議事録

第3回国語分科会日本語教育小委員会・議事録

平成19年10月4日(木)
9:30〜12:00
都道府県会館 408会議室

〔出席者〕

(委員)
西原主査,杉戸副主査,岩見,尾﨑,佐藤,中野,山田,井田各委員(計8名)
(文部科学省・文化庁)
町田国語課長,氏原主任国語調査官,西村日本語教育専門官,中野専門職ほか関係官

〔配布資料〕

  1. 第2回国語分科会日本語教育小委員会・議事録(案)
  2. 第2回日本語教育小委員会ヒアリングを受けての議論のまとめ
  3. 財団法人浜松国際交流協会からのヒアリング資料
    (浜松市に定住する外国人に対する日本語教育の取り組み)
  4. 杉澤経子氏からのヒアリング資料?
    (「地域における日本語教育の実施体制について」)
  5. 杉澤経子氏からのヒアリング資料?
    (平成10年度文化庁委嘱事業報告書「日本語教育におけるネットワークに関する研究−事例研究−」第16章国際交流協会等における日本語事業担当者に関する一考察)

〔参考資料〕

  1. 「ハイスニュース:日本語版 №266」(財団法人浜松国際交流協会)
  2. 「日本語ボランティアセミナー2006」(財団法人浜松国際交流協会)

〔経過概要〕

  1. 事務局から配布資料の確認があった。
  2. 前回の議事録(案)を確認した。なお,細かい文言修正等については,1週間以内に事務局まで連絡することとされた。
  3. 事務局から,配布資料2についての説明があった。
  4. 西原主査からヒアリングの説明者について紹介があり,それを受けて,説明者からも簡単な自己紹介があった。
  5. ヒアリング(1)
    堀永乃氏(財団法人浜松国際交流協会日本語コーディネーター),三池アリセミホ氏(財団法人浜松国際交流協会ポルトガル語相談員)から,地域日本語教育の在り方についての意見発表があり,その後,委員との間で意見交換が行われた。
  6. ヒアリング(2)
    杉澤経子氏(東京外国語大学多言語・多文化教育研究センタープログラムコーディネーター)から,地域における日本語教育の在り方についての意見発表があり,その後,委員との間で意見交換が行われた。
  7. 上記5及び6の終了後,更に自由な意見交換を行った。
  8. 次回,第4回日本語教育小委員会は11月1日(木),第5回の日本語教育小委員会は12月6日(木)にそれぞれ開催されることが確認された。なお,次回は今回に続き,有識者ヒアリング及び意見交換を行う予定であること,また会場については文部科学省ビル「10F3会議室」で開催されることが確認された。
  9. 意見発表及びその後の意見交換における意見の要旨は,次のとおりである。

(1)堀永乃氏,三池アリセミホ氏の説明と,その後の意見交換

浜松国際交流協会の堀と申します。いつも二人でおりまして,私の方がブラジル人で,彼女の方が日本人だとよく間違えられます。私のやらせていただいている仕事のアイデアのほとんどを彼女が生み出してくれているようなものなので,二人してこういう形で出させていただくのは光栄であり,かつ,とても緊張しております。日本語を間違えないように頑張りたいと思いますので,どうぞよろしくお願いします。
お手元の,資料3で御覧いただけますように,浜松市に定住する外国人に対する日本語教育の取組ということで,浜松市の簡単な御説明をさせていただきます。
浜松市は,平成19年4月より政令指定都市となりまして,いわゆる「ものづくりのまち」,スズキ自動車,ヤマハ発動機,ヤマハミュージック――楽器メーカーの方のヤマハさん,それからホンダ,ホトニクス等,製造業が主にある人口82万人の都市でございます。外国人集住都市会議は当時の北脇保之市長が声を掛けたことから始まりまして,浜松市は外国人集住都市ということでも,全国では名が知られているのではないかと思いますが,グラフにありますように,人口の約4%,3万2,813人が外国人市民であるということが8月末現在で分かっております。浜松市教育委員会のデータによりますと外国籍の子供の数は,既に1,600人を超えているということですので,非常に外国人児童及び成人の人口が増加している傾向にあるということがはっきり分かっております。また,浜松市に点在して,外国人の方が定住されているのですが,中には新しい分譲地の一角を丸々ブラジル人が購入してブラジル人コミュニティーを作るという動きもあったり,大体3,000万円〜4,000万円台の新築マンション等も購入しているということから,日本人と変わらない住環境を備えつつあるということや,また,エスニックビジネスの発達によって,浜松市内において自国の文化で十分生活することができるということから,日本人と余り変わらない環境が作り出されているのではないかということが指摘されております。
次の資料を御覧ください。こうした中,浜松国際交流協会としましては四つの柱を設けまして事業を行っております。まず一つ目が,異文化の体験及び自国文化,それは日本も含めてなんですが,それぞれの文化を紹介し,それを体験することによって相手の文化を理解するという意味で,国際交流という分野の交流。それから,外国人市民を対象にして,浜松市内,浜松の社会において,より住みやすい環境を作るための共生の分野。そして,外国人も含めてなんですが,日本人の市民の方たちに対して国際理解を深めて,更に国際協力に対しても柔軟な対応ができるようになることを目的とした講座・研修事業。そして,最後になりますが,特にポルトガル語相談員の三池がここで活躍しているのですけれども,お手元の資料で参考配布とさせていただきましたハイスニュースを御覧いただくと分かりますように,ニュースを通じて各団体及び関係者の皆さんに対し,私どもの取組を御紹介させていただいているほか,法律生活相談会ということで弁護士の方,行政書士の方など専門家の方に来ていただいて,私どもでは対応できない問題に対しても非常に協力していただいて解決を図っているという状況です。
日本語教育事業ということでしたので,HICEの日本語教室をここで紹介させていただきたいと思います。写真を見ていただきますと分かりますように,少人数制グループと多人数制の教室と2種類ございます。事業そのものは,3種類になります。まず一つ目が,「日常生活のための日本語教室」。これは年間延べ約120人程度の方が利用されていますが,浜松市の受託事業という形でさせていただいております。レベルを三つに分けまして,「みんなの日本語」という市販のテキストを使わせていただきながら,文型を中心とした授業を行っております。また講師の方は,日本語教師養成機関等において,420時間の養成講座を修了されたり,日本語教育能力検定試験に合格されたり,浜松市にはもう13年以上も前から日本語教室がありますので,そういった経験豊富な方が,メーンとなって授業をされております。
2番目に,「すぐに使える!日本語会話」です。こちらは,レベルを同じように三つ設けておりますが,場面において日本語におけるコミュニケーションが必要な場面を抽出し,その中でも会話を重点に置いた教室で,日本語アシスタントと呼ばれる方たちが少人数のグループを作りまして,グループでクラスを運営しております。独自プリントとありますのは,それぞれがこういった場面に必要なものがあるということで,独自に作られていて,それを使って会話練習を行っております。ただ,この括弧書きにさせていただきました「レベル1」は,日本語ボランティア養成講座――これは後ほど説明させていただきますが,その講座を修了された方が実際に授業を行うというところで,突然授業ができるわけでもないということから,メーンの講師の方が必ず付いておりまして,その方が10回の授業のうち2回授業を行います。その授業を見ながら,教案を作ったり,教材を作ることを通してアシスタントとして経験を踏み,その後,「レベル2」「レベル3」の教室を担当するという形で構成させていただいております。
三つ目でございますが,こちらは「はじめての日本語」と言いまして写真で言いますと,上の方です。右側に女性が一人立っていて,3人の学習者の方がいらっしゃるのですが,こちらは日本語サポーターと呼ばれる方たちがボランティアをされて,少人数制グループで,主に平仮名,片仮名,漢字のいずれかを教える教室でございます。少人数制にしておりますのは,ボランティアさんの中には,多数における指導はできないという方もいるので,1対1あるいは1対2,多くても1対3から5までの方たちを対象にしているもので,それぞれのニーズに合わせた教室活動ができているのではないかと思っております。
続きまして,日本語ボランティア養成講座というのがございまして,先ほど出てまいりましたが浜松市においてはちょうど尾﨑委員が来られたころになりますので,もう10年近くになるのですが日本語ボランティア養成講座を開講しております。これは,毎年50人の方が受講されますが,募集が始まってから3日で満席になるという人気の講座でございます。この講座を受講される方の背景には,もともと海外生活経験者の方もいらっしゃるのですが,最近では,あと2年したら退職になるんだけれども,その後どのような活動ができるか分からないから,取りあえずやってみようという男性の方も,約1割はいらっしゃいます。50名中大体45名が修了証を手にされますので出席率の大変高い講座となっておりますが,この講座を修了された方たちは主に,浜松国際交流協会HICEの教室,また,浜松市教育委員会の主催されている日本語教室「はまっこ」,母国語教室「まつっこ」,それから,ボランティア団体といったところで活躍していらっしゃいます。もちろん個人でも活躍されている方はいらっしゃると思います。
2番目に日本語ボランティアスキルアップ講座ですが,これは静岡大学国際交流センターと共催という形で毎年させていただいております。この講座の目的は,これまで日本語ボランティア養成講座を受講された方,それから既に講座を受講されて久しい方から日本語を教えるということに対する知識や技術をもう少し深めたいという声が上がりましたので,そういったニーズにこたえるために開催させていただいております。ただ,こちらのスキルアップ講座なんですが日本語ボランティア養成講座を受講されてすぐの方と,これまでに受講されて既に活動されている方たちと,人数がちょうど半分半分ぐらいになる形で,開講させていただいておりまして,定員は50名,こちらもすぐに満席になるという講座でございます。
こうしたことから,日本語ボランティアという活動に対して興味を持っている方,それから活動そのものをしている方が浜松市内にもかなりたくさんいらっしゃるということが分かったのですが,こうした方たちにより日本社会全体を見渡しながら日本語ボランティアの在り方であったり,自分自身に課せられる役割,それから御自身がこういったことを学びたいといった希望やニーズにこたえるために5年前から日本語ボランティアセミナーを開講させていただいております。このセミナーは毎年200人の方が受講されますが,今年度も平成20年1月19日にやらせていただくんですけれども,浜松市と共催させていただきながら,より社会的に浜松市内全般,日本語ボランティアのみならず,教育関係者であったり,行政関係者,それから国際理解を主に活動されている方など,幅広い方,そして全国に向けて浜松ということをPRして情報発信させていただこうということからも位置付けられておりまして200人の受講者の方のほとんどは,浜松市内,浜松市近隣地域,磐田,湖西,豊橋といったところで,周りの外国人集住都市から参加される方もかなりたくさんいらっしゃいます。
この日本語ボランティアセミナーにつきましては,お手元の参考配布である昨年度の報告で見ていただくことができますが,日本語だけでなく,いろいろな分野で活躍されている方たちに登壇していただいております。先ほどありました共生の部分で御説明させていただきました「ぴよぴよクラス」につきましても,前回の日本語ボランティアセミナーで御紹介させていただいておりますので,また,お時間のあるときに目を通していただければ幸いです。
浜松市としましては,そういった国際交流協会のみならずボランティア団体等でも日本語教育支援というのを非常に盛んにさせていただいておりますが,今年度は浜松学院大学というところで日本語教師養成プログラムという形で開講されました。10月1日からのスタートでして,私ども浜松国際交流協会は「多文化共生論」という分野で,委嘱を受ける形を取らせていただいております。この「共生論」につきましては,日本語ボランティア,日本語教師ではなくて,いろいろな分野,特に,産業界であったり,国際理解など,主にそういったことを御専門にされている有識者の方をゲストにお招きしまして御講演をしていただきながら,受講されている方の知識を深めていただくための講座とさせていただいております。また,この浜松学院大学の養成プログラムですが,平成19年度,文部科学省の「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」といったところで,委嘱を受けているということから,私どもも非常に期待しているプログラムでもあります。
さて,これからが少し本題になってくるんですけれども,今まで養成したボランティアさんにどのような形で地域で協力していただき,活動を広げていくかというのは浜松国際交流協会の職員としても,非常にやっていかなければいけない内容の分野であると考えております。そこで,私たちとしましては,「ものづくりのまち浜松」かつ「外国人集住都市である浜松」ということを逆にいい面で利用するということから,企業日本語コーディネートを始めました。本来であれば企業独自で日本語教室を開催していかなければいけないと思いますが,そういったノウハウが,企業そのものにあるわけではございませんので,どういった指導者が必要なのか,受講される方たちにどのような形でPRすればいいのか,講座そのもののカリキュラムをどうやって組んだらいいのかといったところをコーディネートさせていただいております。
これは,昨年度平成19年1月からになるんですが,ヤマハモーターアシストというヤマハ発動機の人材派遣会社でまず試行的に始めました。教えていただいているボランティアさんは,正に日本語ボランティア養成講座を修了された方で,かつ日本語アシスタントとして会話クラスの授業を1年間通してされた方にお願いしております。また,二人でやるということから,仲間意識が非常に強くなっていまして,問題解決も二人で行うことができるということから,受講者の方及びボランティアの方からも大変好評を頂いております。
ヤマハモーターアシストのノウハウを生かして,次にステップアップをしていかなければいけないというところで,ちょうど御縁のありました「ヤマハ発動機株式会社IMカンパニー」におきまして,日本語教室が立ち上がったのは,4月18日になります。ヤマハ発動機IMカンパニーというのは,ヤマハ発動機の社内カンパニーでございまして,マウンター生産,つまり機械を作る機械を作っている会社でございます。約140人の外国人労働者が働いておりまして,IMカンパニーとしましては,日本語教育は企業としてやっていかなければいけない分野であるというお考えの下に,試行錯誤することもいいではないかと,でき上がっている教室をそのまま持ってくるのではなくて,一緒になって教室を作っていきましょうというスタンスで教室が始まりました。見ていただきますと分かりますように,日本語の入門レベルの方たちを対象にした教室と,初級レベルの方たちを対象にした教室,そしてもう日本語は十分にできているんだけれども,リーダーとして活躍していってほしいから,漢字の勉強もしなければいけないという方たちに対しては,漢字のクラスを3クラス設けさせていただいて,開催させていただいております。
この教室をやることによって,企業と地域,また国際交流協会が手を結び合って,そのまちづくりそのものに携わっていかなければいけない,外国人労働者に,より良い環境の中で,働いていただくような形を採らなければいけないだろうということから,今年度,企業日本語連携推進協議会が立ち上がりました。これはちょうど文化庁の委嘱を頂くことになりましたので,皆様にもより御説明しやすくなっているのですが,新聞等々で発表されております,いわゆる企業における日本語をどのようにやっていったらいいのかというところを協議していただく会でございます。
また,この企業日本語連携推進協議会と,ヤマハIMカンパニーの教室を振り返りながら,やはり企業日本語カリキュラムが必要であるという声がボランティアさん及び企業関係者から上がりましたので,私どもといたしましては,浜松国際交流協会とIMカンパニーの2団体が一緒になって,開発研究を行うということを決めました。また,その研究に当たりまして全くノウハウのない私どもに対しまして国立国語研究所の柳澤先生に御協力いただけるということでしたので,3機関が一緒になって研究をして,調査をして,本当に必要な企業の日本語というのはどういったところにあるのかというのを分析しながら,それに合ったカリキュラムを作っていきたいと考えております。こちらも,10月1日に文化庁より委嘱を受けることになりましたので,より内容の充実と協力体制が強化されるのではないかなと思っております。
なぜ,これからこういった事業をやっていかなければいけないと私どもが考えたのかというと,日本語ボランティアの活用についても,すべて外国人の事情を知らなければ,そういった事業はできないということが,これまでを振り返ってみて分かります。特に,私は2002年10月から日本語コーディネーターとして配置されておりますので,今年でちょうど5年目を迎えておりますので,いつも同じものをやっていても仕方がないだろうということから,新しい取組に対してもチャレンジしていくことに決めました。こういった私どもの事業の案というものはすべて,外国人相談員が常に在駐していますので,彼女たちから意見を聞いて形作っております。
それでは,うちのポルトガル語相談員の三池の方からこの多様な外国人事情とその課題について御説明をさせていただきたいと思います。

○説明者(三池)
こちらには,定住化に伴って乳幼児を抱える家庭が増加していることから日本語を習いたいが,乳幼児を抱えているので,教室には通えない,だからプライベートで教えてくれる先生を紹介してくださいとの相談がたくさんあります。できれば自宅へ来て教えてくださいということで,先生方を紹介してあげて,自宅へ行って教えているんですけれども,小さなお子さんを抱えているので,母親が集中して勉強できるのは本当にわずかな時間です。それでHICEでは,託児付きの日本語教室を開催することを考えました。
子供の就学により親子間における言葉の壁,これについては今まで私がたくさんの相談を受けてきました。日本の幼稚園や小学校とかに通い始めると,子供は母国語を忘れてしまい,親子でもコミュニケーションが取れない,会話ができないという家庭がたくさん生まれます。それで親も学校から来るお知らせとかにもちゃんとこたえられるように,読めるように,理解できるようになりたいということで,日本語を学ぶ必要があります。また,いずれは帰るだろうということで,子供を外国人学校に通わせながら,安定した職に就いていないために,収入が減るとすぐ日本の学校に入れてしまう。そして,残業があって収入が増えると,また外国人学校に転校させるという親がいます。自分の都合ばかりで,子供の気持ちとかストレスを考えない親に対して,子供の教育に対する教育観の啓発も必要です。
日本語教室に通った経験がない外国人からは,バイリンガルで教えてくれる教室を紹介してほしいという要望がたくさん寄せられます。バイリンガルで教えてくれる日本語教室は余りないので,今HICEにおいて考えております。

○説明者(堀)
ということから,今年のテーマとして,日本語教室を多様化させるということで,この10月から始まった講座に関しましては,託児付きで日本語教室を始めました。「すぐに使える日本語会話」というのが(火)の朝に行わせていただいている関係で乳幼児を抱えるお母さん,これはブラジル人だけではなく,中国人,フィリピン人の皆さんも授業を受けていらっしゃいます。また,バイリンガル教師に関しましては,こちらも文化庁の委嘱を頂きましたので,平成19年12月9日から,「バイリンガル教師養成講座」というのをスタートさせます。
企業との連携,外国人労働者の環境整備というのが私ども国際交流協会としても大きな課題になっているのではないかなと考えております。先ほど三池さんの方から話がありましたように安定雇用を確保しなければいけないということ,そしてブラジル人,フィリピン人,中国人,どの人材であっても,高度人材を育成していかなければいけないということ,これはものづくりの浜松としては,次世代を担っていただく方をやはり外国人に求めざるを得ないという状況があることから,高度人材,日本語にもたけていて,外国の文化も十分に理解している人が必要になっているということが感じられます。そうしたことから,コミュニケーション能力を高める日本語教室が必要ではないかということも分かりましたし,日本語指導者はボランティアでいいのか,若しくは日本語教師でなければいけないのかといった議論も最近はされ始めました。企業における日本語教室は,学習としての日本語教室だけでなく,企業内の共生社会を作るための日本語教室でなければならないのではないかと考えますと,ボランティアの皆さんが入られることは第三者という立場から入られますので,人的なクッションにもなり得るのではないかということから,私の考えとしましては,日本語教師でなくてもいいのではないかと考えております。
これからの目標としましては,私ども浜松国際交流協会独自で事業を立ち上げても連携がなされないと,そういった課題というものには具体的な取組ができません。口で言っているだけではなくて実際に行動しなければ連携は作れませんので,かなりの数を,そういった市教委であったりハローワークであったり企業に対して,呼び掛けや,窓を開けていただけるようなお願いをさせていただいております。問題解決はチームワークによるものでなければならないという視点で,私どもはさせていただいておりますが,横のパイプをより強めていき,外国人市民に対する支援というのをより強化していきたいと思っております。
一方で,浜松市内における市民の意識向上と,活動の活性化が必要ではないかと考えております。外国人市民の自立というのも,そろそろ真剣に考えなければいけないと考えておりまして,私どもとしましては,10月14日からブラジル人の,ブラジル人による,ブラジル人のための「日本語教室」を北部公民館でさせていただきます。これはブラジル人コミュニティーの樹立,また,確固たる次世代の育成というのを目標にしております。日本人の個人や,ボランティア団体の皆様にも協力支援というのをお願いしていかなければいけないということから,活動に対する拠点地でなければいけないのではないかなと,考えております。
最後になりますが,個人として,私が日本語コーディネーターとして考えていることを少し述べたいと思います。浜松国際交流協会は全部で9人の職員でやっております。事業から考えますと,基本財産3億円の中でいろいろな事業をさせていただいておりますが,事業をカットするべきか,人数を多くするべきかというぐらいの議論もされるほどであります。現状から考えますと,日本語コーディネーターは,日本語コーディネーター業務のみならず,そこから派生する様々な事業をやっていかなければなりません。私自身としましても,事業担当主という形で事業の責任者になっておりますので,日本語教育だけでなく,交流,共生における様々な事業を担当していかなければいけません。そうしますと私一人では到底無理な話ですので,次を担っていただくコーディネーターの育成もしなければいけませんし,深い理解を持ってくださる協力者をもっと多く作らなければいけないということも考えております。いずれにしても,今置かれている現状の中でどのようにうまくやっていくのかということが私の課題になっているのではないかなと考えておりますので,引き続き御指導いただけると幸いです。

○説明者(三池)
私は,相談員としてみんなの要望にこたえられるように,情報を常に収集しなければいけません。法律とかルールの変更は,まず最初に知っておかなければならないので,毎日無料雑誌だとか新聞を読んで勉強しなければいけません。また,ブラジル人コミュニティーに対して,自立していけるように教育をしなければいけません。間違ったところを指摘したり,ルールを教える立場でもあります。これからも,相談員として様々な職場や行政関係者にブラジル人コミュニティーの状況を伝えて,より良い環境作りをお願いしていきたいと思います。どうぞよろしくお願いします。

○説明者(堀)
以上です。ありがとうございました。

○西原主査
ありがとうございました。それでは,お二方の御説明に対して何か確認,質問,コメント等ありましたらどうぞ。はい,どうぞ。

○岩見委員
とても先駆的な,いろいろな事業をやっていらっしゃるのがよく分かりました。幾つか確認,質問をさせていただきたいと思います。
2ページ目のHICEの日本語教室のところで幾つか。?,?,?とありますが,それぞれの支援者と言いますか先生と言いますか,講師という言葉が書いてありますが,講師についての手当と言いますか,謝金については,それぞれどうなっていますか。

○説明者(堀)
「日常生活のための日本語教室」は,12回の講座で,1回2時間の講座になります。謝礼金は,交通費を含めて5,000円お支払いさせていただいております。ただ,こちらの講座に関しては,交通費というのは支払われませんので,5,000円に税込みですと,4,500円がお手元に残るという形になります。2番目の「すぐに使える!日本語会話」ですが,これは先ほど申しましたように,少し経験のある方と全く経験のない方とで差を設けさせていただいております。メーンの講師の方は一人だけになりますので,この一人の方は「日常生活のための日本語教室」と同じ5,000円を支払わせていただいております。また,アシスタントの方で少し経験のある方は1回当たり2,000円,全く経験のない方には,1,500円の交通費という形で,実費をお支払いさせていただいております。3番目の「はじめての日本語」ですが,これは5回のコースでして「日常生活のための日本語教室」の始まる前段階の教室という位置付けもあるものですから,こちらの講座は,5回の1コース当たり5,000円の交通費を支払わせていただいております。

○岩見委員
その区分けですけれども,きちんとした区分けの条件があるわけですね。その中で特に担当している方の間で,何か問題といったことは起こっていないのでしょうか。

○説明者(堀)
特に言われたことはないのですが,「すぐに使える!日本語会話」では,当初は皆さん一律同じ交通費だったんです。ただ,それは私どもの予算の関係もあるものですから,3クラスあるうち,1クラスだけはメーンの先生と二人のアシスタントで,二つ目のクラス,三つ目のクラス,言わばレベル2,レベル3に関しては二人の先生なんです。なので,ここが終わってしばらく経験を積んだ人が上の教室をやりますので,2,000円という講座でやらせていただくことによって,自分は少し経験を積んだんだなというような気持ちになるようで,2,000円にしてから,より意欲が増したという傾向はあります。

○尾﨑委員
浜松の取組をとても楽しみにしているんですが企業の側からHICEの方にアプローチをしてきて,一緒に企業の中での共生とか,企業で働く人のための日本語教育,さらには技術を上げるための日本語教育をやろうと,これがどうなるかというのは多分いろいろなところが注目していると思うんです。幾つかお聞きしたいんですけれども,まずこのヤマハのIMカンパニーに勤めている140人の外国人の人はどういうビザステータスなのか,その中には研修生というカテゴリーも入っているのかどうか,その辺りはどうですか。

○説明者(堀)
研修生は全くおりません。彼らは南米日系人です。日系人と結婚している人のビザは,日系人と同じですね。

○尾﨑委員
ありがとうございます。なぜそういうことを聞いたかというと,どうも日系の方が今後大幅に増えるという見通しはないんじゃないのか。増えるとすれば,また事実増えてきているのは,研修生と呼ばれているカテゴリーの方です。3年でいずれ帰るとか,その3年を5年に伸ばそうとかという議論があるんだけれども,いずれ帰ってしまう方と,ずっといる可能性が高いから一緒にやろうという方では,随分違うので,まずそこをお聞きしたかったんです。
それから,IMカンパニーの中の日本人の従業員の方は,この教室とどのようにかかわるんでしょうか。

○説明者(堀)
実は,前回地域日本語教育連携推進協議会で報告させていただいたんですが,日本人の方からの反応というのは,アンケートを取らせていただいたところ,日本語教室に外国人が通っているということで,その人に対して自分がアプローチしやすくなった,つまり,接しやすくなったという話がありました。また,自分の会社の中で教室が行われているので,朝礼などで,昨日教室に行ったのかどうかとか,行かせるような促しとか,なぜか,自分からもしてしまうような,そういう環境ができ上がっているようです。先ほどの話の中にありました,研修生ではいという様子をここで改めて強調させていただきたいのですが,研修生の方というのは,日本語が仕事にどうしても必要になってくるということから特段講座をされていらっしゃると思うんですが,このIMカンパニーには,研修生は全くいないんです。外国人労働者のほとんどが日系ブラジル人ですが,残業しないと生活がどうしてもやっていけないということで,残業を理由に授業を休まれる方もいらっしゃるんです。そもそもブラジルの方のお祭り好き,パーティー大好きというところもあったものですから,そういった方たちに対しては,責めることは一切せず,次の教室に参加できるような形で教室を開催していこうということが社内の中でも出ておりますし…。

○尾﨑委員
今のこととすごく関係あるんですけれども,三重大学留学生センター講師の藤本さんが前に調べて教えてくれたことなんだけれども,どうも日系のブラジルの方の1%ぐらいしか地域の教室に通っていないようだという報告があって,実際にいろいろな事情で教室に来ていない。そういうブラジルの方たちにどうやって日本語の勉強をする機会を作るかというと,一つは,もう職場でもって仕事の中に会社として組み込んで日本語教育をやっていくようなことでもしないと実際には勉強してもらえないということがあるので,これはすごく大きな意味があると思います。
一つ言いたかったのは,外からボランティアの人が来て,その時間帯だけは,日本語の授業だと言ってボランティアを頼むのだったら,従業員がボランティアとして一定時間,そこでやってもいいじゃないか,そういうことを企業に伝えたらどうかというのが,これは私の意見ですので,それは無理だということであれば…。
それからもう一つ気になったことは,企業内の日本語教育はボランティアでもいいと堀さんはおっしゃって,ではボランティアの人たちが企業内でどういう日本語教育を具体的にはどういう内容で,どういう活動をして,そもそもそれは何のためで,といったことを二人のチーム・ボランティアを言ってみれば,送り込む形で機能していけるのかどうか,その辺りは何か問題を感じていらっしゃいませんか。

○説明者(堀)
確かにあります。日本語ボランティアの方たちに企業内での日本語を教えさせるというのは酷ではないかとか,日本語を教えるということはもう既に日本語教師でなければいけないことなので,役割としては日本語教師ではないかという話もありますが,私からしますと,日本語教師となると,職業日本語教師というイメージがあるものですから…。最近,社内で,10回教室のあるうち3回に1回は,企業の中にいる従業員の方がゲストに来て一緒にやるんです。そのパイプ役としても,やはり第三者がいるということは,重要だと思います。外国人従業員と日本人従業員双方が教室の中にいると,どうしても業務命令であったりとかトップダウンのようなイメージが強い。けれども,ボランティアが間に入って一緒にやることで従業員側も精神的なストレスがない,教えてもらう側も精神的なストレスがないということがあります。教師となると,やはり,ここからここまではどうしてもやってくださいというのを企業は言われます。ただ,あらかじめそれはそういうものではないということを切々と訴え続け御理解いただくと,こういう形でボランティア,特に大学生ボランティアなどが,ヤマハ発動機にはなかなか入れませんので,非常にやりたいといった声もあったりなどしております。

○尾﨑委員
もう一つ,こういう活動に対して,ヤマハIMカンパニーから,HICEなりあるいはボランティアの方に,交通費であれ何であれ,ある程度の経費負担ということはありますか。

○説明者(堀)
ヤマハIMカンパニーが全面的に資金を出されておりまして…。

○尾﨑委員
その資金というのは,どのぐらいのことをカバーする予算ですか。

○説明者(堀)
教室そのものがいわゆる会議室ですので,そこを提供するということ,それからそこにある備品,例えばプロジェクターなりCDなりというのをすべて用意していただくこと,それからボランティアさんに対しては1時間半の授業で3,500円お支払いいただいております。

○尾﨑委員
それをボランティアと呼ぶんですか。私の定義では,ボランティアとはもう呼べないと思います。3,500円は交通費を超えていますから,それをボランティアと呼んでいくようなことが一般化するということについて私は若干懸念を持ちます。それはボランティアではないのだという議論は,ではボランティアって何なんだと…。
ボランティアに依存しているという言い方自体が,何がどうなっているのかということはもうちょっと,浜松のことだけじゃなくて,こういう議論をしている中で,どういう人をボランティアと呼んでいるのかということも含めて議論した方がいいかなと思ったんですけれども,でも,浜松の試みは僕の知っている限りでは初めてですから,すごく期待しております。

○説明者(堀)
ありがとうございます。

○尾﨑委員
またいろいろ教えてください。

○西原主査
ほかにございますでしょうか。次に杉澤さんのお話しもありますので,あとお二方にしたいと思います。では,山田委員から。

○山田委員
2枚目というか,パワーポイントだと3ページになるんですか。そこの協会の事業について2番目に「共生」という言葉が出ているんです。それから,浜松学院大学の委託講義という,そちら側の題目も「多文化共生論」と書いてあるんですけれども,「共生」というキーワードは「同化」と全然違って,双方向の適応だと私は思っているんです。そういうことになると,逆に私は尾﨑委員と似ていると思うんですけれども,ボランティアというのは学ぶ存在で,自分が変わるということをやりたいがために積極的に自主的にそういう活動をする人だと思うんですが,だから,単に教えるという,自分が持っているものを伝えるということではない,それだけではないと思うんです。そういう意味でこの「共生」というキーワードの浜松国際交流協会としてのとらえ方というのはどういうものかというのを伺いたいと思うんです。

○説明者(堀)
「多文化共生論」の浜松学院大学側の方は,浜松学院大学がお考えになったことなので一概に私の方では申し上げられないんですが,浜松国際交流協会の四つの柱という意味でメーンに挙げているところで「共生」というのがあるんですが,その「共生」というのは,山田委員がおっしゃったような,共に生きるために必要な歩み寄りを促していくということだと思うんですが,それでは交流も講座研修もすべてにおいて「共生」ではないかという話になりまして,それはそのとおりだろうなとは思います。ただ,外国人への投げ掛けという意味で,一つ枠を持っていただければちょうど理解としてはいいのではないかなと思うのが,例えば日本語教室などもコミュニケーションツールとして日本語を学びましょうであったり,ぴよぴよクラスは特に就学前の子供たちに対して学校という社会集団生活を営むために必要な取組であると考えていますのでアプローチの方法として「外国人向け」というタイトルにするとちょっと柱が変わってくるものですから,これは外国人向けのアプローチという意味での「共生」ととらえていただけると有り難いです。

○西原主査
それでよろしいですか。

○山田委員
はい。ありがとうございました。

○西原主査
では,中野委員。

○中野委員
コンパクトにありがとうございました。すごくきめの細かい活動で,とてもすばらしいと思いました。
2点お聞きしたいんですが,一つは,こちらのセンターで養成されていらっしゃるボランティアの日本語教師や大学の養成講座で輩出される日本語教師が地域のニーズにうまく連動しているメカニズムがあるように今日のお話を聞いて思ったんですけれども,実際にそれらボランティアの人たちは,毎年50名も人気講座ですぐ満員になるということですが,協会が連携していらっしゃる例えば大学あるいは幼稚園・小学校・中学校の保護者の人たちとか,あるいは企業の日本人とか,いわゆる外国人のそばにいる人たちなのでしょうか。それとも,ボランティアの毎年50名というのは,違う層から来ているんですか。それを一つお聞きしたいです。
それから,これだけのいろいろな講座のカリキュラムが作られているわけですけれども,他の地域がそれを使いたいという場合に,また一から作るのはすごく大変だと思うんですが,これは簡単にアクセスできるようなものなんですか。例えばプリント教材も含めて,共有化はできるんでしょうか。その2点です。

○説明者(堀)
まず,最初の方なんですが,外国人と触れ合ったことのある方,要は知り合いにそういった方たちがいるという方の方が多いです。それは,浜松という町が外国人の市民も多いんですが,企業で働く方も多いので,そういった企業現場の中で,職場の中で知り合うことがあるという意味で,触れ合ったことがあるとお考えいただければいいと思います。
それから,情報の共有ということなんですが,浜松国際交流協会としての教室活動においては,その教室の活動をしていただいているボランティアと3か月に1回ミーティングをさせていただいているんです。この中で,こういったプリントがあるとか,こういったものを作られた人がいるというのを御紹介させていただいておりますので,希望される方は皆さん,それをコピーされるなり,使われております。ただ,他地域から使わせてほしいといった声は今までにないものですから,そういった発想は私も初めてで,なかったんですけれども,共有は構わないと思います。

○中野委員
出すことは構わないと。

○説明者(堀)
構わないと思います。浜松国際交流協会としては問題ないと思います。

○西原主査
三池さんからもおっしゃることがありますか。さっき自立とおっしゃったことについては,もう少し御説明いただくこともできるかなと思ったんですけれども…。ブラジル人,中国人,フィリピン人が自立する支援をしていらっしゃる,この自立というのは適応じゃないですね。適応というか,日本のやり方を学んで,日本人とあつれきがないように暮らしていく,でも,コミュニティーとして充実するというのを自立と呼んでいらっしゃるわけではないですよね。自立って何でしょうか。

○説明者(三池)
二つの点から申し上げます。まず日本に住んでいるなら,日本の社会,日本のルールに従わなければいけないということです。いずれ帰るんだからと,そのようにしないという人が結構多いので,私の立場としては日本に住んでいるなら,きちんと日本の社会,日本のルールに従わなければいけないと言います。
それと,何でも頼りにしないこと。市役所や,どこの行政にも通訳さんがいるからと,自分で日本語を勉強しようと考えない。困って相談に来るときに,特に私は言うのですが,来日した時から日本語を勉強していれば,自分がやっていないときや,自分が悪くないときには説明できる。交通事故であれ,いろいろ困ったことになるのは,自分で説明できなかったことが問題の原因になっていて,そういう人たちがすごく私のところに相談に来ます。そういう自立でもある。もう十何年住んでいるのなら自分が困ったときにだけ日本語を勉強していないことを反省するんじゃなくて,少しずつ日本語を学ぶべきではないかという思いもあります。

○西原主査
ありがとうございました。それでは,お待たせいたしました。杉澤さんに,資料に基づいて御発表,御説明をお願いします。

(2)杉澤経子氏の説明と,その後の意見交換

今日は,地域における日本語教育実施体制の現状と課題,それから,地域日本語教育を推進する機関の整備の必要性ということにポイントを絞ってお話をさせていただきたいと思います。
先ほど浜松国際交流協会のコーディネーターの堀さんがお話しされましたが,私自身も地域の日本語教育をコーディネーターという立場で,実際に現場で実践をしながら,また調査研究をさせていただくという機会を得る中で,これまで考えてきたことも含めてお話をさせていただきたいと思います。現在は,東京外国語大学の多言語・多文化教育研究センターというところにおりまして,また違った立場で地域日本語教育というものにかかわりながら仕事をさせていただいていますので,そういった立場でも話をさせていただきたいと思います。
最初に地域における日本語教育実施体制の現状ということですけれども,今現在ですが,担い手として四つぐらいのジャンルに分かれるかなと思っています。一つは当初80年代後半ぐらいから政策的な意味付けがないまま,地域に外国人が暮らすようになって,隣人が手を差し伸べるという形で日本語ボランティアグループが立ち上がり,日本語の支援が行われてきたと思いますが,現在では,例えば外国人相談を主な活動としている人たちが,実際に必要性に迫られて,日本語教室を開催するといった流れも出てきたりしています。一方で,以下三つに関しては行政の政策的な位置付けで団体が設立されていて,公民館,国際交流協会,社会福祉協議会というところで外国人に対する日本語教育が行われています。この団体の成り立ちを見てみますと公民館というのは,住民の自主的な社会教育活動を推進していく場を作っていくという意味合いですので,例えば,行政の職員が公民館の職員をしている場合には,そういう視点で地域日本語教育の場を作っていくということではないかと私は理解しています。国際交流協会の場合は,ここでは自治体が政策的な意味合いで設立した国際交流団体というように定義付けさせていただきますが,当初は,市民レベルの国際交流を推進する団体として位置付けられていました。最近2006年に総務省から「多文化共生推進プログラム」が発表されました。総務省の政策の中で「多文化共生」という言葉が入ったのは恐らくこれが初めてだと思います。そういう意味合いで,国際化を推進する団体としての目的が国際交流のほかに「多文化共生」も含まれるようになってきた。社会福祉協議会では,住民のボランティア活動を推進するということで,ボランティアセンターが中心的な役割を果たしておりますけれども,これは,住民福祉であったり,ボランティア活動を推進するということが目的とされているわけです。
私としては,自分自身が国際交流協会に所属しながら感じてきたことは,地域における日本語教育を推進していく拠点として最も効果的に機能するのは,地域に設置された国際交流協会ではないかと考えてきました。80年代以降外国人住民が増えてくるに当たって対症療法的にばんそうこうを張るように施策を行ってきたという状況でありますので,実際に政策的な位置付けで事業を展開していく組織としては,国際交流協会が果たす役割は大きいのではないかと思います。
これは10年前になるんですが,日本語教育学会の調査研究に加わらせていただいた時に書いたもので国際交流協会の調査の結果をお手元に参考として,用意させていただきましたが,これは半分だけです。ここで提示するための資料として,配らせていただいたものですけれども,その中のポイントだけお伝えしたいと思います。
まず,地域国際化協会という言い方は,89年に当時の自治省から地域国際交流推進大綱の策定と地域国際化協会の設立が各自治体に要請されまして,89年前後に各自治体に国際交流協会が設立されるようになってきたわけです。自治省から要請があったのは,都道府県・政令指定都市レベルの自治体ということで,現在では全国の都道府県・政令指定都市には国際交流協会が地域国際化協会として設置されている。同時に基礎的自治体にも89年前後に次々と設立されるようになったわけです。ここでは,都道府県・政令指定都市レベルのものを地域国際化協会と呼ばせていただいて,基礎的自治体に設置されたものを国際交流協会と呼ばせていただきます。
この時の調査ですが,全国の地域国際化協会に照会しまして,その地域で把握している国際交流協会の住所等を教えていただいて,全国836団体にアンケート調査をしました。回答を得たのが461通,55%ぐらいの回答率があり,そこから自治体が設置したものを取り出しました。その387団体をこの分析の基数としております。内訳は,都道府県・政令指定都市レベルが48団体,現在,59が地域国際化協会でございますので,そのうち48団体が回答してくれ,基礎的自治体が339団体,回答してくれました。
日本語事業実施状況を見ますと,地域国際化協会では88%で,ほとんどが10年前に在住外国人向けの日本語教室を開催している,また国際交流協会においても約半数が日本語教室を開催しているという状況がございました。この時の開催している自治体の外国人登録者数の平均が1.7%で,「開催していない」と答えた自治体の外国人登録者数平均が0.8%でした。ということは,その間で自治体としてはニーズを感じて日本語教室を開催してきているのかなということが推測されます。ここで日本語事業と申し上げたのは,直接的な外国人向けの日本語教室及び教室を推進するボランティアの養成講座等を言っております。
3番目に「日本語事業をどのように位置づけているか」を聞いたところ,一番多かったのが「外国人支援という位置づけ」,2番目が「国際交流の位置づけ」,3番目が「市民活動の場」,4番目に「日本語教育の場」という回答がございました。これも自治体によって,とらえ方が大分違うということが見えてきております。
「そうした日本語事業を担当している担当者の役割は何か」という問いに対しては,これは「答えを二つ選んでください」と聞きました。そうしますと,「事務管理者」,それから「企画立案者」,「コーディネーター」,最後に「日本語指導者」といった役割を担当者が担っているという認識でございました。
この国際交流協会ですけれども,自治省の方から地域国際化協会の設置を要請した時にその主な仕事としてうたわれていたのは,民間や住民の交流支援をする,つまり市民レベルの国際交流を推進する,また,住民参加の環境作りをすることでした。そういうところから推察するに,こういった外国人支援であったり,国際交流であったり,市民活動であったりという認識 がでてくるのは当然の流れかなと思います。
住民参加ということも述べられておりましたので,ここでは市民参加状況というのを聞きました。これは,日本語ボランティア数という形で聞いたのですけれども,地域国際化協会では平均70名ぐらいの日本語ボランティアの登録があり,そのうち日本語教師経験者も11名います。基礎的自治体の方も平均人数は29名で,うち3人は日本語教師経験者でありました。なぜ日本語教師の経験者がいるかどうかを問うたかと言いますと,私自身の現場での経験から,地域のボランティア活動とはいえ,日本語教育の専門家は必要だというのが私自身の認識があったからです。地域の中で,ボランティア活動とはいえ,そうした専門性を持っている市民をどう活用して,この地域日本語教育を作り上げていったらいいかを考えることが重要だという認識があったものですから,こういう形で聞きました。
最後に,地域日本語教育の現場というのは,さっき堀さんのお話でもありましたが,日本語教育だけやっていればそれで済むものではないわけです。住民として,一人の人間として暮らしている中では,日本語を学ぶ中で様々な課題が見えてくる場でもあります。そうした課題に対して,どう対応していくのかを考えたときには,様々な団体や専門家などとの連携が必要になってくるということがありますので,他団体との連携の有り様を聞いたところ,地域国際化協会では広域行政ですので80%が「ある」。基礎自治体では「他団体との連携がある」という答えは3割しかありませんでした。ところが,ネットワークの必要性を感じているかということを聞きますと,90%以上の団体が「必要である」と答えているわけですので,認識としてはネットワークの必要性はあるととらえることができると思います。
そういう調査等をする中で,私自身が地域における日本語教育実施体制の課題として,思っていることを簡単にまとめると,以下の3点です。
まず,一つですが,先ほど堀さんのお話では,在日ブラジル人,日系ブラジル人の方たちが集住する地域として企業に入り込むといったことがありました。地域特性によって様々にプログラムは変わると思うんですが,現実的にはそういった地域の現状を踏まえた地域日本語教育といったものの「プログラム」がないというのが実態ではないかと思っています。それは上記に挙げた調査の中からも見えていることでありまして,例えば担い手のところで,様々な自治体関連の団体がありながらも,その団体の特性を生かした形での活動というのは余りなく,取りあえず目の前に日本語を学びたいという外国人がいるからやりましょうという形が非常に多く,例えば公民館であれば,むしろ市民活動を主体的に作り上げていくにはどうしたらいいかという視点での「プログラム」が必要になるんでしょうし,ボランティアセンターも正に地域の住民が地域に参加していくという視点が中心のプログラムになってくるんだと思いますがそうした部分が,余り見受けられないままに行われているということではないかと思います。つまり,地域に即したプログラムがないということだと思うんです。また,日本語教育という視点から見ると,先ほどの現状からいっても,日本語教育の専門家が地域にはそれほどいないということもありますし,また活動サイクルが週1回若しくは多くても2回という活動形態で日本語教育が果たしてできるかとうと,現実的になかなか難しいという状況があるのではないかと思います。正に従来の日本語教育ではなく,地域日本語教育がもしあるのであれば,そうした分野の研究なりプログラム開発というのがあっていいのではないかなと思います。
二つ目は,事業担当者の役割や専門性が,まだまだ検討されていないということです。国際交流協会は,自治体が設置しておりますので,場所と人がおります。お金も付いております。ところが,地域日本語教育を推進していくという観点で言いますと,先ほどの地域日本語教育の研究が進んでいないこともあるかもしれませんけれども,そうした担当する職員の役割や専門性というのがまだはっきりしていないということもあって,そうした人材養成というのも大きい課題ではないかなと思います。もう一つ,かかわる人たちなんですが,多くが市民の方たちが参加して作られている地域日本語教育であるならば,その中にいる日本語教師経験者の役割,それから一般の善意で登録してきてくださっているボランティアの方たちの中にある特性や技能といったものを個別に引き出しながら,うまく市民の方たちが自分の力を出して,活動ができる場作りというのが求められるんだと思うんです。つまり個々の特性を生かしたボランティアコーディネーションです。そういったスキルなどもまだまだ検討されていない状況ではないかと思います。
三つ目が,活動を発展向上させるための有機的なネットワークが構築されていないということです。これは調査の中からも見えておりますが,連携・協働といっても,この時はほとんど情報交換レベルでした。今は10年たっておりますので,どうなっているかは分かりませんけれども,課題は地域に山積されていながら,そうした課題解決に向けてのネットワークの構築がなかなかなされていない。この三つが現状としては課題ではないかなと感じています。
続いて,地域日本語教育を推進する機関の整備の必要性についてお話ししたいと思います。地域日本語教育プログラムを実施する拠点として考えるのであれば,先ほど申し上げましたように,自治体の政策的な位置付けからいって,国際交流協会の意味というのは非常に大きいと感じております。これは,私が前職であった武蔵野市国際交流協会における日本語教育プログラムについて簡単に書いたものですけれども,先ほど堀さんがHICEで発表してくださったものとほとんど同じ形で動いております。ですので,細かくは述べる必要はないと思いますが,プログラムをプログラムとして実施していくには幾つかの要素があると私は考えております。一つは理念です。これは政策と言っていいかもしれません。国際交流協会はある意味で,国際化政策の位置付けの中で動いておりますので,この団体が持つ理念に沿った形で事業を展開していくというのは,職員がやるべきことだと思うんです。そうしますと,武蔵野の場合は,「国際平和に寄与する開かれたまちづくり」を理念に,市民レベルの交流を促進するということが職員の使命になるわけです。
その中で,地域日本語教育をどうプログラム化していくかということを,「ねらい」「リソース」「手法」三つの要素を入れながら,考えていったわけです。理念に沿った形で日本語教育をねらいに落とし込むと,「日本語で国際交流をする」ということをテーマにしながら,多文化の人々が日本語を通じて同じ地域に暮らす市民として交流し,相互理解を深め,結果として学習者が生活に必要とされる日本語を獲得するという形です。ですので,武蔵野では日本語ボランティアを「日本語交流員」と呼んでおります。こういう活動を展開していくときに,リソースが必要です。交流するにも,たった二人で閉じこもって,交流するのかと考えますと,地域に暮らす人間としては,その地域の中に様々なリソースが,社会資源と言われているものがあるわけで,日本語で国際交流を推進するのであれば,日本語の教材を何にするかということもあると思いますが,地域にある素材を使いながら日本語で交流していくといった観点です。家族とか友人とか,例えば地域の市民活動の場であるコミュニティーセンターとか,図書館とか。図書館にも多言語の蔵書があったりしますので,そういった形でのリソースをどう活用していくのか。そして,どういう手法で日本語教室なりプログラムを運営するのかです。この3点で,プログラムを作っていくと考えてきました。
私は武蔵野におりましたが,集住地域とは違って,分散型の都市型地域においては,学習者の多国籍化・多様化というのは90年からもう進んでおりました。二つぐらいの教室に21か国の学生さんがおりました。そのバックグラウンドとしては,教員であったり,留学生であったり,95年前後になると中国帰国者が入ってきました。また,日本人配偶者も90年代半ばぐらいから増えてきまして,労働者,研修生といった人たちも増えてきて,2005年前後ぐらいからは,地域の日本語教室には外国につながる子供たちも来るようになったというふうに多様化している。
こういうニーズの変化によって,これは私の個人的な考え方ですが日本語教室の機能も変化しています。1990年は,初級レベルの学習者が多かったものですから,コミュニケーションするための日本語として位置付け,初級の日本語を行い,90年代後半になりますと,中国帰国者や日本人配偶者が増えてきましたので,暮らすための日本語として,生活情報を盛り込んだり,病院での日本語会話の仕方や,災害時の対応の仕方とか,そして地域で活動するためのネットワークとか,そういったものを盛り込んできました。また,日本語ができず,どこにも行く場所がないという中で,日本語教室に通ってくるんだけれども,高齢のため全く日本語を覚えない,だけれども毎回来るという人たちにとっては「居場所」です。そして,2000年前後にして,今度は子供ができて日本語教室へ通えないんだけれどもという声が上がるようになり,親子で参加できる教室ができてきた。この時は,文化庁の委嘱を受けて,親子参加型日本語教室として実施しました。児童・生徒の教科学習のための日本語を行うようになった時には,今度は市民ボランティアだけでは足りなくなりまして,地域の大学と連携し,ボランティア論のゼミの学生さんに協力していただきながら学生たちのボランティア論学習の場としても展開してくるといった形で,ニーズが変化するということもあったかと思います。
そういう学習者の多国籍化,多様化,ニーズの変化によって,日本語交流員養成講座や日本語交流員の活動自体がそれぞれ変化していくわけです。そういう変化をさせられるプログラムをどう作っていくのかということが求められるのではないかと思います。
こうした時代の変化を感じ取り地域日本語教育というのは,ある意味,国際交流協会での様々な事業展開の起点になるものでもあります。時間をかけて地域に暮らす外国人と交流し,そしてお互いのことを知り合える場というのは,今,日本の社会の中にはほとんどないと言っていいのではないか。外国人支援などをやっているところでは,当事者がその団体の活動者になりながら,共に活動しているということはありますけれども,その数は少ないです。日本語を学ぶ場として,長期にわたって市民同士が交流していける場というのはなかなかない。そうした対話の中で,実は一人の住民として暮らしている外国人がどういう課題を持ち,どういうことに悩んでいるのかということを肌身で感じられる場でもあるわけです。その肌身で感じられた課題を施策として作り上げていくことができるのが国際交流協会だと思うんです。武蔵野でも,外国人自らが企画をして事業を展開するとか,例えば5回講座の水墨画講座をやるとか,日本語ができなくても,そこに通訳を立てれば自主的な活動ができるといったことが展開されてきたわけです。ここではそういった意味で堀さんのようなコーディネーターの存在,逆に堀さんも国際交流協会にいながら,浜松市の政策の枠組みの中でプログラムをきちんと作り上げていらっしゃっていると思うんですが,そういうプログラムが必要ではないかと思います。
国際交流協会とともに推進していく拠点として,教育・研究・ネットワーク構築の拠点というのが必要ではないかというのは,現在私が大学に勤めていながら感じるところでもあります。多言語・多文化教育研究センターでは,様々な活動をしておりますが,現在は,教育,研究,社会連携という三つの柱を立てて活動を展開しております。
教育に関しては,多言語・多文化化する日本社会に貢献できる人材の養成を目指して,“Add-on Program”というのを20単位の教養科目として展開しており,それだけではなく,多言語を操る学生がおりますので,地域で児童・生徒に日本語教育が必要になってくるという状況に対して,教科につなげる日本語という観点で,学生たちが今,府中市の教育委員会とか川崎市の教育委員会と連携しながらボランティアとして活動しているプログラムもあります。
また,研究においては,多言語・多文化化する日本社会の課題を包括的に捉え,研究するという機関が今までなかったように思います。そうした包括的に課題を見据えての研究として,現在,協働実践研究プログラムというのを展開しております。その研究の中には,コーディネーター研究とか,地域日本語教育プログラム研究なども盛り込んでおりまして,これもただ単にコーディネーターのことだけを掘り下げていくのではなく,相互に連関しながら,例えば,労働者の問題から何が見えるのか,法律の問題から何が見えるのかといったところから,それぞれの研究分野を見据えていきましょうというものです。
お手元の資料にチラシを入れさせていただいたんですが,これは,この五つの研究班の活動の成果を今度プレフォーラムという形で中間発表するものです。その中の二つ目に「多言語・多文化社会の広がりとコーディネーター」ということで,正に福祉の分野,教育の分野,国際交流の分野,日本語の分野でコーディネーターとして活動している方たちの現場の話からまず研究を進めていこうというものです。
また,地域日本語教育プログラムに関しては,2枚目の二つ目ですが,「共生のまちづくりに向けた地域日本語教育プログラムづくり」ということで,まずは能代における取組事例から始まり,そしてその一番下にあるように12月に全国フォーラムを行いますが,プレフォーラムから本フォーラムに向けて,ここでは地域日本語教育に関しては,分散型地域である都市の事例や,集住地域の方たちから,現場で何が起こっているのかというところをお聞きしながら,プログラム作りに向けていこうという研究活動も行っています。
また,社会連携ですけれども,これは正に現在起きている目先の課題にも取り組もうということで活動を行っておりまして,先ほど浜松でも文部科学省の「社会人の学び直しニーズ対応教育推進プログラム」という話がありましたが,本学でもこの「学び直し」の中で,「専門職としてのコーディネーター養成プログラム」というのが採択され,10月から事業を開始するところでございます。このアンダーラインを引いたところが,本学として地域日本語教育と関連する,もしくは,貢献できる部分ではないかと思ったところです。
長くなって恐縮ですが,最後に地域日本語教育を推進する機関の可能性と課題というところで,先ほどから申し上げておりますように,自治体が設置している国際交流協会の拠点の役割というのは非常に大きいものがあるのではないかと思います。ただ,基礎的自治体が設置した国際交流協会と,広域行政が設置している地域国際化協会とでは,やはり役割が違うと感じております。基礎的自治体というのは,ある意味,目の前で顔が見える活動を作り上げていくところです。ですから,生の情報が入り,生の課題があり,だからこそ対症療法のばんそうこうを張る形の活動が多くなってしまうんです。そういった意味で,プログラム作りとか,ボランティアコーディネーションとか,ネットワークの構築とか,そういったスキルとかノウハウというのが職員に求められるところではないかと思います。広域行政である都道府県・政令指定都市レベルにおいては,こういう基礎的自治体を束ねられる位置にいるわけです。ですから,正に広域の地域課題に対して,連携・協働のネットワークを作れる位置におり,そしてその課題解決に当たれる場ではないかと思います。この双方においても,先ほど申し上げましたが,プログラムがない,人材がいないというのが課題かと思います。
教育研究機関ですが,先ほど本センターの取組を御紹介いたしました。ところが,私どもも,今の課題に切り込んでいけるかというところでプログラムは展開しておりますが,これは政策的な位置付けが全くない中で,1団体の本当に小さな試みでしかないわけです。そうしたバックアップがない中でやっておりますので,広がりという意味でいうと,なかなか難しいと感じています。
こういう国際交流協会や教育研究機関が地域日本語教育を推進する機関として機能するためには,正に国による政策的な位置付けが欲しいところではないかと感じております。

○西原主査
ありがとうございました。この資料5につきましては,いかがでしょうか。

○説明者(杉澤)
資料5については,先ほどの調査研究の裏付けとして御覧いただければと思います。

○西原主査
そうですか。それでは,杉澤さんの御発表,御説明につきまして,何か御意見や,御質問,コメントなどがあれば…。はい,どうぞ。

○佐藤委員
単純な質問ですけれども,1ページ目の10年前の調査の結果を報告していただいたんですけれども,一つの質問は,それ以降これに類する調査があるのかどうかというのと,それから,その10年前を受けて2のところで課題を提示していただいているんですが,この10年前の課題は今の課題にも通ずるものなのか,そこだけちょっと説明していただければと思います。

○説明者(杉澤)
残念ながら,フォローアップの調査はしておりませんというか,できておりません。
課題に関しては,この後,私はやはり国際交流協会の役割は非常に大きいと感じておりましたので2003年から2005年まで全国の国際交流協会のネットワーク作りの活動をやっておりまして,全国会議というのを3年にわたってやってまいりました。その中でやはり日本語というのが大きいテーマでもありまして,現場の職員の話を聞いても,現在もそのまま課題としてあるのではないかと思っております。

○西原主査
よろしいでしょうか。一般的な質問として,していらっしゃることをお聞きしたいんですけれども,私,実は外資系の外国人が多い団体で,NPOとしてボランティア活動をしているところで,理事の一人になっているんですが,外資系の企業の中には必ずHRパーソンと言うか,“Human Resources”の専門家と呼ばれる人が仕事の核としておりまして,その会社の利益追求だけではないところで人の資質のことを考える専門家というのがいるということに,この5年ぐらい気が付いているんです。それは日本企業の中では余り見られないことで,人事課はあるけれども,企業倫理,労働者倫理にもかかわるようなHRの人はいないと思います。コーディネーター研究や地域日本語教育プログラム研究といった分野は,例えば,日本の大学の中では経営学とかビジネススクールとかといったところに,あるんでしょうか。

○説明者(杉澤)
申し訳ございませんが,その辺は認識が余りないんですが…。

○西原主査
つまり,では外語大はどういう位置付けで,このプログラム研究というのを,研究分野として設定していらっしゃるのでしょうか。

○説明者(杉澤)
このプログラムというところですか。実はまだ事例研究の段階です。

○西原主査
はい,ありがとうございます。はい,どうぞ。

○杉戸副主査
これは,これから先のこの小委員会の議論の一つのポイントになると思うんですけれども,今日配られた資料2,前回のヒアリングを受けての議論のまとめの4の項目に「地域性に対応した日本語教育をどう具体化していくのか」という項目があり,その2行目に「国よりも地方の特色に応じた固有の政策を展開しなければならない」とある。私,この資料の説明があった時に,この「国よりも」という一言にちょっと疑問というか,なぜここに「国よりも」が入っているのかということがちょっと気になったんです。それを思い出しながら,今の杉澤さんのお話の最後のまとめで,3の(3)の3)の課題ですが,最後に「地域の国際交流協会や」と「地域」を補って読めば,そういうものが機能するためには,「国による政策的位置づけ等が必要。」となる。そこが,国よりもという問題のとらえ方と,国による施策的位置付けが必要という,そのことが矛盾することではないと理解しなければいけないわけですが,「国よりも」というとらえ方で解決すべき課題の領域と,国がやらなければいけない政策的位置付けの領域と,それがどういう分布をしているのかということです。
それが,恐らくこの今日の杉澤さんのお話の資料の中で,2枚目に幾つかアンダーラインが引いてある,それは,東京外国語大学のセンターの活動の中での具体例ということで引かれているんでしょうけれども,例えばそういうアンダーラインの引かれている事柄が,「国よりも」という問題なのか,あるいは国こそがやらなければいけないという問題なのか,そういう領域を知る手掛かりになると思うんです。そのことについて,今日の杉澤さんのお話のお立場から何か,こういう部分こそ国ならではのというものだとか,逆に「国よりも」というのはこういう点なのだということをお教えいただければ有り難いと思うんですが。

○説明者(杉澤)
まず,国際交流協会の立場で言えば,現場で,専門職とはまだ言わなかったとしても,職員がそれなりのプログラムを展開していくためには,政策的なバックが必要だということです。基礎的自治体若しくは広域行政にしても,行政の職員というのはジェネラリスト的に2〜3年でどんどん異動してしまうので,地域日本語教育の専門家というのは全くいない状況で現場の施策が動くという状況があります。こういった広域行政なり基礎的自治体の政策作りのバックになるものとしての柱がどうしても必要なんです。多文化政策とか地域の国際化政策という側面では,今まで行政の長い歴史の中で経験値がないわけですから,ある意味では国際交流協会の知見とか,そういったものをベースにして積み上げていくしかないと思うんです。ですから,逆に言うと,専門職が必要だと思います。この専門職の立場の者がプログラムを作り,行政を説得していくためには,様々な資料が必要です。今回,総務省から「多文化共生推進プログラム」が出ました。その中の第1項目にコミュニケーション支援というのが挙がり,その中に日本語支援が挙がりました。現場サイドから言うと,これは,非常に大きいバックアップです。そういう意味で,正に現場のニーズに対応したプログラムを作っていくものがバックアップとして必要となる一つは政策です。
ただ,先ほどの「国よりも地方の特色に応じた固有の政策」というのは,私はこれは理解できるんですが,国が例えばガイドラインを作り,これがプログラムのモデルですといった形で現場に提示されても,それは対応できない。地域ごとに状況がそれぞれ違いますので,それはできないです。ですけれども,フレームは必要なんです。フレームがあり,フレームを示されてこそプログラムが作れるんです。そのプログラムを作れる専門家がいないんです。

○山田委員
杉澤さんのお話は前からいろいろ伺っていて,日本全体でも,とても先進的な活動をずっとされていて注目しているんですけれども,それで今おっしゃったこととちょっとつながるんですが,国際交流協会というのは,民間だけれども,ある意味では行政との間に入って,民間から吸い上げたことを行政に持っていくという担当でもあると思うので,そういうときに,民間だからこそやるべきこと,行政がやるべきこと,あるいはもっと言ってしまうと,地域社会の現状に合わせてどう変わらなければいけないのかといった行政課題を提示するといったことも十分されてきたと思うんです。
それで,今おっしゃるように,今度は国に対してフレームを作れというときに,やはり国の中で,ここでは文化庁国語課だったら専門職はいるわけですけれども,その専門職がすべてのことを理解しているわけではなくて,ですからこういうヒアリングといったことも必要になってくるわけですけれども,そうすると,その地域でやっているからこそ,国がこうすべきだといったことは,いろいろな意味で出てきて,それらを反映させながら国のフレームを作っていけという方向だと思うんです,矢印の方向は…。ですから,私は,今杉澤さんから投げ掛けられた国で何かそういう枠を作れば,地域もそこからいろいろなやるべきことの範囲を決めて,それがやりたいことと結び付けられるんだというメッセージとして,受け取ったんですけれども,それでよろしいですか。

○説明者(杉澤)
おっしゃるとおりです。組織に所属している限りは,組織が持つ役割をはみ出すことはできないと思うんです,職員である限りは。ですけれども,そのフレームが大きければ大きいほど,できることはたくさんでてきます。組合せによっても,できることの種類はどんどん増えます。ですから,そのフレームが示される中で,動きたいだけ動けるということが,地域にとっては重要なんじゃないかなと思います。

○西原主査
大きい方がよろしいわけですね。そうすると,大綱といったレベルの…。

○説明者(杉澤)
大きい方がやりやすいんじゃないでしょうか。

○尾﨑委員
大きい方がいいというのには全く賛成なんだけれども,逆に,今度は基礎的自治体のレベルで具体的にどうしたらいいかというと,そこでは大きな大綱があっても動けないんです。そうすると,地域日本語教育プログラムを研究テーマにしていらっしゃるという,そこではどういうものをどういう形で準備していけばそれぞれの地域の状況に応じて活用できるかという非常に具体的なレベルの仕事もあると思うんです。具体的なレベルの仕事は,恐らく今ボランティアで活動して長く経験を積んでいらっしゃるすばらしい人が一杯いるから,そういう人たちも当然かかわるだろうし,それから,先回もこの委員会に来ていらっしゃった日本語学校のような立場の方もあるだろうし,いろいろな方が集まって,でも具体的なものを作って試すということはやっていかなければいけない。
それをやるためのお金と人はどうなるかというと,自治体はなかなか期待できませんよね,今の状況で…。そうするとどうなるかというと,国の方が大枠を示すと同時に予算措置をしないと,枠だけ作られてもだれも動けないというのが多分実態だと思うんです。それは,どこでもいろいろな問題があって,どこでもお金がなくて,お金がないからボランティアというんだとしたら,そこでいい仕事を期待するというのは,現実には無理だろうと私は思うんですけれども…。だから,そういうときに企業なりとか,お金を出すところが,こういうことだったらお金を出す価値があると説得できる材料等,具体的なものをどこでだれが作るか,どこがやるのか,このようにくるくる回っている感じです。

○西原主査
今,文化庁国語課がいろいろなところにお金を出して,パイロットプログラムをお願いしていますね。そのパイロットプログラムというのはあちこちにあるので,結局杉澤さんは,それを取りまとめて,そのパイロットプログラムの結果として何かができるという合意形成がなければならないという御議論をしていらっしゃるわけですね。文化庁国語課は立つ瀬ないですよ,何もやっていないと言われると(笑)。

○尾﨑委員
私が言いたいのは,そのようなパイロットプログラムをやって,こういう成果があがりました,これなら使えそうだと言った後,メンテナンスが必要で,そのための人がいない限りは,10年前の問題も,今抱えている問題も,先行き,見通しは極めて暗い。それが仕事,という人がいないと駄目ですよね。そこをどうするかということを,国のレベルでかなり議論していただいて何とかしていただかないと,どこも精一杯で,お手上げ状態だと私は思います。

○西原主査
と同時に,全世界的に見ると,そういうスタンダードが,例えば国連とかそういうレベルであって,それに合致して,そこから認定されないと立派な国際協会ではありませんみたいな,何か国を超えたところで,スタンダードができていれば,それでいいんじゃないでしょうか。というのは,フィールドによっては,そういうことが起こっていると思います。国際的なスタンダードに合致するかどうかで認知されたり認知されないといった,そういうものを探し出してくるというか,先進的なところではいろいろな取組が既にあるわけなので,国の外にも求めてみるといったことが一方で必要じゃないでしょうか。

○山田委員
尾﨑さんの言いたいことがちょっと足りないかなということで,後押しなんですけれども,私は制度を作るというのが国がやるべきことで,すごく大事だと思うんです。それで,文化庁国語課は何もやっていないじゃないかというのは,やっていないじゃないかと攻撃を受けた方が,その仕事に情熱を持っている国家的な政策をどうするかを考えている人の後押しに,逆になると思うんです。だから私は,文化庁国語課がパイロットでいろいろやっているけれども,やっていることはほんのちっぽけでも,ここからもっともっとこの国のためになるようなことをやってほしいと思う。では,そっちへ向かっていって,どうするのかというのは,自治体とかそういうところの,言い方は悪いかもしれないけれども,草の根で現場のニーズを吸い上げている人たちから情報をもらって,それでこういう場の議論がそういう現場に活用されていけばいいかなと思うんですけれども,そういうことをおっしゃりたかったんじゃないんですか。

○尾﨑委員
自分自身,地域の自治体の方とお話ししたり一緒に仕事をする場があって,当初はどちらかというと行政の方たちのかたくなというか,融通の利かなさに腹を立てたりすることも少なくなかったのですけれども,すばらしい行政マンもいるんだということがだんだん分かってきて,実は行政なり国際交流協会の方たちと,その外にいるボランティアなり大学の教員なりが一緒に作っていくという,パートナーという感覚が出てくるように私はなってきて,文化庁に対しても正にそういう意味でパートナーとしてやれたらいいなと。ですから,批判するんだったら,その批判の半分は自分たちも背負わなくてはいけないのではないか,そういう意識でいるということでよろしいでしょうか。

○山田委員
そうですね。

○西原主査
それで,山田委員,尾﨑委員がおっしゃっていることは,もしかしたら大きな意味で,この委員会が来年度に提案していくべき事柄,その中にはフレームの大綱の話もあると受け止めてよろしいでしょうか。

○佐藤委員
地域とか国というものを一枚岩で語ってしまうと,全然,問題の突破口が開けなくて,多分地域というのも,今日の浜松の話というのは,地域と企業ということで,つまり地域にある企業というものをターゲットにしているわけですから,それで具体が見えてくるわけです。国と言っても,私たちが議論するのは,国の一体何を指して議論しようとしているのか。別に文化庁だけが日本語教育をやっているわけではないし,そうすると,それをどのようにして,何を私たちはここで議論するのか,その辺のところがちょっと明確にならないと…。
それと,別件なんですけれども,ちょっとかかわるかもしれませんが,浜松の方は「カリキュラム」という言葉を使っていらっしゃる。杉澤さんは「カリキュラム」という言葉は一切使わずに「プログラム」という言葉を使っておられるんだけれども,何か今のような議論とちょっと関係しているのかなという気もするんです。つまり,「カリキュラム」というのは,もともとの教育学的な意味において,子供の学習経験の総体という非常に広い概念です。しかしながら,一般的には内容というものを体系的に配列したものを「カリキュラム」と呼ぶんだろうと思うんです。そうすると,ある種体系化されたものだと思うんだけれども,あえて杉澤さんが「プログラム」と使われるところに何か地域日本語教育のある種の特性が出されるのかなと。そうすると,カリキュラムというある種の大綱が例えば仮に,いいかどうかは別ですけれども,国にあって,その大綱の下に,具体化するプログラムみたいなものをイメージされているのかどうか。つまり,抽象的な議論よりは,その辺の議論にちょっと入っていった方が分かりやすくイメージできるんだろう思うんですが,その辺はいかがでしょうか。

○説明者(杉澤)
体系化されたものを提示されてしまうと,むしろ硬直化してしまうと思います。ですから,本当に地域に寄り添った目線を持つことでプログラムを作らないと,そこにいる人たちのものになっていかないと私は思っているんです。ですから,例えばさっきの日本語教師であるべきか,ボランティアであるべきかという議論も,その地域にそういう人たちがいなければ,いないなりのプログラムを作っていかなければいけない。けれども,そのプログラムの方向性というのは,私は必要なんだと思うんです。これは国が示した方がいいと思います,その方向性です。だから,どういうプログラムを作ったとしても,その方向性を見極めながら,そこに合ったものを作るというふうに考えているのがプログラムということです。

○佐藤委員
ガイドラインですか。

○説明者(杉澤)
正にプログラム作りに必要なものは,ガイドライン的なフレームです。

○中野委員
私は主に海外の初等中等教育の日本語教育支援をやっているのですけれども,現場がすごく多様化しているということも同じですし,行政のバックアップが必要という点も小・中・高校をやっているものですから,違う場面ですけれども,同じような心情をいつも持っています。国の政策の中に,日本語教育を位置づけるという意味の中に,大綱とかプログラムを作成する以前の問題として,ともかく日本の社会は多文化共生の社会を実現させなければいけないし,その中で,日本語教育というのはものすごく大事なことで,皆さんで取り組まないといけませんよという,ビジョンや,企業に対しても労働者の日本語をなおざりにしないできちんとそれに対応しなくてはいけないとか,その地域の住民にとっても大事だという,まずその重要性を国として明確にしていくというメッセージが,政策の大前提にあると思います。
ですから,海外でやっていても,その市や省とか州がきちんと日本語教育を位置づけてバックアップしてくれるとすごくやりやすい。むしろ何をどうしなさいというのは余り言ってもらわない方が良くて,そこはそれぞれの地域あるいは学校とか,そこに応じたものを作ればいい。国が日本語教育をやらなければいけないということを強く言ってくださると,例えば,自治体の中で余り日本語に関心を持っていない方たちや,協会の上の方にいらっしゃる方たちを説得したり話したりするときに拠り所にできる。何かそれがまずとても大事なような気が私はします。

○西原主査
総理大臣の施政方針演説の中で語られるような,どういう人たちで日本の国はできているべきなのかというところですよね。

○中野委員
はい。それで欲を言えば,日本語による市民の交流だけではなくて,私は日本人の方も在住外国人の母語である外国語を学ぶということも含めた上で交流して欲しいと思っています。在住外国人との交流に対応していかなくてはいけないんだということが多くの国民に共有されるにはまず国に言ってもらうしかない。そのバックアップを受けて地方自治体が,もちろん地方自治体でもそのニーズも違いますし,全部が全部それに積極的というには,ちょっと温度差があると思いますが,地域にあった施策を進める。私たち一番下にいる者が,よりどころとなるようなものが必要だと感じます。

○説明者(杉澤)
今議論している前提というのは,行政の枠組みの中にある国際交流協会だからこそ,その政策のバックが軸としてあることで仕事ができる。では,民間団体はどうかというと,これはまた違うと思うんです。民間団体は,今,日本語ボランティアのグループがたくさん地域にあって,そういう人たちが個別に大変な苦労をされて活動されています。そういう人たちも多文化共生政策で言えば,大変な担い手であるわけです。「まちづくり」の観点から言うと,国際交流協会だけでそういう事業をやっていればいいかというと,そうではなくて,国際交流協会が,そうした活動をしている様々な人たちと問題・課題を共有する場を作ることでこそ,地域日本語教育を推進する拠点になるわけです。事業をやる,日本語の教室をやるだけではない役割というのがあって,そういう視点でとらえるならば,やはり行政的な大きい骨組みの中で活動を動かせるという立場であるということです。それはあった方が,さっきも申し上げましたけれども,様々に展開できる。
もう一つ申し上げると,私は地域日本語教育というのは多文化政策の柱だと思っているんです。というのは,現場にいて,これは本当に実感することですけれども,私たちは今,専門家相談会をやっています。それこそ弁護士会や行政書士や精神科医のグループとも連携してやっています。でも,この仕組みを作るきっかけとなったのは,地域日本語教育の現場の中にある課題の発見からでした。また,国際交流協会の事業の大きい柱,国際理解とか国際交流とか,外国人支援とかという柱がありますが,これも本当に現場で市民が同じ目線で外国人の痛みとか喜びとか悩みとかを肌で感じられる場がなくしては,机上の空論で,意味が余りないんです。だから地域日本語教育というのは,生身の人間が関係を構築していく中から見えてくる,より本質的な課題解決の事業を展開していく基軸といえます。

○西原主査
そうすると,一番トップのところは国がどうあるかということでしょうし,一番ボトムというのはおかしいですが,現場に近いところでそういう認識があるとすれば,このトップダウンとボトムアップが合わないといけないですね。
それで,何か今お聞きしていると,ボトムアップするためにはトップが必要です,トップはやはりボトムを見ていなければトップのところはできませんということですね。そこで,この委員会はどうするんでしょうか,この委員会は,一体何を,来年度に抱え込むのでしょうかという,そこは課題としておいておいていいんですか,まだ。

○説明者(杉澤)
ただ協働・連携というのは重要な視点だと思います。日本語教育だけで攻めていても,全く地域日本語教育は機能しないと思います。

○西原主査
今おっしゃったように,市民が幸福に暮らすというところが,いろいろな意味でサポートされないといけないという話になりますが,もうちょっと,大学のお話をお聞きしたい。今たまたま大学にいらっしゃるというお立場なので,東京外国語大学の例から,この大学と地域を,又は地域の人材と大学というものをどのように,お考えですか。

○説明者(杉澤)
大学はやはり教育研究機関なんだなということは再認識させていただいておりますが,現場にいるわけではないですから,現場の課題にどう対応するかというよりもむしろ,今まで私自身が課題として認識してきた問題をどう解決していくのかということを教育研究という視点でどう切り込めるか考えているんです。そうしますと,実際に多文化社会を担っていく人材がどうあるべきなのかというところをきちんと大学としてとらえ,そういう人材の養成をしていくということが必要だと思います。もう一つ言うと,市民の素養的な部分プラス実際に課題を解決していくための専門的な人材というのが必要で,リカレントでもいいと思いますが,そういう仕組みを大学としても開いていくべきじゃないかなと思っています。

○山田委員
今,杉澤さんがおっしゃったこともそうかなとも思うんですけれども,ちょっと違うかなというのは,さっき主査がヒューマンリソースコーディネーターという話をされたんですけれども,そういうヒューマンリソースコーディネーターがいる企業とか,あるいは団体とか,それは昔はそんなに要らなかったんです。係長とか課長が飲みに連れていって,「おまえの人生」というのを聞いたり,そういうのをやっていく。そういう中で,みんながそういうのをやれるような共同体といった意識というので,この国は進んできたんだと思うんですけれども,それが要るようにだんだんなってきているんです。大学も,地域とかそういうところで学生が学ぶ,教室で学ぶよりも,地域で学んだことを教室で確認したり,あるいは教室でやったことをまた地域で応用したり,そのような学ぶ場もあるし,教える教授も地域に一杯いるしという,そういうことがあると思うので,私は,大学の役割はこれだと地域で考えるだけではなくて,それこそ地域と大学と一緒になって考えるというスタンスがあると,大学そのものも変わっていて,大学の今果たすべき役割というか,そのようなものをどう再構築するかの中で重要な視点になっていくんじゃないかと思うんです。

○西原主査
でも,正にそれをやっていらっしゃるんでしょう,今。

○説明者(杉澤)
おっしゃるとおりで,私自身は大学の教員というのは非常に重要な地域リソースだと思っているんです。現在,センターとして東京外国人支援ネットワークという専門家相談会を展開しているネットワークに加入し,本学の教職員が通訳ボランティアとして参加しています。教授の偉い先生が,本当に一人の市民として地域活動に入る。そこにおける教員の発見というのも実はあるんです。現場に余り入ったことがないですから,実際に通訳に来ているタイやフィリピンなどの外国人の方と,1時間ぐらいコミュニケーションを取ったりすることで,多言語・多文化化する社会をどうしていくのかを考える際に,現場を肌で感じながら教育・研究に取り組める教員というのは正に必要だと思いますし,そういう意味では,本当におっしゃるとおりではないかと思っています。

○西原主査
それでは,今度はお三方全部に開き直すということで,全体的な今日のお三方のお話を聞いて,この委員会として,中野さんが先回の議論を五つにまとめてくださったように,今回我々はこのお三方のお話をどのように受け止めて,先回上がってきた五つのポイントとどうやって結び付けていくのだろうかというところを少し,あと30分足らずですけれども,意見交換できたらいいのではないかなと思うのですけれども,その視点も含めて,よろしくお願いいたします。唯一,非日本語母語話者というのか,非日本人が来ていらっしゃるので,どうですか,今こんな話を聞いていて,何でもいいんですけれども,感想を教えてください,三池さん。

○説明者(三池)
難しい日本語で,全部理解したかはちょっと…。でも,勉強になりますね。日本語教育とかボランティア,今までに私が参加したことのないお話を聞いて,ここまで難しくしなければ,外国人に教えるとか,日本語ボランティアとか日本語教師とか,私たちは外国人として,そこまで難しいのかなと,今日は…。

○西原主査
それは貴重な御意見なので,もうちょっと。

○説明者(三池)
地域にいるボランティアをやってくれる人たちが,優しくというか,教えてくれる。働きに 来ている,出稼ぎとかに来ている方たちには余り難しく日本語を,教えなくてもいいんです。それは,求められていないと思うんです。ただ,生活の上とか,労働するための日本語は必要です。それで,長く住んでいると,もっと日本社会に溶け込まなければいけないから,日本語を学んでいく。でも,皆さんに日本語を教えてもらうために,ここまで研究だとか,いろいろ難しいんだなということが今日ここで分かりました。

○西原主査
例えば中国人でもフィリピン人でもブラジル人でもいいんだけれども,結局現状としては,多くは子会社,孫請け会社が,派遣というか,間接雇用ということになっているわけですね,直接雇用じゃなくて。そうすると,「仕事がある。はい,行って。どうぞ。」と言われて,次の日から「さあ働く」になるのが現状ですね。仕事をこういう手順でやったらもっといいんじゃないかとか,それからここでは残業はどういうことになっているんだよとか,そういうことはだれが説明してくれるのか。それとも,この工場の中で,例えば,今は能力給じゃないかもしれないけれども,いい働きをしたらボーナスが上がるとすれば,そのいい働きってどのようにしたらいいのかみたいなことというのは,だれが教えてくれるんでしょうね。
つまり働き手として引き受けるときに,日本の企業とか,それから,浜松市民たちは何をしているのでしょうか。自分で開拓して自分の生き方を「さあ自立するのだ」になってくるまで,自分たちでアンテナを張るということが大切とされているんでしょうか。例えば三池さんは,相談員として相談を受ける内容としては,先ほど法律が分からないとか,法律が変わったら,自分が勉強していかないと相談できないとか,おっしゃいましたけれども,一番多い相談というのは,働いている人からと,それから家庭の主婦たちだと思うんですけれども…。

○説明者(三池)
働いている方たちの相談が多いです。

○西原主査
働いている方たちの相談が多いですか。どういうことが…。

○説明者(三池)
やっぱり言葉の壁で起きた問題です。

○西原主査
例えば,社長がこう言ったけれども,分からなかったとか…。

○説明者(三池)
日本語の単語の中にはたくさん,「取りあえず」とか「最終的には給料はこれぐらいですよ」と言って,実際に1か月たったら,それがそうじゃなかった,同じように給料を上げてくれなかったとか,そういう言葉の,単語によっての理解ができなかった。上司の方は,このように言っていないのに,その人は少しの日本語しか分からないので,こういうふうにとらえたということが結構あります。

○西原主査
そういう相談があるんですか。そのことは私も実際に経験しましたけれども,「初任給20万ですよ。」と言われて,20万円もらえると思っていたら,14万6,000円しかもらえなかったというのはよくある話というか,いつもそうなんですけれども,ただ,その言われ方,「あなたの給料は20万円です。」と言われたら20万円もらえるものと思ってしまうという,その辺のところがやっぱりコミュニケーションのギャップになりますね。それは,「日本では,いろいろなものが引かれるんだよ」という常識というものが…。明細を見ても,分からないものは随分たくさんあるけれども,その辺はそうやって説明してあげるわけですか。

○説明者(三池)
私もまだまだ日本語の中で勉強しなければいけないことがあります。発音の違いとかでまた違うように理解してしまったり,自分でも職場の中で,そのようなことがあります。

○西原主査
そのことについて,もうちょっとこうだったらいいのにというような話は聞こえてこないんですか。つまり,最初からこれこれが天引きされると言ってくれれば良かったとか,残業というのは上限があって,仕事が必要だから働いてもらうということだけではないんだとか,そこには規則があるんだとか,そういうことをもっとちゃんと説明されたら良かったのに…という話とかは…。

○説明者(三池)
ありますね。ただ決められたことをこうこうと言うんじゃなくて,教育の現場でもそうなんですが,子供たちに,こういうことをしてはいけませんと言うだけで,子供たちはそれを理解できないから,通訳とか外国人サポーターがいて説明する。そうしたら,その子は「そうなら私はこうしましょう」と言う。ただ「だめだめ」と言われても外国人にはよく理解できない。

○説明者(堀)
職場の中でも,これだけ長い付き合いをしているんですが,意思疎通ができないときがあるんです。

○西原主査
堀さんと三池さんの間でコミュニケーションが…。

○説明者(堀)
職場の中でも,彼女ともう一人ブラジル人のスタッフがいて,またアメリカ人のスタッフがいて,イギリス人のスタッフがいて,フィリピン人がいて,中国人がいると,会議をさせていただいたときに,全員理解が違ったりするんです。いいところ取りをしていたりとか,後は,もっと細かく言ってくれなければよく分からないとかというのがあって,会社の中で「印鑑を押しておいてね。」と言われたときに,印鑑ってどこに押すのかといったことも本当に事細かく言っておかないといけない。分かっているだろうという推測の文化の中にいる私たちにとっては,分かっているだろうということは最初からないと思わなければいけないので,そういう面ではよく言われます。また,外国人の相談というのは,法律相談などだと,手を切ってしまった,車にひかれてしまったとか,要は自分は悪くないのに,事故の被害者なのに加害者として検挙されている例とかというのがある。そういう話を聞くときに弁護士さんに対し,書いて,何して,こうしてというようなことを日本語で言うと,弁護士さんには「何だ,この偉そうな外国人」と思われてしまう。だから,彼女はうまく通訳して伝えなければいけないというように,コミュニケーションの中でも,翻訳も通訳も,すべて相手を察しながら伝えなければいけないということがよくあるというのも聞いております。

○中野委員
皆さんのお話を聞いてちょっと思ったのは,この議論のまとめで言えば,1番,2番と,3番,4番とは質的に違うような気がします。狭義の日本語教育と,もうちょっと広い意味での日本語教育とをどうしても一緒に重ねて考えなくてはいけないわけですけれども,どちらかと言うと,1,2番というのはいわゆる狭義の,…。

○西原主査
教室をどう運営するか,カリキュラムをどう作るか…。

○中野委員
そういう問題で,すごく学習者が多様化しているから,とりわけボランティアの方たちは対処に非常に困っているといった問題が一つある。もう一つ,3,4につながってくるのは,地域のいわゆる外国人をめぐる社会的な問題に対して,私たちとして何とかしなければいけない,そこに日本語がくっ付いているといった問題があると思います。それで,3,4のいわゆる広義の日本語教育は,本当に地域によって社会的課題が違うので,それに対してどうするかということを,多分杉澤さんがやっていらっしゃるプログラムのように,社会的な視野で取組む必要があります。しかし,今何か課題があるから交流しなくてはいけないわけです。何も問題がなければ,短絡的に言えば交流したくなければしなくてもいいわけですが,もうそういうのは許されない社会が来ていて,それに向き合わなければいけない。その課題を知って,何とかしようということじゃないかなと思うんです。だから,「プログラム」という名前になると思うんです。
でも,「カリキュラム」という言葉には,1,2番の日本語の教室をどうしたらいいか,その学習者をどうしようかという問題があると思います。私は,カリキュラムの方の問題に関しては,確かにそれぞれ違うというのはあるんだけれども,かなり共有できるものもあるような気がしています。ですから,ある程度の共有化を進めることができたらいい。それで,浜松でこのようないいカリキュラムを開発していらっしゃるなら,ほかの地域がそれを見られたらいいなとちょっと思ったものですから先ほど質問したんです。ホームページを利用するとかいろいろなことができるかもしれないんですが,そういう共有化というのは何かもうちょっと大きな力がないとできないような気がするんです。それぞれの違う面と,でもこの辺はみんなで共有できるという面が少しでも整理できたら大分救えると思います。

○西原主査
もう一つその上に国の政策という,3層構造に今のところ焦点化されているのでしょうか。

○中野委員
それを進めるのに,国としてやるという何かがあると,やりやすい。

○西原主査
総務省のは,確かに日本語教育関係者にとっては,よくぞやってくれた,こういうものが出て良かったになるんですけれども,あれは世の中に知られているんですか。

○説明者(杉澤)
一応自治体には通知されていて,都道府県レベルには行き渡っているんですが,基礎自治体まではなかなか下りていない状況です。

○西原主査
下りていないんですね。一般市民レベルではどうなんでしょうか。

○中野委員
そういう意味では,井田委員のような方の…。

○西原主査
いかがでしょうか,井田委員。

○井田委員
文字を見たことはございます,というだけです。多文化共生推進プログラムのことですね。テレビのニュースでは扱っていないと思います。

○説明者(堀)
なので,NHKさんとかテレビ朝日さんとか日テレさんとか,浜松にも支局があって,そういう人たちに我々が投げ掛けていかないといけないと思うんです。静岡県と愛知県は,例えば同じ中日新聞というのがあって,愛知県版と静岡県版は全く違うなということをこの前感じたんです。愛知県の方だとNPOの団体とかが活動しているグループ団体の紹介がほとんどで,こちらは企業さんが日本語教室をやりますとか,そういった地域特性がすごく描かれているというのがあって,それは投げ掛ける側と言うか,国際交流協会職員としてやっていかないと,マスコミさんとの連絡,連携調整というのも,マスコミは嫌なことばかり言うからとかじゃなくて,いいことをたくさん伝えてもらわないといけないので,それを例えば,我々が提供するということをしなければいけないんじゃないかなと考えます。

○西原主査
井田委員,せっかくですので,来てくださったので,今日の議論を聞いていらっしゃって,いかがでしたか。

○井田委員
日本語教育と言いながら,先ほど三池さんがおっしゃった,働くシステムで分からないこと,あるいは給料のトラブルを解決するというか,そういう問題が起きないようにするには,日本語というよりも,何か職場に一人とても親切な人がいれば防げたり解決できたりすることなのかなと思ったんです。そうすると,実は私,日本語教師というのがどのような資格なのかすら知らずにここにお邪魔しているんですが,お免状みたいなものがあるのか,あるいは一定の試験なのか,自動車免許のようなものなのかすらも知らずにいるんですが,日本語教師よりも,日本語を教える資格はなくても,親切な人,思いやりのある人というか,細かく粘り強く辛抱強く説明してくれる人とか,こういうところに誤解があるんじゃないかなと気が付く人というか,そういう人が実際の現場では求められている。もちろん,日本語がちゃんと教えられて,教わる側も日本語ができるようになることは大事なことなんですが,これは,とても幅広くて大変なことに取り掛かっていらっしゃるのだなということが分かりました。

○西原主査
コミュニケーションということを考えれば,コミュニケートできていないわけなので,それを日本語教室が仲介すべき仕事の範囲ですととらえれば,日本語教師の守備範囲に入ってくるし,コミュニケーションということを言語活動としてとらえない考え方だと,それは,日本語教師の役割じゃないんじゃないかみたいになってくるという,多分そういうことですよね。

○井田委員
日本語教師が増えることは大事なことだと思うんですが,日本語教師が増えたからといって,三池さんが受けるような相談というのはそれだけでは減らないだろうなと感じました。

○尾﨑委員
日本語教師が増えればいいなと今,井田委員がおっしゃって思ったんですけれども,少なくとも日本語教育で生計を立てられるような日本語教員が増える見通しはちょっとなさそうなんです。むしろボランティアの方が活躍なさって,非常勤という非常に不安定な身分で日本語を教えている人の方が,私のような安楽な暮らしをしている人間よりもはるかに多いというのが現実なんです。ですから,例えば,時給1,500円とか2,000円で日本語学校でプロとして教えて,宿題のチェックを一杯やって,更に生活面の指導までやっている,そういうプロの日本語教師が一杯いるわけです。多分,時給2,000円ぐらいの人が多いと思うんです。だから,さっきの堀さんのところの交通費込みで5,000円,それはボランティアじゃないでしょうとつい言いたくなってしまったのは,一方にそういう現実があって,これだけ日本語教育が必要だと言われていて,専門家がもっと必要だと言うんだけれども,実は,社会的には非常に劣悪と言っていいような状況で頑張っている人がいる。そういうこともどこかでアピールしていかないと,地に足の付いたしっかりした仕事は続けられない。
もう一つは,世話好きのおばさんたちが外国人にとってはとても有り難い存在で,そういう人がもっと増えていけば,職場でも増えていけばいいんじゃないかな,というのは今のお話でそう思いましたけれども。

○西原主査
そうですね。例の一つとして引っ越し文化のことを考えるんですけれども,日本というのは,引っ越してきた人があいさつに行く文化です。でも,例えばアメリカは,引っ越してきた人に対して,近所の人があいさつに行く文化です。そうすると,日本に来たアメリカ人は「だれも来てくれない」,受け入れる日本人たちは「あの人はあいさつに来ない」というコミュニケーションギャップが直ちに生まれてしまう。これは日本語教師の役割ですかというと,イエス・アンド・ノーと言うか,日本語をどうとらえるかによって,つまり引っ越し文化というのもコミュニケーションなので,それまでちゃんとケアしてあげるのが日本語教師と考えるのと,そこは,日本語じゃないよと言ってしまうのとではちょっと線の引き方が違うかなと思うし,親切なおばさんがそこまで知らないと,つまり親切なおばさんなんだけれども,当然引っ越してきた人が来るんでしょうと思っていたら,これはその人にとっては親切なおばさんじゃないんですね(笑)。

○山田委員
それで,井田委員のお話にもあったんですけれども,2001年の文化庁の新しい教員養成あるいは日本語教育の検定試験のシラバスの中には,その部分がものすごく一杯入っていて,異文化通訳みたいな,言葉の通訳だけではなくて,異文化も通訳できるような,あるいは逆に,それは日本語を学びながら,そういうことも伝えられるような日本語教師が必要なんですということが盛り込まれているんだと思うんです。

○西原主査
そうですね。

○佐藤委員
学校の教師というのはもともとそういうものですから。教師と言えば…。

○西原主査
教師と言えばそういうものですね,そうですね。

○佐藤委員
日本語教師と言ったときに,逆に日本語だけに限定して学校でやっていること自体にも問題がある。実はそれをもうちょっと広げる必要性もあるんじゃないか。親切なおばさんでもおじさんでもいいんですけれども。

○西原主査
それが必要なのと,それから先ほどボランティアじゃないんじゃないのかと尾﨑委員がおっしゃった,ボランティアリズムというのをどう規定するかという問題も,この教育全体を考えるときにありますね。ボランティアって何なのかという,例えば国境なき医師団といったものだと,これはプロフェッショナルが時間を提供するということですし,それから,その質が,私はいい人だからやってあげているの,ということでは全然収まり切れないようなことです。そうすると,日本語ボランティアというのが,時間を提供する人という別のかなり冷たい切り方をされる必要が一方ではあります。かつ,お金が絡むかどうかということよりも,むしろ,プロフェッショナルとしての資格がありながら時間を提供する人もボランティアと言うのだという,その辺のところを全体的に考えるときはちょっと,ボランティアから善意を取り去って考えるという,そこのところも必要ですね。

○説明者(杉澤)
ボランティアに関しては,当初からずっとかかわってきて,私自身はボランティアというのは三つに分けられるんじゃないかと思っていて,一つは,本当に善意の無償でやりましょうという人たちの流れがあると思うんです。本当に近所の親切なおばさんというレベルがあると思うんです。二つ目が,生涯学習的な枠組みの中で,サービスラーニングといった,学びの場としてのボランティア活動。三つ目は,98年にNPO法が施行されて,もう一つの公共として社会を作り上げていく市民活動としての意味合いというのがあると思うんです。私は,多文化社会をどう作っていくかというのは,行政だけでできるものではないので,正に公の団体と市民とが対等な立場でパートナーシップを組んで初めて作られていくものだと思っています。私自身は,地域日本語教育の場というのは,単なる善意でやりましょうということではなくて,地域の課題をお互いに共有して,みんなでどう活動を作り上げていくのかという市民活動的な活動として私はとらえてプログラムを作ってきました。だからこそ,目指す方向を共有するということを,一緒に活動する人たちと,かなり力を入れてやってきました。
もう一つ言わせていただくと,私は日本語教育プロパーじゃないんです。どちらかと言うと国際理解とか開発教育の方からなので,日本語教育のカリキュラム作りとかは全くできないんです。実際に現場にいると,生活面の支援とともに,やはり日本語をきちんと学びたいというニーズがあるんですが,そこをどう補うのかというのが私自身のものすごい課題で,だからこそ,文化庁が地域日本語教育推進事業の中でコーディネーターの必要性というのを提言された時に,日本語教育をきちんと,文法とか文型とか,そのレベルで分かる人材を市民活動の中に取り込む必要があると考えました。プログラムというのは施策ですから,施策を担当しているコーディネーターとは別に,日本語支援コーディネーターというポストを作って,お金を払ってやってもらうようにしました。日本語ボランティア,日本語交流員として5,6年活動してきた人の中で,日本語教育能力があり,プロとしてやっている人に付いてもらったんです。それによって,地域に寄り添ったカリキュラム作りというのを担ってもらいたいと思っていて,今私は抜けましたけれども,その二人が中心になり,日本語事業を担当する職員と共に,今のところ非常にいいチームワークでできていると思います。

○西原主査
多分,ここにいらっしゃる委員の方々も何らかの形でボランティアをやっていらっしゃるんじゃないかと思うんです。ですから,そういう意味では,プロフェッショナルな方々がボランティアもしているというところに,皆さんいらっしゃるんじゃないのかなと思ったので,そういうことをちょっと申し上げたんですけれども。
実は,後2分で12:00になってしまうので,長々と続けることはできないんですけれども,せっかくお三方に来ていただきましたので,お一人1分ずつ,一言ずつもう一度,これだけは是非言っておきたかったみたいなことを…。

○説明者(堀)
杉澤さんのお話の中で国際交流協会,国際交流協会と言われるたびに身につまされるような思いで,あれもしなければいけないんだ,これもしなければいけないんだという気持ちになりましたが,ヤマハ発動機IMカンパニーの教室ができたのは,正にIMカンパニーにいらっしゃった石岡さんという方との出会いでした。何をするにしても人と人との出会いから始まると思うので,浜松にいる人材一人一人に,要は,顔と顔を突き合わせて交流しながら支援をしていけるように頑張っていきたいと思いますので,先生方もどうぞ御協力をお願いいたします。

○西原主査
三池さん,どうですか。難しくしないでというのには,ガツンと来ました。

○説明者(三池)
私は今日ここに来させてもらって,すごく勉強になりました。これほど皆さんが日本語を教えるために考えてくださっていることを,私はブラジル人たちにいろいろお話ししてあげたいと思います。

○説明者(杉澤)
文化庁がこういう形で地域日本語教育に取り組んでくだっていることに私はものすごく感謝しております。だからこそ,国としてやっていただけることをいい形で作り上げていっていただければと願っています。その一つとして,多様な人たちが出会い議論する場というものを,是非何か構築していただけたらと思います。

○西原主査
本日は,後ろにいらっしゃる方々も含めて熱心に御論議くださいまして,ありがとうございました。それでは,これで閉会といたします。
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