技術的保護手段の回避と権利制限規定の関係【訂正版】

1.諸外国の状況

(1)米国

米国法では,技術的手段の回避規制について,著作物へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段(以下「アクセスコントロール」という。)と著作物またはその一部分に対する著作権者の権利を効果的に保護する技術的手段(以下「コピーコントロール等」という。)を分けて規定している。
アクセスコントロールについては,回避行為を一般的に禁止する規定を設けた上で(第1201条(a)(1)(A)),リバース・エンジニアリングを行う場合をはじめ,次のような場合において,他の手段による入手が不可能な場合等の一定の要件の下で,技術的手段の回避を認めている。

非営利的な資料保管,保全,教育目的での著作物利用や,批判,解説,ニュース報道,学習指導,学術研究等のための著作物利用で,技術的手段の回避の禁止により不利益を受ける可能性があるもの(第1201条(B)及び(C))
非営利の図書館,文書資料館及び教育機関の免責(第1201条(d))
リバース・エンジニアリング(第1201条(f))
暗号化研究(第1201条(g))
セキュリティ検査(第1201条(a))

フェア・ユースその他の権利制限規定との関係については,「本条のいかなる規定も,著作権侵害にかかる本編に基づく権利,救済,制限または抗弁(フェア・ユースを含む) に影響を及ぼさない」(第1201条(c)(1))とされている。
なお,この規定については「フェア・ユースその他の権利制限規定に該当する場合には,技術的手段の回避は違法性が認められない」とする見解1もあるが,この規定は,単に技術的手段の回避等にかかる適法・違法と著作物利用にかかる適法・違法は独立して判断されるという趣旨のものと解されているようである。つまり,アクセスコントロールの回避行為等が違法と判断されたとしても,それによって,その後のフェア・ユースを初めとする権利制限規定による著作物利用まで自動的に認められなくなるわけではなく,逆に,アクセスコントロールの回避行為等が適法と判断されたとしても,それによって,その後のフェアユースを初めとする権利制限規定による著作物利用まで自動的に認められるわけではないという関係にあるということを明確にするための規定だと考えられる2。要すれば,アクセスコントロール回避の禁止の違反は「著作権」侵害ではないから,著作権に関する法理であるフェア・ユースその他は適用がないとの趣旨と解される。3

一方,コピーコントロール等については,回避装置等の製造・販売等を禁止する規定は置かれているが,回避行為自体を禁止する規定は置かれていない。(第1201条(b)(1))
これは,このような回避行為自体は著作権の侵害でカバーされるからである。4したがって,権利制限規定にもとづく著作物利用に関して,コピーコントロール等を回避して行う場合についても,権利制限規定の範囲内として利用が認められるのかどうかは解釈に委ねられる。

1「著作権法 不正競争防止法改正解説 デジタル・コンテンツの法的保護」(文化庁長官官房著作権課内 著作権法令研究会,通商産業省知的財産政策室 編,有斐閣)145頁,「アメリカ著作権法の基礎知識」(山本隆司著 太田出版)157頁

2米国著作権局のDMCAの解説資料("THE DIGITAL MILLENNIUM COPYRIGHT ACT OF 1998", "U.S. Copyright Office Summary December 1998" には「フェア・ユースはアクセスコントロールの回避の抗弁にならず,アクセスコントール回避は禁止される」(事務局仮訳)という記述があるほかユニバーサルシティスタジオvsコーリー事件第二巡回区(Second Circuit)判決(12.28.2001)参照。

3「アメリカ著作権法入門」(白鳥綱重著 信山社)260頁

4「著作権法 不正競争防止法改正解説 デジタル・コンテンツの法的保護」(文化庁長官官房著作権課内 著作権法令研究会,通商産業省知的財産政策室 編,有斐閣)144頁,「アメリカ著作権法の基礎知識」(山本隆司著 太田出版)156頁



(2)欧州

欧州では,情報社会における著作権指令(2001/29/EC)において,技術的保護手段の保護について定めるとともに(6条1),次のような一定の類型の権利制限規定の受益者に対して,その利益を受ける方法を権利者が提供することを保証する適当な手段をとるものとしている(6条4)。

  • ◆ 写真技術の使用その他の工程における紙等の媒体への複製
  • ◆ 図書館及び教育機関等における複製
  • ◆ 放送のための一時的記録
  • ◆ 非商業目的の社会施設における放送の複製
  • ◆ 非商業目的の授業,学術研究のための例証目的の利用
  • ◆ 非商業的性質の障害者のための利用
  • ◆ 行政手続き等における利用

各国では,これに基づき,上記類型に対応する権利制限規定について,6条4に対応する規定が国内法において整備されている。また,各国においては,その他の権利制限規定についても,任意に,同様の規定が設けられている場合がある。

なお,情報社会における著作権指令は,技術的手段の保護をコンピュータ・プログラムに関して用いられるものに適用してはならないこととしており(前文(50)),ドイツ法(69a条(5)),フランス法(第331の5条),イギリス法(第296条のZA(1))においても,コンピュータ・プログラムは技術的保護手段に係る保護の対象から除外されている。
したがって,これらの国において,権利制限規定で認められた範囲内でリバース・エンジニアリングを行うために技術的保護手段を回避する行為は,許容されているものと考えられる。


2.我が国の状況

現行の著作権法の権利制限規定においては,私的使用目的の複製は,技術的保護手段の回避により行った場合は,権利制限の対象とならないこととされている(30条1項)一方で,第30条以外の権利制限規定については,第30条のような除外規定は設けられていない。

これは,技術的保護手段の回避による利用は,著作権者からすると著作物の提供の前提を覆すものであり,そもそも想定されていない複製であって,私的使用目的の複製であっても,著作権者の利益を不当に害するものでないということはできず,零細な複製を許容する第30条の趣旨を逸脱するおそれがあると考えられたもの5である。
他方,第30条以外の権利制限規定について同様の規定を設けなかったのは,第30条以外の権利制限については,公益性,社会慣行,他の権利との調整等の趣旨で設けられているものであり,例えば,公益目的のための権利制限規定については,公益を著作権者等の意思に優先させているものと考えられることから,技術的保護手段の回避を伴う利用であっても,著作権者等の経済的利益を著しく害するおそれがあるとまでは現状では言えないと考えられたものである6

5前出「著作権法 不正競争防止法改正解説 デジタル・コンテンツの法的保護」94頁

6同上「著作権法 不正競争防止法改正解説 デジタル・コンテンツの法的保護」95頁

●著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ(技術的保護・管理関係)

(平成10年1月,文化庁)(抄)

第2章 技術的保護手段の回避への対応

第5節 規制の対象とすべき行為

4.権利制限規定との関係

現行の著作権法は,著作権者等に複製権等の排他的権利を付与する一方で,権利制限規定を設け,著作物等の公正利用等様々な観点から,私的使用のための複製,図書館や教育機関での複製,引用等,一定の場合には,著作権等を制限し,著作権者等の許諾がなくとも複製等の利用を行うことを適法としている。
このため,技術的保護手段が施されている著作物等について,技術的保護手段の回避を伴って利用を行うことも,権利制限規定の範囲内とすることが適当かどうかという問題がある。
権利制限規定は,著作物等の公正な利用を図るという観点から設けられているが,その趣旨は様々であり,(a)著作物等の利用の性質からして著作権等が及ぶものとすることが妥当でないもの,(b)公益上の理由から著作権等を制限する必要があると認められるもの,(c)他の権利との調整のため著作権等を制限する必要のあるもの,(d)社会慣行として行われており,著作権等を制限しても著作権者等の経済的利益を不当に害しないと認められるもの,というような趣旨に基づいて設けられていると考えられる。

このうち,私的使用のための複製については,次のように考えられ,技術的保護手段の回避を伴ってまで行われる複製についてはこれを適法な複製として認めることは適当ではないと考えられる。
そもそも私的使用のための複製を認めている趣旨は,上記(a)に該当し,個人や家庭内のような範囲で行われる零細な複製であって,著作権者等の経済的利益を害しないという理由によるものと考えられる。一方,技術的保護手段が施されている著作物等については,その技術的保護手段により制限されている複製が不可能であるという前提で著作権者等が市場に提供しているものであり,技術的保護手段を回避することによりこのような前提が否定され,著作権者等が予期しない複製が自由に,かつ,社会全体として大量に行われることを可能にすることは,著作権者等の経済的利益を著しく害するおそれがあると考えられるため,このような,回避を伴うという形態の複製までも,私的使用のための複製として認めることは適当ではないと考えられる。
なお,現行著作権法においても,公衆用自動複製機器を用いて行う複製については,社会全体として大量の複製を可能ならしめ,著作権者等の経済的利益を著しく害する形態の複製であるとして,私的使用のための適法な複製から除外されているところである。一方,私的使用のための複製については,幅広い観点から,デジタル化・ネットワーク化の進展とそれに伴う著作物等の利用形態の変化をふまえ,権利者と利用者のバランスを考慮した全体的な見直しが必要であるとの意見,回避を伴う複製を規制することについてのコンセンサスが必ずしも社会一般に形成されているに至っていないとの意見等もあったところである。

図書館等における複製や教育機関における複製等公益上の理由から認められている権利制限規定に基づく利用については,当該規定が設けられている趣旨が,原則として,公益を著作権者等の意思に優先させているものと考えられることから,また,引用等社会慣行として行われており,著作権等を制限しても著作権者等の経済的利益を不当に害しないとして認められている権利制限規定に基づく利用については,技術的保護手段の回避を伴う利用であっても,著作権者等の経済的利益を著しく害するおそれがあるとまでは現状では言えないと考えられることから,それぞれ規制の対象とすることは適当でないと考えられる。一方,これらの場合においても利用実態をよく見極めた上で公益性そのものの見直しを行うべきとの意見もあったところである。
なお,上記(a)の趣旨に該当する権利制限規定には,プログラムの著作物の複製物の所有者によるバックアップやバージョンアップ等のための複製等も該当するとも考えられるが,この場合の複製等は利用に必要と認められる限度において認められるものであり,例えばゲームソフトのバックアップ等のような複製はこれに該当しないと考えられていること,所有者自身の複製等の行為であること等から見て,必ずしも著作権者等の経済的利益を著しく害するとは言えず,規制の対象とすることは適当ではないと考える。

参考:諸外国の立法例

アメリカ法(「外国著作権法令集(29)-アメリカ編-」2007年7月,社団法人著作権情報センター)(抄)

第1201条 著作権保護システムの回避

(a) 技術的手段の回避にかかる違反-

(1) (A) 何人も,本編に基づき保護される著作物へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段を回避してはならない。第1段に掲げる禁止は,本章の制定日*に始まる2年間の終了時に発効する。

* 1998年10月28日

  (B) 著作権のある特定の種類の著作物の使用者が,本編に基づき第(C) 号に定める特定の種類の著作物を権利侵害なく使用するにつき第(A) 号に含まれる禁止により不利益を受け,または続く3年間に不利益を受ける可能性がある場合,当該禁止は当該使用者には適用されない。
  (C) 第(A) 号に掲げる2年間および続く各3年間毎に,連邦議会図書館長は,著作権局長が商務省情報通信担当長官補と協議しその見解について報告説明した上で行う勧告に基づき,第(B) 号に関して,続く3年間に本編に基づき特定の種類の著作物を権利侵害なく使用するにつき第(A) 号に基づく禁止により不利益を受けまたは受ける可能性がある使用者であるか否かを,規則制定手続において決定しなければならない。当該規則制定手続にあたり,連邦議会図書館長は以下を審査しなければならない。
  • (i) 著作権のある著作物の利用可能性。
  • (ii) 非営利的な資料保管,保全および教育目的での著作物の利用可能性。
  • (iii) 著作権のある著作物に使用される技術的手段の回避に対する禁止が,批判,解説,ニュース報道,学習指導,学術または研究に及ぼす影響。
  • (iv) 技術的手段の回避が著作権のある著作物の市場または価値に及ぼす効果。
  • (v) 連邦議会図書館長が適切と考えるその他の要素。
  (D) ・(略) (略)
(2) ・(3)  (略)

(b) 補足的違反行為- (略)

(c) その他の権利等に対する無影響-

(1)本条のいかなる規定も,著作権侵害にかかる本編に基づく権利,救済,制限または抗弁(フェア・ユースを含む) に影響を及ぼさない。

(2)~(4) (略)

(d) 非営利の図書館,文書資料館および教育機関の免責-

  • (1) 本編に基づき認められる行為を行うことを唯一の目的として著作物のコピーを入手するか否かを誠実に決定するためのみに,非営利の図書館,文書資料館または教育機関が商業的利用に供されている著作権のある著作物へのアクセスを行うことは,第(a) 節(1) (A) に違反しない。本項に基づきアクセスを行った著作物のコピーは,
    (A) かかる善意の決定を行うために必要な期間を超えて保管されてはならず,かつ,
    (B) 他のいかなる目的にも使用されてはならない。
  • (2) 第(1) 項に基づき認められる免責は,同一のコピーが他の形態では合理的に入手することのできない著作物についてのみ適用される。
  • (3) ・(5)  (略)

(e) 法の執行,情報活動その他の政府の活動-本条は,合衆国,州もしくは州の分権体の公務員,エージェントもしくは被用者,または合衆国,州もしくは州の分権体との契約に従って行動する者が行う,適法に授権された捜査,保護,情報保全または情報活動を禁じるものではない。本節において,「情報保全」とは,政府のコンピュータ,コンピュータ・システムまたはコンピュータ・ネットワークの弱点を特定し対処するために行われる活動をいう。

(f) リバース・エンジニアリング-

  • (1) 第(a) 節(1) (A) の規定にかかわらず,コンピュータ・プログラムのコピーを使用する権利を適法に取得した者は,独自に創作したコンピュータ・プログラムとその他のプログラムとの互換性を達成するために必要なプログラムの要素であって,回避を行う者にとってそれまで容易に入手することができなかったプログラムの要素を特定し解析する目的のみのために,かかる特定および解析の行為が本編に基づく侵害を構成しない範囲において,当該プログラムの特定の部分へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段を回避することができる。
  • (2) 第(a) 節(2) および第(b) 節の規定にかかわらず,互換性の達成のために必要である場合は,第(1) 項に基づく特定および解析を可能にするために,または,独自に創作されたコンピュータ・プログラムとその他のプログラムとの互換性を達成するために,本編に基づく侵害を構成しない範囲において,技術的手段を回避する技術的手段,または技術的手段により施される保護を回避する技術的手段を,開発し使用することができる。
  • (3) 第(1) 項に基づき許容される行為によって得られた情報および第(2) 項に基づき許容される手段は,第(1) 項または第(2) 項にそれぞれ掲げる者が当該情報または手段を,独自に創作されたコンピュータ・プログラムとその他のプログラムとの互換性を達成するためのみに提供する場合には,本編に基づく侵害を構成せず,また本条以外の適用法に違反しない範囲において他者に提供することができる。
  • (4) 本項において,「互換性」とは,コンピュータ・プログラムが情報を交換し,交換された情報を相互に使用できる機能をいう。

(g) 暗号化研究-

  • (1) 定義-本節において-
    • (A) 「暗号化研究」とは,当該行為が暗号化技術の分野における知識を進歩させまたは暗号化製品の開発を支援するために行われる場合において,著作権のある著作物に使用される暗号化技術の欠点や弱点を特定し解析するために必要な行為をいう。
    • (B) 「暗号化技術」とは,数式またはアルゴリズムを用いて,情報にスクランブルをかけまた解除することをいう。
  • (2) 暗号化研究において許容される行為-第(a) 節(1) (A) の規定にかかわらず,善意誠実な暗号化研究の行為において,発行著作物のコピー,レコード,実演または展示に適用された技術的手段を回避することは,以下の全てをみたす場合には当該規定の違反とならない。
    • (A) 行為者が,当該発行著作物の暗号化されたコピー,レコード,実演または展示を適法に入手したこと。
    • (B) 当該行為が暗号化研究を行うために必要であること。
    • (C) 当該者が,回避の前に許可を得るよう誠実に努力したこと。
    • (D) 当該行為が本編に基づく侵害を構成せずまたは本条以外の適用法(第18編第1030条および1986年コンピュータ詐欺・濫用法によって修正された第18編の規定を含む) の違反とならないこと。
  • (3) 免責を決定する要素-第(2) 項に基づく免責を受けることの可否を決定するにあたって考慮されるべき要素は,以下を含む。
    • (A) 暗号化研究により得られた情報が流布されたか。もし流布された場合には,暗号化技術の知識または開発を進歩させるべく合理的に計算された方法で流布されたか,それとも,本編における権利侵害または本条以外の適用法の違反(プライバシーの侵害または安全の侵害を含む) を容易にする方法で流布されたか。
    • (B) 行為者が暗号化技術の分野において,正当な研究に従事し,雇用され,または適切に訓練もしくは経験を積んでいるか。
    • (C) 行為者が,技術的手段の適用されている著作物に対する著作権者に,研究結果の研究の文書を通知しているか,また,いつ通知したか。
  • (4) ・(5) (略)

(h)未成年者に関する例外- (略)

(i) 個人識別情報の保護- (略)

(j) セキュリティ検査-

  • (1) 定義-本節において,「セキュリティ検査」とは,コンピュータ,コンピュータ・システムまたはコンピュータ・ネットワークの所有者または運営者の許諾を得て,セキュリティ上の欠点または弱点を善意誠実に検査し,追究しまたは補正することを唯一の目的として,当該コンピュータ,コンピュータ・システムまたはコンピュータ・ネットワークにアクセスを行うことを意味する。
  • (2) セキュリティ検査において認められる行為-第(a) 節(1) (A) の規定にかかわらず,セキュリティ検査の行為を行うことは,かかる行為が本編における権利侵害または本条以外の適用法(第18編第1030条および1986年コンピュータ詐欺・濫用法により修正された第18編の規定を含む) の違反とならない場合には,当該条項の違反とならない。
  • (3) 免責を決定する際の要素-第(2) 項に基づき免責を受けることができるか否かを決定するにあたって考慮されるべき要素は,以下を含む。
    • (A) セキュリティ検査から得られた情報が,コンピュータ,コンピュータ・システムもしくはコンピュータ・ネットワークの所有者もしくは運営者におけるセキュリティを促進するためのみに使用されたか,または,コンピュータ,コンピュータ・システムもしくはコンピュータ・ネットワークの開発者と直接共有されたか。
    • (B) セキュリティ検査から得られた情報が,本編における権利侵害または本条以外の適用法の違反(プライバシーの侵害またはセキュリティの侵害を含む) を容易にしないような方法で使用されまたは保持されたか。
  • (4) セキュリティ検査のための技術的手段の使用-第(a) 節(2) の規定にかかわらず,第(2) 項に掲げるセキュリティ検査の行為を行うことのみを目的として技術的手段を開発し,製作し,頒布しまたは使用することは,かかる技術的手段が他に第(a) 項(2) に違反する事由がない場合には,第(a) 節(2) の違反とはならない。

(k) 特定のアナログ装置および特定の技術的手段- (略)

●「情報社会における著作権および関連権の一定の側面のハーモナイゼーションに関する欧州議会およびEU理事会のディレクティブ 2001/29/EC」翻訳 原田文夫,2001年10月,社団法人著作権情報センター

(前文)

(50)そのようなハーモナイズされた法的保護は,ディレクティブ91/250/EECが規定する保護の特定の条項に影響を及ぼさない。特に,それはもっぱら同ディレクティブが対象としているコンピュータ・プログラムに関して用いられる技術的手段の保護に適用してはならない。それは,ディレクティブ91/250/EEC第5条第3項または第6条の条件に従って行われる行為に必要な技術的手段を回避する,いずれかの方法の開発または使用を抑止しまたは禁止するものであってはならない。同ディレクティブ第5条及び第6条は,もっぱらコンピュータ・プログラムに適用される排他的権利の例外を定めている。

第5条
例外および制限

  • 1. (略)
  • 2. 加盟国は,次の場合に,第2条に規定する複製権に,例外または制限を規定することができる。
    • (a)なんらかの種類の写真技術の使用またはその他の工程により行われる紙または同様の媒体への複製に関する場合
    • (b)(略)
    • (c)公衆がアクセスできる図書館,教育的施設もしくは博物館により,または記録保存書により行われ,直接にも間接にも経済的または商業的のためでない,特定の複製行為に関する場合
    • (d)放送機関が自己の施設手段により,自己の放送のために行う著作物の一時的記録に関する場合。これらの記録物の公的記録保存所における保存は,その記録が資料として特別の性質を有することを理由として認められる。
    • (e)権利者が公正な補償を受けることを条件として,病院または刑務所のような非商業目的で営む社会施設により行われる放送の複製に関する場合
  • 3. 加盟国は,次の場合に,第2条および第3条に規定する権利に,例外または制限を規定することができる。
    • (a)不可能であることが明らかでない限り著作者の氏名を含む出所が明示されることを条件として,かつ非商業的目的を達成することにより正当化させる範囲において,もっぱら授業または学術研究のための例証を目的とする利用。
    • (b)特定の障害により要求される限度において,直接障害に関係し,かつ,非商業的性質を持つ障害者のための利用
    • (c)・(d) (略)
    • (e)公共の安全のための,または行政,立法もしくは司法手続きの適当な行為もしくは報告を補償するための利用
    • (f)~(o) (略)
  • 4. ・ 5. (略)

第6条
技術的手段に関する義務

  • 1. 加盟国は,関係する者が,その目的のためであることを知り,または知るべき合理的な理由を有しながら行う,いずれかの効果のある技術的手段の回避に対して,適切な法的保護を与えるものとする。
  • 2. ・ 3. (略)
  • 4. 第1項に規定する法的保護にかかわらず,権利者とその他の関係者との間の協定を含み,権利者がとる任意の手段がないときは,加盟国は,第5条第2項(a),第2項(c),第2項(d),第2項(e),第3項(a),第3項(b)または第3項(e)に従い国内法に規定される例外または制限の受益者に,その例外または制限から利益を受けるのに必要な範囲で,かつ,その受益者が保護のある著作物その他の目的物に法律上アクセスできる場合に,その例外または制限から利益を受ける方法を権利者が提供することを保証する適当な手段をとるものとする。
  • 加盟国はまた,私的使用のための複製がすでに権利者により可能にされていない場合は,関係する例外または制限から利益を受けるのに必要な範囲で,かつ,第5条第2項(b)および第5項の規定に従って,権利者がこれらの条項に従い複数の数に関する適正な手段を採用することを妨げることなく,第5条第2項(b)に従い規定される例外または制限の受益者に関して,そのような手段をとることができる。
  • 任意の協定の実施において適用されるものを含み,権利者により任意に適用される技術的手段,および加盟国によりとられる手段の実施において適用される技術的手段は,第1項に規定する法的保護を享有するものとする。
  • 第1文および第2文の規定は,公衆のそれぞれが個別に選択する場所および時期においてアクセスできるように合意された契約条件に基づき,公衆に利用可能にされる著作物その他の目的物には適用されない。
    (略)

ドイツ法(「外国著作権法令集(37)-ドイツ編-」2007年3月,社団法人著作権情報センター)

第69a条 保護の対象

(1)~(4) (略)

(5) 第95a条から第95d条までの規定は,コンピュータ・プログラムに適用されない。

第95a条 技術的手段の保護

(1) この法律に基づき保護を受ける著作物その他この法律に基づき保護を受ける保護対象の保護のために有効な技術的手段は,それを回避する行為が当該著作物若しくは保護対象へのアクセス又はそれらの使用を可能にすることを目的として行われることを,その行為者が知り,又は諸般の事情に照らし知るべきものと認められるときは,権利保有者の同意を得ることなく回避してはならない。

(2)~(4) (略)

第95b条 制限規定の執行

(1) 権利保有者が,技術的手段をこの法律の定めるところに従い用いるものと認められる場合において,次の各号に定めるいずれかの規定による受益者が,著作物又は保護対象に合法的にアクセスするものと認められるときは,権利保有者は,その者に対して,当該規定を必要と認められる限度において行使し得るために不可欠な手段を,処分に供する義務を負う。

  • 1.第45条(司法及び公共の安全)
  • 2.第45a条(障害者)
  • 3.第46条(教会,学校又は授業の用に供するための編集物)
  • 4.第47条(学校放送)
  • 5.第52a条(授業及び研究のための公衆提供)
  • 6.第53条(私的及びその他の自己の使用のための複製)
    • a)第1項 複製が,任意の写真製版の方法その他類似の効果を有する方法を用いて,紙又は類似の支持物に行われるものと認められるとき。
    • b)第2項第2文第1号
    • c)第2項の第2文第1号又は第3号と併せ,同項第1文第2号
    • d)第2項の第2文第1号及び第3文とそれぞれ併せ,同項第1文第3号及び第4号
    • e)第3項
  • 7.第55条(放送事業者による複製)
  • 第1文に基づく義務の排除を目的とする合意は,無効とする。

(2) 前項の求めに従わない者に対して,同項に定めるいずれかの規定の受益者は,それぞれの権限を実現するために必要とされる手段を処分に供するよう,請求することができる。提供された手段が,権利者の団体と制限規定による受益者との間における合意に適合するときは,その手段は十分であるものと推定する。

(3) 前二項は,著作物及びその他の保護対象が,契約上の合意に基づき,公衆の構成員がその選択に係る場所及び時においてそれらを使用できる方法で公衆に提供されるものと認められるときは,適用しない。

(4) 第1項から生ずる義務を履行するために用いられる技術的手段は,任意になされた合意を実施するために用いられる手段を含め,前条に基づく保護を受ける。

●フランス法(「外国著作権法令集(30)-フランス編-」2001年3月,社団法人著作権情報センター)

第331の5条 ソフトウエアを除く著作物,実演,レコード,ビデオグラム若しくは番組の著作権者若しくは著作隣接権者によって許諾されていない使用を防ぎ,又は制限するための効果的な技術的手段は,この章に定める条件のもとに保護される。

  • 【2】・【3】 (略)
  • 【4】 技術的手段は,著作権の尊重において,相互利用の効果的な実行を妨げる効果を有してはならない。技術的手段の提供者は,第331の6条及び第331の7条に定める条件において,相互利用に不可欠な情報へのアクセスを提供する。
  • 【5】 この章の規定は,通信の自由に関する1986年9月30日付法律第86-1067号第79の1条から第79の6条まで及び第95条に基づく法的保護を無効にするものではない。
  • 【6】 技術的手段は,この法典で規定された権利,及び権利者により許諾された権利の範囲内で著作物又は保護目的物の自由な使用を妨げるものではない。
  • 【7】 この条の規定は,この法典第122の6の1条の規定にかかわらず,適用される。

第331の6条 第331の17条でいう技術的手段規制局は,第331の5条でいう技術的手段が,相互の非互換性又は相互利用の不能により,著作物の使用に当たって,ソフトウエアを除く著作物の著作権者又は実演,レコード,ビデオグラム若しくは番組の隣接権者が意図的に決定した制限以外の追加的又は独立的制限を付加するような結果をもたらさないことを確保する。

第331の7条 ソフトウエアの編集者,技術的システムの製造者及びサービスの利用者はすべて,相互利用に不可欠な情報へのアクセスを拒否された場合には,技術的手段規制局に対し,当事者の権利の尊重において存在するシステムとサービスの相互利用を保証すること,及びこの相互利用に不可欠な情報を技術的手段の権利者から得ることを求めることができる。規制局は申立てから2ヶ月以内に決定を下す。

  • 【2】相互利用に不可欠な情報とは,著作物又は保護目的物について元来定められている使用条件の尊重のため,技術的手段によって保護された著作物又は目的物及び挿入された電磁的形式の情報に,デジタル経済における信頼のための2004年6月21日付法律第2004-575号第4条にいう開放型プロトコルも含め,技術的装置がアクセスできるために必要な技術図書及びプログラミングのインターフェースをいう。
  • 【3】技術的手段の権利者は,受益者に対し,ソースコード及び独立しかつ相互利用可能なソフトウエアに関する技術図書の公表を断念するよう要求することはできない。ただし,その公表が当該技術的手段の安全性及び実効性に深刻な損害をおよぼす効果があることを証明する場合はこの限りではない。
  • 【4】規制局は,関係当事者から提出された相互利用に反する行為を終結させるための契約書を受理することができる。当事者間の合意が調わない場合には,規制局は,利害関係人それぞれの見解を徴したのちに,理由を付した申立て拒絶の決定を行うか,又は必要に応じて罰金強制を付して,原告が相互利用に不可欠な情報へのアクセスを得るための条件,技術的手段の効果と完全性を確保するために尊重すべき事項,並びに保護された内容へのアクセス及び利用の条件を命令する。規制局が宣告した罰金強制の額は,規制局により確定される。
  • 【5】規制局の決定の不遵守又は規制局が受理した契約の不履行の場合,規制局は制裁金を科す権限を有する。制裁金はその都度,利害関係人に及ぼした損害の規模,制裁を科される機関又は企業の状況及び相互利用に反する行為が繰り返される場合にはその反復性に応じて決定される。決定は個別に理由を付して行われる。最高額は,企業の場合,相互利用に反する行為がなされた年度の前の年度以降で最高の売上高を収めた年度の税抜き世界的総売上高の5%とし,その他の場合は1.5百万ユーロとする。
  • 【6】・【7】 (略)

第331の8条 私的複製の例外及びこの条に定める例外の享受は,この条および第331の9条から第331の16条までの規定により保障される。

  • 【2】第331の17条にいう技術的手段規制局は,技術的保護手段の実施が次に定義される例外を受益者から奪う効果をもたらさないことを確保する。
    -第122の5条第2号,2009年1月1日以降第3号のe,第7号及び第8号
    -第211の3条第2号,2009年1月1日以降第3号の最終段落,第6号及び第7号
    -第342の3条第3号及び2009年1月1日以降第4号
  • 【3】第331の9条から第331の16条までの規定を条件として,規制局は,上記の例外の実行方法を定め,かつ,特に,著作物又は保護目的物の型,公衆への多様な伝達方法及び使用可能な保護技術によって提供される可能性に基づき,私的複製の例外の範囲内で認められる複写の最低数を定める。
  • 注:上記の【2】に掲げる各規定の内容は次のとおり。
    • -第122の5条第2号(私的使用目的の複製),2009年1月1日以降第3号のe(非営利の教育研究目的の上演等),第7号(障害者のための複製等)及び第8号(非営利図書館等における複製)<以上,著作権関係>
    • -第211の3条第2号(私的使用目的の複製),2009年1月1日以降第3号の最終段落(非営利の教育研究目的の上演等),第6号(障害者のための複製等)及び第7号(非営利図書館等における複製)<以上,著作隣接権関係>
    • -第342の3条第3号(障害者のための抽出等)及び2009年1月1日以降第4号(非営利の教育研究目的の抽出等)<以上,データベース製作者の権利関係>

第331の9条第331の5条に定める技術的保護手段を導入する権利者は,その目的として複写の数の制限を適用することができる。しかしながら,権利者は,その実施により,第331の8条にいう例外の受益者から実質的な例外の享受を奪うことのないよう有効な措置をとるものとする。これら技術的手段の決定に当たり,権利者は,公認消費者団体及びその他の利害関係主体と協議を行う努力をする。 【2】この条の規定は,技術がそれを可能とする限りにおいて,これら例外の実質的利益を著作物又はレコード,ビデオグラム若しくは番組への適法なアクセスに従属させることができ,かつ,その正常な利用を阻害する,又は,著作物若しくは保護目的物の権利者の正当な利益を不当に侵害する効果をもたらさないことを確保するものである。

第331の10条 権利者は,著作物又はその他の隣接権による保護目的物が,当事者間で合意された契約の規定に従って各自が選択した場所及び時間にアクセスできるような方法で公衆に提供される場合には,第331の9条の措置をとる義務を負わない。

●イギリス著作権法(事務局仮訳)

第296条のZA 技術的手段の回避

  • (1)この条は,以下の場合に適用する-
    • (a) 効果的な技術的手段がコンピュータプログラム以外の著作物に適用されている場合であって
    • (b) ある者(B)が,それらの手段を回避する行為を行っていて,自らがその目的を達成しようとしていることを知り又は知っていることにつき合理的な理由がある場合
  • (2)この条は,暗号研究目的で技術的保護手段の回避を行う者については,その者がその回避行為を行うこと,又はその研究から情報を入手することによって,著作権者に不利益を及ぼすことがない限り,適用しない。
  • (3) 次の者は,Bに対して,著作権者が著作権侵害について有するのと同様の権利を有する。
    • (a) 効果的な技術的手段が施されている著作物について,
      • (i) 複製物を公衆に発行している者,又は
      • (ii) 公衆に伝達している者及び
    • (b) 著作権者又はその排他的被許諾者がパラグラフ(a)に規定する者に当たらない場合は,その者
  • (4)~(7)  (略).

第296条のZE 効果的な技術的手段が「許される行為」を妨げている場合の救済

  • (1) この条において,
    「許される行為」とは,表5Aの第1部に挙げられた条項に基づいて著作物に対してなされる著作権の本質に反しない行為を意味する。
    「自主的な手段又は合意」とは,それによって,著作物の利用者が許される行為を実行することが出来るようにする効果を持つ以下のことを意味する。
    • (a) コンピュータプログラム以外の著作物に関して,著作権者,排他的被許諾者,複製物を発行する者又は著作物を公衆に伝達する者によって採用される自主的な手段。
    • (b) コンピュータプログラム以外の著作物に関して,著作権者や排他的被許諾者,複製物を発行する者又は著作物を公衆に伝達する者と他方当事者との間でなされる合意。
  • (2) コンピュータプログラム以外の著作物に施された効果的な技術的手段によって,ある者が許される行為を行うことが妨げられている場合には,その者又はそれらの者を代表する者は国務大臣に対して不平の通知を提出することが出来る。
  • (3) 不平の通知を受け取った場合,国務大臣は当該著作物の著作権者又は排他的利用権を有する者に対して,以下に掲げる目的の達成に不可欠又は適切だと認める命令を出すことが出来る。
    • (a) 当該不平の原因が存在する著作物に関して,適切な自主的な手段又は合意が存在するかどうかを確認すること。
    • (b) (自主的な手段又は合意が存在しないと認められた場合には),許される行為による利益を享受するのに必要な範囲で,当該不平を申し立てている者が許される行為を実行するのに必要な手段が,当該著作物の著作者又は排他的被許諾者によって,提供されることを保証すること。
第296条のZE 表5A

296条のZEが適用する許される行為
第1部
著作権の例外

  • 第29条(研究及び私的学習)
  • 第31条のA(私的使用目的で作成する一部の利用可能な複製物)
  • 第31条のB(視覚障害者のための複数の複製物)
  • 第31条のC(中間的複製物及び録音物)
  • 第32条(1),(2)及び(3) (授業又は試験を目的として行われること)
  • 第35条(教育放送機関による録音・録画)
  • 第36条(発行された著作物からの文章の教育機関による複写複製)
  • 第38条(司書による複製:定期刊行物の記事)
  • 第41条(司書による複製:他の図書館への複製物の提供)
  • 第42条(司書又は文書保存者による複製:著作物の代替複製物)
  • 第43条(司書又は文書保存者による複製:ある種の未発行著作物)
  • 第44条(輸出の条件として作成を必要とされる著作物の複製物)
  • 第45条(議会及び司法手続き)
  • 第46条(王立委員会及び法定調査)
  • 第47条(公衆の閲覧に供される,又は公的に登録されている資料)
  • 第48条(公務の過程で国王に伝達される資料)
  • 第49条(公的記録)
  • 第50条(法定の権限の下で行われる行為)
  • 第61条(民謡の録音物)
  • 第68条(放送を目的とする付随的録音・録画)
  • 第69条(放送の監督及び管理を目的とする録音・録画)
  • 第70条(タイムシフティングを目的とする録音・録画)
  • 第71条(放送の写真)
  • 第74条(放送の字幕入り複製物の提供)
  • 第75条(保存を目的とする録音・録画)
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