文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム(第3回)

日時:平成30年10月29日(月)

13:00~15:00

場所:文部科学省東館3階第1講堂

議事次第

  1. 1開会
  2. 2議事
    1. (1)著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の在り方について
    2. (2)その他
  3. 3閉会

配布資料一覧

資料1
著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度が導入された場合の具体的事例における利用者の地位に関する整理(115KB)
資料2
著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入と出版権制度との関係(117KB)
資料3
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム審議経過報告書(案)(518KB)
机上配布資料1
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関する調査研究報告書(平成30年3月)
机上配布資料2
著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関する調査研究資料編( 平成30年3月)

議事内容

【龍村座長】定刻でございますので,では,ただいまから文化審議会著作権分科会法制・基本問題小委員会著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム(第3回)を開催いたします。本日は,御多忙の中,御出席いただきまして,誠にありがとうございます。

議事に入る前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事の内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところです。特にこの点,御異議ございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【龍村座長】ありがとうございます。では,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくということにいたしたいと思います。

次に,事務局より配付資料の確認をお願いいたします。

【澤田著作権調査官】お手元の議事次第を御確認ください。資料1といたしまして,著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度が導入された場合の具体的事例における利用者の地位に関する整理,資料2といたしまして,著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入と出版権制度との関係,資料3といたしまして,著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に関するワーキングチーム審議経過報告書(案)を用意させていただいております。また,委員には,机上配付資料としまして,調査研究の報告書とその資料編を置かせていただいております。不備などございましたら,お近くの事務局まで御連絡ください。

配付資料は以上です。

【龍村座長】それでは初めに,議事の進め方について確認しておきたいと思います。本日の議事は,(1)著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の在り方について,(2)その他の2点になります。

早速,議事に入りたいと思います。前回のワーキングチームでは,契約承継の在り方に関する検討事項2,著作権分野における他の制度との関係性に関する検討事項3,それぞれについて検討を行った結果,対抗制度導入後の具体的事例における利用者の地位の問題,対抗制度の導入と出版権制度との関係,この2点については引き続き議論を行うこととするとともに,その他の点につきましては,取りまとめに向けた整理を行うということとしておりました。

これを踏まえまして,本日は,まずは引き続き議論を行うこととしておりました論点について,それぞれ検討を行った上で,これまでの検討の結果を法制・基本問題小委員会にお諮りすべく,審議経過報告書案の議論を行っていきたいと思います。

では,まず,「対抗制度導入後の具体的事例における利用者の地位」について,前回のワーキングチームでの議論を踏まえ,事務局において資料を用意していただいておりますので,これに基づいて議論を行いたいと思います。

事務局より御説明お願いいたします。

【澤田著作権調査官】それでは,資料1を御覧ください。前回ワーキングチームにおきまして,管理事業との関係の場面で議論になりましたが,より一般的な問題として,対抗制度が導入された場合の具体的事例における利用者の地位に関して整理をするのが望ましいと考えまして,こういったペーパーを用意させていただきました。

これから5つの事例について説明をいたしますけれども,いずれの事例についても,著作権の譲渡について登録を備えた譲受人あるいは第二譲受人が,ライセンシーに対して著作権侵害に基づく差止請求を行った場合に,ライセンシーが利用許諾に係る権利を対抗することができるのかということを,当然対抗制度が導入されたという前提で考えていただきたいということでございます。

まず事例の1でございます。これは著作権者が利用者との間でまず利用許諾契約を締結した。その後,著作権者が当該著作権を第三者に対して譲渡したと。そして,その譲渡について登録がなされたという事案でございます。

この事案につきましては,ライセンシーは,利用許諾権原を有する著作権者から利用許諾を受けており,当然対抗制度が導入されますと,当該権利を当然に第三者に対して対抗することができることとなります。

その権利については,後に対抗要件を具備した第三者である譲受人に対して対抗することができます。したがって,この事例1においては,ライセンシーは譲受人に対して,自らの利用許諾に係る権利を対抗することができるということになります。

続きまして,事例2でございます。この事案では,事例1と異なり,まず著作権者が第三者に対して権利の譲渡をしており,その状況で,著作権者がライセンシーと利用許諾契約を締結しております。その後に,先ほどの権利の譲渡について登録が備えられたという事例でございます。

この場合には,譲受人は著作権の譲渡について,登録の前に対抗要件を備えた第三者であるライセンシーに対して対抗することはできません。そのため,ライセンシーとの関係では著作権者が著作権を有していることとなることから,ライセンシーは,利用許諾権原を有する著作権者から利用許諾を受けており,その利用許諾に係る権利は,第三者である譲受人に対して対抗することができるということになります。したがって,この事例2においては,ライセンシーは譲受人に対して,自らの利用許諾に係る権利を対抗することができるということになります。

続きまして,事例3でございます。この事案は,まず著作権者が第三者に対して著作権を譲渡し,その後に譲受人がその譲渡についての登録をしたと。その後に,著作権者から利用者がライセンスを受けたといった事案でございます。

この事案につきましては,ライセンシーが利用許諾を受けた時点で,著作権者から譲受人への著作権譲渡の登録がなされており,譲受人に確定的に著作権が移転していることから,著作権者は利用許諾権原を失っており,ライセンシーは,著作権者から受けた利用許諾というのは無権利者からの利用許諾ということになります。

したがって,この事例3においては,ライセンシーは,譲受人に対して,その利用許諾に係る権利を主張することができないということになります。

続きまして,事例4でございます。この事例におきましては,まず著作権者が第1譲受人に対して権利を譲渡し,その後に,同じ著作権者が第2譲受人に対して権利を譲渡し,その第2譲受人との譲渡について登録がなされました。その後に,登録を備えていない第1譲受人がライセンシーに対してライセンスをしたと事案でございます。

この事例では,著作権者から第1譲受人の譲渡については対抗要件が具備されておらず,著作権者から第2譲受人の譲渡について対抗要件が具備されております。そのため,第2譲受人が著作権から確定的に著作権を取得しており,第1譲受は著作権者から著作権を取得していなかったことになるため,ライセンシーが第1譲受人から受けた利用許諾は,利用許諾権原を有する者からの利用許諾ではないということになります。

したがって,この事例4においては,ライセンシーが第1譲受人から受けた利用許諾は,無権利者からの利用許諾であり,その許諾に係る権利を第2譲受人に対して主張することができないということになります。

最後に事例5でございます。この事例では,まず著作権者が第1譲受人に対して権利を譲渡し,第1譲受人が利用者との間でライセンス契約を締結しております。その後に,著作権者の方が第2譲受人に対して権利を譲渡し,第2譲受人が譲渡についての登録を備えたという事例です。

この事例につきましても,著作権者から第1譲受人の譲渡については対抗要件が具備されておらず,著作権者から第2譲受人の譲渡について対抗要件が具備されております。

ライセンスの時点では,事例4と異なり誰も譲渡について登録をしていなかったわけですけれども,その後に第2譲受人が譲渡の登録をしたことによって,第2譲受人が著作権者から確定的に著作権を取得し,第1譲受人は著作権を取得していなかったことになりますので,ライセンシーが第1譲受人から受けた利用許諾については,利用許諾権原を有する者からの利用許諾ではないということになります。

したがって,この事例5においては,第1譲受人からの利用許諾というのは,無権利者からの利用許諾であり,その許諾に係る権利を第2譲受人に対して主張することができないと,このような形で整理させていただいております。私からは以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,事務局よりただいま御説明いただきました内容に関しまして,御意見,御質問等がございましたらお願いいたします。いかがでしょうか。

松田委員,お願いいたします。

【松田委員】それでは,私から。今の5つの事例について,これに書かれた結論は,それぞれ異論のないところであります。このままで,この図の対応で結論を書くことは,それぞれ私自身は問題ないとは考えております。

ここに第1譲受人が第2譲受人と同じように言ってみますと,申請の著作権譲渡の場合については,まさにこの図のとおりでいいのであろうと思いますが,第1譲受人が単なる譲受人ではなくて,従前議論した出版権者と同じようにライセンスが内在している物権の移転を想定しますと,いささか複雑になりまして,必ずしもこの結論と同じになる場合でないことの議論が生じる可能性があると考えております。

第1譲受人は著作権の譲受人ではありますけれども,実際上はライセンスを受ける地位を利用する地位を取得して,そしてそれを利用者にライセンスするという関係が生じた場合につきましては,出版権の設定と,その後に出版権者がライセンスを付与するような関係と同じことが生じます。したがいまして,この限りにおいて,私は文章上,全く異論はないのですが,発展的な形態においては,これと同じような結論でない場合も解釈上はあり得るということを一応発言しておきたいというふうに思います。

【龍村座長】ありがとうございます。今の御指摘は,事例4,事例5のケースについてでしょうか。

【松田委員】事例5になりますよね。

【龍村座長】事例5の方で伺ってよろしいでしょうか。出版権の問題は後ほどまた触れることになると思いますけれども。

【松田委員】はい。

【龍村座長】その他いかがでしょうか。前田委員,お願いいたします。

【前田委員】私も松田委員と同じく,ここに書かれている結論自体には,異存はございません。今,松田委員から発展的な形態においてはこのとおりの結論でない解釈もあり得るのではないかという御指摘がありましたけれども,私からも同様のケースとして,事例5において,マル1が信託的譲渡の場合,つまり,前回議論いたしました,第1譲受人が著作権等管理事業者の場合のことを申し上げたいと思います。著作権等管理事業者は,著作権者から信託的譲渡を受けることによって管理を行う場合と,取次又は代理による管理を行う場合がございます。

信託の場合には,事例5に当てはまり,取次又は代理の場合にはここには直接出てこないかもしれませんが,恐らく事例1若しくは事例2に近いケースになるだろうと思います。そうすると,著作権等管理事業者が信託による管理を行っているのか,取次代理による管理を行っているかによって,結論が逆になるケースが想定されますけれども,それはちょっと何か座りが悪い感じがいたします。

とはいえ,事例5のケースでは,無権限者からのライセンスということになってしまい,無権限者からのライセンスを保護するというのは難しいことはそのとおりだと思いますので,あとは実務上,何らかの工夫,例えば背信的悪意者の認定を緩やかにするとか,そういったことによって何らかの調整を図るべき場合があり得るのではないかと思います。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。その他,管理事業者等の信託約款等の改訂により対応方策を求めるという行き方もあるのかもしれません。そのほか,いかがでございましょうか。

森田委員,お願いいたします。

【森田委員】ただいまの点ですが,信託的譲渡と通常の譲渡とで結論が違ってくるということは,私はあり得ないというふうに思います。ここで全てに共通する基本は,ライセンス契約の当然対抗といっても,そのライセンス契約を締結したライセンサーが正当な権限を有している場合に初めてライセンス契約の当然対抗が認められるのであって,信託的譲渡の場合においても,その信託的譲渡については対抗要件が具備されておらず,第2譲受人との関係で信託的譲渡を受けた者が正当な権限を有していないとされる場合には,その者とライセンス契約を締結したライセンシーは,第2譲受人にライセンス契約を対抗することができない。この点では,この事例5と同じ結論になるはずであります。

そして,信託的譲渡の場合と取次や代理の場合とはどこが違うかといいますと,取次や代理の場合にはもともとの著作権者から権限を付与された者がライセンス契約を締結するものであって,ライセンシーの利用権限は著作権者の権利から直接に派生するものでありますので,第1譲受人の立場にある者からライセンス契約に基づくライセンシーの地位を付与されたということではありませんので,取次や代理の場合と信託的譲渡の場合とではその前提が全く異なるものです。したがって,著作権の管理という意味では,それらの実質は同じではないかというわけですが,その法形式が違うことから相違が生ずるのであり,これを同列に扱うことはできないのではないかと思います。

背信的悪意者という問題は,これは事例5でも同じように生ずる問題でありますので,背信的悪意の議論を適用するのであればよいと思いますが,それ以外のルートでその結論を修正するというのは,理論的に正当化することは難しいのではないかと思います。

【龍村座長】ありがとうございました。出版権の場合,第1譲受が出版権設定の場合という例が上がりましたけれども,支分権などについても同じような議論があり得るという,そういう見方は松田委員の場合,生じるということになりますでしょうか。

松田委員,お願いいたします。

【松田委員】その点について。かつては出版権で議論したわけですけれども,これは某物権の一つの設定ですね。それと同じような状況というものを考えますと,支分権の譲渡によって実質的に利用をさせるという契約もあり,それから,著作権の丸ごと譲渡だけど,期間付き譲渡で利用権を付与するという場合もあるわけです。これらがパラレルに出版権と同じように考えられるかどうかということは,議論しておく必要があるかとは思います。

【龍村座長】その点,特段,今の時点で松田委員の方で御意見はございますか。

【松田委員】貸与権ではないですね。出版権に移ったところとほぼ同じ議論ができるのではないでしょうか。

【龍村座長】では,出版権のところでまとめて,ということに致します。そのように承ります。

【大渕座長代理】何か議論がやや混乱し掛かっているかと思うのですが,この後の付随的なものは置いておき,事例1から事例5まで示されたところは,私が前回申し上げた意見のままというか,要するに,二重譲渡で,一方が対抗要件を具備したら,確定的にそちらの方が権利者になって,反射的に他方の者が無権利者になるから,無権利者からライセンスを受けても,無から有は生じ得ないという単純明快なことが書かれているだけかと思いますので,ここのところは賛成いたします。

その上で,今言われたような譲渡について,それは別に譲渡として保護されるわけではなくて,裏にあるライセンスという別のもので保護されるのであって,そこは混ぜない方が議論が混乱しないと思います。要するに,裏と表とあるから1個であるかのように見えていますが,表としては権利譲渡だけど,裏ではライセンス,実質はライセンスみたいなもので,ライセンス契約があって,そちらの方で行くというのであれば,むしろライセンスの当然対抗制ということになります。これはこれとして,また別の応用問題として対応すればよいのですが,ここでやっているのは裏の話ではなくて,表の話を固めるという方であります。今のとは別の形として,別途ライセンスがあったら,それはライセンスとして議論すれば,また別の議論があり得るわけなので,そこは混ぜずにきちんと整理することが重要だと思っています。

【龍村座長】ありがとうございました。今回のこのまとめは非常に明快かつシンプルなまとめだと思いますので,ほぼ御意見,異論がないのかなというように拝察いたします。そのようなまとめでよろしゅうございましょうか。

おおむね資料のような整理で御意見の一致が見られたかと思いますので,本ワーキングチームとしましては,このような整理を前提に議論を進めていきたいと思います。

では,引き続き,対抗制度の導入と出版権制度との関係につきまして,前回のワーキングチームでの議論を踏まえ,事務局において資料を用意していただいておりますので,これに基づいて議論を行いたいと思います。

事務局より御説明お願いいたします。

【澤田著作権調査官】資料2を御覧ください。著作物等の利用許諾に係る権利の対抗制度の導入と出版権制度の関係という問題について,まず1ページ目の四角囲みのところで,前回のワーキングチームの資料を引用しております。

ここでは,利用許諾に係る権利の当然対抗制度の導入によって,未登録出版権のうち著作権者から差止め等を受けることのないという地位については登録なくして対抗できることとなるかといった問題を設定させていただいておりまして,具体的な場面としましては,出版権が設定されたが,出版権の設定について登録されていない状況において,著作権者が第三者に対して著作権を譲渡したという場面について問題になる論点でございます。

この点につきまして,第2回の資料では,利用許諾に係る権利と出版権については,それぞれ異なる性質を持った別個の権利として規定されていることから,利用許諾に係る権利の当然対抗制度は出版権には当然には適用されないものと考えられること,また,出版権が排他的な権利であることを前提として,出版権者は出版の義務を負うことや著作権者による出版権の消滅請求に関する規定があるなど著作権者と出版権者との間に特別な法律関係が形成されていると考えられることから,出版権のうちの一部の地位についてのみ当然に第三者に対抗することができるとすることは妥当ではないと考えられるとさせていただいておりまして,そうしたところから特段の制度的な措置は不要という考え方を示させていただいておりました。

この内容に基づいて,第2回の本ワーキングチームで御議論いただき,その議論の内容を四角囲みの下のところ以降でまとめております。このような整理に対して賛成する御意見もあった一方で,複数の先生方からは,利用許諾に係る権利については,(登録なくして)当然に対抗することができて利用が継続できるにもかかわらず,出版権については,登録をしていなかった場合には非排他的な利用の継続もできなくなるとすれば,それは出版権者の保護に欠けるのではないかと,そういった御意見も示されたところでございます。

1ページ以下,整理に賛成する意見の詳細と,その整理のみでは出版権者の保護に欠けるのではないかといった御意見の内容を紹介させていただいております。

その下,2ページ目の真ん中下ほどのところのパラグラフですけれども,そういった御意見のほか,出版権者の保護に関しては,出版権設定契約を締結する当事者の合理的意思として,出版権者に対して利用を許諾する意思,ライセンスをする意思も有していると解釈することはあり得るものであり,そのライセンスに係る権利は当然対抗制度によって保護され得るのではないかといった御意見も示されたところであります。

こういった御意見を踏まえまして,改めて問題を整理したのが2ページ目の下の2パラグラフ目です。利用許諾を受けた利用者の保護と出版権者の保護のバランスといったものが問題となっておりまして,その観点から未登録出版権についても非排他的な利用の限度で登録なくして利用を継続することができるような制度的な措置を講じる必要があるのかといったところが問題になっていると理解しております。そして,その検討に当たっては,出版権とは別に存在する利用許諾に係る権利による保護の可能性というのがあるのかも含めて検討を行う必要があると考えております。

この点について,出版権者は,出版権について登録がなされるまでの間に著作権譲渡が行われ登録がなされた場合には,利用の継続ができなくなります。このような事態に備えて,著作権者は,出版権の登録の前に著作権の譲渡について登録がされた場合であっても,出版権者に利用を継続させることを目的として,利用許諾権原に基づく利用許諾(出版許諾)を行うことも可能であると考えられるとしております。そして,利用許諾に係る権利の対抗制度が導入された場合には,出版権とは別個の権利である利用許諾に係る権利というのは,当然にその保護の対象になりますので,そういった形で出版権者の利用の継続が保護される可能性はあるものと考えております。

それを踏まえまして,3ページ目の2パラグラフ目では,改めて,出版権と利用許諾に係る権利の性質の差異,出版権が排他的な権利であることを前提とした特別の法律関係を踏まえますと,出版権のうちの一部の地位についてのみ第三者に対抗することを認めることについては慎重な検討が必要であると考えられるとしております。

また,出版権者はその権利の性質から登録をしなければ自らその権利を第三者に対して対抗することができないという制度とされており,出版権者はそのことを前提として出版権の設定を受けることから,出版権を登録していなかった場合にその地位を一定の範囲で保護しなければ,制度としてバランスを欠くということにはならないものと考えられるとしております。

一方で,ここからが出版権者の保護の話でございますけれども,出版権者につきましては,出版権としての保護ではないものの上記の利用許諾に係る権利による保護がされ得るところ,出版権設定契約を締結した当事者の合理的な意思として,出版権設定行為とは別に利用許諾が存在すると考えることが可能であるといった意見も示されたところでありまして,仮に出版権の設定について登録をしていなかった場合であっても,こうした明示又は黙示の利用許諾(出版許諾)による保護というのが期待できるものではないかとさせていただいております。

これまで申し上げたところを踏まえますと,利用許諾に係る権利の当然対抗制度の導入に伴いまして,出版権のうち差止等を受けることがない地位については(登録なくして)当然に対抗することができるという制度とするのは権利の性質等から困難である一方で,そのような制度を設けなかったとしても,制度として出版権者の保護に欠けるということにはならず,実際上も出版権者は,出版権とは別個の権利ではありますけれども,利用許諾に係る権利による保護を受け得るため,実際上も出版権者の保護に欠けることとはならないものと考えられるとさせていただいております。

そこから,結論としては,利用許諾に係る権利の当然対抗制度の導入に伴い,出版権との関係で制度的な措置は講じないのが適当であると考えられるとさせていただいております。

4ページ目以降は,このペーパーの整理に則って議論がまとまった場合の審議経過報告書の記載の(案)のイメージでございますので,御覧いただければと思います。以上の点につきまして,こうしたところ,出版権との関係で何らかの制度的な措置を講じないのが適当であるといった結論につきまして,御審議いただければと思います。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,事務局より御説明いただきました内容に関し,御意見,御質問等がございましたらお願いいたします。いかがでしょうか。

では,松田委員,お願いいたします。

【松田委員】議論を多少進めることにいたしましょう。前回このところで,出版権の場合にライセンス契約とのバランス上,バランスを欠くという視点は,このワーキングチームにあったと思います。それについて,解釈として,物権の裏にライセンス契約が認められる場合については,当然対抗ということも解釈としてはあり得るのだという,こういう意見が出ました。当然これは純粋に出版権の設定と,それから,ライセンス契約との関係で考えると。物権設定である出版権の方がライセンス契約も,その部分については弱くなるようなバランス感覚は,どうしても落ちつきが悪い。こういうところから,このワーキングチームで出た意見だろうと思います。

それをこのまま何らかの対応を取らないで,制度的な措置を講じないのが適当であるという結論によりますと,具体的な解決方法は,裁判所における出版権設定契約の裏にあるライセンス契約ということが認められる場合というような判例の形成によって行われることに多分なるだろうと思います。その場合に,先ほどの問題にもなるのですが,果たしてそれは出版権の設定だけなのであろうかということも起こることになると思います。

例えば図書の出版であれば,まさに出版権というのは用意されているわけですけれども,コンピュータープログラムの物権的な効果を取得させようとした契約においては,何もないわけですから,支分権の譲渡等で行われる可能性はあるわけです。そうすると,出版権と同じような状況が起こることになる。そうすると,地方裁判所ではそういう,例えば支分権の移転による利用という場合においても,対抗関係が生じたときにライセンスに裏打ちされているのだという主張が表れて,具体的な事案においては,出版権と同じように裁判所から,裁判所においては,ライセンスの存在を肯定して,そして,当然対抗要件がその部分について当てはまるということの判断はあり得ないわけではないという点は押さえておきたいと思います。

出版権で考えるところがほかの物権等移転や設定についても同じようなことが,場合によっては起こるのだということであります。それでも出版権の限りにおいてとどめるべきであって,その他の場合については,とどめるべきでないというのであれば,出版権について何らかの措置を講じておく必要が生じるのだと思います。

考え方としては,出版権については,推定規定を設けて,出版権については,ライセンスの併存が格別の場合でない限りあり得るのだという推定規定を置けば,出版権だけそういうことになり,ほかの物権移転についてはないということになる。そういうことになるわけであります。

果たしてどっちがいいかは,にわかには私も判断しかねるところではあるのですけれども,解釈だけに委ねるとすれば,規定を置かないでもいいのかなというふうに思っているところであります。

【龍村座長】ありがとうございます。その点についていかがでしょうか。

大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】先ほど申し上げたところの延長線上ないし繰り返しになってしまいますが,ここでは物権的なところについて決めて,先ほどのライセンスというのは,別途またそれとして考えればいいので,それは今般のものも非排他的ライセンスだから対象になるわけですけど,特別に扱う必要はないのではないかと思います。それで,私はちょうどよいぐらいのバランスかなという気がいたします。今のが理論的な話なのですが,実務的にも,例えば先程の出版なら,普通に考えると,今後は契約ひな形が,出版権と出版許諾契約というダブルでやるのが普通になってくると思われます。それで御納得した上で,表で出版権を設定して,裏で出版許諾契約というのは,やや分かりにくいというのを別にすれば,そのような努力をした人は裁判所で認められやすいということになるわけで,他方で,何にもしなければ,何にもないときからかなり頑張って立証していったら,黙示のライセンス契約が認められればということで,ちょうどよいバランスになる。そのような意味では何もせずにひな形でやるなり,黙示のものによるなりというのは各自に委ねて,通常の形で処理すれば足りると思います。

先ほどのように,本当にライセンス契約が認められれば,それはまさしくライセンスですから,今般の対象になるので,そこは否定する必要もないわけです。そこさえ言っておけば,あとは各自の努力に委ねて,わざわざ推定規定を設けるようなことをしないという点を含めて,立法として特にそこに介入しないということがベストではないかと思っております。

【龍村座長】ありがとうございます。

奥邨委員,お願いいたします。

【奥邨委員】ちょっと私の理解が間違えていたらあれなのですが,今,松田委員から御指摘のあった事例というのは,この最初の見た事例1から事例5の中には,そのものズバリは多分ないのではないのかなという理解をしております。ありますか。

むしろ事例の4で,その第1譲受人の下に利用者がぶら下がっていますけれど,ここのところを隠したような形で,第1譲受人と第2譲受人という形だけしかいないという状態が支分権のことでおっしゃった状態なのかなと思ったのですが,そういうことでよろしいでしょうか。

【松田委員】はい。

【奥邨委員】そうだとしますと,この第1譲受人のところが,一つには多分,出版権者である場合があると。出版契約を設定された人,出版権者を,第1譲受人と置き換えても構わないということ。また,支分権の場合は,第1譲受人になると,こういう状態なのかなと思います。

仮にそうだといたしますと,第2譲受人が何らかの権利を主張するためには,ここにもありますように,登録をしないといけないということが大前提に出てくるわけですけれども,その場合,これも実際ベースの問題だけを申し上げていて,理論的な問題ではないのですが,現状,著作権の譲渡の登録自体も極めて少ないというのが私の理解でありますので,まずそこのところが一つあるかなと。

またそれよりもさらに,出版権の設定は設定登録が更に少ないということがありますので,出版権者と第2譲受人との関係というのは若干考えてあげるというところがあってもいいのかなというふうに思います。これを受けまして,推定規定を置くまでの必要があるのかどうか,今,皆さんがおっしゃっておられることに比べると,少し控えめに状況をどうするかということを考える必要があるかと思います。ところが,第1譲受人と第2譲受人ということになりますと,これはもうはっきり言って,どっちが先に登録を確保するかという問題に結局は帰着しますので,余り第1譲受人の方の人を特別視する必要もないのかなと。やはり自分が譲り受けた後,登録をしていれば,第2譲受人に勝てるわけですので,純粋な物権同士の関係と考えて,それほど大きな特別なルールの変更にはいかないのではないかなというふうな気もいたします。

すみません。以上です。

【龍村座長】ありがとうございます。そのほかいかがでございましょうか。

学説上は,従来から,出版権設定には債権的な出版許諾契約を含むという意見も一部あったと伺っておりますが,物権的合意である出版権設定に債権的合意が含まれるとすると,両者はやや水と油的なところもあるのではないかと,その意見については批判的な御意見も調査報告のときにはあったやに思います。そのあたりにつきまして,そのほか御意見はございますでしょうか。上野委員,お願いいたします。

【上野委員】今御議論がありましたように,出版権設定契約を締結する際の当事者の合理的意思として,あわせて利用許諾している意思も有するという解釈はあり得るのかもしれませんけれども,法律上は,出版権設定してしまいますと,著作権者は,著作権者ではあり続けますけれども,自ら出版することはできない立場になるわけですよね。もちろん,専用実施権を設定した特許権者が無断実施者に対して差止請求できるというのと同じように考えて,出版権を設定した著作権者が,第三者が無断利用しているときに差止請求するということはできると思うわけですけれども,出版権を設定した著作権者は出版権者に対して利用許諾する立場にないと考えられますので,そうであるならば,その際の契約というのを「許諾」というふうに理解できるのかどうか問題になるところかと思います。この問題,結局,どういう理解をすることになったのかなという気がしましたけれども,いかがでしょうか。

【龍村座長】ありがとうございます。前回もその点,ちらっと問題になったかと思いますが,大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】今言われた件につきまして,先に出版権を設定したら専用権がなくなっていますから,ライセンスできないのかもしれないのですが,これは実際は,先程のようにひな形を第1,第2のように,物権でもあり,債権でもあるというか,同時にやるのであれば,先ほどの問題は生じないのではないかと思います。同時に物権的な設定をして債権契約もやっていますから,その時点では,権利は,専用権は設定した側にあるということであります。

特許の世界では,もうこれはほとんど定説化していて,専用実施権というのが出版権に似ていると言われているものですが,これは効力要件なので,設定登録していなければ,専用実施権としては効力はないけれども,当然に完全独占的通常実施権の趣旨だと理解されています。完全独占的通常実施権の差止請求権の典型的な判例はこの形なのであります。このように,特許の世界では別に物権と債権が併用できないとは誰も考えてない,むしろ当然視されてそのように展開されています。だから,著作権でもそこのところは,油と水というほどでもなく,油と水というよりは,単なる裏と表で,裏と表,同時にすると解釈すれば,私としては,今のは理論的な話なのでありますが,他方,実務的にはちょうどよいくらいのバランスではないかと思います。

出版権としては,私は,書かれたとおり,もともと登録しないと対抗できないものを登録してないのだから,対抗できなくても当然であると思っております。そこで冷たく切るのも一つの手で,学者としてはそうしたいのですが,実務的には,裏にちょうどライセンスがあって,それが頑張って,きちんと立証できれば,そちらでも行けるというのがちょうどよいくらいのバランスだろうという感じがいたします。

【龍村座長】ありがとうございました。

上野委員,お願いいたします。

【上野委員】両方の契約をしているということですと,両立し得ない契約が両方とも2つなされているというふうに理解するのでしょうか。両方とも有効だという理解もあり得るということなのでしょうかね。

【龍村座長】上野委員の御指摘はその点だと思いますが,いかがでしょうか。前田委員,お願いします。

【前田委員】そこはちょっと微妙かもしれませんけれども,ライセンスが併存しているという黙示的な解釈をする動機は,出版権が後日何らかの事情で第三者に対抗できなかった場合に備えてのことですので,第三者に対抗できないという場合に備えての利用許諾があるというのは,まあ,いわば予備的な黙示的合意があると考えることですので,不可能ではないと思います。

【龍村座長】水津委員,お願いいたします。

【水津委員】出版権の設定について登録がされた後に,利用許諾がされたときは,その利用許諾は,利用許諾権原に基づかないものとなるため,上野委員のおっしゃる御懸念が当てはまりそうです。これに対し,出版権の設定について登録がされる前に,利用許諾がされた場合において,その後に著作権が譲渡され,その旨の登録がされたときは,著作権の譲受人は,その出版権の設定を否定している以上,その利用許諾が利用許諾権原に基づくものであることを否定することができず,その結果,利用許諾に係る権利の当然対抗を受けることとなると構成することは,できるかもしれません。

【龍村座長】大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】今の御指摘を聞いて,先程私が申し上げた内容がより根拠付けられたというか,もともと私は同時にやることがそんなに反するものとも思っておりませんし,いわば単純併合でもよいぐらいなのですが,特にいわば予備的併合で,本来,自分は第1希望として物権的権利でしたいのだけれど,それが何らかの理由でだめなので予備的にということであれば,水と油ではなくて,サラダオイルのように合体したようなものなので,先ほどの矛盾がますますなくなってきて,それこそまさしく本人が欲した状態なので,そのとおりにきれいに描いてあげているだけではないかという感じがいたします。

【龍村座長】ありがとうございました。

上野委員,お願いいたします。

【上野委員】そうすると,出版権設定が対抗要件を具備できずに消えてしまったときのために有効となるようなライセンスをあらかじめするという契約をしておくということになるのかもしれませんが,そうすると,その場合のライセンスというのは一体いつ行われたことになるのか,という問題が残るような気もいたします。ただ,とにかくできるということであれば,私は特に異論を申し上げるつもりはございません。

【龍村座長】ありがとうございます。予備的意思表示といいますか,そういうのはありなのでございましょうか。その点,もし民法学のお立場から。水津委員,お願いいたします。

【水津委員】予備的という言葉が,著作権が譲渡された後に利用許諾に係る権利が発生するという意味だとすると,利用許諾に係る権利の対抗制度が導入されたとしても,利用許諾に係る権利を著作権の譲受人に対抗することができなくなってしまいます。この問題を回避するためには,出版権の設定と同時に利用許諾がされ,出版権と利用許諾に係る権利とが併存して発生しているととらえなければなりません。この場合には,予備的という言葉は,利用許諾に係る権利が実際に意味をもつのは,著作権が譲渡され,その旨の登録がされたときであることをあらわすものだということになります。

【龍村座長】ありがとうございます。

森田委員,お願いいたします。

【森田委員】一言だけ。「予備的」という表現は,これは訴訟における攻撃防御方法について用いられる概念ですが,実体法上の説明のときに「予備的」という用語を使うことは,少し混乱を招くおそれがあるので避けた方がよいと思います。ここでの問題は,ある法律関係を基礎付ける複数の法規範がある。それらを同時に適用すると実体法上矛盾が生じるが,その一方だけが適用されるということが実体法上可能であるかというものであり,このような問題はこれ以外にもいろいろな局面で生ずるものであります。それらの間で矛盾・抵触が生じないように構成することができるのであれば,実体法上は,同時であろうと,時を異にしてであろうと,ある法律関係を2つの法規範に基づいて設定することは可能であります。「予備的」という構成によってその法規範の適用時点が遅くなってしまったりしますと,当然対抗制度のもとでも第三者に劣後する場合が出てきますので,当初の時点で2つの法規範が競合しているという法律関係を認めればよいだけのことではないかと思います。

ただ,それらの法規範を両方とも同時に適用することは矛盾・抵触が生じますので,一方を適用すると第三者に対抗することできない場合には,他方の適用を主張することになるという,その主張が「予備的」な主張としてなされるのが訴訟上の扱いだと思います。

【龍村座長】ありがとうございます。今の点,ほかにいかがでしょうか。

前田委員,お願いいたします。

【前田委員】議論がさかのぼっても大丈夫でしょうか。

【龍村座長】どうぞ。

【前田委員】今回の整理は,明示的なライセンス許諾だけではなくて,黙示的にもライセンス許諾が認定できる場合があることを前提として,だから,出版権者の保護に欠けることはなく,特段の措置を講ずることは必要でないという論理だと思います。私もそれに賛成でございますが,やはり黙示的にもライセンス許諾を認定できる場合があるのだという前提を取ることは非常に重要であると思います。

先ほど契約書のひな形の工夫によって,この問題が解決できるのではないかという御指摘もありましたが,契約書作成の法的テクニックに長けている人は得をするけれども,そういうテクニックに長けてない人は損をするというようなことはあまり望ましいことではなくて,契約書作成上のテクニックというのは少ない方がよく,普通に日本語で書けば,同じような法的効力が生じるという方が望ましいのではないかと私は思いますので,そういう意味では,黙示的なライセンス契約の認定はかなり緩やかになされることが望ましいのではないかと思います。

【龍村座長】ありがとうございました。

大渕委員,お願いいたします。

【大渕座長代理】私は別に契約というのは明示の契約だけではなくて,黙示の契約があるのは当然なので,それは排除する必要はないし,そのようなことに詳しくない人のために必要があれば,黙示の契約でもよいと書けばよいだけの話だと思います。

ただ,私が思いますのは,恐らくこのまま行けば,ひな形プラクティスとして恐らく二重に書くようになるだろうし,それが非常に通常になってきたら,放っておいても,黙示の契約の認定が緩やかになってくると思います。黙示の契約というのは,忖度というか,多くの人はそうするだろうということを推し量って認定するというところがありますので,一方では,そのようなひな形ライセンスが確立するにつれて,黙示の契約の認定は自然に放っておいても緩やかになってくるのではないかと思います。だから,あまり得する,損するということはないし,できれば黙示の契約の認定に頼るよりは,長けた人というよりは,汗をかいた人ということでもあるので,その人はその人でいいし,汗をかかない人でもおのずと黙示の契約の認定の標準が下がってきて,放っておいても,黙示の契約の認定が緩やかにはなってくるのではないかというように思っております。

【龍村座長】ありがとうございました。ここの資料上は,明示又は黙示ということで明記されてございます。

そのほか,いかがでございましょうか。よろしいでしょうか。

では,前回の議論及び本日の議論を踏まえれば,対抗問題の導入と出版権制度の関係につきましては,本ワーキングチームとしては,制度的措置を講じる必要は特段ないものと考えられたかと思います。ついては,本論点に関し,審議経過報告書には,4ページから5ページに掛けての「審議経過報告書の記載(案)」の記載を反映させたいと思いますが,それでよろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【龍村座長】ありがとうございます。では,そのように取り扱わせていただきたいと思います。ありがとうございました。

では,以上で,前回のワーキングチームで引き続き議論を行うことといたしました論点の検討が終わりましたので,本ワーキングチームの対抗制度の導入に関する検討結果の取りまとめに向けまして議論を行いたいと思います。

事務局におきまして,審議経過報告書案を用意していただいておりますので,これに基づいて議論したいと思います。

論点がたくさんございますので,区切って進めていきたいと思いますが,1点目が対抗制度導入の是非,2点目が対抗に伴う契約承継の在り方,3つ目が著作権分野における他の制度等との関係,そのように大きく3つに区切って進めさせていただきたいと思います。

まず1ページ目から19ページ目までの「はじめに」ですね。それから,1ポツ,問題の所在,2ポツ,対抗制度導入の是非に関して,事務局より説明をお願いいたします。

【澤田著作権調査官】それでは,資料3を御覧ください。この資料3につきましては,これまでのワーキングチームの資料を統合して,議論の結果を踏まえて,いろいろ追記させていただいております。追記した箇所には,基本的には黄色いハイライトを付しておりまして,あとは細かな点ですとか,脚注での意見の御紹介等についても,そのほか追記をしているところです。

まず1ページ目の「はじめに」の箇所では,今回は,利用許諾に係る権利の対抗制度の部分だけ報告することとなっておりますので,そこに至る検討の経緯などについて説明した内容となっております。

内容といたしましては,本ワーキングチームの課題としましては,対抗制度の問題のほか,独占的ライセンシーに対して差止請求権を付与する制度というものもございますけれども,両問題については,それぞれ独立して存在し得る制度に関するものであるというところから,まず対抗制度の導入について検討を行い,その後,独占的ライセンシーに対して差止請求権を付与する制度の導入について検討を行うといったような進め方について御承認いただいたところであります。

その後,対抗制度につきましては諸々の検討の結果,当然対抗制度の導入が適当であるといった結論が得られました。そのため,この結論について,法制・基本問題小委員会にこの検討結果をお諮りするといったことを書かせていただいております。

最後の「なお」といったところで,独占的ライセンシーに対する差止請求権の付与につきましては,独占性の対抗制度の導入と併せて,別途,権利行使の実効性を損なわないような制度の在り方について継続して検討を行うといったこととさせていただいておりますので,それにつきましては,また御議論の上,一定の結論が得られた段階で,改めて報告することとするといったことを書かせていただいております。

内容に入りますけれども,追記した箇所としましては,6ページ目に飛んでいただきまして,まず対抗制度導入の必要性の部分でございます。

現在の社会における状況,実務上の対応が難しいこと,関係者の意見などを踏まえまして,対抗制度の導入の必要性というのが認められたということを書かせていただいております。6ページ目のエのすぐ下のパラグラフでは,頂いた御意見としまして,やはり現在把握されている内容は,取引の安全という観点からは大きなものであって,対抗制度導入の必要性は高いといった御意見ですとか,知財立国として安定した知財の利用・活用をするには,安定的な法的基盤を提供することが重要であり,一部譲渡等では対応し切れない部分があるので,安定的な制度を作っていくことが必要であるといったような意見が示され,対抗制度の導入が必要であることについて意見が一致したとさせていただいております。

続きまして,対抗制度導入の許容性に関する部分でございますけれども,8ページ目に飛んでいただきまして,法的な分析の部分であります。法的な分析として,対抗制度が導入されなかった場合には,ライセンシーは,利用許諾に基づく利用を継続することができなくなるという不利益を被ることとなります。また,ライセンシーは事前に著作権の移転や破産を知り得ず,自らのコントロールできない事情によって,利用許諾に基づく利用を継続することができなくなるといったところがございます。他方で,対抗制度が導入された場合には,譲受人等の第三者は,ライセンシーの利用を差し止めることができなくなるという不利益を被ることとなるものの,自ら利用を行うことができ,また,他者に利用を行わせることもできるという地位には変わりはないものと考えられるとさせていただいております。こうした両者のバランスを踏まえますと,対抗制度の導入がされなかった場合にライセンシーが被る不利益に比して,対抗制度の導入がされた場合に譲受人等の第三者が被る不利益の程度は大きくないと評価することができるものと考えられるとしております。

続きまして,9ページ目では実態を踏まえた分析の検討結果の部分でございます。実際上の不利益というのは,やはり譲受人に生じる実際上の不利益というのは,対抗制度が導入されない場合にライセンシーが被る不利益に比して大きくないと評価することができるであろうとしております。また,独占的な利用を期待している譲受人に生じる実際上の不利益についても,同様の評価が可能であると考えられるものの,そうした期待を有さない譲受人に比しては,相対的に多いだろうとしておりますが,この点に関しましては,多くの委員の先生方からは,デューデリジェンス等によって確認ができているので,その点も問題なかろうといったような御意見を頂いております。デューデリジェンス等につきましては,また後ほど言及させていただきます。

そして,「ウ.検討結果」でございますけれども,こうしたライセンシー保護の要請と譲受人の保護の要請とを比較衡量した結果を踏まえれば,対抗制度の導入を正当化することができるものと考えられるとしております。

9ページ目以降が,対抗力付与の在り方に関する部分です。10ぺージ目で法的な分析といたしまして,やはり譲受人に与える不利益が大きくないと評価することができることを踏まえれば,善意の譲受人を保護する要請はライセンシーの保護の要請に比して大きくないと考えられることから,当然対抗制度の導入が適切であろうということを書かせていただいております。

続きまして,10ページ目以降が譲渡契約の実態を踏まえた分析という部分でございまして,現時点でも,譲受人は著作権の譲受時に他者への利用許諾の有無の確認を行っている場合が多いといったような状況が確認されておりまして,また,表明・保証もさせているだろうといったことを記載しております。

11ページ目の下からが,第1回ワーキングチームで議論になりましたところについて事務局で追記をさせていただいた箇所です。第1回では,著作権譲渡がなされる際に当該著作物に係る利用許諾の有無の確認に際して,利用許諾契約上の秘密保持義務を理由として,譲受人がライセンシーから利用許諾の有無について開示が受けられないような事態が生じないのかといった御指摘がございました。

この点に関し,調査研究においては,特に秘密保持義務を理由として開示に問題があるとの指摘は見られなかったところでございます。また,デューデリジェンスの実務におきましては,通常の場合には黙示的に秘密保持義務の例外と解釈される余地があるとの指摘も存在しており,その内容については脚注18で紹介しております。

ワーキングチームにおきましては,例えば譲渡人が利用許諾契約の存在及び内容について秘密保持義務を負っている場合には,利用許諾契約の存否について,言えない,あるいは,答えられないなどと回答することになり,そのような回答を受けた譲受人としては利用許諾契約の存在に関するリスクを認識することができるとの意見もございました。

また,既に当然対抗制度が導入されている特許法における議論が参考になるのではないかという意見がございましたので,特許法で当然対抗性が導入された際の議論についても追記しております。その際には,通常実施権設定契約の存否及び内容について譲受人に対して譲渡人が告知する義務を負う旨の規定を設けるかという,告知義務の創設の要否という形で議論がなされておりました。

その際には,告知義務が法定されていない現状においてもデューデリジェンスへの回答に問題が生じていないこと,また,実務上の対応の工夫等によって,回答は利用許諾契約上の秘密保持義務に抵触されていないと考えていることなどから,告知義務を法律上設ける必要はないとの結論になっております。

以上を踏まえますと,利用許諾契約上の秘密保持義務の存在によってデューデリジェンスが機能しなくなっているという状況は確認されておらず,仮に利用許諾契約上の秘密保持義務を課されている場合であっても,譲受人は多くの場合については,利用許諾契約の存在及び内容について開示を受けることができ,そのような場合でなくても,少なくとも利用許諾契約の存在に係るリスクを認識することは可能であると考えられるといった形で整理させていただいております。

13ページ目以降が対抗制度に関する関係者の意見を踏まえた検討については16ページ目の上の部分に追記をしております。関係者の意見を踏まえますと,譲渡契約時に利用許諾契約の存在に関して確認をすることは十分に可能であるというふうに評価できるとともに,登録については,登録に係るコストに関する懸念,悪意者対抗制度,事業実施対抗制度については,立証の負担,困難性等に関する懸念が示されていることから,ライセンシーの利用許諾に関わる権利の保護の観点からは,当然,対抗制度を採用するのが妥当であると考えられるとさせていただいております。

続きまして,16ページ目以降の他の知的財産権法との整合性に関しては,19ページ目に追記をさせていただいております。著作権法においては,特許法において当然対抗制度が採用された理由のうち,主要なものは当てはまり,商標法において登録対抗制度が維持された理由は当てはまらないと評価できることから,他の知的財産権法との整合性の観点からは,当然対抗制度を採用することが望ましいものと考えられるとさせていただいております。

エ.では,以上見てきたところ,民法法理との整合性や契約実務に与え得る影響,他の知的財産権法との整合性を勘案しますと,利用許諾に係る権利については当然対抗制度を導入することが適切であると考えられるとさせていただいております。

(4)のまとめにつきましては,必要性が確認されることなどから,あと,許容性を確認してきたところから,制度の導入によって著作権分野における他の制度に悪影響を及ぼすなどの事情がない限り,当然対抗制度を導入することが妥当であると考えられるというふうに結ばせていただいております。

私からの説明は以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,ただいま事務局より説明いただきました内容に関し,御意見,御質問等がございましたらお願いいたします。いかがでしょうか。

ほぼ前回までの議論の中で指摘があった箇所についての追記であるというように思われます。よろしいでしょうか。

ありがとうございました。では,この箇所はこのような形で進めさせていただきます。

続きまして,20ページ目から26ページ目ですね。3ポツの対抗に伴う契約承継の在り方というパラグラフ,段落になりますが,事務局より説明をお願いいたします。

【澤田著作権調査官】資料3の20ページ目以降について説明させていただきます。対抗制度の導入に伴う契約承継の点について24ページ目に追記をしております。契約承継については,理論上,契約の承継を認め得る場面というのが存在するという法的な分析などもございましたが,著作権のライセンス契約については,多種多様な内容が含まれることでございますとか,一部分の契約の承継というのは望ましくないといった点などを踏まえまして,利用許諾契約に係る権利の対抗に伴う契約の承継に関しましては,一定の基準を法定して,契約が承継されるか否かが決定される制度を設けることが妥当ではないものと考えられ,契約が承継されるか否かについては,個々の事案に応じて判断がなされるのが望ましいと考えられるとしております。

この点に関しまして,本ワーキングチームにおきましては,その解釈の考え方につきまして,当然対抗を認める規定の解釈として一定の場合に当然に契約が承継されることは考えられるとの意見でございますとか,契約の承継については法律で規定しない場合には,当事者間で契約の承継に関する合意が認められない限り,当然に契約が承継されることはないものと考えられるとの意見を紹介させていただいております。

24ページ目以降が,若干,空中戦になるのですけれども,契約の承継について一定の場合には当然に契約の承継が認められるといったような考え方が存在した場合に,留保することによって,当事者間の合意によって,契約の承継を否定して,ライセンサーの地位というのを元の著作権者に留保することが可能かといった点について御議論いただきました。

そうしまして,25ページのところに追記箇所がございますけれども,御議論の結果,当事者間の合意によって,契約の承継を否定することは可能であろうといったところで,その合意の内容についても様々御意見頂きましたけれども,本ワーキングチームにおきまして,改正民法との関係で,不動産賃貸借につきましては,留保の部分に加えて,賃貸の合意を必要としているのは,権限を有しない賃貸人では修繕義務を円滑に履行できないなどの事情から賃借人に対して不動産賃借権の対抗に尽きない保護を与えているものと考えることができ,そのような考え方からすれば,著作物の利用許諾について利用許諾に係る権利の対抗に尽きない保護を与える必要があるのかということが問題となるという御意見ですとか,当事者が合意しない限り契約が承継されることはないという立場を前提に,当事者が明示的に留保する旨の合意をしていれば契約は承継されないといった御意見が示されたところでございます。

26ページ目は,契約の承継の有無による法律関係の差異といったものを紹介させていただいております。

説明は以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,事務局より御説明いただきました内容に関し,御意見,御質問等がございましたらお願いいたします。いかがでしょうか。

結論的には,一定の基準を法定して契約承継を決定するというアプローチではなく,個々の事案に応じた判断になじむのではないかというようなまとめになろうかと思いますが,この点はほぼ御異論ないところで承ってよろしゅうございましょうか。ありがとうございます。

そうしましたら,次に参りたいと思います。27ページ以降になります。27ページから43ページですね。4ポツ,著作権分野における他の制度等との関係,それと最後の5ポツ,まとめでございます。この箇所につきまして,事務局より引き続き御説明お願いいたします。

【澤田著作権調査官】資料3の27ページ目以降を御覧ください。著作権分野における他の制度等との関係ということで,まず著作権等管理事業との関係ということについて御検討いただきました。図などを追加しているところで,見ばえが異なっておりますけれども,内容として追記している箇所は多くはありません。まず34ページ目のところで,信託譲渡型の管理委託契約に基づく管理事業につきまして御検討いただきましたが,特段対抗制度の導入によって支障が生ずるような影響はないであろうといったところ,御異論なかったところかと思います。

なお書きでは著作権等管理事業者においては,利用許諾に係る権利の当然対抗制度の導入に伴う契約の承継については,個々の事案における解釈に委ねられるということを前提として,信託譲渡の前に利用許諾契約が存在する場合ですとか管理委託契約が解約された場合に,関係者間に混乱が生じたりすることがないよう,これらの場合に関し,管理委託契約や利用許諾契約において適切な規定を設けることが望ましいといったことを書かせていただいております。

そのほか,追記した箇所としましては,41ページのところでございまして,同様に委任型の管理委託契約,これは代理と取次,2種類ありましたけれども,こちらについても対抗制度の導入によって支障を生ずるような影響はないものと考えられるといった形で結ばせていただいております。こちらにつきましても,著作権等の譲渡がなされた場合に,関係者間に混乱が生じたりすることがないよう,著作権等の譲渡がなされた場合に関して,管理委託契約や利用許諾契約において適切な規定を設けることが望ましいと書かせていただいております。

続きまして,42ページでして,(2)出版権制度との関係につきましては,先ほど御議論いただきまして,資料2の4ページ目,5ページ目に記載させていただいた審議経過報告書案の記載をそのまま転記させていただきたいと思っております。

そして,42ページ目の(4)サブライセンスとの関係につきましては,図は追記しておりますけれども,それ以外,内容については修正しておりません。43ページ目の脚注の上の最後のパラグラフのとおり,以上のとおり,利用許諾に係る権利の対抗制度が導入された場合には,サブライセンスによってサブライセンシーが得る権利については,対抗制度の適用を受けるものと考えられるとさせていただいております。

そして,最後,44ページでございますけれども,まとめといったところでございまして,以上のとおり,これまで見てきましたとおり,利用許諾に係る権利の対抗制度についてはその導入の必要性が認められ,利用許諾に係る権利の安定性を確保するという対抗制度導入の目的や民法法理との整合性,制度の導入が契約実務に与え得る影響,他の知的財産権法との整合性や制度の導入によって著作権分野における他の制度に悪影響を及ぼすとは認められないことを踏まえると,当然対抗制度を導入することが妥当であるとさせていただいております。

また,契約の承継につきましては,一定の基準を法定して契約が承継されるか否かが決定される制度を設けることは妥当ではないものと考えられ,契約が承継されるか否かについては個々の事案に応じて判断がなされるのが望ましいとしております。

最後のパラグラフは,以上の本ワーキングチームにおける検討結果を踏まえ,適切な形で利用許諾に係る権利の対抗制度が整備されることが適当であると考えるとしておりまして,その次の部分につきましては,早期の対抗制度導入を求めるニーズがあることを踏まえますと,独占的ライセンシーに対する差止請求権の付与という,本ワーキングチームのもう一つの課題に関する制度整備に先行して制度を整備することが適当であるとしております。

説明は以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,事務局より説明いただきました内容に関し,御質問,御意見等ございましたらお願いいたします。

先ほどの議論で大方をカバーしておりますこともあって,御了承いただいたものとして承ってよろしいでしょうか。

ありがとうございます。それでは,このような形で考えたいと思いますが,最後に,全体を通しての御意見,御質問頂きたいと思います。

この件につきましては,本日の法制・基本問題小委で報告するというタイミングで予定しております。

では,そういう形でまとめさせていただきます。よろしいでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【龍村座長】ありがとうございます。

皆さんの御協力を得まして,スピーディーに議事を進めることができました。ありがとうございました。

その他御質問,特にございませんようでしたら,本日はこの程度にいたしたいと思います。

最後に,事務局から連絡事項がございましたら,お願いしたいと思います。

【澤田著作権調査官】本日はありがとうございました。先ほど座長からございましたとおり,審議経過を報告する法制・基本問題小委員会につきましては,本日16時より開催することを予定しておりますので,法制・基本問題小委員会の委員の皆様におかれましては,よろしくお願いいたします。

以上です。

【龍村座長】ありがとうございました。

それでは,以上をもちまして,今期の著作物等のライセンス契約に係る制度の在り方に

関するワーキングチームを終了させていただきます。本日はありがとうございました。

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