文化審議会著作権分科会国際小委員会(第1回)

日時:
令和元年8月27日(火)
13:00~15:00
場所:
霞山会館(牡丹の間)

議事次第

  1. 開会
  2. 議事
    1. (1)主査の選任等について
    2. (2)国際小委員会審議予定について
    3. (3)WIPO(世界知的所有権機関)における最近の動向について
    4. (4)ワーキングチームの設置について
    5. (5)米国における著作権法改正について
    6. (6)文化庁の海外における著作権保護の推進について
    7. (7)その他
  3. 閉会

配布資料一覧

資料1
第19期文化審議会著作権分科会国際小委員会委員名簿(59.4KB)
資料2-1
小委員会の設置について(令和元年7月5日文化審議会著作権分科会決定)(61.5KB)
資料2-2
第19期文化審議会著作権分科会における検討課題について(令和元年7月5日文化審議会著作権分科会決定)(68.2KB)
資料3-1
WIPO(世界知的所有権機関)における最近の動向について(95.6KB)
資料3-2
放送機関の保護に関する条約案の概念図(101.4KB)
資料4-1
放送条約に関する対応の在り方の検討について(70.4KB)
資料4-2
ワーキングチームの設置について(案)(47KB)
資料5-1
最近の諸外国の制度改正の分析について(84.2KB)
資料5-2
東洋大学安藤先生説明資料(1)(703.7KB)
東洋大学安藤先生説明資料(2)(223.5KB)
東洋大学安藤先生説明資料(3)(381.9KB)
資料5-3
一般社団法人日本音楽著作権協会説明資料(303.3KB)
資料6
文化庁の海外における著作権保護の推進について(453.8KB)
参考資料1
文化審議会関係法令等(150.8KB)
参考資料2
第19期文化審議会著作権分科会委員名簿(112.6KB)
参考資料3
平成30年度国際小委員会の審議の経過等について(257.2KB)
参考資料4
放送機関の保護に関する条約 最新統合テキスト案(136.3KB)
参考資料5
第38回著作権等常設委員会(SCCR)議長サマリー(134.8KB)
参考資料6
デジタル環境に関連する著作権の分析 SCCR作業文書(SCCR/31/4,SCCR/37/4)(171.3KB)

文化審議会著作権分科会 国際小委員会(第1回)

令和元年8月27日

○今期の文化審議会著作権分科会国際小委員会委員を事務局より紹介した。
○本小委員会の主査の選任が行われ,道垣内委員が主査に決定した。
○主査代理について,道垣内主査より鈴木委員が主査代理に指名された。
○会議の公開について運営規則等の確認が行われた。

※以上については,「文化審議会著作権分科会の議事の公開について」(令和元年七月五日文化審議会著作権分科会決定)1.(1)の規定に基づき,議事の内容を非公開とする。

(傍聴者入場)

【道垣内主査】  今期の主査として選任されました道垣内でございます。よろしくお願いいたします。主査代理は鈴木委員にお願いいたしましたので,これも御報告申し上げます。安藤先生におかれましては,本日お話しいただくにもかかわらず,お待たせいたしまして申し訳ございませんでした。
 では,まずは今里次長にいらっしゃっていただいておりますので,今期最初の小委員会の開催に当たりまして,御挨拶を頂きたいと存じます。よろしくお願いいたします。

【今里次長】  本年度第1回国際小委員会の開催に当たりまして,一言御挨拶を申し上げます。
 皆様方におかれましては御多用の中,本委員会の委員をお引き受けいただき,誠にありがとうございます。
 最新の国際的な著作権制度の動きといたしましては,我が国においては,マラケシュ条約の締結,TPP11協定や日EU・EPAの発効など,著作権制度の国際調和に向けた動きがございました。また,欧米では,EUでのデジタル単一市場における著作権指令や米国における音楽近代化法のように,デジタル化に対応した著作権法改正の動きがございました。このような動きの中,デジタル化,ネットワーク化がますます高度化する時代におきまして,国際的な著作権関連の取組を推進していくためには,海外における著作権制度に関する動向の把握・分析や国際的な連携協調が必要となっているところでございます。
 また,国際調和の観点からも今後も国際的ルール作りへの更なる積極的な参画や,深刻化する海賊版被害に対応するために,海外における海賊版対策が必要となっております。
 国際的ルール作りへの参加の観点では,WIPOにおいて,放送機関の権利保護に関する放送条約のほか,デジタル環境における著作権の分析等の議論が行われているところです。我が国としてもこれらの議論に積極的に参加していきたいと考えております。
 また,海賊版の影響は社会的な問題として,近時クローズアップされているところでございます。通信技術の発展と,それに伴うサービスの多様化によりまして,海賊版の影響は更に深刻さを増していると言えます。「漫画村」に代表される,特に悪質なウェブサイトの多くは,日本人を対象としたものですが,運営者,あるいはホスティングサーバーやドメイン取得地は海外に所在するなど,日本国内での取組だけでは対応が困難なケースが多くございます。このため,更なる国際連携協調の他,海外で有効であった権利行使事例の紹介や,諸外国の制度の研究,ステークホルダーによる話合いを促進することなどを通じて,著作権保護の強化に貢献してまいりたいと考えております。
 以上の取組を進めていくに当たりまして,専門家,実務家の皆様からの御意見を頂戴することは大変有用であるというのは申すまでもございません。本委員会におきましては,こうした国際的な議論への対応の在り方や,海賊版対策の在り方などについて,忌憚(きたん)のない御意見を頂きたいと考えております。
 委員の皆様方にはお忙しい中大変恐縮ではございますが,一層の御協力をお願いいたしまして,私の挨拶とさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。

【道垣内主査】  どうもありがとうございました。
 では,議事の2番目,国際小委員会の審議予定の確認に移ります。これについて,まずは事務局から資料に基づいて御説明いただけますか。

【早川国際著作権専門官】  それでは,資料2-1と資料2-2を使って説明させていただきます。
 まず資料2-1を御覧ください。こちらの資料は小委員会の設置についての資料となっており分科会で決定いただいたものとなります。その1の(3)で,国際小委員会を設置するということが決定されております。また,審議事項として,2の(3)国際小委員会につきましては,国際的ルール作り及び国境を越えた海賊行為への対応の在り方に関することが審議事項となっております。
 続きまして,資料2-2を御覧ください。資料2-2の審議事項の丸3でございますが,こちらに具体的な検討課題の例が2つ挙げられております。1点目といたしましては,著作権保護に向けた国際的な対応の在り方について。2点目といたしましては,国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方についてとなっております。また,1点目につきましては,主にWIPOの議論といたしまして,放送機関の保護のための条約に関する対応の在り方についての検討があり,また最近では,米国やEUにおいて著作権法改正が行われておりますが,そのような最近の諸外国の制度改正の分析などを行っていきます。また,2点目ですけれども,国境を越えた海賊行為に対する対応の在り方につきましては,権利行使に関わる課題の分析及びノウハウの整理を行いたいと考えております。以上です。

【道垣内主査】  ありがとうございました。資料2-2には「等」という字もございますので,これ以外何かこういうことも審議したらいいのではないかということがございましたらどうぞお願いします。よろしいですか。このようなミッションを与えられてこの小委員会は設置されておりますので,原則としてこれらについて審議を進めていくことにさせていただきたいと存じます。
 では,3番目,WIPOにおける最近の動向につきまして,まずは事務局から御説明いただけますか。また,ワーキングチームの設置についてもお諮りしたいと思いますので,それについても御説明いただけますか。よろしくお願いします。

【早川国際著作権専門官】  それでは,まず,WIPOにおける最近の動向について,資料3-1と3-2を使って説明させていただきます。
 今回の報告につきましては,4月1日から4月5日において開催されました第38回の著作権等常設委員会(SCCR)の結果の概要の報告となります。2ポツの概要ですけれども,今次会合におきましても,放送条約と,権利の制限と例外,その他の議題についてSCCRで議論が行われております。続きまして3ポツの各論ですけれども,放送条約につきまして,経緯等については前回から申し上げておるところでございますが,1998年以降,議題化されており,これまで議論が続いているという状況です。イの議論の概要ですけれども,放送条約に関する議論につきまして,テキスト案に基づいた逐条での詳細な議論はインフォーマル形式にて行われており,各国からの議論の結果,修正提案が反映された統合テキスト案,こちらが参考資料4として付けておりますけれども,それが議長によって取りまとめられております。今次会合の結果ですけれども,選択肢やブラケットに囲まれている部分がいまだ残っておりますが,論点につきましては,後に述べさせていただきます2点に絞られてきております。また,WIPOの総会に向けまして,勧告がなされておりまして,その内容といたしましては,主要な部分に関して合意が得られることを条件として,2020年又は2021年の外交会議開催に向けて議論を行うという内容になっております。
 引き続きまして,テキスト案に関する主な議論の内容が以下のとおりとなっております。
 まず,1点目ですけれども,インターネット上の送信の保護についてということで,資料3-2も併せて説明させていただきたいと思いますけれども,議論として,保護の対象をどこまで広げるかということが論点となっております。伝統的な放送機関が行う,伝統的な放送については保護の対象として議論はないんですけれども,それに加えて,放送機関が行うインターネット上の送信をどこまで保護するかというところで議論がなされております。現時点におきまして,参考資料3-2の(2)の丸1と丸2のサイマルキャスティングとニアサイマルキャスティングにつきましては,コンセンサスが得られているという状況ですけれども,現在議論されているのは,それに加えて異時送信,例えば見逃し配信等を含むものとして,放送と違った時間にインターネット送信するという送信につきまして議論がなされているところでございます。
 資料3-1に戻っていただきまして,見逃し配信について,保護の対象として加えるべきであるという国が幾つかありまして,そのような国から見逃し配信の定義について,新たな提案がなされましたが,議論の結果としては,見逃し配信を含めまして異時送信を保護範囲に含めるということについては,まだ合意は得られておらず,異時送信の保護につきましては,次回の会合において引き続き議論をすることとなっております。
 続きまして,資料3-1の2ページ目ですけれども,もう1点の論点といたしまして,与えられる権利についての議論となっております。これは,資料3-2で申し上げますと,一番右の与えられる権利,放送機関にどういう権利を与えるかというところが議論になっております。現在は主に再送信権についてどうするかというところが議論になっております。前回の国際小委員会でも御紹介させていただきましたけれども,米国から提案が出されております。これは,与えられる権利について,放送機関に排他権の付与ではないアプローチを認めた柔軟性のある提案になっております。この提案につきまして,前回の国際小委でも御議論いただいたところでございますけれども,米国の提案につきまして,インターネットによるアップロードも含まれるのかという懸念があるという意見を頂きまして,その点につきまして,我が国から米国に伝えたところです。我が国の懸念に対して,米国からは,前回の提案からの追加として,インターネットにより海賊行為に対応するためということで合意声明の提案が新たに出されたところでございます。
 米国提案も含めて議論がなされましたが,与えられる権利の議論についても,いまだ合意は得られず,主な意見の対立といたしましては,放送機関に与えられる権利を排他権のような明確な形で記載すべきという意見と,米国提案のように放送信号の盗取に関して,必ずしも排他的な権利を付与するというアプローチではなく,放送機関に対して,適切な保護が与えられればいいという柔軟性を求めるという意見の間で合意を得ることができず,両者を議長テキストに反映した上で,次回において引き続き議論することとなっております。
 以上が放送条約についての議論です。 次は権利の制限と例外です。現在のところ図書館とアーカイブ,教育と研究機関等のための制限例外というのが議論の対象となっております。この議題につきましては,法的な拘束力とするのは不要であり,むしろ経験の共有を中心に行うべきであるとする先進国と,新たな国際的枠組みの必要性を主張する途上国の間で意見が対立する構造が続いております。
 今回の議論ですけれども,現時点におきましては,具体的な議論はなされておらず,アクションプランに基づいて,主な研究結果が報告されているという状況で,次回以降も引き続きこのアクションプランに基づいた研究報告等がなされることになっております。
 続いて,その他の議題ですけれども,これが3つございまして,デジタル環境に関連する著作権の分析と追及権と舞台演出家の保護となっております。
 デジタル環境に関連する著作権の分析ということで,事務局からは,このデジタル音楽サービスを対象として,現状の権利関係等につきまして調査を行うことが決まっておりまして,次回以降,随時報告されることになっております。 追及権ですけれども,昨年度,国際小委で御議論いただいたところでございますけれども,事実調査を行うタスクフォースを事務局が作って,そのタスクフォースで調査を行うことが決まっております。タスクフォースの調査結果につきましては,次回の会合で報告されることとなっております。また,昨年度国際小委員会で委員の皆様に頂きました議論を踏まえて,タスクフォースの調査項目について,我が国から提案を行っております。具体的には,我が国からは,追及権の対象となる取引や捕捉の問題,分配の透明性の確保や権利者不明時の問題,国際的な取引においてどこの国の法律が適用されるか等についてもタスクフォースにおいて調査すべきであるという提案を行っております。
 続きまして,舞台演出家の保護ですけれども,こちらも主に調査になっておりまして,事務局から舞台演出家の保護の状況についてどうなっているかという調査を行って,次回に報告されることとなっております。
 今後につきましては,10月21日から25日に第39回SCCRが開催される予定となっております。
 引き続きまして,議題の4のワーキングチームの設置について関連しまして,資料4-1と4-2を使って説明させていただきたいと思います。
 資料4-1ですけれども,今後の放送条約の対応の在り方の検討につきまして,ワーキングチームを設置することを考えております。その説明資料となっております。
 まず,1ポツのWIPOにおける議論の状況についてですけれども,これは先ほど説明したとおりで,1ポツの2つ,2ポツの2丸目です。最近数回のSCCRでは,条約策定に反対する国も特段なく,またアメリカが新たな提案を行うなど,各国総じて前向きに議論が続けられているという状況です。また,前回,第38回SCCRでは,2020年,2021年の外交会議に向けて議論を行うという勧告も合意されておりますので,主要な部分に関して合意を得られるという条件は付いていますけれども,一応外交会議に向けてという勧告が合意されております。
 主要な部分に関連する残された論点といたしましては,先ほど申し上げた「異時送信」を保護対象とするかという点と,保護の在り方について排他的な権利を与えるか,あるいは適切な保護とするか,柔軟性を認めるかと,この2点に絞られてきております。この論点について合意が得られるようであれば,早期に外国会議が開催されることも考えられる状況です。
 従いまして,2ポツの今期の検討についてですけれども,これらの論点,上記1,2に関して,国内法の制度を見据えた対応の在り方の検討や,実際の侵害実態を踏まえて放送機関にどのような保護が必要となるかについての検討が必要となります。それに際しては,放送に関する制度や実態等の専門的な知識を踏まえて,集中的な議論を行う必要があるのではないかと考えております。
 また,放送条約の議論ですけれども,SCCRの検討の他にも,今後は中間会合の開催や,バイでの会合,あるいは少数国間で開く非公式な会合が開催されることも考えられ,これらの国から非公式な提案がなされる可能性もございます。これらの議論に関しまして,機動的に対応を検討する必要があるのではないかと考えております。
 これらを踏まえまして,今期の国際小委員会における放送条約への対応の在り方につきましては,国際小委員会における検討に加えまして,集中的かつ機動的な検討を行うワーキングチームを国際小委員会のもとに設置して,検討を進めることとしてはどうかという提案をさせていただいております。
 続きまして,資料4-2ですけれども,こちらがワーキングチーム設置についての案となっております。
 ワーキングチームの構成といたしまして,名称は「放送条約の検討に関するワーキングチーム」といたしまして,検討課題については,放送条約への対応についての検討となります。構成につきましては,座長を置きまして,国際小委の委員のうちから,主査が指名することとし,ワーキングチーム員は,委員のうちから主査が指名した者,その他の者であって,主査と協議の上,文化庁が協力を依頼した者で構成されるとしております。
 議事の公開につきましては,先ほど御説明させていただきました「文化審議会著作権分科会の議事の公開について」に準じて行うものとするとしております。
 このようなワーキングチームの設置の可否について,御審議いただければと考えております。以上です。

【道垣内主査】  ありがとうございました。議事の3と4をまとめて御説明いただきました。まずは3につきまして,WIPOでの議論状況について何か御意見,御質問,その他ございますか。放送条約だけではなくて,権利の制限と例外とか,デジタル環境に関連する新たな問題とか,追及権,舞台演出家の保護なども,新しい可能性があるテーマとしてWIPOで取り上げられているわけでございますけれども,日本から見て,これらについてどうなのかということでも結構です。あるいは,それ以外にもこういう問題を取り上げてはどうかという,御意見等ございますか。小島委員どうぞ。

【小島委員】  ありがとうございます。以前に『ジュリスト』に放送条約のことを依頼されて書いたことがあるんですけれども,そのとき,以前の国際小委員会の資料を見ていましたら,この異時送信のところで,放送番組の異時のウェブキャスティングと,放送番組のオンデマンド送信と2つに分けてあったような気がしています。現在のこの異時送信という,今日の資料の3-2ですけれども,見逃し配信等と書いてありますので,ここでは放送番組のオンデマンド送信等も含んだものとして整理されているのかと思っていまして,この辺り,WIPOのSCCRでどういう議論になっているのかということも含めて確認させていただければと思いました。よろしくお願いします。

【早川国際著作権専門官】  今の異時送信の議題につきましては,オンデマンドか,オンデマンドでないかという議論は,それほどなされておらず,基本的にオンデマンドを前提として議論は進んでいる感じでございます。特に見逃し配信を含めたいという国にとってはもちろんオンデマンドを前提としておりますし,テキストの条文案につきましても,オンデマンドを含める形での条文案となっておりますので,オンデマンドが含まれるという認識だと思います。

【道垣内主査】  他に何かございますか。今村委員どうぞ。

【今村委員】  後でもよかったかもしれないですけれども,デジタル環境に関連する著作権の分析ということで,事務局から音楽のサービスを対象に調査・研究を今後進めていくということでした。本当にこの分野が一番デジタル環境にとって重要な部分ですし,いろいろな問題をはらんでいると思うので,ここを中心に調査・研究が進んでいくことがまず重要だと思うんです。
 SCCRの2015年の提案では,いろいろなデジタル環境に関する,デジタル消尽がどうだとか,グローバルな契約がどうだというような提案が出てきて,結構取っ散らかっていた部分があると思うんですけれども,まずはこういった音楽著作権の分野でのサービスを対象に進めていくということで一定の整理がなされたと思うんです。ただ,クリエイターに適切な利益が還元されているかどうかという問題がこの2015年の提案のきっかけになっていると思うんですが,音楽の分野だけではなくて,他のデジタル環境下で権利者と利用者とそれからクリエイターとの間で,特にデジタルプラットフォーム間の関係で低い報酬の問題が音楽の分野以外にもあると思います。2015年の提案でも音楽以外の分野ではもっとひどいということが書かれていた部分でもありましたので,将来的には音楽以外の分野のことも検討するということを踏まえながら議論を進めていったらいいのではないかと思いました。

【道垣内主査】  ありがとうございます。よろしいですか。今日は,そのデジタル環境下での音楽の話を後から伺うことになっております。
 では,議題の4番目,放送条約への対応です。これは1998年から20年以上を経過しているので,その間の技術の進展は相当なものがあるんじゃないかと思われますけれども,とにかくそれが成果に向けて動くかもしれないということです。そこで,日本としての対応の在り方を検討するため,ワーキングチームを作ってはどうかということでございます。これにつきまして何か御意見ございますか。よろしいですか。 (「異議なし」の声あり)

【道垣内主査】  では,ワーキングチームを作って,そこで審議をしていただき,またこちらに戻していただくことになろうかと思います。その段階でこの小委員会では御議論いただければと思います。
 委員の指名の仕方とかはここに書いてございます。これについては,後日,事務局を介して,皆さん方に御報告させていただきたいと存じます。
 引き続きまして,議事の5番目,アメリカにおける著作権法改正でございます。まずは事務局から,WIPOにおける議論状況を御紹介いただきまして,その上で専門家の方々の御意見,御説明を伺い,その後に小委員会としての議論をしていただくということにしたいと存じます。
 本日は,有識者の方といたしまして,東洋大学の安藤和宏教授に来ていただいております。また,国内の事業関係の関係者として,JASRACの齊藤委員にも引き続きまして御発表いただきたいと存じます。時間の関係上,御発表の時間は,安藤教授は20分,齊藤委員は10分でお願いできればと存じます。なお,傍聴の方におかれましては,パワーポイントの映像につきましては,写真撮影等はお控えいただきたいと存じます。ではまず,事務局から状況説明をお願いいたします。

【早川国際著作権専門官】  それでは事務局から説明させていただきます。
 資料5-1を御覧ください。最近の諸外国の制度改正の分析についてとなっておりますが,先ほど資料2-2にありましたとおり,今期の国際小委で審議いただく検討課題といたしまして,最近の諸外国の制度改正の分析についてというのがありました。この課題につきまして,資料5-1を用いて,簡単に説明させていただきたいと思います。
 まず,ごく簡単に説明いたしますと,WIPOにおいて先ほど紹介いたしましたデジタル環境に関連した著作権制度の分析という議題がございます。一方で,欧米,アメリカとEUで,デジタル化に対応する著作権法の改正が行われております。この改正の状況や背景などを含めた分析を行いまして,先ほど申し上げたWIPO等の国際的な議論の対応についての御意見を頂きたいというのが趣旨でございます。
 まず,1ポツのWIPOにおける議論の状況について説明させていただきます。
 2015年,南米諸国からデジタル環境に関連した著作権の分析ということを新たな議題としたいという提案がされております。この内容につきまして,参考資料の6にも付けておりますが,南米諸国からは,SCCRにおいて以下のことを議論することが提案されております。1番目としてデジタルサービスにおいて著作物を保護するための法的枠組みについての分析,2番目といたしまして,デジタル環境において著作物を利用する民間企業の役割や方法について,ビジネスの透明性や多数の著作権者,著作隣接権者への対価の支払の割合に関する検証を含めた分析及び議論となっております。
 本提案に対して,議論をすること自体,特段の反対意見は出されておりませんが,一部の国からは,提案が多岐にわたっており,議論をする焦点を絞る必要があるという意見や,契約の自由の確保は重要であるといった意見が出されております。その後,2018年第36回のSCCRにおきまして,ブラジルより,まずは音楽分野に絞って調査を行うべきとの提案が出されておりまして,事務局が調査を行うこととなっております。
 調査内容につきましては,(2)のイに記載しており,こちらも参考資料6に付けておりますけれども,デジタル音楽市場及びビジネスモデルの概要や権利関係やライセンスの運用,収益の分配等についての現状の調査を行うこととなっております。
 WIPOにおける今後の予定ですけれども,今のところその他の議題となっておりまして,最終的にどのような成果を目標とするのかということはいまだ決められておらず,まずは現状把握を目的とした調査が事務局より行われるということが決定している状況です。調査結果につきましては,恐らく次回以降のSCCRにおいて報告される予定となっています。
 続きまして,2ポツの米国,EUにおける著作権法改正についてですけれども,デジタル環境に対応する著作権法改正が昨年と今年にかけましてEUとアメリカで行われており,我が国がWIPO等によってデジタル環境に対応した著作権の議論への対応を考慮する上では,そういったEUやアメリカで行われた改正の背景や内容や議論過程等の情報把握,分析を行うことは有用であると考えられます。
 アメリカにつきましては,後ほど安藤先生から御発表ありますが,音楽近代化法と呼ばれる著作権法改正が昨年10月に行われておりまして,主な内容といたしましては,デジタル音楽配信における録音権の包括的な強制許諾制度の導入があります。また,EUでも,デジタル単一市場における著作権に関するEU指令が採択されておりまして,主な内容といたしまして,報道出版物の発行者に対してオンライン配信される場合の複製権及び利用可能化権の付与や,オンラインコンテンツ共有型サービス事業者に対する責任の強化などとなっております。
 3ポツの国際小委員会における今後の議論予定ですけれども,今期の国際小委員会は,米国とEUにおける法改正の動向について,その背景,内容,議論過程等を取り上げたいと考えております。また,これらを踏まえまして,WIPOでの議論など国際的な対応に向けて,国際小委での議論をしていただきたいと考えており,その視点といたしましては,例えば以下のようなものを考えております。
 1つ目としましては,先ほど申し上げたとおりWIPOでデジタル音楽に関する調査が行われる予定となっておりますので,そこで調査すべき項目等について。2点目といたしましては,デジタル環境に関連した著作権制度について,今後WIPO等国際的な場において議論が行われることになりますので,国際的な場において議論すべき課題等についてということがあると思います。
 先ほど申し上げましたけれども,WIPOでは,具体的にどのような課題を設定して,どういう方向性で議論するかというのはまだ定まっていない状況ではありますけれども,我が国から,例えば積極的に提案すべき課題などありましたら,幅広く御意見を頂ければと考えております。以上です。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
 では,アメリカのことを中心に,まずは安藤教授から御発表をお願いできますか。よろしくお願いいたします。

【安藤先生】  ただ今御紹介にあずかりました東洋大学の安藤と申します。よろしくお願いします。20分という短い時間ですので,かなりスピードアップして,端折(はしょ)らせていただくところもありますが,なるべく分かりやすく今回のMusic Modernization Act,音楽近代化法についてお話をさせていただきたいと思います。
 資料が3つあります。今日は資料5-2-1のパワーポイントを使ってお話をします。他に5-2-2と5-2-3という資料があります。これは皆さん適宜持ち帰って,御参照いただきたいと思います。5-2-2は,今日の報告のサマライズですね,要約版になります。5-2-3が,今回の法改正の詳細な解説になります。かなり長く作りましたが,1か所誤植があります。6ページの脚注7の条文番号が抜けてしまっています。正しくは,U.S.C.115(a)(2)です。115が抜けていますので,後で皆さん,追加していただきたいと思います。
 早速解説に入りたいと思います。今回の法改正は,3つの法案から成り立っています。詳細なレジメの方には全部を網羅していますが,今日の報告はその3つの法案のうちの1つ,Music Modernization Actを中心に取り上げます。この他にCLASSICS ActとAMP Actという内容が異なる法案があります。これらは今日は省略させていただきます。御興味ある方は,資料5-2-3に詳細な解説を記載しましたので,適宜それを参照していただきたいと思います。
 では,まず,アメリカの音楽市場の現状のお話をさせていただきます。全米レコード協会が発行している年次報告書を見ると明らかなように,アメリカの音楽市場は最近右肩上がりになっています。左は卸価格ベース,右は小売価格ベースです。年々アメリカの音楽市場は好景気で右肩上がりになっています。
 何で好景気になっているのか,売上げが増加している要因ですが,明らかにストリーミング配信が音楽市場を牽引(けんいん)していることがこの図でよく分かります。有料のサブスクリプションサービス,聴き放題サービスの加入者数の推移を見ると2018年度はすでに5000万人を超えています。アメリカの人口は3億ちょっとだと思いますので,多くの国民に聴きたい放題サービスが浸透していることになります。ただ,これはアメリカだけの現象ではなくて,世界的な現象です。私もアメリカに3年住んでいましたが,土地が広大で,CDを買うよりも音楽配信で聴いた方がよっぽど早い。そういうこともあって,この音楽配信,特にサブスクリプションサービスが音楽ビジネスの好景気の要因になっています。
 右の円グラフを見ていただきましょう。これは音楽の販売形態別のシェアの内訳です。音楽配信,特にストリーミング配信は75%のシェアを占めている。つまり,音楽売上げの75%はストリーミング配信です。一方,レコード,CDあるいはダウンロードはどうかというと,これはもう駄目です。CDはもう全然売れていないです。Physicalと書いてあるのが,CD,LP,テープ,あるいはDVDの売上げシェアですが,12%です。音楽配信はダウンロードから始まったのですが,これも11%です。この傾向は各国でも同じです。日本も同じです。なので,今後は更にストリーミング配信,特にサブスクリプション型のインタラクティブ配信が市場を引っ張っていくでしょう。これは明らかな傾向です。
 今日は専門用語がたくさん出てきますので,ここで用語の整理をしておきたいと思います。
 まず,音楽配信と一言で言っても,配信の形態はいろいろあって,大きく分けると3つあります。先ほどダウンロードと言いましたが,ダウンロード配信というのは音楽をダウンロードして,自分のパソコンや携帯電話を使って後で聴くという形態ですね。CDを買うのと似ています。ダウンロード配信のサービスとしては,iTunesが有名です。日本ではmoraとかも入っています。次にインタラクティブ型ストリーミング配信というサービス形態があります。これは,ここに書いてあるとおり,ダウンロードせずにユーザーが音楽データを受信しながら音楽を再生する方式です。特徴としては,自分が聴きたい曲を選択できるというサービスです。これが今一番流行(はや)っています。サービスとしては,Spotify,Apple Music,Tidal,DEEZERなどがあります。最後は非インタラクティブ型ストリーミング配信です。これは,ストリーミング配信の一種ですが,インタラクティブ配信と違うのは,自分で選曲ができない。つまり,ラジオみたいなもので,自分で聞きたい曲を選ぶことはできません。ただ,たくさんのチャンネルから自分で選んで聴くことができます。例えば,1970年代にヒットした曲だけのチャンネルを聴きたい,あるいはビートルズの曲ばかりやっているチャンネルを聴きたい,そういうサービスですね。アメリカではPandora Radioというサービスがとても流行(はや)っています。あるいはSirius XMとかNPR,こういうサービスがあるということです。これは念頭に置いていただきたいと思います。
 これが今のアメリカの状況です。今度は著作権に目を向けてみましょう,アメリカの著作権はどうなっているかというと,音楽に係る著作権は2つあります。1つは音楽作品の著作権です。これは,作詞家や作曲家が音楽を作ることで著作権が発生する。これは日本もアメリカも他の国でも同じです。
 もう1つ重要な権利があります。それはサウンドレコーディングの著作権といって,音の著作権になります。今日自宅からカーペンターズのベスト盤を持ってきました。例えば,カーペンターズの「涙の乗車券」,原題は“Ticket to Ride”という有名な曲がありますが,オリジナルはビートルズですよね。ポール・マッカトニーとジョン・レノンが作った曲です。これをカーペンターズがカバーして,デビュー曲にした。ビートルズの曲ですが,サウンドレコーディングはビートルズではない。カーペンターズのサウンドレコーディングの権利は,別にレコード会社が持っているということですね。つまり,レコーディングをして,音を作ると,そこに別の権利が生まれます。日本の音楽業界では,「原盤権」と言われているものです。ただアメリカには著作隣接権制度がありませんので,サウンドレコーディングを著作権で保護しています。そこに大きな特徴があります。なので,音楽ビジネスには必ずこの2つの権利が関わります。一つは曲の著作権,もう一つは音の著作権。他人の音源を利用する場合,基本的にはこの両方の許諾を得なければなりません。一方,実演家の権利はどうなっているのでしょうか。実演家の権利は,一般的にはレコーディングのときに権利処理されてしまうので,ここでは余り深く考えなくてもよいことになります。つまり,音楽配信事業者は音楽配信ビジネスをやるときは,曲の権利と音の権利の両方を権利処理しないとビジネスができないということになります。
 一般的に,ソングライターが著作権を取得すると音楽出版社に権利を譲渡します。これは日本も同じです。私は昔,ユニバーサルミュージックという音楽出版社に勤めていました。ユニバーサルミュージックはボン・ジョヴィやU2といった著名なソングライターから著作権を譲り受けます。音楽出版社は曲のプロモーションと著作権の管理をします。その対価として印税を折半します。ソングライターが50%,音楽出版社が50%です。これが音楽出版ビジネスでといわれているもの,各国で行われています。
 つまり,ソングライターが曲を創作して著作権を取得すると,そのほとんどが音楽出版社に譲渡されます。では,音楽出版社は譲り受けた著作権をどのように管理するのでしょうか。アメリカでは,アメリカ著作権法106条に基づき,ソングライターには複製権,翻案権,頒布権,公の実演権,公の展示権という5つの排他的独占権が付与されます。しかし,音楽出版社はこれを4つの権利に分けて管理します。ここが面白いところですね。つまり,公の実演権や公の展示権,複製権というような管理の仕方をしません。アメリカでは,録音権,演奏権,シンクロ権,出版権という4つの権利に分けて管理をします。
 録音権は何かというと,これはその名のとおり,CD,テープ,LPといった録音物に楽曲を録音するときに働く権利になります。英語では,Mechanical Rightsというので御注意ください。演奏権は,楽曲を演奏するときに働く権利です。英語ではPerforming Rightsといいます。シンクロ権というのは特殊な権利で,映像に音楽をつけるときに働く権利です。英語ではSynchronization Rightsといいます。録音権と違うのは,録音権は録音物に録音するときに働く権利,シンクロは映像と音楽が同期するときに働く権利なので,別の権利になっています。もとはどちらも複製権です。ドラマや映画,CMといった映像と音楽を同期させるときに働く権利です。 なぜ録音権と分けているかというと,シンクロ権はとても重要な権利であると外国では位置付けられているからです。一度,映像と音がシンクロすると,なかなか離れなくなるので,独立した権利として管理します。したがって,基本的には音楽出版社がシンクロ権を自己管理します。最後に出版権です。もともと音楽出版社というのは楽譜を出版するビジネスからスタートしています。したがって,当然大事な権利なので,これも自己管理をしています。アメリカでは,楽曲の著作権はこの4つの権利に分けて管理されていることを理解することが重要です。
 楽曲の著作権は,音楽出版社が管理事業者に管理を委託することが多いので,これを見ていきたいと思います。
 ソングライターから音楽出版社に著作権が譲渡されますが,その後,録音権をHarry Fox Agencyという録音権管理団体に管理委託をする音楽出版社があります。なぜかというと,管理が面倒だからです。ただ,音楽出版社が録音権を自己管理してきたという歴史があるので,自己管理する音楽出版社も少なくありません。つまり,録音権の管理者が多岐にわたっているということです。ここが今回の法改正の理由の一つになります。
 演奏権に関しては,放送,カラオケ,カフェ,レストラン,バー,ライブハウス,コンサートと,各地にとても多くのユーザーがいるので,音楽出版社は基本的には自己管理しません。実質的に不可能です。したがって,ほとんどの音楽出版社は,ASCAP,BMI,SESAC,GMRといった音楽著作権管理団体に管理委託をするのが一般的です。
 シンクロ権と出版権は,先ほど言ったように,音楽出版社にとって大変重要な権利なので,管理委託しません。ユーザーの数が余り多くないということもあります。映像に音楽を同期して利用したいユーザーは,テレビ局,映画会社,ドラマ製作会社,CM製作会社などですが,それほど多くありません。楽譜の出版社も同様です。このようにアメリカでは,音楽著作権を録音権,演奏権,シンクロ権,出版権という4つの支分権に分けて管理しています。しかし,それぞれ権利の保有者あるいは管理団体がまちまちに分かれています。後でJASRACから説明があると思いますが,日本とかなり異なる管理実態になっています。
 このように録音権の管理会社が多岐にわたっているため,ライセンスの手間暇が非常に掛かる,取引コストが高すぎるということで,これをどうにかしよう,効率化しようというのが,今回の法改正の目的です。なので民主党,共和党といった枠組みは余り関係ないんですね。
 音楽配信は先ほど言ったように,ダウンロード配信,インタラクティブ配信,非インタラクティブ配信という3つの種類があります。録音権・演奏権がこれらの音楽配信にどのように働くかについて説明したいと思います。まず,ダウンロード配信ですが,これは録音権だけが働きます。次にインタラクティブ配信ですが,これは録音権と演奏権の両方が働きます。最後に非インタラクティブ配信ですが,これは演奏権しか働かないということになります。これはとても大事です。つまり,これらの3つの種類の音楽配信に対して,それぞれ働く権利が違うということですね。これはとても面白いです。つまり,ダウンロード配信は録音権の処理をすればいい。インタラクティブ配信は録音権と演奏家の処理をしなければいけない。非インタラクティブ配信は演奏権の処理だけすればいいことになります。先ほど言ったように,演奏権はASCAP,BMI,SESAC,GMRといった団体が管理するので,権利処理はとても楽です。だから法改正する必要はない。問題は録音権です。録音権の管理会社は音楽出版社,Harry Fox,さらには他の権利者団体というように多岐にわたっているので,非常に煩雑です。これをどうにかしたいというのが今回の法改正です。
 この問題の解決策には様々な方法がありますが,今回,アメリカが採ったアプローチは包括的強制許諾制度です。権利処理の窓口を一本化して,ライセンスの効率化を図るというものです。先ほど述べたとおり,Spotifyがインタラクティブ配信をしたい場合,Harry Foxだけではなくて,権利を持っている音楽出版社に個々に許諾を求めて,権利処理しなくてはいけない。しかし,これだと音楽配信が進まない。もっと音楽配信ビジネスを発展させて,世界のトップランナーであるアメリカが,更に音楽配信の分野でもビジネスを拡大していこうということが今回の主眼です。
 今回の法改正により包括的強制許諾制度を導入したわけですが,全く新しく導入したわけではありません。実は,現行法でも楽曲の録音権に関するダウンロード配信とインタラクティブ配信に対して,強制許諾制度は導入されています。しかしながら,現行法の強制許諾制度は,利用者にとって結構面倒です。というのは,現行法は包括的強制許諾制度ではないため,個々の録音権者を探して,通知をして,印税を毎月20日までに払って,明細書を送る必要があります。そのため,多くの取引コストがかかっています。これはどうにかならないのか。つまり,100社,200社,1000社もある権利者を一々特定して,連絡して,通知して,そしてお金を払って,明細書を送付する。銀行の手数料もかなりかかります。これは大変だということで,権利処理の手続を簡単にしましょう,一本化しましょうと。これは一番楽ですよね。支払先を一本化するという意味では,SARAH(サーラ)とSARVH(サーブ)と似ています。包括的強制許諾制度にすると,Spotifyのような音楽配信事業者は,とても楽なわけです。なので,今回の法改正の趣旨はシンプルです。包括的強制許諾制度を導入して,権利処理をワンストップにしてしまおうということです。
 ただ,これですべての問題が解決できるわけではありません。録音権を管理する団体,Mechanical licensing collectiveといいますが,新しい団体を作ったとしても,使用料を正確に分配できなかったら意味がありません。そこで,新しい団体が楽曲とサウンドレコーディングの情報をひも付けした網羅的なデータベースを作ることになりました。例えば,先ほど例に挙げた「涙の乗車券」は,オリジナルはビートルズですが,音はカーペンターズです。カーペンターズの「涙の乗車券」を音楽配信する場合,ビートルズ版と原盤は違いますが,曲は同じです。だから,カーペンターズの「涙の乗車券」を配信した場合,ビートルズのジョン・レノンやポール・マッカトニーに使用料が支払われなければいけないわけです。そのためにはレコードと楽曲の情報をひも付けなければならない。これを今回やることになったわけです。つまり,どんなレコードを配信しても,きちんと使用料を作詞者,作曲者と音楽出版社に分配できるようなデータベースを作りましょうというのが,今回のもう一つの目玉です。
 権利処理の手続ですが,とてもシンプルです。音楽配信事業者は,事前に新しい録音権団体に通知すれば,包括的強制許諾制度を利用できます。音楽を配信したら,著作権使用料審判官が決定する著作権使用料を録音権団体に払えばいい。法律に従って,ビジネスを行う限り,音楽出版社から訴えられることはない。これまでSpotifyは録音権の権利者を探して,通知して,使用料を支払い,明細書を送付してきましたが,これからはMechanical licensing collectiveという新しい録音権団体に通知をして,使用許諾を受けて,使用料を払って明細書を送る,とてもシンプルです。
 新しく作成されるデータベースは,新しい団体が作ります。この新しく作られるデータベースを使って,使用料を分配することになります。音楽出版社,ソングライターも今までは取り漏れていた使用料がきちんと分配されることになります。裁判で,Spotifyが配信する音楽の20%は,ライセンスを受けていないと言われたそうです。それがこの新しいデータベースを構築すれば,正確に正当な権利者に著作権使用料が分配できる。つまりウイン・ウインになります。だから,ほとんど反対の意見がなかったそうです。
 改正法に対する評価ですが,反対者が一人もいなかったそうです。超党派の法案だったようなので,何とドナルド・トランプ大統領の署名式に著名なミュージシャンたちが集まって,「やったー」と言ってみんな喜んだそうです。対立構造がないウイン・ウインの構造で法改正がなされました。なので,ミュージシャンにとっても,ソングライターにとっても,音楽配信事業者にとっても,「これはよかった」「非常にいい法改正」と高い評価を得ていると言われています。
 ただ,どのように運用するかというのは,これからの問題です。実際に適切に運用できるのか,本当に精度の高いデータベースが構築できるのか,運用コストはどのくらい掛かるのかというのは,今後の様子を見なければいけません。このような法改正を行ったのはアメリカが最初だと思います。アメリカはこの前にもインターネットラジオのサウンドレコーディングに対する強制許諾制度を導入して,SoundExchangeという団体を作りました。強制許諾制度はとてもビジネスを促進する一方で,権利者もウイン・ウインになりやすいということで,アメリカは強制許諾制度をかなり有効な法律ツールとして捉えているような気がします。今回の法改正が成功すると,また違う分野で強制許諾制度を導入するのではないかという勝手なヤボ勘を働かせています。以上,お話したとおり,今回の法改正はアメリカにとって,ミュージシャンにとって,さらには音楽業界にとって,とても大きな改正だったと思います。
 ちょうど時間になりましたので,これで私の発表を終わらせていただきたいと思います。御清聴ありがとうございました。

【道垣内主査】  ちょうど時間どおりです。ありがとうございました。
 引き続きまして,齊藤委員から御発表をお願いいたします。

【齊藤委員】  JASRACの齊藤眞美と申します。よろしくお願いいたします。
 私からはMMAの著作権管理への影響等についてということで,実務的な観点からお話をしたいと思います。
 今の安藤先生のお話が大変網羅していただきましたので,私の資料も若干だぶっているところもありますし,また違う観点からまとめたかとも思っております。
 それでは始めます。これは,著作権の権利を法律の中から抜き出したものとなります。この中で,今回私はストリーミング利用に限定して,どのような管理をしているのかということを書いてみました。丸をしました複製権と,公衆送信権というものがストリーミング配信において働く権利となります。先ほどの安藤先生の御説明は,ビジネスの観点でこれらの著作権の権利を演奏権,録音権,それからシンクロ権,出版権とお分けいただきまして,これらの権利,ここに書いております権利は,それぞれが録音権,若しくは演奏権,出版権,シンクロ権,どれかに入るわけですけれども,皆様,御承知のことかと思いますが,演奏権と大きく言うときは,空気に向かって流れる形の残らないもの,録音権と言ったときは,物になる,フィジカルになるものと考えております。
 JASRACがストリーミング利用をされた利用者の方から,利用の許諾が欲しいというお話があったときに,私どもはこのストリーミングに働いております複製権,録音権に当たる部分と,それから,自動公衆送信権,これは演奏権に当たる部分,この権利の中に送信可能化権という複製部分が入っているわけですけれども,複製権の許諾がこれです,自動公衆送信権はこれですというように分けることはなく,一連の行為を一本化して評価した使用料の体系を作って,許諾と請求を行っております。従いまして,著作権管理団体はよく演奏権団体,録音権団体と大別されますけれども,JASRACは,全ての権利をお預かりしておりますので,JASRACで一本化した許諾が出せるということでございます。
 これが,許諾してお金をお支払いいただくところまでですけれども,権利者の皆様に,使用料をお分けするとき,分配のときにはどうなるのかというのがこの表になります。
 頂きました使用料を2つに分割をいたします。複製に該当する使用料と自動公衆送信に対する使用料で,これをまとめて,頂いた使用料を集めてそれを15%,85%という割合に分けます。演奏権に関する分の方が大きくなっているわけですけれども,これを基に一曲ごとの分配額を計算して,年4回,著作権者の皆様にお送りしているというのが分配の流れになります。
 ここまでがJASRACで行っておりますストリーミング配信の許諾・徴収,分配までの流れになります。
 続きまして,アメリカ合衆国でのストリーミング配信で利用された場合の著作権の管理,音楽著作権の管理ということですが,私は法律の文章から取ってみました。公の実演権,演奏権に当たるものですけれども,著作権管理団体,PROと言います,Performing Rights Organizationが,先ほど先生のお話にありましたように複数存在いたします。また,自己管理というのも行われていることがございます。JASRACは,ASCAP,BMI,SESACとの間で管理契約を結んでおります。JASRACが管理している日本の作品は,この団体のうち,ASCAPに一括して管理を委託しております。
 こちらは日本の作品がアメリカ国内でどのように管理されているかということでございますが,ASCAPに委託をしていますので,許諾・徴収分,送金はASCAPから行われます。この使用料率というのは当然ですが,ASCAPが配信の事業者と交渉して,決定することになります。使用料は各作品のストリーミング回数により計算がされます。
 使用料率について,利用者と団体の間で合意に至らない場合は,ニューヨーク南部地区地方裁判所において裁定が行われることになっております。これは,同意判決といいまして,ASCAPとBMIが拘束されている裁判の判決によるものでございます。
 今回のMMAによって,この演奏権の部分で変更があったのは,緑色で書いているところですが,担当判事が従来は終身任命制でありました。ASCAPはこの人,BMIはこの人ということで,生涯その人が担当することで,判断がある程度硬直化しているというか,柔軟性がないということを聞いておりました。この担当判事が,ランダムに決定されるように変更になりました。この変更につきましては,ASCAP,BMI双方とも歓迎をしております。
 続きまして,複製の方に入ります。録音権ですね。これもストリーミング配信で御説明いたします。
 録音権の場合は,団体とは言いませんで,エージェントになります。MLA,Mechanical Licensing Agentが複数存在しております。また,先ほど先生のお話にありましたように,自己管理も多く行われております。JASRACは,Harry Foxと管理契約を結んでいます。従いまして,JASRACが管理する日本の作品は,Harry Foxが管理をしております。
 ここからは,2020年,来年の12月31日までどうなのかということです。現在の強制利用許諾制度,アメリカ著作権法第115条に基づく方式は継続いたします。簡単に言いますと,「一旦レコード盤が許諾を得て,アメリカ国内で頒布された後は,もうレコード盤を出すことはできる,頒布することもできる,だけれども,作品ごとに著作権者を見つけてねと,意思通知,Notice of Intention,これはNOIと読むと思うんですが,NOIをちゃんと送らないと駄目だけれどね」という制度です。そして,著作権者に関する情報がない場合は,著作権局に,このNOIを提出して,法定使用料を支払えば,許諾を得ることができるというのが現在の仕組みであります。
 これが,2021年1月以降どうなるのかということが,MMAによって決められました。これは,配信利用に係る許諾制度の大きな変更になります。著作権局が指名する新組織,MLC,Mechanical Licensing Collective,集中管理ということですね,がデジタル配信の包括的利用許諾を行う。これまで曲別に行っていた許諾制度は廃止されるということです。そして,著作権局は,これまでデジタル配信に関するNOIも受理しておりましたが,今後は,著作権局はこれを受理しない。MLCが一手に引き受けるということです。ただ,著作権局は引き続き,CDとフィジカルの複製物のNOIは受理し,許諾も続けることになっております。
 そして,今年の7月5日,先月,著作権局長がMMAに基づいて配信の許諾と権利を管理するMLCとして,これがややこしいのですが,MLCとして,Mechanical Licensing Collective, Inc.という会社を指名いたしました。そのものずばりの名前ですけれども,このMLC, Inc.は,エージェントと私は書きましたけれども,アメリカの音楽出版社協会,それからナッシュビルのソングライター協会,それから北アメリカソングライターの集まり,ここが作った会社になります。
 MLCの主な役割ですけれども,ダウンロードとストリーミングサービスについて包括的に許諾し,著作権者を確定して分配する。このためのデータベースを作って公開するという,先ほどのお話にございましたとおりです。
 そして,もう一つの役割として,著作権者が確定していなくて,権利主張がなかった使用料,Unclaimed Royaltiesは,配信事業者が提出した利用報告の内容を反映して,関連する市場のシェアに基づき,著作権者に按分(あんぶん)して分配することも定めております。これが1つの特徴です。
 以上,MMAに基づく変更等について御説明申し上げました。JASRACとしては,私どもが管理しております日本の作品の権利関係とか取り分等を適時・適切に提供して,MLCに確実に管理してもらうため,これから動いていかなくてはいけないわけですけれども,まずはMLC, Inc.との情報交換を早速始めたいと思っております。これから運用が始まりますので,その中で密に情報をとって,どうしたらいいのかということを早く見つけたいと思っております。このために,CISACは演奏権管理団体の国際連合ですが,BIEMというのは録音権の協会の国際事務局です。BIEM,そしてCISAC,また,姉妹団体等とも情報交換して,適切な対応をとってまいりたいと思っております。それからUnclaimed Royaltiesにつきましても,これはウエブサイトが公開されるということです。著作権者がここに直接権利主張できるという発表がされておりますので,これにも確実に対応してまいりたいと思います。そのためにCISACが作っておりますいろいろなツールが,ナンバーとかあるんですけれども,そういったものを使いながら,最も適切なベストプラクティスを見つけていきたいと思っております。以上でございます。ありがとうございます。

【道垣内主査】  ありがとうございました。
 事務局からのWIPOでの議論の説明及びアメリカの新しい法律について,安藤先生と齊藤委員から御発表いただいたところでございます。以上のどの点でも結構でございますけれども,委員の方々からどうぞ。

【奥邨委員】  安藤先生,齊藤委員,ありがとうございました。大変勉強になりました。
 十分理解できていないもので,教えていただきたいんですが,多分安藤先生に対しての御質問になると思います。
 冒頭,音楽の処理に関しては,曲の著作権と音の著作権というように分けて御説明があったと思うんですけれども,今回のMMAの仕組みは,曲の著作権だけということで考えればよろしいんでしょうか。音の著作権の方は,特に対象になっていないと。録音権という言い方であれば,同じように音の著作権もあるのではないかという気もするんですけれども,その辺がどうなのかと。また,音の方は,多分先生の詳しい資料を拝見しますと,実演,日本で言えば,送信に関する部分ですが,こちらについては別途の強制許諾システムがあるからそちらでカバーされているような書き方もされているように思うのですが。音の方がどうなるかを教えていただければと思いました。以上です。

【道垣内主査】  お願いします。

【安藤先生】  ありがとうございます。御質問は,音のサウンドレコーディングの著作権のことですね。音の権利は,今回の法改正では対象外です。飽くまでも音楽作品の著作権の録音権ということです。さっき私が最後の方にアメリカは強制許諾制度が大好きで,この後,また採用するのではないかというところの含意は,次,行くとしたら,音の著作権の音楽配信です。最後,そこだけは今残っているところですね。なので,奥邨先生がおっしゃったように,今回はそこまではやっていなくて,多分そこをやると簡潔ですけれども,そこはハードルが少し高いかなと思います。というのは,アメリカは特にそうですけれども,アメリカのレーベル,レコード会社というのはそんなに多くない。つまり,ソニーとか,ワーナーとか,あるいはユニバーサルミュージックというメジャー・レコード会社がかなりのシェアを占めていて,日本のように多くのレコード会社が乱立しているわけではないので,そこまでレコードの音の著作権の権利処理は難しくない。あるいは,もう一つ言うと,例えば,このカーペンターズの曲,これを音楽配信したいときに,この中の曲の権利者を探すのは大変ですが,この音の権利は大体このレコード会社が管理している。つまり,これで言うと,今ユニバーサルだと思いますが,A&Mというレコード会社がある。ここに問合せをすれば大体もう大丈夫。もし,権利が移転されても,「あそこに権利行っちゃったよ」みたいな話で権利者に行き着くことができる。ビートルズも,ビートルズの曲って全部,同じアップル・レコードが管理して,今言えばユニバーサルということなので,それほど音楽の作品の著作権よりは,権利が散っていないということもあります。
 ただ,もちろん,それでもレコード会社はたくさんあるわけですから,そういった意味では,もしかすると今後そういう流れになるかもしれません。ただ,今回の法改正は,音の著作権は対象ではないことになっています。

【道垣内主査】  他にございますか。

【鈴木主査代理】  安藤先生,大変複雑な話を分かりやすく御説明いただいてありがとうございました。
 3点ほど,伺いたいと思います。1つは,少なくとも今回改正した部分については,関係者がほとんどみんな賛成しているといいますか,支持しているということを伺いましたが,それでもなお,何か問題はないのか,解決すべき残された問題はないのかというのが1つ。
 2つ目は,アメリカ国内では,関係者に支持される仕組みができたということではありますが,これは他の国に対して,1つのモデルとして普及し得るようなものなのかという点です。
 いろいろ聞いて恐縮ですが,3つ目は,我々の,この委員会の課題として,先ほど事務局から説明がありましたように,WIPOでこれからデジタル音楽に関する調査をするという動きになっており,今回のアメリカの法改正も踏まえて,そのような国際的な調査をするに当たって,是非検討すべきとお考えになる点がありましたら,御提言を聞かせていただければと思います。

【安藤先生】   ありがとうございます。
 まず,関係者の皆さんが喜んで,「ウイン・ウインだ」という話でしたが,懸念材料はないのかというと,まだこの制度は走っていないので不安がないとは言い切れません。法案の署名はされていますが,まだ施行されていないので,走り出してみないと何とも言えないということはあります。1つ言われているのが,どのようにこの新しくできる録音権団体,Mechanical Licensing Collectiveという団体が運営されるのかというのは,1つ大きな関心事になっています。設立コストだとか,運営コストだとか,データベースの構築,維持コストというのはかなりなお金になると思われます。そして,今回の法律では,それらの費用は音楽配信事業者が負担することになっているんですね,面白いことに。それはなぜかというと,今回の法改正で一番恩恵を受けるのは,音楽配信事業者でしょう。だから,君たちお金を出しなさいということで,予算は著作権使用料審判官がしっかり予算立てするみたいです。ただし,団体が予算を浪費するといけないので,音楽配信事業者が負担するのは,合理的な範囲に限定されています。合理的な範囲を超えたら,「音楽出版社がお金を出しなさい」という複雑な法律になっています。その辺が運用上どうなるのかということが言われています。法律を改正して,制度を導入して,新しく団体を作る。権利処理のコストはすごく安くなりますが,一方で制度を作るコストはあるわけです。その意味では,果たして今回,費用対効果が望めるのかというのは,後で検証しなければいけない。懸念する声というか,それを見ていかなければいけないよねという話はされているみたいです。
 ただ,まだ走っていないので,ここやばいよね,ここ大変だよねという深刻な懸念というのはまだ表明されていないようです。もしかするとこれから,「これはまずいんじゃないですか」みたいな話は出てくるかもしれませんが,ほぼみんな喜んでいるというのが現状だと思います。
 2つ目の御質問の,このビジネスモデルというか,法改正のモデルは他国に普及するのかという御質問ですが,これは国によって普及する国と普及しない国があると思っています。つまり,アメリカという国は,先ほどお話ししたように,複数の録音権者,つまり音楽出版社が自己管理しています。それからHarry Fox Agencyというのも団体もあります。権利者がまちまちに,多岐に分かれているために,ライセンスの手続の煩雑さが生じています。それを効率化しようということですから,もう既に権利処理が効率化されている国というのは,余りこの制度を導入するインセンティブはないんです。個人的には,日本の国内法はこれに追随しなくてもいいんじゃないかと思います。なぜかと言うと,日本ではインタラクティブ配信を自己管理している会社は多少あるのですが,アメリカに比べるとかなり少ないです。ほとんどがJASRACとNexToneに管理を委託しています。したがって,権利処理の効率化による効果が新しく団体を作って運営するコストを上回らないと思います。つまり,国によって,どういう管理形態になっているかによって話が変わってくるのではないかと思います。逆に言うと,権利者が多岐に分かれているという国だと,今回の法改正を見て,これはいい制度だと追随する可能性はあると思います。
 それともう一つは,アメリカは強制許諾制度を次々に導入していますが,その強制許諾制度ってうまくいくの,うまくいかないの,メリットはあるの,デメリットは何なの,新しい団体を作ったらどうなるのといった一般的な参考モデルにはなると思います。なので,日本が新しく強制許諾制度を導入するときに,どうやって作るとうまくいくのかという1つの法制度のモデルにはなると思います。したがって,我々は今回の法改正の後の運用方法について注意した方がいいかと思います。
 最後の,今度のWIPOの調査の,こんなテーマ,こういうことをやった方がいいんじゃないかという提案ですが,私は強制許諾制度というのは非常に面白い制度だと思って研究しています。今後は集中管理,JASRACやNexToneに代表される集中管理制度,報酬請求権制度,それから今回の強制許諾制度といった制度のメリット・デメリットですね。もう既にいろいろ学者の先生方も発表されていますが,それを実務ベースでどうなっていくのかという調査は非常に面白いと思っています。要するに,アメリカでは果たしてSoundExchangeがうまくいっているのか,うまくいっていないのかということを含めて,実際に強制許諾制度を採用して,運営されている団体の動向とかコストとかを調査するのは非常に面白いと思うし,今後大きな示唆を得ることができると思っています。以上です。 【道垣内主査】  鈴木委員の最初の質問事項に関連して,私の方から質問がございます。ウインウインというお話でしたけれども,例えばSpotifyという,会社はこれまで大変な努力をして,契約をしてきたのだと思います。そういう会社は,今までの先行者メリットを失ってしまうのではないでしょうか。Spotifyという,一企業のことではなく,今後どこで競争することになるのか,参入がすごく簡単になりそうな気がしますけれども。そのあたりの経済的な状況を御説明いただけますか。

【安藤先生】   これは,日本のインタラクティブ配信ビジネスも全く同じ状況で,要するに横並びになってしまうと。ライセンスが簡単になると,当然横並びになって,サービスにも余り差がつかないということは,もう常に日本でも起きています。AWAやLINE MUSIC,Apple Music,Spotifyが提供する音楽については,日本も品ぞろえはほとんど同じだし,それから,価格も例えば980円とかで大体同じです。先生もおっしゃるようにどこで差をつけるんですかということですけれども,これは,先行者利益とブランド力,それから携帯で顕著な割引,学生割引とか,そういうサービスのコストとか,あるいはブランド名とかで差をつけるしかないと言われています。実際,日本の市場でもAWAやLINE MUSICは厳しくなっています。日本ではApple Musicが圧倒的に強い。これはブランド力ですね。外国はSpotifyが圧倒的に強い。Spotifyは最初に音楽発信を始めた会社ですし,ブランド力が圧倒的に高いです。そうすると,使い勝手がいい,有名だということになって,今,市場を牽引(けんいん)している会社は,多分,品ぞろえが同じになってもそのままいくでしょう。逆に言うと新規参入が難しくなっています。つまり,新規参入はもっといいサービスをしないと加入者が増えないので。そうすると,今,市場を占有している方が,ますます有利になっていくんじゃないかと思います。Spotifyはかなり訴訟されていて,何億円という損害賠償を請求されているのですが,今回の法改正によって,安心して音楽配信ビジネスができることになるので,楽曲のライセンスでは余り差がつかない。
 ただ,1つ差がつくとしたら,先ほど奥邨先生の御質問にあったように,今回は音の強制許諾制度が入っていませんから,音のライセンスで差をつけることはできます。例えば,レコード会社はSpotifyはいいけど,他は嫌だよと言えるんです。逆に言うと,Spotifyがうちにライセンスしてくれたら,これだけ特別にいろいろキャンペーンしてあげるよとレコード会社に言えます。例えば,1週間集中してサイト上でプロモーションしてあげますよとか言うことができる。そうすると,そこでSpotifyは他の配信事業者と差をつけることができる。そこも一緒になってしまうと,サービスがかなり同じになってしまいます。まだ音の権利に強制許諾制度は導入されていないので,音のラインアップでまだ差がつけられるかと思います。 【道垣内主査】  ありがとうございました。どうぞ。

【奥邨委員】  今日割愛されたところなので,簡単に教えていただきたいのですが。CLASSICS Actによって,サウンドレコーディングの1972年以前のものが保護されるようになったとのことですが,このことが日本に何らかの影響を与えるのでしょうか。本日は,国際小委ですので,日本や諸外国に,何らかの影響があるのかという点を簡単に教えていただければと思います。以上です。

【安藤先生】  CLASSICS Actに関して,日本でどのような具体的な影響が起きるかというのは,私はまだ手付かずの状態です。CLASSICS Actの説明は,きょう省略しましたが,今,先生がおっしゃったように1972年以前に発行されたレコードを復活というか,もともと連邦著作権法で保護していませんから,復活という言い方はおかしいですが,保護しましょうということになったわけです。我々から見ると,何かPDが復活したみたいに見えますが,一応ですね,法律では権利はsui generisになっています。国際条約上,著作権となるとややこしいことになって,影響が大きい。要するに,もうPDとして扱っていたものをいきなり復活するって,昔1回だけ著作隣接権の保護期間が50年遡及したことがありましたが,あれも本当にまれな例ですので,そのような混乱が起きてしまうという懸案があって,もしかするとsui generisにしたのではないかと思っています。もう一つは,sui generisにしたのは,私のレポートのレジメにも書きましたけれど,著作権にすると終了権の対象になります。そうすると,レコード会社としては,うれし痛しみたいな感じで,「やった,復活した。でも,アーティストに終了権で著作権を戻されちゃった」みたいな話になります。多分そこでいろいろな問題が起きて,これは著作権にするとややこしいんで,sui generisにしようと。余り外国も関係しないし,レコード会社も反対しないから,sui generisにしようかな,こんな口調じゃないと思いますよ。sui generisにしようかなと思って,それでしたんじゃないかということです。なので,「こちらが保護してあげますよ」とわざわざ法改正すればいいかもしれませんが,そういう動きはないと思います。 【道垣内主査】  その他。先ほど今村委員がこの点,御関心をお持ちかのことでしたが,いかがですか。

【今村委員】  大変分かりやすい御説明ありがとうございます。私も,最初は音の権利がどうなっているのかということを奥邨委員と同じように確認したくて,そこが今回入っていなかったというところが分かりました。音の権利の方は,曲の権利と比べると,プレーヤーの数が限定的なので,権利処理のコストを下げる必要性について違いがあるということでした。いろいろ分かりやすく御説明いただいたので,もう疑問点は解消いたしまして,詳しい資料もございますので,大丈夫でございます。どうもありがとうございます。

【道垣内主査】  山本委員,どうぞ。

【山本委員】  安藤先生の御説明,分かりやすかったのでありがとうございます。
 先ほど御説明いただいた資料のスライドの13ページのところですけれども,録音権と演奏権と書いてあって,ダウンロード配信とインタラクティブ型ストリーミング配信と,もう一つ書いてあります。ダウンロード配信が録音権に関係するというのは分かりやすいんですけれども,私の理解では,これは受信者側に複製物ができるので,録音権が関係してくるという意味だと。インタラクティブ型ストリーミング配信の場合には,ユーザー側に複製物が残らないという形だと思うので,これをこの録音権と演奏権,両方にかけてあるというところの意味がよく分かりません。録音権とどう関係するのかという疑問です。何をもって録音権にひっかかるという構成なのかというのがぴんと来ないので,教えていただければと思います。

【安藤先生】  これは,私も先生と同じように,なぜこれが録音権に係るかというのは,私も理解がしづらかったんですね。おっしゃるとおり,ダウンロードは簡単で,裁判例もあって,ダウンロード配信に関しては,これは演奏権が働かないという裁判例があるのですが,実はこのインタラクティブ型ストリーミング配信は,録音権も係るよという裁判例はないみたいです。それで,どうも議論を見ると,業界の中で一定のコンセンサスを得た。どこがどうやって得たのか分からないのですが,私が調べた限り,どういう解釈でどう決まったということを明確に書いてある文献は見つかりませんでした。音楽業界の中で,これは録音権と演奏権,両方かけましょうよという合意が得られたという記述しか見つからなくて。おっしゃるように,手元に残らないから録音ではない。手元に残らなくても,サーバーに残るので録音権が働くという考え方もある。しかし,サーバーに残るのであれば,非インタラクティブ配信だってサーバーに残るのだから,こちらも録音権が発生するのではないかということになります。論理が一貫しないですよね。なので,法律的というよりは,妥協の産物のような気がします。なかなか法律的にこの枠組みを理解するのは難しいと思います。

【山本委員】  ありがとうございます。

【道垣内主査】  まだ御意見あるかもしれませんが,もうそろそろ時間です。他の議事もございますので,これぐらいでよろしいですか。
 では,引き続きまして,議事の6番目,文化庁の海外における著作権侵害対策の取組について,まずは事務局から御説明いただきたいと存じます。よろしくお願いします。

【原口海賊版対策専門官】  それでは,文化庁の海外における著作権保護の推進として,国際著作権室で取り組んでいる事業について説明をいたします。
 資料6と付いているものを御覧ください。
 まず,1枚目の下の部分ですが,全体像でございますが,文化庁では海外における著作権保護の推進として,1番,著作権制度の整備,2番目として権利執行の強化,3番目,普及啓発の3つを柱とした取組を行っております。本年度,令和元年度の予算は1億6,800万円で,この3本をもちまして,海外における著作権侵害の減少及び我が国権利者による権利執行の推進を行うことで,海外における正規流通の促進を目指しております。
 それぞれについて簡単に説明いたします。次のページを御覧ください。
 1つ目の柱,著作権制度の整備については,我が国は1993年からWIPOに信託基金を拠出いたしまして,WIPOとの協力のもと,アジア・太平洋地域の途上国における著作権制度の整備や国際条約への加盟促進とそれを担う人材の育成を支援しております。本年度は,地域会合や集中管理団体研修,著作権に関する専門家の派遣,翻訳事業等を行っております。
 続きまして,2つ目の柱,権利執行の強化についてでございます。こちらについては二国間の協力事業とトレーニングセミナー,権利行使の支援事業として調査研究事業と行っております。
 まず,二国間協力については,中国,韓国,ベトナム政府との間で締結している著作権に関する覚書に基づき,二国間の協議及び協力事業を実施しております。中国との間には来る9月10日,東京におきまして著作権協議として政府間協議を行う他,民間を交えた日中著作権セミナーを開催する予定でございます。また,ベトナムについては,ベトナム文化・スポーツ・観光省からの要請に基づきまして,著作権担当職員の訪日研修を11月に予定しております。
 続きまして,トレーニングセミナーでございますが,こちらは相手国政府との協力のもと,税関,警察,裁判所職員等の侵害対策に係る能力開発を目的として,我が国のコンテンツに係る真贋(しんがん)判定セミナーを実施しております。本事業は一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)に委託をして実施しているもので,本年度は7都市において,それぞれセミナーを開催する予定でございます。
 権利行使の支援事業として調査研究事業を行っておりますが,こちらにつきましては,後ほど述べさせていただきます。
 次のページに行っていただきまして,普及啓発の取組でございます。こちらにつきましては,主に東南アジアにおきまして,著作権保護の推進や違法コンテンツの流通防止に向けた普及啓発活動を行っております。本事業についても,一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構に業務委託をしております。普及啓発イベントといたしまして,マレーシア,タイ,ベトナムにおいて普及啓発のイベントや,意識調査,またイベントにおけるステージイベントとして,著作権のクイズを実施しております。また,マレーシアとベトナムについては,相手国政府と協力をいたしまして,著作権普及啓発教材の開発に協力をしております。また,著作権普及啓発ツールの作成として,海外における著作権普及啓発のため,ポスター,クリアファイル,バナー等を作成しております。本年度はサンリオさんに御協力を頂きまして,ハローキティを用いた右にありますようなグッズを作成いたしまして,普及啓発しております。こちらにつきましては日本語版も作成いたしまして,日本国内の小中学校,高校までを対象に配布しまして,そちらの普及啓発をすることにしております。
 続きまして,権利行使の支援事業について御説明いたします。
 まず昨年度,平成30年度につきましては,「海外における著作権に基づく権利行使事例集」を作成いたしました。こちらは昨年度の第3回の委員会でも簡単に説明をさせていただいておりますが,こちらについては我が国の権利者が海外において,著作権侵害への権利行使をした事例を具体的に取り上げまして,海外における権利行使に当たってのノウハウ等を共有することで,権利者の海外における権利行使を支援することを目的として作成したものです。報告書につきましては,本日机上にも配布をしておりますので,詳しくはそちらを御覧いただければと思います。事例といたしましては,次のページにございますように12の事例を取り上げております。
 続きまして,本年度の調査研究事業でございますが,本年度については,諸外国における著作権登録制度について調査を行う予定です。こちらについてですけれども,問題意識といたしましては,ベルヌ条約上,著作権の発生は無方式主義でありますものの,ベルヌ条約加盟国の一部においても,著作権の登録を行わないと権利行使が容易でない国,あるいは著作権の登録について一定のメリットを付与している国があることが分かっておりますので,本事業は,日本の権利者が海外においてコンテンツビジネスを展開する際や,著作権侵害に対する権利行使をする際に参考となるよう,米国,カナダ,中国,韓国,ブラジル,インドネシア,タイ,ベトナムの8か国における著作権登録制度の概要や運用実態を調査することを予定しております。本事業につきましては,7月に公募を行っているところでございまして,現在審査中のところで,9月の事業開始を予定しております。
 以上,事業についての説明を終わります。

【道垣内主査】  どうもありがとうございました。今の点,何か御質問等ございますか。
 よろしゅうございますか。

【今村委員】  海外における著作権保護の推進について様々な取組がなされていることだと思いますが,視点を変えて,我が国の権利者と言った場合に,外国の方も我が国での著作権を持っているということで,そうした外国人の権利が日本で守られるという視点も国際的な保護という場面では,重要だと思うんですね。例えば,最近ですとある中国のSF小説が日本でも人気となったことが話題になったりしていました。確かに,日本国民の著作権が,ベトナムとかマレーシアとかタイとか,そうした外国で適切に保護されるという視点も大事であると思います。ですが,そういった国々にある豊かな著作物が,日本の市場で,展開していくという可能性もあるわけです。そうした可能性を,海外の人に案内することも,多様な海外作品が日本により多く紹介され,翻って日本の文化の発展などに資するという側面もあるので,今後の課題になると思います。単に日本の権利者の著作権を守ってくださいとか,そういうことではない視点も大事なのではないかと思いました。

【道垣内主査】  どうもありがとうございます。コメントか何かありますでしょうか。

【原口海賊版対策専門官】  ありがとうございます。
 海外との協力の中でも中国や韓国とは定期的にずっと政府間でも協議を行っているところで,お互いの文化コンテンツの流通についてもその中で取り上げているところですので,そのような場も持ちまして,そのような考え方を発展させていきたいと考えております。ありがとうございます。

【道垣内主査】  よろしゅうございますか。ありがとうございました。
 では最後に,7番の「その他」でございますけれども,特に事務局から何かはないようでございますので,この際,委員の方々から何かございますか。よろしゅうございますか。
 では,本日の国際小委員会はこれで終了いたします。ゲストの安藤先生,ありがとうございました。本日は皆様,ありがとうございました。
 では,次回の日程は,追って連絡ということでございますので,これで終わりにいたします。ありがとうございました。

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