することも含むといった処理をすることで対応することは考えられないのでしょうか。

【四方氏】 研究目的ということを明記するということですか。今,NHKにしても民放にしても,著作権処理をして,喫緊にやらなければいけないということは,ウェブに対してのことだと思うんです。それをやれるようになれば,研究目的にも使えるということになるのではないかなと。だから,研究目的に特化してやるというよりは,もうちょっと網羅したものとしての処理をやろうとする動きは,少なくともNHKはNHKオンデマンドを控えていますので,必死で過去のものも含めて人海戦術でやっております。今後のものに関しても,まだ確定はしておりませんけれども,大河なり朝ドラなりがウェブ公開の候補に上がっておりますので,著作権的に大変なドラマ,芸能関係もやっていこうという動きは実際にあります。ただ,民放に関しては,定かではないですが,積極的だという話は聞いておりません。

【中山主査】 では,どうぞ。

【黒沼著作権調査官】 補足でございますが,使われる側,権利者の立場としての放送局は次回にお呼びしておりまして,今回は放送番組を使って研究する側の立場の方に来ていただいております。

【茶園委員】 利用する立場のときに,つまり,放送する際に権利処理をされるわけで,その際に研究目的の利用も含めることはそれほど手間ではないのではないかと思いましたので,質問させていただきました。

【中山主査】 ほかに何かございましたら。土肥委員,どうぞ。

【土肥委員】 NHKのお二方にお尋ねしたいのですけれども,放送番組の研究のために必要とされるコンテンツの量というのでしょうか。先ほどのお話を聞いていると,技術的な研究の場合だと,1つの放送番組を全部利用することはあまり必要ないのかなと。つまり量的に限られるのかなと感じました。相当程度のコンテンツの一部についてということになるのかなと伺ったわけですけれども,それでよいのかということです。もう1つ,研究開発における情報利用の場合だと,お話を伺った範囲だと,放送番組のコンテンツをある一つの場所に,例えばフランスだとINAのような場所に集めて,視聴は著作権法と関係ないわけですから,そこに行って研究者が見られればいいと。こういうことがそもそもご要望というか,希望されていることなのかなと伺ったのですが,こういう認識についてご意見を伺いたいと思っているのです。
つまり,技術研究の方でいうと,必要とする放送番組というのは全部ではなくて部分でいいのかと,相当程度の範囲のものを考えておられるのか。もう1つ,研究開発の,四方さんの場合ですね,その場合はコンテンツをある一定の場所に集中的に集めて,そこで研究者が自由に視聴できるようにする,そういうことをご希望になっているのかなと思ったのですけれども,いかがでしょうか。

【四方氏】 それでは私の方から。今,土肥委員が仰られたようなものを日本で作るのは,恐らく予算的にいっても不能であろうと思います。もしできるとしても遠大な計画になろうかと思いますので,とりあえず,最近の例でいえば放送ジャーナリズムの危機的な状況というのがありましたけれども,やらせとか捏造といったものが起こった背景を研究するために,当該番組の映像とか,それに関連するような番組,そういったものを入手する方法は,何も全てが集積された施設に行かなくても,各放送局に問い合わせて,その番組映像を入手できるような状況,そういった状況でいいと私は思っています。
つまり,何かのテーマに即した番組を公式に集められるような状況になる,そういったことができるようになることで,これまでの制約はなくなるのではないか,発展に寄与するのではないかなと思っております。これはもちろん放送局だけではなくて,今やネットの時代ですから,ユーチューブでも。ユーチューブは海外ですけれども,ギャオだとか国内にもいろいろな動画サイトはありますし,そういったところも含めて視聴の要請をすることによって,それが営利目的ではないようなものに関しては,入手できるような状況が当面の理想というふうに思っております。

【中山主査】 ほかに何かございましたら。

【菅並氏】 技術サイド,技術研究開発の方から申し上げますと,最初のご質問,取り扱う情報の量については,研究テーマにディペンドすると。最初に申し上げたニュースの字幕,自動認識のケースにおいては,毎日のニュースをデータベースにくわせて,先ほど言ったようなモデルをチューニングしております。そうすることによって,その時々のキーワードが日々変わってくるわけで,それにディペンドできたモデルになるということで,正解率が上がっていくということで,この分野については,学習させるためには毎日大きなデータベースを提供できるほどいいものができると。
それから,サッカーのオフサイドラインマーカーについては特定のジャンルのシーンを詳しく解析できる技術を確立するということで,そういう意味ではそんなに大きな情報量を用いているものではございません。私どもはテーマごとにそれぞれ対応する放送系のセクションがあるので,そこにいってそういった場面での提供を求めるということができるので,ケースとしてはちょっと特殊な研究所かなと思っております。

【中山主査】 道垣内委員,どうぞ。

【道垣内委員】 国語研究所の前川さんにお伺いしたいのですが,著作権処理を9,000件近くしてみて,372件拒否の回答があったことについて先ほどのご報告では少ないというニュアンスでおっしゃいましたけれども,5,500が許諾で372が拒否というのはそんなには低くないと思われます。拒否の回答をした人たちの拒否理由が分かればお伺いしたいのです。よく趣旨を説明された上で許諾を求められたのだと思うのですけれども,それを理解された上でのなるほどという拒否理由があれば教えていただきたいと思います。

【前川氏】 まず,予想より少ないと私が申し上げましたのは,この事業を始めるに当たって,諸外国でコーパスを構築された場合のデータを調査いたしました。例えば,この手のもので非常に有名な「ブリティッシュ・ナショナル・コーパス」というイギリスのものがございますが,それの担当者に大分質問しまして,最終的に教えてくれたのは,拒否率が4割ぐらいあったということなのですね。そういうものに比べて,日本はもうちょっといいだろうとことで,3割ぐらいかなと思っていたのですが,それに比べてもはるかに低かったというコンテクストで発言をいたしました。
それから,拒否の理由でございますが,これは非常にバラバラでございまして,中には赤い字で「ふざけるな」と書いてくる方もおられます。国がこういうことをやるのはけしからんと。理由は分からないんですけれども,そういうことをお書きになる方もおられます。
それから,先ほどのご質問と関係してくるんですが,有償で公開するから嫌だというのがございました。ただし,それは私が把握している範囲で数件,4~5件かと思います。あとは,比較的あるのが,権利者ご本人がもう亡くなられていて,ご遺族の方が権利を継承しておられて,よく分からないからお断りしますと。これもかなり率が高いのではないかと思います。正確なデータは私の頭の中に入っておりませんが,思いつく範囲でもそういったことがあると思います。

【中山主査】 ほかにご質問等ございましたら。よろしいでしょうか。 では,森田委員,どうぞ。

【森田委員】 NHKさんにお伺いしたいのですけれども,先ほどの前川さんのお答えですと,コーパスの場合には,ある情報をアーカイブ化するとか,データベースを作るわけですが,その利用のされ方が研究目的にしか利用できような形で加工して提供されるので,そこで研究目的以外に利用されないように限定しているというお話でしたけれども,映像の場合にデータベースとかアーカイブスを作って利用させるとか,あるいは,個別に放送局に要請があってそれに対して放送局が応じるときに,それが研究目的であるかどうかというのは,実際にはどういうふうにして判断することができるのでしょうか。その点の担保はどのようにしたらよいかということについて,何かお考えがおありであればお聞かせいただきたいと思います。
つまり,研究目的というのは,利用する主体が学生で,研究のために利用すると本人が言えば,「ああ,そうですか」と言って映像を渡すことになると,実際上は何のために使うか分からないので,研究目的ではない利用をされる可能性が出てくるように思います。そうしますと,実際にはこういう形をとれば,研究目的以外に使われることがないような選別ができる実務的なスキームについてお考えが何かおありであれば,その点についてお聞かせいただきたいと思います。

【四方氏】 判断は各放送局ということにこの場合はなるのかもしれませんけれども,例えばINAの例で言いますと,研究者登録という制度をとっているようです。これは施設の場合ですけれども,施設が登録をさせて,研究者という立場を確定させてやっていると。ただ,その研究者が実際に自分の研究目的ではないものを視聴していないかということまでの規制は,現実には難しいのではないかなという気がします。
それから,先ほどちょっと言葉足らずだったかと思いますが,放送局に依頼してもらうというのは非常に手間ですし,放送局にとっても手間であるという状況の中で,先ほど言いましたように,サーバーでキー局の番組を全部とっていって,それを研究に利用すると。このことは先ほども言いましたけれども,研究目的だと違法になるのでしょうか。私どもはそういうふうに承っておりまして,そういった合法的でないような行為を研究のためにせざるを得ないという違和感というかプレッシャーといったものが現実にある,この状況の是正ということも非常に大きいのではないかと私は思っております。ちょっと別な話になりましたけれども。

(2)リバース・エンジニアリングに係る法的課題について

【中山主査】 ありがとうございます。
それでは,時間も超過しておりますので,引き続きまして,リバース・エンジニアリングに係る法的課題についての発表を頂戴したいと思います。
電子情報技術産業協会につきましては先ほどお伺いいたしましたので,独立行政法人情報処理推進機構セキュリティセンター,山田センター長にお願いしたいと思います。

【山田氏】 独立行政法人情報処理推進機構セキュリティセンターの山田でございます。よろしくお願いいたします。
本日はこのような場をいただきまして,誠にありがとうございます。リバース・エンジニアリングと情報セキュリティのことについてご説明をさせていただきたいと思います。お手元にA4横長の資料があるかと思います。
表紙をめくった最初のページに「リバースとは」とあります。これはご説明するまでもないと思いますので,省かせていただきたいと思いますが,ここで何を申し上げたいかというと,オブジェクトコードまたはバイナリーコードからソースコードという,人間が知得できる言語に復元すること,その上でそれからアイデアなりを読み取ること。読み取った上でそれを何かの目的に利用するわけですけれども,一般的にはこれまでのリバース・エンジニアリングについての定義を見ますと,取得した情報を利用した自社製品の開発と製造・販売というような目的で規定されておりますが,そうではない目的も結構あるのだということを後で申し上げるために,対照的にこのページを設けさせていただいたものでございます。
次のページにまいりまして,問題の所在は何か。まさに3つ目のところでございまして,取得した情報を,ソースコードのプログラムをそのまま利用しないで行う目的と言いますか,社会公益性の高いと私どもが思っている目的がございまして,そういったものを実行する際に我が国の法制度上リバース・エンジニアリングの適法性が明確になっていないため,特にコンプライアンスを重視する我々公的機関もそうですし,セキュリティ企業の皆さんもそうですし,セキュリティの研究をしている大学の先生方もそうなのですけれども,そういった方々にとっては少なからぬと言いますか,相当の萎縮効果が働いているという現実があるということでございます。
ここの辺りを踏まえて,先般,知的財産推進本部様が「推進計画2008」で情報セキュリティの確保に必要な範囲において,その前に革新的ソフトウェアというのがございますけれども,コンピュータ・ソフトウェアのリバース・エンジニアリングの過程で生じる複製・翻案を行うことができるように2008年度中に法的措置を講ずるということで,内閣官房及び文部科学省の決断につきましては,敬意を表したいと思っております。
重要なことは,何でもいいというわけではございませんので,そこの範囲をどうするかということなのだろうと思います。リバース・エンジニアリングの主な目的について全体を俯瞰的にとらえますと,次の3.でございますけれども,よく言われております研究開発とか,性能,機能の調査,障害等の発見・保守。それから,後ほど申し上げさせていただきたいと思いますが,情報セキュリティ対策の互換性,侵害の調査,発見等かあるわけです。
それ以外に,二面性がございまして,今まで心配されていたリバースというと,模倣されてしまうのではないかというようなイメージがあるわけですけれども,そういった模倣。それから,私どもの世界でいうと,私どもが対峙している相手,見えない相手というのはウィルスの作成者であり攻撃者であるわけですけれども,彼らもリバースをするということもあるだろうと思います。私どもが申し上げたいことは,1番から6番,これだけではないかもしれませんが,主な目的に分類するとこういったものについては一定の条件下で認められるべきではないかと思っております。一番下の2つは認められるべきではないということであります。
次のページに行きまして,具体的にどういう問題あるいは課題が生じているのか,ニーズがあるのかということを幾つか説明させていただきたいと思います。私どもIPAは,経済産業省の告示に基づきまして,2004年7月から一般の方を含めて,ソフトウェア製品,あるいは,ウェブサイトを含めた脆弱性の届出の受付をしております。脆弱性というのは,戻って申しわけございませんが,その前のページの3.の赤で囲ってあるところに書いてございます。例えば,不正アクセスによるデータの改ざん,データの消去,データ詐取,または漏えい,通信の乗っ取り,他人への攻撃の踏み台にしてしまう,あるいはシステムの機能を不全にしてしまったり機能を低下させてしまう,いろいろな目的があります。そういったことを来す攻撃を受けやすいプログラム上の弱点を脆弱性,一般にはセキュリティホールと呼ばれていますが,そういったものの届出受付を私どもはしております。
届出があったものについて,本当にそれが脆弱性かどうかということを確認しなければいけませんので,私どもで確認をした上で,それを調整機関であるJPCERT/CCという有限責任中間法人が,実際の開発者,著作権者でも当然あるわけですが,彼らと調整をして,ソフトの開発者とユーザー双方の立場を考えて,開発者がセキュリティホール(脆弱性)を修正するためのプログラム,一般的に修正パッチと呼んでいますが,そのプログラムの配信の準備が整うのを待って脆弱性の公表,あるいは,こういうふうに修正をしてくださいと,プログラムをダウンロードして,こういうふうにインストールしてくださいというような公表をする,そういう運用を私どもがJPCERT/CCと一緒になって協力してやっております。
左下に書いてございますように,2004年7月から運用してきておりますけれども,750件弱の届出があり,その中で280件弱が修正パッチを,開発者と調整した上で配信しております。残りはまだ対応中,調整中とか,脆弱性ではないことが分かったので取り下げてもらったとかいうのもあります。全体の中で第三者からの届出・報告が9割,92%ございます。ソフト開発者ご自身からの届出は約1割,8%というような数字がございまして,一般には善意と言いますか,ボランティア的にセキュリティの関係者とか企業さんたちが,世の中のインターネットの利用の安全性を高めるという観点から,彼らが一生懸命調べているということがございます。
次のページに移らせていただきます。本来は開発者が脆弱性を自ら見つけて,ユーザーあるいは消費者にパッチを提供していくべきなのでしょうけれども,先ほど申し上げましたように,9割が第三者から来ていて,私どもがJPCERT/CCと一緒になって調整をしております。必ずしも開発者様による対応は迅速ではない,速やかに対応していただけていないという現実がございます。既に対応した270件強の件数のうち,大体が40日から100日ぐらいですけれども,100日超えたものとか200日超えたもの,場合によっては300日を越えているものまであります。
脆弱性取扱いの現場の状況からいたしますと,私どもの担当者が開発者様に電話をいたしまして,「こういう届出がございましたので,修正パッチを作って配信してください」とお願いしますと,ほとんど無視されます。そこで我々はレベルを上げていって,手紙を送ります。それでもなかなか対応していただけなくて,社長様にアポをとってお願いして初めて,社長様がそういう現実があったのかといって部下を呼びつけて,「ちゃんと対応しなさいよ」と言うこともままございます。開発の現場が日本国内になくて,アメリカに連絡をしなければいけないので時間がかかったり,言語のギャップがあって時間がかかったり,修正パッチをするための予算がないというようなことがあって,時間がかかる場合もございますが,全体として速やかに対応していただけていないという状況がリアリティとしてあるということをご理解いただきたいと思います。
その上で,反対側の悪意を持った方々は,攻撃をするためのプログラムをすぐ作るわけです。ここにございますように,昔は攻撃用のプログラム,ウィルスが発見されるまでに1年ぐらいかかりましたけれども,それが非常に短期化しております。現在ではソフトウェア製品が世の中に発表されてから,リリースされてから数日後には,彼らはコンプライアンスは何もありませんから,すぐにリバースをして攻撃用のプログラムを作ってしまうという現実があるわけです。ここのタイムラグを考えた場合に,客観的に言いますと,ユーザーが修正プログラムをダウンロードするまでの間,彼らは悪意を持った者からの攻撃の脅威にさらされているということになります。したがって,迅速かつ正確な脆弱性解析のために,私どもとしてはリバース・エンジニアリングが必要となるケースがあると思っておりますし,実際にもあります。詳細にはNDA(秘密保持契約)がございますので,申し上げられませんけれども,今後も増えてくるであろうと思っております。
次の例は,6.不正プログラムでございます。ウィルスとか,プログラムの挙動を解析するに当たって,それが送り込まれた情報システム。その中にプログラムがあるわけですけれども,そのプログラムとともに,どういう悪さをするのかという挙動を解析し,それを踏まえた上でどういう対策を講ずるべきかということをしなければいけないわけですが,そういうニーズがあるということでございます。
それから,新たな暗号研究開発。これはこの前の議題の研究開発に少しかかわってくるかもしれませんけれども,ネットビジネス上の秘密情報の送信または本人確認のために利用されている暗号技術も,コンピュータの技術あるいは計算速度が向上していく中で破られてしまうと言いますか,安全性が低下していくことは必然的なものなのですが,新しい強度の高い暗号技術を常に継続的に開発していく必要がある。そういったものは競ってやらなければいけないわけですけれども,一般的には開示されますが,開示されてない暗号プログラムがありまして,それの強度を調べなければいけないという場面があるということでございます。
それ以外にも,細かい点をいうと沢山ございますけれども,こういったことを踏まえまして,私どもが常日ごろ業務をしながら実感していることを申し上げさせていただきますと,オブジェクトコードからデコンパイルして,逆コンパイルして,ソースコードを読み取ることによって,今申し上げたような情報セキュリティ対策に役立てるという行為は,解析したコードを,全部であろうが一部であろうが,それを何かの商品開発に使うということではなくて,(2)ですが,むしろプログラムの開発者の経済的な利益を害するようなことをしているわけではなくて,プログラムの開発者の側に立ってプログラムの質を高めたり,ミスというか瑕疵といったものを回復させたり,直接的な目的としては社会公益性の高い面ですけれども,ユーザーを悪意を持った者から守る。それから,(3)にあるように,暗号のようにIT利用基盤全体の安全性を高める。そういったもののために行うことでございます。そういった情報セキュリティ上の意義があるのだということを,この場を借りて皆様に訴えさせていただきたいと思いますし,ご理解いただければ大変ありがたいと思います。
それから,8.情報セキュリティ・ビジネスの振興上の意義。デジタルネット時代がどんどん進展していく中で,セキュリティのレベルを高め,それによってセキュリティ・ビジネスを振興していくという意義も,副次的にはあろうかと思います。私どもIPAは,脆弱性検査とかウィルス対策関係の企業さん,日本に本社あるいは支社がある企業さん約数十社と定期的に意見交換を実施しております。彼らから意見を聞いたり,ヒアリングをしたりしているとこういう話が挙がってきております。
我が国の著作権法制においては,リバース・エンジニアリングの法的な扱いが不明である。欧米においては,フェアユースであろうが個別制限規定であろうが,明確になっているときに,日本ではそうではない。したがって,コンプライアンスの観点から,日本ではリバースできずに海外でやってしまわざるを得ない,そういう状態があるということ。結果として,我が国に情報セキュリティの技術者のスキルが高まらず,世界の情報セキュリティ・ビジネスの中で日本が劣位に置かれてしまっている,一つの要因になっています。全てはございませんが,それが大きな要因の一つになっているということを分かっていただきたい。
それから,欧米では脆弱性の検査も含めたセキュリティ・ビジネスのベンチャーが激しく競争しておりまして,リバースは彼らにとってはセキュリティの分野では重要な技術としてほぼ確立されております。私どもも含めて海外でセキュリティ関係のカンファレンスがございますと,欧米の研究者はリバースによって解析されたコードの一部を引用し発表して,こういうふうにあるべきだという新しい技術を出してきたりするわけですけれども,日本からはそういうことか出せないこともあるというふうに聞いております。
それから,もう1つの意見としては,我が国で今後のリバース・エンジニアリングの適法化を措置される場合には,日本のセキュリティ・ベンチャー,まだ弱い経営体質の企業さんが結構ございますので,そういった体力の面を考慮して個別規定として頂きたいということも聞いております。
まとめでございますが,最初に申し上げた図と比較していただければ,対照的に分かりやすいのではないかと思います。デコンパイル,解析は,単なる行為ではあるわけですが,情報セキュリティ対策は取得した情報を,プログラムの一部もしくは全体をそのまま利用した商業用の自社製品の開発とか製造,販売をするということを申し上げているのではなくて,複製の概念とは関係ない世界かもしれませんけれども,解析結果を社会経済のために公益的に活用するということが適法であるということを明確にしていただかないと,日本人みたいに遵法意識の高い国民性,そういった社会においては萎縮効果がかなり働いていて,何もできないということになっています。そこをお願いしたいと思っております。
例えば,互換性の話も今まで何度か出てきております。互換性は1982年から1987年当時にいろいろありましたけれども,その際に日本側で訴えられた企業さんは,それから数年間アメリカや欧米の文献さえ見てはいけないという社内のお触れが出たりしていたわけです。リバースしてはいけないどころか,文献さえ見てはいけないというような極端なことに走ってしまったという事例を聞いております。JEITAさんの会員企業から私どもが実際に聞いておりますけれども,そういう例もあるわけです。
したがって,明確に示されないと,社会的に必要な情報セキュリティの対策を講ずることができない,足かせになっているということをよくご理解いただければと思っております。したがって,フェアユースも議論がありますけれども,個別の規定として措置していただければ感謝されるのではないかと思っておりますし,社会性,公益性が極めて高いという,情報セキュリティ対策の性質に鑑みて,契約に対して優越的に使われるべきではないかと思っております。
そういうことで,私どもは一般のユーザーと企業さんの間に立って調整をしているわけですけれども,このセキュリティ対策は一般ユーザーの目線で法的措置を講ずることが求められておりますので,皆様の賢明なご判断をお願いしたいということを最後に申し上げまして,私からの説明を終わらせていただきます。
以上でございます。

【中山主査】 ありがとうございました。
引き続きまして,社団法人コンピュータソフトウェア著作権協会専務理事・事務局長の久保田様,お願いいたします。

【久保田氏】 コンピュータソフトウェア著作権協会の久保田でございます。
私どもの団体の性質をまずお話したいと思います。1985年に任意団体として作られまして,侵害対策事業を中心に活動しております。会員メンバーとしましては,ゲームソフト,パッケージ系のビジネスソフトメーカーほか,先ほどからお話が出ているようなウィルス対策メーカーも会員として参加しておりまして,約280社のソフトウェアの開発,またデジタルコンテンツの開発をしている団体です。基本的には権利保護の観点から活動が行われております。
このたびのリバース・エンジニアリングに関する権利制限規定につきましては,平成6年のときも,当時,当協会の理事長であったダイナウェアのフジイさん,そして,ゲームソフトメーカーからはT&Eソフトの横山社長がヒアリングを受け,報告書の中でも反映されていると思います。その時点から今に至るまで,協会の中で,先ほどからIPAさんが言われているような萎縮効果があるとか,インセンティブが働かないといったことから,リバース・エンジニアリングに係る複製問題について検討してほしいということが,事務局に寄せられたことはありません。
しかしながら,協会の活動の権利保護活動の一環として,我々事務局が感じていることですけれども,最近のファイル共有ソフト,P2Pの技術に係る,悪用される場合のソフトウェアとしての側面ですが,こういうことに対する著作権侵害対策を行うためにリバース・エンジニアリングが必要であろうという状況はあると思います。とりわけ我々が著作権保護団体であるために,明文上侵害対策という目的,また相当な手段の範囲の中で解析行為を行う,その過程で行われる他社,第三者のソフトウェアやコンテンツを複製せざるを得ないという環境があるのは事実です。ここにつきましては,ウィニーやシェアーといったP2Pファイルの共有ソフトウェアがこれらに当たろうかと思いますが,これについてのアプローチは,協会としては,事務局としては必要であるのではなかろうかと考えております。
一方,先ほどIPAさんからの報告にあったように,情報セキュリティの観点からの理由というのは合理性もあるだろうと思いますし,協会自身もホームページの攻撃を受けたりして,セキュリティホールをつかれて,非常に厳しい状況になった経験もあります。こういった観点から言いますと,合理的な目的と手段が相当であれば検討の必要があるということについては十分認識しております。しかしながら,これについて会員会社から,例えばウィルス対策ソフトメーカーから具体的な指摘があったことはございません。 繰り返しになりますけれども,ここで言うリバース・エンジニアリングの定義につきましては,「既存プログラムの調査・解析」としまして,その手法のうち,著作権法上問題が生じる逆アセンブル,逆コンパイル等を想定しております。
そして,各論のところにつきましては,先ほどの総論の中にほぼ入っているので繰り返す必要はないと思うのですけれども,上記の報告書(平成6年の報告書)の内容を踏まえますと,相互接続性,互換性,インターオペラビリティの目的,脆弱性の確認(セキュリティ・チェック),これはIPAさんから報告があった内容を指します。そして,先ほど申しましたように,著作権侵害行為の発見目的や,主に著作権侵害に供されるソフトウェアの機能調整,性能調査,こういったことを想定しております。これも公正な目的であって,相当な手段を通じて行うことであれば,許容される必要があると考えております。一般論としましては,当然のことながら,プログラムの模倣やウィルス作成など不公正な目的であったり,技術的保護手段・制限手段の回避等の手段としてのリバース・エンジニアリングについては,権利制限を受けることは許容できないということであります。
あとは,その後の利用のことにつきましては,ここで検討すべきかどうか分かりませんけれども,リバース・エンジニアリングの際に複製された複製物の取扱い等については,目的外利用,目的外使用を禁ずる条項を設けるほか,複製物の公表・頒布及び公衆送信等についても,当然禁止しなければならないと考えております。
また,こういった検討をするに当たっては外国法制とのバランスを考えて,法制化をお願いしたいと考えております。
短いですが,以上でございます。

【中山主査】 ありがとうございます。
続きまして,ビジネスソフトウェアアライアンス日本担当コンサルタント,水越様,よろしくお願いいたします。

【水越氏】 水越でございます。まず,ビジネスソフトウェアアライアンスという団体でございますが,お手元の資料の1枚目に記載しておりますようなソフトウェアを開発し,販売し,いわゆるソフトウェアをビジネス・ドメインとしている集まりでございます。今回,BSAといたしましては,委員会においてセキュリティとか研究開発を目的とする権利制限規定について検討しているということですが,これに関しましては,幅広いと感じておりまして,そのような権利制限規定が不可欠という事情が生じているのかどうかをきちんと議論していただきたいと思っております。また,ソフトウェア・ベンダーといたしましては,権利制限規定を設けることによって,新規のソフトウェア製品の開発・普及を妨げるおそれもあるというように,ネガティブに働く面もきちんと議論していただきたいということを言わせていただきたいと思います。
2番にいきまして,著作権保護の果たす役割と保護のバランスの重要性ということを記載させていただいております。この点におきまして,まずソフトウェアの事業が非常に発達してきたということは,新しいソフトウェアが次々と出てきたということの原動力であったと考えております。知財のエコシステムと言われておりますが,著作権の保護というインセンティブを与えることによって開発者が投資をできる。その投資によって新しいソフトウェアが生れてきた原動力であると考えています。
ここには記載しておりませんが,ソフトウェアの分野はライセンス契約という契約社会が発達してきた分野ではないかと思います。ウェブの世界で先ほど連絡がつかないというお話がございましたが,BSAの取り扱っているソフトウェアのベンダーは,このようにいつでも連絡ができる,それを生業としている事業者でして,ご案内のとおり例えばライセンス契約でしたら,秘密保持の期間とか,対価が有償であるか無償であるか,第三者にサブライセンスだきるか,また改変はどの程度できるか,その使用の目的は何であるかということを,場合によっては数十ページにわたって合意をしていくという社会が成り立ってきております。ですので,契約を越えて,著作権法の権利制限規定で一般的に対応しなければならないことがあるか否かについて疑念があるということで,ご検討いただきたいと思っています。
また,インターオペラビリティ(相互運用性)という点や,セキュリティに関する重要性というのは,この業界も十分認識している論点でございます。それにつきましては,最近は1社だけでは対応できないということで,例えばより多くの文章を公開して,相互運用性のあるソフトウェアを開発していただくということに注力したり,先ほどIPAさんのプレゼンテーションの中でもありましたが,セキュリティに関する問題ももはや協力関係なしには対応できない分野だと思います。先ほどのプレゼンテーションでもお気づきになった場面があったかと思いますけれども,セキュリティ対策を施す方と,ソフトウェアを生業としている事業者は顔を合わせる機会がありまして,そういうところで対話をしたりしておりますが,そこで例えばリバース・エンジニアリングが問題であるという指摘があるということはあまり考えられないと言いますか,民間の協力で成り立っている部分があるのではないかと考えております。
先ほど最初の考え方の2番目で言わせていただきました,リバース・エンジニアリングを認めることによって起こる弊害についても,十分議論していただきたいという点ですが,クローンのようなソフトウェアを開発するとか,プロテクションを外してしまうということも可能になりますし,目的を行為の外形で判断するのは難しいということです。例えば,「調査・解析の目的です」と言われますと,ハッカーであっても同じなのかという点がありまして,著作権はみなし侵害規定を置いたり,複製に当たる前の段階で,著作権保護を認めるために必要であるという条文を置いていると思いますが,そのように広くたがを外してしまうことによって目的を外形で判断しにくいことから,誰でも簡単にできるということにしてしまうのがいいのかということもご検討いただきたいと思います。
また,ソフトウェアベンダーの知らない間に第三者がパッチを配布して,それを当てているということになりますと,ベンダー側のサポートや動作保証が切れてしまうということも聞いております。いろいろな団体さんがやっていることや,小さなところがやることはいろいろなことがあると思いますが,何でもかんでも第三者が作ったものについて動作保証するというのも,ベンダーとしては難しいと聞いておりますので,全体がスムーズに動くという観点から,どの程度の必要があるのかということを検討していただければと思っております。
3ページ目にいきまして,権利制限の必要性がないことという書き方をしておりますが,法律で定める前に契約等で対応できる部分があるのではないかということで,開発者にお聞きいただいたり,秘密保持等を結んで見ていただくという取組もあると思いますので,法律で定めてリバースをしないと必ずできないことなのかどうかという点を記載させていただいております。細かくなりますので,一つずつのご説明は飛ばしたいと思いますが,ご検討いただければと思います。
次に,7ページ目にいきまして,欧米における議論というのが出ているかと思います。今までも出てきましたが,例えば米国ではフェアユースによって対応されているという話があると思います。ただし,その前に確認しておきたいこととしましては,フェアユースで対応しているということは,一般的に商業的な逆コンパイルを認めるという規定を置いているわけではなくて,フェアユースの個別の判断に委ねているということを指摘させていただきたいと思います。特にセガとアコレイドという事件について有名な判例がございまして,既にご案内かと思いますけれども,このケースにおいては,アコレイドがセガのライセンス契約を検討したが,ライセンスを得るのが難しかったという事情が指摘されたり,4つのフェアユースの要件を一つずつ検討した結果,この事案についてはインターオペラビリティという観点で,ジェネシスというコンソールの上で動くゲームソフトウェアを開発するためによろしいだろうという判断がなされたと理解しております。日本においても,コンペティターであってもいいのかとかいろいろな状況があると思いますので,個別事案に委ねるようなこともあるのではないかと思います。知財推進計画等を拝見しましても,一般的なフェアユースということも論じられていると理解しておりますので,そのようなフェアユースの議論を待つ前に,この問題について権利制限規定を置く必要性があるかどうかも併せてご議論いただいた方がよろしいのではないかと考えております。
8ページに,ソフトウェアディレクティブの話を記載させていただいておりますが,こちらも既にご承知のとおりディレクティブに詳細な規定が置かれております。ここで私どもがそのアプローチとして参考になる点としましては,必要な情報が利用可能になっていないという条件を課しているということは,ソフトウェア開発者にアプローチしていただいても利用可能でないというような,ソフトウェア開発者の意思を一定程度尊重していただいている条文なのではないかと考えておりまして,このような詳細な手続とかプログラムの複製物を使用する権利を有するという条件を設けたり,目的についても細かく規定することは,参考に値すると思っております。
また,日本法においても,ソフトウェアのプログラムの複製物の所有者については47条の2等もありますので,日本の現行法で対応できない範囲はどこであって,契約の民間の取組,または交渉で得られない部分はどこかということがあるかどうかを検討していただいた上で,権利制限規定を検討していただきたいと考えております。
9ページに結論ということで書かせていただいておりますが,今のことをまとめております。BSAとしましては,現行の日本法も柔軟性に富んでいますが,そのような解析をして,複製物や翻案物ができるという場合には,ソフトウェア開発者の意思を尊重してほしい。使い方をどうしたいかということを一定程度尊重してほしいと考えています。もしも権利制限規定がどうしても必要という事情が認められる場合であっても,EUのようなアプローチということで,相互運用性の目的上に限ったアプローチを一つずつ検討していただければと考えております。
以上です。

【中山主査】 ありがとうございました。
それでは,先ほどのJEITAのご発表も含めまして,4団体のご発表についてご質問ございましたら,お受けしたいと思います。
松田委員,どうぞ。

【松田委員】 平成6年だったでしょうか,協力者会議が開かれて,かなりの集中的議論をやりまして,そこでだんだん収斂されてきたこともあります。今日のペーパーでも,久保田さんのペーパーとIPAさんのペーパーとで,IPAさんの4ページを見ていただくと分かるのですけれども,(1)から(6)まで,上の方に書いてあるものと,下の(1),(2)と書いてあるもの。大きく分けると上の方はリバース・エンジニアリングしても相当なのではないかというふうな収斂は大体あったように私も思っております。しかし,下の2つのものについては,かなりの議論が必要であるというふうになったと私は思っています。
そこでIPAさんにお聞きしたいのですけれども,ディスコンパイルしたソースコードを利用した模倣は駄目ですよと言われているわけですが,ディスコンパイルしたソースコードをそのままないしは部分的に複製するのは決まっていると思うわけで,議論の余地はないわけですね,でき上がったものが複製物なのだから。だから,ここは「複製」と書かないで「模倣」と書いてあるわけですね。ここに議論のみそがあるわけです。かつてもそうだったと思います。久保田さんのペーパーでもここを「プログラムの模倣」と書いてあります。
両方が模倣という概念を使いながら,その考えているところが少し違うのだと私は思っています。むしろ両方にお聞きしたいということになりますが,IPAさんの「模倣」は,でき上がったものがターゲットプログラムとコードが同じようになる,ないしは,ソースプログラムベースでも同じになるということになれば,これはリバース・エンジニアリングの問題ではなくて,単純複製であると。これはいいのですよね。ということは,模倣はそれ以外のもの,すなわちソースコードを利用して違う言語で書き直して,コードベースでは別のものになった場合のことを言っているのじゃありませんか。そういうふうに考えていいのですか。

【山田氏】 私は「模倣」という言葉の概念をあまり考えずに書きましたけれども,同じものを作る目的でソースコードを復元し,実際にそうした場合にはそれは複製そのものであって,論じるべきものではないのだと思います。
それから,2つ目の点ですけれども,一部を使ったり,競合製品を作ったりとか,そういったものも当然あると思いますので,それを「模倣」と言うべきかどうかという議論はあると思いますけれども,いずれにせよデコンパイルしたものを一部または全部使ってものは認めるべきではないのではないかと思います。

【松田委員】 ということは,ディスコンパイルをしてソースコードを作って,ターゲットプログラムと同じ機能,同じ市場で戦うものを商品として作ったんだけれども,それが技術的にすごく優れたプログラムになるということはありますよね。だって,解析して乗り越えてプログラムを作っているのだから。そうしたら,革新的なプログラムの研究開発のためにはそれはいいのでしょうか。

【山田氏】 IPAのセキュリティセンターの立場を越えてしまっておりますけれども,下の方の(1)と上の方の(1)の境界はグレーな部分があるのではないかと私も認識しています。ただ,上の方の(1)は知財本部さんがどういう意図で書かれたかというのはあるでしょうけれども,デコンパイルしたものをそのまま使わずに,そこから取得して全く新しいものを作り出すということは,社会全体に還元されることによって公益性が高まるだろうということなのだろうと思います。そういう意味での革新的なプログラムというのは,セキュリティセンターの立場を越えていますけれども,許されてもいいのではないかと思います。

【松田委員】 ありがとうございます。分かりました。
今度は久保田さんに聞きますが,それはどうなのですか。ソースコードを解析した,コードベースは一致していないけれども,競合ソフトないしはそれを超える優れた革新的プログラムができた,これは社会的にかなり有用だと思いますよね。そういう場合にリバース・エンジニアリングは許してくれるのでしょうか。

【久保田氏】 基本的には著作権法の原点に帰って議論せざるを得ないと思うのですけれども,今,松田先生の言われたような状況が目の当たりに見ているところでされた場合には,協会としてディスコンパイルをしたときに複製ができて,それに依拠して実質的な類似性がどこまであるかという判断をします。その判断において,ここも抽象的な議論ですけれども,依拠性と実質的類似性を比較して,昔でいうところのSSOのような状況の中で証明ができるのであれば,それはある意味では守備範囲に入ってくるので,そのアプローチをしたときに,この「模倣」という言葉が今のやり方の中にあるとするならば権利侵害というふうに,私は個人的には考えています。

【松田委員】 それはBSAの方も同じでしょうね。

【水越氏】 もちろん著作権法の評価として,依拠等が認められれば著作権侵害となりますし,これが著作権法上どうかというところ,革新的なプログラムの研究開発と模倣というのは,もし法律の場に持ち込まれたら,目的だけ書いてあったら見分けがつきにくいと思います。先ほどエコシステムというお話をしましたけれども,商用そういうふうを開発している側としては,他人のものを見て開発しようというのがどの程度あるかですが,それよりはオリジナリティがあるものを作ろうとやっていると思いますので,同じようなものを作られるということについては危惧を持っているということになろうかと思います。

【松田委員】 これからどうするかですから,議論が2つに分かれるのはしょうがないと思うのですね。
申しわけないのですが,6年のときの議論の洗い出しをしたいので,もうちょっとだけお願いいたします。ここで「模倣」という言葉を介して両者違う概念を描いているということがご理解願えたと思います。ディスコンパイルをしてソースプログラムを取得して,それとプログラムは一致するわけではないけれども,同じ機能を持つ競合プログラムを作るということはいいのではないかというグループと,それは著作権法上侵害なのだとすべきだというグループが,平成9年の段階であったのです。それをここで解決できないと,結果的にはリバース・エンジニアリングの本質的な部分を解決することはできないだろうと私は思っています。
私の意見は控えておきますけれども,技術的な革新的プログラムを開発するためのリバース・エンジニアリングの目的と,競合プログラムを作るためにターゲットプログラムを解析するための目的とは,目的は違いますが,技術的には全く同じです。これをどうするかということを提言してもらいたい,解決してもらいたい,私はこのように思っています。

【中山主査】 それでは,ほかに何かご意見,ご質問はございませんか。
どうぞ,苗村委員。

【苗村委員】 最初に事務局に質問をさせていただきたいのですが,もう1回ヒアリングの日があるわけですけれども,そのときにこのリバース・エンジニアリングに対してはヒアリングを予定されているのでしょうか。

【黒沼著作権調査官】 次回は研究開発関連の権利者側の立場からのヒアリングを予定しておりまして,リバース・エンジニアリングは本日だけでございます。

【苗村委員】 分かりました。
私がまだ理解できていないのですが,今日お話いただいた中で,積極的にリバース・エンジニアリングを権利制限の対象にすべきだというご提案があったのは,IPAさんで情報セキュリティ対策のためにニーズが高いよというお話があったわけですね。一方,知財本部の資料の中には革新的なプログラムの研究開発というのがあって,これに関して必要だということを書かれている,あるいは,お話された方は,失礼しました,JEITAさんが若干あったのかな。でも,それほど明確にはお話されなかったような気もするので,今日の議論は情報セキュリティ対策ということが主なのか,あるいはJEITAさんの中で……。でもちょっと意味が違いますよね。JEITAさんの資料も,どちらかというと互換性の問題,相互運用性の問題を強調されたような気がします。
そこで私のコメントを申しますと,相互運用性については今日はほとんど議論されていないのですが,水越さんのBSAの意見の中でも,限定はするにしてもこれは欧米でも認められていることであって,受け入れていいんだろうというニュアンスがあったように思うのです。書き方として,積極的に権利制限を設けるべきだとは書いておられないのはよく分かりますが,ここはあまり争点になっていないと。
今日のプレゼンテーションで主な争点になっているのが,情報セキュリティ対策のためのリバース・エンジニアリングを認めるべきかどうかで,IPAの山田さんは必要であると言われ,また,コンピュータソフトウェア著作権協会の久保田さんは,協会としての意見ではないけれども,事務局としてはこれも必要がありそうだと言われた。JEITAさんは明確に書いておられませんが,どうやらバグ等の障害云々の延長で暗黙のうちに認められているのかなと思うのです。そして,BSAの水越さんの資料ではかなり明確に否定されているというふうに理解しています。
水越さんに質問なのですが,BSAの会員の中にセキュリティ対策ソフトウェアを販売されている企業はたくさんあると思うのですけれども,お答えしにくいかもしれませんが,仮にそういう企業が日本に拠点を持っていて,日本でソフトウェア開発を行うとしたときにも,日本の著作権法に基づいて,つまりフェアユース等の概念のない日本の著作権法に基づいて,ウィルス対策その他のセキュリティソフトウェアを開発することは十分に可能であるとお考えになっていらっしゃるか。その点についてお答えいただけませんでしょうか。

【水越氏】 どちらかと言いますと,今日のプレゼンテーションでも言わせていただいたと思うのですけれども,会員社同士というのはコミュニケーションがあると。何をしているかも大体知っている,それは困るということであればクレームするという関係があるという中で,日本でやるからクレームをするということはもちろんないと思うのですね,関係がある会社同士におきまして,セキュリティ開発をしている会社が,アメリカでやったらいいけれども,日本でやったら契約上駄目ですよというような交渉をするわけではないと考えています。
要するに,フェアユースや一般規定を頼って開発しているようなところというよりは,相互の交渉とかコミュニケーションに基づいて行っているというふうに考えていますので,そこが何ら関係の会社さんについて「日本で問題がないですか」と聞かれますと,お答えが難しいということになるかと思います。

【中山主査】 よろしいですか。

【苗村委員】 今のお答えはこういうことでしょうか。ちょっと意地悪な解釈をしますと,BSAの会員でない企業が開発したソフトウェアが日本でたくさん使われていて,そのソフトウェアの中にセキュリティホールがありそうだということが分かったときに,BSAの会員であるセキュリティ対策ソフトウェア会社としてはなすすべはないと。ちょっと悪意の解釈で申しわけないんですが,そういうことでよろしいでしょうか。

【水越氏】 先ほど,「会員の中にもセキュリティ会社がいますので」ということで,「会員」という言葉を使わせていただいたのですが,この業界は会員か否かをベースに動いているものではありませんので,会員だったらライセンスするとかいう話では全くないというふうにお考えいただければと思います。

【中山主査】 ほかに何かございましたら。
では,茶園委員,どうぞ。

【茶園委員】 IPAさんにお聞きしたいのですが,先ほどのお話の中で「セキュリティの問題があっても会社としてなかなか対応しない」とおっしゃっていたのですけれども,そこら辺がちょっと分からなくて質問させていただきたいと思います。というのは,私が素人的に考えますと,セキュリティ上に問題があればユーザーに迷惑がかかるわけで,これに対応しない場合には会社の評判が落ちることになるので,すぐセキュリティ対策をするのではないかと思うのです。IPAさんみたいなところがいろいろサポートするということであれば,先ほどBSAさんがおっしゃったように,すぐに協力するのではないかと思うのです。企業規模によってもいろいろあるとは思うのですけれども,迅速に対応しないということが生じるのは,なぜなのかについて聞かせいただきたいのです。

【山田氏】 私どもは現場で日々そういう業務をやっておりますので,BSAさんの資料の5ページに,「開発者はバグを……」,「バグ」と言っていて,「脆弱性」とは書いてないので,ここはいろいろありますけれども,「それを修正することに強い関心を持っています」と。それは一般論ではそうだと思います。「意図されたとおり作動しないプログラムでは顧客が不満を感じる」,これは当然だと思います。
ただ,現実は,私どもが業務をやっている中で本当にそういう意識を上から下まで皆さん持って対応していただいているのかというところを見ておりまして,それが私どもの資料の6ページの5.の方にございますように,これだけ時間がかかっているわけですね。大手の企業さんでセキュリティ部門を持っているところは対応をしっかりしていただいていると思いますし,そういった企業さんの一部はビジネスソフトウェアアライアンスさんのメンバーでもあり,ACCSさんの方でもメンバーであり,ちなみにIPAのヒアリングのメンバーにもなっています。
ただし,そうでない企業さんももちろんいらっしゃる。それから,大手さんでもセキュリティ意識がさほど高くない企業さんもままございまして,そういったところはなかなか対応していただけないということがございます。どこの企業さんということをここで申し上げるのはまずいと思いますので,申し上げられませんけれども,そういうことがあるということをご理解いただきたいと思います。
もう1点,ちょっと誤解があるかもしれないので補足させていただきたいのですが,私どもは商用目的,商業目的の逆コンパイルをどんどんやりましょうということを強く言っているわけではなくて,公益性が高い部分がございまして,それはユーザーさんの保護が必要なのでしょうと。もちろん修正パッチを,2004年からやっている運用のように,開発者さんと一緒にやっているわけですが,動作保証の観点から修正プログラムは開発者によるのが基本というのは認識しているが,一方で先ほど申し上げましたように,脆弱性だと通知させていただいても,脆弱性じゃないとはねのけたり,理解していただけなかったり,無視されたり,そういう企業さんもいらっしゃいます。ちゃんと解析して,「脆弱性なんですよ」ということをお伝えしないと理解していただけない場合もあるのですね。そこの部分のポイントがあるということもご理解いただければありがたいと思います。

【中山主査】 よろしいですか。
ほかに何か。
では,私から水越さんに伺ってよろしいでしょうか。ウィルスソフト会社同士は,狭い社会でコミュニケーションはとれているのだろうと思うのですけれども,個々のウィルスソフト会社と普通のソフトウェア製品を作っている,世界中に無数にある会社との間は契約で全てうまくいくのでしょうか。IPAの6ページを見ますと,うまくいってないという感じがするのですけれども,本当にそこは契約だけでうまくいくのかということをお伺いしたいのです。

【水越氏】 もちろん契約がないケースもあると思います。申し上げましたように,セキュリティ対策というのは協力関係が必要で,通知を受けたものに対してメーカー側としても誠意のある,ベストと思う方法で対応するということを目指して,普通の開発者は動いていると思います。例えば,脆弱性の報告がありましたといったときに,「それはリバース・エンジニアリングですか。著作権法違反ですね」というような事件が世界で頻発しているとは考えていないと。それで日本や世界で訴訟が起こっていて大変な問題になっているとは理解しておらず,書面があるにせよ,そうでないにせよ,そのような問題は起きていないのではないかと思います。

【中山主査】 それは,セキュリティ対策のためにリバース・エンジニアリングをすることは合法であるということではなくて,違法だけれども,誰も訴えないから現状でいいと,こういう話ですか。

【水越氏】 それを解釈する立場に私があるのかどうかはあれですけれども,協力的にやってくださる方,セキュリティ対策についても協力的に真摯にやってくださる方もいるでしょうし,そうでない方も,ビジネス・ジャッジメントとしていると思うのです。真摯にやってくださっていると思っている方に対して,違法であるということを問題視したとか,解析しただろうということが起きていないことについて,違法であるからどうかという認識が当事者間にあるかどうかはちょっと分かりません。

【中山主査】 法律というのは,世の中には変な人がいるのだということを前提に作らなければいけないので,例えば修理のために1回複製するというような事件はいまだかつて起きたことがないのですけれども,訴えられたら困るということで先年立法したわけです。そもそもこれが違法であるけれども,問題ないからいいのか,あるいは,合法なのかというところの,組織の考え方としては,やはり違法は違法であるということなのでしょうか。

【水越氏】 著作権法の世界では許諾という概念があると思いますので……。

【中山主査】 許諾を得なくてやった場合の話です。

【水越氏】 ええ。その後に許諾をするということもあると思いますので,そこに目次,明示を含めまして,許諾がないといって問題になるケースが少ないのではないかと。

【中山主査】 少ないのは事実だけれども。それは,理論的には違法だけれども,事件が起きてないということなのでしょうか。

【水越氏】 そうですね,意図に沿わない複製・翻案があれば,やはり違法と考えているということだと思います。

【松田委員】 違法なのですよ。
よろしいですか。

【中山主査】 どうぞ。

【松田委員】 平成6年のときもその議論をいたしまして,どういう目的であろうが,リバース・エンジニアリングをする側には複製ないしは翻案という過程がどこかであると。そこは著作権法的に見れば複製権や翻案権の侵害になるのだという前提に立つグループと,全くそうじゃないのだというグループがあって,対立したんです。問題ないところはライセンスを出しますから,それでうまく解決できますよというのは,基本的には複製・翻案の過程があるから,著作権法上違法なのだという前提に立って議論なさっているのだと私は思うんですよ。
ところでどうでしょうか,そこまで言わなくても,立法で,これから先,例えばIPAさんが言われているような公益の目的がある,技術的革新も含めて,(1)から(6)ぐらいまで,こういう目的を明確にして,権利者に通知したらリバース・エンジニアリングをしていていいという,そういう解決方法がとれませんかね。もちろん下の方の(1),(2)については外れるわけですがね。全部ライセンスでやれというのではなくて,これから立法するとすれば,スムーズにやるとすれば,公益目的みたいなものはある程度確定しておいて,権利者に通知をしたら,その範囲内でリバースしてもいいですよという制限規定にするというのはどうでしょうかね。
これは実は私のアイデアだったのですけれども,そういう意見が私以外にも当時はあったんです。その考え方はどうでしょうか。

【水越氏】 インターオペラビリティの点ですけれども,EUで良いと思っている点として,先ほど挙げさせていただいたのは,何も言わずにされるということには危惧を持っていますので,知らせていただくということは意味があることではないかと。そういう点は尊重する点だと思います。
ただ,(1)から(6),先ほど革新的と模倣のお話がございましたが,(1)から(6)は公益だと言われますと,すぐ首を縦に振るのは難しいと。例えばハッカーが障害を発見しましたといったときに,行為の外形からすると(3)ですというところについて,例えば,今,ウィルス作成罪というのは日本にはないと,作成した者を罰する規定がないと理解しておりまして,そういうときに,下の(2)と上の(3)をどう対応していけばいいのかという点もありますので通知していただくというアイデアはいいと思うのですけれども,通知すれば全部いいですよと,こちらから何もアクションを起こす機会がないのがいいかというと,ちょっと躊躇するところがあると思います。

【松田委員】 私は通知したら全部いいと言っているわけではないです。

【中山主査】 議論についてはまた追い追い伺いたいと思います。
ちょっと時間を超過しておりますけれども,最後にヒアリングについて特に何かございましたら。よろしいでしょうか。
それでは,本日の議論はこのくらいにしたいと思います。今日のヒアリングに参加してくださった方々,どうもありがとうございます。
事務局から連絡がございましたら,お願いいたします。

【黒沼著作権調査官】 次回の小委員会でございますが,本日のヒアリングの続きをお願いしたいと考えております。参考資料1の最後に次回お呼びする予定の団体を記載しております。これらの団体をお呼びして研究開発関連のヒアリングの続きを行う予定です。日時は,8月1日(金)10:00から,場所は旧文部省庁舎6階の講堂を予定しております。
以上でございます。

【中山主査】 次回はまた場所と時間が違いますので,お間違えのないようにお願いいたします。
それでは,これで文化審議会著作権分科会第5回法制問題小委員会を終了いたします。本日はありがとうございました。


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