議事録

文化審議会著作権分科会
国際小委員会(第1回)議事録

日時:
平成24年5月23日(水)
15:00~17:00
場所:
文部科学省東館3階 3F2会議室
  1. 開会
  2. 委員及び出席者紹介
  3. 議事
    1. (1)主査の選任等について
    2. (2)今期の国際小委員会の進め方について
    3. (3)諸外国の著作権法,諸外国間のFTAについて
    4. (4)海外における著作権普及啓発の推進方策の検討
    5. (5)その他
  4. 閉会

配布資料

議事内容

○15:00開会

○本小委員会の主査の選任が行われ,道垣内委員が主査に決定した。
○主査代理について,道垣内主査より大楽委員が主査代理に指名された。
以上については「文化審議会著作権分科会の議事の公開について」(平成二十二年二月十五日文化審議会著作権分科会決定)における1.(1)の規定に基づき,議事の内容を非公開とする。

【道垣内主査】 傍聴の方々にはお手数をおかけしました。主査に選任されました道垣内でございます。よろしくお願いいたします。
 それでは,開催に当たりまして,河村文化庁次長より,ごあいさつをいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【河村文化庁次長】 では,第12期の文化審議会著作権分科会国際小委員会の開催に当たりまして,一言ごあいさつを申し上げたいと存じます。
 皆様には大変お忙しいところ,この委員会の委員をお引き受けくださいまして,本当にありがとうございます。近年の著作権をめぐる状況,先生方は大変よく御存じのことでございますが,諸外国それぞれの国内,あるいは地域内,二国間,多国間,あるいはその国際機関といったところを舞台にいたしまして,様々な動きが見られるところでございます。
 これらの動向をよく見,またその情報を収集し,分析をして,著作権保護と活用に向けました国際的な対応の在り方を私どもとしても検討していくことが,我が国の著作権法制度の将来を考えていくことのみならず,より調和のとれた国際的な枠組みづくりの中で,日本が貢献していくということにもつながっていくものと存じます。
 前期の委員会におきましては,インターネットによる国境を越えた海賊行為,著作権保護に向けた国際的な対応の在り方,知財と開発フォークロアの問題への対応の在り方などについて御審議をちょうだいいたしました。今期におきましても,引き続きこれらの問題についても,御審議をお願いしたいと私どもとしては考えております。御多忙の中とは存じますが,どうぞ,今期御審議をよろしくお願い申し上げます。
 ありがとうございます。

【道垣内主査】 ごあいさつ,どうもありがとうございました。
 資料2にありますように,この小委員会の所掌事項は,文化審議会著作権分科会の決定によるわけですが,資料2の2の(2)「国際的ルール作り及び国境を越えた海賊行為への対応の在り方に関すること」という事項でございます。
 この枠組みの中で何をどのような順番でどう議論していくかということが議題の2番目でございます。今期の国際小委員会の進め方について,まず,事務局から説明いただけますでしょうか。

【星野専門官】 はい。それでは,今,先生がおっしゃいましたように,国際小委員会は,資料2にございますとおり,著作権分科会の中に設けられている1つの小委員会でございまして,国際的ルール及び国境を越えた海賊行為への対応の在り方に関することを審議するとなってございます。
 今期12期の国際小委員会の進め方について,資料3に基づきまして御説明を申し上げたいと思います。まず,背景ですけれども,昨年度の国際小委員会におきましては,インターネットによる国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方,著作権保護に向けた国際的な対応の在り方,知財と開発問題・フォークロア問題への対応の在り方,この3つにつきまして御審議をいただきまして,一定の方向性についてまとめていただいたところでございます。
 1番目に関しては,こちらにも書いてございますが,今後も海賊行為に係る状況の把握に努めるとともに,侵害発生国の関係機関等との連携強化を図ると。それから違法コンテンツの流通防止に向けた意識啓発の促進に向けた対応について,検討していくことが必要であるというふうにおまとめをいただきました。
 2つ目と3つ目の点に関しましては,WIPO等における議論を見つつ,引き続き我が国の対応の在り方を検討していくことが必要であるとされたところでございます。
 一方で国際的な状況を見ますと,WIPO等のマルチなフレームワークのみならず,例えば二国間の経済連携協定であるFTAやEPAなどの枠組みにおいても,知的財産の保護を推進しようという取組が見られております。それから諸外国におきましても,著作権法制度をめぐる様々な動きが見られるところ,日本としてもこれらの動向に目を配り,例えば米国でありますとか,EU,韓国等々,主要の諸外国の著作権法制度が抱える課題や,我が国の著作権法制度との比較の観点から論点の抽出を行い,それらの課題や論点について,我が国にとってのメリットや問題点を整理・検討しておくことは重要であると考えられるところでございます。
 そして,これを踏まえての今期の小委員会の進め方についてでございますが,ページを1枚おめくりいただきまして,こちらにまとめてございます。今期の小委員会につきましては,昨年度の論点に加えて,4番目として主要諸外国の著作権法及び制度に対する課題や論点の整理ということを盛り込んではどうかと考えてございます。
 1番目の海賊行為に対する対応の在り方については,引き続き海外における侵害実態や権利執行に係る法的枠組み等の把握,侵害発生国の関係機関との連携強化のために必要は施策の検討を行っていくことにしてはどうかと考えます。それから,海外における効果的な普及啓発を促進するための方策についても,引き続き検討を行っていただければと存じます。
 2番目と3番目につきましては,WIPOなどの議論の動向を踏まえて,我が国の対応の在り方について,引き続き検討を進めていってはどうかと考えてございます。
 4番目の点についてでございますが,米国著作権法等の主要国の著作権法や,例えば韓米のFTAや,韓国の米国・EUとのFTAの研究・分析を通して,検討を進めていってはどうか。その上で,我が国から見た諸外国の著作権法制度が抱える課題を挙げ,諸外国の著作権法制度のうち,我が国の著作権法と比較して,異なる法制度の中から論点となり得る項目を抽出した上で検討を行い,そのメリットや問題点について整理を行っていってはどうかと考えてございます。
 スケジュールでございますけれども,次のページにまとめてございます。今年度は分科会として報告書をまとめる予定になってございますので,事務局としては4回程度の開催をしたいと考えてございます。1回目を5月,本日ですけれども,開催をいたしまして,2回目を8月末から9月初めぐらいに開催をしてはどうかと。それを踏まえて,3回目に再度報告事項等々,1回目,2回目の論点を踏まえた上でのまとめも含め3回目を開催し,4回目に今期の小委員会としての報告書のまとめを行っていきたいと考えているところでございます。
 後ろの資料は別添1としてございまして,平成23年度の国際小委員会の審議の経過を御参考までにおつけをしているものでございます。
 事務局からの説明は以上でございます。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 この小委員会の議事の進め方は,小委員会の自身の問題でございます。資料3は飽くまでたたき台でございますので,委員の方から忌たんのない御意見をいただいて決定をし,それに基づいて審議を進めていくというふうにしたいと思います。何かこのたたき台である資料3について,あるいは今の御説明について,御意見等はございますでしょうか。
 (1)から(3)は昨年と同じで,(4)のところが新しく入ってところです。(4)の項目については,書き方は極めて一般的で,比較法的な方法により,アメリカとか,韓国が結んでいるFTAなどに,日本に参考になる点があるのではないかという見込みのもとに検討しましょうということです。これにより論点が抽出され,国内法化していくのであれば法制小委員会の審議を経てというふうになると思います。この小委員会としてはそういう情報収集をし,分析をするというところにあると思われます。いかがでしょうか。
 よろしゅうございますでしょうか。
 それでは,この資料3の2のところはよろしいということで,3も,今,御説明いただいたところでよろしゅうございますか。この2が御了承いただけるという前提で項目だけができておりますので,資料3の2でよろしければ,このとおりに進めていこうと思います。
 そうしますと,ここまでで本日の議事次第の方の2番まで行ったということですので,議事の3番,本日はこの「諸外国の著作権法,諸外国のFTAについて」という項目に関連して,韓国の著作権制度にお詳しい東京都市大学の張睿暎(いぇよん)先生にお越しいただいております。そこで,まずは張先生に韓国のFTAの概要及び著作権法の関連する改正について御報告いただき,その後,山本隆司委員にも米国著作権法についてペーパーを用意していただいておりますので,両先生の御報告をあわせて伺った上で,委員の方々からの御意見を伺うということにしたいと思います。それぞれ20分から25分ぐらいでお願いしたいと思いますので,よろしくお願いいたします。
 では,まず張先生,お願いいたします。

【張准教授(東京都市大学)】 東京都市大学の張です。よろしくお願いします。
 本日は,韓国のFTAの現状を簡単に御紹介した上で,その中でも米国及び欧州連合とのFTAの合意内容,またそれに影響を受けたとされる昨年度の韓国の著作権法改正について,簡単に御紹介できればと思います。
 韓国は,FTA(自由貿易協定)にかなり力を入れておりまして,2000年度に入ってから,諸外国と協定を結ぶための試みをしています。2004年度に発効したチリとのFTAを始めに,シンガポール,EFTA,ASEAN,インドともFTAが発効しております。またペルーとのFTAも署名を終えているところであります。
 米国とのFTAに関しては,2007年の段階で締結・署名をしたわけですけれども,国内外の強い反対がありまして,実際に発効されるまでは紆(う)余曲折がありました。例えば牛肉など懸案の問題がありまして,締結はしたものの,国会に回付された批准案が通過せずにいました。やっと昨年になってから,米国でも履行法案が署名され,韓国でも国会で批准同意案が通過したという経緯があります。そして今年の3月に韓米FTAは発効することになりました。
 一方,欧州連合(EU)とのFTAに関しては,米国とのFTAより後から交渉が始まったんですけれども,米国とのFTAに比べて比較的スムーズに進んでおりまして,2010年の段階で署名されて,2011年には欧州議会の本会議及び韓国の国会で批准案が通過しています。そして2011年7月に暫定発効されています。
 韓国は,ほかにもメキシコ,オーストラリア,ニュージーランドなど多くの国とFTAの交渉を進めていますが,ここからは様々な国とのFTAの中でも,特に韓国の近時の著作権法改正に特に影響するものとして,韓米及び韓EU間のFTAの合意内容をみてから,関連する著作権法改正を御紹介できればと思います。
 韓米及び韓EU間のFTAの主な合意内容ですが,本日は著作権関連内容のみを抽出して御紹介したいと思います。国際課から事前に幾つかのキーワードをいただいておりまして,例えば「権利管理情報」,「権利者推定」,「一時的複製」などのキーワードは配付資料の関連分にグレーの網掛けで表示しております。
 米国とのFTAにおいては,様々な分野において交渉されたわけですが,特に知的財産権全般に関してはその交渉の際に多々議論されました。著作権分野では,一時的複製に著作権者複製権を認定することに合意し,保護期間を70年に延長することにも合意しています。ただし保護期間延長に関してはその施行をFTA発効後の2年後という猶予期間を付与するとしています。
 技術的な保護措置に関する規制を更に強化し,権利管理情報に関しても禁止行為を追加しております。
 法定損害賠償制度の導入や情報提供命令の導入にも合意をしています。情報提供命令は,著作権侵害に関する情報を侵害者に提出させるように命令できる権限を裁判所に与えるというものです。
 著作権侵害物品の税関申告制度の導入もあります。商標に関しては税関申告制度が存在していましたが,著作権に関しても導入することに合意しています。
 商業的規模の著作権侵害の非親告罪化は,米国との合意前の2006年の段階で著作権法改正により既に導入されているので,確認的な合意だといえます。
 偽造ラベルの流通禁止も商標に関しては対応がありましたが,著作権関連商品に付されたラベルの流通に関しても合意しています。
 映像著作物の盗撮禁止,いわゆる映画館での盗撮禁止の規定も導入することに合意をしています。
 オンラインサービス提供者の免責要件を決めるということにも合意しています。韓国では2003年著作権法改正で,オンラインサービス提供者の責任という新たな章を設けていたのですが,一般的な規定に終わっていたので,そちらを更に詳しく規定化しようということに合意をしたことになります。ここまでが,米国とのFTAの合意内容になります。
 次は,欧州連合との合意内容です。ここでも著作権保護期間の延長が合意され,同じく2年間の猶予期間を付与することにしています。
 放送事業者に「テレビ放送を上映する対価として入場料をとる行為」を許諾又は禁止できる権利を付与し,権利者推定規定を放送事業者にも拡大して適用することに合意しています。
 次は,いわゆる追及権です。韓国では再販売権と呼んでいますが,美術作品に関するこの再販売権に関しては,今後の導入可能性に関して協議を開始することに合意をしているところであります。
 そのほかにも,著作物に対する技術的な保護措置をう回する行為,又はその手段などを提供する行為を禁止すること,権利管理情報の除去・変更などの行為を禁止することにも合意をしています。
 2003年韓国著作権法では,オンラインサービス提供者を特に類型に分けてはいませんでしたが,欧州との合意内容においては3つの類型,欧州指令においてインターネット・サービスプロバイダが3つに分類されているからです。3つの類型に分けて,類型ごとに異なる免責規定を適用することに合意しています。
 また,オンラインサービス提供者に対して,一定の情報を捜査機関に提供する義務を負わせることができることに合意をしています。
 そのほかに欧州連合とのFTAでは,文化協力議定書を交換し,一定の基準を充足した視聴覚共同製作物,映画,アニメーションなどのコンテンツに関しては,韓国及び欧州会員国の中で自国の作品として政策的な支援を同一に受けることができるとしています。
 ここまでが欧州及び米国とのFTAの合意内容です。これらの内容を受けて昨年韓国では2回の著作権法改正が行われています。資料の3ページからは,その著作権法改正の内容を簡単に御紹介しています。
 まず,2011年6月30日の改正法です。FTAの署名自体は韓米FTAの方が先だったんですけれども,本改正に反映されたのは先に発効した韓EU FTAの方です。
 改正の内容としては,まず保護期間の延長が挙げられています。こちらは発効してから2年間の猶予期間がありますので,実際施行されるのは2013年からになります。
 権利推定規定を放送事業者にも適用するという合意内容と関連しては,著作隣接権者の権利推定規定を新たに導入しました。韓国著作権法の第8条には著作者の推定規定がありますが,この著作者推定規定にプラスして,著作隣接権者の権利推定規定も新たに導入しました。第64条の2は「実演家等の推定」という内容で隣接権者として表示されている者にその権利を有する者と推定すると規定をしております。
 放送事業者の権利に関連しては公衆のアクセスの可能な場所での放送の視聴に入場料を取る場合の放送事業者の公演権を認めています。ただし韓国の国内においてこのように入場料を取って放送を視聴させるようなビジネス業態というのは存在しないので,大きな影響はないといわれています。
 次にオンラインサービス提供者を以下の4つの類型に分けて,類型ごとの免責要件を明確にしています。欧州連合とのFTA合意では3つの類型に区分するとしていたんですが,欧州連合との交渉の段階では既にアメリカとの交渉が進んでいたので,米国著作権法にあるように4つの類型に改正されています。類型ごとの免責要件を明確にし,それに伴う責任制限に関連してオンラインサービス提供者には一般的な監視義務はないことを確認しています。
 第103条の没収対象も拡大されています。従来も刑事制裁としての没収は認めていたのですが,その対象は「複製物」に限定されていました。今回の改正で違法な複製物だけではなくて,「その複製物の製作に主に使用された道具や材料」も,対象に含まれるようになりました。
 技術的保護措置の保護強化と免責要件も明確化されました。コピー・コントロールのみならずアクセス・コントロールもその対象とし,技術的保護措置を無力化するための装置・部品などを製造・販売・提供することを禁止しています。
 ただし,一定の場合の例外として,暗号技術の研究,未成年者に有害なオンライン著作物の流通の防止,国の法執行,プログラムコードのリバース・エンジニアリング,情報通信網の安全性検査などを挙げています。
 ここまでが欧州連合とのFTAの合意内容を反映するための法改正になっております。
 次に4ページの中段からは,2011年12月の改正法です。米国とのFTA合意内容を反映するための改正法になっています。ただし,著作権保護期間の延長などは6月の法改正で既に反映されていますので,今回のはそれら共通する内容を除外したほかの部分に関する改正がされております。
 この主な内容として,まず一時的な複製の保護を明確化しました。第2条の定義規定では,「複製」とは「永久的」に有形物に固定するか,改めて製作することと規定があったんですけれども,そこに「一時的」という文言を追加して,一時的な固定も複製行為に含まれることを明確にしました。
 一時的複製が著作者の権利範囲であることを明確にしたんですけれども,同時に35条の2を新設し,コンピュータなどで著作物を利用する場合の円滑で効率的な情報処理のために必要だと認められる範囲内では,その利用過程における一時的な複製が認められるとしています。ただ,更にただし書がありまして,利用過程における一時的な複製が著作権を侵害すると思われるような場合は,それは除外されるとしています。
 次に,著作物の公正利用,いわゆるフェアユース規定を導入しています。フェアユースは米国とのFTAの合意内容に入っているものではなく,米国がフェアユースの導入を導入するように求めたわけではありませんが,近時の一連の著作権法改正によって著作権が強化される傾向ではないかという懸念もありまして,今回このような運びになりました。
 フェアユースの導入に関しては,韓国においても2005-6年あたりから議員発案などで何度も提出されていたんですが,導入にまでは至りませんでした。今回の両FTAをきっかけとする2回の大きな改正の中でこのいわゆるフェア・ユース制度が導入されることになりました。規定の内容は御覧のとおりに米国法上のフェアユースとかなり類似する内容になっています。
 本規定は,例えば引用など既存の例外規定との関係も懸念されましたが,文化体育観光部の解説上は,既存の例外規定と併存して受皿的な規定として機能できると期待していると解説されているところであります。
 排他的利用権制度も導入されています。既存の韓国法の中では,一般の著作物に対しては出版権が,コンピュータプログラムに対しては排他的発行権が存在したていたのですが,それ以外の著作物に関しては排他的な権利が存在しませんでした。今回の改正で著作物全般に対する排他的発行権を新たに導入することで,発行の範囲に伝送も含むことになり,様々な形の著作物の発行に排他的な権利を認める根拠となっています。これは電子書籍の出版などにも活用することができると期待されているところであります。
 次は著作権の隣接権の保護期間の延長(著作権の保護期間延長は6月改正法で対応)です。こちらも50年から70年に延長しておりますが,放送に関しては延長せずそのまま50年としています。
 なぜ放送だけは延長しなかったかといいますと,米国法で放送事業者を別途保護していないこと,韓米FTAの中では特に放送に関しては延長の内容がなかったこと,更に現在WIPOで放送条約が議論されていることから,その結果を見てから対応しようということになっているそうです。保護期間の延長に関しては,外国人に対しても相互主義をとっています。
 オンラインサービスプロバイダ(OSP)の免責規定も更に改正して,反復的な侵害者に対するポリシーを採用すること,標準的な技術措置を受容することなどを追加しています。
 そのほかに,侵害者情報の提供請求ですとか,権利管理情報の保護範囲の拡大なども今回の改正に入っています。権利管理情報の保護に関しては,既存は電子的なもののみでしたが,例えば光学的なもの,バーコードやQRコードなども権利管理情報に含めるべきではないかということで,電子的なもの及び非電子的なものを含むようにしています。
 その他の改正としては,暗号化された放送信号の保護,偽造及び不法ラベルの流通禁止,映画館盗撮禁止など,FTAの中で合意されている内容が法制化されています。
 また,法定損害賠償制度も導入,侵害された各々の著作物ごとに1,000万ウォン(約100万円弱)の法定損害賠償を認めています。営利目的で故意に侵害した場合は5,000万ウォン(約500万円弱)以下の範囲で相当な金額を賠償するように規定しています。ただし,これらの法定損害賠償制度を請求できるのは,事実審弁論終結時までと限定をしていまして,また請求するためには,侵害行為が生じる前にその著作物を登録しなければならないとしています。
 ほかにも,証拠収集のための情報提供,訴訟当事者に対する秘密維持命令,非親告罪の対象拡大などの改正がされています。既存は「営利かつ常習的な」ときに非親告罪になるのですが,それを「営利若しくは常習」,どれかに該当すれば非親告罪にすることができると改正しました。
 駆け足になってしまいましたが,以上韓国のFTA関連の著作権法改正の説明を終わらせていただきます。どうもありがとうございます。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 それでは,引き続きまして,山本先生からのアメリカの著作権制度についての御説明をお願いいたします。

【山本委員】では,私の方から,アメリカ著作権制度の特徴についてお話しさせていただきます。
 2ページ目をお願いします。日本法との比較では,特徴があるのはこのあたりかなというのをざっと挙げてみましたが,時間も余りありませんので,中身に入りたいと思います。
 次のページ,お願いします。まず,アメリカの著作権法の場合には,連邦憲法の中に根拠規定があります。アメリカは連邦制をとっていますので,連邦政府が立法権限を持つのは憲法に入っている事項に限られるので,特許法と著作権法については連邦憲法の中に根拠規定があります。それは1条1項8号ですが,こういうふうに書いてあります。「連邦議会は,著作者及び発明者に対して,それぞれ著作及び発明に対する排他的権利を一定の期間に限り付与することにより,科学及び有用な技芸の振興を促進する権限を有する」。
 ここで注意すべき点としましては,まず,この著作権制度として予定されているのは,著作者の人格を保護するためという発想ではなく,あくまでも産業政策的な意図です。世の中に著作物がたくさん広まるためには,一定の期間,独占権を与えた方がいいという極めて功利的な発想に基づいて著作権制度は考えられているということです。
 更に,今の読みましたところの中に「著作者(author)」という概念があります。authorという言葉から,保護されるものとしては創作性が必要だという,創作性の要件が抽出されています。次に,対象物としては「著作(writing)」という言葉がありますが,このwritingというのは,紙に書かれたものだけに限らず,拡大解釈がどんどんされて,彫刻であろうと,映画であろうと,音楽であろうと,すべてのものが含まれるという解釈になっているんですが,最低限,固定されているという固定性の要件だけは外せないという解釈がされています。
 その結果,連邦憲法で保護する著作物は固定されているものに限られますので,最大限そこまでです。未固定の著作物は,州法の立法権限に属することになります。各州は著作権法を持っていまして,制定法で持っている州もありますし,判例法で持っているところもあるのですが,いずれにしても未固定の著作物についての州が著作権法を持っています。それによりまして,アメリカの中では連邦法のレベルによる保護と,州法のレベルによる保護との2階構造になっているという点が1つの特徴点です。
 次,お願いします。保護対象物の特徴点ですが,日本では著作物に対しては著作権で保護し,レコードや実演,放送や有線放送に対しては,著作隣接権で保護するというような形になっていますが,アメリカには著作隣接権制度はありません。
 じゃあ,どういう形で,日本で著作隣接権に当たるものは保護されているのかといいますと,著作権で著作物として保護されています。実演であれば,実演を固定した「視聴覚著作物」,映画などですね,「録音物」,レコードですね,として保護すると。レコード製作に関しては「録音物」として保護すると。それから放送や有線放送については,放送された中身を固定したもの,テレビであれば「視聴覚著作物」,それからラジオであれば「録音物」として保護すると。固定の要件が必要なりますが,放送すると同時に,他方でレコーダーで録音・録画していれば,つまり同時固定していればこれに当たるというような形で,生放送であっても保護を及ぼしています。
 次,お願いします。次は著作権登録制度です。日本では著作権登録制度はありますが,著作権の移転であるとか,実名の登録であるとか,第1発行日の登録であるとか,創作日の登録であるとか,この4つの場合にしか登録できませんが,アメリカの場合には,こういう著作物をつくりましたと。したがって,私は著作権を持っていますということで,著作権登録ができます。
 日本の不動産制度に置きかえて言いますと,建物を建てたというときには保存登記というのが日本ではできます。それを人に売れば譲渡したという登記ができますが,それとパラレルに,日本では著作権について保存登記に相当する制度はありません。ところがアメリカの場合には,著作物をつくりましたという保存登記に相当する著作権登録が可能なわけです。この著作物をつくりました,著作権を持っています,ということ自体を登録できるので,登録の対象が極めて広いものになっていまして,アメリカでは,大体商業用で使われる著作物はすべて著作権局に登録されるというのが慣行になっています。
 著作権の登録はいろいろな法律上の効果が与えられえています。1つは,登録された内容については法律上の推定が与えられると。また,いつまでにという要件がありますが,著作権登録をしていれば法定賠償請求権が発生しますと。ですから登録していないと,例えば日本人がアメリカで著作権侵害されましたということで訴訟を起こした場合に,登録はしていなくても訴えは起こせるのですが,法定賠償は請求できないと。登録すれば法定賠償を請求できる。
 それから,弁護士報酬の回復請求権というのも登録が要件になります。日本では,損害賠償で例えば1,000万円請求すると,弁護士必要として大体10%の100万円ぐらい裁判所は認定してくれますが,アメリカで1,000万円の請求をしようと思っても,通常弁護士費用は1億の単位で費用がかかります。裁判をやって勝てば,相手方からかかった弁護士費用全額取れます。ですから,日本なんかと違って,これは極めて有効な,重要な制度になっています。
 3番目は訴訟要件。ベルヌ条約加盟国を本国とする著作物については,それがアメリカで侵害されたという場合に,登録をしていなくても訴えは起こせます。しかし,アメリカを本国とする著作物に関しては,事前に著作権登録をしていないと訴訟を起こすことができません。そういう効果が与えられています。
 次,お願いします。次は著作権の支分権です。おおよそのところは日本とそんなに違うことはありませんが,特徴的なのは,1つは著作権の支分権が5つの支分権に単純に分類されているということです。複製権,二次的著作物作成権,頒布権,公衆実演権,公衆展示権という5種類に分けられていると。
 アメリカの場合の複製権というのは,広い概念で,日本で言う翻案権を含んでいます。それにプラスして,翻案して出来上がったものが二次的著作物になる場合には,今度は二次的著作物作成権の侵害にも当たるという二重構造になっています。
 頒布権に関しましては,それの延長といいますか,日本では頒布権とは別に貸与権という概念がありますが,アメリカの場合には頒布権は消尽すると。消尽する例外として,貸与の場合には消尽はそこには及ばないという形で,貸与権が与えられています。それから頒布権の概念の一種として,輸入権・輸出権というものが与えられています。日本ではみなし侵害ですが,アメリカでは正面から権利として認められています。
 頒布という概念は本来的には有体物を右から左に移すことです。効果的からみると,その著作物が右から左に移って,その移った先に複製物が存在するという結果が生じているという意味で,公衆送信の場合,同じように送った先に複製物ができます。有体物は移転しないのですが,公衆送信であっても,頒布権の侵害に当たるという拡大解釈をやっています。したがって,我々が考えます公衆送信権とか公衆伝達権というのは,頒布権でアメリカでは保護されています。
 頒布権というのは売った段階だけじゃなく,売るための準備をした段階でも認められますので,送信可能化の段階でも頒布権に抵触します。ということで,アメリカの著作権法上は,送信可能化権というのは条文上は出てきませんが,頒布権の中で保護されていると解釈されます。
 あと,著作者人格権については,氏名表示権と同一性保持権というのは条文上規定を入れていますが,小数部発行の芸術作品にだけ限定されていまして,それ以外の著作物については与えられていません。
 次,お願いします。フェア・ユースの法理ですが,これは皆さんよく御案内のところだと思いますので中身は省略しますが,結論だけ御紹介します。フェア・ユースの法理は極めて漠然としていますが,判例法上,どんどんそれで保護されるものが明確になってきていまして,今のところ非営利目的の使用であるとか,トランスフォーマティブ・ユースと言われます著作物の鑑賞価値自体を使用しない使い方について,フェア・ユースが認められるという結論になっております。
 次,お願いします。プロバイダの責任制限ですが,これも特徴だけ申し上げます。2つ柱があります。Notice & Take Downという手続です。これは,権利者から侵害されているという通知がプロバイダに行けば,プロバイダは侵害しているかどうかの判断はせずに,もう直ちに削除しないといけないという義務が法律上決まっています。それによって,プロバイダは判断しなくても責任を免れるという,判断リスクから解放されているという効果,それがねらいでつくられています。
 他方,発信者の保護のために,発信者が反対通知を行うことができます。反対通知があると,著作権者から発信者に対して訴えを提起しない限りは,削除された情報は復活するという制度になっています。
 2番目の柱の発信者情報開示制度ですが,これは,権利者が侵害通知をした場合ですが,権利者から裁判所の書記官に対して一定の形式的な書類を出すと,発信者情報の開示命令を出してもらえます。それによって,プロバイダはもう有無を言わさず,発信者情報を権利者に出さないといけません。その結果,権利者は発信者に対して,直接訴えを起こすことができることになります。ということで,プロバイダは訴訟の当事者になるリスクを負わなくて済みます。日本の場合には発信者情報をなかなか開示してもらえなくて,結局プロバイダをいったん訴えないと発信者情報を開示してもらえないのが実態ですが,その訴訟当事者リスクから,プロバイダを解放する制度になっています。
 次,お願いします。技術的手段の保護ですが,御案内のとおりWIPOの条約(WCT,WPPT)では技術的手段の保護を義務づけていますが,コピー・コントロールの禁止に限られています。しかし,アメリカの場合にはアクセス・コントロールの回避行為自体を禁止するという規定,またアクセス・コントロールを回避するための装置の取引を禁止するという規定が入っております。
 解釈上といいますか,「アクセス権」という言葉は使っておりませんが,DMCAを立法した上院の報告書などでは,権利を新たにつくったんだということを書いておりまして,それを解釈した2010年のMDY判決なんかでは,これは「アクセス権」を創設したものだということをはっきり言っております。他方,同じようにアクセス・コントロールの保護に関しては,EUの情報社会指令でも入れています。この辺は日本と全く違う状況になっております。
 もう一つ日本とは大きく違うと思いますのは,日本では,技術的手段の保護という場合には,技術を特定して保護の対象にするというやり方をやっていますが,アメリカの場合には,技術の種類について包括的な指定方式です。アクセス・コントロールの場合にはこういうふうに書いています。「著作物へのアクセスを効果的にコントロールする技術的手段」,つまり技術の種類を特定していません。コピー・コントロールに関しては,「著作権者の権利を効果的に保護する技術的手段」ということで,やはり技術の種類は問題にしておりません。
 そして,この技術的手段に関しては,裁判例上大きく議論が分かれているところがあります。それを御紹介しますと,アクセス・コントロールの保護に関してなんですが,このアクセス・コントロールをなぜ保護するのかというと,アクセス自体に既存の著作権,支分権とは違う独自の法益として認めたんだという立場と,そうではなしに,既存の支分権を保護するための手段としてアクセス・コントロールも視野に入れているんだという解釈であります。
 後者の解釈はチェンバレン判決がとった解釈ですが,アクセス・コントロールの保護は,新たにアクセス権を創設する性質だとは考えません。アクセス・コントロールの回避については,それによって著作権侵害又は著作権侵害のおそれが生ずる場合にのみ,その回避行為は違法だという制限的に解釈します。単純に回避しただけでは違法ではなく,著作権侵害に関連するという場合にしか違法にならないという,著作権侵害関連性という別の要件を1つ入れてきます。また,あくまでも著作権侵害に対する保護を規定する制度だと理解しますので,回避して使う目的がフェア・ユースのための使用であれば,それのための技術的手段の回避も適法だというふうにこのチェンバレン判決では考えます。
 それに対して,アクセスに対して独自の利益だというふうに考える立場からは,そのアクセス・コントロールは新たにアクセス権を創設したものだという前提にまず立ちます。そして著作権侵害が発生しなくても,あるいはそのおそれがなくても,アクセス・コントロールの回避を行えば直ちに違法だと考えます。また,たとえ回避したその後で著作物を使う目的がフェア・ユースのためであっても,もう回避したらそれだけで,このアクセス・コントロールの侵害になりますよというふうに考えます。
 技術的手段についての裁判例は数十件ありまして,アクセス・コントロールについても数十件あるんですが,その中で著作権法益説(チェンバレン判決)の立場に立ったのは4件だけで,そのうち2件はこのチェンバレン判決を出した連邦巡回区のものです。あとの2つは別の巡回区ですが,これはいずれも事実上ひっくり返されております。それ以外のすべての判決は,基本的にこのアクセス独自法益説に立っているというのが現状です。
 この著作権法益説(チェンバレン判決)は外国にも影響を与えていまして,イギリスでのアクセス・コントロールの保護についても,イギリスの裁判例に中にはチェンバレン判決と同じような解釈をとったようなものがあります。
 次,お願いします。権利管理情報の保護,これは今日のとり上げるべき項目として挙げられておりましたので書いたんですが,裁判例を探しましても,判例集に載っているようなものは特にありませんので,条文上だけ紹介させていただきます。日本との比較で特徴的だと思いますのは,著作権管理情報の範囲として,著作者を特定する情報であるとか,それから実演化その他クレジットに記載されるべきものを特定する情報も,この著作権管理情報の中に入れられて保護されています。
 次,お願いします。著作権侵害に対する救済措置ですが,日本と同じように差止請求権は認められております。日本では,間接侵害に対して差止請求権を認めるかどうかということは議論になっていますが,アメリカでは寄与侵害であろうと,代位侵害であろうと,間接侵害に対しても差止請求権の適用があるということは認められています。
 廃棄請求権は,日本では差止請求が認められる場合にしか,廃棄請求,つまり侵害物であるとか侵害のために使われた道具の廃棄を求めることはできないのですが,アメリカは差止請求権をやろうとやるまいと,この廃棄請求だけを求めるということが可能です。
 次は損害賠償請求権ですが,現実損害は当然請求できます。日本と同じような制度もあるんですが,何より特徴的なのは利益の賠償制度です。日本ではあくまでも被害者が被った損害しか回収はできません。ですから被害者が1,000万円損して,侵害者が1億円もうけたと。そのことがはっきりしている場合には,日本では1,000万円しか,つまり被害者,権利者のこうむった損害額しか請求できませんが,アメリカではその侵害者がもうけた利益を全部吐き出させるという発想で,侵害者が得た利益は賠償の対象になります。
 それと法定賠償という特徴的な制度があります。現損害の賠償と法定損害の賠償とは選択的に権利者が与えられています。これは1著作物当たり原則750ドルから3万ドル。ですから音楽CD,アルバムなんかは,コピーすると1枚コピーしただけでも何件ぐらいあるんですか。十幾つかの著作物の侵害というようなことで,結構な金額になるというような計算です。侵害の回数は基本的に関係ありません。
 更に,著作権侵害に対して懲罰的損害賠償が与えられるのかどうかという議論が実はありますが,大勢は否定しております。といいますのは,法定賠償の中に懲罰的損害賠償の趣旨が入っているというところから,懲罰的損害賠償は否定されています。しかし,中には懲罰的損害賠償をも認めるような裁判例もあります。
 先ほど弁護士報酬の回復請求権については申し上げました。
 あと,輸入の差しとめ措置としては,ルートが3つほどあります。裁判所に対して,何々の輸入を差しとめてくれという判決命令をもらうというやり方と,税関庁に対して登録をやっておいて,税関庁で侵害物だと判断するものを排除してもらうというやり方。それかITC(International Trade Commission)というところに訴えを起こして差しとめにするという3つのルートが与えられております。
 次,お願いします。次は申し訳ありません。皆さんのお手元にはありません。事務局の方からいただいていた宿題が落ちていたなというのに気がつきまして,急きょつけ加えたものです。RAMへの一時的蓄積は複製かという論点です。著作権法の102条の中で,「著作物を覚知し,複製し,又は伝達することができる」ものに固定されたものが,その保護の対象だとされています。著作物を覚知し複製し,又は伝達することができる程度に永続的又は安定的だったら複製ですが,それに至らない程度の著作物,覚知できない,複製できない,あるいは伝達できないような程度のものだったら,もう瞬間的な複製として保護の対象にはならないと考えられています。が問題は,立法時の下院の報告書の中に,コンピュータのメモリー上に瞬間的にとらえられたものは,複製にならないんだというようなことを書いていました。
 これが議論になりました。じゃあ,コンピュータメモリー,RAMに蓄積したのは複製にならないのか。コンピュータに電源を入れて複製して,電源を切るまでの間,何時間であっても存在するというのが複製にならないのかというような議論になりまして,議会がCONTU委員会をつくりまして,報告書をつくらせております。この報告書では,コンピュータメモリー上の蓄積も複製に当たるという結論を出しています。
 その後,いろいろな裁判所が議論していまして,複製に当たらないという判決はなくて,当たるという判決しかないのですが,一番有名なのはMAI事件です。裁判例でも複製に当たるという判断をされています。その後,DMCAが1998年に制定されているのですが,そのプロバイダの責任制限の過程で,RAMへの蓄積が複製に当たるということを前提にDMCAは作られており,いまでは立法的にもそういうふうに考えられています。
 更に,2001年に著作権局長がDMCAについての報告書を出しております。その中で,情報がRAMに蓄積された時間が短いために,読み込み,表示,コピー又は送信を行わないようにするということも理論的にはあるけれども,そういうことは現実的にはあり得ないと。情報を蓄積することはできても,読み込みも,表示,コピー又は送信をしないような装置があっても,それはもう何の役にも立たない,実用的な目的を持たないと。したがってそういう装置を作成するということに対して,複製に当たらないというような形にするような意味は全くないということで,結局,現行著作権法立法時の下院の報告書の中身をひっくり返しております。こういう議論の状況になっております。
 すみません。ちょっと長くなりましたが,以上で終わらせていただきます。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 内容豊富なものを手際よくまとめていただきました。どちらが先でも結構ですが,韓国のFTAの中身,あるいは米国著作権法について,御質問等ございますでしょうか。よろしいですか。
 野口委員。

【野口委員】 ありがとうございます。
 米国の点について,何点か御質問,むしろ米国法というより日本法の問題なんですけれども,この損害賠償の点で,先ほど山本委員の方から,日本では侵害者が得た利益を損害賠償で請求することはできないという御指摘があったと思うんですが。

【山本委員】 おっしゃりたいのは著作権法114条の2項だとは思うんですが,それは侵害者の利益を権利者の損害と推定するという規定でありまして,先ほど事例で申し上げましたように,権利者の損害が1,000万円とはっきりしていて,侵害者が1億円の利益だというような場合には,日本の場合には1,000万円しか認められないと思います。

【野口委員】 なるほど。

【道垣内主査】 よろしいですか。

【野口委員】 はい。

【道垣内主査】 ほかに何かございますでしょうか。どうぞ,中村委員。

【中村委員】 韓国について1つお伺いしたいんですけれども,日本でも保護期間延長の問題というのは随分議論になりましたが,まだ決着は見ておりません。それから,更にそれが法定損害賠償ですとか非親告罪化という話になってきますと,恐らく日本では非常に大きな議論になって,ユーザー側も反対するというふうに予測されるんですが,そういった問題は韓国ではどのような国内的な議論があったでしょうか。そしてどのように政治的に決着したかということについて,もしわかれば教えてください。

【張准教授(東京都市大学)】  はい。もちろん,保護期間の延長やその他多くの著作権を強化する形の改正に関しては,韓国の国内でも反対がありました。例えば,韓国のIP Leftという団体は,保護期間延長など今回のFTAの内容を反映する改正に対して様々な批判をしています。
 ただ,そのように批判はあったんですけれども,結局FTAは経済的な考慮が働くものです。FTAは知財以外の,例えば農業や製造業などもありますので,知的財産権はあくまでも交渉の1つの分野であるわけです。(これは例であり実際にそう交渉したというわけではありませんが)例えば車や半導体を譲ってもらう代わりに知財は譲りましょうというような,一定の政治的な判断があった結果このような形になったのかと思います。すなわちFTAの交渉事項のひとつとしての知的財産権分野に経済的な要素を考慮して判断したのではないかというものです。

【中村委員】 確認だけさせていただきたい。それは,要するに車,その他の産業の方のメリットをうたっているために,知財の方はデメリットであっても泣いたという推理をされたということですか。

【張准教授(東京都市大学)】 上記はあくまでも例えでして,車産業のために知財をあきらめたということではありません。知財分野そのものにも経済的考慮が働きました。例えば韓国では2009年の著作権法改正で,著作権法の目的規定も一部改正しました。著作権法の目的というのは,日本もそうですけれども,「文化の発展」ですけれども,韓国はそこに「関連産業」という文言を入れまして,法目的を「文化及び関連産業の発展」として,かなり経済的な判断を強く効かせるような改正をしていまして,そういうところもちょっと関連しているのかなと思います。

【道垣内主査】 上野委員。

【上野委員】  引き続きまして私も張先生にお伺いしたいと思います。FTAというのは結局パッケージ交渉ということなのだろうと思いますけれども,先ほどの御紹介によると,非親告罪を導入したという点については,FTAの関係というのではなく,韓国が自ら2006年12月に改正したというお話でした。ただ,著作権侵害について非親告罪化するということをめぐりましては,我が国でもかなり議論があるところです。そこで,韓国が自主的に非親告罪を導入した理由や背景について,もしわかりましたら,お教えいただきたいと思います。
 もう一点,韓国がフェア・ユース規定を導入されたと御紹介がありましたけれども,この規定の最終的な立法過程におきまして,いろいろと文言上の調整があったようにも聞いております。とりわけ「報道,批評,教育,研究等のために」という目的が規定されていることによって,適用範囲が限定されたと考えてよいものでしょうか。その点どういう議論状況にあるのかということについて,もし御存じでしたら御教示いただきたく思います。

【張准教授(東京都市大学)】  はい。では,まず1点目の非親告罪化に関してですけれども,特に今回はFTAを反映する形の改正ではありますが,韓国ではその前から著作権法改正において,このような取締り系の改正は何度もされています。
 というのも,韓国も今やどっちかというとコンテンツを海外に輸出する立場になり,侵害される方にもうなっているんですね。そういう意味で,国内のコンテンツ産業保護という観点からの考慮も入れて著作権を強く保護する方へ転換していく動きがあったからこそ,こういう改正になったのではないかと思われます。
 2点目のフェア・ユースに関してなんですけれども,フェア・ユースの導入に関しては,2005-6年あたりから議員発案で議論され始めました。当初は第1項でスリーステップテストのような文言を,第2項で米国法上のフェア・ユースのような文言が入った複合的なものでしたが,最終的には,このように米国のフェア・ユースのようなな文言になりました。
 この中の「報道,批評,教育,研究等のために」は,一見ある程度制限があるようにみえ,これが既存の引用などの権利制限規定とどう併存していくかが議論されましたが,政府の法改正解説におきましては,この「等」をもって柔軟に解釈できるとしています。この下の4つの考慮要素で判断することになるので,法律の規定自体は多分かなり柔軟性があるように規定したと思うんですけれども,まだ法改正して実際判例が出ていない状況ですので,実際の裁判所がそれをどう適用していくかは,もうちょっと推移を見ていかないといけないのかなと思います。

【上野委員】  ありがとうございました。

【道垣内主査】 よろしゅうございますか。
 ちょっと私も関連してですけれども,御質問させていただきたいんですが,韓国とアメリカと交渉して,こういう内容になったということだと思いますけれども,韓国側が米国,あるいはEUの著作権法を変えてくださいということで,gainをした部分があるのかどうかというのが1つと,もう一つは,先ほど著作権の保護期間の延長についても,第三国といいますか,相互主義ではない適用をしますというお話だったと思うのですが,その通りでしょうか。これらの規定の中で,要するに米国あるいはEUの著作物だけに適用されて,日本の著作物には適用しないという相互主義になっている規定と,そうでないのとまざっているんでしょうか。そのあたりのことも伺いたいんですけれども。

【張准教授(東京都市大学)】 保護期間の延長に関しては相互主義ですので,70年で保護している国においては同じく70年です。

【道垣内主査】 それはそうですね。性質上。

【張准教授(東京都市大学)】 そうです。また,交渉の段階で韓国の方でEUや米国に改正を要望したものは,FTAの交渉の段階ではありませんでした。
 ただし,今回の改正を受けて韓国の国内で批判が出ていまして,それは何かといいますと,FTAの結果韓国は実際に法改正をしたのに,米国は同じレベルまで法改正していないというのがあり,これは不平等だ,なぜ韓国だけ改正しているのかという指摘がありました。例えば先ほど山本先生がおっしゃった一時的な複製に関しては,そういう裁判例があって複製とみているということですけれども,2008年の連邦高裁の,カートゥーン・ネットワーク事件では一定の一時的複製は複製に当たらないと判断していまし,米国法101条を見ますと固定要件のみで,「一時的」というのは法文言上入っていないんです。それをなぜ韓国はわざわざ法改正で「一時的」という文言を入れるのか,米国法は対応していないのに,韓国だけ厳しく改正したものではないかという批判がひとつあります。
 もうひとつは,技術的な保護措置に関するDMCAの1201条では,例えば「技術的保護措置のう回に使用する」というような表現を使っているんですけれども,韓国法では「う回の目的の」としているので,実際使用しなくてもそういう目的があれば該当することになるので,なぜ韓国法の方が米国法より広く規定したのかというような批判があります。なので,韓国も米国に法改正を要求すべきじゃないか,もしFTAで交渉したならば同じレベルに法改正するように,韓国が米国に要請すべきではないかという批判はあります。

【道垣内主査】 先ほどの相互主義の話ですが,保護期間だけではなくて,様々な規定が改正されたようですが,これらはすべてどの外国の著作物であれ,同じように適用するという改正になっているんですか。

【張准教授(東京都市大学)】 保護期間延長以外のものですと……。

【道垣内主査】 どれでもいいんですけれども,ベルヌ条約上,韓国が保護義務を負っているものすべてを適用対象にしているのか,そうではなくて,米国との関係あるいはEUとの関係だけで適用することにしているのか。

【張准教授(東京都市大学)】 それに関しては,基本的にはすべてのものに適用するというようなことを原則としています。

【道垣内主査】 そうすると,重複している項目じゃなくてもいいということですよね。どちらかとの関係で改正していれば,もう,要するにEUの方で先に改正していれば,アメリカも当然,もう既に享受しているということになるんですか。

【張准教授(東京都市大学)】はい。また両国との合意内容では重複している部分もかなりあります。

【道垣内主査】 はい,わかりました。どうも私の方から発言して申し訳ございません。
 ほかに何か御質問等ございますでしょうか。どうぞ。

【前田委員】 張先生に教えていただきたいのですが,韓国で法定賠償制度が導入されたということなのですが,上限は決まっていると思うのですけれども,下限は決まっていないということなのでしょうか。

【張准教授(東京都市大学)】 はい。上限のみ決めています。下限を決めようという議論もあったんですけれども,著作権の侵害,特にネット上のものですとその個数が多くなりがちなので,下限を決めてしまうと合計の賠償金額が余りにも大きくなり,不公平な結果になる可能性もあるので,実効可能性や合理的な観点から下限は決めずに,具体的な事案ごとに裁判所で判断することにしています。

【前田委員】 ありがとうございます。

【道垣内主査】 そのほかいかがでしょうか。
 どうぞ,鈴木委員。

【鈴木委員】 非常に細かい点で恐縮ですが,韓国の法改正にも絡むので,質問します。山本委員に伺いたいのですが,登録制度と訴訟の関係について,訴訟要件との関係では,外国人の著作物については,登録されていなくても訴訟はできるとのお話でした。これはベルヌ条約の無方式主義と,それから多分,内国民待遇とか最恵国待遇とかの関係でそうしているのかなと思います。他方で,法定賠償に関しては登録が必要とされるという点は,事実上外国人に対する差別にならないかという懸念があるように思うんですけれども,そういった議論はないんでしょうか。

【山本委員】 日本ではそういう議論を聞いたことがあるんですが,アメリカ人は全く考えていないと思います。
 これは,訴訟要件になるというのは不利な話なんですが,日本人であっても,著作権登録すれば弁護士報酬を回収したり,あるいは法定賠償を請求できるというのは同じように与えられていますので,そこは不平等とか差別的には考えられないと思います。単純にアメリカ人だけが訴訟要件という足かせをかけられているという関係になるので,その点はベルン条約上の差別だとかいうのにはならないんじゃないかと思います。

【道垣内主査】 そのほか,いかがでしょうか。
 じゃあ,私からもアメリカについて先生に伺いたいんですが,わりと融通が利くようなあいまいな解釈といいますか,目的的な解釈というんですか,様々な解釈がされているようですが,アメリカの著作権についての刑事罰をかける例というのは,どれくらいあるのでしょうか。その場合に,日本で言うと罪刑法定主義の観点から,余りにあいまいな条文ではまずいだろうというふうに言われると思うんですが,そのあたりの何か使い分けはしているんですか。刑事罰は特に厳格に解釈するとか,そんな議論はあるのでしょうか。

【山本委員】日本法と同じように,主要な権利に対しては刑事罰則が詳細に規定されていますので,罪刑法定主義違反は問題にならないと思います。ただ,著作権法の中ではなく,別の法典の条文に入っていりますので,余り我々の目には見えないと。執行機関も刑事になりますので,連邦の司法省が管轄するというような形になります。

【道垣内主査】 実際の運用上,どれくらいかよくわからないということですか。

【野口委員】 その点は,実は私もちょっと調べたことがあるんですけれども,米国でも罪刑法定主義というのは一応void for weaknessというようなことで,不明確ゆえに無効の議論というのが民事にも刑事にもあるんですけれども,実際に例えばフェア・ユースがそれに該当して無効であるというような議論は,私も論文をかなり調べたんですけれども余りなくて,民事の文脈で議論している論文を1つ見つけたんですけれども,その論文の中では,刑事についてはより故意が要求されているという意味で,処罰範囲が厳格になっているというようなこととかをいろいろ総合的に判断すると,アメリカの裁判所で罪刑法定主義に反するという判断が出るとは極めて考えにくいと。それは学者の先生がおっしゃっていたもの。
 あとはフェア・ユース直接ではないんですけれども,著作権の定義がその創作性とかを要求しているというのがあいまいで,無効ではないかとかいうようなことを,ソフトウエアの文脈で争った判決が地裁で1つありまして,それは法律そのものを判例等に照らして解釈することで,処罰であるとか責任,違法性の範囲が確定できる限りは,void for weaknessが一般論には該当しないというような判決が下級審で1つあるというふうに理解しております。

【道垣内主査】 今日の目的というか,この1年通しての目的が日本に参考になる部分が何かあるかということだと思うので,日本で議論するときっと出てきそうな議論をアメリカでどうしているのかと思った次第です。
 韓国の場合,アメリカと同じようなフェア・ユースを基点にして,大丈夫ですと言われたんだけれども,「等」で読みますと言われると何が大丈夫なのかよくわからない。何か議論があったんでしょうか。

【張准教授(東京都市大学)】 韓国においてもフェア・ユースの導入に関しては賛否両論がありまして,既存の引用規定などの解釈で対応できるという主張ももちろんありますし,思いきりアメリカ型のフェア・ユースを入れるべきだという意見もありますし,その折衷案として,イギリスのようなより限定されたフェア・ディーリング型を入れるという様々な議論がありました。
 近年,引用の規定で何とかセーフになった事例が出てはいるものの,どう見てもその行為は引用とは読めないでしょうというものもありまして,このような引用規定の限界からフェア・ユースを入れるべきという意見が強まってるところに,FTAの合意内容を反映して著作権を強化する形の改正がされたことによって,多分その反動で,このフェア・ユースの規定が入ってたのかなと思っています。

【道垣内主査】 確認ですが,今おっしゃった判決は韓国の刑事の判決ですか。

【張准教授(東京都市大学)】 違います。民事です。

【道垣内主査】 そうでしょうね。刑事罰との関係で,フェア・ユースの規定の適用上ぎりぎりアウトだと言われるようなときに,刑事罰を科すことはあるのでしょうか。それはちょっといかがなものかという議論が刑事についてはあり得ると思うんですが,そのあたりはいかがでしょうか。

【張准教授(東京都市大学)】 そうですね。フェアユースの範囲に関連しては,規定が導入される前に,政府関係者・著作権者・利用者を交えた団体が,「公正利用ガイドライン」を制作・普及して,一定の範囲の著作物利用に関してはは公正利用に該当するか否かが分かるようにしているところです。ぎりぎりのところの事例は多分今後出てくると思うんですけれども,それに対しては実際裁判所がどのように適用していくかは,今後注目されるところです。

【道垣内主査】 どうぞ。

【笹尾委員】 1つだけ。韓国FTAが発効してまだ間もないということがありますので,具体的に何か見えてきているかどうかということはわからないんですが,いわゆるコンテンツビジネスの側面から見て,このFTAによって,先ほど不公平感というのがありましたが,そういうものが何らかの悪い影響とかよい影響とか,韓国内で言われていることというのは何かあるんでしょうか。

【張准教授(東京都市大学)】 そうですね,まだ発効して間もないので,そういう数値的な結果は今のところはまだ出てないと思います。

【笹尾委員】 このFTAの議論の中で,何か心配されていたこととかいうのは何か存在したんでしょうか。

【張准教授(東京都市大学)】 そうですね。一時的複製など個々の規定関連で,例えばネットユーザーが,これは著作権侵害になって罰金を払うんじゃないかという心配をしたという事例はあるんですけれども,それに関しては,これら改正は,一般的なネットの利用を取り締まるものではないという広報をしています。また,先ほど目に見える結果はまだないとしましたが,例えば欧州との文化協力議定書によって,欧州諸国と連携したコンテンツ製作が増える傾向にあるということはちょっと聞いております。

【笹尾委員】 ありがとうございます。

【道垣内主査】 本日の終了予定時刻は17:00です。もう一つ議題が残っておりまして,特に,ございませんようでしたらこれくらいにさせていただきまして,4の議題に移らせていただいてよろしゅうございますでしょうか。
 それでは,議事の4番で,海外における著作権普及啓発の推進方策について,事務局より御説明いただき,その後,委員の方々の御意見を伺いたいと思います。
 では,よろしくお願いいたします。

【都築海賊版対策専門官】 それでは,事務局から説明させていただきます。海外における著作権普及啓発について,お手元にお配りしております資料5に基づきまして御説明させていただきたいと思います。
 昨年の国際小委員会の審議の経過におきましても,インターネットにおける国境を越えた海賊行為に対する対応を検討していく過程におきまして,対応として,侵害発生国の関係機関との連携の強化でありましたり,違法コンテンツの流通防止に向けた意識啓発の促進に関する事例を紹介させていただきまして,これらの取組を更に進めていくという形で議論をまとめていただいております。
 二国間の協議につきましては,従来中国,タイ,韓国との定期的な協議をやっております。この問題につきましては引き続き私どもも努力を続けていきたいと思っておりますが,新たに意識啓発に関しまして,どのようなアプローチをとればいいかということを,私ども,この場で現状をおまとめして,更に委員の方の御意見を踏まえ,今後とるべき方策を検討していきたいと考えた次第でございます。
 ここにお配りしました資料,1枚めくっていただきますと,海賊版対策関連施策についてということで,現状,幾つか現在でも私ども海賊版対策として,二国間協議等いろいろな対策を講じさせていただいております。それを幾つかカテゴリーに分けまして,大きく4つ,法・制度整備の支援,人材育成,権利行使の支援,テクノロジーの活用というような形でカテゴリーを分けております。
 その円の横に四角で書いてございますのは,当省で具体的に手段を講じているものでございます。テクノロジーの活用については当省は該当部分はございませんが,これは経産省あるいは総務省が侵害コンテンツの捕そく等の事業を展開されておると聞いております。
 そうしますと,やはり普及啓発といった側面というのが,現在の私どもが講じている手段の中では非常に重点化はされていないということでございます。したがいまして,今後は普及啓発に私どもが力をついでいく必要があるであろうと。それは新しい事業化をするなり,あるいは何らかの支援を講じていく,あるいは民間との協力関係を構築していくという幾つか観点があるかと思います。
 そして昨今,知財計画2012を検討する過程におきましても,正規コンテンツの普及促進を海賊版対策の1つの有効な手段として,推進していくべきという議論が展開されております。これは,正規コンテンツの普及が海賊版を使っていただくことを抑止する非常に有効な手段であるので,これを促進していくということはございますので,そうした新しい観点も更にここにつけ加わってくるであろうと。したがって正規コンテンツの普及を促進していくこと,そして普及啓発を進めていくことという新しい要素が多分ここにつけ加わってくると。こうした新しいアプローチで海賊版の抑制を考えていこうということが,1つ我々の今後目指していくべき方向として考えられるというふうにまとめてございます。
 そしてもう1枚めくっていただきます。海外における主な著作権関係団体による普及啓発ということで,これは私どもから主要な権利者の団体の方にヒアリングをさせていただいた結果を,非常に簡単にまとめさせていただいているところでございます。当然各権利者の方たちは,いわゆるコンテンツの不正使用でありますとか,海賊版の対策につきまして普及啓発の試みをされていらっしゃいます。ただ,ここで比較対照させていただいているように,国内向けに関しましては,日本はコンテンツの普及に関しまして,あるいは著作権の意識向上に関しましても非常に活発的にいろいろな活動をされていらっしゃるというのがわかりますが,ただやはり海外に向けてのいろいろな形でメッセージを発信していくことでありますとか,そういった面については,今後まだまだ検討していく余地がある。
 これはいろいろな各団体のいわゆる財政的な問題でありますとか,そういうリソースの問題もいろいろあると思いますので,こういった面でどういった支援を我々がしていけば,海外に向けても有効なメッセージを発信していただけるか,普及啓発についての積極的な取組が進んでいくか。当然,これを進めていく上では民間でやっていただく活動と,我々政府が支援をしていくことをきちんと分けて,それぞれが果たすべきやりようを果たしていくという考え方で整理をしていくのが適当であるかなと。
 お話をお聞きしていく中では,ひとつ我々としては,さすがに日本の権利者の方たちの活動というのが非常に頑張っていらっしゃるというのは,ノウハウの提供についても既に海外の関係団体にされていらっしゃるという活動もされていらっしゃるということで,このあたり,既に日本の国内の非常に充実したメニューもあるとお聞きしますので,このあたりを海外の方にノウハウを提供することで,海外の関係の団体がこういう活動ができるようにするというのも1つ今後考えていくべき観点かなと思っております。
 もう1枚めくっていただきますと,海外における著作権普及啓発の今後のイメージということで,民間での取組,そして文化庁におきましては,これも原則国内向けでの普及啓発の事業でございますが,著作権に関する質問の窓口を設ける,著作権の講習会の開催,教員向けの指導参考資料の作成,そして「マンガでわかる著作物の利用」という資料,皆さんに利活用していただけるような資料というのをホームページで普及を図っておるという国内向け,非常に精選されたパッケージを持っておりますので,こういったもの。
 それと,民間の幾つか,既に国内向けは非常に充実したプログラムを持っておりますので,これを海外に向けてメッセージを発信できる,普及啓発ができるような形で,今後発展をさせていただくと。こういった,我々が,今,持っているノウハウを提供するということが1つ。これを諸外国の大学や研究機関,著作権関係団体,著作権担当部局が活用していただいて,自国の方向けに普及啓発をしていく。
 そしてもう一つは,我々自身からも海外に普及啓発に向けての何らかのメッセージを出す,あるいは直接普及啓発をできるような形で対応を考えています。そこでは,民間の方たちのサポートを我々がさせていただくという形をとっていくのではないかと。
 そして我々政府側の果たす役割としては,二国間協議等を通じて外国政府関係機関へ働きをかけていくと。侵害発生国・地域における情報の収集をし,普及啓発をする民間の方々に提供する。そしてそういう民間の方たちの活動を支援するために,ネットワーク・プラットフォームの形成の協力・支援をしていくという形でまとめていけるのではないかということでございます。
 そして,最後に,これは今後いろいろな形で皆様方の御意見をいただいたり,私どもで現状あるいは今後の対応についてのおまとめをしていただく際にいろいろと御意見をいただきたいという観点をまとめて,最初にお示しいたしますが,海外における普及啓発において検討すべき事項として,まず対象国・地域をどうとらえていくか。
 そして普及啓発する対象はどういった対象なのか。当然,もともとインターネット上の侵害が問題になって提起されている問題でございますので,やはりインターネットユーザーをはじめとする一般の消費者の方というのが我々の対象とする非常に大きな部分ではないかと。それ以外に,まだ十分著作権のことを理解していない青少年の方でありますとか,そういった方に影響を及ぼす教員の方,そして最終的には児童・生徒という教育現場といったところまで射程に入れて考えていくと。
 効果的な手法の活用ということが,当然海外までメッセージを届ける上では必要であろうと。直接我々が出かけていって,メッセージあるいは知識を提供する場というだけではなく,現在考えているのは,使われておりますような様々なソーシャルメディアも含めてメディアの活用など,効果的な手段を考えていく必要があるのではないかと考えてございます。その他,当然,実演家や音楽家の方々からのメッセージの発信や機会の提供や,クリエイターやキャラクターがメッセージを発信していくというようなところを,日本からメッセージを発信していく上では非常に重要な,あるいは一般の方たちに興味を持っていただける部分であると思いますし,現在様々実施されておりますイベントとの相乗効果も考えていく必要があるかなと思っております。そして侵害発生国への普及啓発のノウハウの提供ということは,我々日本が貢献できる部分ではないかなと思っております。
 教材,コンテンツの開発につきましては,既に日本で開発されたものもございますので,こういったものの利活用,特に現地語化でありますとか,現地バージョンとしてこういうものを活用していくということは,非常に我々のメッセージが有効に届けられるのではないかと思っております。
 普及啓発を妨げる要因も当然考えていかなければなりません。民間の方々の御努力でもなかなかうまくいっていない部分というのはどの部分なのか。その部分をどうやって我々が支援できるのかというようなことを,ここに書かれておりますいろいろな観点から考えていき,解決できるものは解決していくと。
 最後に,先ほど申しましたが,我々としてのどのような支援が有効で,我々政府としてどこまでこれについての活動・支援を考えていけばいいかというような観点を皆様から今後御議論いただければ,その中で必要なことがありましたら,私どもの今後の海賊版対策の中で実現を図っていきたいと考えておるものでございます。
 以上で,今回御用意させていただきました資料の御説明を終わらせていただきます。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 今の点について何かございますでしょうか。はい,どうぞ。

【久保田委員】 是非いろいろなアイデアを出してやっていただきたいと思いますし,我々自身も各団体がいろいろな知恵を出していこうと思っています。
 前から気になっているんですが,外務省の方の海外広報協会とか,そういう既存で,今までも長い間日本のいろいろ得意な部分を広報している団体もあるというふうに私は聞いておるんですが,こういうところで日本のコンテンツの権利保護についてのメッセージがどのくらい出されているかとか。
 あと,全然just ideaに近いんですけれども,我々日本語の普及ということで,会員会社がいろいろなワープロソフトなんかをつくっているものですから,そういう観点から日本語の普及というところで,ODAなんかの関係で世界中で日本語の普及の活動をされていますよね。こういう関係のところで,日本のコンテンツの紹介を随分事業の中でやっているようなんです。そういうところでプラスアルファ,コンテンツの保護という話の中で,著作権法からのメッセージを出していくようなものとのタイアップというんですか,既存にもうあるものに,この今のいただいた発想を乗せていって,更にそこで充実させていくというような意味では,現実に,今,どのくらいこういう日本のことを世界に伝えている中で,日本のコンテンツを抱き合わせて伝えているのかという現状がわかると,もう少し組み方も変わるのかなと思います。我々の方も調べられるところは調べておきますが,よろしくお願いしたいと思います。

【道垣内主査】 そのほか,ありますでしょうか。よろしゅうございますか。
 もう一つ,その他の議題がございますので,もしありましたらその後でも結構ですので,5,その他につきまして,これも事務局から,まだ資料が残っていますので,説明いただけると思います。

【堀国際著作権専門官】 それでは,事務局の方から,まずはWIPOの最近の動きにつきまして,簡単に御報告させていただきます。
 前回の11期の小委員会で報告いたしましたとおり,視聴覚実演の条約につきまして,来月,6月20日から26日にかけまして,視聴覚的実演の保護に関する外交会議が北京で開催されます。内容につきましては条約草案が公表されている状態でして,実体条項20か条につきまして暫定合意済みとなっております。現在前文と,あと1条,2条,15条の合意声明につきまして,各国から提案が出されている状態でして,近々にWIPOのホームページで公表される予定となってございます。
 次に,放送条約ですが,現在日本から,従来SCCR15/2という文書,これは2007年の当時外交会議に一番近い文書だったんですけれども,こちらをベースにしました新提案というものを政府で検討しておりまして,こちらの方も近々にWIPOの方に提出する予定です。こちらの提案の詳細につきましては,次回の国際小委員会で御報告させていただければと考えてございます。
 次に資料6-1と6-2ですが,6-1の方は,前回の国際小委員会で御報告させていただいたかと思いますが,前回SCCRにおきまして,放送条約の方で南アフリカとメキシコの共同提案というものが出されまして,それに関して2月末までにコメントをWIPO事務局から求められておりましたので,日本政府から南ア・メキシコ提案について,その解釈等につきましてコメントを出してございます。それが資料の6-1になります。
 資料6-2ですが,こちらは同じくWIPOで議論されている図書館とアーカイブの権利制限と例外についての議論が,前回のSCCRで議論が始まっていて,こちらは7月に開催予定の次回のSCCRでも,この議題につきましても継続予定となってございます。こちらの方も2月末までにコメントを求められておりましたので,日本の図書館とアーカイブに関する現行法制の紹介という形で,コメントを提出してございます。
 以上,御報告させていただきました。

【星野専門官】 では,続きまして資料7に基づきまして御説明申し上げたいと思います。TPP(環太平洋パートナーシップ構想)協定交渉の分野別状況についてでございます。
 もう先生方には御案内のことと思いますけれども,昨年末,政府といたしまして,TPP(環太平洋パートナーシップ構想)の交渉参加に向け,関係国との協議に入るという方針が示されたところでございまして,現在,関係国との協議と,あとそれに関する情報収集が行われているところでございます。
 TPPの中では,全部で21分野の交渉分野があるということが今の段階でわかっていまして,知的財産がそのうちの1つに含まれているということを聞いているところです。今回,この御説明をする資料7なんですが,これは政府の方で,今,作成・公表しているTPP協定交渉の分野別状況についてというものがございまして,その中から知的財産部分を取り出して,お配りしているものでございます。
 現在のところ,知的財産についてわかっていることとしましては,この箱の中の右側の真ん中のあたりに書いてあるんですけれども,知的財産のうち,個別項目としては商標,地理的表示,著作権,特許,医薬品関連のエンフォースメントなどが含まれているけれども,各国の意見がかなり異なっていて,議論が続いているということだそうです。
 具体的に,じゃあ,どういう論点があるのかということに関しては,著作権関係で言いますと,保護期間でありますとか,民事救済における法定損害賠償,著作権侵害に対する職権による刑事手続等々が議論されている模様であるというところを情報を得ているところでございます。
 実はTPPに関しては,先日も政府の中にTPPの取りまとめ事務局というのが内閣官房の中にありまして,内閣官房の主催で関係団体の方々との意見交換会を実施させていただきました。そこで様々な意見をいただいたところでございます。国際小委員会におきましても,TPPに関連しまして状況に進展がございましたら,随時御報告を申し上げていく予定にしてございます。
 資料7につきましては以上でございます。

【都築海賊版対策専門官】 それでは,第4回日中韓文化大臣フォーラムについて,御報告申し上げます。資料8に基づきまして御報告いたします。
 既に新聞等でも報道されておりますが,第4回日中韓文化大臣フォーラムが24年5月5日,上海にて開催されております。この文化大臣フォーラムには,我が国より平野博文文部科学大臣に御出席いただいております。中国からは蔡(さい)武文化部長,韓国は崔(ちぇ)光植文化体育観光部長官がご参加されました。
 この文化大臣フォーラムにおきましては3国の大臣の会合である日中文化大臣会合及びそれぞれの国でのバイの会談が実施されております。
 ここでのいわゆる成果文書といたしまして「日中韓文化大臣フォーラム―上海行動プログラム」というものが策定されました。その中の「8その他」のところでございます。8の2で,「三者は著作権を始めとした知的財産権の保護を大いに推進し,正規コンテンツの使用と流通を奨励し,支持していくことで重ねて確認を行った」ということで,3国の文化大臣において,著作権の重要性に対する認識が確認をされたということが,今回の行動プログラムで示されております。
 そして今後でございますが,著作権の保護について三国間の協力を更に深め,次回の大臣フォーラムにおける主要議題として取り上げるために,今後事務レベルの検討を行うとされているのが現状でございます。
 以上です。

【道垣内主査】 ありがとうございました。
 幾つか資料があって,その中には次回以降,詳細を説明していただいた上で議論するというものもございますが,この場で,何か御質問等ございますでしょうか。よろしゅうございますか。
 時間もちょうど来ておりますので,それでは,今日のところは以上にさせていただきたいと思います。次回の日程は,日程調整の上で開催ということで,先ほどの予定によりますと8月下旬から9月にかけてという見込みでございます。
 では,これで本日の国際小委員会を終了いたします。ありがとうございました。

17:03閉会

―― 了 ――

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