議事録

第35回国語分科会日本語教育小委員会・議事録

平成22年12月20日(月)
10:00 〜 12:00
旧文部省庁舎2階 第1会議室

〔出席者〕

(委員)
西原主査,杉戸副主査,伊東,井上,岩見,尾﨑,加藤,佐藤,中野,西澤,山田各委員(計11名)
(文部科学省・文化庁)
舟橋国語課長,田中日本語教育専門官,仙田日本語教育専門職,山下日本語教育専門職ほか関係官

〔配布資料〕

  1. 第34回国語分科会日本語教育小委員会・議事録(案)
  2. 能力評価に関するヒアリングについて
  3. 『「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案』
    活用のためのガイドブック
  4. 教材例のコンセプトについて
  5. 教材例のサンプルについて

〔参考資料〕

  1. 日本語教育小委員会における検討内容の大枠とそのスケジュール(案)
  2. 「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」に関するアンケート(地域日本語教育コーディネーター研修)

〔机上配布資料〕

  1. 「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について
  2. 第35回文化審議会国語分科会日本語教育小委員会ヒアリング「オランダでの先行事例」オランダ「市民統合テスト」

〔経過概要〕

  1. 事務局から配布資料の確認があった。
  2. 前回の議事録(案)が確認された。
  3. 配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」について事務局から説明があり,その後,西原主査から説明者について紹介があった。
  4. ヒアリング[1]
    内藤真知子氏(財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部RHQ支援センター日本語教育主任講師(公益社団法人国際日本語普及協会))から難民に対する日本語教育における能力評価について説明があり,その後,委員との間で意見交換が行われた。
  5. ヒアリング[2]
    金田智子氏(学習院大学)からオランダにおける移民に対するオランダ語教育の能力評価について説明があり,その後,委員との間で意見交換が行われた。
  6. 上記4及び5の終了後,さらに能力評価について自由な意見交換を行った。
  7. 事務局から配布資料3「『「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案』活用のためのガイドブック」,配布資料4「教材例のコンセプトについて」,配布資料5「教材例のサンプルについて」について説明があり,その後,活用ガイドブック及び教材例について意見交換を行った。
  8. 質疑応答及び意見交換における各委員の意見は次のとおりである。
○西原主査
定刻より少し早目ですが,始めさせていただきます。今期11回目,日本語教育小委員会としては通算で35回ということになります。
今日は,前回に引き続きまして,日本語教育機関及び有識者からの能力評価に関するヒアリングということで,財団法人アジア福祉教育財団難民事業本部RHQ(Refugee Assistance Headquarters)支援センターの内藤先生と学習院大学の金田先生にお願いしております。順序といたしましては,RHQ支援センターの内藤先生の方から先にお願いしたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○発表者(内藤)
内藤でございます。よろしくお願いいたします。
RHQ支援センター日本語教育プログラムにおける能力評価ということで,御報告させていただきます。
発表の内容は御覧のとおりです。RHQ支援センターでどのような能力評価をしているのか御理解いただくためには,まずRHQ支援センターでの日本教育プログラムについて御理解いただかないとなりませんので,まず前半少しお時間を頂戴して,その話を致します。
配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の6ページから資料に沿って御覧いただければと思います。配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の3ページから5ページの「能力評価に関するヒアリングシート」に書いてあることは,すべて6ページからの「RHQ支援センター 日本語教育プログラムにおける能力評価」に含めてありますので,よろしくお願いします。
まず7ページ上,RHQ支援センターのプログラムのコース(course)の概要ですけれども,RHQ支援センターはインドシナ難民の教育を引き継ぐ形で2006年に開設いたしました。対象は難民条約に基づいて認定された難民及びその家族です。彼らが日本社会で自立した生活を営むために必要な日本語力を付けるため,「生活のための日本語教育」を実施しています。
御承知のように,今年の10月からは第三国定住難民の受入れも始まりまして,現在そのコースも進行中ですけれども,本日の発表は条約難民の日本語教育プログラムに限らせていただきます。
学習者の年齢,在日期間,出身国は7ページあるとおりでございます。学習時間,それからクラス編成等はここに書いてあるとおりでございますが,RHQ支援センターの大きな特徴は学習者の多様性,そしてクラス内のレベル差が非常に大きいということです。例えば在日期間,年齢,学習経験,国籍,民族,母語等が多様でございまして,クラス内のレベル差が非常に大きい。いわゆる入門者から中級まで同じクラスに含まれるということがございます。
それから,8ページ上,一人の学習者内のレベル差,4技能のアンバランス(imbalance)ということもあります。会話は相当できても,読み書きが余りできないという方がよくいます。概して読み書き能力が会話力に比べて低いということが特徴として挙げられます。
毎期,一つとして同じクラスはありませんから,一つの決まった教科書を決まったとおりに行うことができませんし,またそのようにはしておりません。
8ページ下が,RHQ支援センターの教育プログラムの概要です。572時限の日本語教育と120時限の生活ガイダンス(guidance)とが連携して行われています。さらにここに就労支援が加わりまして,定住支援プログラムの全体が構成されています。1時限は45分です。
9ページ上,RHQ支援センターの人的な支援体制ですが,学習者を取り巻く支援者としては,日本語教師のほか,御覧のような人員が配置され,各分野において学習者の定住を支援する体制が組まれています。
それでは,9ページ下,RHQ支援センター日本語教育プログラムにおける言語観・指導理念についてお話しいたします。
RHQ支援センターでは,言葉の持つ二つの役割を重視した日本語指導をしています。つまり,社会生活を便利に送っていくための「道具としての言語」と,もう一つ,「主体としての体と一体化した言葉」と申しましょうか,「身体化された自己を表現する言葉」です。「生活のための言語」というとき,ともすれば道具的言語,言葉の実用性に目が行きがちですが,RHQ支援センターでは自分の内から出る,―私の言葉で申し上げますと「生きる実感としての言葉」になるのですが―そういった面を言語の実用性の面と同様に重視して指導しています。私たちは「プロソディ(prosody)」と称して,詩や歌を声と体を使って表現する指導も積極的に行っていますけれども,このプロソディは身体化された言葉の獲得に大変効果があります。
言葉の二つの役割を重視した教育実践をする,これが私たちが目指す「エンパワメント(empowerment)の日本語教育」の根拠です。両方をともに伸ばすことによって,学習者は体を開き,自信を持ち,人と関わっていく力を付け,自らより広く,深く,社会へ参加をしていきます。教室で教えられる言葉の量は限られていますが,こういうふうに自信を持って社会参加していく力を付けることによって,結果として言語習得が雪だるま式に進んでいくものと考えています。
10ページ,日本語指導の方針,キーワードはこの三つです。
「(1)エンパワメント」,ありのままの自分に自信を持ち,自己表現していく力を付ける日本語教育を目指します。
「(2)人間関係構築力」,日本語で他者と関わり合い,他者に働き掛け,他者を動かす力,つまり人間関係構築力を段階的に強化していくようにカリキュラム(curriculum)を設計しています。
「(3)自律学習能力」,退所後も視野に入れた自律学習能力を養成します。そのために,いろいろな形で学習の振り返り活動を行っています。計3回にわたる学習カウンセリング
(counseling),それから「学習日記」と称して行っている日々の授業を振り返る活動,さらにRHQ支援センターで学習したことの意味を自分の人生というスパン(span)の中で自覚させることを目指したユニット(unit)22。ユニット22については配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の23ページを御覧ください。それから,成果物や学習日記をファイルしたポートフォリオ(port folio)の作成,あるいは自律学習の力を付けるべく,いろいろな学習方法,人や物や情報,何でも利用して学習するんだということを指導する,学び方の指導ということを意識的に行っております。
10ページ下,指導方法と内容です。指導方法としては「それが知りたかった」,「それが言いたかった」ということを言葉にする手伝いを基本としています。教師はユニット学習と一般言語項目,この二つのアプローチ(approarch)でそれを実現することを目指しています。ユニット学習というのは,対話を通してコミュニケーション力の向上を図る総合型・活動型の学習のことで,全23ユニット,63項目から成っています。配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の23ページを御覧ください。ユニット学習項目一覧表を付けてございます。このユニット学習では,私どもは教室は生の社会と捉えて,レベル差及び学習者の多様性を受容して対応するようにしています。
教師はファシリテーター(facilitator)としてコミュニケーションを活性化させ,そのコミュニケーションが一人一人の学びに転化するように努めています。ユニット学習の教材は基本的に講師がクラスに合わせて手作りで作っています。彼らをユニット学習の世界に誘う,話したくなるようなイラストや写真や絵などが中心の教材が用意されています。通常,1ユニットを数日掛けて学習します。全体を通して行うことによって,RHQ支援センターの指導理念,つまり実用性と自己実現の両方が達成されるように工夫しています。
11ページ上に移ります。各ユニットの特徴についてですが,ユニット学習項目一覧表に記入してありますABCDEですが,それはそのユニットが主に何にフォーカス(focus)しているかを示したものです。大きく分けて「自己表現支援系」,そして「道具としての言語系」に分けられておりまして,両方に共通しているのが自律学習能力を育てるということです。11ページ下から13ページ上がユニット学習項目一覧表です。
それでは,RHQ支援センターで評価基準表作成を行ったのですけれども,その作成の経緯についてお話しします。13ページ下を御覧ください。
2006年4月にRHQ支援センターが開設されて以来,レベル差が非常に大きく,多様な学習者が一緒に勉強するというクラスで,私どもは適した指導内容,指導方法を生み出すことに一所懸命取り組んでまいりました。その中でユニット学習,一般言語項目,そしてプロソディという一つの流れが出来上がってまいりました。
そういった状況の中で,実は評価まではなかなか手が回りませんでした。それで昨年度までは評価は主に会話能力で4段階に判定し,そこに文字力の面でプラスマイナスを加味するというやり方を取っておりました。もちろんこれだけでは学習者の力を伝え切れませんので,学習者の自己評価,そして講師による評価,それを記述形式でできるだけ詳細に記述して対応してまいりました。
しかし,このような評価ではどうしても問題があります。例えば,14ページ上にも書きましたが,「1 会話能力と読み書き能力のアンバランスの実態を可視化できない」こと,「2 技能別の何がどう伸びたのか,が分からない。」こと,「3 余りに大まか過ぎて,レベルアップの質の違いが見えない。」こと―例えばDからCへのレベルアップとBからAへのレベルアップでは中身が違うと思うんですが,それが見えません。そして,何よりも大きい問題だと思ったのは,「4 学習者にフィードバックができない。」ということです。それから,また,「5 学習者,講師,関係者で評価を共有できない」という問題もありました。例えばある学習者の評価を決める際に幾ら詳細な記述をしましても,「で,結局CからBですか」とか「CからAですか」という質問が来たり,あるいは職業相談員の方からは,「雇用先にどうやって彼らの日本語力を説明したらいいでしょうか」といった質問が来たりします。ここはみんなで使える評価基準表が必要だということで,いよいよ評価基準表の作成に取り掛かりました。
14ページ下,RHQ評価基準表作成に当たって,これが大事だと,実は終盤になって気が付いたことがあります。それは次の2点です。まず第1に,指導理念を反映する評価でなければならないということ。私どもは実用性と自己表現の両方を重視するという指導理念で授業を行っていますが,評価基準表にもそれが反映できるものでありたいと思いました。第2は,当事者である学習者及び関係者にとって分かりやすいものであることを目指しました。
15ページ上,具体的には,RHQ支援センターの評価の目的はこの4点にあります。「[1]学習者自身が自らの日本語によるコミュニケーション能力を把握し,自律学習能力を向上させる。」「[2]講師が各々の学習者の習得状況を把握し,クラスの指導計画作成のための資料とする。」,「[3]学習者の言語能力をコース関係者と共有し,各担当者がそれぞれの分野で適切な支援をするための資料とする。」,「[4]入所時と修了時の学習者の日本語力を判定し,日本語教育プログラムの成果を見る資料とする。」です。
さて,15ページ下,RHQ評価基準表の構成ですが,「1−1 読んで分かる」から「3−2 作文」まで,六つの技能ごとに各10レベルの記述を考えました。目安として,「0」が「全くできない」,「10」が「仕事や社会生活上,余り問題なく暮らしていける」段階ということで,この範囲がRHQ支援センターでの想定指導範囲でございます。そして,記述の文章ですが,文章は学習者に分かりやすい記述にし,内容も学習者がイメージしやすいものにしています。さらに,この六つの基準にプラスして,表紙に「伸びが一目で分かる図」を付け,さらに中間カウンセリングで使うための質問用紙と合わせまして,合計で8枚で1セットというようにしてあります。その一部を24ページから26ページに付けてございます。ただし,まだこれから改正していくつもりですので,どうぞ途中経過と思って御覧いただければと思います。
実際の評価について御報告します。16ページ上を御覧ください。評価はコースの期間中を通じて全部で6回にわたってなされます。このうち,―少し色が見えにくいのですが―真ん中の「1 開講時プレイスメントテスト」,「2 中間カウンセリング」,「3 ユニット22 コース振り返り」,「4 修了時カウンセリング」の部分を日本語講師が直接担当いたします。そして,さらにこの「1 開講時プレイスメントテスト」,「2 中間カウンセリング」,「4 修了時カウンセリング」の時に,先ほどの評価基準表を使っております。
まず,「1 開講時プレイスメントテスト」です。内容は16ページ下のとおりですけれども,会話試験を兼ねた面接で評価基準のうちの「1−2 聞いてわかる」,「2−1 二人で話す」,「1−1 読んでわかる」を判定します。この面接及び会話試験の質問は1対1で致しますが,他に三,四人の講師が同席し,観察して判定をするようにしています。さらに筆記試験で,「1−1 読んでわかる」,「3−1 文字」,「3−2 作文」を判定します。なお,「2−2 一人で話す」は,これは発表する,スピーチということを想定した基準ですので,プレイスメントテストを行う際には判定しません。
17ページ上,コースの中盤で中間カウンセリングを行います。評価基準表が学習者の前に開示されるのがこのときです。基本的に学習者に分かるように記述していますので,まず授業の中で評価基準表を一緒に勉強します。そして,内容を理解した後で,開講時と現在の日本語力を自己評価させます。そして,「伸びが一目でわかる図」に書き込みます。中間カウンセリングの形態ですが,個別カウンセリングで行ったときと,クラスで一緒に行ったときがございます。
17ページ下,これが評価基準表の記入の例ですけれども,右の方に開講時,中間カウンセリング,修了時,それぞれ自己評価を記入する欄があります。それぞれの時点での出来具合を「○」,「△」,「×」で記入しています。「○」が付いた段階でそのレベルはクリアと判定します。レベル10の下の方,これは点線になっております。さらに矢印が付いています。これは「RHQ支援センターではここまでしか判定しないけれども,まだまだあなたの日本語の伸びは先がありますよ」ということを学習者に示すためで,あえて実線にしておりません。
18ページ上は来日してすぐに入所した方の中間カウンセリングの結果です。この方は入所時は一言も話せませんでした。中間カウンセリングで自己評価をし,色を付けてみたのがこの図です。赤は入所時,黄色の部分が中間カウンセリングの段階のものです。学習者によってスタートの状態が違うので,仕方がないのですが,クラスの中で一番小さい面積しか塗ることができませんでした。でも,この方は自分のこの真ん中の赤い部分を指して,「先生,初め私,小さい卵ね」,黄色いところを指して,「今,鳥の赤ちゃん。そして9月卒業するとき,大きい鳥ね」というように言ってうれしそうにしておりました。
18ページ下,ユニット22「教室に来る前の私,今の私,これからの私」では,評価基準表を使いませんけれども,これは「RHQに来る前の私,今の私,これからの私」と題し,RHQ支援センターのビフォー・アフター(before・after)をします。このユニット22で学習者はRHQ支援センターでの学習を振り返り,日本語でできるようになったことの意識化,さらにはRHQ支援センターでの学習期間を経た後の自己の変容を自分の言葉で書くことに挑戦します。教師が思いも寄らないキャンドゥ(can-do)の具体例が出てきます。この作文は,時に学習発表会でのスピーチ原稿となり,本当に聞く人の胸を打つ良いスピーチを聞かせてくれます。19ページ上に幾つかその例を出しましたので,どうぞ後でお読みください。本当のごくごく一部の抜粋です。
19ページ下,ユニット22で学習者が書いた作文からは,コース受講前の自分を表す言葉として,「孤独」,「恐怖」,「閉塞感」,「無力感」,「引き籠もり」といったものでまとめられるような表現がいろいろ出てまいります。そして,コース修了時の自己評価から読み取れるのは,日本語ができるようになって,単に便利になってうれしい,生活が便利になったということだけではなくて,「自信」とか,「誇り」とか,「意欲」とか,それから「新しい人間関係の形成」です。コースを経て,彼らが自信を付け,心が解放されていった様子が見て取れると思います。実際,本当にそうで,教室にやって来る彼らの表情がどんどん明るくなります。
私自身は,学習者がこのように変わっていくこと,それを本人が自覚して,自分の言葉でそれを表現すること,その自己評価こそ,コース評価の大きなポイントと考えたいと思っております。
20ページ上,修了時に,今度は修了時カウンセリングを致します。通常はクラス内で行います。学習者はクラスメイト(classmate)や教師の意見を聞きながら,最終的に自分が納得する評価を書き入れます。中間カウンセリングより一回り大きく広がった輪を見て,達成感を感じ,更なる学習意欲につながっているようです。
学習者の自己評価と講師やクラスメイトの評価がずれた場合はどうするか。意見のすり合わせがここで行われます。その過程もまた重要な学習だと考えています。ただ,学習者が持ち帰る評価は,最終的には学習者自身の評価を優先することにしています。分かるとか,できるとか判定するのは個人の判断です。本人が「この辺りはできる,大丈夫」と言えば,「できる」と判定していいのではないかと思っています。逆に,講師の方から,「もう大丈夫ですね,「○」」と言うことがあります。なぜならこの評価基準は学習者をエンカレッジ(encourage)する評価であることを狙っているからです。RHQ支援センターでの学習を経て,自分で「できるようになった,もう大丈夫,何とかなる」と自信を得ることが,そもそもRHQ支援センターで私たちが狙っている指導の第1目標であるからです。
一方で,講師がコース評価をしたり,関係者に報告したりする評価では,講師評価を優先させています。講師の評価は,日頃の授業での様子,最終学習発表会の結果,各種の成果物などを総合的に見て,つまり1回限りの判定ではなくて,多面的,総合的な観点から,しかも講師チームの協議によって,評価基準に基づいて判定するようにしています。
20ページ下,これは先ほどの方の最終自己評価シートです。鳥がちょっと中くらいの鳥になりました。
21ページ上,コースの最後には難民事業本部が修了時アンケートを実施しています。ここで学習者によるプログラム評価が行われ,今後のプログラム改善の資料とされます。
21ページ下,RHQ支援センター評価基準表に戻ります。この評価基準表を使って評価した結果,見えてきたことがあります。それは,具体的な資料を提供しながらの評価活動は,説得力を持った学習者への励まし効果を持つ,そして教育効果が大きいということです。学習成果を実感させ,今後の自律学習に向けた方向付けをすることができます。
この評価基準表は,学習者に対して教育的配慮が込められたツールです。例えば,「2−2 一人で話す」というのは,発表というのを評価項目に挙げていますが,現実には講師が準備や練習を手伝った上でできた,「○」ということです。一人で全部できるか,準備から何から一人でできるかというと,必ずしもそういうわけではありません。ですが,たとえ助けがあったとしても,結果としてみんなの前で日本語で発表ができた,それも,自分が伝えたいこと,言いたいことを言えたという体験の事実を重視しています。その意味で,「一人で話す」は自己表現をエンカレッジし,応援するための教育的ツール(tool)としての評価基準項目です。
副次的効果として,評価基準表は学習者がRHQ支援センターの日本語教育プログラムの全体像を理解することに役立っていると思います。なぜユニット学習のあの勉強があったのか,先生たちはなぜああいう教え方をしたのか,学習者は評価基準表を見て改めて納得することができるようです。
それから,2番目ですが,評価基準表はセンター関係者との協力関係形成に効果的です。例えば職業相談員の方にとって,学習者の日本語力を把握しやすい,また日本語指導の意図が関係者に理解され,適切な協力を得るための説明資料として有効です。例えば,通訳の方がどういうかかわり方をするかという場合に,「これこれこういう学習をしておりますから,できるだけ日本語で頑張らせてください」というようなことをお話しするのが伝えやすくなります。
それから,講師自身にとって,学習者の日本語の習得状況を把握することが容易になりました。実は,私どもは日々の授業の展開を大変詳細に記述して,毎日チームの講師に送り合っています。ユニット学習は正に生き物のような,「今,ここ」のコミュニケーションの活動です。そのコミュニケーションを学習に転化する,そういう授業を目指してやっている以上,授業報告が大変重要になります。日々の授業というのは,どちらかと言うとミクロ(micro)な目で学習者を私どもは把握しています。そして,1週間に1回RHQ支援センターにやって来て授業をして,学習者に接し,さらに3か月に1回評価基準に従って評価をするということは,講師にとっても,日々の授業とは違ったスパンで学習者の進捗状況を見るのに大変有効だと考えます。それから,コース成果報告が簡潔に,明瞭にできるようになったと思います。
最後のスライド(slide),22ページ上になりますが,評価基準作成作業はまだ本当に途上ですが,当面の課題として次のようなことがあると思います。まず,評価基準表の記述内容の整理です。量との兼ね合い,それから記述の仕方の問題,今後記述内容を整理していく必要があると思っています。
2番目ですが,評価基準に基づきユニットの教育内容をレベル別に精査するというのは,ユニット学習というのはトピック(topic)という共通の扉を持っているんですが,その扉の先には本当に多くのレベル差のある活動を含んでいます。それらを評価基準に照らして精査する作業がまだ残されております。
それから,3番目の漢字力ですが,漢字についてはテキストベース(text base)以外で教えていることが多くあります。一方,幾つ漢字を学習したかという学習漢字数は,学習者の励みでもあります。漢字力をどう捉え,どう記述したらいいのかということは,継続して検討中です。
それから,最後に第三国定住難民用の評価基準表というものも今後考えていかなければならない,もう少し下のレベルを詳細に細分化して書いたものが必要かと考えております。以上でございます。ありがとうございました。
○西原主査
詳細に御説明いただきましたが,御質問がありますでしょうか。
今のコースの学習者の数はどのぐらいになりますか。全体としては一期で何人ぐらいの方を抱えていらっしゃいますか。
○発表者(内藤)
今期は,昼間は第三国定住の方で夜の条約難民の方と合わせて27名,大体年間を通して30名ぐらいだと思います。夜クラスで勉強している方は条約難民の方で5名です。また,クラスは大体最大で10名を超えることはないようにしています。
○西原主査
5から10名を対象にこのような評価をなさるということですね。
○発表者(内藤)
そうです。5人は少ない方ですね。
○岩見委員
少し補足いたします。今年度,昼クラスについては前半が条約難民に対して日本語教育を行い,後半で第三国定住難民を対象に日本語教育を行っています。
○西原主査
昼間は第三国定住が主になっているということですね。
○発表者(内藤)
昼間は,今は後期ですから,第三国定住の方を対象に日本語教育を行っています。
○加藤委員
聞き逃したかもしれないので,確認です。このレベル評価表というのが配布資料2「能力評価に関するヒアリングについて」の24ページから26ページに付いています。このレベル評価をするときの方法なのですが,これは実際に担当されている講師の方が,御自分が授業をされたことを振り返って評価を付けるということですね。つまり,インタビュー形式のような形で,聞きながらこれを書いていくということではなくて…。
○発表者(内藤)
聞きながら書いていくということではないです。基本的には自己評価と講師評価の二つに分かれているんですね。自己評価というのは学習活動として一緒にやります。教師が学習者をサポート(support)しながら自己評価をさせます。最終的な講師評価というのは,インタビューしながらというのではなく,それまでのいろいろな様子を思い浮かべながら行います。
○加藤委員
チェックをしていくということですね。分かりました。書いてある内容が割と細部にわたったものもあるので,どのようになさるのかなと思いました。
○発表者(内藤)
ここに書いてあるのは具体例なんですね。例えばこのぐらいのことができるかなということで付けています。
○西原主査
後で御質問が出てくるかもしれませんが,これで前半のヒアリングを終えさせていただきます。どうもありがとうございました。
では引き続き,オランダの先行事例について,学習院大学の金田智子先生からお話を伺います。本日,追加配布された資料を御覧ください。
先回の御発表のときにも,自己評価というのが独立行政法人国際交流基金の御提案にありまして,今回も自己評価というのが問題にされています。これが教育上のツールとしては非常に有効だということが何度も強調されていますけれども,ヨーロッパのCEFR(Common European Framework of Reference for Languages・ヨーロッパ言語共通参照枠)も自己評価というのを大きく考えています。これは「生活者としての外国人」について考えるときに重要な検討項目かと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
○発表者(金田)
オランダの市民統合テストについて,本日はお話をさせていただきます。オランダの状況に関しましては,以前一度こちらでお話をさせていただいておりますので,背景などに関しての説明は少し短めにさせていただきます。ただ,全然話さないわけにはいかないので,ざっと復習がてらと申しますか,そのような感じで話を進めていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
まず1ページ下,統合政策に関して少し触れておきたいと思います。オランダが外国からの労働者を多く受け入れ始めたというのは,もっと歴史的に長いわけなのですが,統合政策というものが積極的に取られるようになったのは80年代,さらに90年代という感じです。80年代は多文化主義的アプローチを取っていたのですが,その頃までは非常に寛容な政策を取ってきたということです。当時,市民権とか市民化の意識というのがようやく考えられ始めたということです。
90年代にいろいろな問題が生じまして,移民全体の社会的あるいは経済的な地位が非常に低下して,失業者もオランダのもともといる住民に比べて非常に高いというような問題点がありました。それから労働市場でそれぞれの方々の位置をきちんと占めていけるように積極的な対策が必要ではないかということが検討されました。その結果,オランダ語の国家試験というのがこの頃に開発されて,実施が始まっています。
さらに,1998年なんですけれども,ドイツよりも10年ほど先駆けて,市民統合法というものに基づいて統合プログラムというものが,移民が受講しなくてはならないものとして始まりました。この時には,移民の方々の権利も大事にするんだけれども,オランダ社会に生きていく者としての義務も果たして行こうということで,権利と義務をバランスよく保っていくということが検討されました。
その中で,特にオランダ語の習得というものが非常に重要ではないかということがうたわれ始めました。この政策に基づいた統合プログラムというものが無償で行われてきたわけなのですが,その後,幾つか変化がありまして,2ページ上,2006年に海外における市民統合法ということで,海外版の市民統合基礎テストというものが開始されました。これは言わば入国前に少し準備をしてもらうというタイプのテストです。
さらに2007年,新しく市民統合法というものが生まれまして,市民統合手続が義務化されました。この際に,市民統合テストというものが導入されています。この市民統合手続の義務化によって,市民統合プログラムの受講は任意になっています。ただ,実質的にはいまだに無償で提供されているということは変わりません。
2007年ですけれども,後半に入りまして,「Delta Plan」というものが生まれまして,このときにまた標語としては,「まず言葉から始めましょう」ということがうたわれています。このとき,幾つかのことが標語として挙がっているのですが,社会に参加することによって統合は成立するんだというような考え方ですとか,より多くの受講者―これは市民統合プログラムの受講者のことですけれども―より多くの受講者が,より高いオランダ語レベルに到達し,経済的,社会的,文化的にオランダ社会に参加するようになるため,プログラムの質を向上させるということをうたっています。
ここで「より高いオランダ語レベルに到達し」ということが挙げられているのですが,無償で600時間程度の市民統合プログラムが提供されてはいたのですけれども,なかなか目標レベルに到達することが難しかったという実態がありました。そこで2007年から積極的に,一方ではテストも導入するけれども,プログラムの質の向上を図っていかなくてはならないということを同じ年に決めたということです。これに関しましては,移民だけが努力をするのではなくて,移民が働く場所であるとか,様々な役所,それからオランダの市民全体でこのプランを実現させていきましょうという意識が強調されています。同時に,オランダ語のことだけではなくて,職業訓練と連結させましょうということも検討されています。
予算については,かなりの額が組まれています。年間で4億6,000万ユーロ(約52億円)です。これだけのお金を費やして実施していきましょうということです。これによって年間6万人がプログラムを受講することを計画していました。これはこの2007年の時点で約50万人程度のオランダ語の能力が不足しがちな人たちがいるということが推定されていまして,その方々が数年の間にプログラムを修了して市民統合テストに合格するということを考えますと,やはり年間6万人がプログラムを受講しなくてはならない,そのためにはこれだけの予算が必要だというふうに計算がされたということです。
いよいよ2ページ下,市民統合テストの話にいきたいと思うのですが,市民統合プログラムと市民統合テスト,少し繰り返しになりますが,市民統合法によって統合手続,これはすなわちオランダ語,そしてオランダ社会に関する知識も身に付けている。それによってオランダ社会に統合,あるいは定着と言った方がいいかもしれませんが,定着していることを証明するプロセス(process)ということになっています。これが義務化されました。そして,市民統合プログラムはそのまま実施されておりますけれども,オランダ社会の統合が証明できない場合,受講が積極的に奨励されるということです。この中でオランダ語,そしてオランダ社会に関する学習を行っていきます。様々な補助金がありまして,これを利用することによって実質的には受講者は18か月間は無料だということになっています。そして,市民統合テストですが,統合あるいは定着を証明する方法の一つでありまして,永住権を取得申請したいときの要件になります。
3ページ上,先ほども少し触れましたけれども,海外で仮居住許可テスト,海外版市民統合基礎テストと呼ばれていますけれども,これに合格している人は入国後3年半以内に市民統合テストに合格する必要があります。そのほかの人たちは5年以内ということです。
そして,市民統合テストは誰もが受けなくてはならないということではなくて,免除される人たちもいます。例えば,EU(European Union)の方々は全く問題ありません。それから,それ以外の国々で,例えばオランダ語の能力が既に高い,つまりオランダ語国家試験などに合格しているということがあれば,市民統合テストを受ける必要がありません。それから学齢期にオランダに8年以上住んでいた者,それから18歳以下の者,65歳以上の者は手続自体が免除されるということです。
テストの受験料ですが,これは減額されていて,以前は270ユーロ(約3万円)でしたが,現在は240ユーロ(約2万7千円)になっています。さらに,これは合格をした後に報償金のような形で払い戻しと言うか,実際は自分で払わなくてもいいような形になる人たちもいます。
3ページ下,いよいよ市民統合テストの特徴に入りたいと思います。市民統合テストは大きくオランダ語,そしてオランダ社会に関する知識の2種類から成っています。このテストのためのテストシラバス(test syllabus)なんですけれども,多様なメンバーから成る委員会組織というものを領域ごとに設定して,そこでの審議,さらに各種調査に基づいて作成をしたということです。そして,これは現在の言語教育の中での一つの潮流だと思いますが,「○○ができる」ということが目標になっています。これはオランダ社会に関する知識に関しても同様で,必ず知識だけではなくて,その知識を持って適切な行動ができるかどうかということが判定されます。また,少し厳しいようですが,努力よりも結果を重視,とにかくできるようになっているかどうかということが大事だということです。
言語のレベルなのですが,CEFRの基準で言うA2レベルのオランダ語能力が必要です。これはオランダ社会に関する知識のテストを受けるときも,このレベルの読みもの,あるいは聴解のものが入ってきますので,A2のレベルというのが大事になってきます。ただし,旧移民―昔からオランダにいて長い間暮らしているけれども,オランダ語が習得できていない人たち―がいるわけなんですが,この方々に関しては書く能力についてはA1でよいとなっています。
お手元の資料には,A2レベルのことは特に書いておりません。皆さん御存じだとは思いますが,全体的な尺度がどうなっているのかと言うと,A1からC2の6段階の中の下から二つ目のレベルですので,ごく基礎的な段階になります。自立した人ということにはまだならない段階です。
それから,特殊法の続きですけれども,市民統合の趣旨というのが,基本には社会の中に入っていくということでした。それと,失業率を下げたい,職をちゃんと得られるようにしてほしいというようなことと,子供の教育に関してきちっと責任を持ってほしいということがありました。ですので,4ページ上,当初,領域に関しましては市民生活,就労,育児・健康・教育の3領域でした。ただ,その後また変化がありまして,これだけでは移民の生活がカバーできない,子供も育てる必要はないし,あるいは仕事もこれから積極的に働くということが余りない,あるいは仕事はするけれども,自分で店をやるのだというような場合もあるということで,二つの領域が加わりました。「社会参加」,そして「起業」です。「起業」と言うと,日本だと意味合いが少し変わってくるかなと思うんですけれども,説明を読む限りでは,どちらかと言うと自営をするというような意味合いです。
そして,この5領域に関連したことなんですけれども,一人一人の移民のプロファイル(profile)に応じた出題の内容になっています。プロファイルという言葉を日本語に訳した方がいいかなと思ったのですが,そのままにしております。それぞれの方々の立場であるとか,今の生活の状況,環境など,その辺りを加味して出題の内容が変えていくということです。
そして,必要不可欠な生活場面におけるオランダ語というのもテストされます。具体的にどういうものかということについてですが,4ページ下にあるようなものです。ここには今市民生活,それから子育てに関係するもの,就労に関係するものしか挙げてありませんけれども,それぞれの領域,場面の中にいろいろな行動が設定されています。
行動に関しましては,追加資料の中に出ていますが,例えば歯科医,子育てに関係するところについて,15ページ,歯科医の場合にどういった行動が必要になるかということで,歯医者に行く準備をします。特にオランダの場合は,半年に1回は歯科医から呼出状が来るのだそうです。ですので,実際何かを読んで,それに従って予約をして行って,歯科医といろいろなやり取りをするということが具体的に必要な行動として設定されています。
また市民統合テストの特徴,4ページ上に戻りますけれども,このテストの中にはポートフォリオ評価が導入されています。これを行うことによって,実生活でのコミュニケーションを促進したいということがあります。そして,複数の評価方法を用いています。1回の筆記のテストで判定をして終わりというものではなく,複数の評価を行っています。それから,テストの実施機関というのが幾つかあるのですが,その機関に対する第三者機関による検査,それからテストの結果に関しても第三者機関による評価などが行われています。
5ページ上,具体的に市民統合テストの方法なのですけれども,大きく教育機関で行われるものと中央機関で行われるものがあります。教育機関に関しましては,パフォーマンス(performance)評価,そしてポートフォリオ評価,この二つがございます。詳しくはまた後ほど御紹介します。そして,中央機関におけるものは,インターネットを使用した試験になりますけれども,この中でオランダ社会に関する知識のテスト,オランダ語の実践テスト,オランダ語口頭能力テストが行われます。
まず教育機関での試験を少し御紹介します。5ページ下です。まず,パフォーマンス評価なのですけれども,これは実際に受験者一人に対して評価者及び評価補助者がやり取りをするというものです。具体的なやり取りをするのは評価補助者になります。評価者はそのやり取りの様子を見て判定をするという形になっています。このパフォーマンス評価の中では,会話課題,読む課題,書く課題を含んだ一連の課題を行うということになっています。単発の課題を行うということではありません。そして,日常生活で遭遇するような課題を行います。
例えば,子供のことについて学校と相談するという大きなテーマがあった場合は,通知表が手渡されます。そこに先生から添えられた手紙があるわけです。それを読んで,まず設問に回答します。そして,面談の申込用紙というのが来ますので,それに必要事項を記入します。そして,面談の日程表というのがまたやって来ますので,スケジュール帳に自分の行く日を書き込んでおく,そして担任と話をするというような流れのあるタスク(task)になっています。
もう一つの評価として,ポートフォリオ評価があります。これはポートフォリオのもともとの意味,そのままということを思っていただければいいかと思いますが,いろいろなもの,自分が何かを果たした,達成した,その証拠を集めて1冊にまとめて提出をするというものです。実践的な能力を表す証拠なのですが,実生活では集められた証拠資料をパフォーマンス評価のときに提出をします。日常生活の言語使用をテストの一部としたということです。
例えばどういうものがあるかと言うと,車に保険を掛けるために保険会社で社員と話をして,その社員にある書式にサインをしていただくというものです。それから,日常生活の中で様々な書類の記入という行動があるかと思いますけれども,書類に記入をした,あるいは書類に記入をすることによって何かが発生したという場合に,何らかの書類をコピーをしておくというものです。
この「a. パフォーマンス評価」と「b. ポートフォリオ評価」の組合せについては6ページの上になりますが,自由ということになっています。例えば,もし「a. パフォーマンス評価」のみという場合は,30分のタスクを4種類行います。そして,「b. ポートフォリオ評価」のみである場合は,20種類の証拠を提出するということになっています。ただ,証拠を提出するだけでは,本当にそのポートフォリオの資料が本人によるものかどうかということが分かりませんので,ポートフォリオに関するインタビューが課されるということです。
(方法3)としては,「a. パフォーマンス評価」と「b. ポートフォリオ評価」を組み合わせるということで,30分のタスクを2種類,そして10種類の証拠を提出するということです。この(方法3)が政府として奨励したい方法であるということです。
6ページ下,具体的なパフォーマンス評価の方法ですが,例えば会話の場合はこういったステップを踏んで評価することになっています。
まず,受験者の言うことが理解できたかどうか,そして受験者の発言が適切であったかどうか,そして最終的には少なくともA2のレベルの発言になっていたかどうかということになっています。比較的単純なステップで合否が決められます。
実際に受験者の言葉遣い,A2のレベルがどの程度のものかということに関しても,試験官用のガイドブック(guidebook)の中に詳しく述べられています。これに関しましても,また皆さんお時間がありましたら,7ページを後ほど御覧いただければと思います。
そして8ページ,一方,評価者,そして評価補助者がどういった言葉遣いをするべきかということも指示されています。例えば,言葉遣いは簡易で,文章は短いことであるとか,ゆっくりと話し…ということも,最初から指示されています。言葉遣いは,受験者に合わせることというようにもなっています。この辺りは非常に特徴的かなと思います。
そして,パフォーマンス評価の課題内容ですが,9ページ上,繰り返しになりますが,市民生活に係る部分,これは必須になっていますが,受験者が自身の立場に応じて選択できる部分,四つの領域の中から一つという形で出題されることになっています。
この課題の内容は,その試験の当日にコンピューターによってランダムに出題されるということです。ただ,試験に慣れていない,あるいは試験の準備がなかなかうまくできないという受験者も多いので,ランダムに出題されるとどういうものが出てくるのかというのは,事前に例として示してもらえるということです。
そして,9ページ下,ポートフォリオですが,これに関しましてもどのようにポートフォリオを作って行ったらいいのかということは,具体的にモデルが示されています。これは16ページ,17ページを御覧いただければと思います。
ただ,本日お見せしている資料は古い資料です。この古い資料は,まだ「市民生活」以外の領域が二つしかないときのものです。今は4領域に増えているということと,それから課題の数,ポートフォリオの収集資料の数も実は減っておりますので,これは以前のまだ数が多いときのものです。
小さくて申し訳ありませんが,例えば収集した証拠文書のチェックリストというものがあり,これがあることによってどういったものを集めればいいのかということが分かるようになっています。自分がそれを集めた場合,そこに日付を書きまして,そこに番号を振っていくというようなことが指示されています。
それから,皆さんのお手元の資料17ページ右上になるかと思いますけれども,「会話相手に渡す手紙」というのがございます。これは要は,会話が終了したときに,「確かにこの人はオランダ語で会話をしました」ということをサインしていただくわけなのですけれども,そのときにその会話相手にどういう状況かということを説明し,お願いする手紙があります。それもこのようにモデルの中に入っています。そして具体的な証拠物件になるわけですけれども,書式がこのようになっていまして,自分でどういう状況で何を話したのかということを記録する部分,そして,会話の相手が記入をしてサインをしてくれる部分というようになっています。
筆記用の証拠書式に関しましては,これは自分自身が記録をして終わりというようなものになっています。
そして,その18ページの右の上,「教育機関評価(実践力テスト)審査書式」というのがありますが,これが最終的な審査のときの書式になるということです。ポートフォリオに規定数の証拠文書が含まれているかどうか,そしてその証拠物件がちゃんと各分野に分散されているのかどうかというようなことをチェックをして,合否を判定して,サインをして送るというような形になっています。
この教育機関での試験の特徴ですが,公平性,質の維持を図るための実施指示書が細かく整備されています。これは一人一人試験の状況というのが変わってくるわけですけれども,そこで質の維持を図ることが非常に大事なるということで,実施指示書がきちっと作られているということです。
それから,試験官に関しましては,10ページ上,試験官資格を取るための研修というものがあります。これを受けて合格した場合に試験官になれるということです。
少し飛ばしますけれども,10ページ下,中央試験に関して少しお話をして終わりにしたいと思います。
中央試験は「a. オランダ社会に関する知識」,それから「b. オランダ語実践テスト」,そして「c. 電話による口頭能力テスト」です。
11ページ上,中央試験の実施方法に関しましては,全国7か所の試験実施センターで行われています。先ほどの教育機関の試験というものはもっと数多くの身近な機関で行われているタイプのものです。現在,(月)から(金),朝から晩まで四六時中試験が行われているということです。これはコンピューターで行うから,こういった試験が可能になっているということです。
この出題ですけれども,どの試験に関しましてもすべてランダムに提示されるということです。オランダ語の実践テスト,これも同じ話なのですが,共通部分と選択部分から成り立っています。受験者ごとにランダムに出題されて,受験者の反応によって項目が変わっていくというタイプです。出題例については,12ページ上,ここには簡単なものしか挙げられていないのですが,出生届をどこに出すのかというような文章を読んで,その質問に答えるというタイプのものです。
12ページ下,この中央試験というのは,実施されてからまだ3年ぐらいしかたっていないのですが,1年ぐらいの間に幾つかの問題点が既に解決されています。これは例えば願書を送付してから試験日までの期間が非常に長いということで,現在はネット申請が可能になっています。それから,試験の方法に慣れていない受験者が数多くいたということで,試験方法のビデオですとか問題例がネットで公開されています。具体的に,試験会場に到着してから自分がどのようなことをするのかということが分かるようになっています。
13ページ上,今までのテストの実績を少しだけ紹介します。ただこれは開始直後のものなので,受験者は非常に少ないです。これでは全然足りないです。年間6万人ぐらいの人たちが市民統合プログラムを受けるという話ですので,現在その数値目標に到達するために努力をしているということですけれども,2008年時点ではまだその10分の1にも満たない合格者になっています。
それから,14ページ上,オランダの例から学ぶことで幾つか強調しておきたいのですが,まず一つ目は,大量の受験者に対応しつつ,テストは非常に個別化を図っているということです。仮に6万人受けたとしても,6万人が同じ試験を受けるわけではないということです。それから,実践的な言語能力を身に付けることの大切さというものを,試験そのものにも具体化しているということです。
そして,言語能力を身に付ける目的とテスト内容,プログラム内容を一致させているということ,それから「D.当事者を含めた複眼的視点及び根拠,データに基づく教育内容・到達目標・テスト内容の設定」,「E.達成度に関するデータの蓄積・分析⇒活用」,「F.設定された数値目標到達に向けた取り組み」については,お読みいただいて,御理解いただければと思います。ただ,私たちの今の状況から考えますと,かなり特殊な状況かなと思いますけれども,特に「A.大量受験者への対応と,テストの個別化」,「B.実践的な言語能力を身に付けることの大切さの具現化」の辺りは今後の参考になるかなと思っております。
○西原主査
ありがとうございました。今の御発表に関して,何か御質問がありますでしょうか。制度的に非常に整っているという御発表でした。
○山田委員
追加資料の2ページの年表みたいなものの2007年の上から4行目ぐらいのところ,2007年のその御説明を頂いたところで,市民統合テストができたので,これまでやっていた言語についてのテストは受けなくてもいいことになったと。そういうことをおっしゃいましたか。
○発表者(金田)
受けなくてよくなったのは,市民統合プログラムです。
○山田委員
その市民統合プログラムの中にはオランダ語の試験は入ってないんですか。
○発表者(金田)
永住権の取得に至るような国家レベルの試験というのは入っていません。先ほどのRHQ支援センターのお話のように,プログラムの中に評価のプロセスというのが当然入っていくわけで,半年間でどのレベルになったかという判定はされるわけなのですけれども,それは決して外に証明書として出せるような,国で認めたレベル判定ということではないので…。
○山田委員
その一つは,オランダにもう既に住んでいる人は,いつまでに受けなければいけないのかということと,それからもしこれで不合格になった場合に,どのぐらい再挑戦できる可能性があるのかということと,もう一つは社会参加ということを考えると,かなり二世,三世の人たちの学習言語的な能力というのが問題になるかと思うんですが,そのことについてはこの統合プログラムの中には入っていないのでしょうか。準備してテストを受けるまでに,どのぐらいの時間を猶予してもらえるのでしょうか。
○発表者(金田)
2007年1月1日から今の法律が施行されておりまして,その時点で海外版の基礎テストを受けて入国している人は,3年半以内にこの市民統合テストに合格する必要があります。ただ,難民の場合ですとか,それから海外版のテストというのは,実はどの人も受けなくてはいけないということではなくて,受けなくてはいけない国というのは決まっているのです。そういうテストを受けずに入国した人たちは5年間です。
この期限の中で合格できなかった場合ですが,一応自治体レベルで罰則があるというような書かれ方がされています。ただ,「試験は受かるまでとにかく受けなさい」というように担当の省の人は文書で表しています。受かるまで受ける。ただ,年限内に受からない場合があって,「その場合は罰則がありますよ,当然永住権の申請はできませんよ」と記述されているんですね。
では,罰則は何かということなのですが,実は3年半というのはもうたっているのです。ですが,具体的に罰則がどのように科されたのかということは,私はまだ調べ尽くしていなくて,分からないのです。ただ,期限が来る半年前にまだ合格していなかったら,テスト合格を免除するための申請が可能だとは書いてありました。
○山田委員
その申請を審査する時間というのは,延びている可能性もあるということ…。
○発表者(金田)
はい。あと,二世,三世ですね。この市民統合テストは,二世,三世というのはほとんど対象にはなっていないと思います。要は,オランダ国内で生まれた,あるいは親と共にやってきて,例えば学校に8年以上いたとするならば,社会とのつながりができているだろうという判断です。
○山田委員
それは分かるのですが,逆に,二世,三世としてこの求められる言語能力に達しているかどうかのテストは,このプログラムとは違うのでしょうか。
○発表者(金田)
これは追加資料の13ページ下を御覧いただくといいのですが,1990年代に既に始まっているオランダ語の国家試験というのがあります。むしろそちらの方が役割を果たしているということになります。「オランダ語国家試験(NT2)」,これは第二言語という意味なのですが,「プログラム1」と「プログラム2」というのがありまして,それぞれCEFRでいうとB1,B2のレベルです。B1というのは,要はこの試験を受ける人たちというのは,中等教育のレベルの教育をきちんと受けていない,あるいはそれに達するだけのオランダ語の能力を持っていないという人たちが受ける試験なのですが,プログラム1に合格することによって,職業訓練の学校に行けるようになります。プログラム2の方に合格すると,例えば大学を受験するだけの資格を得ることができるというふうになっていて,これはもう既に1990年代から実施されているんです。それよりももっと手前のものが今までなかったということで,市民統合プログラム,そして市民統合テストというものができたということです。
○西原主査
ありがとうございました。金田先生にはこちらの評価の部分の協力者にもなっていただいていると思いますので,今後とも私たちのプログラムで行う評価のことについても,いろいろ御意見,御指導いただくということになっておりますので,まだ質問のチャンスは与えられているかと思いますけれども,本日のところはこれで終わりとしたいと思います。もしどうしても聞いておきたいということがありましたら,どうぞ。
○発表者(金田)
一つ言い忘れたことがありまして,資料の訂正をお願いしたいのです。
配布資料2「能力評価に関するヒアリング」の27ページ,「資料2−2[1] 能力評価に関するヒアリングシート」なのですが,申し訳ありません,いろいろ調べたらもう法律が変わっていました。「2.能力測定の実施について」の「(3)実施時期及び実施に要する時間」の「[1]教育機関での試験」ですが,「・パフォーマンス評価:随時(1課題30分,3課題もしくは6課題」とありますが,これは「・パフォーマンス評価:随時(1課題30分,2課題もしくは4課題」に減っています。
それから,その下の「・ポートフォリオ評価」ですけれども,これも「15種類あるいは30種類」とあったのですが,「10種類あるいは20種類」です。
○西原主査
なぜ種類が減ったのでしょうか。
○発表者(金田)
減った理由は確認していないのですが,ただ,この実施をしていたときに余りに時間が掛かり過ぎるというのは言われていました。
○西原主査
分かりました。ありがとうございます。じっくり勉強した後で,後ほどまた答えていただくことがあるかと思いますけれども,本日のお二方のヒアリングを終了とさせていただきます。
では,能力測定及び評価についてのヒアリングをこれで終了させていただいて,残りの時間でさらに懸案の課題であるガイドブック及び教材例のことを御議論いただきたいと存じます。
まず,配布資料3「『「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案』活用のためのガイドブック」なのですけれども,今回と1月11日に開かれる予定の日本語教育小委員会でほぼ確定稿としたいということですので,どんなところでも結構でございます。お気付きのことがありましたら,是非この際お出しいただけたらと思います。それこそ切迫度の高い方というようなことがこの間からもありましたけれども,教材はまだ時間的な余裕がありますが,配布資料3「『「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案』活用のためのガイドブック」は1月で確定し,そして印刷に入りという予定が組まれていると思います。
先回の日本語教育小委員会で御指摘がありまして,【キーフレーズ】の部分―例えば21 ページにございますが,そこはなるべく自然な日本語にするようにということでした。この【キーフレーズ】の部分も地域によっては共通語ではない場合も多いかと思いますし,
それからどういう人が隣人だったのかによって,終助詞,副詞等がいろいろ変わると思いましたけれども,こういうような要素を含んだものが返ってくるだろうと,そんなようなことで本日の形に変えております。また,今の段階では,基本的にはこの机上配布資料「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」のように白表紙の様式で出ていくということのようでございます。
○杉戸副主査
配布資料3「『「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案』活用のためのガイドブック」,1ページの下の青い四角の三つ目の項目に「想定している利用者」とあります。今回,2行目の「そのほかにも」以降が書き足されたわけですが,書き足された内容が利用者でないですね,利用場面と言うか…。ですので,「想定している利用者・利用場面」とか,「機会」とかというのを書き足すというのはどうでしょうか。最初の2行は確かに「利用者」,人のことが書いてあるんですが,3行目,4行目辺りは「企画を行う際」とか「活動を行う際」となっています。
○西原主査
いかがでございましょうか。
○山田委員
利用,方法ですか。
○西原主査
「利用者・利用方法」とおっしゃったように思うのですけれども…。
○岩見委員
確認ですが,この後半を加えたのは,コーディネーター的役割というのは一つは市町村の職員ですとか,所属する人のコーディネーター的な役割という人だけではなくて,その地域で現場で企画する人とか,そういうことを想定して書いた文章なのですよね。
○西原主査
そうですね。方法について書いたというよりは,コーディネーターだけではなく,以下のことを行う人にもという含みですが,でも方法というように読まれてしまったのであれば,趣旨としては「企画を行う人,あるいは教室活動を行う方々」というように書きかえた方がよろしいわけでしょうか。考えてみると非常に日本語的な文章ではありましたね。「そのほかにも,各都道府県,市町村において,日本語教育施策や事業の企画を行う方,あるいは教室活動を行う方に利用されることを想定しています」でしょうか。
○伊東委員
今西原主査がおっしゃったよりも,私は「人」がいいと思いました。というのは,1行目から2行目の文が,「果たす人に活用されることを想定しています」。接続詞が「そのほかにも」となると,やっぱり「人」かなと思うのです。そういう意味では日本語教育施策や事業の企画を行う人や教室活動を行う人々に利用したり」とか,そうつなぐといいと思いました。
○西原主査
人は複数の意味で人ですよね。そうすると,そのように変えて,想定している利用者のところは変えない,そのままでという判断だと思いますが,よろしいですか。そちらの方がベター(better)でしょうか。
○西澤委員
「人を想定しています」と限定しないで,最後に「など」を入れておいた方がいいと思います。
○西原主査
限定しない形で,「人などに利用されることを想定しています」。
○尾﨑委員
すぐ上の「内容」というところですが,「生活上の基盤を」という部分について,この「上」は要りますでしょうか。この文を見ると「上」が3か所も出てきます。改めて見ると「生活の基盤」,「生活上の基盤」とあります。
○西原主査
「生活の基盤」でよろしいわけですね。
○中野委員
細かいことですけれども,ページ数のフォント(font)はもっと大きい方がよいと思います。
○西原主査
ページのフォントはもっと大きい方がよろしい,そのような気付きが今の段階でとても大切ですので,どうぞ御遠慮なくおっしゃってください。
○杉戸副主査
13ページの一番上の3行分の説明文の1行目です。「に対する日本語教育では,必要に応じて教室外での,」となっています。最初に気になったのですが,このカンマの使い方はこれでいいのですね。つまり教室の中でも行動・体験中心の活動を積極的にやる,それを基本としつつさらに,「必要に応じて教室の外での」というのをカンマで挟んで追加したという,そういう読み取りになります。私は最初これを読んだときは,「必要に応じて,教室外での行動・体験中心の」と,そうあるべきではないかと思ったのですが,改めて読み直すと,いま前半に言ったような読み取りをすべきかと思いました。
○西原主査
「必要に応じて」の後にカンマが動いた方が,素直かもしれないですね。
○杉戸副主査
言いたいことはそういうことでいいのですね。
○西原主査
そういうことではないかと思いますが,よろしいでしょうか。「教室外での」の後には,すぐ「行動・体験中心の」。
それから,53ページ以降にあるように,「標準的なカリキュラム案で扱う生活上の行為の事例」の英語訳,スペイン語等というのは,とにかくこれが出されるまでには完成したものが付けられるということですけれども,1月11日の日本語教育小委員会に全訳が間に合うかどうかというのは瀬戸際のようで,もしかしたら次回日本語教育小委員会の際には53ページ以下の多言語展開というのが,最終原稿にはなっていないかもしれないということがあるようです。
○中野委員
言語の順番というのは何かあるのでしょうか。
○西原主査
言語の順番,アルファベットじゃないかなと思ったのですけれども…。
○山下日本語教育専門職
今の段階では取りあえずアルファベット順に並べてあります。
○西原主査
英語のE,コリアのK,ポルトガルのP,それからスペイン語のSになっていますが,何か御意見がおありでしょうか。
○中野委員
ちゃんと書いておいた方がいいと思ったものですから…。
○西原主査
そうですね。  では,12月27日まで,あるいは年明け1月4日以降に,何かお気付きのことが加わりましたら,是非事務局の方にお知らせいただいて,1月11日の次回,日本語教育小委員会でほぼ確定稿になるだろうということも御了承いただければと存じます。
では,残りの時間で教材例のコンセプトについての配布資料4「教材例のコンセプトについて」及び配布資料5「教材例のサンプルについて」を見ていただきます。
これにつきまして,日本語教育小委員会ワーキンググループでも議論しました結果,次の配布資料4「教材例のコンセプトについて」の2枚目,A3横長のページがございますが,そこで黄色くマークされている生活上の行為の事例を教材例で取り上げてみたらどうなのかというように議論いたしました。これは日本語教育小委員会ワーキンググループでの議論ですけれども,標準的なカリキュラム案についての中で,項目数を挙げて30単位というのは大体このようなものでしょうと書いているページがあり,ガイドブックの最終ページでもありますけれども,そこに何単位と書いてあるものを―「単位」とは言わないわけですけれども―ほぼ回数と連動させるような形で選んでみたらどうなのであろうかとなりました。そして,「※まとめて一つとする」と言っているようなところについては,単位数として,またそのセクション(section)のタイトルとしては,ほぼカリキュラム案に書いてあるようなものを使うものの,内容的には二つないし三つ以上をまとめて一つのセクション−仮にセクションと呼んでいますけれども−にすると,授業としては1回分になるかもしれないという提案になっております。これもそのような考え方を反映したものでよいのかどうなのかを含めて御検討いただければと存じます。
それから,その前回の日本語教育小委員会でも御覧いただきましたが,配布資料5「教材例のコンセプトについて」のサンプル[1],[2],[3]ですけれども,サンプル[3]が選ばれた理由の一つは,まず活動内容があるとかいうこととは違って,1ページに一つの要素が基本的に入っているので,御利用になる学習者,支援者の方々が,その部分のみをコピーしたり切り離したりするということが可能だからです。教材例のレイアウトがA3見開きですと,コピーする際にはA4に縮小とか,そんなようなことにせざるを得なくなるということであれば,A3見開きというのは使いにくいのではないかというような指摘があり,A4のつながりページということにしたらどうかというようなことがございました。
結果としては,1ページと2ページ目が結果として見開きになっているというようなことはあろうかと思いますけれども,サンプル[2]のように全体的な展望が見開きになるというような構造だと,現場として,実際問題としては使いにくいんじゃないかというようなことがあり,このようなサンプル[3]を基本とする提案になっていると思います。
これも,まずこの見開きA3のリストにある黄色いマーカーのような考え方を進めてよろしいということでございましたら,早速に日本語教育小委員会ワーキンググループ協力者の方々に,例えば,配布資料4「教材例のコンセプトについて」の2枚目では,生活上の行為の事例が4列になっていますけれども,左の列についてシートの作成の検討を始めていただくというようにしたいということだと思います。
まず,このような考え方,つまり机上配布資料「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」の13ページにあったようなものを反映させた形で大体このような―今22事例ぐらいに黄色いマーカーが付いていると思うのですが,項目について教材例を作るということはいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
そういうようなことにさせていただくということで,次にはこの黄色いマーカーの付いたものというのが適当でしょうか。それとも,これはどうかというような御意見がおありでしょうか。
例えば,「Ⅰ 健康・安全に暮らす」のところは,「7単位」と書いてあり,そこから6選んだということになっています。「Ⅱ 住所を確保・維持する」のところは,「2単位」になっていますけれども,実際に選んだのはエネルギーの使い方というようなところを取り上げて,まとめて一つということになっています。日本語教育小委員会ワーキンググループでの話合いは,住居を確保する,これは入国直後にはそういうことがなければいけないわけですけれども,そこのことは実はかなりエージェント(agent)がやってしまうというような,実際に本人がこのことに直接関わってコミュニケーションをしなければならないということにはならないのではないかというようなことを話し合った上であれば,一つ,住居の管理の中のエネルギーの使い方というようなことにしたらいいのではないかという,そのような話合いでこの黄色いマーカーが付けられていったというような経緯がございます。
○尾﨑委員
感想でよろしいですか。限られた時間でこれだけ黄色い部分を作るのもきっと大変だろうなと思ったのですけれども,こうやっていただけたらすごく有り難いです。それから,どれを選ぶかということになると,今,西原主査が事例をおっしゃいましたが,もう一つ思ったのは,「☆」になっているところは,これは基本的には情報提供をするということで,むしろ多言語情報の提供ということになるんだろうと思うのですが,そういったものは比較的教材化しなくていいいものなので,例えば「?消費活動を行う」というところの「05物品購入・サービス」の「02目的によって店舗の種類を使い分けることを知る」と,こういうのはその下とくっ付けられるのだろうかと,そんな感想は持ちました。
○西原主査
例えば左側から行きますと,「まとめて一つ」となっているところの最初,「02安全を守る」というところの「(05)災害に備え,対応する」の「02避難場所・方法を理解する・人に聞く」,「03☆地震について理解する」はまとまっていますね。これはそういう「☆」であるのは,文化的な情報と知っている前提的な知識のあることですけれども,それを利用して教室活動をするというようなことでこの二つがまとまっているわけですね。同じように消費活動も,開始手続ということについては,別途理解された上で,実際にコミュニケーションについて教材例を作るというようなことになっております。御指摘のように,「☆」のところをいろいろと考えてというのは,これからも続いていくであろうかと思います。
多言語情報にいつどこでなるかという,そこのところが教材例としてはかなり悩ましいところで,できれば多言語情報がそろった上で,前提となることが1シートと言うか,半ページあり,それに活動例が付いているというのが理想であろうかと思います。
大雑把に「05 物品購入・サービスを利用する」のところは,前にもこれが何で「4.5単位」なのかということが説明されたと思うのですが,実際にはものを言わなくてもできることが多くあります。そのようなことから,項目数は多いけれども,実際にコミュニケーションを主体的に利用者の方からしなければならないところを選びましょうということで,例えば物品購入で「04 デパート,スーパーマーケット,コンビニ,電器店,書店等で買い物をする」が選ばれていますのは,「05 店内の表示を見たり店員に尋ねたりして欲しいものの場所を探す」から「18 支払いをする(対面販売)」ぐらいまでの間は一連のことでしょうということです。それから,ごみ出しについて選ばれていないのは,これはもう「どこの自治体でもやっている」と言うか,改めて教材化しなくても,既に教材になっている,あるいは教材と言うか,既にいろいろと多言語の情報等があるのではないかということで,あえてそこは選ばなかったこともあったりします。
それから,一つ,参考資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」に関するアンケート(地域日本語教育コーディネーター研修)」というのがあります。そこで一人の方がおっしゃっていることですが,「こんなつまらないことでは学習者は嫌がるだろう」と。「もっと楽しい内容がいいのではないか」ということがあります。例えば,「うちでは愛情表現を取り上げて非常に楽しんでやってもらえた」という御意見です。参考資料2「「生活者としての外国人」に対する日本語教育の標準的なカリキュラム案について」に関するアンケート(地域日本語教育コーディネーター研修)の」1ページ目,「【質問3】カリキュラム案についての御意見・御感想」の上から四つ目,「任意団体」からの御意見というので,確かに生活する上で必要な項目なのですが,ごみ出し,登録,震災など,学習者の多くが好まれない事例が多い。楽しいこと,世界が広まること,先ほどのRHQの御発表の中では自分自身を表現できるとか,そういうようなことがいいというのがあります。例えば,愛情表現は大変喜ばれ,実利的過ぎると喜ばれないと言うので,これにどう対応するのかというのは…。
○伊東委員
案だからいいと思います。
○西原主査
案だからいい,教材例だからいいということでしょうか。
○伊東委員
それはやはりそれぞれで作り出していただければということです。
○西原主査
こういうのを参考にして,それぞれで楽しくしていただければということですね。
○伊東委員
それが全部カリキュラム案の中心になってしまうと…。
○西原主査
楽しければいいで全部やってしまうと,文部科学省の外局の文化庁が「生活者のための…」と言っていることがだんだん薄くなっていきますよね。
いかがでございましょうか。これについては,まだ実は少し時間的な余裕がございますので,引き続き検討を続けるということですけれども,今のような方針で検討を続けていくことに何か御指示がありますでしょうか。今,尾﨑委員がおっしゃったのは,「☆」印も含んだ形でまとめられていくのがいいのではないかという御意見ですよね。
日本語教育小委員会ワーキンググループの中でも,この「☆」をどう活用していくのかということについては,是非教材例の中にそういう項目があった方がいいという意見が出ておりました。
では,もうそろそろ時間でございますので,本日はここまでとさせていただき,また1月11日に次回の日本語教育小委員会がございますので,それまでにお気付きの点は是非お寄せいただくようにお願いいたします。
それから,教材例につきましては,もう少し検討の余裕がございますけれども,徐々に一歩ずつ進めていかなければなりませんので,このことにつきましても次の日本語教育小委員会を待たずに御意見をお寄せいただければと存じます。では,本日はこれで閉会と致します。ありがとうございました。
ページの先頭に移動