(平成21年第6回)議事録

1 日時

平成21年9月18日(金) 13:00~14:51

2 場所

三田共用会議所 3階 大会議室

3 出席者

(委員)
青山,上野,大渕,小泉,清水,末吉,多賀谷,道垣内,土肥,中村,松田,村上,山本の各委員
(文化庁)
戸渡長官官房審議官,永山著作権課長,ほか関係者
(ヒアリング出席者)
日本新聞協会
山浦 延夫(新聞著作権小委員会委員長,日本経済新聞社 法務室次長兼知的財産権管理センター長)
村岡 繁(新聞著作権小委員会副委員長,産経新聞東京本社 調査資料部長兼知的財産管理センター開設準備室長)

4 議事次第

  1. 1 開会
  2. 2 議事
    1. (1)権利制限の一般規定について
    2. (2)その他
  3. 3 閉会

5 配布資料一覧

資料1
資料2
資料3
資料4
資料5
資料6
資料7
参考資料

6 議事内容

【土肥主査】
それでは,定刻でございますので,ただいまから文化審議会著作権分科会法制問題小委員会の第6回を開催いたします。
本日はお多忙の中ご出席をいただきまして,まことにありがとうございます。
議事に入ります前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照いたしますと特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場をしていただいておるところでございますけれども,特にご異議はございませんでしょうか。
(「異議なし」の声あり)
【土肥主査】
それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことといたします。
それでは議事に入りますけれども,初めに,議事の段取りについて確認をしておきたいと思います。本日の議事は,前回に続きまして権利制限の一般規定となっております。今回は,前回までに日程の調整がつきませんでした日本新聞協会から,第2回の本小委員会で了承をいたしました利害関係者ヒアリング事項に基づいた意見発表を行っていただきます。そして,その後に質疑応答を,これまで同様に行いたいと存じます。それから,続けて,今回は関係団体などから提出がありました意見書等を議場配布しております。これについては事務局から紹介がございます。そして,その次に前回までの本小委員会に出されましたご意見と論点を整理し,その後今後の本小委員会での議論の進め方について検討をしていきたいと思っております。
それではまず,事務局から配布資料の確認と,出席者のご紹介をお願いします。
【池村著作権調査官】
お手元の議事次第の下半分,配布資料一覧をごらんください。本日資料につきましては資料1から資料7,そして参考資料1となっております。資料1がこの後のヒアリングで用います日本新聞協会の提出資料でございます。資料2が特定非営利活動法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパンの提出資料,資料3が日本知的財産協会・デジタルコンテンツ委員会提出資料,資料4がアマゾンジャパン株式会社,グーグル株式会社,ニフティ株式会社及びヤフー株式会社の提出資料でございます。資料2から資料4につきましては,後ほど事務局から簡単に内容を紹介させていただきます。資料5が権利制限の一般規定に関する検討事項について(案),資料6がヒアリング等で出された主な意見の概要について(案),そして資料7がワーキングチームの設置についての案でございます。資料5から資料7につきましても後ほど事務局から説明をさせていただきます。参考資料1としましてヒアリング出席者一覧となります。過不足等ございましたらお近くの事務局までご一報ください。よろしいでしょうか。
それでは,参考資料1をごらんください。本日のヒアリング出席者一覧となっております。まず,日本新聞協会より,新聞著作権小委員会委員長,日本経済新聞社法務室次長兼知的財産権管理センター長の山浦延夫様でございます。同じく,新聞著作権小委員会副委員長,産経新聞東京本社調査資料部長兼知的財産管理センター開設準備室長の村岡繁様でございます。
以上でございます。
【土肥主査】
それでは,議題に入りたいと思います。議事の進め方につきましては,まず今,ご紹介のあった日本新聞協会から権利制限の一般規定の導入に関するご意見を10分程度で発表いただきまして,発表の後に質疑応答の時間を5分程度とりたいと思います。その後事務局から議場配布の意見書等についてのご紹介,続いて今後の検討が必要な事項とワーキングチームの設置についての説明を行い,その後質疑応答,自由討議を行いたいと思っております。
それでは,日本新聞協会・山浦様,村岡様,どうぞよろしくお願いいたします。

(1)権利制限の一般規定について

[1]日本新聞協会からのヒアリング
【山浦氏】
それでは,資料に沿ってご説明させていただきたいと思います。権利制限の一般規定につきましては,論点が余りにも多岐にわたっておりまして,法制問題小委員会の議論でもはっきりした方向性がまだ見えていないと認識しております。そのような段階において,日本新聞協会として一般規定導入の是非や見解を述べるというのは困難であります。少なくとも一般規定導入の必要性がどのような背景でいわれているのかについて,十分な情報が提供されて初めて議論ができるというふうに認識しております。したがいまして,本日述べる意見は,日本新聞協会全加盟社の共通意見というようなことではなくて,新聞・通信社10社で構成いたします当協会の新聞著作権小委員会における各社から出された意見を取りまとめたものであるということを最初にお断りしておきたいと思います。
問題点・疑問点の前に,新聞著作権小委員会では,権利者の立場から権利制限の一般規定導入に否定的な意見が大勢を占めているということで,背景説明をさせていただきたいと思います。
1点目として,権利侵害と権利者の訴訟負担の増大ということが問題点として挙げられるかと思います。権利制限の一般規定があるから記事利用は自由だというように短絡的に誤解ないし曲解するような人が増えて,著作権侵害行為が増えるという恐れがあります。また,権利制限の一般規定を導入した場合,権利者が異議を唱えるためには訴訟などを提起するようなことになりますが,裁判費用の増大など,権利者側に新たな負担を強いるということも懸念されるかと思います。
2点目として,権利制限の一般規定導入の議論の前提になるようなところですが,侵害紛争の把握,解決といったことです。国内のインターネットなどでの著作権侵害の解決の実態を十分に把握した上で,侵害の有無の認定,それから紛争解決が容易に行われるように実効性ある制度を整備することについて,あわせて議論することが不可欠ではないかというふうに考えております。
3点目としまして,一般規定導入のねらいが明らかになっていないという点を挙げたいと思います。知的財産戦略本部においては,一般規定導入によって技術の進歩や新たなビジネスの出現に柔軟に対応できるという法制度を目指すとしていますけれども,例えばどのような団体,業界によって,どのようなビジネスが創出できるのかといったところを具体的に示していただきたいというふうに考えています。
4点目として,権利制限の一般規定を導入した場合,米グーグルの書籍の無断デジタル化,いわゆるブック検索というサービスですけれども,こうした行為が国内でも,グーグルに限らず行われる可能性があります。同社は当初,フェアユースを主張して書籍のスキャンを始めたというような経緯もあります。このような事態が新たなビジネスの出現として想定されているのであれば,現行著作権制度の大転換につながりかねないと認識しています。慎重に議論すべきであり,拙速に結論を出すべきではないというふうに考えます。
5点目としては,日米には法体系などの違いがあるということが挙げられます。そもそも日本の法律は制定法に重きを置く大陸法系に属するということに対して,米国法は英米法系といった法体系に属して,フェアユース法理の全体像というのは判例の積み重ねによって形成されるということです。法体系そのものが異なることから,権利制限の一般規定は日本にはなじみにくいのではないでしょうか。新たな権利制限を加える場合には従来どおり個別規定を設ければ対応は十分可能だと認識しています。権利制限の一般規定を設ける必然性がどれだけあるのか,疑問に思います。少なくとも一般規定導入の必要性について十分納得できる材料がまだ示されていないというふうに考えております。
以上,問題点・疑問点を述べましたけれども,新聞協会新聞著作権小委員会としては,文化庁にメリット,デメリットについて十分審議していただき,権利制限の一般規定導入には慎重な対応を望みたいと考えております。
これまで新聞著作権小委員会としてまとめた共通意見を述べましたけれども,これとは別に,各社独自の意見が出されていますので,4点ほど紹介させていただきます。まず,著作権法50条の著作者人格権への影響に関するものです。著作者が自分の同意していない利用態様では使ってほしくないというふうに望んでいる場合に,権利制限の一般規定では同一性保持権というのはどう守られるのかといったところを慎重に議論すべきではないかという意見です。著作権法が著作者個人の基本的な表現の権利を尊重することによって文化の発展に寄与してきたというような経緯がございますけれども,創作意欲の低下,ひいては産業の発展にもマイナスになるというような意見もあります。
次に,私的使用のための複製に関する意見がありました。日本では私的使用のための複製が著作権法第30条にございますけれども,米国では個別規定としては設けられていません。この日本の個別規定を残したまま一般規定を導入するのかどうかといったところも現状でははっきりしていない中で,この個別規定との関係で混乱が心配されるというような意見です。さらに,権利制限の一般規定の導入によって,デジタル社会に対応したいというのであれば著作権法に屋上屋というか,そういったものを重ねることになってしまう。急激にビジネスローに傾斜させるような権利制限の一般規定の導入がどうしても必要ならば,デジタル分野に限った著作権制度を新たに制定するほうが一般的に理解しやすいのではないかといった意見が聞かれました。
また,権利制限の一般規定を指し示す表現としまして,いわゆる日本版フェアユースというような言い方をされますけれども,フェアユースという言葉がひとり歩きをしているというふうに思われます。何をもってフェアとするのか,みなされるのか,もっと明確で,具体的な基準を示していただきたい。そうでなければ,そもそも議論のしようがないといったような意見がございました。
各社独自の意見として以上の4点を紹介いたしました。
繰り返しになりますけれども,新聞協会新聞著作権小委員会としては,権利制限の一般規定導入の検討に当たっては,メリット,デメリット,さらに現行制度との整合性なども十分に議論していただいて,慎重に対応していただくよう強く希望いたします。
以上でございます。
【土肥主査】
それでは,ただいまの説明につきまして,何か,ご質問,ご意見ございましたら,お出しください。格別よろしいですか。
それでは,どうもありがとうございました。
それでは,続いて事務局から配布した意見書等についての紹介をお願いいたします。
[2]関係団体から提出された意見書等の紹介
【池村著作権調査官】
それでは,資料2から資料4をごらんください。
まず資料2でございますが,特定非営利活動法人クリエイティブ・コモンズ・ジャパンが実施した権利制限の一般規定に関するアンケートの調査結果,資料3は,日本知的財産協会・デジタルコンテンツ委員会作成に係る意見書,そして資料4はアマゾンジャパン株式会社,グーグル株式会社,ニフティ株式会社,ヤフー株式会社の4社連名の意見書となり,それぞれ事務局あてに提出されているものであります。これらにつきまして,それぞれ事務局から簡単に内容を紹介させていただきます。
まず,資料2のクリエイティブ・コモンズ・ジャパンのアンケート結果でございます。アンケート調査の概要につきましては資料2の2ページの中ほどに記載がございます。インターネットを通じてアンケートを実施し,有効回答は912件であったとのことでございます。年齢分布,性別,その他の回答者の属性については27ページの参考資料1に,そして具体的な質問内容と回答の選択肢等については29ページ以降の参考資料2にそれぞれ記載がございますので,そちらをごらんいただければと思います。時間の関係もございますので,ここでは1ページから2ページにかけて記載されております調査結果のまとめ部分のうち,主要な部分を紹介させていただきたいと思います。
アンケート結果からは,まず(1)といたしまして,現行法上違法とされる著作物の利用行為であってもクリエーターやユーザーの多くがフェアだと考えるものが複数存在するということが紹介されております。
なお,ここでいう現行法上違法とされる著作物の利用行為の具体的内容と,それぞれにおけるフェアと考える度合いにつきましては,3ページ以降にグラフでまとめられております。それによりますと,写り込みや社内向きミーティング用の利用ですとか,絶版の本や劣化が進むフィルムの電子アーカイブ化による保存についてはフェアと考える度合いが比較的高く,その一方で,パロディや2小節ほどの音源利用・いわゆるサンプリングのようなもの,そして着うた作成サービス,具体的には個人が買ったCDの曲を着うたのフォーマットに変換してその人にだけ送信するような有料サービスについては意見が割れているということでございます。
それから,(2)では,創作活動の頻度,創作活動を通じた収入の有無と各利用行為がフェアであると考える度合いとの間には相関関係は認められないという分析が紹介されております。
また,(4)では,個別規定の立法と一般規定の導入のどちらが望ましいかという問いにつき,一般規定の導入を支持する意見が61%を占めることが紹介されており,その支持,不支持等の具体的な理由につきましては12ページと13ページに記載がございます。
さらに,(7)では,仮に一般規定を導入する場合の考慮要素について,元の作品に対して新たな創作性をつけ加えているかを考慮すべきという要素が多くの支持を集めたことが紹介されております。ここで,アンケートで意見を聞いている各考慮要素の具体的な内容と回答の割合につきましては19ページから20ページにかけて記載がございますので,そちらをごらんいただければと思います。また,これ以外に自由回答として寄せられた考慮要素につきましては22ページに紹介されております。
その他,(8)では,一般規定を導入する場合には著作隣接権も制限対象とすべきとの意見が61%占めたこと,(9)では,一般規定を導入する場合に著作者人格権も制限対象とすべきかについては,賛成意見と反対意見が大きく分かれたことが紹介されております。
アンケート結果の概略は以上となりますが,具体的な調査結果,そしてその詳しい分析につきましては2ページ以降に記載がございますので,そちらを別途ご参照いただければと思います。
続きまして,資料3をごらんください。こちらは日本知的財産協会・デジタルコンテンツ委員会の意見書につき,簡単に内容を紹介させていただきます。
まず,1項で,一般規定導入の是非について意見が述べられており,結論としては,導入をすべきとのご意見でございます。そして,その理由としては,現行法のもとでは著作物の利用について必ずしも権利者の正当な利益を不当に害しないと考えられる場合であっても著作権法を形式的に適用すると著作権侵害になり得る不都合が生じており,企業実務に支障を来すおそれがあること,新規サービス創出に当たって著作権侵害のおそれを回避するための過剰な萎縮効果が生じており,イノベーション力強化の観点から望ましくないこと,が上げられており,個別規定の追加では変化のスピードが早い現代においてタイムリーな対応ができないとのご指摘であります。
続いて,導入を想定している一般規定の内容につきましては第2項に記載がありまして,個別の限定列挙方式による権利制限規定の受け皿として機能し得る権利制限の一般規定であるとのことでございます。
さらに,3項では,権利制限の一般規定により制限対象となると考えている利用行為が上げられており,企業内における著作物の利用として8つの利用行為,写り込みなどの著作物の付随的利用として4つの利用行為,研究開発目的の著作物の利用として3つの利用行為,商品やサービスの説明,デモ目的の著作物の利用として2つの利用行為,ネットワークサービスに関連する複製などとして2つの利用行為,プログラムの著作物の利用として3つの利用行為,媒体変換のための著作物の複製として1つの利用行為,そして行政機関による著作物の利用として1つの利用行為がそれぞれ具体的に列挙されております。各利用行為の具体的な中身につきましてはそれぞれ本文をご参照ください。
最後に,検討に際して留意を希望する事項として,仮に一般規定を導入する場合,個別規定の反対解釈等により一般規定の射程が過度に限定的にならないよう配慮が必要であること,一般規定の具体的要件を検討する際には広く意見聴取の機会を設けることを希望すること,がそれぞれ記載されております。
最後に,資料4に基づき,アマゾンジャパン株式会社,グーグル株式会社,そしてニフティ株式会社,そしてヤフー株式会社による4社連名の意見書につき,簡単に紹介させていただきます。
まず一般規定導入の是非につきましては,導入をする必要があるとのご意見であり,理由としましては,まず[1]として,インターネットの発展への影響ということで,現行法はデジタル化,ネットワーク化の進展に適合しておらず,見直しの必要があるということが上げられております。具体的には,送信の分野において私的領域と公的領域が渾然一体化しては分かちがたくなっている結果,送信の分野においてインターネット利用者に対する過剰な規制となっており,それに伴い事業者に対してもサービス提供の際に過剰な萎縮効果が生じていること等が上げられております。
次に,[2],産業競争力の低下ということで,個別規定を限定列挙する現行法は技術の進歩に法改正が追いつかないという問題が生じており,結果,産業の発達を阻害し,ひいては日本の国際競争力を損なう結果になるとのことであり,特に今後のクラウド時代の競争力強化の観点から一般規定の導入は必須であるとのことでございます。
続いて,[3],いわゆる「形式的侵害」のリスクということで,現行法のもとでは個人が日常的に行う行為や企業内で当然のように日々行われている行為が形式的に著作権法を適用すると権利侵害となり得るという事態が生じており,軽微なものとはいえ,これを放置することになる現行制度は利用者に常にリスクが残るという意味においても,さらに青少年に対する教育という意味においても望ましくないとのご意見であります。
最後に,[4],代替手段の欠如ということで,民法上の権利乱用法理や既存の規定の弾力的な解釈による解決では限界があり,企業が新規サービスを行う際の足がかりとすることは困難であるとのご意見でございます。
続いて,権利制限の一般規定により権利制限されるべき具体的な著作物の利用行為につきましては別紙1に取りまとめられており,インターネットに関連した利用場面として15の利用行為,研究開発における利用場面として5つの利用行為,企業内における利用場面として11の利用行為,教育における利用場面として8つの利用行為,個人による利用場面として22の利用行為,そしてその他として7つの利用行為がそれぞれ具体的に列挙されております。こちらもそれぞれ具体的な行為の中身につきましては別紙1をご参照ください。
次に,3項では,権利制限の一般規定導入の影響と題しまして,まず導入による権利者の負担増加という懸念に対し,米国における実証的検証を根拠に,一般規定の導入によって権利者の負担が過大となるとのおそれは杞憂であるとのご意見が記載されております。また,一般規定の導入はこれにより利用者の萎縮によるビジネスの発展の阻害が防げることになるということであり,これを越えて広い範囲で著作物を自由に使えることになって,ビジネスチャンスが大きく広がることは想定しておらず,したがって権利者に不利益は生じないとのご意見が記載されております。
最後に,その他留意すべき点として,一般規定を導入する場合には権利制限規定と著作者人格権の関係を見直す必要があり,具体的には権利制限規定により著作権侵害とならない場合は人格権侵害も規定されるものとすべきであるとのご意見が記載されております。
以上,非常に駆け足ではございますが,事務局あてに提出のありましたアンケート結果及び意見書につき紹介させていただきました。各委員におかれましては,先般のヒアリングと同様に適宜今後の審議の参考にしていただければと思います。お手数ですが,それぞれ詳細につきましては本文をご参照ください。
事務局からは以上でございます。
【土肥主査】
それでは,これまでの各団体からのさまざまなご意見,それから本日のご意見,これらこれまでの議論の内容を踏まえまして,今後本委員会では検討すべき論点というものを整理する必要があろうかと思います。まずは事務局で整理していただいております配布資料について,まず説明をお願いいたします。
[3]今後の議論の進め方
【池村著作権調査官】
それでは,お手元の資料5と資料6をごらんください。
まず資料5についてですが,こちらは主査ともご相談の上,事務局にて作成しました権利制限の一般規定に関する検討事項の素案でございます。事前に委員の先生方にご案内し,ご確認をお願いしていたものに,一部委員の先生方からいただきましたコメント等を踏まえた若干の修正を施したものでございます。こちらに整理いたしました各検討事項でございますが,一部事務局にて提示させていただいております検討事項もございますが,基本的には,(1)これまで実施した有識者団体や利害関係者からのヒアリングにてヒアリング対象者から提示された検討事項,(2)前回までの本委員会での各委員の先生方のご発言において提示されました検討事項,(3)第1回,第2回の本委員会で報告のありました上野委員らに作成いただきました調査研究報告書で提示されている検討事項,そして(4)昨年実施されました知財戦略本部のデジネット調査会における議論や報告書において提示されている検討事項,で主に構成されておりまして,これらを幅広く抽出した上で整理し,項目別にまとめたものということになります。それでは,以下資料5に基づきまして順次内容をご説明申し上げます。
まず,全体の構成でございますが,大きな検討事項といたしまして,1つは権利制限の一般規定を導入する必要性について,そしてもう一つは,仮に権利制限の一般規定を導入するとした場合の検討課題についてという形で,大きく2つに分けて整理をし,それぞれの中でさらに個別論点を列挙するという構成にしております。
まず,権利制限の一般規定を導入する必要性についてでございます。(1)として,「権利制限の一般規定を導入していないことによる問題点について」ということで,個別規定の限定列挙方式を採用する現行法において,権利制限の一般規定を導入していないことによる問題点,具体的にはいわゆる形式的権利侵害に該当する利用行為の存在や,新規ビジネスへの萎縮効果の存在といった問題点等が現実に生じているのかという問題でございます。
(2)として,「仮に問題が生じているとした場合,既存の個別規定の解釈論や個別規定の改正等による解決の可能性と限界について」,こちらは仮に問題点が生じている場合であっても既存の個別規定の拡大解釈や類推適用,権利濫用,黙次的許諾,本質的特徴の直接感得論等,既存の個別規定等の解釈論,さらには個別規定の改正,当事者間の協議等により解決できる可能性はあるのか,また,このような解決手法には限界があるのかという問題でございます。
続きまして,(3)として,「導入の必要性を考える場合に検討すべき事項」についてであります。こちらについては,「[1]権利者へ与える不利益について」として,権利者の権利制限の一般規定を導入することにより,いわゆる居直り侵害者が蔓延するという指摘についてはどうかという問題がまず上げられるかと思います。
続いて,権利制限の一般規定を導入することにより権利者側の負担を増大させ,実質的な公平性を欠く結果になるという可能性があるという指摘についてどう考えるかという問題,さらには,個人の著作権者に対して訴訟による事後的解決を求めることは過大な負担を負わせるものであり,結果として権利者は泣き寝入りをせざるを得なくなるという指摘についてはどうかという問題でございます。なお,ここで[1]の表題で「((1)との関係で)」と記載させていただいている趣旨でございますが,先ほどご説明した(1)においては一般規定がないことが利用者側へ与える不利益というものを考慮していることから,それと対応して一般規定を導入することが権利者へ与える不利益についても検討すべきであるという趣旨でございます。
次に,[2]として,「権利制限の一般規定の導入による経済的効果について」,こちらは権利制限の一般規定を導入することにより大きな経済的効果が生まれるという指摘についてどう考えるかという問題でございます。
さらに,「[3]比較法的観点からの検討」ということで,諸外国,米英独仏等においては権利制限の一般規定についてどのような議論が行われているのか。権利制限の一般規定を導入していない国,ドイツやフランスなど,あるいはアメリカ型の規定は導入していない,フェアリーディング規定を導入しているイギリスなどにおいては,日本やアメリカなどで問題となっている具体的事例に関してどのような解決が図られているのか。あるいは,米国型フェアユース規定を導入している諸外国や地域,例えば台湾などにおいて,同規定はどの程度機能しているか。もちろんペーパーでは幾つか具体的な国名等を上げておりますけれども,ここに上げられている国や地域に限定するという趣旨では必ずしもなく,他の国の議論も必要に応じて参考にするということでございます。
次に,権利制限の一般規定の導入は諸外国の法制との間でバランスを欠くことにならないかという問題,こちらの2つ目の論点につきましては,デジネット調査会の報告書にて指摘されている問題でございます。
次に,[4]としまして,「法社会学的見地からの検討」でございます。1つ目の検討事項として,フェアユース規定を有する米国と異なり,訴訟を好まず,また和解による解決を好む国民性を有する我が国においては,仮に権利制限の一般規定を導入しても有効に機能しないという指摘についてどう考えるかという問題があるかと思います。あるいは,判例の蓄積がないまま権利制限の一般規定を導入すれば混乱が生じるのではないかという指摘についてどう考えるかという問題があると思います。
次に,[5]として,「憲法学的見地からの検討」でございます。まず,表現の自由と著作権との調整は既存の個別規定のみで十分といえるか,表現の自由と著作権の調整という観点から権利制限の一般規定を導入する必要があるのではないかという指摘についてどう考えるかという問題があると思います。
また,権利制限の一般規定の導入は財産権の保護につき定める憲法第29条に照らして問題はないかという指摘についてどう考えるか。この2つ目の検討事項につきましては後で出てきます補償金の問題とも関係してくるものと思われます。また,第3回の本委員会で配布しておりますデジタルコンテンツ協会の報告書,こちらの63ページでは,利用の公共性,公益性の問題として,土地の問題を例に挙げて,私人である土地所有者がビルを建築するために隣接する他人の土地を強制的に買収することは認められていないこととの対比で,一般規定が適用される場合,著作権者には自分の著作物を他人に使わせる自由がないということをどう正当化するという観点から検討課題として上げられているところでございます。
以上が,「権利制限の一般規定を導入する必要性について」に関する各検討事項でございます。
続きまして,「仮に権利制限の一般規定を導入するとした場合の検討課題について」でございます。まず(1)としまして,「権利制限の一般規定の趣旨(目的)」でございます。権利制限の一般規定の趣旨(目的)につき,(i)いわゆる形式的権利侵害の事例につき,適法の根拠規定を与えるため,(ii)予想できない技術の進歩に迅速に対応するため,(iii)新たなビジネスに挑戦しやすい法的環境を整えるためなど,幾つかの観点からの導入が考えられるが,いずれと考えるのが適当なのかという問題でございます。こちらの分類につきましては,デジネット調査会の第5回で配布されております「権利制限の一般規定の導入に関する検討の視点」という資料で整理されている分類に従っております。
続きまして,「(2)権利制限される利用行為の内容」でございます。まず,権利制限の一般規定により権利制限される利用行為の内容について,権利者の利益を不当に害しないという範囲内ではあるが,(i)いわゆる形式的侵害に該当する利用行為にとどめるのか,(ii)これを越える可能性のある利用行為・技術の進歩や新たなビジネスモデルに伴う利用行為にも広げるのかなど,その範囲をどのように考えるのか,また,利用目的について制限を加える必要はあるのか,という問題でございます。この問題,特に範囲をどのように考えるのかという点は,先ほど(1)としてご説明した規定の目的ともリンクする事項であると思いますが,さまざまな意見がある事項であり,仮に何かしらの権利制限の一般規定を入れるとする場合は,例えば形式的侵害とは何を意味するのかという点も含めて十分詰めておかなければならない問題であると考えております。
次に,権利制限の対象となる権利はすべての支分権と考えてよいか,という問題です。こちらは,例えば今回の改正で新設いたしました検索エンジンに関する47条の6では,複製権,翻案権,自動公衆送信権という3つの支分権が権利制限の対象となっておりますが,このような形で特定の支分権に限定した形で権利制限の対象とするのか。あるいはそうではなく,特段こうした限定はせずに,例えば「利用」という表現ですべての支分権を権利制限の一般規定の対象とするかという問題でございます。
続いて,権利制限される利用行為の内容を決める考慮要素については,(i)現行法で使用されている規定の文言,(ii)米国法におけるフェアユース規定の文言及び同規定に関する裁判例における判断基準,そして(iii)ベルヌ条約第9条第2項等の文言などが参考になると考えられるがどうか。この(i)の現行法で使用されている規定というのは,例えば20条2項4号の「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ないと認められる」ですとか,32条の「公正な慣行に合致する」や,「目的上正当な範囲内」,あるいは34条1項等に見られる「必要と認められる限度において」などがそのようなものに該当するものと思われます。
また,ここでは「など」ということで具体的な例示は省略させていただいておりますが,その他米国以外にも諸外国の立法例も必要に応じて参考にしてはどうかという趣旨も当然ながら含んでおります。
続きまして,補償金支払等義務を合わせて設け,中間的な解決の余地を残すべきか,という問題もあるかと思います。
続いて,現行法の下で裁判所が権利侵害と判断した利用行為が権利制限の一般規定の導入により侵害となり得ると考えるのかどうか,という問題です。こちらの問題は,これまでの本委員会での議論では,従来いわゆる間接侵害の問題として裁判所で争われた事例につき幾つかご意見が出されているところと認識しております。
最後に,権利制限の一般規定により制限される利用行為かどうかについては,多数の具体的な事例をもとに検討を重ね,行為の内容を精査するべきではないか,という問題です。これに対し,権利制限の一般規定の導入は将来何が起こるかわからないというところに一番のポイントがあることから,あまりそれにこだわる必要はないとの指摘もあるところでございます。
なお,既にこれまで実施したヒアリングにより幾つか具体的な事例というものが出てきております。こちらにつきましては,この後ご説明する資料6の8ページ以下にまとめておりますので,あわせてご参照いただければと思います。また,先ほどご紹介いたしました資料2から資料4のアンケートや意見書におきましても,こうした具体例が幾つか紹介されているところでございますので,こちらもあわせてご参考にしていただければと思います。
続いて,「(3)規定のタイプ」についてでございます。権利制限の一般規定の具体的な規定のタイプについて,(i)受け皿規定型,(ii)米国フェアユース型,(iii)英国フェアリーディング型,(iv)スリーステップ型などのタイプが考えられるが,いずれのタイプが適当か,また,条文の位置はどこに置くのが適当か。規定のタイプにつきましては,当然のことながら,先ほどご説明申し上げました(1)の権利制限の一般規定の目的,そして(2)の権利制限される利用行為の内容をどう考えるか,によって当然左右されるものだと思われます。また,ここでは上野委員におまとめいただいた調査研究報告書における4つの分類に従っておりますが,これ以外の規定のタイプを排除するという趣旨ではもちろんございません。
続いて,「(4)既存の個別規定等との関係」でございます。まず,既存の個別規定により制限される利用行為と権利制限の一般規定により制限される利用行為との関係をどのように整理するのか,権利制限の一般規定の導入に伴う個別規定の改正,見直しにつき検討する必要はないか,という問題があるかと思います。この問題は,より具体的には,仮に一般規定を導入した場合,個別規定が既にあるものについても一般規定は適用されるのか,適用される場合はどの範囲で適用されるのかといった問題,あるいはこれに関連して,仮に一般規定を導入する場合に,30条以降の既存の個別規定とか,43条のような規定の要件等を見直す必要はないのかという問題であり,非常に重要な問題であると認識しております。
続いて,権利制限の一般規定を導入する場合,導入後も必要に応じて個別規定の追加を行っていくのが適当かという問題があるかと思います。
最後に,48条(出所の明示),49条(複製物の目的外使用等)等との関係につき,どう整理すべきか,こちらの最後の検討事項でございますが,既存の個別制限規定では48条の出所明示義務とか,49条の複製物の目的外使用の制限とか,そういった関連規定がございますので,仮に一般規定を設ける場合,こうした関連規定との関係をどう考えるべきかという問題が出てくるものと考えております。
次に,「(5)関連条約との整合性」でございます。ベルヌ条約第9条第2項,WIPO著作権条約第10条等に規定されるスリーステップテスト,つまり(i)特別の場合,(ii)著作物の通常の利用を妨げない,(iii)著作者の正当な利益を不当に害しない,との整合性をどう図るかという問題でありまして,条約整合性の問題は本委員会でもたびたびご発言をいただいておりますが,特に最初の要件である「特別の場合」という要件との関係が課題となってくるものと思われます。
次に,「(6)著作者人格権」との関係ということで,権利制限の一般規定と著作者人格権との関係につき,どのように整理をすべきか,という大きな問題が上げられるかと思われます。
次に,「(7)強行法規性」でございますが,権利制限の一般規定を強行法規化すべきか否かという問題でございます。こちらにつきましては,個別規定におきましても議論がされている論点であり,具体的には契約によるオーバーライドを認めるかどうかという問題でございます。上野委員にまとめていただきました調査研究報告書で105ページに問題として上げられております。
次に,「(8)刑事罰との関係」でございます。これは,憲法第31条の趣旨に照らして,どこまでの構成要件の明確化が必要となるかという,重要な問題でございます。
最後に,「(9)実効性・公平性担保のための環境整備」でございます。まず,権利制限の一般規定を導入する場合,裁判による解決だけでは不十分であり,裁判外での簡易・迅速な解決手段の導入もあわせて検討すべきではないかという問題があるかと思われます。
続いて,権利制限の一般規定を導入する場合,仮に権利者側の負担が大き過ぎ,実質的な公平性は担保されないとすれば,損害賠償制度等に関し権利者側の負担を軽減し,実質的な公平性を担保する制度もあわせて検討されるべきではないかという問題でございます。こちらの検討事項に関しましては,ヒアリングにおいて,例えばクラスアクション制度や懲罰的賠償制度,あるいは法定賠償制度等もあわせて検討すべきではないかの意見が出されております。
最後に,何らかのガイドラインを整備する必要があるのではないか,仮に整備する必要がある場合,だれがどのようにこれを整備するのが適当かという問題があると思います。
資料5についての事務局からの説明は以上でございます。
続きまして,資料6をごらんください。こちらは第3回に実施した有識者ヒアリング,そして第4回,第5回に実施した利害関係者ヒアリングで,ヒアリング出席者から出されたご意見,そして質疑応答・自由討議時に各委員より出されたご意見を事務局でまとめたものでございます。各意見の後ろにつけられている括弧書きの団体の略称等につきましては最後のページに説明書きがございますので,そちらをご参照いただければと思います。
若干補足いたしますと,団体名の後ろに個人と記載されている意見が幾つかございます。こちらにつきましては,ヒアリング出席者,発言者が,所属団体の意見としてではなく,あくまで個人的な見解であるという断りの上述べた意見という意味でございます。また,意見の後に団体名等が記載されていない意見につきましては,各委員の先生方から出されたご意見を意味します。時間の関係もございますので,それぞれの意見を個別に読み上げることは省略いたしますが,資料6に掲載いたしました各意見は,ただいまご説明しました資料5でまとめた検討事項ごとに整理抽出し事務局でまとめておりますので,資料5とあわせて資料6も適宜ご参照いただければわかりやすいのではないかなと思います。
なお,本日ヒアリングを実施しました日本新聞協会に関しましては,後日事務局にて資料6に反映し,別途委員の皆様にお送りすることを予定しております。
事務局からの説明は以上でございます。
【土肥主査】
それでは,ただいまのご説明につきまして,くまなく精査していただいて検討事項をまとめていただいたわけでございますけれども,他に何かこういう論点もあるのではないかとか,あるいはこの検討事項についてはどういう意味かとか,ご質問等もあろうかと思いますので,ご意見,ご質問がございましたら,この際お出しいただければと存じます。
【村上委員】
私は7月末からロンドンで研究生活を送っていたために参加できなかったので,そのかわり戻ってきてから議事録はじっくり読ませていただきました。議論というか,論点が詰まっていく様子は非常によく理解できました。それで,きょう一般的な検討事項を全部説明していただいたのですが,非常に中立的にまとめられているという感じがしました。私の議事録を読んだ印象はもう少し議論が詰まっているのではないかなという気もいたしています。
例えば,比較法的な観点では,これは外国に行く前の話ですが,いわゆるこの問題の問題意識とか問題状況は他の先進国でも共通にある問題であるはずなので,個人的には比較法的な分析というのは大事だなという気はいたしておりました。ご承知のとおり,アメリカの法律文化とか法制度,クラスアクション懲罰的損害賠償その他というのは世界でも極めてユニークなものである。したがって,アメリカのフェアユースそのままを日本に入れるかどうかという観点から見ると,仮にイギリス,ドイツのうち1カ国でも採用しているとか,もうじきに採用するというような状況にあるのだと経済法制のハーモナイゼーションという観点から日本も全面的にアメリカ型フェアユース規定を入れるべきだという,そういう感じを持っていたのですが,どうやらここでの検討の結果からいうと,必ずしもそうではない。アメリカ型のフェアユースというのはアメリカだけであって,ほかの欧州の先進国もまだ入れていないという形になる。そうすると,アメリカ型のフェアユースを日本にそのまま入れるということについて,日本が先行してそういうことをやるというのは,バランス上時期尚早的な感じではないかという印象を受けていたのですが,そこは議事録を読んでも余り変わらない感じで議論が進んでいるのかなという印象を受けております。
それから,次が議事録を読んだ上の意見を,最近の議事録という意味ですが,見ますと,例えば写り込みなどを含めて形式的に詰めていくと著作権侵害になるおそれがある。ただし,実際には問題なく行われている行為というのも随分あるのではないか。そういうものの法律上の疑念を解消するために,一般規定とか一般条項を作成するということが一つ話題になっていて,これはもし本当に適切な文言,適切な条項が考案できるならば,それは真剣に検討してみる価値はあるだろう。その辺ぐらいの感触かなという感じで議事録を読んでおりました。
それから,ネットビジネスの推進やビジネスコンテンツの普及のために一般規定を創設することについては,これは読んだ印象では検索エンジンはもう手当てが終わっている。それを除くと,米国式フェアユースがないためにアメリカと比べて日本でどのくらい具体的な弊害が生じているかということについては,必ずしも具体的に大きなこういうものがあるんだという,そこまでは立証されていない,明らかになっていないという印象を受けており,これはこれから先さらに詰めていくべき論点になろうかと思います。特に最大のデジタルコンテンツである,最大の対象である放送番組を取り扱っているNHKとか民法連の意見を聞きましても,そこは余り弊害についてははっきりしないという形で述べられているような感じになっています。そうすると,全体として一般的なアメリカ型のフェアユースの存在よりも,アメリカでは著作権法上かなりグレーでもビジネスを開始する,そういうベンチャー企業が結構出てきているので,こんなふうになっている。ところが,日本のビジネス風土はなかなか,そういう乱暴というか,積極的にビジネスをやる企業が出てこないという,これにはむしろ法社会学的見地からの検討というか,法文化とか,ビジネス文化みたいなものも大きく影響しているのではないかという気がいたします。そういう意味では,ネットビジネスとか,デジタルコンテンツの普及ということについては,具体的な弊害というのがあるかどうか,この辺はもう少し詰めてもらうほうがいいのではないかと思っています。それで,これは私が議事録を読んで受けた印象でもあり,なおかつ私もその辺かなという感じの意見を持っています。
それと,もう一つ強行法規かどうかというところ,確かに議事録を読むと議論が余りされていないという感じなので,私は一般条項を仮につくる以上は,それが契約によって当事者間で簡単にオーバーライズ,一般契約上に,一般的に書かれた文字でオーバーライズされてしまうということになると,そもそも公益のために一般規定を置いたという,そういう目的が達成できないことになるので,もし一般規定を入れるならば,それは強行法規性は持たせるべきだという意見を持っています。
以上です。
【土肥主査】
4点ご意見をちょうだいしたところでございますけれども,これは例えば米国型をそのまま入れるのかどうかというようなことについては,基本的なこの委員会の議論としてはあくまでも日本型のフェアユースという観点で議論をしてきていると思うんです。また,形式侵害といいますか,瑣末性の原則については,これはそういうものがきちんと書けるかどうかということについては,立法例もあるというような理解を私はしておるわけですけれども,全く同じではないのではないかと思いますけれども。お聞きになっておられて,他の委員の中に,今,村上委員が出された意見について何か参考になるような情報等あるいはそれに対するご意見があればお出しいただければ,大渕委員。
【大渕委員】
幾つかあるんですが,先ほど村上委員が言われたこととも関係しますけれども,「権利制限の一般規定(日本版フェアユース)」となっているところの「フェアユース」という言葉が非常にミスリーディングで,多分全員の共通理解を妨げている面がかなりあるのではないかと思います。フェアユースという言葉は,人によってはただ単に権利制限という意味で使っている人もいるようですけれども,一般にフェアユースというときは,みなさんアメリカ著作権法の107条的なイメージを持つので,あえてそういう意味を込めてフェアユースという言葉を使うのであれば意味はあるのでしょうが,そうではなく,ここで議論されている権利制限の一般条項という意味で日本版フェアユースというのは,表現として避けた方がいいのではないかと思います。ドイツ版フェアユースともレポートにも書いてあるんですが,以前別にお聞きしたら,ドイツでそう言われているわけでもないらしいので,いろいろな面でミスリーディングなので,そこは避けたほうがいいんじゃないかというのが一点あります。
そういう面を含めて,前から申し上げているところなんですけれども,きちんと整理したかみ合った議論をしないと,前に進めても大混乱を起こすだけだと思いますので,この辺は今後も気をつけていくべきではないかと思っております。
それから,先ほどの強行法規化と言われたところでお聞きしたいのは,実はこれは前からオーバーライダービリティの問題として,本小委員会でも約二,三年以上も前からかなり議論したところなんですが,その際には強行法規とするというよりは,せいぜい権利濫用等のところでの問題にするぐらいで,権利制限規定をオーバーライドするような内容だからといって,即強行法規違反等で無効になったりすることはないという方向性でまとまったんじゃないかと思うんですけれども,先ほどのご趣旨というのは,個別規定はいいけれども,一般規定は強行法規化しなければいけないというご趣旨なのでしょうか。権利制限規定一般についてオーバーライドしていいかという論点はあるんですけれども,先ほど言われたのは,そうではなく,個別規定はオーバーライドしていいけれども,一般規定はしてはいけないというご趣旨なのか趣旨を確認させていただきたいと思います。
【村上委員】
今の質問に対して,まずおっしゃるとおり,その前にフェアユースという言葉で何を言っているのかあれしないと,今の答えも正確に答えられないので,まさしくフェアユースでどこまでのことを文案を書いて,どれを頭に置くかということを前提にしなければなかなか答えは難しいんですが,とりあえずアメリカ型の一般条項をフェアユースというのを頭に置きますと,それが一つの企業が例えば一斉にライセンスして,もう書き込んだ条項でこのフェアユースのこういう一般条項については適応しないし,それはあっても完全に無視してもよいという形でそういう条項を入れて,一斉に形式契約をシュリンクラップみたいな感じの,ああいう形でやった場合に,それで一般条項の効力がなくなるということになるならば,一般規定というのをつくることの意味がなくなる話になろうと思うので,一般規定のアメリカ型のフェアユースを入れるならば,それは強行法規性をもち,裁判所が最終的に公益の目的からイエスかノーか,それと違う結論を出すことはできない。ただ,その議論と一般的な権利制限規定というのは全然違うと思います。個別の権利制限規定は,これは基本的には契約によってオーバーライズしてもいいというのが,基本的な解釈はそれでいいのだと思います。ただ,一般規定を入れる以上は,それは裁判所で最終的に判断して,その判断と違うことを当事者間で約束すれば,そっちのほうが有効だという,そんなものを入れるなら何のために一般規定の議論をしているのかという,そういう形の議論になると思います。そこは先ほども何度も言ったように,フェアユースでどういう規定内容で何を頭に置くかによって多少答えは違いますけれども,要するにアメリカ型的な一般規定ならばそういう解釈をせざるを得ないと思います。
【土肥主査】
今の強行法規性の点については,村上委員がおっしゃるようなことも踏まえた検討を進めるという受け取り方をここではさせていただいてよろしいわけですね。つまり,おっしゃるようなことも含めてこの強行法規性については議論するようにという,そういうご意見ですね。
【村上委員】
もろろん,それは具体的な文言がどうなるかによって違いますから,それは,もし出てくるのは,日本型フェアユースで権利制限に近い形の法形式をするならば,それはオーバーライズする余地はあるかと思います。ただ,純粋に今言っているのは,もともとはアメリカ型の一般規定的な感じで広く使うという形の一般条項を入れるならば,これは最終解釈権は裁判所にあって,そこで全部決まるというふうにしなければそもそもつくる意味がない。公益のためにそういうものをつくることの意味というのは余りなくなるんだろうという,そういう意見でございます。
【土肥主査】
あと文化の違いのようなことも,産業文化の違いのようなこともおっしゃったわけですが,これもこれまでヒアリングでいろいろ各団体に来ていただいて,村上委員のおっしゃるようなことにかかわるようなことをお聞きしたりしておるわけですけれども,よくこの点について松田委員がご指摘,ご質問なさっておられたんですけれども,今の村上委員のご意見を聞いておられて,何かこの段階でおっしゃるようなことはありますか。
【松田委員】
村上委員は,個別的規定に近い制限規定,これも一般規定と言わざるを得ないでしょうけれども,置く場合と,制限一般をもっと包括的に規定する場合との趣旨が違うんだということをご説明くださったのは,そのとおりだと思います。しかしながら,著作権の制限規定はすべて公共目的だけでやっているわけではありませんで,それぞれの立法趣旨が違うわけでありますから,任意規定か制限規定かも全部一律に考えることができるわけではないということになります。そうなると,権利制限の一般規定をどういう形で導入するかという問題と,それぞれがまた任意規定か強行規定かというのは検討せざるを得ない事項ではないかと考えます。
【土肥主査】
お尋ねしようと思ったのは,ネットビジネス,新しいビジネスに対する阻害効果というような点で,米国と日本との間に産業文化的なカルチャー上の違いがあるんじゃないかと,そういう文化的な違いについて村上委員おっしゃったと思うんですけれども,松田委員は,それをお聞きになって何かということなんですが。
【松田委員】
ご指名ですので,実はそのことについては私意見を持っております。日本とアメリカがそんなに権利の範囲と制限規定の範囲が違うとは考えていません。判例で収斂するところの結論は,まずほとんど同じではないかと考えます。それなのに,日本から見て,産業界がアメリカは自由で,萎縮効果がなく,ベンチャービジネス等が発展するんだという。その違いは何かというと,所々に出ていますように,産業界が過度に萎縮効果が生じてしまうからなのだという,言ってみれば控えてしまうからなんだということなんです。控えてしまわないで,白黒つければいいじゃないですかというのも一つの答えでありますが,それは裁判所で結論を出せば米国とほとんど同じになるのだが,それはやらない。なぜやらないかというと,日本の企業のメンタリティは,社会学的にとらえていただきたいと思いますけれども,いささかでも違法だということ,特に知財的な侵害があるということを取りざたされるようなことには踏み込まないという企業メンタリティがあるからだろうと思います。その違いが徹底的な差になってあらわれているのだと,私は考えております。
【村上委員】
全く同じことを言っているんだと思います。
【土肥主査】
そういう検討課題をさらに突っ込んで検討することができるのかどうかという問題がありまして,ヒアリングでもいろいろご意見を伺ってはおるわけですけれども,松田委員がおっしゃっておられるようなところまで,結局はなかなかそれ以上いかないのではないかなというふうにも思われまして,つまり,今,現在検討事項として今説明であったところの範囲でいいのかどうか。新たにもっと産業上のカルチャーの違いのようなものまでより分析して検討すべきだということかどうか。そこの確認なんですけれども。そこは今まで出ておるようなところで整理させていただくということになるのかなと思っているんですが,ここは何かありますか。
【松田委員】
既にここでの議論でもその差は恐らく浮き彫りになっていたと思うのです。それをどう解消するかということは,恐らく著作権法制度の問題ではないのではないかと私は思っています。何らかの形で検討していただくのは結構ですけれども,正直いってかなり難しいのではないか。ただ,日本も少しアメリカ的になってきたところがあるのではないでしょうか。というのは,企業がこの範囲内ならみずから適法だと考え,十分な検討をした後,全部の承諾が取れなくても一歩先に出るぞという動きがあらわれてきています。一例を言うならば,NHKと実演権利者団体との権利処理のあり方がこれになるだろうと思いますし,それと同じようなことはできないのだろうかというような議論がそこそこ起こってきているわけです。これは,著作権法上,たとえ形式的にあるいは過小な違法があったとしても,一歩先に出て,そしてビジネスを形成して,そして経済的にも文化的にも発展させるというあり方です。そして後日万が一紛争が起こったとしても,侵害部分をデリートする,損害を賠償するということで一歩先に出よういう法状況が生まれてきていると思います。この新しく生まれてきている法状況をどのようにとらえるかという検討が極めて重要だろうというふうに思います。検討のとらえ方は,事象をとらえるのと,もう一つは著作権契約法などの検討をすることなのではないかと思っているところです。
【土肥主査】
ほかに検討課題として足りないようなところ,さらに本日出たところを加え,ご説明のあったような範囲でよろしいのかどうかを確認させていただければというふうに思います。いかがでございましょうか。よろしゅうございますか。
【村上委員】
あとはワーキンググループで十分練ってもらえればいい話なのかなと思っていますが,決め方として,私は2つぐらいの様式があると思うのです。1つは,アメリカ型というよりは,幾つかの考慮要因というか,判断要素を幾つか並べて,最後はその総合判断で一定のこういうことはどうかというところを裁判官が決定する,そういう形です。幾つか要因を上げる。最後はそこの総合判断という判断で決着をつける。そうすると,どうしても裁判所に判定の裁量権を任せる形になる。ケース・バイ・ケースの話になる。そういう形の一般条項の書き回しをするか。もしくはスリーステップテストのように,いわゆる構成要件的な形で幾つかの要件を一応書いていって,その要件を全部満たすものについて初めて一般規定でその運用が最終的にはされる,そういう書き回しがあるので,その2つによってかなり条項のつくり方が違うんだろうなという気がしております。そこも十分検討していただければというふうに思っております
【土肥主査】
今,おっしゃったところまでたどりつければ,それは皆さんに評価いただけるんだろうと思うんですけれども,いずれにしてもそれを目指してワーキンググループでは検討するということを期待したいと存じます。ほかに何かご意見,ご要望は。
【松田委員】
意見ではないのですが,第3回のこの委員会のときに,アメリカのCCIAの資料と日本の著作権資料との対比を私発言した……
【土肥主査】
それはよく承知しておりますので。
【松田委員】
きょうの資料では資料6の7にその上半分ぐらいに書いてあります。そのときに私が使いました資料はいささか古くて,2002年の資料だったのですが,そのときも言いましたように,この8月に資料が新しく出ることを予告しておきました。6月の日付ですが,8月末に出た資料,著作権白書が出てきております。著作権白書,著作権産業の側面から見て第3集,2009年6月社団法人著作権情報センターの資料です。私が第3回委員会において2007年はGDPにおける著作権付加価値が20兆円ぐらいであると発言しましたが正確に数字が出ておりますので,修正させていただきたいと思います。この資料によりますと19兆3,260億円であります。そんなに違いませんけれども,正確な数字を出しておいたほうがいいと思いまして。
【土肥主査】
今,松田委員がおっしゃっておられるCCIAリポートとの関係については,池村さんから先ほどの説明としては十分ではなかったのかと思いますので,今後どういうふうに扱うのか,ご説明いただけますか。
【池村著作権調査官】
松田委員から指摘があった点も含めて,この報告書につきましては事務局で内容を精査して,何らかの形でご紹介できればというふうに思っております。
【土肥主査】
委員のご要望ですので,きちんと精査していただければというふうに思います。よろしくお願いいたします。ほかに,基本的にはこういう方向で,いずれにしても,ワーキンググループの検討結果というのはこの法制小委に戻ってくるわけですね。これははっきりしているわけですので,イメージとしてどういう形のものが望ましいのかということは法制小委でご意見をいただいてもいいのかもしれません。先ほど村上委員がおっしゃったような,あの程度まで詰めるというところまでやれと,こういうことなのか,あるいは,もっとその前の段階でもいいというのか,そのあたりに何か特にご意見があればということなんですけれども。特によろしいですか。事務局にこの点について何かありますか。これを今からの議題の内容にはなるのかと思いますが,それでは,検討事項は大体こういう程度でよろしいということで受けとめさせてもらってよろしいですね。
それでは,ご異議が特にないようでございますので,検討事項については先ほど説明いただいたところ,それから本日皆様にご意見をいただいたところ,こうしたことを踏まえまして,事務局と相談させていただいた上で必要な修正を施し,委員の皆様には改めて配布するということにさせていただきたいと存じます。配布させていただくこの内容については主査に一任ということでお願いしたいと思いますけれども,よろしゅうございますか。
(「はい」の声あり)
【土肥主査】
ありがとうございます。
それでは,そのようにさせていただきます。
では,続きまして,今後の審議の進め方について検討したいと存じます。事務局から配布資料(案)についての説明をお願いします。
【池村著作権調査官】
それでは,資料7をごらんください。今後の検討の進め方でございますが,この権利制限の一般規定の問題に関しましては,先ほどご議論いただきました資料5をごらんのとおり,検討すべき論点が非常に多岐にわたること,議論を迅速に進めるためには集中的な討議が必要であること,一度検討事項に従って法律的課題等を整理した上でこれに基づき議論を行ったほうが効率的であること等の理由から,土肥主査,そして野村分科会長ともご相談の上,本小委員会に権利制限の一般規定に関するワーキングチームを設置し,一たんこのワーキングチームにおいて本日ご議論いただきました各論点について集中的な議論をしていただいてはどうかと,このように考えております。
ワーキングチームの構成等につきましては資料7をごらんください。本委員会で設置している他のワーキングチームと同様に,主査が法制問題小委員会の委員の中から座長を指名し,座長がワーキングチーム員を指名する,このような形でお願いしたいと考えておりますが,本件は検討課題の重要性等にかんがみ,今までとは異なる取り扱いではありますが,土肥主査にワーキングチームの座長にご就任いただく形でお願いしたい,このように考えております。
最後に,このワーキングチームの位置づけでございますが,先ほどもご説明申し上げましたとおり,あくまで本委員会での効率的な議論に供するための検討事項に従って法律的課題等を整理する機関,このような位置づけであるとご認識いただければと思います。したがいまして,ワーキングチームでの検討結果の報告を受け,再度本小委員会に場を移してそこで再び委員の皆様にこの検討結果をもとに十分なご議論をしていただき,その上で本委員会としての最終的なまとめをお願いしたい,このように考えております。
以上,ご審議のほどよろしくお願いいたします。
【土肥主査】
それでは,今ご説明のあったワーキングチームの設置につきまして,何かご意見,ご質問をちょうだいしたいと思います。なお,本日ご欠席の委員がおられるわけですけれども,筒井委員,中山委員,前田委員,森田委員,山本隆司(りゅうじ)委員,この各委員にはあらかじめ事務局を通じて事前にこのワーキングチームの設置の趣旨を説明いただいておりまして,すべての委員からご了承をちょうだいしているということでございますので,この点皆様にご報告をさせていただきます。どうぞ,このワーキングチームの設置についてご意見等ございましたらお出しいただければと存じます。
【松田委員】
この委員会でかなり議論させてもらっている私自身としては,中山先生と意見の対立がありましたけれども,それは無駄なことでは決してなかったと思います。それがおおよそ出ましたし,関係者の方々がそれぞれ資料も出しておりますので,今までの議論を踏まえたところで,言ってみますと多分私と中山先生はそのワーキンググループに入らない形でまず文章としてまとめてみるという方向性を出そうということだろうと思いまして,それもいいだろうと思っているところであります。私は反対はいたしません。
【土肥主査】
貴重なご意見ありがとうございました。ほかにご意見ございませんでしょうか。
【道垣内委員】
私は現段階でどちらの立場ということはございませんけれども多くの論点について,これまでの資料に加えてさらにこういうきれいな紙をまとめましたというだけでは,余り意味がないように思います。それらの論点を踏まえて,こんな案ではいかがでしょうかというところまで書き込んでいただきたいと思います。選択肢は,一般規定を置くか置かないか,2つがまず大きく分かれると思いますが,置かない場合も,ニーズがあるとおっしゃっている方々もいらっしゃるわけですから,そのニーズにどのように具体的に対応するのかということのご提案をいただきたいと思います。もちろん一般規定を置く場合についての具体的な形の提示はもっと大変だと思いますが,しかし,時間が幾らでもあるというわけではないと思いますので,それについても,2つ3つの案でこんなものでどうでしょうというというたたき台で結構ですので,その辺までつくっていただきたいと思います。望み過ぎかもしれませんが,案の提示というところまで踏み込む可能性について伺いたいと思います。
【土肥主査】
これは検討を始めてみないとわからないのかもしれませんが,まず現在ワーキングチームで検討するということは出ているんですけれども,集中的にという言葉をお使いになったと思います。それをどのくらいの期間で何回ぐらいの回数をかけて検討をするのかということもあるんだろうと思うんです。先ほど事務局からお示しのあった検討課題,これはもちろんこれまでのヒアリング等を受けてのものですから広いわけですけれども,これらすべてをきちんと当たっていくとすると恐らく大変な作業になってくると思うんですが,事務局におかれましてはこの点何かお考えがあればお示しください。
【永山著作権課長】
それでは私からお答えをさせていただきたいと思います。この問題は委員の先生方ご承知のように,知財推進計画2009におきまして今年度中に結論を出すということになっている事項であるということで,それを念頭に置きながらワーキングチームで検討いただきたいというふうに思っております。いつまでにどういう形でということは,当然ワーキングチームがスタートをしてそこでご議論をいただきながらということでしか,きょうはお答えできないんですが,先ほど来迅速にということで,我々としては月に2回とか3回とか,委員の先生方のご都合がつく範囲でできるだけ回数を重ねながら,それほど時間をかけずに検討させていただき,またこの小委員会にどういう形で報告させていただくか,途中段階でもご報告させていただくのか,全般について整理させていただいた後にご報告させていただくのか,そういうことも含めてワーキングチームの座長にもなられる土肥主査ともまたご相談しながら進めていきたいというふうに考えております。
以上でございます。
【土肥主査】
お聞きのとおりでございまして,まだ基本的には具体的にこれからということになるんだろうと思うんですが,しかし,道垣内委員のご要望でございますので,検討においてはこれをまず念頭に置いて,検討を進めさせていただきたい,こういうふうに思います。ほかにご要望,ご意見ございましたらお出しいただければと思います。
【上野委員】
本日はワーキングチームにおける検討事項を検討するということですから,ご意見を申し上げる機会ではないかとは思いますけれども,これまでの審議ですとかヒアリングの様子を踏まえまして,今後ワーキングチームやこの委員会やでご審議,ご検討いただければよいのではないかと感じた点につきまして,僣越ですけれども2点ほどコメントさせていただきたいと思います。
1点目は,課題の整理の方法にかかわります。従来の議論におきましても,いわゆる「日本版フェアユース」としてイメージしているものが論者によって大きく異なるのではないかという指摘は少なからずなされてきたように思います。実際のところ,本日配布されました検討事項案におきましても,「日本版フェアユース」というのは,いわゆる「形式的権利侵害」なるものに対応するための規定というイメージなのか,それとも,新規ビジネス振興のための規定というイメージなのかという,2つの考え方が見られるわけであります。そして,これらの問題は同じ土俵で議論できるものではなく,きちんと区別して議論すべきではないかというご指摘もあったところであります。
たしかに,このような区別をすることもできようかと思いますし,それ自体に問題があるというわけではないと思います。しかし,この両者は必ずしも截然と区別して議論できるものではないようにも思われます。
と申しますのも,ある企業がいわゆる「形式的権利侵害」になってしまうことを恐れて新規ビジネスの展開を萎縮するということもあり得るように思うからであります。この場合は,先の両者がともに問題となっているのではないかと思うのです。具体的に申しますと,――これはいろいろご意見が分かれるところかと思いますけれども――検索エンジンサービスが登場し始めた段階というのは,そのサービスに伴う利用行為が「形式的権利侵害」になる可能性がありますので,そこにも同じような状況があったといえるように思われるわけです。
そのように考えてまいりますと,もし権利侵害を否定する形式的な根拠規定が現状において存在しないために現実に萎縮効果が働いているのだといたしますと,単にいわゆる「形式的権利侵害」に対応するにすぎない規定でありましても,このような規定を新たに設ける意味は,過剰な権利行使を防止するという観点からだけではなく,ビジネス促進という観点からも,意味があるということになるのではないかと思われます。
もちろん,単に「形式的権利侵害」に対応するにすぎない規定を設けるだけでは,大したメリットはないというご意見もありましょうし,あるいは逆に,そのような規定であっても弊害があるといったご意見もあろうかと思います。しかし,こういういわば"あってもなくても変わらない一般条項"と申しましょうか,こういう規定であっても,将来における変化と多様性に対応するためにやはり必要だというふうに考えるのか,それとも,厳密には「形式的権利侵害」になってしまう問題が仮にあるとしても,それに対しては事後的に権利制限の個別規定を整備することによって対応すればいいのであって,それまでは仮に萎縮効果が働いても構わないというふうに考えるのか,ここが最終的にはポイントになってくるのではないかとわたくしは考えております。今後のご審議におきましては,この点をお考えいただければ幸いであります。これが1点目です。
2点目は,課題の設定それ自体にかかわります。これは先ほどの村上先生のご指摘とも関係するのですけれども,どうもこれまでの議論におきましては,本日もややそのように感じましたけれども,アメリカ法におけるフェアユースの規定が引き合いに出されることが非常に多いように思います。その中で,アメリカにおけるフェアユース規定のメリットが論じられたり,あるいは逆に,日本法や日本社会との不調和という観点からこれをわが国に導入することのデメリットが論じられたりしてきたように思います。
確かに,アメリカは著作権に関する権利制限として一般条項を既に有している国として参考になるのは間違いありません。また,今われわれが議論しているこの問題が,いわゆる「日本版フェアユース」というふうに呼ばれることによりまして,一方では議論を活性化させるというプラス面があった反面,他方では,どうしてもアメリカ法におけるフェアユース規定との関係を強くイメージさせることになったのではないかと思います。
しかし,今,われわれが直面している課題は,アメリカ法におけるフェアユース規定をわが国にも導入すべきか,という問題設定ではないはずであります。そうではなくて,今問題になっているのは,現状の日本法が抱えているとされる権利制限規定の厳格さという問題にどう対処するか,そのために何らかの一般規定が必要なのかという,まさに内発的な問題提起だとわたくしは認識しております。このことは今一度はっきりさせておく意味があるのではないかと思います。
このように,アメリカ法におけるフェアユース規定をわが国に導入すべきかが問題になっているというわけではない以上,たとえアメリカ法における狭い意味でのフェアユース規定が,仮に実際には狭い射程しか有しないとしても,または逆に,結果として広過ぎる部分があるとしても,あるいは,そのようなアメリカ法のシステム自体がそのままの形では日本法になじまないとしても,それはわれわれが取り組むべき議論に直接の影響をもたらすものではないと思います。
もちろん,今後の議論においてアメリカ法を全体として参照することは意味があると思いますけれども,わが国は,わが国においてあるべき一般条項の姿を独自に追求することが――もちろん条約の範囲内ではありますが――できるはずですし,そのようにすべきではないかと思います。「日本版フェアユース」という言葉は頻繁に用いられておりまして,一見するとこれはキャッチフレーズのように聞こえるかもしれないのですけれども,「日本版」という部分には,そうした誇らしげな前向きの視点が込められていると考えるべきではないか,そんなふうに考えております。今後ご検討を進めていただくに当たりましては,そのようなこともお考えいただければ幸いに存じます。
【青山委員】
 これまでの数回の利害関係者等からのヒアリングと,その都度における議論を通じて,先ほど村上教授のおっしゃったように,かなり問題点は煮詰まってきたということは間違いないと思いますので,ここで審議のやり方として,こういう小委員会ではなくて,ワーキンググループをつくって集中的に審議をしていただくということに私は積極的に賛成するものでございます。これからの審議については,多分今日配っていただいた「権利制限の一般規定に関する検討事項について(案)」というのが出発点になるだろうと思うわけです。これを見ますと,それぞれの項目一つ一つが非常に大変な問題であることは間違いないですが,これについては,もう既にいろいろな材料も出てきておりますし,議論も出てきているという感じがいたします。そこで,ワーキンググループでは,むしろ個々の問題について答えを出すと同時に,その考え方をはっきりさせると同時に,むしろ相互の問題の整合性といいますか,体系性ということに留意されて,議論をしていただければというふうに思います。
また,問題についてワーキンググループの考えをまとめていく際に体系性と同時に,選択肢がある場合には,対立する考え方は対立する考え方として提示していただいて,またこの小委員会に戻していただくのがいいのではないかというふうに思います。
時間との競争のような状況に置かれてこういう日本型フェアユースの規定を導入するかどうかということになりますと,従来の議論の蓄積,資料の蓄積について,事務局の力を存分に使っていただいて,事務局の全面的な協力のもとに集中的な仕事をしていただければいいのではないかというふうに思います。
ほかの方が指摘されたこととも重複しますが,現在一番ひとり歩きしている言葉が日本型フェアユースという言葉でございますので,これについてどう考えるか。それが従来の個別的権利制限から浮き上がったような形の一般規定というのではなじまないのではないか。だから,個別的な権利制限の延長線といいますか,それを全部包括できるようなもので,個別的な権利制限はその中の例示規定になるような形の案というものをお考えいただければ,作業として大きな成果が上がるのではないかと希望しております。
以上でございます。
【土肥主査】
ほかにご意見ございませんか。
【多賀谷委員】
議論の詳細はワーキンググループにお任せするわけですけれども,公法学者としてこの議論に接していたところ,憲法とか,公法的な観点からの議論のところがなかなか難しいなという気がいたします。特に形式的侵害の話ではいいんですけれども,変容的な利用について正面からそれを認めるかどうかという話,アメリカの資料等を見ますと,それは表現の自由の議論とかかわってきております。表現の自由を理由に著作権の制限をするということが,従来の著作権の制限,例えば私的利用とか,あるいは視聴覚障害者の方々に対する制限と同じ意味を持つのかどうかという,そこのところがかなり悩ましいという気がいたします。今の青山先生のご意見とある程度共通するんですが。ただ,そのときに,ヒアリングのときに憲法29条との関係が議論になったんですけれども,憲法29条は,実は,皆さんご存じでしょうけれども,2項と3項がありまして,憲法29条2項は,財産権は公共の福祉に適用するようにこれを定める,憲法29条2項は,要するに財産権の内在的制約の話であります。そして,これに対して憲法29条3項は,正当な補償のもとにこれを公共のために用いることができるという形で,これは本来内在的制約ではないけれども,公共の目的のために使うときにはそこに特別な犠牲が発生する。その限りでそれを補償するという,そういう規定があります。そういう規定との関係でいうと,著作権の制限というのを財産権の制限として憲法29条との関係でいうと,そのどちらに該当するのか,どうも両方の話が混在しているような気がいたします。そして例えば表現の自由という観点から制限をするという場合,それがどうなるかということは非常に気になるところです。ただ,これは憲法学者とも一,二議論したんですけれども,憲法学者も著作権と財産権の制限という話は,正直いって余り議論しておりません。それから,損失補償の観点では,例えば土地の収用というような場合については明確に損失補償は必要なんですけれども,そうではなくて,いわゆる公用制限の場合に補償すべきかどうかというのは,余りはっきりしていません。例えば自然公園法による場合には損失補償が必要ですけれども,あれは立法的に補償をしているということで,余りはっきりしていません。憲法に明確な解は出てこないかもしれません。しかし,そういう議論も十分考慮していただければと思います。
以上です。
【土肥主査】
ほかにいかがでございましょうか。
ワーキングチームでこの問題について検討を進めるということに関しては,皆様賛成をちょうだいしたのではないかと思いますけれども,よろしゅうございますか。ワーキングチームの設置についてはご賛成いただいたということで,よろしゅうございますか。
(「異議なし」の声あり)
【土肥主査】
ありがとうございます。
先ほど事務局から紹介があったわけですけれども,本来であれば座長についてはどなたか,そのほうが本来も形式的にもいいとは思うんですけれども,僣越ですけれども,私が座長をさせていただいて,私のほうで別途チーム員を指名させていただき,本委員会で報告をするということにしたいと思います。私としては,現在委員については検討中でございますけれども,このワーキングチームについては著作権法や民法,さらには今ご指摘のあった憲法,そういった問題についても目配りのできる研究者,専門家,裁判官,弁護士の方を含めた,そういう実務家で構成してみてはというふうに思っております。いずれにいたしましても,ワーキングチームで,ご紹介のあったように短期間で集中的に専門的な議論を尽くしました上で,本委員会にフィードバックいたしまして,再び委員の皆様に十分ご議論いただければと,かように考えておりますので,どうぞよろしくお願いをいたします。
それでは,残る時間あと30分ぐらいございますけれども,全体を通じた自由討議とさせていただきたいと存じます。何かご意見,ご質問,あるいは本日が第6回ですけれども,過去の委員会等々にご出席いただいてさまざまなご意見等もあろうかと思いますので,自由にお出しいただければと思います。
【松田委員】
初めに,私から,何回かの委員会の中で出てきたものを私の頭の中で整理いたしますと,導入の必要性については,大きく分ければ2つあったわけであります。1つは形式的な違法状態があるので,それを解消するための必要性はあるのではないか。これは典型的にいうならば,何か許諾を取る前に原稿をつくる段階でも複製が起こるわけですから,そんなものを違法だと言う人はだれもいないでしょうし,これは恐らくどの見解をとってみても形式的違法性がある。実質的に違法性はないというようなことになる。こういうものを解消したいという必要性が一つある。
もう一つは,極めて直載に言うならば,インターネット上のデジタルコンテンツの利用,これの新規ビジネスモデルを萎縮させないための一般的制限規定の導入という必要性があるという考え方であったと思います。その2番目のところが実は一番問題なんだろうと思うんです。そして,これは単に萎縮だけではなくて,議論をしてみますと,今まで裁判所が違法だと判断している事案においても一般規定を導入することによって非侵害となるようにすべきであるという意見が実は一部にあったということをご記憶願いたいと,私は思います。
私は,この意見が出たときに,ここまでは絶対に許すべきでないという発言もしたのであります。2番目の萎縮効果排除のところにこういう議論が入っていることを整理した上で,これはどうなのかということは,一緒にしないで判断してもらいたいというふうに思います。もしこれが議論されないということになれば,一番困るのは裁判所だろうと私は思います。今までの判例理論からいうと違法だというふうにすみ分けできるところも一般規定が導入されたから適法にせよというような判断が求められることになる。そういう趣旨の一般規定なのだという議論は絶対に避けるべきだろうというふうに思うからであります。この点が一点であります。
もう一つ,法律的な議論をしているところで,一般的規定を著作権法上入れることがなぜいけないのかというような議論があったところで,民法上の権利濫用や不法行為やそれから信義即等の規定は明らかにいろいろな諸事情を勘案して裁判所が最終的に判断するという規定になっているのではないか。こういうのを一般規定というわけでしょうけれども,しかしながら,こういう規定は民事上かなり要件事実的に詰められ,詰められ,判例が形成されていて,それからそういう部分がもしないとしても,最終的に法の支配を徹底的にたたき込まれた裁判官に任せていいという部分なんだろうと,私は思っているわけです。法の支配ということが訓練されている裁判官に任せていい部分は,ある意味では白紙の条項にしておいても安全だという部分があるんだろうと思います。このことと,萎縮効果を排除するためのフェアユース規定というのは全く違う性質のものとしてあらわれることになるのではないかと,私は危惧しているわけであります。その分は一般的な白紙規定によって裁判所に任せていいというわけにはいかないと私は思っております。これこそ,制限をするのであれば,はっきり個別的制限規定を設けるべきだというふうに主張していたわけであります。したがいまして,発言者の方々には,説明者の方々には,具体的に日本において新規ビジネスを萎縮させてしまうような事案は何ですかというふうに,個々に尋ねてみました。もちろんのこと,この答えはそんなものをここで表示できるわけがありませんでしょう,表明できるわけがありませんでしょう,企業ノウハウですからと言いました。ほとんどそう言ったはずです。ご記憶にあると思います。
では,過去において,日本においてそういう効果があって,なおかつアメリカにもっていかれた事案がありますかと言ったら,ほとんど答えはなかったと私は思っております。ぜひ議事録を見ていただきたい。ただ,これに対して答えを出した団体があります。それはモバイルの団体であります。アメリカにもっていかれて新しいビジネスモデルはアメリカから始まっています。日本はほとんど始まっていません。それは全部著作権法上の規定が原因なのですと,こういうふうに答えたわけです。こう言われてしまうと,全部著作権法が障害になってアメリカに先にもっていかれて,日本のビジネスモデルが後になる。ビジネス開発,新規ビジネスが後になるというふうに言われてしまうと,これは論証のしようがないわけです。しかしながら,これはそんな乱暴な意見はと私ははっきりいって思っております。アメリカが優先するのは著作権法にフェアユース規定があり,日本が劣後するのは,それがないからだというふうな議論は余りにも大ざっぱ過ぎる。言ってみますと,ビジネスモデルの萎縮を排除するためにフェアユースが必要だという立法事実は,少なくともこの審議会,委員会では何ら提出されていなかったというふうに私は考えているところであります。
私の整理の仕方でありますので,ぜひワーキンググループに引き継いでいただきたいと思う次第であります。
【土肥主査】
前段のほうなんですけれども,フェアユースが入ることでこれまで裁判所が違法とされているものをフェアにするようなことはあってはならない,そういうことをおっしゃっておられるんですけれども,著作権侵害の場合と不法行為の場合とあろうと思うんですけれども,その両方についておっしゃっておられるということですか。
【松田委員】
私が言っている範囲は,不法行為であろうが,差し止めであろうが,著作権侵害を肯定されて違法だという場合と,そこまではいかない,著作権侵害がないから適法だ,同時に損害賠償も生じない,こういう事案で整理しております。例えば,ここの事案で議論されたのは,テレビの転送サービスが典型的な例として挙がったのではないかと思っております。このテレビの転送サービスは,差し止めとして仮処分で争われたものもあれば,損害賠償として争われたものもあるわけでありますけれども,いずれにしましても,適法,違法の裁判例があるわけです。それをフェアユース規定を導入したことによって,すべて適法だというふうな導入論を唱えるということは反対だ,こういう趣旨を言ったわけであります。これについては「こういうネガティブな判決を解消するために一般規定を導入すべきだという」という考えを持っている発言者はいました。前回の一番最後でしたか,津田さんが発言したところで出ていたと思います。それから,審議会の中ではありませんが,公的な記録の中には,はっきり判決のネガティブなものをフェアユースで解消できるという発言をした研究者もいるのであります。だから,そういう考え方は世の中にあるんです。
【土肥主査】
ほかに,きょうは許されている時間内で自由討議ということにしたいと思いますので,どうぞ広くご意見をいただければと思います。清水委員,お願いします。
【清水委員】
多分ネガティブな判決をしたことがあるんですが,今回ワーキングチームに任されている課題というのは,それも含めてのことではないのでしょうか。先ほど道垣内先生も言われた幾つかの案という中には,違法かもしれないものの適法化というのも見据えて幾つかの案を出すということではないのでしょうか。判例上は違法適法が分かれている問題について,ある程度の構成要件を課することによって適法化していく,従来であれば違法だったかもしれないけれども,適法化するというような条文をつくることは,全く考慮すべきでないというご意見でしょうか。
【松田委員】
違法だと判決したケースを適法性化するような要件を一般的条項で入れられるのでしょうか。私は無理だろうと思っています。一般的条項というのは,裁判所にある程度「公正な」の判断権限を与えて,裁判所が諸要素を総合して判断することになります。この意味で諸要素を総合的に判断するところに意味があるわけですから,テレビ転送サービスの違法性,適法性をフェアユース規定ですみ分けするということは不可能ではないかというふうに思いますが,いかがなものでしょうか。
【茶園委員】
テレビ転送サービスをどのように考えるかといった具体的な問題についてはよくわかりませんけれども,白地で委ねるかどうかというのも,恐らく規定のタイプによっていろいろ違うとは思います。そして,今具体的な事例をすぐには思いつきませんけれども,現在フェアユース規定がなくて,権利制限規定が限定列挙だということから,あるいは実質的な価値判断としては許されても構わないと思われるのであるが,現行法上は侵害になるというような行為が,一般条項的なものが入ることによって合法化されるということは,十分あり得て,そのようになる可能性も,先ほど清水委員がおっしゃいましたように,ワーキングチームの中で,それがいいかどうかということも含めて検討していただければよいのではないかというように思います。
【大渕委員】
今のテレビ転送サービスの問題というのは,フェアユースの問題にしてくれというので時々出てくるんですが,多分我々研究者の間では,これは端的にはいわゆる間接侵害の問題であって,フェアユースの問題にしようと思えばできるでしょうけれども,そちらの問題ではないんじゃないかというふうに思います。第一義的には,間接侵害をどうするかでまたいろいろ変わってきますけれども,余り言うと別のワーキングチームでの検討を急げという話になるので言いたくはないんですけれども,第一義的には間接侵害の問題で,それを踏まえた上でまたどうするかということになろうかと思います。
それから,先ほどのテレビ転送サービスが適法か違法かというのは,まさしく先ほど出ておりました2つのタイプのをどちらにするのかというところとも密接に結びついておりますが,先ほどの話だとそういうのもいろいろ選択肢をつくって云々となっているので,それはすべてそういうものも含めて検討の対象になり得る問題かなという気がしております。
それから,今の段階で申し上げるのもよくないのかもしれないんですけれども,これは一般条項と個別規定との関係が問題になるんですが,いろいろアンケートを聞いていても,写り込みなどの場合には,形式上違法といえるかどうかは別として,適法にしていいんじゃないかというコンセンサス的なものはほぼできつつあるように思うんですけれども,そういうものについて,イギリスやドイツでは,個別権利制限規定として明確に規定が置かれていることでもあるので,一般条項でいくのか,それとも個別規定で明記してしまうかという点は検討の余地があり得ようかと思います。一般条項は一般条項でもちろん検討しますけれども,その中には一般条項にしないと書きにくいようなものもあれば,もっとはっきり個別規定で書いてしまったほうがいいというものもあるかもしれないので,その辺も含めた前広の議論というのもあっていいのかなという気がしています。フェアユースの対象としてほしいとされているもののなかには,主要国では個別規定にしているようなものも入ったりしているので,そういう意味ではフェアユースにこだわらずに,一般規定と個別規定との間でいろいろな組み合わせ等もあっていいのかなという気がしています。
【土肥主査】
組み合わせ方ということからすると,間接侵害のあたりはいつぐらいになるんでしょうか。今まだわかりませんか。
【大渕委員】
もう一つの大論点なものですから。
【土肥主査】
ほかにご意見ございますか。
事務局に質問なんですけれども,法制小委はこの後大体どういうふうになりましょうか。つまり,先ほど私の発言では委員の報告をするということを申しているわけですけれども,それは法制小委に報告するわけですね。それはいつぐらいに報告するということになりますか。
【永山著作権課長】
今のご質問は,ワーキングチームで今後検討いただいて,その報告という……
【土肥主査】
チームのほうです。チームのメンバーを指名しまして,それを法制小委で報告するわけですね。
【永山著作権課長】
それは主査ともご相談ですけれども,チーム委員が決まり次第またメールなど,何らかの形でご報告をさせていただきたいとは思っています。
【土肥主査】
メールを通じて法制小委に……
【永山著作権課長】
小委員会の委員の方々にはそういう形でご報告させていただければと思っております。
【土肥主査】
ほかにございませんか。もし特段ございませんようでしたら,本日はこのぐらいにしたいと思いますけれども,いかがでございましょうか。上野委員はこの後あれですけれども,最後に何かありますか。いいですか。
それでは,事務局から連絡事項をお願いいたします。

(2)その他

【池村著作権調査官】
次回の小委員会につきましては開催が決まり次第改めてご案内させていただきたいと思います。
【土肥主査】
それでは,本日はこれで第6回法制問題小委員会を終わらせていただきます。本日はどうもありがとうございました。
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