議事録

第4回国語分科会日本語教育小委員会・議事録

平成19年11月1日(木)
9:30〜12:00
文部科学省 10F3会議室

〔出席者〕

(委員)
西原主査,杉戸副主査,岩見,尾﨑,佐藤,中野,山田,市川各委員(計8名)
(文部科学省・文化庁)
町田国語課長,氏原主任国語調査官,西村日本語教育専門官,中野専門職ほか関係官

〔配布資料〕

  1. 第3回国語分科会日本語教育小委員会・議事録(案)
  2. 第3回日本語教育小委員会ヒアリングを受けての議論のまとめ
  3. 社団法人日本経済団体連合会からのヒアリング資料
    「外国人受入問題に関する経団連の基本的考え方 ―企業の責任と外国人に対する生活支援―」
  4. 財団法人海外技術者研修協会からのヒアリング資料
    「日本語教育と多分野との連携」

〔参考資料〕

  1. 日本語教育の現状と課題
  2. 第2回日本語教育小委員会ヒアリングを受けての議論のまとめ

〔参考資料〕

  1. 事務局から配布資料の確認があった。
  2. 前回の議事録(案)が確認された。
  3. 事務局から配布資料2についての説明があり,その後,資料の内容に関し,委員から提案と確認があった。
  4. 西原主査からヒアリングの説明者について紹介があり,それを受けて,説明者からも簡単な自己紹介があった。
  5. ヒアリング?
    井上洋氏(社団法人日本経済団体連合会)から,「地域における日本語教育の在り方について」の意見発表があり,その後,委員との間で意見交換が行われた。
  6. ヒアリング?
    春原憲一郎氏(財団法人海外技術者研修協会)から,「地域における日本語教育の在り方について」の意見発表があり,その後,委員との間で意見交換が行われた。
  7. 上記5及び6の終了後,更に自由な意見交換を行った。
  8. 次回第5回の日本語教育小委員会は12月6日(木)に,三菱ビル地下1階「M1会議室」で開催されることが確認された。また,次回の国語分科会総会については12月10日(木)に開催されることが併せて確認された。
  9. 意見発表及びその後の意見交換等における意見の要旨は,次のとおりである。

配布資料2の内容に関する提案と確認

○西原主査
参考資料2を同時に御覧ください。前回,第3回の日本語教育小委員会のヒアリングでは,このような項目が上がってきました。内容に関し,少し大きく,くくり過ぎだというような御意見もあろうかと思いますが,議事録は議事録として詳しい記録が残っております。このヒアリングのまとめというのは今年度末の1月には,この委員会の報告をしなければいけないわけです。これは,来年度の検討事項へとつながっていくものだと思いますので,項目の枠組みがこの間の議論と全く違うというようなことでございましたら,是非御発言いただきたいのですが…。あるいは補足の御意見がありましたら,是非御発言いただきたいと思います。いかがでございましょうか。
○岩見委員
補足と言いますか一つ。上がってきた中で日本語教育の専門家のインフラ整備というのも,是非入れていただきたいというふうに思っております。
○西原主査
それは,日本語ボランティアと日本語教師の定義というところで,日本語教師にかかわる,それぞれに求められる役割の検討の中に入れてもよろしいでしょうか。
○岩見委員
それで結構です。
○佐藤委員
1点確認させてください。3番の最後が,「新しい時代における外国語学習」とあえて「外国語学習」としている点は,日本語ではなくて日本人が外国人から外国語を学ぶというような意味で使われておられるんですか。
○西原主査
それも含んでいるのではないかと…。
○佐藤委員
つまり,そういうかなり広い枠組みの中で議論しようという…。
○西原主査
外国語として日本語を学ぶということと,それからほかの外国語を外国語として学ぶというような,そういう概念としても,単に日本語ということだけでない枠の広げ方もあるのではないかというようなことだと思いますが,何かそれについての御意見はありますか。先回,中野委員がおっしゃっていたことも含むんですが,それだけのことではなくて,外国語としての日本語ということももちろんあるのではないでしょうか,このことでは…。
○佐藤委員
何か外国語学習という単語を使われますと,ちょっと狭い概念ですね。
○西原主査
そうですね。これは「第二言語」にした方がよろしいですね。
○佐藤委員
はい,その方が通りがいいかなというふうに思いました。
○西原主査
分かりました。では,「第二言語学習」というふうに変更させていただきます。当然のことですけれども,第二言語という場合には2番目だけを言うのじゃなくて,3番目も4番目も5番目も第二言語というふうに言うと思います。
ほかにはよろしいでしょうか。もしまた,お気付きのことがありましたら,後ほどの後半の議論の中で御発言いただければと存じます。よろしくお願いいたします。
では,お待たせいたしました。これからお二方のヒアリングを行います。
初めに,社団法人日本経済団体連合会,通称,経団連でございますが,その産業第一本部長の井上洋さんにお話を伺いたいと思います。一言,ごあいさついただけますか。
○説明者(井上)
経団連の井上でございます。日本語教育学会や国立国語研究所の会合などでも,お顔を皆さん存じ上げている方ばかりなので気楽にお話ししたいと思いますが,実は,もう何度も皆さんの前でお話をしている感じがありますので,資料は資料として御説明いたしますが,最近,いろいろなところに出向いて調査をしていますので,その辺についても御説明させていただきたいと思います。
○西原主査
ありがとうございます。そして,もうお一方でございますが,財団法人海外技術者研修協会からAOTS日本語教育センター長の春原憲一郎さんでいらっしゃいます。市川委員は多分AOTSといっても何のことだか分からないと思います。ほかにもそういう方がいらっしゃるかもしれませんので,そこから一つ…。
○説明者(春原)
AOTSは1959年に設立されました。JICAは外務省ですけれども,海外技術者研修協会は経済産業省の所轄です。主にエンジニアや,それから企業のマネジャーの受入研修とか,海外研修とかをしている,そういう機関でして,AOTSというのは,「The Association for Overseas Technical Scholarships」の略でございます。
○西原主査
Scholarshipsなんですね。
○説明者(春原)
そうです,Scholarshipsなんです。ちょっと格好良すぎるんじゃないかと言われているんですけれども,そういうところから参りました。よろしくお願いいたします。
○西原主査
どうぞよろしくお願いいたします。
この委員会で先ほどもちょっと申しましたけれども,来年2月をめどに日本語教育における様々な課題を整理するということで,ヒアリングをさせていただいているわけです。これでヒアリングとしては3回目ということになるんですが,まず,経団連の井上さんからは産業界から見た外国人受入問題ということで,生活支援としての日本語教育の役割,必要性について。それから,春原さんには技術研修の対象者が広がっているということを受けて,その日本語教育の対象者の広がりということを御説明いただき,そして日本語教育と他分野との連携ということで,それぞれ御意見をいただければと思います。今日は経済産業省というところが新しい省庁としては対象にあり,それから経済団体連合会という企業体のこともお話しいただくということでございます。 それでは,前置きが長くなりましたけれども,井上さん,どうぞよろしくお願いいたします

(1)井上洋氏の説明と,その後の意見交換

○説明者(井上)
それでは,御説明いたします。
資料3として,簡単に文章を書いたものと,少し分かりやすい図を付けてきました。
経団連という組織は昭和21年にできていまして,もう60年以上の歴史があるわけですが,5年前に日経連という労務人事問題をやる,財界の労務部なんて言われたようなところと合併しまして,それで,日本という名前を付けて日本経済団体連合会となりました。その辺りから,私は旧経団連の職員ですけれども,やはり労務問題,人事問題,人の問題というものに着目していこうという意識が非常に高くなっております。
と申しますのは釈迦に説法になるかもしれませんが,経済の成長力というのは単純に言うと三つしか構成要素はございません。労働と資本,これは設備と言ってよろしいと思いますが,それと後は技術ですね。この三つがどのぐらいそれぞれ寄与するかということを算出して足し合わせますと,その一国の潜在成長率というのが出ます。昨日日銀の会合がございましたので,福井総裁のお話が新聞紙上に出ていますけれども,日本の潜在成長率って大体今2.5から3%ぐらいあるんですね。潜在成長率と実際の成長率というのは違いまして,実際の成長率は大体2%ぐらいということですから,今,実力に比べると若干低い成長を続けているということです。
その話を続けていくと,本当に1時間でも2時間でも掛かってしまうんですが,私は経団連に入って以来,どちらかと言うとマクロの経済よりはミクロの産業の分析を20何年間やってきまして,その中で労働というもの,人というものに着目して少し勉強を強化し始めたのが大体2000年前後です。その間に日経連との合併もあり,やはり人の問題というのはこれから非常に重要になるなということで,外国人の問題についても私どもの産業第一本部というところで,今,担当しているという次第でございます。
資料の冒頭に書いてございますが,20004年4月に「外国人受け入れ問題に関する提言」というのを発表しているわけですが,この時はちょうど日経連と合併していましたので,日経連の面々と我々経団連の人間がプロジェクトチームを作りまして各地に出向き,今,外国人雇用あるいは外国人の地域での生活をめぐって,どんなことが起きているのかを徹底的に調べました。10人ほどのチームだったんですが,100か所以上はヒアリングをしたり,現場を見せていただいたりしまして,いろんな知見を集めることができました。
我々が考えましたのは,一つの考え方として,人口減少というのが,今,日本にとって大きなテーマになっているわけですが,人口減少を穴埋めするために外国人を入れるという考え方を採るべきか,採らないべきかと,この一点に絞られました。現在,大体200万人ぐらいの方が外国人登録されていますし,帰化されている方の中にも結構外国にオリジンを持っている方もいらっしゃって,人口比で大体,1点数%というような状況です。これから大体10年から15年先,一番高齢化のピークというのは2025年とされているんですけれども,それまでの間に,日本の就業人口は700万人ぐらい減るんですね。
700万人と言いますと今の外国人登録者数の3倍強,そうすると,今200万人の方にいていただいて,もちろん働いていない方もいらっしゃいますが,この700万人を外国人で埋めて,日本経済を無理やり人口の面から維持しようというのは,ちょっと無理ではないかと…。もちろん外国人をどんどん受け入れるという考え方はあるにしても,何か数的な埋め合わせという方向を採ると,ちょっと無理が生じるんではないか。むしろ,日本で外国人が活躍できる環境を作ることによって,極端な言い方をすれば,一人が二人分,三人分の活力を発揮してもらって,日本人もそういう活躍をしなければいけないんですが,要するに活力のある日本社会を作るための受入れをする,そういう考え方を採ろうではないかということでございます。
ここに潜在成長力の三つの要素と書いてありますけれども,実は1990年代以降,労働の寄与度って,ほとんど日本の場合,出ていないんですね。これからはマイナスになるということなので,そこを埋め合わそうという御意見の方もいらっしゃいますが,今申し上げましたように基本的には埋め合わせのためではないんだということをベースに,この提言は構成されているということでございます。その後,更にフォローアップをしたり,今年は3月に第二次提言,それから,つい最近も研修技能実習制度の提言ということで立て続けに出しているんですが,その提言の中でも政策の問題だけではなくて,受入企業のコンプライアンスの問題とか,外国人の生活環境の整備,支援の問題,こういった問題に対しても提言をしています。
受入れに向けた四つの社会的基盤というのがここに書いてございますけれども,次の2ページ辺りから具体的に書いてあるんですが,やはり官民の責任を明確化しようということであります。明確化というよりもそれぞれしっかり仕事をしましょうということだと思うんですけれども,やはり政府の方ではやや縦割り行政の弊害がこの分野は強く出ているんではないかなという感じがいたします。総合的な受入施策を推進するということで,前の内閣で,生活者支援の中間取りまとめが出ていますが,あれなどは一つのきっかけにはなったのかなと…。各省庁はそれによって動き出したなという感じがございますし,それから,ここにちょっと書いてないんですが,規制改革会議というところが今ございまして,日本郵船の草刈会長は,経団連の副会長でもあるんですが,そこの議長をされていて,ちょうど今年1月に新しくなったんですが,昨年末に前の会議体で答申を出しています。
そこで外国人登録の問題とか,あるいは企業の就労管理の問題に関してやはり答申を出していまして,一部は法律の改正に結び付いています。そういった政府の取組とか,いわゆる総理に対する諮問機関である規制改革会議の方で答申を出したことによって,このくらいの固まりの政策を全体に動かそうというイメージが皆さんできてきた感じがありまして,我々が2004年に提言をまとめたころに比べると,かなり政府の取組は一本にまとまりつつあるなという感じがいたします。
ただ,現状ではいまだに担当大臣というのはいないんですよね。例えば男女共同参画なんて言いますとございますし,少子化対策もおりますし,そういう形で特別に内閣府で担当者がいて,担当大臣がいるという組織体制にはなっていないんですね。我々としてはやはり全体を見ていただく大臣が必要なんではないかなと。それぞれ経済産業省,厚生労働省,文部科学省,法務省,総務省と担当の課もございますし,施策をやっていただいているんですが,できれば全体を俯瞰するような形の担当大臣がいて,内閣府にもその担当者がいることが,この問題には,結構重要なことではないかなということでございます。
一方,受入企業なんですが,ここは,本当に経団連という会員企業のレベルから見ると,中小零細企業で一体何が起きているのかというのは全部見えているわけではないんですが,余りにも労働関連の法規に違反する例が多くて,まず,ここをしっかりしない限り,その先のことはできないなという感じがします。最近,研修技能実習制度の改革をめぐっていろいろな役所が議論し,また,いろんな研究会の報告書も出されていますけれども,そこで言われていることの非常にシンプルな問題は労働法規を守ってくださいよということです。例えば,最低賃金以下の給与表が実際に存在していたり,残業はさせてはいけないという研修のときに,10何時間労働なんてひどいことをさせていたり,要するに労働に関する権利というよりも,人権にかかわるような問題が起きているという感じがするんですね。
こういうことをやっていると,もう外国人を受け入れるということは,そういう企業を放置するということになるので,根っこからやめてしまったらどうだという議論になるわけです。現実に研修技能実習制度についてはアメリカから人権侵害の非常に最たるものだという指摘を受けたりということもございますし,多くの識者がこの研修技能実習制度は即刻やめて,新しい在留資格の管理方式に変えるべきだということも言っています。実は,経団連は,研修技能実習制度を再構築して,コンプライアンスのしっかりしたもので,これを運用してほしいという提案をまとめています。ともかく,根っこのところで外国人は基本的に遊びに来ているわけでなく,働きに来ているわけですので,働きに来ている彼らをまず労働法規の面で,雇っている企業あるいは請負や派遣で受け入れている企業がしっかりと見ていくということができないと,すべて絵にかいたもちになるということで,この辺は経団連も相当危機感を持っています。
昨日も,大阪である請負派遣の会社の会長さんたちとパネルをやってきたんですが,その会長さんも研修技能実習制度はやめるべきだと,私が見ている範囲では,あれはもう持たないという言い方をしています。もちろん,会長さんの立場というのはありまして,ちょっと余談ですが,研修技能実習制度は最近じわじわ増えているんですね。その一方で,日系人を中心とした請負派遣が若干労働者の能力が低いということもあって,それからすぐ自分の意思でやめることができるという制度ゆえに,企業が使い勝手が悪いということで少し減り始めているんです。ダウントレンドまでは行っていませんが,横ばいぐらいになっているんですね。ですから,日系人の失業なんていう問題が起きております。
そういうこともあって,彼にとっては研修技能実習制度というのはちょっと目の上のたんこぶ的な制度なんですね。そっちで企業がどんどん人を採れるようになれば,日系人を入れる必要がなくなるという,実は非常に今日的な問題が今出ておりまして,それで彼はそういうことを言っているんじゃないかなと私は思っておりましたが,日系人を請負派遣で受け入れるにしても,研修技能実習制度で入れるにしても,企業の気持ちはやはり安い労働者を入れたいというところが非常に強くて,安い労働者に一体,それでは後ほどお話しする生活支援,日本語教育のサポートなんていうものを進んでやるかという問題が出てくるわけです。それをやらせるためには何をしたらいいのかということも,やはり少し知恵を絞らなければいけないことになっているのかなと感じています。
それから,2番目は,やはり日本の場合には量的な管理を外国人受入れにはしておりません。どんどん増えていっても,そのまま申請どおりの許可要件に達していれば入れられることになるわけですが,やはり労働市場がこれだけ構造的に変化してまいりますと,ある程度,量的規制を含めた受入れというのが必要なのではないかというのが我々の考え方です。
量的な問題というのは,今団塊の世代で退職の時期を迎えている方,恐らく数年は労働市場に残ると思うんですが,やはり2015年ぐらいからは一気に労働市場から退出してくるということを考えますと,ある意味,総枠を規定して,どのぐらいの外国人なら受け入れてもいいのか,あるいは今までは余り労働力となっていなかった女性をどうやって活用したらいいのか,それから,若い人で働いていない人が随分おりますので,そういう人たちをどういうふうに仕事に就かせればいいのかということも含めた量的な把握と考えていただければよろしいと思うんです。そういった日本にとって必要な労働力の確保のために,どのぐらいの外国人を受け入れるかということは大体頭にえがいておく必要があるんじゃないかというのが一つでございます。
それから,やはり日本人優先という考え方は,どうしても採らざるを得ないなという感じがします。これを労働需給テストという方式で呼んでいるんですが,例えば,台湾などは東南アジアの5か国から30万人ぐらい外国人を入れていますが,これは労働需給テストをした上で入れています。まず台湾人に募集を掛けて,それでも来なかった職場に外国人に入ってもらう。そういう仕組みを採っています。あるいは供託金を課したり,かなり規制的な色合いが強いんですが,そういったケースを日本が検討してもいいんではないかという考え方でございます。
3番目は,先ほども申し上げた在留・就労管理の徹底であるんですが,ここの辺りは実は先ほども申し上げた規制改革会議というところが,しっかりとした答申をまとめていただいたこともありまして,今,少しずつ動き出しています。
一つは,在留カードという新しい制度でございます。平成21年の通常国会までにということなのでちょっと時間があるんですが,御存じのとおり,今,外国人は在留資格のある方たちが入りますと,在留資認定格認定証明という証明書をもらいます。それに加えて,最初に居住したところで外国人登録をするんですが,これは別々なんですね。例えば,不法滞在になったような方は,在留資認定格認定の証明書は持っていないわけです。しかし,何と,自治体の窓口に行けば外国人登録ができてしまう。これがまた不思議な制度なんですが,基本的には法務省が在留資格認定証明を出していて,在留資認定格証明の方は法務省から自治体が法定受託した所が出しているんですね。したがって,同じ役所でやっているんですけれども,自治体が窓口のものと入管が窓口のもので,同一人物が合法的に入っているのか,非合法なのかにかかわらず,外国人登録ができてしまう。
外国人登録ができますと,住民としての,市民としてのいろいろなサービスが受けられます。例えば,お子さんがいれば学校に行けることになりますので,よくテレビに出てきて皆さんがサポートする在留許可特別許可というのがございますけれども,それを取る方々は大抵そのパターンです。日本に何らかの形で入って,その後住み続けて働いて,結局は,お子さんは日本語しかしゃべれないという状態で国外退去を命じられて,慌てて支援者のグループを作って何とか特別許可を得ようという形でやっている。私はそれ自体は悪くはないと思っているんですけれども,それにしても日本の制度が非常にあいまいにされていることによって,こういう問題が起きているとすれば,やはりこれは一本化すべきだろうと思います。今,法務省の方では在留カードに一本化しようと,外国人登録と在留資格認定の証明を一本化しようということをしているんですが,正に自治体は総務省の管轄でございますので,そこで,どういうふうにそれを受け入れたらいいかということが総務省の中では十分に整理できていなくて,検討途上であるという感じでございます。
もちろん,外国人登録をする際に,一部の自治体では2ページの下から4行目ぐらいのところに書いてございますが,住民基本台帳という日本国籍を有する人向けの制度でございますけれども,これのシステムを使って外国人の在留管理をしているケースもあります。全自治体がそれをやっているわけではございませんで,当然,サーバーがありますので,そこの隅っこに入れている,という形なんですが,外国人登録をされた方々の情報がそこに入っているというケースもございます。こことの連携の問題も実は出てまいります。これは専ら総務省,自治体のお仕事ですので,これとの関連も整理しなければいけない。正にここが外国人を市民としてしっかり受け入れて公的なサービスをするというベースになる制度でございますので,是非しっかりとしたものを作っていただきたいということです。
2番目は,3ページの冒頭にございますけれども,外国人雇用状況報告という制度がございます。これは実際にはもう法律ができて改正されているんですが,雇用状況を雇用保険をベースにして正しく申請させようというものでございます。雇用保険というのは我々もそうですけれども,ある組織に入った場合には入職,仕事に就いたときに雇用保険に入りますよという申請を事業所からするわけですね。そこの組織を退職した場合には雇用保険から離脱して,それである一定の期間,雇用期間があれば失業給付が受けられるわけですね。あるいは訓練給付とかいったり,いろいろな給付が受けられるんですが,このときに外国人の場合には特別の様式で,どういう在留資格で何年いるかということも含めて,報告をさせようということが今年の10月1日から施行されているということで,これは非常に大きく前進したものでございます。
次,ちょっと時間もございませんので,二国間協定の活用というのをお話ししたいと思うんですが,例えば,今の日系人の受入れとか研修技能実習生の受入れとか,ましてや不法で来られる方は全く相手国の政府との交渉というのはないに等しいと考えていただいていいと思います。一見,研修技能実習制度などは,例えば今中国が7割以上なんですけれども,中国政府と日本政府との取決めがあるように皆さん考えていらっしゃると思いますが,全くございません。もちろん,外交的に若干話し合われることは,検討課題として乗ることはあるようですが,基本は中国における送り出し機関と日本における受入機関,日本における受入機関というのはほとんど入れたいと思う企業の集まりである組合なんですけれども,その組合と送り出し機関の折衝で決まるわけです。
そこで,どんなことが行われているのかというのは,皆さんも一部御存じだと思いますが,研修技能実習生に80万とか100万という保証金を出させて,失そうしたらそれは返さないぞと脅しながら送り出してくる。受入れの方もやはり3年間しっかりいてもらいたいので,パスポートを取り上げてしまったりといったような事例が出ていまして,非常にこの辺は人権侵害的なところがあるんですが,冒頭に申し上げたように日中の政府はそれに関与しているわけではないんです。したがって,研修技能実習に限らず外国人を,特に労働者として受け入れる場合,留学生はかなり個人的なところはあると思うんですが,労働者として受け入れる場合には相手国の政府と最低限の事項で構成された二国間協定が必要なのではないかなという感じを我々は持っています。
台湾が先ほど二国間協定でやっているというお話をしましたが,何か問題が起きたとき,個別の案件でもやはりそれが二国間の協定のどの部分に抵触して問題なのかということが出てまいりますので,そういう意味でお互いの確認事項として二国間協定を結んでいただきたい。今では,いわゆる経済連携協定とか,自由貿易協定とかというような新しい形の二国間協定がございますので,フィリピンはそれで介護・看護をやろうとしていますけれども,そういったものも使えるのではないかなと思います。
そろそろ頂いた時間もございませんので,後は少し飛ばせていただいて,4ページの外国人住民に対する生活支援というところをお話ししたいと思います。実は2004年の4月に第一次の提言をまとめる際には,2段階で提言をまとめるというやり方をしました。経団連は余りこういうやり方をしないんですが,余りにも自分たちの知見が少なかった分野でしたので,確か11月ぐらいに中間の取りまとめというのを出しまして,それをウェブ上で公開して何か欠けている部分はないか,誤った認識のものが書かれていないか,ということをちょっと恥ずかしかったんですが,そういうやり方を採って,お役所でよくやるパブリックコメントみたいなものを受け付けたわけですね。
そうしたら,いろんな方からお話がありました。その中には,もちろん日本語教師をやっているボランティアの方もいらっしゃいました。最初に電話を掛けてきたのは前回の日本語教育小委員会のヒアリング説明をされた杉澤さんじゃないかと思うんですが,彼女と電話で2時間ぐらい話したことを今でも覚えています。一から教えてもらった部分というのはたくさんあるんですが,要するに我々はどうしても制度改革の提案をすることになるんですが,実際に毎日生活をしているという実態を見失ってはいけないぞというのを,杉澤さんから多分教えてもらったんだと思うんですね。確かに企業に8時間とか,10時間とか拘束されているわけですけれども,家に帰れば普通のお父さんであり,お母さんであると,子供もいると…。その生活を思い描いて何か1項目を起こしてほしいというのが彼女の言い方で,そこからいろいろと勉強を始めたわけですが,やはりその中で一番大きいのは日本語の問題だということはもう容易に分かりました。
経済界の中では非常に強く日本語をおっしゃる方も何人かおります。その際の言い方なんですが,二通りありまして,仕事・生活に差し障りがないような程度でやってもらえばいいんだ,どうせ帰るんだろうと。母語も大切にした方がいいんではないかという方と,やっぱり日本に来たからには日本語ですべてができるぐらいのところまでやらなければいけないし,それができないんだったらさっさと帰ってもらえと,極端なことを言えばですね,ということであります。
後者のパターンは,特にアメリカでお子さん,御家族を連れて赴任された方に多いんですが,私が聞いている範囲では例えばアメリカの公立学校に入れると,先生から家で絶対日本語でしゃべらないでくださいと言われる。一生懸命,セカンドランゲージとしての英語を教えていますので,それができないんだったならば,日本語の学校に行ってくださいということをはっきり言われたという経験を持ったお父さん方が,今の経団連の首脳部にも何人かいらっしゃいます。そういう経験に基づいてお話しされるケースが多かったと思います。
ともかく,日本語教育をしっかりできる体制を作るということで,やはりこれは公的な面,それから民間の取組というものの連携でやるというところが自然な形かなということでいろいろ議論をしました。結果的に言うと,やはり民間もそれなりの責任がございますので,国や自治体に加えて,民間企業もお金を出して,日本語教育を含めた生活支援をやっていくべきではないかということを提案したわけです。
よく外国人雇用税みたいなものを課して,それを直接外国人支援のための財源に使うべきではないかと,地方税でも国税でもいいんだけれども,という話があるんですが,私どもは,冒頭申し上げた中小零細企業の外国人の雇用実態を見る限り,恐らく外国人雇用税を課しましょうといっても,全然税として出てこないんじゃないかと思うんですね。人頭税というやり方が一番よろしくて,多分外国人が二人いたら幾ら,三人いたら幾らという計算で,例えば申告させることになると思うんですが,申告なんかしないと思うんですね。外国人雇用がどんどん地下へ潜ってしまうということが,今の事態を更に悪化させるんではないかということで,我々は反対しています。むしろ地域の団体が傘下の企業に声を掛けて,外国人を支援するようなスキームをそれぞれが作って,国際交流協会でもよろしいでしょうし,自治体でもよろしいんですが,NPOやそれぞれのプログラムを実際に動かせる方にお金を流す元締になっていただいて,国の補助金なりも中に入れて管理運営していくという仕組みが必要なのでないかということです。
そのときに非常に重要なのは日本語教育だけに限らないんですが,その地域で非常に重要な支援のプログラムを策定する,あるいは実施するに当たってコーディネーターの力が重要なのではないかなと思っています。杉澤さんなんかはそういう仕事をずっとされてきたんだと思うんですが,やっぱり地域によって課題は千差万別ですので,地域に合ったプログラムを作り,それを非常に効率的に,実効性ある形で実施していくというためには,このコーディネーターというのが必要であって,多分私もまだ日本語教育の現場というのはそんなにたくさん見ていませんが,コーディネーターの役割というものが成功している,あるいは余りうまく行っていない,というところのかぎを握っているんじゃないかなと…。現場でやられている方は皆さん御熱心だし,それなりに力のある方だと思うんですが,その地域に合っていないやり方をしたりすると,余りうまく行かないということがあり得るのかなということであります。
この辺りはまだもうちょっと私自身もいろんな地域の方のお話を聞いたり,それから現場を見させていただいて勉強しようと思いますが,実際にお金を出したり,場所を提供しようとしている企業が数はまだまだ少ないんですけれども,出始めていますので,そういう方々が何かやったけれども,うまく行かなかったじゃないかというようなことで撤退しないように,一度,要するにその領域に足を踏み入れる企業が出たら,絶対逃がさないようにするというために,実はこういうコーディネーターが適切なプログラムを作り,運用するという,そういうことが必要なのかなと思います。後は,現場の方の御尽力で進めていくということだと思うんですが,一般論としてしか私どもは申し上げられないんですが,やはりそこは役割分担なのかなと…。要するに日本語教育の最前線を担う方々と,やや俯瞰してプログラム全体を見ていく方と,二人三脚でやっていくというのがこの日本語教育辺りの大きなポイントなのではないかなと,私は,今は完全に思っているというところでございます。
以上でございます。ちょっと長くなってしまいまして申し訳ございません。
○西原主査
ありがとうございました。非常にすっきりした説明をしていただいたと思いますが,今のお話につきまして,何か御質問等はございますでしょうか。
○山田委員
話が大きくなりそうなので,後の方がいいかなと思ったんですが。
○西原主査
いいえ,どうぞ。
○山田委員
最初に経団連と日経連が一緒になって,その後,実態調査をされ,ヒアリングもされた。100か所以上。それをまとめられたということだったんですけれども,その時に私も読ませていただいたり,井上さんからお話を伺ったりはしていたんですが,どうもふに落ちないのが,「人口減少の穴埋めを目的とするものではない」という部分です。労働力が不足するということが何らかの形で頭に浮かんでいるので,こういう調査をしたり,提言をまとめたりするんじゃないかというふうに私は思うんですね。そもそもそれでなければ,そういう調査をしたり,提言を出したりするはずがないのに,どうしてここで「人口減少の穴埋めを目的とするものではない」ということが最初に来ているのか。それからずっと読んでみても,やっぱり労働力が必要だと言っているんじゃないだろうかというふうに思ってしまうんですが,そういう解釈は間違っているでしょうか。
○説明者(井上)
もちろん零細中小企業で働いている人たちに,例えば外国人を明日から使っていけませんという法律ができれば,そこの企業は多分倒産,廃業するでしょうね。それは我々は経済学的に言うとミスマッチという言い方をしているんです。例えば,有効求人倍率というもので表すとすれば求職と求人の関係が,1対1なら1というもので,求職が非常に多ければ倍率が低くなるというものですが,それで見ますと,事務系といわゆる現場労働者では際立った違いがあるんですね。例えば現場労働では2倍ぐらいあります。だから,仕事をしたいという人と,仕事を提供したいという会社の比率が1対2なんです。もう確実に就職できるんです,現場の場合は。だけれども,いつもずっと募集中,募集中なわけですね。
日本人の若い人たち,あるいは女性も含めて高齢化している日本社会では,現場労働に就く人というのは本当に限られていて,そこに外国人が入ってくるんです。事務系の方は0.5ぐらいですから,要するに仕事をしたいという人の方が求職の2倍あるわけです。そういう意味では,仕事は,人手不足の分野というのは非常に限られていると考えていただいてよろしいんじゃないかと。問題は限られている分野が実は非常に日本の経済の将来をしょっている分野なんですね。それはものづくりですが,日本というのはたった3割の製造業で付加価値の7割以上を稼ぎ出している国ですので,そういう意味では,そこの人手不足というのは確かにあります。
ただ,実際にはいろいろ企業は工夫をしています。今,私は東京外国語大学の仕事で長野県の上田市の調査をしていますが,その上田市で四輪,二輪者のブレーキ等を作っているアルミの鋳造鋳鍛のメーカーなんですが,そこは今までは日系人ではん用品も作っていたのを,これからは,付加価値を高めるために日系人はもうお引取り願って,日本人を採用することに決めたんです。これは,高校生だろうが,高専出身だろうが,大学生だろうが,あるいは技術系であろうが,文系であろうが,同じ仕事をしてもらうというんですね。そのように日本人をかなりいい待遇で募集を掛けたところ,ちょっと特殊なやり方をしたらしいんですが,結果かなり集まった。
彼らにトヨタのレクサスのある部品を取りにいこうということで,彼ら,1年生だけで,もちろんベテランの人たちの指導を受けているんですが,そういう体制でやらせたというんですね。そうしたら見事に取れてしまったんです,トヨタの仕事が。その一方ではん用品は中国の方にどうぞやってくださいということで,安い車のブレーキ部品なんかどうぞそちらにやっていただいて,我々はもうそういう市場には入りませんと。市場をシフトすることによって,の収益構造は維持できるというのを証明したような会社なんですが,そういうミクロベースでは対応ができるんですよね。
ですから,現状の産業構造とか労働構成を前提にすれば,人手不足かもしれないけれども,我々が考えているのは,給与の安い人たちをたくさん雇うんではなくて,要するに少ない人数で高付加価値の製品を出して利益を取る,こういう活動に外国人の人にも入ってきてもらうということです。ですから,「多様性のダイナミズム」とか「共感と信頼」なんていう言葉を使っているんですが,極端なことを言えば数よりも,これからはそれぞれの個性だとか能力,手にどういう職を持っているかというようなことをベースにして外国人を受け入れていくという考え方を採った方が,これは現場であってもそうだと思うんですが,いいんじゃないかということで,ありますね。
新しい産業構造を作れば,こんなに人が要らなくなる可能性がある。それで,成長ができる可能性もあるという仮説に着目しているわけです。
○山田委員
ただ,現状もまずは見据えたまま,その現状をどういう方向に持っていくかという時間軸があって,そちらに流れていくわけで,そのときには段階を踏みながらというのはあると思うんです。現状で,求人が2倍というか,そういうのを私もいろいろな現場に行ってみたりすると,それはやっぱり低賃金じゃないとその会社は維持できない。この技能実習制度がなければ,我々は首をくくっていますよというおやじさんがいるようなところでは必要な部分というのが今あって,それが,だんだん今井上さんがおっしゃるように産業構造を変えていく中で,そこにどういう労働力が必要かという労働力の質について,今度は高めていこうとするんだろうと思うんです。しかし,その過程においては,今いなければ困るということは私はあるんではないかと思います。
○説明者(井上)
ありますね,現実に。
○山田委員
それは埋め合わせではないというふうにおっしゃるけれども,ある意味でそういう人の力を借りて,それで現状をだんだんとそういう未来志向型と言うか,そちらに持っていくようなことを目指しているんだというふうに書かれると分かりやすいんです。そうじゃないというふうに否定されると,今,いる人たち,今,実際にやっている人たちはそんなに必要ない人たちだったのかというような,否定的な見方を日本の企業連合体がしているように感じてしまったんですね。ですから,質問をさせていただきました。
○岩見委員
今の御質問に関連すると思いますけれども,労働市場を把握してコントロールしながら受け入れていくという方針を出されているということは,やはり国の労働力というのは外国人の受入れは必至であるといいますか,受け入れざるを得ないという状況にあるということは,皆さん前提として認められている。それで,どういうふうに受け入れていくかということを真剣に論議しているという状況だというふうに,受け取ってもよろしいわけですか。
○説明者(井上)
2004年の前の年に,奥田ビジョンというトヨタの奥田会長が初代の日本経団連の会長になられた時にビジョンが出ていましたね。それも実は私が担当だったんですが,奥田さんからはっきりと外国人受入問題を1章設けて書けと指示が出ました。私自身は何か旧経団連の中でも数少ないんですが,外国人受入問題をずっとその前から追っていたこともあって,1章書くぐらいの材料はありますので書いてみましょうと言っていたんですが経済号で,はっきりとおっしゃった方は奥田さんが初めてじゃないでしょうか,この問題を真正面から取り上げようとされたのは。そのぐらい奥田さんは,例えばクラウンを1台作るのに,外国人の力を借りなければできないということをもう理解されていた。それが分かっているから,トヨタも豊田市国際交流協会がに,相当のお金を出しているわけです。トヨタには現場で働いている外国人は一人もいませんけれども,要するに,下請部品メーカーに大勢の外国人が働いていることをもちろん分かっていて,その品質がある一定のレベルに達しているからクラウンもできるという意識があるんですよね。
海外では全く全員,外国人で作っているわけですよね,トルコへ行っても,インドへ行っても,ロシアへ行っても,みんな作っているわけですから,日本人じゃなければトヨタの車は作れないという意識はないわけです。そういう意味では,明らかにスタートラインが少なくとも我々事務局なんかよりも,はるかに進んだところにあると言っていいんじゃないでしょうかね。そういうグローバルカンパニーで,しかも自分たちの製品の構成がいろいろな人の手によって作られている。必ずしもそれが日本の国内だけではなくて,海外の関連会社で作られている部品も含めての話なんですが,要するにいろいろな国籍の人の手によって自分たちの製品が作られているということを意識している企業の方が,やっぱり日本経団連の中枢を占め始めているというか,そういうことはあったんじゃないでしょうか。それがベースになってやはり外国人を受け入れるというのを前提としながら,うまい受入れの方法は何かというのを考えようと,そういうことだと思いますが。
○西原主査
一つはレトリックの問題でもありますよね。どの国でも労働者が不足しますから入れますなんて言っている国は一つもないわけですね。
○説明者(井上)
ええ,そうです,それはあります。ただ,日本の場合,製造業の就業者数が3割しかないわけです。付加価値は7割から8割。貿易に至っては9割以上ですね。外貨を稼いでいるのはほとんどが製造業なんですが,その製造業がそれだけの高い生産性を上げている背景には,労働の削減というのをずっとやってきているわけです。要するにオートメーション化ですね。それから,もう一つは,やはり製品を国際的に売れるようにするための研究開発や設計のノウハウの蓄積ですよね。そこには日本人だけでは駄目だという意識もあるんじゃないでしょうか。ですから,日本の政府は専門技術者をどんどん入れたいということで,経団連も一生懸命それを主張していますが,そこの分野というのは正に日本人と外国人が一緒に仕事をして,いろんな発想で新しいものを作っていくという,奥田さんふうに言えば,多様性のダイナミズムが効く分野だと思いますので,やはりどちらかと言うとその分野に入ってもらいたいんです。
ただ,製造業というのはそういう大学院卒の連中がやる仕事だけではなくて,現場でいわゆる多能工,いろんな仕事ができたり,いろんな工程の工夫ができたり,改善ができる人間も育てないと日本の製造業の品質はキープできませんので,そういうところにも現場のいわゆる単純な作業員ではなくて,技能者を入れたいという気持ちは非常にある。ただ,日本の場合には在留資格制度で技能者が非常に限定的なものですから,研修技能実習制度みたいなものでお茶を濁してやっているという感じでしょうかね。
それで,残念ながら日系人の方々は,私が見てきた現場ではそういういわゆる技能者というレベルでなくて,やっぱり単純作業者に近い仕事しかしていない。したがって,最低賃金も支払われるかどうかが分からないような状況になっている。それが御家族の生活だとかお子さんのちょうど多感な時期に当たる,心の問題にもつながってきているのかなという感じはいたしますね。
○佐藤委員
井上さんが山田委員におっしゃったことにかかわることですけれども,提言は,井上さんのお話を伺っていると,日本の産業界あるいは日本の経済界の,ある種の方向性,あるべき方向性,そこから何かに向けてどうあるべきかという議論から多分組み立てられているんじゃないか。そうすると,さっき言ったように,今現実にある問題に対する分析と言いますか,それにどう対応するかと言うか,つまり,ある種の理念形,理想形から語ることになる。それは一つの方向だと思うんだけれども,それと現状そのものが人権であるとか,コンプライアンスであるとか,という抽象度の高い概念で語られてしまったり,あるいは中小零細企業そのものが正に今,様々な問題を抱えていたりということで,その問題に対して,一体どう対応するのかというところがやっぱり何か伺っていて,我々自身もどうしたらいいのか,なかなか分からない。制度の問題なのか,あるいは経団連としてその辺に対してどう対応していくのかというところが少し見えにくい点もあるんですよね。
だから,伺いたいのは,その提言というのがだれに向けて,何を提言して,そして,その提言というものをどういうふうに先ほどおっしゃった,どう浸透させていくのか,あるいはその提言を浸透させていくために,どういうアクションを採っていくのかという辺りをちょっと伺いたいんですけれども。
○説明者(井上)
経団連の提言は基本的に国や自治体に向けられるというのが通常です。この2004年の提言にしても第二次提言しても,多分7割方はその基本は変わらないんじゃないかと思うんですね。残り3割の問題はやっぱり企業じゃないかと思っていまして,企業といっても経団連の会員企業は,たった1,300社なんですよね。上場企業の何分の1かの世界ですね。何10万社とある中小零細に対しては全く浸透しないです。これは,商工会議所であっても多分外国人を本当に労働法規違反で使っているような,使い捨てしているようなところには届かないんじゃないかと思っていたんですが,我々が出した後に気付いたんですけれども,どうも地方の経済団体,産業団体が結構読むんだということが分かったんです。
もちろん,豊田市の商工会議所の方には提言をまとめる前にも行きましたけれども,終わった後,読みましたよ,なかなかよく書かれていますね,ただ,こういうところがまだ不足していますねなんて御指摘を頂いたんですが,そのような話を各市のいろんなところで聞くんですよね。ということは,やっぱり経団連というちょっと名が売れた団体でもありますので,経団連が外国人受入問題について提言を出すというと一斉に振り向く感じは,それは一つの効果だったんじゃないかと思います。
問題は,第一次提言の時はアクションまで行っていないんですよね。法改正の提案はしているんですが,自分たちが何をするかというのは書けなかったわけです。それで,それも奥田さんの宿題であったんだけれども,やっぱり資金面でどういう支援をするかということは,いつか,どういう形でもいいから書きなさいと,あるいは実践をしなさいと。奥田会長は去年おやめになっていますので,その終わりの時,おやめになる直前ぐらいの時,その話が出た時に,そうだよな,経済界の役割とか企業の役割というのをもうちょっと詰めて書いておかなければいけないかななんていう話をされていまして,それで,第二次提言で書いたつもりではあるんですが,実は今の企業のCSR(社会的責任)というか社会貢献の活動って今非常に複雑になっていまして,もちろん世界にはとんでもないレベルの規範を持った企業もあります。
IBMなんかその典型だと思います。あれは確か人種別,肌の色とか,それ別に全部プライオリティーをちゃんと順位を付けた規範みたいなのがあるんですね,基準みたいなのがあります。そういうものを作っている企業もあれば,全くそんなものもなく,ともかく使うというところまである。このような日本全体の産業界の構造を見ると,やはり訴え掛けるのは地域の団体で,地域の実情を踏まえた取組をしっかりやってもらうという働き掛けなのかなということで,さっき書いたような図を載っけたわけです。
その時に経団連は何をやるのかということなんですが,我々は地域でそういう活動をしたいということであれば,その調整役にはなりましょうということです。一部の自治体からどうも地元の自治体の動きが鈍いので,やってくれないかという話があって少し動いてはいます。そういうものはどんどん御相談いただければ,うちの方で少し趣旨を説明して,やり方もアドバイスいたします。旧経団連というのは,実はお金集めの天才みたいな団体でして,その場合,かつては政治献金になったわけですが,今はそういうものよりも例えばオリンピックだとかワールドカップだとか,この前も世界陸上が大阪でありましたけれども,ああいうのもお金集めをしているんですよね。そういうことにもつながるんじゃないかなと思っていまして,できることであればそういうアクションはいつでも起こせるものですから,そういうことをやってもいいのではないかなという意識はあります。
一応,これは会長・副会長会議まで通っていますので,外国人の支援に関して寄附の要請などがあっても,皆さん受けていただけますねという問い掛けでもあるわけです。それは一応通っているということです。
○西原主査
ありがとうございました。春原さんの時間がちょっと心配になってきましたので,後ほどこのお話をしていただくことにします。AOTSの春原さん,お待たせいたしました。

(2)春原憲一郎氏の説明と,その後の意見交換

○説明者(春原)
私は1980年から今のAOTSにおりまして,恐らく最初の10年ぐらい,90年ぐらいまでは専らフロー政策というのか,一次滞在の人たち,特に研修生と言われる数か月から長くても2年ぐらいという,そういう人たちの受入れと研修にかかわってきました。その後,恐らく90年以降から地域の日本語教育というのが出てきて2000年以降,私の資料の4番,5番にあるような医療関係,介護関係,それから留学生の就業支援関係というのにかかわってきて,どっちかと言うと一次滞在だけでなくてストック政策というのか,社会の中に住んでいる様々な出身の人たちとどうやって社会統合していくかというような,正に教育と労働と社会保障における留学生という存在,それから企業の人たち,それから医療と介護というかなり社会保障というか公的サービスに関係のある人たち,そういった人たちのための支援,日本語教育にかかわってきています。
最初に結論から言ってしまうと,今日三つ言いたいことがあって,一つは今井上さんが話した技能実習制度の研修生,それから私とかJICAがかかわっている,旧来からある研修生についてです。その構成は,企業に就職する留学生の構成を見ていてもそうですが,圧倒的に中国が多いですね。いろんなところでデータを見ると,ほぼ7割ぐらいが中国というのはいろんなところでも同様ですね。さらに,中国に加えて韓国,台湾という東アジアを加えて見ると,もう8割を超えます。留学生を見ていてもそうだし,研修生を見ていてもそうです。だから,いろんな意味でやっぱり東アジアとの関係構築というのが私は重要じゃないかという気がします。それは日本の教育の中での中国語の教育もそうですし,それから歴史の解釈問題もそうだし,もっと日本語教育で言えば,例えばちょっと死角になっているんじゃないかと思うんですけれども,中国の人のための漢字教材みたいな,そういったものも含めて,東アジアとの関係というのをどうして行くかということがまず一つ。
それから二つ目は互恵的な環境をどうやって作っていくかということ。よくウィン・ウィンの関係というような言い方をしますけれども,今,研修制度もそうだし,それから二国間協定と言いながら,実は,片方だけがうまい汁を吸っているんじゃないかという辺り,二国間に限らず,もう少しグローバルに見て互恵的な関係というのを作っていけるかどうかとういうことが二つ目。  最後に,三つ目として95年以降,言葉として独り歩きしているボランティアという言葉があります。さっき皆さん官民とおっしゃいましたけれども,官民の民の部分,つまり住民という部分ですが,今,住民による市民活動,それがボランティアって言われています。その市民活動って飽くまで恣意的で一時的なもので,それを制度として保障することについて,そのような恣意的で一時的なものに依存する体制を作っていいのかという,その三つが今日言いたいことです。
今1から6まであるんですけれども,1,2,3が研修制度にかかわることですね。それから4が二国間協定による介護・看護,医療・福祉関係の人たちの受入れに関すること。5番が留学生の就業支援に関すること。6番が論点となっています。
井上さんの話を引き継ぐことになるんですが,昨年の外国人入国者数が670万で,その中で短期滞在という在留資格が640万です。そうすると,残りは30万ですね。その中の一番多い在留資格が研修なんですね,9万3,000というような…。これが急増していますね。5万人を超えたのが2000年ですから,本当にここのところ5,6年で研修生ってものすごく増えています。その母体は中国ですね。中国からの研修生が非常に増えているという実態がある。
研修生が増えている。しかし,その内訳というのは今の1と2に関係するんですけれども,1というのがJICAとか,AOTSというような50年近くやっている,政府がある意味で国策として次世代の幹部候補生であったり国作りを担う人材を作るという,そういう目的の研修制度です。この1番の研修制度に乗っかっている人たちって14%なんですね,研修の人たちの中で。残りが技能実習制度による2番の研修生で,これが86%いるという,そういう構造になっている。更に突っ込んで言えばいろいろな問題が起きている団体監視型というもの,それが9割近くを占めているというのが実態としてあるということです。
1番の研修生に関して言いますと,今,最もよく使われている初級の『みんなの日本語』という教材の言ってみれば,プロトタイプを作った現場が正にこの1番の現場ですね。政府関係のいろんな報告書を見ていると,2001年ぐらいから外国人労働者に関する定義の仕方が変わってきています。2001年ぐらいまでは専門技術人材という言い方と,それから単純労働者という言い方をしていたんですが,2001年ぐらいからその辺りが微妙に変わってきています。恐らく単純労働者という否定的な用語を回避する方向になっていて,専門技術人材というのが更に高度人材であったり,グローバル人材であったり,最近の経済産業省なんかの言い方だとイノベーション人材というような言い方をしたり,今度は単純労働者と言われているのが中間技能人材とか,労働不足の分野の労働者とか,労働力不足の分野の労働者というような,そういう何かまだるっこしい言い方をしたりというように,かなり外国人労働者の階層化というのがおこっている気がします。
その中で,1番のいわゆる高度人材とか専門人材と言われる人たちに関しては,私が見ている範囲でもこの5年ぐらいというのは企業もかなりコストを掛けている。その人たちには要するに日本人の英語教育に掛けるのと同じように,長期間で手厚いコストを掛けて,グローバル人材にしていこうというようなことをしている気がします。研修生の在留資格は,81年には留学ですよね。留学の416の2というような,そういう在留資格だったのが90年に研修になったわけですよね。だから,やっぱり教育なんですね,研修というのは。それで,1番の研修生というのは教育という側面が非常に強い気がしますね。
2番の研修生が果たして教育であるのか,就労であるのかというのが微妙なところで,よくサイドドアからの労働力の受入れというような言い方もします。そこに,「単純」というのにかぎ括弧を付けてもらったのは,いわゆる単純労働者という,そういう意味で付けてもらったんですけれども,2番の研修生に対しては基本的にやっぱり私はボランティア・プラスアルファ的な,そういう対応をしているのではないかという気がするんですね。岩見さん,60時間ですよね,確か。
○岩見委員
多い場合は60時間から100時間ですが,強制力がありませんから,やっていないところもありますね。
○説明者(春原)
やっていないところもありますよね。岩見さんのところのAJALTなんかがやっているところはまだいいところで,多くの場合,ボランティアベースでしている。圧倒的多数を占める2の技能実習制度の研修生に関してはどちらかと言うとできるだけコストを掛けずに,地域のボランティアを活用してやるというような,同じ在留資格の研修と言っても,恐らく1と2とで,実態は相当違ってくる。1の方はほうっておいても恐らく投資するだろうから,そうすると2の方の人たちについて,どうやって制度を再構築していくかということが重要じゃないかという気がします。
それが,3の研修制度の問題点というところです。アは井上さんがもう触れました。イについてですが,現在のところ受益者はやっぱり日本の中小企業ですね。それを本当の意味での研修の方に持っていくのか,それとも就労というような在留資格をきちんと作るのかというところ。あるところで会議をしていて,そこに三つの省の名前がありますが,ある人がこんなことを言っています。元法務大臣は,「鳴かぬなら殺してしまえ技能実習制度」というスタンス,厚労省は「鳴かぬなら鳴かせてみよう技能実習制度」というスタンス,経産省は「鳴かぬなら鳴くまで待とう技能実習制度」というスタンスでいるんだと…。それを今から各省でもんでいって,再来年の法改正に結び付けていくということ。この辺り,正に井上さんが語った理念に持っていくまでのプロセスとして,どうやっていわゆる単純労働というものを考えていくかというのが大きな課題だと思います。ちなみに62業種ってありますけれども,技能実習生の3分の1は縫製なんですね。アパレル関係が多いという意味で労働集約型のところに来ているということが言えます。
4番のEPAとFTAですと二国間協定にかかわる,言ってみれば表玄関から正式に外国人労働力を入れるよという初めてのケースなわけですけれども,これは原則として国家試験を通れば在留資格の更新回数の制限はありませんのでずっといられるという。ただ,よく読んでみると家族の呼び寄せとかという記述がないですね。そうするとその辺り,本当にずっと定住するとしたら,当然,家族とか,子供っていうことが出てきますので,そういう辺りを,どうやってこれから議論していくかということが重要な気がします。
4番については,フィリピン,さらにインドネシアとか,いよいよ動き出しそうなところで,今,日々準備をしているんですけれども,この人たちに関してもいろんな問題がこれから出てくると思います。
一つは4のエというところなんですが,仮に近々受入れが始まったとして,今,介護福祉士の国家試験が新シラバスになろうとしています。2009年を目指して新試験の開発をしていて,そのための時間数というのも従来の1,650時間から1800時間に今度上がるということで,それに伴って今年3月から国会で准介護福祉士という制度の導入に関する議論が始まっています。介護福祉士の国家試験は国が認可しますけれども,准介護士は自治体の認可の可能性が高いんですね。それは,国家試験を落ちた人が一定の制約の下で働けるようにするという資格ですね。今のEPAの受入れの計画というのが,看護が3年以内,介護が4年以内に国家試験に通ることということですので,ちょうどこれが始まるころに,恐らく最初のフィリピンかインドネシアから来た人たちがこの試験に直面する。
それで,私の持ち時間は余りないのでちょっとかいつまんで問題点だけ述べますと,今,フィリピンだろうがインドネシアだろうが,日本に来る条件としては有資格者というのがあります。そうしますと,たまたまフィリピンの場合には世界第3位の人材送り出し国ですので,看護はもちろんですけれども,介護福祉士についても資格があります。これはそこにあるTESDAというところで数百時間強の研修を受けて,修了するときに試験をして認定するというものです。
ただし,例えば,インドネシアの場合には看護師は資格があるんだけれども,介護福祉士はありません。一方で,インドネシアの看護学校を出た人たちの就職率は10%なんですね。そうすると,資格は持っているけれども,就職できないという人たちがいて,その人たちが日本に介護士で入ってくるというシナリオがあります。そうすると,そういう人たちが二十歳過ぎて非漢字圏から日本に来て,日本人でも合格率は50%の介護福祉士の国家試験に日本語能力は直面するわけですね。
その時に今,私どものAOTSは,飽くまで,日本語能力はゼロで来ていいよという前提で,日本に来てから本当にベーシックジャパニーズというのを6か月,ひとまずしてもらいますという準備しかしていないわけですね。そこから後は,受益者が頑張ってくださいねというような,そういう制度なんです。私はこの制度を,来た人たちにとってもプラスになるようなものにするためには,もっと学会とか,こういう場とか,文化庁とかも挙げて取り組む必要がある。今,私は導入研修のことでもうちょっと一杯一杯なんですが,例えば今,医療日本語ってどうなっているのかとか,看護日本語とか介護日本語とかってどうなっているのかというような,そういう,一つは,言語調査を早急にして,用語のシラバスを作っていくということが必要だと思っています。
それから,二つ目は,国語研究所でたまたま私は見たんですが,病院の言葉を分かりやすくするプロジェクトみたいなことを立ち上げましたよね。震災もそうだし,それから医療日本語もそうだし,介護日本語もそうだし,それから私なんかがかかわっていた,例えばIT日本語とか,そういったものの語彙調査をして,その業界の言葉,つまり専門語みたいなものをできるだけ減らしていって,例えば平易な日本語で,筆記試験を作るとかいうような,これは今医療関係でやっていますけれども,平易な日本語で公的な文章を作っていくというようなこと。
それから,三つ目は,試験制度において今,障害児枠ってありますよね。同じようにやっぱり外国人枠というのを作っていくべきではないかという気がします。それは例えば,平仮名受験とか振り仮名受験とか,それに伴う時間延長とか,別室受験とかって今やっていますね,やっぱりそういう試験の弾力的な運用が必要だし,それから何よりもしなければならないのは,導入研修は基礎日本語だからいいんですけれども,そこから後,就労しながら,特に看護師,介護士は夜勤とかあるわけですね。そういうローテーションに入って働きながら,かつ2年半後,3年半後の国家試験というのを目指した教育学習カリキュラムと教材と支援環境を作っていくということが,緊急に必要なんじゃないかなという気がします。
四つ目として,看護師の場合にはASEANでは相互認証ですね,今。ところが相互認証といっても,実際はやっぱりワンウェイなんですよね。一方向にしか来ないわけです。これが単に日本人が受益するんじゃなくて,例えばフィリピンの医療,ベトナム,ミャンマーの医療にも,フィードバックするような,還元するようなサイクルを作っていく必要があるんじゃないか。でないとWHOが言っているような先進国の後進国からの医療関係者の引き抜きというような,警告というものにこたえていけないんじゃないかなという気がしています。というのは,今,私自身としては導入研修の準備をしているんですが,もう少しトータルに,受入れに関する制度環境というのを作っていく必要があるなという気がします。
5番は簡単に触れます。今年度,ちょうど先月からアジア人財資金構想,北は北海道の北見から南は沖縄まで50校ぐらいの大学で,現在集まっているのは600人ぐらいの留学生を対象として,留学生の就職支援事業をしています。そのために昨年度から調査をしているんですが,昨年度,留学生は8,300人就職しているんですね。これは10年前の4倍です。90年代が2,000人台ですので4倍になっています。その内訳はさっきの繰り返しですけれども,中国が75%ぐらいであと韓国,台湾を合わせると86%というように圧倒的にやっぱり東アジアですね。
さっきの井上さんの話とちょっとつながるんですが,大企業が求めているのって,特に留学生の雇用に関しては高度人材なんですね。特に理工系のグローバル人材を求めているんですね。それで,現実に就職している人たちというのは7割以上が非製造業です。7割以上が非製造業で,どっちかというとグローバル人材というよりもやっぱり現地との橋渡し役,いわゆるブリッジ社員と言われるような,そういう人たちが圧倒的に多いというのが実態としてあって,理系の高度人材というのがまだまだ日本の企業への就職という意味では低いということが言えます。
あと,特に5のイとウ,どういう要因が就職を妨げているのかというのは,留学生側にもあるんですが,企業の要因としてはいろんな意味で「慣れていない」というのがあると思います。例えば,キャリア-パスというのが日本の企業はどうなっているのかとか,それから人事考課というのはどうなっているのかというのに関して,外国の留学生から見ると不透明なんですよね。その辺り,本当にグローバル化していこうと思ったら,透明度というのを増していく必要があるんじゃないかという気がします。
一応今5まで述べまして,最後の6の論点というところで,特にアとウなんですけれども,これから本当に地域社会で,医療関係とか福祉関係とかそれ以外,正に労働者というのか,生活しながら働く人たちが増えていく。その時に,その人たちの日本語学習とかコミュニケーションに関する保障の制度を作っていく必要があって,それには財源をやっぱり割く必要があると思うんですね。今,ボランティアという言葉でうまく使われているけれども,もう少しきちんとそこには住民の自発性ではなくて,制度の中で予算を割いて住民の言語権というものを保障していく制度を作っていくべきじゃないかという気がしています。
そういうことをする際,資料の最後のオというところですけれども,先ほど井上さんがコーディネーターという言葉をお使いになりましたが,私自身も今こういういろんなIT関係とか医療,福祉とかビジネス日本語とかというのをして,自分自身がやっぱり様々な領域の専門家とある意味で,やり合わなければならないわけですね。これだけの時間をよこせとか,これだけの予算が必要だとか,これだけの人が要るんだとか,そういうような自分の業界のことを専門用語のようなものでなくて,ほかの領域の人たちに分かる言葉で伝えて説得していくというような,そういう人材がこれから言語畑や教育畑の人たちにも必要なんじゃないかという気がしています。
ちょっと時間が延長してしまいましたが,以上でございます。
○西原主査
ありがとうございました。井上さんと同じように,きちんとポイントを絞ったお話をしていただきました。では,今度は春原さんのお話に対する御質問を,どうぞ。
○岩見委員
留学生のアジア人財資金構想の中で行われているビジネス日本語教育というようなことがプログラムにあるようですが,そこに専門家のかかわりですとか,カリキュラムの開発ですとか,そこの状況はどのようになっているのでしょうか。
○説明者(春原)
昨年度,企業調査それから企業に就職している留学生を対象とした調査をしました。それからその3年前から経済産業省で大手企業の人事関係の人たちを集めてグローバル人材マネージメント研究会というのをしています。それらの成果を持ち寄って,今年の頭から開発委員会を作りました。その中には企業の方にも入っていただいて,どういうシラバスとカリキュラムがいいのか,みたいな話をしました。初めに考えていたのは,いわゆるビジネススキルとかビジネスマナーとかというような市販の教材にもありますけれども,商談をするための日本語とか,それからビジネスのネゴシエーションとか,アポイントメントを取るとか,名刺交換をするとか,そういう場面のものが今幾つか出ていますけれども,そういうようなイメージでいたんです。しかし今までの調査とそれから企業委員の方から,そういうのは企業に入ってからすると言われまして,既に企業に入っている人であれば,そういうような教育をしていただきたいんだけれども,これから企業に入るというような人たちにするんだったら,もっと基礎力というんでしょうか,企業の方の言い方ではポテンシャルと言うんでしょうか,というのを付けてほしいというようなことがありました。それでビジネスマナー的なものというのがかなり比率的には小さくなって,むしろ今企業を取り巻く世界で起きていることは何なのかというような,先ほどのコンプライアンスの問題もそうですし,地域貢献という問題,環境と企業という問題もそうですし,そういったものに関してある意味で広く浅く知るというのは変な言い方ですが,そういった形の内容理解を中心としたものになったというのが経過報告です。
○岩見委員
普遍的なある程度一般的に言えるビジネスに必要な知識と,それからビジネス日本語そのものというのもありますよね。企業は企業でいろいろな文化が違うところがあると思いますけれども,ガイドラインとしてのカリキュラムを作成する場合,そこまでは個別にするというのではなくて,それぞれの共通項をもって基本にしていくということだと思うんですけれども,いわゆる日本語教育のビジネス日本語という,その中のガイドラインであるとか,細かい個別のカリキュラムはそれぞれが考えるとしても,こういうものという何か示してあるとか,そういう状況はあるんでしょうか。
○説明者(春原)
今,例えば行動変容であったり,それから自分の学習を管理していく能力であったり,一応幾つかの評価項目を立てて,始めたところです。といっても全部始まっていませんが,幾つかの評価ツールを使って作りました。教材も今半分作成してあるんです。それをこれから半年間というか,もう半年ありませんけれども,使って,それからともかくワンサイクル2年間回して,それで企業委員の方とそれをもう一度検討して,ある意味で評価システムの構築というのをしていこうというような計画です。
○岩見委員
そういう評価をなさる委員会というのは作って…。
○説明者(春原)
委員会を作っています。評価委員会とはまた別に作っています。
○岩見委員
そこで年度ごとに評価していく。
○説明者(春原)
はい,そういう予定です。
○西原主査
日本人と一緒に働くというのは大変なことなんですよね,どの国の人であっても。
○説明者(春原)
日本人同士も大変みたいですね(笑),話を聞くと…。企業委員の方が上司と同僚を選べないということをまずしっかり認識してほしいと言っています。
○西原主査
そうなんです。そこら辺りが基本的なというところに入っていくんじゃないでしょうかね。ほかに御質問はありますでしょうか。
○佐藤委員
論点の今までのお話の中で,ア,イ,ウ,エ,オまでは理解できたんですが,最後のセーフティ・ネットを省かれたので,ちょっと御説明いただければ有り難いのですが。
○説明者(春原)
恐らく,今,私が話したのって,例えばIT関係者とか研修生とか,医療関係,福祉関係の人とかって,どちらかというと職業に近いんですけれども,でも先ほども話に出ましたが,まず,それ以前に地域の生活者なわけですよね。家族がいて子供がいて地域の住民として住んでいる。そういう中で,この日本の,この地域で生活しているということを肯定できるようなクオリティー・オブ・ライフというんでしょうか,その保障というのをどんな立場の人であろうと,それは最低限やっぱり保障すべきだと思うんですね。そのためにはIT日本語とか,看護日本語とかというのも,もちろん必要ですけれども,それとともにやっぱり地域社会に参画していって,地域社会で生活者として豊かに暮らしていけるという,それはもちろん人権的なこともそうですし,人権以外の様々な公的保障というのをしていく。それは,高度人材であろうが,どういうような立場で来ていようが,そういうセーフティ・ネットというんでしょうか,最低限の保障をしていく環境作りというのが必要なんじゃないかという,そういう意味です。
○西原主査
代替用語で,JICAなどが使っている「人間の安全保障」とか,そういう言葉もあります。
○山田委員
セーフティ・ネットを私なりに解釈しちゃったんですけれども,介護福祉士,それから看護師とかというのは,3年間とか4年間とかという日本にいて学んで,それで試験を受けて合格するまでの期間というのが限られていて,そこで落ちちゃったらどうなるのかということをも,ここが含んでいるのかなと思ったんですけれども,一つはそれで国に帰されちゃうということになったときの問題と,それから国に帰されないんだけれども,そこで学んだことを基に日本の社会で,何らかの仕事に就くとか,何かそういうことも考えているのかというそんなことがあって,プラス研修を受けているときの研修手当みたいなものがどういうふうにされるのか,それも今言われた生活者として必要なことがちゃんと担保されているのか。そういうことも含めてのセーフティ・ネットじゃないかと思うんですけれども,そういう側面はどうなんでしょうか。
○説明者(春原)
今おっしゃったことには,二つの側面があると思うんです。准介護福祉士というのは落ちた人用なんですけれども,運用によっては安く使える労働力を作ってしまう,つまりダブルスタンダードを作ってしまうことになりかねないんです。
○山田委員
技能実習制度も今のものがそのままそっち側にスライドして…。
○説明者(春原)
全く同じになってしまうんです。そうすると准介護士という制度をどう作って,どう運用するかというのはすごく重要なことだと思うんですね。それ以上に二国間だけではなくて,グローバルな視点から例えば医療をどう考えるのかとか,ケアをどう考えるのかという問題で,日本に基本的には就労ですけれども,就労しに来て,そこで勉強した成果というものが仮に受かったとしても帰るという選択肢もあると思うんですね。そのときに,帰ったときにその成果が生かせるようなやっぱり一国内制度じゃなくて,もう少し二つの国,若しくは地域とか東アジアとか,東南アジアというようなブロックで医療を考えていくとか,福祉を考えていくというのが,もっと広い意味でのセーフティ・ネットの構築かなという気がします。
○西原主査
セーフティ・ネットというのは教育の世界でも言えるんですね,セーフティというのを広く考えて,例えば日本で日本の小中学校に入ってきて理科をやりました。そして,ブラジルに帰りましたら1年生に入れられてしまいましたみたいな,そういうことじゃなくて,全世界的に何年生の理科ってこのくらいよというような,そういうもうちょっとグローバルな学力というのをどう考えるかみたいな何かネットがないといけないですよね。それと同じようにして生活をすることも,後は労働としてのネットというようなこともお考えなわけですね,ということも含んでいるということ…。
○説明者(春原)
はい,そうです。
○西原主査
春原さんだけに対する御質問というのも更に続くかとは思いますけれども,時間のこともございますので,何かお二方の方から補足することがあれば更に補足していただき,それから,お二方同士でコメントもおありだと思いますので,まずそこら辺のところからお願いしたいと思うんですが,いかがでございましょうか,井上さん。
○説明者(井上)
春原さんのお話は何度もお聞きしていますし,私も話していますから,大体常にクロスオーバーする感じなんですけれども,私が今一番心配しているのはやっぱり日本フィリピン経済連携協定が,当初のもくろみどおりに進んでいないということなんですね。ちょっと私自身が発見したものではないんですが,何か数日前にマニラにある日本語新聞に載ったらしいんですよ。看護師さんについての日本の提案は余りにも条件が厳し過ぎて,それで国家試験を落っこったら帰国だなんて話はけしからんと。
今御存じのとおりフィリピン政府は,ねじれ状態が起きちゃっていまして,大統領が実権を持てない状況になっているものですから,議会で止まっているという状況があります。二国間協定をやると大体こういうことが起きるんですが,お互いに人の移動の協定を慎重に結ぶことが,実際に運用されるためのセーフティ・ネットかもしれないんですよね。余り安易に結んで後で問題が起きるよりも,日本もちょっと考え直して,この制度を厚労省に見直してもらった方がいいんじゃないかという感じがします。ともかく日本語で試験をして受からなければ帰す。しかも,その間が研修ですと。実際,研修ですよね。
ですから,これは研修だと例の労働法規の適用とか,そういった面での問題もまだ解決していないと思いますし,そういう意味でも,かなりしっかりとした受入れをするのであれば,彼女らが持っている現地での資格を先ほどお話があったようにしっかり認めていって,相互承認に近いような形の仕組みにもう一度作り直した方がいいんではないかという感じがするんです。看護師協会も非常に強いし,むしろ医師会は賛成しているんですよね,人が足りなくてしようがないですから。そういう意味では,もう一度考え直すということも必要かなと思いながら,私は自分で出した提言の中にその図を入れたものですから,今,思った次第です。
○西原主査
もうちょっと単純な話で,運転免許の更新も,インターナショナル・ライセンスからだと簡単にできるんですけれども,日本で受けようとすると,あのしち面倒臭い日本語を読まないと運転免許すらもらえない。基本的には標識が読めたり,運転の技術があればそれでいいはずなのに,あの筆記試験をクリアしないと路上にも出られないという,そこのところが何で,もうちょっとグローバル化しないのかなとかねがね思うんですけれども,看護師,介護士もさっきおっしゃったように,英語で受けてもいいところまで行っていいのかどうなのか,という話でしょう。
○説明者(井上)
というわけですね。一部ベースになるようなものは,英語で認めてはどうかなという感じはしますけれどもね。
○西原主査
というようなこともセーフティ・ネットというところの概念に入れちゃっていいわけでございますか。
○説明者(春原)
ただし,今のお話で業界の内部の問題というのも,外国の人が入っているのをきっかけとしてはいけないのかもしれないけれども,やっぱり何とかしないと根本的に変わらない気がするんですね。特に介護それから看護もそうですが,いろいろここのところ,たまたま仕事でかかわっていると,変な言い方ですが,日本語教育の世界と似ていると思うところがあります。3割ラインというのがあるという話を聞いたんですが,30%ラインというのは,その業界の男女のバランスが男性が3割以下の業界は社会的な発言力が弱いというようなこと。それは男がいればいいというものじゃないけれども,つまり食っていけないということです。それは,日本語教育もそうだし,何か介護,看護もそうらしいんですね。
それってやっぱりその業種というかな,業界のやっぱり構造的な問題としてあって,看護の場合には今55万人の離職者がいる,今働いている人の4割と言いますね。それがいるという。介護の世界というのも離職率が何かすごく高いと言いますよね。低賃金で不安定雇用で過重労働で。日本語の世界と似ているなとかって思うんだけれども…。しかし,そこは人が移動しないとできない分野なんですね,それをやっていく,自動化できない分野。そういう構造的な問題,社会的なステータスの問題とかというのを考えていかないと,外国人を入れたらという問題じゃなくて,根本的には解決されない。
○西原主査
労働市場改善のためにというのはよく聞かされる話で,ロボット,外人,女性の順で参入させたらいいんじゃないかという,そういう話を聞いたんですけれども,ちょっとその話は置いておくとして,女性,私は女性ですけれども,一応,2000年の歴史にわたって,おまえはこうあれと言われてきた社会的な教育の末に今の女性たちがある。そこのところがやはり今転換されていかないと,労働市場に介入しろと言われても時間だけを提供して体質を変えないというか,それでは駄目ですよね。自立せよと今言われてもというところが問題です。
○尾﨑委員
今の春原さんのお話で,先回のこの会議でもちょっと発言したんですけれども,日本語教育をどうするかという議論をするときに,日本語教育に直接かかわる日本語教師あるいは教員と呼ばれている仕事が,若い人たちにとって本当に魅力のあるものになっていかなければ,幾ら議論されても責任を持って将来にわたって頑張る人が出てきませんので,そこのところは是非理解をしていただけるように,当事者が頑張って発言をしていかなければいけないと思います。
今,大学院,大学等で日本語教育を専攻する課程というのができていて,それから民間でも日本語教師の養成課程というのが随分あって,恐らく現在でも2万人以上の人が勉強していると思うんですけれども,実際にどれだけの人が安定した生活を日本語教育でやっていけるかと問われると,もう真っ暗なお話しかできない。ですから,教員養成をしている立場としても,そこのところは一方で考えていかないと,日本語教育のカリキュラムをどうしましょうとか,そういう議論をしていても,なかなか地に付いた仕事が積み重ねにくいなということを感じています。それが1点,春原さんのお話です。
それから,今日,井上さんからもいろいろお話が伺えて有り難かったんですが,この委員会で学習者が非常に多様だという多様な学習者のある一領域についてお話を伺っていたんですけれども,私自身がかかわってきた日本語教育で多くの日本語教員がこれまでかかわってきていない領域のところで,社会的なニーズが非常に高い。ですから高度人材とかあるいは介護,医療にしても,そういった専門性を持った人たちが日本の社会で持っている能力を十全に発揮していただくために,日本語教育が何をすればいいのかと言われた途端に,余りやってこなかったなということがあります。
それで,さっき春原さんがもうちょっと現場でどういう言葉が本当に必要になっているかという調査をやらなければいけないという指摘がありましたが,そのとおりで,それを学会だとか大学の教員とかというようなところでやってくれんかと言っていること自体がもしかすると根っこから間違っている。ですから,看護師あるいは介護福祉士を受け入れるのかどうかということを決めたときに,実はそういう人たちの日本語をどうするか,そこに一定の見通しとお金を入れるという発想が行政になければ,結局,春原さんたち当事者は大変御苦労なさるし,我々も実はそんなに動ける人手があるわけじゃありませんから,そこら辺はやはり政策を立てる段階で言葉の問題をどうするかということは,常に考えていただきたいところですね。
それから,もう1点,言葉の問題は飽くまでも後からくっ付いてくることであって,そもそも生活そのもの,しかも短期的なことではなくて長いスパンにわたって人を受け入れるというときのセーフティ・ネットの問題ですけれども,そこのところの議論を抜きにして,技術がどうとか労働力がどうとかという議論をしているのは,明らかに当事者から見たら,とんでもない国だというふうに私はなると思います。
ですから,日本語教育をどうするかという議論を中心に私たちはやるし,自分自身は日本語教育を仕事としていますので,日本語教育のためのフレームワークとか,あるいは先回杉澤さんがおっしゃったようなコーディネーターという立場の方に,どういうような勉強をしていただけたらいいのかとか,それを日本語教育の観点から発言することはできるんですけれども,日本語教育以前のところをやはり議論,ここで議論することはほとんどできないんだけれども,そのことを抜きにして,この小委員会で議論しても余り先行きは見えない,非生産的とは言いませんけれども,非常に先行きが暗いというふうには思います。
そのことを突き詰めていくと,結局,私たちは日本の社会をどういうふうにしていきたいのか,それから自分たちの子供や孫に,この社会をどういう形で残していくのかという,そういう社会像ですね,そういうことをまずは押さえた上で,だから日本語教育はその観点からどういうことをすればいいのだろう,そういう形で議論ができたらいいなというふうに思います。
○西原主査
その最後の観点について,今日お話しくださったお二方から何かおっしゃることは。
○説明者(井上)
私も本当は海外調査をもうちょっとしたいところなんですが,各国のそれぞれの言葉を教える様々な方法というのもあるし,それから今のお話のように,それ以前の問題として外国人をどういう形で受け入れるかという問題があるんですが,私自身,今,非常に期待しているのは70%以上が中国人でありますけれども,留学生ですね。留学生が日本にせっかく今13万人ぐらいで,そのうち7割ですと10万人ぐらいは中国人だと思うんですけれども,その人たちがやっぱり日本の産業社会で多様な分野で働ける。
彼らは漢字圏でもあるので,比較的日本語を習得するのが早いということもありますし,何人かおりますけれども,日本の社会で成功している人,じっくりと腰を落ち着けて仕事をして成功している人,要するにどんどんキャリアアップしてどこかへ行ってしまうというのではなくて,それでもいいんですけれども,ともかく日本で成功してもらいたいなという気持ちはありますね。そうすると,随分また違った目で,日本が見えてくる。これは要するに東アジアの日本の立場というのも随分良くするんです。
それから,もう一つ期待しているのは日系人の3世ですね。これは数はまだたくさん出ていないんですけれども,そろそろ大学に入ったり,出たりしている人たちがいて,僕はこの前,3人目,直接話し込んだのは3人目なんですけれども,3人目のお嬢さんでしたけれども,いまして,やっぱりかなり学歴の高い御両親の下で育った日系3世は日本で着実に日本の大学に入りつつある。彼女らの日本語は大体パーフェクトに近いなと思います。日本の公教育を受けてきて,むしろ母語の方がちょっと心配だというか,ポルトガル語の方がちょっと心配だってぐらいの感じのレベルだと思うんですが,彼女ら,彼らが日本の社会で成功していける道筋も付けてあげなければいけないんですけれども,一番今困っていることは奨学金ですね。留学生には奨学金が一杯あるんですよ。アジア人財資金も留学生ですけれども,日系3世に対しての奨学金というのは特別なものはないですね。育英会で普通に日本人と同じ条件で受けていくということで…。
○説明者(井上)
特に大学院に行くときには,学科ごとである程度競争率が少ないところに入っていけば取れるんですが,やっぱり留学生も日本人もたくさんいるような学科に入ってしまうと奨学金が得られなくて,これではいけないということで,今ちょっと相談を受けているのはそういうケースですね。ですから,たまたまそれはちょっと可能性があるケースなんですが,ともかくもう一つ前の例の場合には関係者が必死になって考えて,彼に奨学金を付けてやろうということで奔走して,やっと何とかなった。それによって卒業もできて,大手商社に勤められてハッピーだったんですが,まだ数は少ないからいいですけれども,これがかなりの人数になってくるとかなり資金が必要になってくる。
親御さんの調査をすると6割が日本の大学に行かせたいと,日系の2世の人たちは,今日本にいらっしゃる方は思っているらしいんですね。ですから,そういう目標が出てくると,当然公教育の中で行われていく彼らの日本語教育もある程度,かなりのものを目標にしながらやっていかなければいけなくなるので,随分違ってくると思いますね。そういう何か類型化した中で,目標を定めて,そのために必要な体系というんですか,日本語教育の体系を作るというのも一つの方法論ではないかなという感じですね。かなり高いレベルの話なので,すべてではないですが…。
○西原主査
先ほど尾﨑委員がおっしゃったことと,今,井上さんがお答えになったことの中で,一つやっぱり私たちが考えなければならない理念構築の中に第三の文化というか,サードカルチャーという専門用語があって,結局,日本人が今までつちかったところにすっぽり入ってもらうはずはないし,そのまま入ってきてそのままの形で日本にいられるはずはないので,第三の何か新しいものが生み出されていくべき道というのがどうあるべきなのかというところに,日本語教師がかかわってこないといけないのではないのかなって…。サードカルチャー・キッズってたくさんいるんですね,帰国子女たちに。それから,外国人子女として今日本にいる人たちもサードカルチャー・キッズだと思うし,我々もサードカルチャー・アダルツになりかけていますよね。何かそこのところで物が言えるという土壌を作っていかないといけないかなと思います。全然話は違うんですけれども,歌舞の世界に,役者でまだ外人というのはいないのかしら。
○市川委員
外国人が研修生として入ってきたのは,1件あります。それから,後は今は解散していますけれども,神戸の学校で…。
○西原主査
インターナショナルスクールで歌舞伎。
○市川委員
外国の方が歌舞伎を日本語でやっていたというのがあります。後は,ハワイで英語で歌舞伎をやっていると,そういうことがあります。
○西原主査
実際に歌舞伎座で幕の後ろで働いている人たちの中に,日本人じゃない人というのはじわじわ入っていらっしゃらないんでしょうか。相撲の世界を考えますと,活躍しているのはむしろ日本人じゃありません。伝統的な世界なんですが。
○市川委員
まだ,歌舞伎の場合には裏の方の方でも東洋系の方がいらっしゃるとか,西洋系の方はゼロですし,それは一目りょう然ですけれども,東洋の方は案外分からないで入っている場合もありますけれども,今のところ歌舞伎の世界に限ってはありません。ただ,ほかの能とか,そういうところではいらっしゃるようです。
○説明者(春原)
先ほど尾﨑委員は魅力のある業界にしていかなかったら,次の世代に引き継げないじゃないかと言いました。私はたまたまあこがれの團十郎丈がいるので,申し上げるのですが,私は学生のころに大学にほとんど行かないで,学生割引というのがあったものですから,歌舞伎と文楽を毎日見に行っていたんですが,そのころってがらがらだったんですよね。文楽も歌舞伎も本当にがらがらで今信じられないぐらいです。今日のテーマって多分野との連携というのが正にそうなんですけれども,歌舞伎も,現代演劇であったり,オペラであったり,様々な領域とある意味でぶつかり合ってきて,今,若い人たちも一杯見に行くような世界になってきていてる。その時に何か歌舞伎なんか古いよとか文楽なんて古いよと言っていた連中が,そこで何かぶつかっているうちに,お互いに共通の言語というか,コミュニケーションができるようになっていきますよね,外国の人ともそうですけれども…。
私はたまたま今医療関係者の受入れにかかわっていて,シンガポール,台湾,香港がもう既に受入先進国の調査データとかを見ていると,特にフィリピンの看護師,介護士はすごく優秀だって評判なんですよ。有資格者だし,それからきちんと教育を受けていて,非常に優秀だと評価は高いんだけれども,どういう問題があるかの必ずトップに来るのがコミュニケーションの問題なんです。高齢者,それからローカルスタッフ,それから患者の家族,それから医師,それから地域の人たちとのコミュニケーションというのが大変なんだというのが,本人からもそれから施設からも出てくるんですね。それはチームで補っていくことができるんだというのが,病院や,施設の側から今返ってくる意見なんですね。
でも,実際に難しいのは経験の差とか能力の差とか文化の差とか言語の差というのをカバーできるようなチームワークというのは,どうやって構築するのかということに関して,今,介護の多文化化とか,医療の多文化化ということがアメリカでもどこでも言われているけれども,実はまだ多文化チームというのをどうやって作っていくかということに関しては,余り事例はないんですよ。その辺り,正にコミュニケーションこそが大事なんだよと,だから,言葉というものをどう考えていくかというような,やっぱりそこをもっと煮詰めて,かつ予算も掛けていかないと,第三の文化を作っていくということが絵にかいたもちになってしまうんです。
○西原主査
私は坂田藤十郎丈も御経験という話を側聞したんですけれども,歌舞伎の世界なんですが,外国で,團十郎丈もなさいましたけれども,歌舞伎って横に幕が開くんですね。でも,西洋的な劇場というのは縦に幕が開くというか,こういうことですよね。そのことについて物すごく何かはっという異文化コミュニケーションギャップが起こっているということと,それからカーテンコールというのが,歌舞伎役者にとっては異様なことというか…。
○市川委員
異様なことというふうには言えないと思いますけれども…。
○西原主査
異様なことというか,特に能がそうだとその時は伺ったんですけれども,幽霊みたいにしてすっと消えちゃうのに,呼び出されてカーテンコールなんて能役者としては死んでもできないことをやらされる。何かそこで歌舞伎を見る西洋の人たちのカーテンコールをしなければ治まらないというのと,それから花道を六方を踏んで出ていったんだから,あれで見送ってあげようという気持ちとがやっぱり相反することになりますよね。
○市川委員
そうですね。この委員会でそういう話になっていいのかどうか。
○西原主査
異文化接触の間を取り持つ日本語教師という,そういう…。
○説明者(井上)
毎日,そういうことが起きているんですね,現場では。
○市川委員
そうですね,言葉との…。
○説明者(井上)
絵画レベルなり芸術のレベルでも起きているんですが,言葉以外にも何で日本人はこんなことをするのということを外国人は思っていたりするわけです。彼らは表現できなかったりするわけです。表現するとまずいことが起きるんじゃないかと思うけれども,日本人は平然としてやっていることが外国人にとっては随分おかしなことになるということはよくありますよね,お互いに。
○市川委員
それはありますね。我々としても海外に持っていく場合には,やっぱり何といっても相手を知るということですね。相手を知らなければ,変なところに突っ込んでいきますから。例えば,私どもが春,フランス公演の時にも,あちらの習慣はどうなんだというものを一応全部調べていきました。武士道と向こうの関係とか,そういうものを一応,やっぱり相手を知らないとどうにもならない。自分たちだけがこうだから,こうですよとはなかなか言えない。我々とするとそういう日本の文化を持っていく場合には,日本の文化はこうですよ,その代わり相手のいろんな習慣とか,そういうのは全部調べて,こういうのがある,劇場ではこういうやっちゃいけない習慣があるとか,縁起担ぎがあるとか,そういうのを全部調べて,そういうことはやらないとか,それでこういうことはやろうと。我々としては譲れないところは譲らないという,そういう一応思いで出てはいきますけれどもね。
○西原主査
六方を踏んで出ていった後に,カーテンコールをさせられるお気持ちというのはどうですか。
○市川委員
だから,その時はしませんでした。
○西原主査
そうですか。
○市川委員
ええ。六方は一つのカーテンコールの形だから,そこでは,もうそれで終わりです。やっていません。その代わり全体が終わった時にはやりましょうということで,いろんな幕がありますから,途中のところでもオペラの場合には,一応カーテンコールがありますけれども,そういうのは我々はやりません。その代わり最後はやっぱり盛り上がる雰囲気の中で拍手が来れば,向こうが手をたたいているのだから,知らん顔というわけには行かないでしょう。手をたたかれれば開けましょうという,そういうスタンスで,カーテンコールがあるからカーテンコールをするのではなくて,相手が手をたたくから開けるんですよね。そういうスタンスで一応やらせていただいていますけれども。
○西原主査
それもサードカルチャーの始まりでございます。
○中野委員
しかも見事なフランス語で最初,ごあいさつなさいました。
○西原主査
フランス語で。それも異文化…。
○市川委員
日本語の言葉というものでやっぱり片言でもしゃべるということは,相手に対して,言葉はやっぱり相手に対してですからね,どういう思いがあるかということで日本語でぺらぺら言うよりも,向こうの方が少しでも分かるように,ですから,一応我々も全員オーディションを受けて,我々のフランス語が通じないならば,日本語でやりますと。それで向こうの方が分かったならばフランス語でやりましょうと,一応試験を受けて臨んでいます。結局,自分たちだけでフランス語をしゃべっているよと言ったって,向こうが分からなかったらフランス語じゃないわけですから,一応,そういう注意をしながら外へ出ていくということはやっています。
是非ついでにお話しさせていただくと,介護の問題というのは非常に難しいことだと思います。やはり日本人の介護士が足りないから持ってくるというのは,自分たち本意過ぎる。さっきおっしゃったフィードバックをするという言葉を聞いて大変安心しましたけれども,考えてみますと,今,中国にはあれだけの民がいて,一子政策をやっていれば,あと何年かで中国はその危機に陥るわけですよね。それを踏まえて我々の介護の人たちを日本語で教育して,それをフィードバックして中国の各地にベースを作っていくというのはやっぱり国益というかな,そういうことではないのかなと思います。構築も大事ですけれども,要するに手口をしっかりと作っていくという,物を食べて出すんじゃなくて,まず後始末はどうしたらいいのかなで物を食べるというような発想も今の論議の中では大事なのかなと,それは尾﨑委員もおっしゃっていたことと同じだと思いますけれども。でも,もう中国が間違いなく何年か先に直面するであろう事態を日本が今迎えている。日本よりもっと大変ですよね,あちらの方が。
○説明者(春原)
沿岸部,大都市部ではもう少子高齢化が始まっていますし,2037年でしたっけ,確実に中国も人口減に入ります。だから,今,これだけ留学生とか,研修生とかが来ているというのは,今だから来ているんです。
○市川委員
だから,逆にとらえれば,日本にとってはチャンスなんですよね。そういう中国の方が大勢来て困るじゃなくて,チャンスととらえて,その方々が日本語を勉強して,各地で日本語でこうですよというふうになれば,やっぱりそんな利己主義になっちゃいけないけれども,中国のためにもなるし,日本のためにもなっていく。そういう中で日本語教育という,そういう方々に教育していくということの理念は,そこにあるんだということも,一つ大切な考え方ではないのかなというふうに思いましたけれども。
○西原主査
ありがとうございました。はい,どうぞ。
○中野委員
今日,お話を伺っていて二つ,すごく印象に残りました。一つは在住外国人の7割以上が中国あるいは韓国を中心とする,東アジアの人たちであるという特徴ですね。その現実というのが,すごく大きいと私は思っているんですけれども,その意味で,この在住外国人の日本語教育を考える場合に,中国での日本語教育の問題とも実はすごくつながっていて,なおかつ日本の中国語教育ともつながっていると思っています。もっと言えば,日本の対中国あるいは対韓国の関係づくり,しかも一般庶民のイメージも含めて,そのものがやっぱり前進していかないと,在住外国人との問題はなかなか難しいなと思います。依然として中国・韓国側の対日イメージあるいは,日本の普通の人々の対中・対韓イメージはいいとは言えない。特に労働者の関係からむしろイメージは悪くなったりすることもるので,そこを何とかしていかなければいけないな,とすごく思うんですね。
もう一つの特徴として今日すごく鮮明になったのは,今までの議論の中で在住外国人の多様化ということが言われてきたと思うんですが,在住外国人の階層化という問題ですね。つまり,いわゆる高度な技術者と言うか,グローバル人材や,高度人材を,むしろ経団連として推し進めていきたいというような印象を持ったんですけれども,現実には,中間あるいはいわゆる単純労働といわれている人々への支援が必要なわけで,そうすると,経団連としては高度人材の方を,もっと支援していこうといった場合に,中間あるいは単純労働の方々への生活支援や日本語教育支援をしていただけるのかということをちょっと思いました。
それと,もう一つはお父さんが高度人材であろうが単純労働者であろうが,家族というか奥様や子供たちへの支援には何らの違いもあってはならないと思うんですね。そういう意味で,階層化された労働者の家族に対して階層化が起きなければいいなと,その辺もすごく気になるところだと感じました。
○西原主査
施策を提言する際,大切に踏まえるべき重要なポイントということですよね。
○中野委員
はい。
○佐藤委員
今,中野さんがおっしゃったように家族の階層性そのものが進んできちゃっているというイメージなんですね。実は階層性がものすごく進んできていて,多様化の話って正に階層性が起きているというところに実は問題があって,ですから奨学金も一律にもらえるんじゃなくて,そういうことを踏まえた対応が多分必要だろうということですね。もう一つサードカルチャーって私などは帰国した子供たちを評して,プロスポーツに例えて最初は大相撲だと,それからプロ野球だ,それからJリークで,それからメジャーリーグだと言い続けてきたんですけれども。つまり,同化が迫られる,それから助っ人だと,それから個性があればいい。
そうではなくてグローバルな場で活躍できる人材として,どう考えていくかというのを議論してきたんですけれども,今の議論を聞いているとやはり例えば介護なんかも,今,團十郎さんもおっしゃっていたんですが,ただ単に両方がかかわることによって,新しい例えば介護観,介護の様式とか,コミュニケーションからコミュニケーションがツールですから,それを通してどういう新しいものを作り上げていくのか。例えば私たちがフィリピンの看護観から学ぶべきものは多分あるだろうと思うんですね。そういう新しいサードカルチャーそのものに対して日本語教育がどうかかわっていくのかという議論だと思うんですよね。
そういう話で言うと,今,私ども教員養成大学って非常に大きな問題になっていて,私どもの学芸大もそうですし,ほかの大学もそうだと思うんですけれども,要するに今までゼロ免制に実は日本語教育を置いていたんです。それを何とかして教育系に,つまり小学校教員養成課程の方に位置付けられないかという議論が出てきているんですね。それはなぜかと言うと,中部地域を中心にして,御承知のように外国人児童生徒が一杯いるんですけれども,そうするといろんなことを勉強するんだけれども,日本語教育に特化して小学校教員というものを養成できないかと…。
しかし,実はものすごく壁があるんですね。ものすごく壁があって,なかなかいろんな大学もうまく行っていないんですけれども,しかしながら,その壁を超えていって,先ほど尾﨑委員がおっしゃったように,そういう日本語教育の教育の多様性の中に日本語教育がどうかかわっていくのかという議論も,ある意味ではサードカルチャーという部分だと思うんですけれども,壁はあるんだけれども,そういう壁を超えていくところにおもしろさと言うか,魅力を感じられるようなものを作っていく,あるいは提言していかないと,従来の枠の中でやると確かにおっしゃるように非常に悲観的なんだけれども,そうではないところに私たちは光を当てていかないと,非常に難しいのではないかという気がするので,その辺の議論も是非して…。
○西原主査
そうですね。それは先ほど尾﨑委員がおっしゃったことに直接つながっていく,日本語教師って何という部分を,これからどうとらえていくかにかかわることでもありますよね。どうぞ。
○山田委員
今,伺っていたことを私はずっと思っているんです。日本語教師というのは二面性というか二つの役割を担うべきで,その一つは,日本語を学んでいるというか,日本語を第二言語として学ぶという人たち,その人たちに向き合って,それでその人たちの教育にかかわるということがあると思うんですが,もう一つ,逆に日本語を母語にしている人たちのコミュニケーション能力をどう高めていくかという方が,私は本当はそっちの方が大事なんじゃないかと思うんです。
そのときにサードカルチャーという話が出ているんですけれども,外国から来ている人たちがサードカルチャーを自分の中に形成していくだけじゃなくて,日本社会そのものがそういうものを形成していかなければいけなくて,そこには二つあって,一つは制度,それからもう一つは,意識ということだと思うんですけれども,社会にある制度をちゃんと作り上げていくという,そのための根本にあるのは人々の意識だと思うので,人の意識を変えるというのは正に教育の一つの役割だと思うし,そこに日本語教育というコミュニケーションにかかわる,それも多文化のコミュニケーションにかかわるものであれば,そういう能力を付けていくためのプログラムが組めるはずだし,それを学校教育の中に盛り込んでいくということも含めて,私は非常に大事なことで日本語教育が担うべきことだというふうに思っています。
○西原主査
たまたま言語力育成会議というところに私は入れてもらっていて,日本語教育からは唯一私が入っています。言語力育成会議というのは,日本の学校の中で日本人も含めた子供たちがどうやって言語力を付けていくかということを,総合的に考えましょうという会議で,言語教育の人,日本語教育の人というのがいます。そこで言われているのはやっぱり日本人も含めて,とにかく言語力というものを育成していくために,算数の人も理科の人も社会の人も含めて語学の人も働きましょうという,そういうところに提言がなされてきているんですね。これも4,5年前には考えられなかったことだと思うんですが,そういうことになっています。きっかけとしてはPISAで破れたとか,いろんなことがあるんだと思うんですけれども,それは一つの方向になってきていますね。
それから,私は中教審外国語部会というところにいて,小学校の英語が問題になってきているんですけれども,そこを私は英語とすることには大反対で,外国語としておいてほしいという,そこはどうしても譲れないところなんですけれども,そこは大丈夫なんですね,まだ。そこだと,外国人にとっての日本語も結局,世界の子供たちが外国語を考えるというそのラインに乗るので外国語ということですけれども,何かそこは大切なことだなとも思っているんです。
時間がだんだん押してきましたけれども,さらにお二方に対して,それから,今後,今日も含めて,お二方には今回だけ来ていただきましたけれども,これで3回のヒアリングをしました。そして,2月をめどにしてこれをまとめて,来年度のポイントというのを挙げていかなければならないと思うんですね。そのことに関して御意見を総合的にいただければと思うのです。それで,私は打合せをしていまして,国語課長と専門官の御意見にいたく感心,感心という言い方はよくないですね,感動したんですけれども,そのことをちょっと踏まえて御発言いただけないかなと思ったんですが,一つは,国語課長が多文化共生ということの用語に対して,とても疑問だということをおっしゃったことですけれども,私たちは何か随分多文化共生のために日本語とか,結構気軽に言うけれども,それでいいのかということをおっしゃったと思うのですが…。
○国語課長
それでは,主査からそういうふうにお話がありましたので,御説明いたします。
実は,我々が最初にお示ししましたこの表にも,多文化共生という言葉を入れております。これは,もう定着した言葉になっているということですけれども,私はこの多文化共生という言葉について若干違和感を感じています。共生という言葉の定義にもよるんですけれども,例えば日本社会で異なる文化を持った人たち,その人たちが全く日本のほかの社会と接触を持たずに,でも自立して存在しているという場合でも,ある意味,共生していることになるのかなと。グローバルに考えて国際社会で多文化が共生するという場合には,やっぱり明らかに違う文化がたくさん並存していて,それらがある意味で,もちろん勢力の強い弱いはあるにしても,何となく拮抗しているようなイメージ,もっと言えば,ある意味では対立をしているとか,あるいは相いれない状態にあるというような,そういうイメージがあります。なので,共生という言葉自体が暗に対立しているものというイメージを私だけかもしれないんですが,示唆しているように思います。ですから,もっと受け入れやすい言葉はないのかなと考え,多文化尊重というのは非常に日本的かもしれないんですが,いい概念かなというふうに思ったものですからこの間,主査にそういう話をしております。
元来,日本というのはほかの文化を受容する能力にたけている文化なのではないかというふうに思いますし,古来から中国,朝鮮半島等を通じてほかの文化を受容し,自分たちの文化もそれによって変容してきて,それでもって国の統一が図られて,意図的にということではなくて,自然に統一が保たれてきたのかなと,そういう感じがしますし,そういうことも実際に言われておりますので,そういった日本社会の統一性というのはやはりあった方がいいんだろうなと。もちろん外国人の個人の思想・信条というのは,日本人でもそうですけれども,当然尊重されなければいけないですし外国人の持つ文化というものは当然日本人としても尊重しなければいけません。けれども,一方で,日本に来る外国人はやはり日本の文化を尊重してほしいなと,そういう気持ちも自分自身としては非常に強く持っているものですから,この間,浜松から来られた日系ブラジル人の国際交流協会の方が,やはりブラジル人もちゃんと日本語をやってきてほしい,日本のルールを守ってほしいということをおっしゃってもいましたし,日本人が変わるということも大事ですけれども,まず,やはり外国人が日本の文化を理解し,日本語を学び,日本の習慣をよく知ってもらうということが大切なのかなと。
そういう面で,今後,いろいろ提言していかなければいけないわけですが,いろんな人に対する提言,それは国に対してこうすべきだというのもあるでしょうし,あるいは自治体に対してこうするんだというものもあるし,あるいは今回,経団連から井上さんに来ていただきましたけれども,企業に対してこうすべきだという提言もあると思いますが,それだけではなくて日本国民に対しても外国人の日本学習者に対してもこうして欲しいといったような,いろんな面で提言をしていく必要があるのかなと感じたということを主査にお話ししました。
○西原主査
共生という言葉が何か安易にまかり通り過ぎているところがあって,それに対して,各々の定義がまたばらばらであったりするということは本当に問題ですよね。共生って山田委員が思っていることと,私が思っていることが全然違うことだったということはあり得るので,そこら辺のところもきちんと考えてやってくださいよみたいな,そういうことであったわけです。
それから,専門官がおっしゃったことでは,国,国と私たちも安易に言い過ぎるというか,公で何かしなければならないとか,それから,そういうことについて少し私たちは考えていくべきだということ,それほど強い言葉ではなくおっしゃった。その辺り,ちょっと専門官からフォローしていただけますか。
○日本語教育専門官
今日のお話の流れには乗らないので誠に恐縮なんですが,日本語教育の課題を取りまとめるに当たって,官民の役割について恐らく言及する必要があるだろう,そうせざるを得ない。そのときに民についても先ほどお話が出たように,民の中にも,民間企業と市民というセクターに分かれる。同じように官の中でも,官は一般的には国と言われがちなんですけれども,官の中にも,国もあれば都道府県もありますし,市町村もある。その中で,今,私が個人的に思いますのは,日本語教育において国の役割はそれなりに求められるし,様々なところでも言及されています。市町村は正に現場で住民の方々と接して一生懸命仕事をしていて,結構,話題にも上がるのですが,私はこれから地方の時代と言われる中で,都道府県というセクターの役割が日本語教育施策を様々な場面で実現していく上で,もっと重要視されてもいいのではないか,広域行政機関として都道府県の役割についても,是非課題を整理する上で一つの項目として挙げていただきたいなと思っています。
○西原主査
ありがとうございます。例えば,小学校の教員も給与は国から都道府県を通じて先生たちのところに届くんですね。任命権は市町村にあるんですよね……任命権も都道府県ですか。
○佐藤委員
政令指定都市以外は都道府県。
○西原主査
都道府県にあるんですか。そうすると市町村は。給食のおばさんという方たちは…。
○佐藤委員
市職と都職と言いますかね,だから,学校が非常に二重構造になっているんですね。
○西原主査
そうですね,国のお金も今3分の1…。
○佐藤委員
そうですね,3分の1。
○西原主査
3分の1が国から来るけれども,後は都道府県の責任においてという,そういう構造になっているようなときに,何か私たちはとかく都道府県をすっ飛ばして,何か上と下という構造にしているのはちょっと提言をするときのスタンスとして,もう少しきめ細かくというふうにおっしゃっていただいている。どうぞ。
○杉戸副主査
時間を気にしつつですが,次回の議論が先ほど主査のおっしゃったようなことになるんですけれども,今日の御説明と議論を聞いていて思うところをちょっと象徴的に言いますのは,この図とこの図ですね,井上さんの資料の最後のページにあるこの図に比べて,井上さんの図の上の方にある基本理念の2行目,お話の中でも繰り返し触れられた「多様化のダイナミズム」と「共感と信頼」の具現化」,これに当たるものがこちらの図にまだないということを思うんですね。
つまり,もしあるとすれば,こちらの図に,参考資料1にあるとすれば,左側の真ん中の薄い赤い色の四角,「積極的な日本語教育推進が必要」という,それが何か課題として意識されて,それで,その下の方の検討課題が幾つか議論されて1から5まであると。今日までのヒアリングもそれを受けた議論も,この一番下の検討課題の個別の課題をいろいろお二人に教えていただいたり,議論してきたり,そういうふうに思うんですが,申し上げたいのは「多様化のダイナミズム」とか「共感と信頼」という,そういう訴えるキーワードあるいはスローガンと言うか,そういうものをあえて考えた方がいいのではないかということを思います。
それについて,もう一言つけ加えると,この小委員会は,文化審議会の国語分科会の中の小委員会だということを改めて思い出して,これは1回目の時にもちょっと申しました,平成12年の国語審議会時代に,国際社会における日本語の答申がありました。その中で今言ったようなスローガンに関係するような議論があったと思うんです。キーワードになりかけているような言葉も散らばっているというか,しょっちゅう見えると思います。例えば,そういうようなところを探すということにもつながりですね,前の時の答申とのつながりを今回の答申,来年以降に結び付けるということ,そういうことをしなければ,その都度の答申が一回切りの言いっ放しということになりかねませんので,そういうことも含めて平成12年のものを一度は振り返って,それを盛り込むような工夫が必要じゃないかということを思って言っていました。
○西原主査
ありがとうございました。次回12月に是非この小委員会が何か問題を考えるときの根幹的な哲学というのを,もう少し具体的に今杉戸副主査からおっしゃったようなことをもう一度,これは次の課題になりますが,御準備いただくということを,是非お願いいたします。
今日はお二方どうもありがとうございました。大変勉強になるお話と何か触発される議論の元を頂いたように思います。市川委員もありがとうございました。
それでは,本日はこれで終了とさせていただきます。
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