文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)

日時:
平成30年12月19日(水)
10:00~12:00
場所:
霞山会館(霞山の間)

議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)追及権について
    2. (2)その他
  3. 閉会

配布資料一覧

文化審議会著作権分科会国際小委員会(第2回)

平成30年12月19日

【道垣内主査】よろしゅうございますでしょうか。まだ15秒ぐらい前ですけれども。ただいまから,文化審議会著作権分科会国際小委員会の第2回を開催いたします。本日は,御多忙の中,御出席いただきまして誠にありがとうございます。

本日の会議の公開につきましては,予定されております議事内容を参照しますと,特段,非公開とする必要はないと思われますので,既に傍聴者の方々には,御入場いただいているところでございます。特に,この点,御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】では,このまま公開ということで,傍聴していただくことにいたします。

なお,もしカメラの撮影等ございましたら,冒頭5分だけにさせていただければと思います。

では,議事に入る前に,前回の開催以降,文化庁において組織の再編及び人事異動があったようでございますので,その点,御報告お願いいたします。

【早川著作権専門官】それでは,事務局より御報告申し上げます。文化庁では,10月1日に組織改編を行い,従来国際課が担当しておりました国際著作権に係る業務が著作権課に移管されるとともに,著作権課内に新たに国際著作権室が新設されております。これに伴いまして,10月2日付けで,文化庁著作権課国際著作権室長として,石田善顕が着任しております。

【石田著作権室長】石田でございます。よろしくお願いいたします。

【早川著作権専門官】以上でございます。

【道垣内主査】ありがとうございました。

では,議事に入りたいと存じます。本日の議事は,お手元の資料にございますように,追及権についてというのが中心で,その他というものが第2に挙げられております。

では,事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

【早川著作権専門官】それでは,事務局より配付資料の確認をさせていただきたいと思います。お手元の議事次第を御覧ください。配付資料一覧といたしまして,資料1から7がございます。これは(1)の追及権に関する資料となっております。また,参考資料といたしまして,1から3がございます。もし不足等ございましたら,事務局までお願いいたします。

【道垣内主査】ありがとうございます。

議事(1)に入りたいと存じます。

この議事の進行につきましては,まず事務局よりWIPOにおける議論の状況や諸外国の状況について御説明いただいた上で,専門家の方や,あるいは国内のステークホルダーの方に御意見を伺い,その後,審議会として議論していただきたいと存じます。

本日は,有識者及び国内ステークホルダーとして,山口大学の小川明子先生がいらっしゃっています。よろしくお願いいたします。

それから,一般社団法人日本美術著作権協会,JASPARと言われているところですが,吉澤昭博代表理事。よろしくお願いいたします。

一般社団法人全国美術商連合会の木村道哉監事。よろしくお願いいたします。

それから,SBIアートオークション株式会社の大熊俊博取締役。よろしくお願いいたします。

最後に,横浜美術大学の宮津大輔先生です。よろしくお願いいたします。

以上の方々に,後でそれぞれ10分間で,短い時間で申し訳ございませんが,御説明いただきたいと存じております。それぞれ質疑の時間も2分ほど取っているということでございます。

なお,傍聴者の方々におきましては,この部分の写真撮影等は御遠慮いただきたいと存じます。

では,先ほど申しました国際機関,あるいは諸外国の状況について,事務局より御説明をお願いいたします。

【中城著作権参与】事務局より御説明申し上げます。資料1を御覧ください。追及権に関する事務局説明資料と題する資料でございます。

5ページほどの資料になりますけれども,全体の構成としては,1ページ目,WIPOにおける追及権に係る議論の状況を御説明した上で,3ページ目,海外での追及権の導入状況を御説明して,最後に,4ページからですけれども,導入済みの国における制度について御説明したいと思います。

まず1ページ目,WIPOにおける追及権に係る議論の状況でございますが,まず,これまでの経緯について御説明申し上げます。

2014年のSCCR27において,セネガル及びコンゴから追及権を議題としたいという発言がありまして,その後,2015年のSCCR31において正式な提案がありました。主な提案理由は,以下のとおりです。

追及権はベルヌ条約で重要な権利として認識されていること。

ベルヌ条約加盟国の中で追及権を導入していない国が存在する主な理由は,導入がベルヌ条約上,任意とされているからである。

結果として,美術の著作権に対する保護のレベルに世界各国の間で大きなばらつきがある。

よって,追及権を議題として導入して,将来的には条約を締結したいという提案でございます。

2017年のSCCR35では,パリ大学のファーシー教授らからの研究報告として,イギリスで2006年に追及権を導入したことによって,その前後で英国の取引市場にどのような影響があったかということについて調査が行われて,報告が行われました。

この囲みの中が概要ですけれども,芸術作品のマーケットについては,4か国で80%を占めている。特に国際的な取引においては米国と英国が主要な取引市場となっている。経済学的な調査として英国のケースを調査した。英国は2006年に追及権を導入しており,その前後において英国の取引市場においてどのような影響があったかを調査した。結論として,売主の市場選択において追及権の有なが選択に影響を与えることはなく,英国の取引市場においてもネガティブな影響はなかったという報告がなされております。

次に,追及権を常設議題にすべきかどうかという観点なんですけれども,WIPOの中でも意見の一致を見ておりません。EU及びアフリカ諸国は追及権を優先的な議題をすべきとしておりまして,他方,米国,日本,南米諸国は,まずは既存の議題(放送条約等)を優先させるべきであるという立場を表明しております。

その後,2017年のSCCR36では,各国の追及権の実務に関する事実調査を行うタスクフォースを設置することが決定されております。

SCCR外でも2017年4月にWIPO主催のカンファレンスも行われております。

続いて,先ほど申し上げた専門家タスクフォースについてですけれども,2018年11月,先月行われたSCCR37において,タスクフォースを立ち上げることから,その委員構成と調査項目についてWIPOの事務局より報告がありました。委員構成は次のとおりとなっておりますが,ここでの御説明は省略させていただきます。

また,これらの方々に加えて,必要に応じて他の専門家を招くこともあり得るとされております。

タスクフォースは,2018年に最初の会合を開催し,2019年に複数回の会合を予定することになっております。

そのタスクフォースの中の主な調査項目は,次のとおりです。追及権(美術の著作権の価値上昇を含む。)の基礎,追及権によって保護される著作物の範囲,徴収率の決定,収集及び販売の方法,対象となる取引,権利を主張する者の範囲,権利のマネジメント,支払の責任,転売に関する情報,タスクフォースで合意されたその他の事項となっております。

続きまして,3ページ目,海外での追及権の導入状況について御説明させていただきます。

導入国数ですが,2017年時点で80か国以上と,CISACからの発表がございます。

(2)他国の検討経緯及び状況ということで,まずEUに関しては,2001年にEU全体に追及権を導入するというEU指令が制定されまして,EU指令制定後に,EU指令を受けて新たに追及権制度を国内法として導入した加盟国としては,英国,アイルランド,オランダ,オーストリアという国が挙げられます。

それ以外の,例えば,フランス等に国に関しましては,EU指令の前から国内に追及権制度があったということになります。

続きまして,米国の状況ですけれども,カリフォルニア州で州法として追及権が導入されていましたが,連邦法としては追及権は導入されておりません。また,2018年,今年の第9巡回区控訴裁判所の判決では,当該州法は連邦著作権法に違反して無効であるという判断もなされています。

米国では,ベルヌ条約加盟に関連して,美術家の権利に関する法律というものを制定しているところ,同法では追及権制定の可能性について立法府が検討を進めることが義務付けられておりました。そのため,米国著作権局は,追及権の法的性質に関する理論,賛否両論の根拠,ヨーロッパ大陸及びカリフォルニア州における追及権の諸規定と制度,そして権利が美術家の収入や美術品市場に及ぼす影響,等の点において調査を行い,2013年に報告書を発表しました。同報告書では,追及権の導入が美術品取引市場に悪影響を及ぼすという証拠はないものの,一部のアーティストにしか利益が及ばないことや実施のコストの点に注意する必要があるという報告になっております。

それから,中国ですが,2014年6月6日に公表されて,パブリックコメントに付された著作権法改正草案というものでは,現行法では規定されていない追及権の規定が新設されておりました。ただ,その後,改正の時期及び追及権が導入される予定なのかどうか,草案が維持されるのかどうかという点は一切不明という状況でございます。

続きまして,4ページ目,導入済みの国における追及権制度について御説明申し上げます。

まず,EU指令の概要について御説明いたします。EU指令の権利の内容,対象となる取引,販売額及び徴収率,その他という項目ですけれども,まず権利の内容は,追及権は譲渡不能,放棄不能の権利であるが,相続の対象となります。保護期間は著作者の死後70年。追及権料の支払については,本来は販売者側に責任があるが,各国の制度を制定する際,プロの仲介者及び購入者に共同責任を負わせることも可能となっております。著作者から直接作品を買い取った者が3年以内に1万ユーロ以下で売却する場合は,追及権料の支払は不要となっております。

それから,対象となる取引ですが,対象となる著作物は,造形美術及びグラフィックアートに限定されております。追及権料を支払わなければならない取引は,プロの仲介者(販売会社,ギャラリー,ディーラー等)を介した美術の原作品又は原作品とみなされる複製物の取引をした場合とされております。原作品とみなされる複製物については,脚注6を御参照いただければと思います。

続きまして,販売額及び徴収率ですけれども,追及権の対象となる取引の最低額は,各国が設定することができるとされております。ただし,下限を3,000ユーロ超の金額にすることは禁止されております。料率は,以下の表のとおりとなっております。0.25%から4%までとなっております。そして,支払の上限は1万2,500ユーロとされております。

最後,その他というところですけれども,追及権料の徴収は,著作権権利団体のような機関を通じて行うことも,その他の方法によることも認められております。

それから,最後に,フランス,英国,ドイツにおける追及権料の徴収分配方法ですけれども,まずフランスは,追及権料の負担者は売主とされております。それから,追及権の徴収及び支払の管理を著作権管理団体に委ねることは義務付けられておりませんので,著作者若しくはその相続人は,自ら追及権の管理を行うことが可能とされております。

もっとも,一般的には,管理団体に委託をして,売主が,画商又はオークション会社を通じて追及権料を納付することが一般的と言われております。

オークション会社,画商は,追及権料として支払う金額に必要な情報を追及権料徴収分配団体に提供しなければならないとされておりまして,徴収分配団体は,その徴収した追及権料を本人又は権利承継人に対して支払うとされております。

続きまして,英国ですが,支払の責任は売主だけではなく,美術品売買を業とする者が連帯責任を負うとされております。ただし,売主と美術品売買を業とする者の間の負担割合については明記されておりません。

また,法例上,著作権管理団体に追及権の管理を委ねることが,こちらはフランスと違って義務付けられておりますので,著作者等は直接追及権料の徴収を行うことはできないという規定になっております。

それから,ドイツですけれども,支払の責任は売主が負うとされていますが,売主が私人である場合には,買主又は仲介者として関与した美術商等が,当該私人とともに連帯債務者として責任を負うとされております。ただし,売主と美術商等との間では,負担割合としては売主が単独で責任を負うとされております。

それから,徴収等の請求は,集中管理団体によってのみ行使することができるとされております。

それから,最後,別紙に付いております表は,これはCISACの資料を基にした,追及権を既に導入している国の一覧でございます。

事務局からの説明は,以上でございます。

【道垣内主査】どうもありがとうございました。

簡潔にまとめていただきまして,よく分かったと思いますが,御質問ございますでしょうか。あるいは,御意見いかがですか。

私から。最初に議論が始まって,SCCR27というのは,何年のことですか。

【中城著作権参与】2014年でございます。

【道垣内主査】2014年。そうすると,EUが2001年に指令を出しているので,大分遅れてということですね。

【中城著作権参与】はい,御理解のとおりです。

【道垣内主査】分かりました。

そのような形で,EUが指令を作り,WIPOでも盛り上がりつつあるのか,あるいは,形を整えているのか,それはよく分かりませんけれども。いかがでしょう。

山本委員,どうぞ。

【山本委員】1ページ目のところで,英国での調査について記載されておりますが,これについてお伺いしたいと思います。

この追及権の導入後に取引市場においてネガティブな影響はなかったという御紹介があったのですが,追及権導入に当たって重要なことは,取引市場にネガティブなインパクトがあったどうかというのは気になるところではあるんでしょうけれども,それ以上に,追及権導入の目的としてよく言われているのは,創作者に対するインセンティブとして追及権は必要だということが言われています。そうだとすると,追及権を導入することによって創作が増えたとか,創作者の人口が増えたとか,何らかの創作行為にどういう影響があったのかが重要ですが,追及権導入前と導入後で比べて,そういう点についての調査がなされ,あるいは,何らかの報告はなされているんでしょうか。

【中城著作権参与】御質問ありがとうございます。

こちらのSCCR35,2017年の報告においては,経済調査,経済報告だけということになっておりますので,現時点で,そういう創作者のインセンティブ,若しくは,創作者の人口に関する調査報告というのはなされておりません。

もしそういう観点も必要だということであれば,タスクフォースで聞くべき議題ということとして検討させていただければと思っております。

【道垣内主査】そのほか,よろしゅうございますか。

この後の御説明でも同じような点が出てくるかもしれませんので,また論点としては,引き続きこれも含めて御質問いただければと思いますので。

では,最初に,小川先生からの御発表をお願いいたします。

【小川様】山口大学の小川でございます。本日はお招きいただき,大変光栄に思っております。追及権の現状について,少しお話をさせていただければと存じます。

今日お話しさせていただくのは,まず追及権をめぐる世界的な状況です。これは今,文化庁さんの方からお話がございましたので,軽く進めていき,著作者と追及権の関係,そして,日本への導入についてということを,レジュメどおりというよりは,少し割愛しながら,なるべく時間内に収まるように進めていきたいと思います。

まず,今,山本先生もおっしゃったように,インセンティブというお話が出てまいりましたけれど,文芸や音楽の著作者と美術の著作者との全く大きな違いというのは,音楽,文芸は,例えば,CDとか,書籍とか,そういう形で複製物として頒布を行う。それによって,収入は,最初は売れないものだったのが,たくさん売れることによって,多くの著作権料による収入が期待できる。

一方で,美術の著作者というものは,原作品を作ります。典型的な画家さんとか彫刻家さんを考えてください。人気が出れば,その原作品そのものが販売されるということです。他の作品も作っているようであれば,他の作品の価格も上昇して,有名な作家になって良かったということになるんですけれども,最初の作品そのものに関する価格は,最初に1万円で売ってしまうと,今は1億円になろうが,2億円になろうが,当初の1万円しか手に入らない。あるいは,ここで死んでしまったりすると,死んだことによる稀少性が増しますから,この方の名声だけが上がり,作品の価格だけが上がって,本人はもう何も得られないという状況になる。

最初に考えていただきたいのは,作品と著作者との間の関係性という問題です。例えば,本の作者であってもそうですし,画家でも同じだと思うんですが,自分が作った作品と自分との関係性というのは,親子のような,へその緒でつながっているような強い関係性があるのではないかということが基本にございます。そうしますと,原作品を手放さなくてもいい,複製で頒布する形の著作者に対して,原作品,すなわち,自分の子供を売ってしまう,致し方ないことなんですが,そういうような著作者の間には少し違いがあるのかなと思います。それで,先ほどの御説明にもあったように,財産的な性質つまりお金を得ることができるというような性質と,譲渡不能であるとか放棄不能であるといった人格権的な性質と両方併せ持つ,ある意味ハイブリッドな権利であることから,各国とも法制度を作ることとか施行にいろいろと苦慮されているということになるのかなと。両者の違いが基礎にあるということです。

追及権の流れについて,絵にしてまいりました。著作者さんが描きます。ディーラーさん1番に販売されて,例えば,100ユーロで売られたとする。ここでは追及権は発生しません。ところが,購入者2番に,1番の方が販売しました。例えば,3,000ユーロになった場合,ここで,売主であったさっきの1番の方が追及権料を支払う。2番の方が,またどこかの美術館に売ります。今度は5万ユーロになったと。本当は値段が下がる場合ももちろんあるんですけれども,この場合,追及権をまた2番の方が支払うと。こういうような流れで支払が行われるというのが,追及権制度の概要です。

EUの場合は,これは先ほど御説明にありましたので,EUの状況というのは少し飛ばせていただきます。

こちらも本日の添付資料にもございましたが,一応表にしてまいりました。アメリカのコピーライトオフィスが調べました2013年の調査報告書が本になっているんですが,そこに書かれている追及権の法制度のある国を一覧にまとめました。

最初は,1920年時点では,1か国,フランスだけが導入して,翌年,ベルギーで,ヨーロッパに広がっていったという経緯があるんですが,48年にベルヌ条約に入ってからは,各国,導入が始まりました。そして,今,76か国であるとか,79であるとか,80であるとか,そういうことが言われております。

日本の市場については,これから市場の専門家の大熊さんとか,たくさん出ていらっしゃいますので,私が市場のことを云々言うような立場でもないんですけれども,日本にも美術品市場があるんだろうかという議論が1つございます。というのは,世界の美術品市場というのは大体566億ドルぐらい。これ,2016年の資料ということです。例えば,世界で1位はどこかというと,アメリカです。シェアは,アメリカが40%,イギリス21%,中国20%,フランス7%,ドイツ,スイス,イタリア,スペイン。まだ日本は出てこないですね。そんな中,日本にはあるかというと,もちろん,市場はございます。これ,日本のアート価格は再上昇するのかという,月間『Art Collectors’』という本から,私,数字を取ってまいりました。今日いらしているSBIさんも,2014年から登場しているんですが,日本のオークション会社名,毎年集計しますと,2014年時点で129億円ぐらいの取引があったということが分かるわけです。

追及権が未導入ということがどういう影響があるのかということで,例えば,これは2006年くらいに日本で行われた取引ですが,もし日本に追及権制度があったならば,EUと同じレートで課金するとして,あったならばどうなっただろうという計算を少ししてまいりました。例えば,Emile Gallet,Renoir,もう保護期間は切れておりますので,これは日本でもヨーロッパでも関係ありません。ところが,Andy Warholとか東山魁夷,このあたりは,ヨーロッパのレートで計算しますと,大体130万であるとか,110万円相当の追及権料となります。もともと売れた金額が1億5,000万であるとか7,000万であるとか,そういうような額ですから,そういうようなレベルにはなるんです。

2010年に行われた販売です。Picasso,東山魁夷,Chagallとありますが,この高額の販売について,いずれも150万円,100万円,そのレベルでの追及権料となります。逸失利益というような言い方もできるかとは思うんですが,このような額が,もし追及権があれば入ったであろうということです。

2014年の高額販売の場合,日本の方が多いですね。杉山寧さん,棟方志功さん,白髪一雄さん,東山魁夷さん,こういうような作家の作品が売られておりますが,販売金額が1億円を超えていても7,000万でも,同じように大体追及権料が100万円前後になっています。これ,ちょっとトリックがありまして,EUの金額の計算が,値段が高くなると料率が低くなる,値段が低くなると料率が高くなる。つまりは,ゼロから幾らまでが4%,もう少し高くなると3%,2%と,だんだん値段が下がってくることになっておりますので,計算式にこの料率を入れますと,大体100万前後に高額な作品はなるということです。

では,安い作品はどうなるかと言いますと,例えば,フランスの場合,EU指令では,下限は幾らでも低くしていい,著作者の保護のためにというようなことになっておりますので,例えば,フランスの場合,10万円で売られた作品の場合,恐らく3,900円ぐらいの追及権料を受けることができるであろうというような計算になってきます。 そうすると,こんな3,000円か5,000円もらっても仕方がないんじゃないかといった御意見も出るかと思うんですが,ここでお一人,オーストラリアのMandy Martinさんという方の言葉を紹介します。追及権のホームページというものが開設されておりまして,resale-right.orgというところなんですが,ここにアーティストの意見が書いてございます。この方は,たとえ少額であっても,こういう追及権であるとか著作権を通じて生まれる収入というのは非常に重要であって,助けになるとおっしゃっています。この方,オーストラリアの方ですから,例えば,アボリジニの作家が非常に貧しかったり,危険な健康状態であるとか居住環境にいる人には助けになるという点を1つ述べられているのと同時に,もし,私が死んだ後,子供たちがこの権利を受け続けることというのが,非常に自分はうれしいことであると,こういうコメントを残されています。

そうすると,追及権のいいところは何なんだろうかと。今,山本先生からもインセンティブというような話がございましたが,まずは金銭的収入の道を得ることは何につながるかというと,美術の道で生計を立てられるということにつながります。

もう一つ,非常に重要なことは,自分の作品が今販売されて,どこにあって,誰が持っているのか,こういうようなことを知ることもできるということです。EU指令の中には,知る権利といいますか,販売が行われたことを知らせなければならないというような義務規定もございますので,著作者は知ることができ,それによって何が分かるかというと,自作品が評価されたことが分かり,それは自信につながります。先ほどインセンティブという言葉がありましたが,私は,追及権はインセンティブではなくて,むしろモチベーションの関係ではないかと思っております。これによって創作が増えたかではなくて,創作意欲が増したということです。すなわち,もっといいものを作ろうと,そういうような気持ちになったという点に重要性があるのではないかと思っております。

そしてまた,追及権の先ほどのサイトでは,本人が喜んでいるということのみならず,財団を運営するところというのも,このような追及権があることで,今後,この方の作品を次の世代に残していくためのファンドが手に入ったというようなことを言っているところもあるということです。

時間の関係もありますので,デメリットとメリットのことでお話を締めくくらせていただきたいと思います。

まずは,イギリスの話も今出ておりましたが,なぜイギリスが定期的に経済的な調査をするかというと,そこには背景がございまして,EUでの導入に全面的に反対を示していたのがイギリスだったんですね。それはなぜかというと,いわゆるヨーロッパで一番大きな美術品市場を持っているということから,市場が崩壊したらどうするんだ,美術家のために美術品市場をふいにするのかというような議論が多く行われておりました。それによって国内の市場がなくなって,追及権のない国に移動してしまうのではないか,というようなことが主張されておりました。

しかしながら,先ほど文化庁の方が御紹介された経済分析もそうなんですが,この後行われましたほとんどの経済分析で,それによって直接的な影響はあったのかもしれないけれども,市場が移動するというようなことに直接的に結び付くというようなことは言われていないということになります。

そうしますと,今度は,メリットは何かです。経済的な部分と精神的な部分があります。真ん中と下のところを見ていただきますと,追及権というのは相互主義で行われておりますので,日本に追及権制度がない限りは,日本の著作者は,いかなる国で販売されてもお金を受け取ることができない。同時に,同じことが海外の著作者についても言えまして,日本の著作者,海外の著作者,全ての方が,日本で導入されることで,販売される国に追及権があった場合,お互いに追及権料を受け取れるという状況が生まれるわけです。

更に,何年か前,47条の2という条文が導入されましたけれども,つまり,販売の用に供するときには,販売する方が著作物を使用していいという制限例外規定です。そうしますと,これは非常に利用者の利益になるという,大変いい規定だと思っております。

一方で,追及権をここで入れていただければ,そのような広告目的のためにな料で使用されたことによって,売上げの一部を著作者も受け取れる可能性があるのではないのか,つまり,両者の利益が充足されるということで,著作権法第1条のバランスを取るという意味で,非常にいいことになるのではないのかなと思っております。

一応私の説明は,ここまででございます。ありがとうございました。

【道垣内主査】時間を守っていただきまして,ありがとうございます。

どちらかというとポジティブなというか,相当ポジティブなお立場で御紹介いただきました。

何か御質問等ございますでしょうか。

法律の御専門でいらっしゃるので,ちょっと伺いたいんですが,ベルヌ条約の14条の3ですと,保護が要求される国の法令が認める範囲内でおいてと書いてあって,14条の3の2項は,まずは本国が認めていなければいけなくて,かつ,保護が要求される国が認めなければいけないということですね。

後者の保護国とはどういう基準で決めるのでしょうか。販売された地を基準とするのでしょうか。

【小川様】そうです。いわゆる保護が要求される国というのは,基本的には,著作者の国籍ベースで,販売が行われる国において,例えば,私,小川の作品がフランスで売られたと。そうすると,フランス人は追及権料を私に払うかというと,私の国籍が日本である限りは払ってくれないと。つまりは,両方の国です。

【道垣内主査】販売がされた国が容易に特定できる場合もあると思います。が,もの自体は動かさなくて,別の国の業者がオークションを開催して販売するような場合,どちらの国が保護を求める国なのでしょうか。貴重な絵の場合には,動かさないこともあると思うのですが,いかがでしょうか。

【小川様】はい。

【道垣内主査】その場合に,販売された地というのは,簡単に特定できるものですか。

【小川様】なるほど。私は実はプロではないので,その辺のところは非常に難しいと思うんですが。ただ,実際のオークション,後にオークションの方から御説明があると思われますが,基本的には,例えば,オークション,別の会社が介在するのではなくて,サザビーズなりクリスティーズというところのイギリス支店とかフランス支店というところが介在して販売するというようなことですよね。今のお話は。

【道垣内主査】ええ。だとしても,その業者さんの所在地と実際の美術品の所在地が違う場合もあり得るのではないかと思うんですけど。

【小川様】美術品の所在地というか,販売がどこで行われたかというのは,売上げも,それは特定はできると思うんですけれども。 例えば,イギリスのオークションで,イギリスの方が出品されていますから,出品されているものが,例えば,場所が今ドイツにあるとしても,出品はイギリスの市場で,イギリスのオークション会社が出品しているわけですよね。

【道垣内主査】売買が成立した時点というのもなかなか特定は難しいと思いますが。

【小川様】だから,買う人と売る人は,そこはプロの間ですので,イギリスで販売されたということが明確であると思います。

もう一つは,ネット販売というものもありますし,オークションに自分が行かないで,手を挙げて,ネットで誰さんから入りました。といっても,それはロンドンで開催されたオークションであれば,ロンドンでの販売ということになると私は思っております。

【道垣内主査】そうですか。

【小川様】これは,後でオークションの方によく御説明いただいた方がいいと思います。

【道垣内主査】分かりました。法の適用関係が専門分野ですので,気になった次第です。

【奥邨委員】すみません,不勉強なので,2点教えていただきたいんですけれども。

1つは,理解として伺いたいのですけれども,追及権は禁止権ではなくて,金銭的請求権でしかないということでしょうか。したがって,いわゆる消尽とかの関係で矛盾は起こらないという整理でよろしいのかということが,まず1点です。

2点目が,ベルヌ条約を読んでおりますと,そこでの追及権というのは,今日は美術品だけが前提になっているんですけれども,オリジナル・マニュスクリプト,つまり原稿というのが入っていると。作家さんが書かれたり,それから,作詞家・作曲家さんが書かれたオリジナルの原稿についても追及権が対象になっていると。

先生から,先ほど世界の状況ということで御紹介ありましたけれども,これはフルセットで両方認めている国がこれだけあるということなのか,それとも,そうではなくて,美術品だけについての話なのかということがちょっとお伺いしたいなと思いまして。

以上です。

【小川様】ありがとうございます。

まず1番目,禁止権なのか,金銭的請求権なのかということで,これは非常に難しい問題になってきまして,国によって違うのかなという気がするんですが。私個人としては,金銭的請求権であって,その意味では,消尽との関係は,矛盾は起こらないのではないかというふうに考えておりますが,学者によっては,これはもう一つの権利であって,例えば,26条の4あたりに入れたらどうかというような考えの方もいらっしゃるように思います。昔,私の修士論文の審査のとき,渋谷達紀先生に審査員として審査していただいたんですが,26条の4に入れたらどうだと,そのときに私は言われたことを覚えております。

ただ個人的には,これは報酬を請求するだけで,例えば,販売を著作者が止めるというようなことまでは含まれず,原作品が転々して額が上がっていくにもかかわらず,その一部をも受けられないということに対する,報酬を受けることができる権利であるというような理解でございます。

2つ目がベルヌ条約の条文なんですけれども,確かに,原稿も,それから,手稿,いわゆる作詞家の書いたスコアとか,そういうものも全て入っております。最初に導入したのはフランスなんですが,フランスは,美術家からの意見でこの権利を最初に作ったものですから,フランスでは最初は美術しか考えていなかったようです。ベルヌ条約に追及権条項が入る時点で,いろんなものが含まれてきたんですけれども,各国によって事情は違うんですが,美術だけに限定している国が多いことは確かです。少なくともヨーロッパのEUディレクティブでは,美術のみに限定されています。

また,先ほどから出てくる76か国だとか,79だとかいう数の国というのは,何らかの追及権を持っている国というようなくくりでございます。EU指令が出る前の時点では,例えば,スペインの法律などは,美術といっても,彫刻だけに追及権を課すというような非常に面白い法制度になっておりまして,現在でも,つい最近,ブラジル人の法律家の方に聞いたんですが,ブラジルでは原稿についても含まれている。つまり,国によって法制度が全く違うというようなことになっております。

【道垣内主査】ありがとうございました。

今日,5人の方にいらっしゃっていただいていまして,また最後にまとめて質疑の時間を取りたいと思います。続きまして,吉澤様,よろしくお願いいたします。

【吉澤様】日本美術著作権協会の吉澤と申します。

私どもは法律の専門家ではなくて,美術著作権の使用に関する事務手続を日常やっている団体でございまして,簡単に,まず協会について御紹介させていただきます。

私どもは,その名前のとおり,美術作品の著作権管理を行っておりまして,ここでいいます美術とは,絵画,彫刻,写真等の視覚芸術を指していますが,純粋な作品だけではなく,美術家による,今お話にありましたような,手書きの原稿や建築家のデッサン,設計図など,著作権法で著作物と定義されている制作物も含んでおります。それらは,今,小川先生がお話しされた追及権の対象となる一点物の原作品ということになります。

では,弊協会の日常業務がどのようなものかと申しますと,新聞,雑誌,書籍,あるいはテレビ等のメディアにおいて,著作権保護期間にある視覚芸術作品を複製しようとする際に,弊協会に御申請いただき,大部分の申請に対して,私どもは,著作者との契約に基づき弊協会のみで許諾をお出ししますが,美術の場合は,しばしば著作権者に詳細を伝えて,案件ごとに判断を仰ぐ場合もございます。

いずれにしましても,許諾書でクレジットをお知らせし,使用媒体に明示していただくとともに,規定の著作権料を使用者様から徴収し,著作権者に分配しております。このような使用手続が私どもの日常の業務でございます。

美術の著作権管理団体として,日頃の業務を通して私どもが感じることは,音楽や文芸等における著作権は,現在広く一般に認識されていますが,残念ながら,美術に関する著作権への理解度は,まだまだ同様のレベルに達していないということです。

その原因を推測しますに,音楽,文芸,映画等の著作権は,それ自体ビジネスに直結する重要なファクターであるために,関係者が著作権に敏感であるのに対して,美術の著作権については,作家さん御自身がその権利について余りこれまで積極的に声を上げてこなかったと思われます。

といいますのも,多くの美術家の方々は,自己表現というか,自己実現のために黙々と制作をされておりまして,その制作態度は,ある意味で御自身の道を究める修練の場とか,若しくは,哲学的な思索を深める行為に近いのではと感じることがあります。また,聞くところでは,美術家の方々は,個人として作品を制作されつつも,他方で,美術学校の教師,あるいは,一般校の美術専門職員でいらっしゃることが多いとのことです。つまり,教育者としての側面も強いのかと思われます。そのような精神風土によって,美術家の方々が,御自身の権利を声高に主張しづらい,そういう状況があるかと推測しております。

片や,美術作品を使用される側の方々は,使用目的が文化的だ,あるいは教育的だということで,ビジネスに使用するのではないということで,申請の必要性や著作権料の支払に関する認識不足がまだまだ見受けられます。

以上,美術の著作権意識が他分野の芸術ほど理解が浸透していない状況を申し上げてきましたが,このような状況においても,例えば,日本美術家連盟の理事をされているような先生方は,御自身のためというよりも,美術家全体の代表として,著作権に関する意識を高く持たれておりまして,その先生方から今までにお聞きした追及権に関する意見を御紹介させていただきます。

お手元の資料にあります視覚芸術作家の意見ということで,1)から5)まで挙げております。

まず,1)ですが,造形作家は,他のジャンルの芸術家,例えば,文芸や音楽の作家が受け取ることができる再版の権利や印税を受け取れない。そこに,今,他芸術との権利上のアンバランスがある。そして,それを追及権によって解消できるのではないかという意見です。

2)作品が転売されるときの利益を得るのはオークション会社や画商さんで,作家には何の恩恵もない。ここに制作者と販売者の利益機会のアンバランスがあるのではないか。

3)また,作品を販売する際の著作権制限の法律が制定されながら,その作品を創造した作家の権利に考慮が及んでいない。これは,新たな制限規制といいますのは,47条の2を指しているわけですが,何人もの画家の方たちが,この新しい制限が成立するときに,同時に追及権を導入すべきだったとよくお話しされているのを耳にしております。いずれにしましても,この1)から3)に関するアンバランスは,追及権の導入によってこそ解消されるのではないかという意見です。

次に,4)ですが,造形作家にとっては,追及権によって自作がマーケットで流通していることを知ることで,仮に手にする権料が少額であっても,自作への評価を実感できて制作へのモチベーションが,先ほどありましたようなインセンティブということにつながるかと思います。美術家の方々は,自分の作品を一番喜んでくれる人の手元に置かれて,日々鑑賞してもらえるのが何よりうれしいと聞いております。しかし,ある作家が急に有名になり,作品も人気が出てくると,その作品が転売目的,すなわち,投資目的で売買されるようにもなります。自分の作品を子供に例える作家さんが多くいらっしゃる中,内心どのように感じているのかと想像しますと,私が作家でしたら,自分の作品がビジネスのためだけに転売されるのであれば,その何%だけでも作家へのリスペクトとして支払ってほしいと思うことでしょう。つまり,追及権は,そのような,他の著作権とは意味合いが異なる人格権的な要素が強い特殊なものかなと思っております。

5)ですが,芸術作品をコンテンツとしてみなして,その流通とマーケットにおける数字のみが考慮されるということは,文化国家を目指す芸術家の保護や育成という重要な視点が欠落しているのではないかという意見もございます。先ほどの4)が,創作者の心情的視点の重要性を述べたものであるのに対して,こちらは,社会という大きな枠組みの中で考えている視点かと思います。すなわち,これから成熟した文化国家として生き残っていくための国の文化行政を考えるときに,追及権が芸術家の人格的な性格を有するものと捉えてみたとき,追及権は本質的な文化行政に有効な制度をなり得るのではないかという意見であります。

以上が,私が日頃いろいろな作家さんたちからお聞きする意見をまとめたものでございます。

最後に,著作権管理団体として,今まで得ましたデータを添付してありますので,御覧いただきますと,追及権の現状として,CISACの報告によれば,世界で徴収されている著作権料のうち,音楽が85%であるのに対し,造形芸術,視覚芸術は約2%であります。これは,メディアの違いを考慮しても,造形作家の著作権保護はまだまだ改善すべき点があるのではないかというのがCISACの意見であります。その中に追及権も含まれております。

同様にCISACの報告では,先ほどの2%に相当するわけですが,視覚芸術に関する著作権総徴収額の25%が追及権であるということです。ですので,視覚芸術の作家,造形作家にとっては,追及権は非常に重要な権利であるということが分かるかと思います。

3)ですが,先ほどお話にありましたように,私ども著作権管理団体は,提携管理団体と相互主義のもとで保護管理をやっております。日本にはまだ追及権が導入されていないのにもかかわらず,実際は,現在フランスで徴収された,例えば,藤田嗣治など,最近非常に人気の出ている作家さんの追及権がADAGP協会から私どもに送られ,それは善意によってということになりますが,私どもから各権利者に分配しているという事実もございます。

このような現状を考えるとき,国際的なネットワークで著作権管理を行っている私どもとしましては,できるだけ国際的な水準のもとで業務を行いたいと常々感じている次第です。

幸い,TPP11に関連して,保護期間が70年に延長になるのは喜ばしいですが,追及権も遠くない将来に導入してほしい権利であると考えております。

以上です。ありがとうございます。

【道垣内主査】ありがとうございました。

では,同じように,御質問等ございますでしょうか。どうぞ。

【上野委員】御説明ありがとうございました。

特に興味を持ちましたのは,先ほどの御説明で,日本には追及権がないにもかかわらず,藤田嗣治先生の作品については追及権に基づく金銭が善意によって日本美術著作権協会に送られているということなんですけれども,これはどういう経緯があったのでしょうか。藤田先生は,フランスに帰化して,国籍もお持ちだったというふうに承知しておりますけれども,その辺が関係するのかどうか,お伺いできればと思います。

【吉澤様】フランスの国籍を取ったのは戦後ではあるんですけれども,確かに取っていらっしゃいます。

今,日本で非常に藤田嗣治が人気があるということで,恐らく日本の業者さんがフランスに買いにいって,そこのマーケットが非常に起こりまして,追及権が徴収されているのかと思います。それは,フランスの法律によって,ほかの作家の追及権と同様に徴収されてしまいますので,それを,本来は相互契約で,私どもに送る必要はないのかもしれませんけれども,権利者さんが日本にいらっしゃるので送ってくるという,そういうことかと思いますが。

【上野委員】ほかの作家と同じように徴収されてしまう,というふうなお話が今ありましたけれども,そうすると,フランスでは,特に国籍にかかわらず,全ての作家の作品の取引について追及権に基づく徴収をして,その後,分配するかどうか判断しているということになるんでしょうか。そもそも日本人の作品,すなわち日本人の国籍しか持っていない人の作品については,フランスで徴収しなくてもいいように思うわけですけれども。

【吉澤様】日本の国籍だけだったら,恐らく徴収していないのかなと思いますけれども,藤田はフランスの国籍も持っていますので,恐らく徴収して,それを著作権保護のための一般的な使い道で利用してもいいんでしょうけれども,日本に送ってくださると。私どもは,送られてくるものですから,立場上,今度は,では権利者さんに分配しようということでやっています。

その辺に,海外にあって日本にはない,そういう権利があるということで,実務的には,混乱というわけではないですが,齟齬が生じるということになります。

【上野委員】ありがとうございます。そうすると,別に好意で送金してくれているわけではないということになるかもしれないですね。

【道垣内主査】そうですね。あるいは,藤田さんは日本国籍を離脱されているかもしれませんね。

【上野委員】両方あるみたいですけどね。

【道垣内主査】多分,日本国籍法上は自発的に二重国籍者になることは難しいと思います。ありがとうございます。

【吉澤様】その辺は,そこまで詳しくは分からないんですが。

【道垣内主査】どうぞ,山本委員。

【山本委員】今,御説明いただいたところの1の4)のところで,制作意欲につながるというお話の文脈の中で,現実に高い値段で取引されているというのは,投資目的で行われているというようなお話もありました。その点について1つお伺いしたいんですが。

かなり美術作品の市場マーケットが大きいと。それに対して,最初に作家が原作品を売ったときの金額を考えると,余りにも小さいと。だから,極めて大きな取引規模になっているマーケットから,作家としては一部でも欲しいというところが追及権の動機かなと思うんですが。

じゃ,美術作品の市場規模をつくっているのは,今のお話からすると,投資目的でお金持ちが有名な方の作品を買いあさるがために,それでもって,お金持ちのお金によって市場規模が極めて大きくなっているというのが実態という感じなのでしょうか。

【吉澤様】私どもは売買の方に関わっているわけではなくて,著作権の使用の申請があったときに,事務手続しているので,余りそこまで詳しくは分からないんですけれども,美術作品を非常に安いものと非常に高価なものというふうに簡単には分けられないかなと思うんですね。

美術品を愛する方で,例えば,数十万から百万ぐらいのところで,ボーナスでこの作品を買いたいというような方もたくさんいらっしゃいますので,それを投資目的だけで高額のものがマーケットをつくっているとだけは言えないのではないかと思うんです。先ほど出ました藤田なども,それほど極端に高額ではないんですけれども,その量が,皆さんに愛されて,たくさん扱われているということにもなるかなと思うんです。

【道垣内主査】ありがとうございます。

すみません,時間割からすると,遅れぎみなものですから,御質問があれば,また後からにしていただきまして。

引き続きまして,全国美術商連合会の木村様,お願いいたします。

【木村様】全国美術商連合会の監事の木村と申します。座って発表させていただきます。よろしくお願いいたします。

まず初めに自己紹介をさせていただきまして,次に,全国美術商連合会の紹介をさせていただきます。

私,弁護士で税理士の木村道哉と申します。一般社団法人全国美術商連合会の監事及び一般財団法人東美鑑定評価機構の幹事を務めております。

東美鑑定評価機構は,美術品の鑑定及び価格の評価ということを主たる業務としており,下記の東京美術倶楽部と連携して,現在鑑定評価業務を行っております。東美鑑定評価機構は,美術品の鑑定書を発行することを業務の一つとしており,私は,東美鑑定評価機構鑑定委員会の立会い等も業務として行っております。

また,東京美術倶楽部は,作家の遺族から著作権管理の委託を受けて,著作権管理団体として,その管理を行うといった業務も担当しております。

一般財団法人全国美術商連合会は,平成6年に設立され,平成27年6月に一般社団法人化されました。現在,こちらに記載されている主な加盟団体,現代の美術商や近代の美術商も含まれており,その他,浮世絵等,刀剣等も含まれています。全国美術商連合会は,日本でも有数の全国的な美術商の団体と位置付けられており,美術品に関する税制や,文化政策についての提言も行っております。

現在,全国美術商連合会の中で追及権に関しどのような議論がされているかも含め,これから発表させていただきたいと思います。まず,資料2番の「美術品取引市場の現状」というところを御覧ください。

既に御報告もありましたが,こちらに記載されている日本のアート産業に関する市場調査において,アート産業規模は約3,270億円,美術品市場は2,437億円と調査されております。この調査に関しましては,全国美術商連合会も協力しており,我々としましても,現状把握できる規模として,美術品市場は約2,437億円と把握しております。

ただ,このような美術品市場規模は,日本のGDPや富裕層のニーズに対しては比較的小さいと分析されています。現状では,近代・現代の美術作家,作家遺族,美術商にとっては,まず日本国内の美術品市場を活性化して,市場規模を大きくしていくことが重要な課題であると認識しております。

ただ,こちらの美術品市場規模というところですけれども,下の古物市場というところを見ていただければ分かるかと思いますが,実際にはクローズドマーケットになっております。そのため,全ての取引が把握されているわけではないという現状がございます。例えば,交換会といった,複数の美術商同士の間での美術品取引や,あとは相対取引というものが頻繁に行われておりますので,こちらの美術品市場の規模というものに,この2,437億円で全ての取引を含んでいるかどうかというところについては,判明していない状況でございます。

では,次のページを御覧ください。現状,全国美術商連合会も含めて,近現代の美術作家がどのような著作権に関する課題に直面しているかというところですが,我々としましては,美術作家の著作権侵害が最も大きな問題と捉えております。

その中でも,真作でない作品の流通,我々は贋作(がんさく)という言葉は通常使わないので,真作でない作品というふうに申し上げますが,そのような作品が非常に多く流通しているという状況でございます。我々,全国美術商連合会としましても,美術作家を守るため,著作権侵害への対抗措置,真作でない作品の流通防止が必要だと考えております。そして,この問題は,今回の追及権に関連します。追及権は,原作品の取引を対象としておりますので,このような真作でない作品が流通した場合に,追及権との関係で,法的にどのような扱いをすべきか,というのは非常に重要な問題であると認識しております。

特に,ある作品が真作でないかどうかという判断につきましては,作家が存命である現存作家の場合と,既に亡くなっている物故作家の場合で,非常に大きな違いがございます。現存作家の場合は,真作と偽作の区別を作家本人ができますので,最終的な判断は作家に委ねることができるのですけれども,物故作家の場合は,遺族ないし第三者の鑑定が必要になります。例えば,東美鑑定評価機構や東京美術倶楽部へ物故作家の作品の鑑定が持ち込まれるということはたくさんあるのですけれども,やはり真作でない作品というものも持ち込まれております。美術商の取引の間でも,それが真作であるかどうかということは,プロでもなかなかすぐに判断ができないというものもございますので,物故作家の場合の美術品取引において,それが原作品であるのかどうかを取引の現場で確定するということは,難しい問題です。

次に,全国美術商連合会として,追及権導入に対してどのような懸念事項があるかということを,資料2ページの4番で記載しております。日本国内の近現代美術品市場に与える影響について,先ほど最初に事務局の方から御報告がありました。イギリスやアメリカなどといった美術品市場が確立されている地域と違い,日本のように比較的市場規模が小さい美術品市場において追及権が導入された場合に,どのような影響が発生しうるのかということは,実証的に検討する必要があると考えております。

例えば,カリフォルニア州であれば,同じアメリカ合衆国という国の中で,別にニューヨーク州という大きな市場がありまして,その一方で,カリフォルニアだけが追及権を導入しております。そういった状況で,カリフォルニアの美術品市場にどのような影響が出ているのかといったことも,日本国内に追及権を導入する際に,実証的な検討が必要なのではないかと考えております。

それから,美術作家間の貧富の格差拡大という点について述べます。追及権導入が創作者のインセンティブないしモチベーションの増大というところが立法の目的の一つとして挙げられていますけれども,一般的に作品の取引価額があまり高くない若手美術作家などにとって,追及権制度が必ずしも実効的な支援にはならないのではないかという疑問点がございます。また,既に高額な取引がされている美術作家や遺族については,この追及権制度導入により更に収入が増えるといったこととなり,同じ美術作家間でも貧富の格差や収入の格差の拡大が起きるのではないかといった懸念があります。

資料にフランスの例が引用されていますけれども,資料3ページの上部にあります通り,追及権を管理していた団体であるSPADEMの徴収額の約半分がピカソの相続人の追及権徴収額であったという事実があります。一部の作家だけに追及権による徴収という恩恵が受けられて,ほかの多くの作家にそのような恩恵が与えられるのかどうかといった点についても懸念が生じます。

それから,追及権が導入された場合の執行というところですけれども,先ほど述べましたとおり,日本国内において,相対の取引や交換会といったような美術商間の取引が多く行われておりますので,全ての美術品取引を正確に捕捉することは難しいということがあります。また,海外の倉庫に収められている美術品について契約のみで所有権を移転させるといったようなことも想定されますので,そのような全ての美術品取引を捕捉していくことというのは,なかなか難しいという現状がございます。

先ほど述べましたとおり,真作でない作品というものが実際追及権の対象となるのかどうかを現場で判断しなければならないという点,更に,追及権の対象となる作家の選別,各物故作家の追及権保護期間がいつまでなのかといったことを,現場で,個別の作品,作家について判断しなければならなくなります。こういったことは,現場の美術商にとっては重い負担になるのではないかと考えております。

資料の中に,小川明子先生の論文を引用させていただきましたけれども,カリフォルニア州法の追及権については実際にどのような取引が行われたかということを,自動的に著作者ないしは遺族に知らしめるようなシステムがないという現状があります。そういった場合に,実質的に追及権の徴収がなかなか難しいという状況もありますので,このようなシステムが存在するかどうかというところも,実際の追及権の執行においては重要な課題になるのではないかと考えております。

近年,ブロックチェーンというものを使って取引を把握していこうというような話題も出ておりますけれども,そのブロックチェーンに最初に作品をひもづける際,その作品が真作であるかどうかといったことを判断しなければならないことや,ブロックチェーンで記録された所有者が当該美術品の実質的な所有者であると担保できるのかといったところについても,なかなか乗り越えなければいけない課題は多いのではないかと考えております。

以上の発表のまとめとしまして,全国美術商連合会としては,追及権については,諸外国の制度,各国の執行状況を参考として,日本国内の近現代美術品市場の現状把握を踏まえて,中長期的な課題として捉えていこうと考えております。

喫緊の課題としましては,先ほど申し上げた美術作家の著作権侵害,真作でない作品の流通といったものについて,まず実効性のある対抗措置を取っていくことが重要ではないかと考えております。

また,追及権の対象となる取引額によっては,作家間の貧富の格差なども拡大することが懸念されますので,美術作家のモチベーションを増大させるという点については,追及権以外にも,より具体的な方策を検討する必要があるのではないか。

それから,追及権制度が導入された場合の美術取引の捕捉の問題や,対象作品・作家の選別など,実務的には多くの問題が存在しますし,あまりにも過大なコストがかかるようになりますと,海外市場への美術品取引の流出といったことも十分考えられます。そこで,そういった海外流出をどのように防止するか,若しくは,どれだけコストを低くしてそのような執行をしていくのかといったことについては,十分な検討が必要であると考えております。

以上を踏まえまして,全国美術商連合会としては,追及権導入自体,立法論,法律論としては理解しておりますけれども,短期的に見て,現状でなかなかそれを実行することが難しいのではないかという意味で,時期尚早であると考えておりますが,今後も中長期的な課題として検討していかなければならない問題であるというふうには把握しております。

以上,発表となります。

【道垣内主査】ありがとうございました。

御質問ございますでしょうか。どうぞ。

【小島委員】御説明ありがとうございました。九州大学の小島と申します。

真作でない作品の流通というお話なんですけれども,お話を伺いながら,フェルメールの贋作(がんさく)のことなどについて書かれた本を読んでいたことなどを思い出したんですけれども。真作でない作品というのが,美術品の流通において,どれぐらいのノイズというか,どれぐらいの負担感として存在しているのかということを教えていただきたいなと思いました。もしこれがかなりあるということであるとするならば,もし追及権を入れたとなりますと,まさに作者に利益を還元するときに,更に注意義務というか,より調査をきちっとしないといけないということになってくるのではないかと思うんですけれども,そのあたりについて,差し障りのない範囲で教えていただけないでしょうか。

【木村様】具体的に何%といった数字はなかなか出せないんですけれども,私が立会いをしております東京美術倶楽部ないし東美鑑定評価機構の鑑定委員会であれば,月に日本画と洋画で大体300点程度鑑定があり,その中にある程度の割合で真作でないものが含まれているということがございます。真作でない作品が極めて少なくほとんど存在しないといった状況ではないという印象です。追及権が導入された場合に,著作者に,どの取引について追及権の行使を認めるのかどうかといったところも非常に重要な問題ではないかと考えております。

【小島委員】真作でない作品が紛れ込んでいるのではないかというお話なんですけど,それはいわゆる著名な芸術家さんの比率の方が上がってくるという理解でよろしいんでしょうか。

【木村様】現状,私が見ている範囲ではございますけれども,私の個人的な印象としては著名な作家さんで高額な作品であるほど,そういったものが含まれやすいという傾向はあるように感じております。

【小島委員】ありがとうございました。

【道垣内主査】よろしゅうございますか。

引き続きまして,どちらかというと,ネガティブなお立場かと思いますが,大熊様から御説明をお願いいたします。

【大熊様】SBIアートオークションでございます。本日は,このような貴重な機会を賜りまして,ありがとうございます。私の方から,事業者としての立場で,簡単に御説明をさせていただきたいと思います。

まず事業者としての立場でございますけれども,事業者にもいろんな事業者がございますので,最初に,我々の立ち位置について簡単に御紹介させていただきたいと思います。

現状,日本における美術品マーケットというのは,あくまでざくっとした分け方でございますけれども,画廊・ギャラリーという範疇,それから,百貨店,アートオークション,そして,アートフェアの大きく4つに分類されると言われておりまして,そのうちのアートオークションの規模につきましては,先ほど小川先生の御説明の中にありましたとおりでございます。

実際,国内では3番目の規模を持つアートオークションなんですけれども,その中で,毎日オークションとか,シンワアートオークションとか,いろんな事業者さんがございまして,取り扱う作品というのは,会社によってやっぱり指向が違います。そういう中で,我々は,コンテンポラリー,現代美術に特化した形でビジネスをさせていただいておりまして,そういった意味では,今般,もし日本に追及権が導入された場合は,その存続期間の関係もございますけれども,非常に大きく影響を受けるような立ち位置にあるのかなと考えておりまして,そういった前提でお話をさせていただければと思います。

では,我々はもともとなぜコンテンポラリーをやっているのかということなんですけれども,日本には,ヨーロッパなどに比べると,自分たちの生活の中にアートは根付いていないのではないかという感覚がございまして,そこの裾野をもっと広げて,そして,特に日本の若手の作家の皆様とともにアートのマーケットを作っていければいいなという精神で始まった会社でございます。

本日は,そういった立場でお手元の資料に沿って簡単に御説明させていただきます。まず1番の追及権の導入に関する賛否でございますけれども,現時点では,美術品マーケットに対する悪影響が大きいのではないか,あるいは,実務上の諸課題があるのではないかということで,時期尚早と考えておる次第でございます。

では,なぜそう考えているのかということにつきましては,2の理由詳細の以下で順次御説明いたします。まず1点目の美術品マーケットに対する悪影響があるのではないかかという点でございますが,これはどんな悪影響があるのかということになりますと,資料に記載させていただいているマル1とマル2の影響が主にあるのかなと,事業者の肌感覚としては思っているというところでございます。

マル1,マル2,詳細は追って御説明しますが,これらに共通する,我々が基本的に感じているところとしては,もともとこの追及権の導入の議論につきましては,美術品の作家さんは,最初の譲渡時しか対価を受けられないと。だから,その後,転々譲渡されて,いろんな方の間で流通する場合は,そのときにある程度の配分といいますか,というのがあった方がいいのではないかというところかと認識しておりますけれども,その転々譲渡されていくためには,やはり国内においてそういった場がきちっとできている,あるいは,今後育っていくことが重要なのではないかと思っております。ところが,現時点でこれをやってしまうと,そういった国内マーケットの健全な発展を阻害してしまって,逆に,マイナスになってしまうようなところもあるのではないかと感じている次第でございます。

具体的に御説明させていただきますと,まずマル1,追及権料の負担を避けるために,販売の場が海外に移っていくのではないかというところでございますが,これがもし追及権が導入された場合,現在の手前どもが運営するような国内のアートオークションのマーケットで取引を行っていただいている方々が,追及権の負担がない,そして,マーケットとしても巨大で魅力的なニューヨークであるとか,あるいは,アジアで言いますと香港,そういったところに移っていくのではないかという懸念をしております。

この点,5万ユーロ,500万円相当を超えるものについては,移っていく可能性があるのではないかという調査報告も過去になされているところと理解しておりますほか,これは本当に何のエビデンスもない,事業者としての勝手な肌感覚でございますが,イギリスで経済的な影響はなかったという結果が先ほどありましたけれども,イギリスの場合は,非常にマーケットも大きいということと,あと,例えば,印象派はやっぱりイギリスだよねとか,あそこで売らなきゃねとかというような感覚が,お取引をされている皆様の中にもある程度あるのではないかなと思っております。そして,印象派の場合は,追及権がそもそも切れていたりとか,あるいは,高額であったりということで,制度はあるけど,負担は余りないという話があると,ほかのところに移さなくても,やっぱり売るのは聖地のイギリスだという話になってくるのではないかなというところも,肌感覚としては持っているところでございます。

そういった形で,マーケットが移ってしまうのではないかと。そうしますと,我が国におけるアートオークションのマーケットというのは,リーマンショックによって一回落ち込みまして,その後,順次回復,拡大してきたところでございますが,その流れに水を差すことになってしまって,マーケットが駄目になってしまうのではないかということを非常に懸念しておるところでございます。

我々は直近では10月27日に,代官山の方でアートオークション,これはインターネットとか電話でも,海外からも御参加いただけるような形でやっておりますが,そこでの取扱高に占める高額品,これは500万円以上とさせていただいておりますが,その割合は全体の52%でございます。したがいまして,この52%がもしニューヨークなり香港なりに移ってしまうと,アートオークションの事業者としては,非常に厳しい立場に置かれるということが現状でございます。

よって,もし導入するとしても,ニューヨークとか,香港とか,輸送費用を考えても,ほかに移した方が得だという話に短絡的になってしまわないようなケアをしていただければ有り難いなと考えておる次第でございます。

それから,2番目,マル2のセカンダリーマーケットがクローズドなものへと変質するおそれでございます。先ほど,木村様の方から,美術品交換会の話についても少しお話がございましたが,この美術品交換会というのは,プロの方だけが参加できるようなマーケットとなっておりまして,実際,業者の方々というのは,公開のアートオークションと美術品交換会の場を併用しながら,自分たちの作品を販売されたり,お取引をされているのが現状でございます。

その中で,公開のアートオークションを使ってやると全部中身が分かってしまうから追及権の負担面倒くさいよねみたいな話になって,地下に潜るといいますか,非公開の美術品交換会の方でさばけばいいという話になってきますと,非常にセカンダリーマーケットがクローズドなものへと変質してしまって,公開のアートオークション事業者の立場だけでも非常に不利益をこうむるとも思いますし,実際,マーケットの相場観が分かりづらくなるということもありますので,実務的には,追及権の行使もすごく難しくなってくるのではないかなという感覚を持っております。

したがいまして,このような国内のマーケットの状況を踏まえて,2次流通の場においても,一部の方が不利益をこうむらないような,しかも,追及権を実効的に行使して,きちっとお支払が確保されるような,そういう制度設計をしていただきたいなと考えておるところでございます。

続きまして,もし追及権を導入したらどんな課題があるのかなというところを,(2)で,雑多なんですけれども,我々が事業者としてざっと感じているところを列挙させていただいております。

簡単に言うと,徴収・支払は結構難しいのではないかということなのでございますけれども,まず1点目としては,今申し上げたセカンダリーマーケットの変質という問題。

2点目といたしましては,我々は海外の作家さんの作品もオークションで出品してほしいということで,販売を受託するんですけれども,そのときに,全ての作品について,相互主義だからこの作品は適用があるのか,ないのか,幾らになるのかというのを全部調べていかなければいけないとなりますと,かなり大きな事務負担になると。もちろん,我々,法律の専門家ではございませんので,日本の弁護士も,当然,全員がヨーロッパ各国の法規に詳しいわけではありませんので,そういったところを,渉外弁護士とか外国法の弁護士事務所とかを使ってやっていくとなると,ものすごく費用がかかってしまうというところもありますので,人的にも金銭的にも大きな事務負担になるというところでございます。

また,現状の取引として,複数の作家の作品で1ロットにして売りますみたいなことが結構ありまして,バルクセールと言うと言葉が余りよくないかもしれないですけれども,この5点セットで幾らで売りたいですという御要望も多々ございまして,その場合に,全部違う人たちの作品が入っていたりします。そうすると,まとめて幾らという形なので,分配金額をどうやって算定すればいいのかがよく分からないというのがあると思います。

また,4点目としては,実際にお支払しましょうとなったときに,お支払する人はどこにいるのか。海外にお住まいの方もいらっしゃいますし,相続とかが生じてしまった場合に,どうやって探せばいいのか。我々,アートオークションのマーケットでは取扱高が国内で3番目の事業者という形でやらせていただいているんですけれども,社員の数は二十数名とか,そういったレベルでやっておりますのでどうやって探す,誰が探すみたいな話があって,もっと個人でやられている方とか,小さい規模でやられている方々だと,そんなのできないよとなってしまうのではないかなということを感じております。

それから,5点目について,日本美術著作権協会様が,海外作家のところはメーンに担っていただいていると思うんですけれども,アートオークションの業界について,国内でいろいろ取り扱っていくときに,国内の作家の権利者情報を包括的に把握して,著作権料や追及権料を分配するような,そういった団体が今,業界の中でなく,この人たちが盟主だよねとか,あるいは,業界の上位の事業者たちが人を集めて協会みたいなのを作ったりしていませんので,そういった土壌がまずない。追及権が法律的に手当てされたとして,どのように分配を行っていくかの実務のノウハウもないとか,権利者への分配に課題があるだろうと思っています。

それから,6点目としては,追及権料を実質的に事業者が負担することになってしまうのではないかと。簡単に言うと,高騰した原価の価格を消費者に転嫁できないということになってしまうのではないかと考えておる次第でございます。

それから,最後として,カタログ掲載料と追及権料の二重払いの問題を記載させていただいております。

アートオークション事業者,これはほとんどの事業者さんもそうなんですけれども,オークションを開催するに当たっては,冊子のカタログと,ウェブでもそういうのを見られるようにして,両方でこんな作品が出ますよということで御紹介させていただいているんですけれども,イギリス,フランス,ドイツなどでは,追及権がある代わりに,カタログに関しては複製権の対象とならず,許諾が要らないというふうになっていると思うんですけれども,日本の場合は,そもそも追及権がないというのもあって,かつ,著作権法の47条の2の権利制限の規定の内容に沿って,50平方センチメートル以下での小さい掲載サイズは無償なんですけど,もう少し魅力的に載せようかなと思ったら,掲載許諾を得て,必要に応じてお金を払わなければいけないということで,実際お支払しているところでございます。

これも実際に我々の売上げ高の数%程度に当たる金額を払っていまして,0.5~4%という話で,追及権のランクがタリフみたいになっているような形になっていると思うんですけれども,そういった現状もございますので,これをそのまま入れてしまうという形になると,その数%に,更に0.5~4%を上乗せして払う,二重取りといいますか,二重取られといいますか,というふうな経済的負担もありまして,国内マーケットはまだまだ小さくて,海外の事業者さんと闘える力をこれから作っていくということも我々はやっていかなければいけないとなと思っていますし,もちろん,他社さんも思っておられると思うんですけれども,そのときに,日本の事業者にとっては非常に不利になるのかなというところもございますので,こういったところも少し御考慮賜れば大変幸いでございます。

以上,簡単でございますが,以上でございます。

【道垣内主査】ありがとうございました。

また御質問等ございますでしょうか。どうぞ,前田委員。

【前田委員】御説明ありがとうございました。

最後にお話しいただいた二重負担という点についてお伺いしたいのですが,掲載許諾を得てオークションカタログに掲載するというのは,ほとんど全ての場合についてそれをしているということなんでしょうか。若しくは,47条の2の範囲で済ませるということも行われているんだとしたら,どういったときにそういった決断をして,どういったときには許諾を得るということになっているんでしょうか。教えていただけると幸いです。

【大熊様】こちらは,その時々のオークションにおいて,やはりオークションですので,こういう言い方をしていいのかあれなんですけれども,目玉作品とそうでないものが現実としてあるわけでございます。やはり目玉作品になるのは人気が高い作品ということで,出品者の方も高く売れるのではないかという形で,我々に御指示を頂きますし,我々もその御期待に応えようという形で,そういった作品は画像を大きく載せて,必要に応じて著作権者の方にお金をお支払してもというふうな形でやっておりますので,結構メーンになっていく目玉作品は払っている。

それ以外の,まだ駆け出しの作家さんで,エスティメート(予想落札価格)が10万とか,そういったものもございますので,そういったものについては,権利制限規定の範囲でやらせていただいておるというのが現状でございます。

【前田委員】分かりました。ありがとうございます。

【道垣内主査】よろしゅうございますか。ありがとうございました。

それでは,最後になりますが,宮津先生より御報告をお願いいたします。

【宮津様】本日はお招きありがとうございます。横浜美術大学の宮津大輔と申します。

お手元の資料と,前のスライドを御覧いただきたいと思います。大変申し訳ないのですが,資料に番号を振っていないので,少し見にくいかもしれません。

まず,私の意見を申し上げる前に,私の立ち位置を申し上げておきたいと思います。私は現在大学で教鞭(きょうべん)をとっておりますけれども,もともと現代アートのコレクターでございます。これは自分でこういう言い方をしていいのかどうかわかりませんが,グローバルなレベルでコレクションを続けております。専門分野は主に現代アート,だけではないのですが,アートと経済,アートと社会のつながりでして,そういう視点で御説明をさせていただきたいと思います。

私の資料ですが,最初の1ページ目が私の意見であり,発言したいことの全てを集約しております。そのほかは,なぜこういうことを申し上げるのかということに関する資料ということで御理解いただきたいと思います。

3点ございますが,まず最初に1つ申し上げますと,私は法律の専門家ではないので,そうした立場で申し上げますけれども,今日御列席の中でも,アートの専門の方は皆さん分かっておられると思いますが,アート作品,いわゆるビジュアルアート作品の市場価値というのは何で決まるかといえば,作家,それから,何が描かれているか,もう一点,非常に重要であるのは,そのコンディションです。版画であれば,全く同じ作品であっても,コンディションの良し悪しで値段が非常に変わってくるということですね。

ここで今までの議論で全く抜け落ちているという点が,コンディションの問題です。どういうことかといえば,価格形成の一番大きな要素であるコンディションに対して,誰も敬意を払っていないし,そこに莫大なコストが発生しているということを理解していないわけです。よくこういう議論で必ず出てくる,今日も何人かの方がおっしゃっていましたけれども,音楽の著作権とか文学の著作権と比較されますが,音楽,文学の著作権者は,作品を保護,保管,適正な状況下に置くコストをほとんど払っていないと思いますが,美術作品の場合には,作家というよりも,所蔵者がそのコストを払っていることになります。

ちなみに,これは私の個人的なものなので発言して差し支えないと思って,一例を挙げますけれども,普通のサラリーマンを経て現在は大学で教員をやっていますけれども,25年間アートをコレクションしてきて,ひと月の倉庫代,私,ちなみに3か所借りていますけれども,10万円以上です。仮に10万円と仮定しますと,1年間に120万円,25年間ですと3,600万円のコストを支払っています。これは,作品を売る売らないにかかわらず,適正な保管にそれだけのコストがかかっているということです。

今現在,公立の美術館は基本的に作品の売却ということをしませんけれども,将来的にどうなるかは分かりません。公立の場合には,保管コストも税金で賄われています。私立の美術館で言うと,DIC川村記念美術館が,およそ103億円で数年前バーネット・ニューマンを売っております。あるいは,藤田美術館が,まとめて中国の美術を売って,数百億円の売上げげになっています。これは美術館再建のために必要な自衛手段というか,経費のためにやっているわけですけれども。

こういった美術館が売却することになったときに,あるいは,個人コレクターが売却することになったときに,先ほど申し上げたように,高価格で売却するには,そのコンディションが重要になるわけで,そこに大きなコストがかかっているということは,今回に限らず,今後,こういった法整備をするときに,売主が払えばいいという一方的な視点をやはり見直す必要があるのではないかというのを,私はコレクターとして,また真のマーケット発展のために,最初に言っておきたいと思います。

本題は,3点ありますけれども,私の専門は現代アートなので,アーティストの皆さんが生きていますので,基本的にはアーティストのためになると思っています。総論としては,導入をすべきだと思っています。ただし,各国によっていろんな違いがあると思いますけれども,国際標準と一言で書いてしまいましたけれども,現行導入されているものが,日本にとって果たして本当に有益かどうかというのは疑問という意味です。もしも導入するならば,非常に慎重にやるべきであろうと考えています。

理由は,大きく分けて2つあります。

1点目は,ほかの方も御指摘されていますけれども,こちらの資料で言うと,富裕なアーティストの一覧を御覧ください。これは2012年で随分古いんですけど,今では,もっと収入や資産が多いと思います。また,高額な作品ベスト10というリストがあるのですが,欄外に1つだけ,今年の秋に,存命の作家,デビッド・ホックニーの作品,1970年代のものが100億以上でオークションで落札されています。これにもし追及権が発生するならば,富裕なアーティストだけにお金が行き渡るわけです。逆に言うと,若いアーティスト,市場価値がないアーティストは,仮に販売されても,得るものが金額的に少ない上に,安いものは転売されにくいですから,高額作品の方が次々転売を呼んで,そこだけに富の集中が起こるということになります。なので,やはり何らかの富の再分配みたいなものがないと,個人的には,追及権を日本で導入する意味は全くないのではないかなと思います。

特に,今,少子高齢化で,全ての税収が低くなっています。皆さん,文化の発展がこれからは重要であることを,立場は違えどおっしゃっていましたけれども,そうした財源確保のためにも,各国いろいろあるとは思いますが私は,若手アーティスト育成とか,日本の文化がこれ以上海外に流出しないようにとか,いろな意味で,著作権利者だけに行くというのは避けるべきだと思っています。

2点目,導入は内税方式にすべきということで,これは,加えてというのではなくて,総額の中で取るような形で行うべきではないかと思います。上乗せして徴収していくのがなぜいけないのかといえば,先ほどイギリスで導入したときに影響が軽微で,ほとんどなかったというようなお話だったようですけれども,1つ御覧いただきたいのは,資料の2枚目です。国別のオークションの資料です。オークションだけで,全世界で約7兆円です。オークション以外のところがもっと大きいと思いますけれども,仮に7兆円というと,ポーランドの国家予算に等しいわけですね。最近でいきますと,イギリスの市場は縮小しています。大体アメリカ30数%,中国30数%,その他30数%くらいです。そうなると,カリフォルニア州以外導入していないアメリカと中国におけるオークションというのは,今後ますます増えていくと思いますし,その次にあります世界のオークション会社のうち,クリスティーズとサザビーズ,フィリップスが入っていますけれども,それ以外は全部中国のオークション会社です。

もう一つ,次のページの歴代高額アート作品についての資料を見ていただきますと,第1位,508億円のダ・ヴィンチ,これはアラブ首長国連邦,それから,2番目のポール・ゴーギャンと3番目のポール・セザンヌ,これはカタール王室です。5番目のモディリアーニ,これは中国の個人コレクターです。いずれも高額な作品は全て,追及権を持っていない国のコレクターが買っています。

しかも,先ほどロンドン,いわゆるニューヨークと並びオークションが一番盛んなところですけれど,なぜ影響が軽微かというと,さっき大熊様もおっしゃっておられましたけれども,理由は追及権の有無なだけではありません。どこで売ったらいいかというのは,総合的な判断で一番有利なところで売りたいと思うわけです。それには追及権以外の要素も大きいんですが,仮に追及権を考えた場合でも,アメリカと香港という2つの大きな逃げ場所が現在はあるので,ロンドンに追及権があったとしても,余り問題にはなりません。

ところが,日本は,2,500~3,000億円程度の作品売買市場しかありません。ここに追及権が今のまま導入されたときに,日本の市場規模はますますシュリンクしていくと思います。今,中国のオークション会社が,どこで中国鑑賞陶器,あるいは,近代美術の作品をたくさん集めてくるかといえば,日本が彼らに売り,それらを本国で売るというのが非常に多くなっています。

もう一つ,こちらは木村様の方の専門分野だと思いますけれども,先ほどもちょっとお話が出ていましたけれども,日本には交換会がありますので,そこにどういう影響を及ぼすのか,また,それを果たして正確に把握できるのか。これは,作品の問題だけではなくて,業者間における金融制度という一面もあるわけです。こういうことも含めて,市場における影響というものは,やはり慎重に考えていくべきだと思います。

最後に,私が申し上げたように,再分配するとなると,煩雑な分配・管理の問題があると思いまして,先ほど木村様もおっしゃっておられましたけれども,最初の贋作(がんさく)か真作かである判断とか,現物をバーチャルに持っていくところの管理という部分には,大きな問題がありますけれども,ブロックチェーンの技術を導入するということは,コスト削減と正確性を期すという意味では非常に有効だと思います。

現在,東京大学と孫正義育英財団がそれぞれ支援している別々の会社がありますが,2つベンチャーが中心になって,日本のアートにおけるブロックチェーン技術導入,普及を議論するオープンアートコンソーシアムというものを立ち上げ,私はその委員も拝命,活動しています。こういった技術を,FinTechも大分普及して今や徐々にキャッシュレス時代に向かっていますから,先んじて実験的に導入するべきであると考えております。こうした新しい技術の導入でコストを下げるということは,日本のためになるのではないかということで申し上げておきます。

最後に,再分配の理由,私の資料の最後のページに,今の日本が抱えている問題がありまして,こういうことの解消のためにも,やはり集めたお金というものは再分配されるべきではないかと考えております。

もう一つ言っておきたいのは,さっきからの議論には非常にふわっとしたところがあるのですが,導入する場合には,やはり定量的にコストその他を算出して,果たして本当に日本のためになるのかどうかということを,抽象論ではなく,きっちりと考えていくべきだということで,私の発表を終わらせていただきます。

ありがとうございました。

【道垣内主査】ありがとうございました。

質問,どうぞ。

【小島委員】ありがとうございました。宮津先生の御著書も読ませていただいたことがありましたので,大変興味深く拝聴しました。

私自身は,追及権について,今の段階で賛成とか反対ということは全くなくて,白紙で私も考えております。芸術家の保護,育成という点が追及権で挙げられることがありますけれども,果たして追及権がこの趣旨に本当に適った制度なのかどうか,私も文化政策をずっと研究してきておりますので,ほかの文化政策手段の方が適しているのではないかと考えたことがありました。

分配を行うというのは大変興味深い御意見ではないかと思うんですが,そうなりますと,税賦課類似のものなのか,あるいは,何らかの権利管理団体のような何らかの公的な性格を帯びる団体に委ねるのか,そのあたりについて,何かお考えなどはございますでしょうか。

【宮津様】私は,法律の専門家ではないのですが,1つは,徴収する団体がどういう団体なのか,そこがどれだけ公的な性格を帯びるかということが1点ですね。これは公平性と正確性の問題。それは技術の問題でもあるんですけれども。

もう1点は再分配したお金を何に使うべきなのか。ここは,正確な徴収,確実な徴収とやはり分けて考えなければいけない。ただし,そこは連携を取る必要はありますけれども,そこはそこで公的な,ある程度そういうものを帯びた,あるいは,はっきり言ってしまうと,役所みたいなところを含めて,専門家の意見,有識者の意見も聞きながら慎重に決める機関があって,そちらで考えていただくべきであると。

法律はなかなか変えるのは難しいですけれども,分配したものを再投資する,分配して更に活用することに関しては,やはり毎年見直して,慎重に,果たして効果があったかどうかという効果測定をしながら考えていくべきではないかと考えております。

【道垣内主査】よろしゅうございますか。どうぞ。

【久保田委員】先ほどブロックチェーンでというお話が出て,とても興味を持ったんですけれども。絵画の場合には,一点物ですよね。一方,バーチャルの方ですが,ほかの著作物は複製物としてネットに流通するわけですが,そういう観点で,美術品の場合,ブロックチェーンの技術をどういうふうに効果的に使っているのか,説明していただければ幸いです。

【宮津様】非常に詳しい専門家ではないのですが,1つ,今言っているのは,著作権というか,著作権とそれに関わる,追及権も含めた,権利の管理に対してブロックチェーンの技術を使ったらいいのではないかと考えております。

なぜかというと,最後から2ページ目にありますけれども,今の管理の方法というのは中央集権型なのですが,ブロックチェーンというのは,参加している人たちの相互が管理する,されているという状態ですね。ですから,1つは,そういう参加者全員がウォッチしているという,そういう部分と,もう一つは,これは技術的なことで,なかなか説明するのは難しいのですけれども,記録されたものは不可逆的なんですね。だから,次々そこに記録が上積みされていくということで,様々な情報が時系列で加わっていきます。それらを消すことができないということで,先ほどの煩雑な整理,管理みたいなときに,記録がきちっと残るということです。更にもう一つは,どう使うかですけれども,AIみたいな力を使うことによって,コストがかかることを,確実性を高めながら最少コストで行う。いずれにしても,最後は全て人間がチェックするところは変わりませんけれども,そういうところに意味があるのではないかと思っております。

なので,将来的には,アートは,御存じのように,版画・写真を除いて,経済的に見ると一点ものの現物商品ですから,それを,例えば,最近よくあるような,分配してみんなで持ち合うファンドみたいなものに対して,使えるか使えないかというのは,OACでも議論はしています。それにはまだまだ時間がかかると思いますけれども,少なくとも今ある技術を使って,それほど難しくないというのは,権利の管理と,それがどういう人たちの手に移って,つまりトレーサビリティと,そこで幾ら,どこに支払われたかという記録をきちっとアーカイブしていくという意味で,この技術は有効なのではないかと考えております。

【道垣内主査】ありがとうございます。

それでは,5人の方,どうもありがとうございました。

全ての御説明を伺った上で,ここは国際小委員会であって,法制基本問題小委員会ではないので,直接的に日本でどうするかというよりは,とはいえ日本法との関係を踏まえた上でですが,国際的な対応,具体的には,WIPOでの議論への対応をどうしていくかというのが,ここで議論すべきことであろうと思います。

そういうことをどう考えるかにつき,資料7を御覧いただきますと,論点例が挙げられております。そこで,事務局からこの紙を説明していただいて,これに沿って少し議論を時間のある限りさせていただきたいと思います。

では,よろしくお願いします。

【中城著作権参与】皆様,お手元の資料7を御覧ください。追及権に係る論点例と記載された書類でございます。

こちら,あくまで論点の例示でございまして,これに限る趣旨ではないという前提で,御確認いただければと思います。

まず大きく1点目,追及権の必要性及び効果についてですけれども,ここに挙げられているようなことが,追及権のそもそもの目的となるのか,機能となるのか,効果があるのかということでございます。国際調和,芸術家へのインセンティブ付与,芸術家の保護,育成,他の著作物(音楽,小説等)との比較,追及権の恩恵を受ける芸術家の範囲,(必要性との関係で)追及権以外の他の保護・育成手段の可能性ということを挙げさせていただいております。

続きまして,日本の美術市場の規模,特殊性からみた追及権の影響等についてですけれども,美術市場の規模が比較的小さい日本における追及権導入による影響,費用対効果(美術品取引の捕捉,分配など制度運用のコスト等),日本特有の慣行(オークションでのカタログ掲載料の支払等)との関係。

それから,最後に,WIPOにおける我が国の対応の在り方について。WIPOの議論においてどのような調査・検討項目が必要かということで,これはタスクフォースにこういった事項を追加で調査してほしいということを提案することも可能です。そういった観点から御議論いただければと思います。

事務局からは,以上です。

【道垣内主査】ありがとうございました。

いかがでしょうか。できたら,順番に,追及権の必要性,効果について,賛否両論お聞きしたわけですけれども。どうぞ。

【井奈波委員】今の議論ですけれども,追及権については,導入の素地があるかどうかという問題と,制度設計をどうするのかという問題と,大きく分けて2つあると思います。まず対象になる取引に関して,オークションだけに限るのか,相対取引についても対象にするのかという問題と,分配に関して,集中管理を義務的にするのか,義務的ではなく個人が受け取るということも可能なのかどうかという制度の設計の仕方があると思います。

相対取引についてですが,調査していただきたいと事項として,例えばフランスでは,オークションに限らず,相対取引でも申告しなければいけないという法制度になっていますが,これが実際に履行されているのかどうか,相対取引がどの程度の透明性があり,実際にどのように捕捉されているかについて疑問に感じており,もし申告しなかった場合に何らかのペナルティがあるかも含めて,相対取引の透明性について調査していただければと考えております。

また,分配の問題ですが,美術家の方で集中管理団体に加入している人とそうでない人がいると思います。集中管理を検討するには組織率が重要になると思いますので,組織率も確認すべきと考えております。

集中管理団体を通して分配される場合,集中管理団体で手数料を受領しているはずですが,集中管理団体で手数料をどの程度受け取り,どの程度が実際に作家に渡っているのか,更に,集中管理団体がその事実をどの程度公表しているのか,集中管理団体の側の管理の透明性についても興味を持っております。

更に,特に集中管理団体に加入していない美術家について,分配されない追及権料が出てきてしまうのかどうか,分配されない追及権料があった場合に,宙に浮いた追及権料というのはどのように処理されるのかについても,お調べいただければと思います。

更に,オークション関係ですが,追及権が導入されている国でオークションが開催される場合,高額なオークションについて追及権料が発生すると思われますが,作家の国籍を問わず全部追及権料が徴収されているのか,あるいは,作家の国籍次第で追及権料が発生しない場合とそうでない場合があるのか,つまり,追及権料が国籍問わず発生して,分配されない場合があるのかどうかも疑問に思っております。それについても調査していただければと思います。

以上です。

【道垣内主査】今,たくさんの項目をおっしゃいましたが,その幾つかの点について,どなたか,それなら今説明できるという方がいらっしゃれば。どうぞ。

【小川様】例えば,取引がどういうものかというのは,大体今までの議論は,EUの追及権のディレクティブを基にお話が進められてきたんですけれども,基本的には全ての取引ということです。フランスの場合,オークションとそれ以外の取引も含まれています。EU指令が作られる以前に,フランスは追及権を最初に導入した国です。当初はオークションのみが対象とされていて,1957年法で,全ての取引が対象というふうに法制度が変わりました。

変わったんですけれど,実質的には,オークション以外は実際手が出せない,つまり,何をやっているか分からないから徴収できないということです。今,たくさんお話に出てきたような,「この国には取引の特殊性がある」と全ての国で言われてきたというような状態がありました。

フランスの場合,オークション以外のものがどうして追及権が払われるようになったかというと,美術品市場の団体と,(ADAGPの前の団体だと思うんですけれども)著作権管理団体との間で,取引が行われたらこういう徴収団体に連絡をするというようなことを両者の間で合意がなされて,それ以降は,フランスにおいては,取引において支払が行われているというようなことで聞いております。

ただ,実際に,先生がおっしゃったように,実態としては何%ぐらいで,どのくらい漏れがあるかというのは,聞いてみないと本当に分からないなということはあるかと思います。

それから,美術家が管理団体に入っていない方ももちろんいらっしゃると思うんですけど,フランスの場合は,自由にやっていいという任意徴収制度というのをとっておりますけど,イギリス等の場合は,最初に1か所,デフォルトの管理団体を決めて,とにかく当初の1~2年,3年そのくらいの間は,DACSと呼ばれるイギリスの管理団体に,とにかくそこに皆さん支払ってください,もし決めていなければ,そこですよというふうに,1つの団体に決めてしまって,その後,分配をしたということです。今,2つか3つの管理団体で管理されていると思うんですけれども,その後何年か経った後に,ほかにも管理団体をしたいという人が出てきたら,国で何らかの管理団体的なものを作るか,あるいは,どこかに決めて,そこで中心的にやるということで,ある程度は解消できる可能性はあるのかなと思います。

分配できない追及権料というのは,非常に私も興味ある点でございますので,是非,WIPOで聞いていただければと思います。

【道垣内主査】よろしゅうございますか。

管理団体の活動については,もし日本で追及権が導入されれば,それを担う団体ができ,できる限りの努力をされるのだろうと思いますが,既に導入されている国でどれくらいのパフォーマンスがあるのかということは,これがWIPOの調査にふさわしいかどうか分かりませんが,分からないので知りたいということはあるかもしれません。

そのほか,今の論点の中で,最初のところだけではなくても結構ですが,日本にとってどうなのかということも含めて,何かございますか。どうぞ。

【小島委員】このあたり,私が不勉強なので,教えていただきたいんですけれども。

今日の議論の前提として,対象になっている美術作品というのは,例えば,絵画とか彫刻という,私たちが何となくイメージしやすいものなんだろうと思うんですが,美術の作品ということでいきますと,応用美術も入ってくるのではないかと思われます。こうなってきますと,そもそもどういった応用美術について著作物性があるかということでもいろいろ議論があるところであり,「ニーチェア」の事件などを見ますと,ニューヨーク近大美術館(MoMA)に入っているのに著作物性なしというようなことが言われている作品まであります。応用美術みたいなものについても,当然,追及権の対象ということになってくるんだろうと思うんですけれども,このあたりについて,諸外国でどういう議論とか,あるいは,興味深い,そういった実例などがありましたら,教えていただけないかと思うのですが,何か御存じの方はいらっしゃいますでしょうか。

【道垣内主査】小島さんとしては,そういうものも入れるべきであるという御意見でしょうか。

【小島委員】すみません。そういうことが多分問題になるのではないかと。入れるべきかどうかというか,多分,フランスだと入っているんですけれども。

【道垣内主査】今のタスクフォースの調査項目にも,保護される作品の範囲というのがありますが,それは,ベルヌ条約を超えて広くするべきか,あるいは,ベルヌ条約の範囲内でいいのかとか,いろんな考え方はあると思いますけれども。別の条約を作ろうということですから,ベルヌ条約の規定に必ずしも拘束される必要はないと思います。お考えは。

【小島委員】私自身の考えというよりも,そのような問題が出てくるのではないかなと思いましたので,そのあたりについての問題点について,議論ないしは情報収集していただけないかなと思っているということです。もし御存じの方がいらっしゃったら,何か教えていただけるとうれしいなというのもありました。

すみません,ちょっと聞き方がまずくて申し訳ありませんでした。

【道垣内主査】もし分かればもう議論しなくてもいいという問題でも必ずしもないですよね。WIPOの条約を作るときにどうするのかという問題は依然として残るので,国によってどうかというだけではないと思いますけど。

上野委員。

【上野委員】今の点で,応用美術と追及権に関しては,原作品かどうかというのも関係してくるかとは思います。

論点例に関しまして1つコメントいたしますと,現状ない制度ですので,なぜ追及権制度を設ける必要があるのかという立法事実が大きな問題になるところだと思います。

必要性に関しては,今日もいろいろ議論がありまして,美術家のインセンティブになるのかとか,あるいは,「自信」とかモチベーションという話もございましたし,また,クリエーターの保護・育成,再分配という話もありました。ただ,確かに再分配とか保護・育成も大切なんですけれども,それは追及権とは別の手段でやるべきことではないかと思います。

私の理解では,もともと追及権というものの趣旨は,美術作品が有する経済的価値の適正な分配を確保するという点にあります。このことからいたしますと,必ずしも,ここに今挙げられているような観点ではないものも考慮すべきではないかと思います。

先ほど宮津先生から,作品を守った人,保管した人に分配するという観点の御指摘がありまして,これも大変興味深いものでありました。ただ,作品を適切に保管していた人に利益が分配されるべきだといたしましても,それは作品の譲渡のときに得られる利益で賄えるのかもしれません。これに対して,作品を作ったクリエーターにも適正な利益分配がされるべきだとすれば,現状はこれを実現する制度として十分ではなく,作品を守った人と作った人の両方に利益分配されるためには追及権が必要ではないか,という議論がされてきたものと理解しております。

やはり,美術と音楽とでは同じ著作物でも利用のされ方が違うのであって,そうである以上,著作権について同じ権利内容を設定するだけで本当に適切な保護が実現できるのか,という観点から,諸外国で追及権が設けられているものと思っております。そして,そのこと自体は,私も理由があると考えております。

ただ,今日もいろいろ御指摘があったように,今から追及権を設けるとなりますと,やはり社会や経済への影響など,弊害があるのではないのかという問題があり,これについては慎重に考える必要があるかと思っております。特にマーケット流出の懸念については,もちろん追及権に関する国際条約を作って,全ての国で導入されれば,そのような懸念はないんだと思いますけれども,そうでない限り慎重な検討が必要です。そして,たとえイギリスでは影響がなかったという調査があったとしても,それが直ちに日本に当てはまるのかどうかということも,なお気になるところです。したがって,もしWIPOのタスクフォースでそういったところまで議論していただき,国によってどういう影響が出たのかといったことも明らかになれば,より望ましいのではないかと考えております。

以上です。

【道垣内主査】最初の資料1の2ページ目に,現在のタスクフォースでの調査項目というのが挙がっているわけですが,市場に対する影響という項目は入っていないですかね。これの中には。もしそうであれば,イギリスではそう言われているかもしれないけど,本当にそうなのか,そこは調べるべきだという提案はできるかなと思います。

この項目を見ていただいて,付け加える点があれば,具体的に日本政府に対して,こういうふうにしたらどうかということをサジェストしていただくのがいいのではないかと思います。

どうぞ。

【奥邨委員】項目しかここに挙がっていませんし,不勉強なので,既に入っているのかもしれないんですけれども。今日の御意見をいろいろ伺っていますと,国際的に取引が行われると。それは,どういう状況を国際的と言うかとありますけれども,今回,特に実務についていろいろと調査を行うタスクフォースということですから,国際的な,いろんな方がいろんな形で関わっている場合に,どういう形で徴収手続が行われたり,それから,どこで徴収するとか,どの法律が適用されるとか,そういうのを実務としてはどういう形で整理されておられるのかというのは,詳しく分かった方が,将来,日本も関与するということになった場合には,役に立つのではないかなというような気がいたしました。

以上です。

【道垣内主査】そのほか,どうでしょう。

各国法の調査をして,WIPOとして,きちんと一覧表にしてくれという提案はあり得るかと思います。様々な論点について,その一覧表を見て考えようじゃないかというのはあり得るかもしれませんね。各国法の調査というのは入っていないので,実情をちゃんと,しかるべき項目を立てて,横並びに調べるべきではないかみたいな提案でしょうか。

どうぞ。

【辻田委員】

ただいまの主査の発言を受けてなんですけれども,我が国の今の補償金請求権なんかは,例えば,複製されることで損失が生じる可能性があるとか,そういったことを前提としているものが多いと思います。それに対しまして,追及権は,おおよそそういった著作物の利用行為とは関係がない,作品の譲渡益から経済的利益を得ようとするものであると思いますので,もし我が国に導入するとなると,大分議論をしなければいけないと思います。

そういった点から,現在導入している国が,追及権の条文を法文上のどこに位置付けているのかということに大変興味がありまして,そこを調査してもらいたいと思います。例えば,ドイツですと,法文上は,日本でいう支分権のところでもないし,「権利の制限」の部分でもなくて,「その他の権利」というところに規定しております。こういった点から,導入国が追及権を著作権法の中でどういうふうに位置付けているかというところを調べるべきである,こういうふうに思います。

【道垣内主査】はい。

よろしゅうございますか。今日は12時までの予定になっておりまして,本当はもう少し議論の時間を取れればよかったんですが,司会の不手際もありまして,そろそろ時間になりました。

この追及権については,今後もWIPOにおいて議論がされるでしょうし,日本国政府としては,今の議論も参考にしていただいて,しかるべき御対応をいただければと思います。

最後に,(2)その他の議題でございます。これにつきまして,事務局から御報告があるやに聞いておりますが,お願いいたします。

【浦田専門官】事務局より,TPP11協定の状況について,参考資料3に基づいて御報告させていただきます。

TPP11協定に関しましては,本年の通常国会におきましてTPP11整備法が成立したことから,お配りしております参考資料3の2枚目,3枚目に付けております,TPP12整備法において予定されていた著作権法の改正について,TPP11協定が日本国について効力を生ずる日から施行されるということとなってございました。

これに関しまして,TPP11協定につきましては,同協定の署名国のうち,少なくとも6か国が国内法上の手続を完了したことを寄託者に通報してから60日後に発効するというふうになっておりましたところ,本年10月31日に,6か国目となりますオーストラリアが国内手続の完了に関して通報を行いましたことから,TPP11協定につきましては,本年12月30日に発効することとなりました。これによりまして,お配りしております著作権法の改正につきましては,本年12月30日から施行されることとなってございます。

次に,日EU・EPAの協定につきまして,資料をお配りしておらず恐縮ですけれども,状況について御報告させていただきますが,日EUのEPA協定につきましても,本年の臨時国会で,協定の締結につきまして国会で承認を頂いたという状況にございます。EU側につきましては,明日,EUの理事会で決定が行われれば,国内手続の完了をする予定だとお伺いしておりまして,仮に本年12月中に国内手続の完了について相互に通告を行った場合には,来年の2月1日に発効するという予定となっております。

最後に,こちらも資料がなくて恐縮ですけれども,マラケシュ条約に関しましては,本年10月1日に,WIPOの事務局長に対して我が国は加入書を寄託いたしましたので,これによりまして,本条約は来年の1月1日より我が国において効力を生ずることとなってございます。

事務局から報告は,以上です。

【道垣内主査】マラケシュ条約という内容を少し,幾つかマラケシュでも条約が作られているのではないかと。

【浦田専門官】視覚障害者等による著作物の利用機会の促進に関するマラケシュ条約ということで,前回の国際小委で資料をお配りさせていただきましたが,主な内容として…。

【道垣内主査】いやいや,結構です。ありがとうございました。愛称だけが分からなかったので。

【浦田専門官】失礼いたしました。

【道垣内主査】どうもありがとうございました。

では,時間になりましたので,本日の国際小委員会は,これで終了とさせていただきます。どうもありがとうございました。

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