電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議(第4回)議事録

日時
平成23年1月28日(金)  10:00〜12:00
場所
文部科学省3階1特別会議室

議事次第

1.開会
 
2.議事
  1. (1)デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方について
  2. (2)その他
3.閉会
 
4.出席者(敬称略)
糸賀雅児,片寄聰,金原優,里中満智子,渋谷達紀,瀬尾太一,田中久徳,常世田良,中村伊知哉,別所直哉,前田哲男,牧野二郎,三田誠広

10:01 開会

【渋谷座長】
おはようございます。定刻を少し過ぎておりますので,これから会議を始めたいと思います。
「電子書籍の利用と流通の円滑化に関する検討会議」第4回でございます。本日は御多忙の中,御出席いただきまして大変ありがとうございました。
議事に入る前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照いたしますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいております。公開ということで,特に御異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【渋谷座長】
どうもありがとうございます。
それでは,本日の議事は公開ということで,傍聴者の方にはそのまま傍聴いただくことになります。
なお,カメラ撮りにつきましては,会議の冒頭までとさせていただきます。これから事務局の方で配付資料の確認をいたしますが,その配付資料の確認までということで御了承願いたいと思います。
それでは,まず事務局から配付資料の確認をお願いいたします。
【鈴木著作権課課長補佐】
それでは,配付資料の確認をさせていただきます。
本日配布しております資料としましては,2点でございます。資料1といたしまして,「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方に関する検討事項(案)」です。そして,資料2といたしまして,第1回から第3回までの意見概要を配布させていただいております。あと,参考資料といたしまして,本検討会議の構成員名簿を配布させていただいております。もし不足等ございましたら,事務局に申し出ていただきたいと思います。
以上でございます。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。よろしゅうございましょうか。
それでは,これから議事に入りますけれども,本日は,議事次第にもありますように,「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方について」御議論を頂くこととしております。それでは,この資料1について事務局から御説明をお願いいたします。
【鈴木著作権課課長補佐】
それでは,資料1の内容につきまして,説明をさせていただきます。
資料1の内容につきましては,第1回以降ヒアリングの内容,各委員の御意見などを踏まえまして,今後のデジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方に関しての検討を進めるに当たって内容を整理させていただいております。
まず,第1といたしまして,基本的な考え方を示させていただいております。
いわゆる3省懇談会の報告の抜粋にもありますように,知の拡大再生産の実現を前提として,更に広く国民が出版物にアクセスできる環境を整備することが重要な課題となっておるということがございます。それを踏まえまして,図書館と民間との適切な役割分担を踏まえた上で,その環境整備を連携して行うことが重要であると考えております。
更に,図書館と民間の役割分担を定めていくに当たりましては,特に国会図書館が行うサービスや,その際に取り扱うこととなる出版物の範囲について検討することが必要であるということが,基本的な考え方としてあると考えております。
続きまして,国会図書館が担うべき役割についてとして,事項を整理させていただいております。
まず,懇談会の報告書要旨にもございますように,国会図書館が保有する知の集積,電子アーカイブを活用することが重要であるということがまず前提の話となってくると考えております。そして,国会図書館が保有する電子アーカイブの活用に当たっては,以下の点について検討が必要ではないかと整理させていただいております。
そして,まず検討事項の1といたしましては,国会図書館から送信サービスについてを挙げております。
まず,国会図書館が行う送信サービスの検討に当たっては,以下の視点に基づいて議論を進めていくことでよいかということで,3点を整理させていただいております。
提供コンテンツに当たっては,納本された紙媒体の出版物に係るデジタルデータを利用すること。2点目といたしましては,送信に当たっては,現状どおりイメージファイルにより提供をすること。3点目といたしましては,送信サービスの実施に当たっては,原則的に権利者の許諾を得ることということで,これらの視点に基づいて議論を進めていくことでよいかというふうに整理させていただいております。
そして,2ページ目に移りまして,送信サービスの対象となる出版物の範囲については,以下の視点に基づいて考えてはどうかという形で整理をさせていただいております。
市場での流通実態などの観点から,対象範囲を限定する必要があると考えられるわけですが,その場合は例えば以下のような視点に基づいて整理を行ってはどうかという形で整理させていただいております。
1点目が,明治,大正,昭和,さらには戦前,戦後期,そして,平成期など,刊行年代による区分。2点目としましては,相当な期間において重版されていないものというような実態。3点目といたしましては,学術分野の出版物など,その種別ごとでの区分。4点目としましては,書籍,雑誌などの出版形態ごとの区分によって整理を行ってはどうかということです。
また,出版物の範囲を考えるに当たりましては,著作権が消滅している作品につきましては,原則的には利用主体を限定することなく,自由な利活用が行われるべきだと考えていますが,その点についてはどうかといった点。そして,著作者が不明の作品の利用に当たっては,裁定制度の活用とともに別途対応策の検討が必要となるかどうかといったことが,付随する論点として挙がってきているかと考えております。
そして,3点目といたしましては,送信範囲や方法については,以下のどのような方法をとるかというポイントがございます。
ここで2点整理しておりますけれども,1つ目といたしましては,国会図書館から各家庭などの端末までの送信を行う。2点目としましては,国会図書館から地域の公立図書館,大学図書館などまでの送信を行うという,この2つの類型が考えられるのではないかということです。それらの配信の範囲を考えるに当たって,更に3点ほど論点を挙げておりますけれども,送信サービスに当たっては,同一の出版物について,所蔵冊数を超える人数の同時利用については認めない,制限をするという考え方についてはどうかという点。更に,受信側においては閲覧のみとして,プリントアウトなどを制限するという考え方についてはどうかという論点。3点目としましては,国会図書館が既に実施している近代デジタルライブラリーとの関係をどう整理するかという,この3つの論点についても検討いただければというふうに考えております。
そして,検討事項の2点目です。国会図書館の蔵書を対象とした検索サービスについてでございます。
この検索サービスにつきましては,利用者の利便性の向上のために,国会図書館の蔵書を用いた本文検索などの検索サービスの導入が必要と考えるが,その点についてはどうかと。そして,検索用のファイルとしましては,テキストファイルを利用することが必要ではないかという形で,この検討事項2の論点を整理させていただいております。
そして,3ページ目を御覧ください。検討事項の3といたしまして,アーカイブデータの民間等への提供についてでございます。
国会図書館の有するデジタルアーカイブにつきまして,民間ビジネスなどへのデジタルアーカイブデータの提供の在り方について,どのように考えるべきか。例えばアーカイブデータの提供の意義,さらには提供体制や方法について検討すべきと考えますが,そこの点についてはどうかということでございます。また,これらを検討するに当たっては,集中管理体制の在り方などについての議論も当然併せて出てくることかと思いますが,権利処理の集中的な管理の在り方については,この検討会議の2点目の議題として挙がっておりますので,具体的な検討につきましては,そのときできればというふうに考えております。
以上の3点が国会図書館の担うべき役割についての検討事項という形で整理をさせていただいております。
そして,最後3番目といたしまして,公立図書館等の役割についてでございます。
公立図書館につきましては,それぞれの公立図書館が整備する電子アーカイブや送信サービスにつきましては,公共図書館などの担うべき役割を踏まえた上で,国会図書館が実施する事業や民間における送信サービスとの調和をもって進めることが必要と考えるがどうかという形で,公立図書館等の役割について整理させていただいております。
以上が資料1の内容の説明でございます。これらにつきまして,御議論をいただければと考えております。
【渋谷座長】
ありがとうございました。
今の御説明からもお分かりになりますように,本日のこの議論の中心点は,この資料1の2の国会図書館が担うべき役割についてというものであります。
そこで,この問題についていろいろ御意見をちょうだいしたいわけですが,その前に,この資料1の全体の構成といいますか,検討事項が幾つも挙がっておりますけれども,その検討事項の全体について御意見とか御質問,おありでしたら,それをまず伺いたいと,こういうふうに考えております。検討事項として,こういうものを更に加えたらよいのではないかと,そのような御意見をちょうだいできればと思いますが,いかがでございましょうか。
【三田構成員】
文藝家協会の三田です。
私はいわゆる3省デジコンにも出席しておりまして,また,国会図書館におけるアーカイブデータの利用についての会議にも長く出席をしております。
以前から言われてきたことでありますけれども,この国会図書館のアーカイブデータを国民が利用するという構想は,非常に大きな理念の下に考えられ,また,実施されてきたものであります。
2年前ぐらいには,まだ予算が少なくて,かなり古いものしかアーカイブされないという状況でありましたけれども,2年前に突然100億以上の予算が投入されまして,1968年までの本がデジタル化されるという状況に現在なっております。これを国民が家庭にいてアクセスできるというのは,世界的にも見ても非常にネットを利用した国民の知のアクセスを保障するという上では,画期的な事業であるというふうに考えます。
これを本1冊丸ごと読んでしまうと,読めるようになるということになりますと,これはもう著作権の切れていないものが大半であるような,そういう時期までのアーカイブが進んでおりますので,これを無償で提供するということに対しては,多くの著作者や出版社が,それは困るというようなことになるであろうということは予想されますけれども,少なくとも画像の文書の裏に解析処理をして,テキスト文書化したものを張りつけて全文検索できるようになっていて,言葉を入れてヒットした本の当該ページ,あるいはその前後がネットで表示されるというぐらいのシステムは,是非実現していただきたいというふうに考えます。
ただ,当該ページ及びその前後2ページぐらい,合わせて5ページぐらい読めるというだけでも,現在の法律では例えばアメリカのような広範囲なフェアユースというような概念がない場合には,著作者の許諾が必要であるということになるだろうと思います。
それで,そういうわずかな利用とか,それから,本1冊丸ごと読んでいただいたとしても,何百円もお金を取るというわけにはいきませんので,補償金という程度のわずかな金額を権利者にお届けするということになるだろうと思います。
膨大な量の書籍でありますので,これがどれほど利用されるかというのは分からないわけですね。著作権の切れていない作品でも,これから何十年か置いておいてもアクセスされるのは1回とか2回とか,それだけかもしれないというような書籍が膨大にあることが予想されます。1回アクセスして100円いただけるとして,二,三回で300円その人にあげるのに,契約書を結んで許諾を出していただくというような手続をするのは,非常に事務処理が大変でありますし,それから,大半の著作権者が行方不明になっているということが考えられます。1人の著作者を見つけるのに,5万や10万はすぐにかかってしまうというのが現状でありますので,これを一人一人の権利者を探し出してきて許諾を求めるというのは,事実上不可能であります。
何らかの形で広範囲な権利処理を担当する大きな機構を設立して,一括して許諾を出すということが必要でありまして,諸外国にある公共貸与権のシステムのように,登録者を広く求め,登録した人には補償金を分配するとして,登録していない人には自分の作品はもう無償でいいよというような意思表示だというぐらいの解釈で,全くアクセスなり登録をしていない人の著作物も,全(すべ)ての国民か利用できるというような環境を整備するということが,冒頭に申し上げました大きな理念を実現するために,是非とも必要なことではないかなというふうに思います。これを通常のこれまでのような許諾を求めるというような考え方でやっておりますと,とても実現不可能なシステムでありますので,前例のないような,非常に大きな権利処理のシステムを作っていくということが必要になるのではないかなというふうに考えます。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
検討事項の全体について,御意見を伺うことにしておりましたけれども,これはこの資料の1のとおりでようございますね。
ただいまの三田構成員の御発言は,もう既に内容に入っておりました。そこで,これから特に先ほど申しましたように,国会図書館が担うべき役割についてという項目ですね,それの具体的な内容についての検討に入っていきたいと思います。
進め方ですけれども,検討事項[1]というのが図書館等からの送信サービスについてというものですね。それから,資料の2ページ目の下の方に検討事項[2]とあって,検索サービスについてと。そして,3ページ目に検討事項3が挙がっておりますけれども,主に問題になるのは,この検討事項の[1]図書館からの送信サービスについてということであろうかと思います。ただいまの三田構成員の御発言も,そういったことに関係するものであったと思います。
順序として,一応検討事項[1]送信サービスについてという問題から御検討願えればと,そういうふうに思っております。
本日,検討する時間は十分ありますので,それを御議論いただいた後,時間があれば先ほど申しました検討事項[2],[3]に進んでいくと。そういう段取りをこちらでは考えておりますので,できるだけそういう進行ぐあいでお進め願えればと思います。
それでは,検討事項[1]送信サービスについて,これについて御意見を賜ればと思います。どなたからでも結構です。お願いいたします。
【田中構成員】
国会図書館が先に発言するのはちょっとあれかもしれないですが,私どもの今の考え方というのを含めて,少し意見を述べさせてください。
今,送信についての切り分けというところで,最初にまず送信の前提となるべき条件というところから入っているんですけれども,私どもとしましては,従来公共サービスとして実現してきたところの範囲から考えまして,国会図書館から公立図書館,大学図書館,いわゆる図書館内での利用というところと,一般の個人の方が直接国会図書館にアクセスして利用するというところは,やはり少しフェーズが違うのかなというふうに考えております。
そういう意味で,基本的に許諾権利があるものについて,許諾ベースで進めるというのはもちろん当然の前提ではあるというふうには思うんですけれども,その中で,図書館の中にとどまって,まずアクセスをある範囲では保障すると。そこが商業的なものや権利者の不利益にならないような形で,全国の図書館という拠点の中にある程度限定されてでも,全国にアクセスできるというところの仕組みの話は,公共サービスの範囲の中でどこまでできるか,どういうやり方ができるかという組立てで一つは考えていけないかということを考えます。
それから,その上に更に全(すべ)ての個人の方がネット上で利用するというところの仕組みというのを,2段階に分けてといいますか,ある意味,公共サービスの中の話と,それを超える可能性がある話ということを少し分けて議論できないものかなというのが基本的な考え方でございます。
そういう意味で,この今[3]のところでパターン1とパターン2ということになっておるんですけれども,これ全(すべ)ての[1]や[2]になっているところも含めまして,このパターン2に言われているところの図書館の中からのアクセスということについて,どのような制約条件をつければ,逆に言いますとそこは立法対応で権利制限をかけても,図書館の中である範囲利用できる,それはプリントアウトは駄目かもしれませんし,同時アウト利用は駄目かもしれませんし,権利者や出版社,版元さんが一定のところでも商業サービスをやっているものについては除くというようなことも当然あると思いますし,そのような組立てでまず考えていけないかなというのが私どもの立場でございます。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
そうしますと,あれですか,パターン1,パターン2と資料にはありますけれども,これは考え方としては順番を逆にした方がという,そういうお考えですね。どうもありがとうございました。
お願いします。
【瀬尾構成員】
今,田中構成員の方からもございましたけども,幾つか最初の全体的なことについて幾つか申し上げたいと思います。
最初,知の拡大再生産というふうに,知という言葉が非常に随所に出てくると。これは知識とか知恵とか,いろいろ情報とか,いろんな意味にとれると思うんですが,比較的ここの中で語られている知というのは,教育を中心とした考え方,とらえ方のような感じがいたします。ただ,現状におきましては,知ということに情報が含まれるとすると,情報にはかなり経済的な側面が伴うのではないかと思います。つまり,知っていることで経済的に得をしたり損をしたりと,そういうふうなことが加わってきているような気がします。
ですので,図書館が教育機関であって,単なる教育の一知を提供するというだけでなくて,図書館で提供する情報というのは,経済的な価値を用い,それによって公平感を損なうようなことがあってはいけないのではないかなというふうに思いますので,その知のもともとの意味として,これまでと同じようなとらえ方でよいのかというのは,ちょっと疑問があります。私としては,やはり情報が経済的な側面を持ち,図書館の提供する知が具体的な生活の教育以外の部分にも大きく影響してくる時代になるから,そういうことを考慮した上で話さなければいけないのかなということをちょっと考えております。これは御提案と私の意見であります。
2つ目は,今おっしゃったように,現状のサービスをデジタル化することによって,例えば国会図書館さんがデジタル化されたことによって,これまでのサービスがストップしてしまうとか,これまでできたことがデジタルによってより不便になってしまうという側面が出るかもしれません。また,便利になる側面が出るかもしれません。現状の国会図書館さんが行っているデジタル化についての対処方法ということと,もう一つはこれ例えば図書館を介してのパターン2になるのかもしれません。ただ,それではなくて,全体的にどうやったらよろしいのかということ,国会図書館さんを中心とした情報システムがあり,出版社さんや著作者や地方公共図書館や,もちろん利用者,それのバランスと全体構成をどのように考えていくのかという全体論と,この2つは分けて考えないと,場当たり的な施策を積み重ねていって,全体が構築できるような問題ではないように思います。ですので,今の田中構成員のおっしゃる現状に対してのものと同時に,全体論をまずお話しいただけたらいいのではないかなと私としては希望するところです。
例えば,これは非常に例えばとしてお話ししてしまうんですけれども,例えば国会図書館さんから一般の方の端末に配信をする。PBになっているものは通常に配信ができる。また,この間に公共図書館さんを挟む可能性があるかもしれない。実際に商業的なものに関しては,1回のダウンロードごとにきちんとお金を取ると。図書館さんが出すのが全(すべ)て無料であるという頭があれば,もちろん駄目でしょうけれども,1回ずつ期限付のダウンロードがあり,それを出版社さん,著作者さんに還元する仕組みがある。そして,そういった集中処理システムがあるというふうな全体像もあり得るでしょうし,その中で料金体系も複数あって,高齢者,又はそういったいろいろな条件の方たちによって,実際にその料金が違っている。そのかわり図書館に行けば無料でそういった情報は図書館の中では見られるとか,簡単にそんなシステムがあったっていいでしょうし,そういう全体的なイメージというのも,最初から何か考えたり,意見をまず募った上で各論に入っていくことの方が,議論立てとしては有意義なのではないかなというふうに思いますので,そういう進行についてちょっと御提案をさせていただきたいと思います。
以上3点申し上げました。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
大事な御提案であったかと思います。
【三田構成員】
国会図書館から全国の公共図書館への送信ということについては,数年前に,現在国会図書館でデジタルアーカイブを進めるに当たって,まず複製権を制限すると,権利制限にするという議論が起こったときに,国会図書館さんの要望としては公衆送信権も権利制限にしてほしいという要望でありました。これに対しては,私は断固として反対の意見を申し述べてまいりまして,結果的に複製権だけを権利制限にするということになりました。
なぜ公衆送信権は駄目かといいますと,簡単に言うと多くの公共図書館,お金が無限にあるわけではありませんので,余り借りられない図書をお金を出して購入するということができないという現状があります。しかしながら,日本の出版文化の非常に良質な部分,純文学であるとか,それから,学術の入門書のようなものですね,そういうものというのは,初版部数が3,000とかそれぐらいの少部数であります。少部数でありますと,値段が3,000円以上するというものにもなってしまうわけでありますけれども,その少部数の本が出版されてきたということが,日本の文芸文化,出版文化を世界に出しても恥ずかしくないような充実したものにしてきたということは事実であります。その3,000部の初版を,全国の公共図書館さんが1,000部とか1,500部とか購入していただけるということによって,その文芸文化,出版文化が支えられてきたということは確かであります。
極端な話なんですけれども,今後国会図書館から全(すべ)ての書籍が地方図書館に配信されるということになりますと,それぞれの図書館は滅多(めった)に借りられないような本は置く必要がない。国会図書館にアクセスすれば送信されるんだということになりますと,そういう発行部数の少ない本が買われないおそれがあるということを申しました。もちろん図書館関係者は絶対にそんなことはないという御意見も伺ってきておりますけれども,しかし,昨今,図書館という概念が非常に大きく変わりまして,地方自治体の中には図書館サービスを民間企業に丸投げするというところが出てきております。それから,図書館の概念が変わりまして,営利目的の図書館というようなものもできております。公共図書館とそれらの図書館との区別というのがつけにくくなっているというのが現状であります。
そういう状況の中で,国会図書館から地方図書館にネット配信という無限にただでできるということにしてしまいますと,蔵書を増やさずに端末だけ増やしていくと。極端に言えば,図書館の建物の中に端末だけがあるというような図書館ができてしまうおそれもなきにしもあらずだというふうに考えております。
現状でも,地方の公共図書館にない本がありましたら,ユーザーの求めに応じて図書館は国会図書館から郵送で本を取り寄せるというサービスが実施されております。これは国会図書館側が郵送するわけでありますけれども,ユーザーがそれを読み終えた後は,きっちりと包装して国会図書館に返却をするということがやられておりますが,返却については,書留か何かで送るんだろうと思います。一定のお金をかけて地方図書館が国会図書館の本を借り受けるということは実際に行われておりますので,ユーザーが地方図書館に行って,国会図書館のデータにアクセスするというのはもちろん無料で提供されなければならないんですけれども,地方図書館がそのサービスを受けるために,一定の利用料金を払うということについて,これは地方の図書館もそれほど大きな抵抗はないのではないかなというふうに考えられます。
したがって,地方の公共図書館であるからといって,例えば無償のサービスを受けるというような考え方には私は反対であります。
ただし,大学図書館のように教育に関するものについては,これはまた考え方が違います。その点について,どこで区分けをするのかということに関して,私は大学図書館のようなもののところまでボーダーとして,一般の図書館というものについては,有料配信を検討すべきではないかなというふうに考えます。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
先ほどの瀬尾構成員の御発言,その全体的構成論ですね,それをまず論じてからがよいのではないかという御趣旨の御発言あったのですけれども,今の三田構成員の御発言もそれに続くものというふうに理解できるように思いました。どうもありがとうございました。
ほかにどなたか。
【常世田構成員】
国会図書館と全国の公立図書館との関係の議論がされておりますので,これについて一言お話をしたいと思います。
三田委員がおっしゃったように,従来も国会図書館から非常に,これはほとんど品切れ,絶版になっているものであります。通常手に入らないものがほとんどでありますが,それを全国の公立図書館が借り受けて利用者に提供するという制度が何十年も行われていたという既成事実があります。これは,重要なポイントは,各公立図書館から貸出しができないということでありまして,地元の図書館に市民が出かけていって,その図書館の内部で閲覧をするというところまでしか許されておりません。しかも,個々の公立図書館が国会図書館から,今のところ同時に借りられる冊数というのは10冊という制限,かなり厳しい制限が課せられております。
三田委員がおっしゃいましたように,返すときには基本的には書留で国会図書館に返却をするという,その送料がかかっているということは事実ございます。
しかし,その国会図書館から借りられる本というのは,何年に一度,あるいはほとんどの場合恐らく十何年,何十年に一度というような頻度であろうと思います。ですから,その貸出しの頻度そのものが経済的損失を発生させるというレベルではとてもないというような利用頻度だろうと思います。
このぐらいの利用状況に関しては,これが当然国民の知る権利,あるいは図書館というのも先ほど瀬尾委員がおっしゃったように教育機関でありますので,あくまでも教育的な事業として行われているものでありますので,当然これはデジタル化されても担保されるべきものであろうというふうに思っております。
1回について10冊が妥当であるのかどうか,それから,従来書留で返信していたぐらいの費用負担をする,その辺の決め方とかどうかということは検討すべき事項であると思いますけれども,従来ぐらいのレベルの国会図書館からの提供は当然,権利制限の下に行われるべきであって,三田委員がおっしゃいましたけれども,公立図書館の場合は大学図書館に比べて教育的な活動はないというような御意見に聞こえたんですけれども,公立図書館も教育機関であります。また,教育の範囲というのは今,大変広く考えられるようになっておりますので,この程度のものについては当然担保されるべきであるというふうに思っております。
【渋谷座長】
よろしゅうございますか。どうもありがとうございました。
【金原構成員】
書籍協会の金原でございます。
幾つか申し上げたいことがありますが,まず大前提として,今日ここでの検討は国会図書館からの配信ということを考えた場合にということを考えているわけですが,国会図書館の蔵書というものは,納本制度によって著作者,出版社がその法制度の中である意味では協力をして納本しているわけです。したがって,それを利用してということであるならば,その配信は当然一定の制限があってしかるべきでありますし,先ほどのお話もありましたが,有償も含めて検討すべきではないかなと思います。
ここに幾つかの検討項目がありますが,ここに有償とするか無償とするかという概念は,ここにも少なくとも印刷はされていないんですが,そのような検討も必要なのではないかなというふうに思います。
それから,今の国会図書館のこういう趣旨から考えると,1ページの下のあたりから2ページの頭の方にかけての[1],[2]の制限ですね,一定の範囲までということについては当然のことであると思いますし,また,公共図書館との関連でいうと,公共図書館に何でも配信できるということになると,公共図書館でやはり購入というか,公共図書館への販売のチャンスを失うことにもなりかねないと思います。出版物の中には,公共図書館への販売がメインの市場であるという,そういう出版物もあるわけでありまして,そういうところの購買が抑制されないようなことで考えていただきたいと。これは先ほど三田委員も発言されましたけれども,全く同感であります。
それから,もう一つ重要なことは,民間の出版社,我々出版社も,それから,著作者も一定範囲で配信というものを現在行っておりますので,それとの関係を十分考えていただきたいと思います。民間の活力が全(すべ)ての経済を活性化させるということは,これまでの過去の歴史が証明しておりますし,民間の出版社が果たす役割というものも知の流通,あるいは再生産にこれまで貢献してきたわけですので,民間の出版社が配信しているものについて,それの障害にならないような形,ということは,この[1],[2]のあたりの条件をかなり検討した上で設定するということになるんだろうと思いますが,そのようなことを是非考えていきたいというふうに思います。
それから,もう一つだけ,どこかにテキストデータ,2ページの最後のところですが,テキストファイルの問題がありますが,テキストファイルで検索をするということになりますと,一定範囲,やはりスニペット表示のようなことを考えないと,利用者はせっかく検索しても,それを利用してみよう,あるいは買ってみようということになかなかつながらないのかなというふうに思いますので,そういう検討も必要ではないかなというふうに思います。
それから,すみません,もう一つ最後に,2ページの頭のところに[2]のところの分類がありますが,どこまで配信するのかということについて,ここに例えば出版されてすぐもう配信してもいいようなもの,例えば地方自治体が発行したものであるとか,あるいは公共機関が,著作権はあるんでしょうけども,誰(だれ)でもすぐに利用していいというような性格のものも納本されているのではないかと思います。
そのようなものについては,配信することに何の障害もないのではないかなと。断言はできませんけども,そのような検討事項もここに項目として必要なんではないかなというふうに思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【常世田構成員】
三田委員と金原委員の御意見,もっともだというふうに思います。
ただ,繰り返しになりますけれども,これまで国会図書館法という国の法律の下に,一定程度全国の公立図書館に国会図書館の所蔵物が提供されていたということに関しては,そのレベルを下げるということに関しては,行政事務のレベルのダウンということになってしまいますので,これはこれで非常に大きな問題になるでしょうし,全国の公立図書館や,あるいは市民,国民からして,従来より不便になるということについては,かなりの抵抗感があるだろうというふうに思います。
従来より不便になった場合にどうなるかといいますと,それは従来の法律に基づいて国会図書館のいわゆる紙ベースの従来の現物資料そのものを,従来のまま郵便でやりとりするということを実施するようにという圧力が当然発生するわけでありまして,貴重な国民の財産である現物の資料そのものが従来どおりに流通するということで,その保存についての問題がやはり想起されてきてしまうというわけで,今回も現物の資料を保存するという大きな国会図書館のアーカイブの目的であったと思いますけれども,その辺の矛盾も生まれてきてしまうということで,従来ぐらいのレベルでの利用頻度,つまり経済的損失が発生されないような形での,例えば一つのコンテンツについては同時に使えるのも一つの公立図書館だけであるというようなDRMをかぶせて,従来程度の提供というものが担保されるべきではないかというふうに思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【里中構成員】
すみません,ちょっと全体の方に戻っちゃって申し訳ないんですけれども,今いろいろと話し合われていることというのは,いかにどちらがどこまで妥協するかみたいな,何かそういう感じになっていると,本当はまずいんじゃないかなと思っております。
大げさな言い方をしますと,この世に書籍というものが生まれて,初期の段階は手で写していた写本の時代が長く続いたわけですよね。ところが,印刷っていう技術が生まれて大いに変わってきたと思いますし,その上,流通というシステムが定着してまた大きく変わったと。実はデジタル化というのは,それぐらい大きな出来事だととらえております。
これまで,流通に載せて本を売るという,そういう形で著者も版元もいろんな形で成り立ってきたわけです。そこに図書館というものができて,図書館の持つ性格というのは,これは公共的なものであるというスタートの理念により,ただで見せると。これが公共的な文化サービスであるということで定着してきた。ここから版元,あるいは著者と図書館との間で,たくさんの人が読む本も定価どおりでいいのかという,何か非常にちょっと次元の低い話かもしれませんけれども,何となくその辺のせめぎ合いがずっと続いてきたと思うんですね。
このデジタル化というのは,実は大変すばらしいのは,世界のどこにいても同じように知的環境に身を委(ゆだ)ねることができると。望めば,図書館まで動いていけない方でも,どんな僻地(へきち)の方でも,近くに本屋がなくてもその書籍の中身に接することができることが可能になったということは,実にすばらしいことなんですね。だから,本音を言えば,みんなどこにいても本の中身が読めるような,そういう時代が来ればいいし,できるんだということは分かっている。
ただ,そこに横たわっているのがそれに伴う経済的見返りですよね。版元にしましても,著者にしましても,本が本という形で売れれば売れるほど,利益につながります。出版社というのは,先ほど来お話が出てきた,余り売れない学術書とか専門書とか,そういうのは赤字を抱えながらでも出してきました。それは,売れる本があれば,その黒字でそっちへ補てんできるからと。
例えば私たちの業界がずっと言われてきたのは,出版社の方からお話を頂くのは,漫画が売れれば売れるほど,漫画を出している出版社はその分は潤うんだけれども,その分,おかげさまで学術書が出せると。余りたくさん売れないし,赤字覚悟の美術書が出せると。それはとてもいい総合出版社としての意味ですね,それが実現できるわけだから,大変すばらしいと。そういうことを聞くと,私たちもすごくうれしかったんですね。私たちだって,参考資料,その他勉強のために余り売れていない本というと失礼な言い方なんですが,恐らくはよほどの人でないと,よほど必要な方でないと買わないだろうなという本を手にとることあります。こういう本がずっと出続けることが国の知的レベルを維持することに大事だということも分かっておりますから,自分たちにその潤った分を全部戻せなんてことは言いませんでした。どうか是非こういう本を出し続けてほしいと,そういう気持ちはみんなあると思うんですね。
図書館がデジタルでサービスできるとなると,これ実にすばらしいんです。ただ,これまでどおりの紙の本でやりとりしていた時代と同じような図書館の在り方という,その続きで考えてしまうと,そこにはどうしても警戒心が生まれてしまう。理屈で言えば,たった1冊本があれば,日本国じゅう,世界じゅうどこででもその内容に接することができるとなると,版元とか著者の人生はどうなるのかと。経営はどうなるのかと思ってしまいます。ですから,デジタル時代においては,図書館のサービスというのも基本的に有料でいいのだと,ある意味開き直れば,かなりの問題が解決するのではないかなと,一般市民としては想像しております。
ただ,国立国会図書館が国立である以上,税金で運営している。税金で運営しているところが国民にサービスを還元するときに,お金を取っていいものだろうかという,そういうジレンマはあると思うんですね。ですから,それは立場として非常に苦しいものがあるということも,想像にかたくないです。だから,この辺を整理することで,デジタル時代はこれまでの常識と違う,受益者負担を求めて当然なんだということをみんなが認めると,もう少しスムーズに話ができるんじゃないかなと感じました。
何か感想みたいで申し訳ないですけど,以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【糸賀構成員】
糸賀ですけれども,この話の結局発端は,2009年5月に国会図書館が補正予算で127億ですか,そのデジタル化が認められたと。それから,それと相前後して2009年の同じ年の6月に著作権法が改正されて,国会図書館だけですけれども,特例としてデジタル化が無許諾で複製が認められたということだと思います。
実はこの前の年,2008年にアメリカでグーグルのデジタル化への和解案が提示され,それに対して各国,日本も含めた和解案の告知というのがなされたわけですよね。このあたりがきっかけになって,デジタル化されたものの図書館での利用ということが話題に上ってきたんだろうと思います。
日本の場合には,私,決定的に違うのは,アメリカのようにグーグルという1民間企業にやらせるんではなくて,そのことへの民間がやることへの危惧(きぐ)があって,じゃ,これは国がやりましょうという政策決定をしたんだろうと思います。だからこそ,補正予算が膨大な金額がつけられたし,それに伴って著作権法の改正ということも行われたんだろうと思います。
しかしながら,書籍というものが文化財であると同時に経済的な財であって,いわば商品なんですよね。商品であるから,これをお金を出して買う一定の購買層がいるから,その民間市場は成り立つという理屈は,私もよく理解します。ですが,ここに国が介入するという方針を決めたわけだから,その介入の仕方は極めて抑制的であるべきだろうと思います。
一方で,十分市場が成り立っているところに公共セクターが介入することで,その流通を阻害してはいけないんだと思います。ですから,図書館が介入するのは,いわば民間の市場が成り立ちにくいところで,これが公共セクターが介入することは正当化されるだろうと思います。
これは,具体的には今日の話で言いますと,どういうものを国会図書館から送信可能にするかというと,一つは絶版になっていたり,品切れ,当面市場でお金を出しても買いにくいもの,それから,ここにもありますように,明治期,大正期,昭和期,こういったものは当然なかなか市場では流通していない。しかも,そういったものを必要とする方たちが全国にいる。これはいわゆるロングテールの本当にすその長い部分で,決して1年当たりの需要は多くはないけれども,継続して求められているような書籍なんだろうと思います。
こういったものを国会図書館がデジタル化をして,広く国民がどこに住んでいても,更に言えば時間を問わず,場所を問わず,そしていろいろな障害を持った方々もいるわけで,そういう人たちもこのデジタル化の恩恵に浴することができるわけですね。必ずしも視覚障害を持った方が,今まで読みにくかったようなもの,あるいはほかのハンディキャップを負った方々であっても,こういったものにアクセスしやすくなる。そういう意味では,これを促進するということは,私は必要だろうと思います。
そのときに,大事なことはやっぱりある程度これスピードなんですね。2009年にこういうことをやって,今2011年,なかなかこういう議論が前に進まない。特に私は整理としては集中処理機構のようなものの必要性は認めるんですが,でも,これもかなりの時間が費やされそうだと。だとしたら,極めて抑制的な範囲でできることをまずやっていって,国民がまずアクセスできるような環境を整えていくということが必要だろうと思います。
そういう意味では,先ほど田中構成員からもありましたように,私もパターン1とパターン2,この送信範囲や方法ですね。まずは全国の図書館でアクセスできるような環境を整える方を急いだ方がいいだろうと思います。そのときに,余りにも読者や利用者の利便性を高めると,これは民間の市場をある程度阻害することになるから,それを阻害しない範囲でのアクセスということを抑制的に,制限的に考えていく。でも,アクセシビリティそのものは高めておくということで,そのバランスは図られるんだろうと思います。
一方で,確かにこれ,先ほど金原委員も言われたように,私も購買意欲をそいではいけないと思うんですよね。ですが,逆に全国の方々がその本の中身を見ると,私はむしろ購買意欲はそそられるんだろうと思います。
これはせんだってグーグルジャパンの方に聞きましたら,グーグルで例えばブックサーチで公開しているものも,見せる本の範囲を広げれば広げた方が,その本はよく売れるというんですよね。つまり,本の中身が分かって,これは手元に置いておきたい,あるいは書き込みをしたい,プリントアウトして持ち歩けるようにしたいといったものは買うわけですよ。これは私は個人が買うんでも結構だし,図書館が閲覧できたときに,その図書館自体が,じゃ,これはやっぱりうちの図書館に必要だと。一々国会図書館にアクセスしたときには,ほかの利用者がいるとアクセスできないというのが今の提案ですよね。同時アクセスを制限されちゃうわけですから。これでは使い勝手が悪いというものに対しては,ちゃんと購入する機会を増やすような,購買意欲を高めるような仕掛けというのは,当然コンピューター上でできるわけです。そういう仕組みを同時に考えていく必要があるだろうとは思います。
それから,最前から再三から話になっている有償,無償ですね。必要な情報に対しては,私も一定の対価を払うというのは分かります。前々回の会議でも申し上げましたけれども,もう一つの考え方は時間を払うんですよ。お金を払うだけではなくて,一定の時間をおいて,つまりこれも国会図書館がデジタル化したものというのは,もうかなり時間も経過しております。新刊のデジタル書籍を直ちに国会図書館が配信するということは,これは恐らく考えていないでしょうし,全国の図書館関係者もそれを求めているわけではないと思います。やはり相当期間おいて,絶版,品切れ,市場では手に入らない,あるいはもっと前の時代に発行されたもので,なかなか古書市場でも出回らない,こういったもののデジタル化は速やかに私はやっていくべきだろうと。
そのために必要であれば,私は一々許諾をとるというのも,先ほど三田委員自身がおっしゃったように,これなかなか手続が煩雑です。非常に時間がかかるし,うっかりすると,そのコストの方が高くついてしまう。そうであれば,私は権利制限をしていただいて,そのかわり利用者の利便性については,極力最低限に抑えておくということで権利制限をした上で,国会図書館からは市場に出回っていないようなコンテンツに関しては速やかに配信する仕組みを作っていかないと,諸外国での書籍の流通に間に合わない。いわば国際競争力がもう太刀打ちできないような状況になっていくということを大変危惧(きぐ)します。そのための仕掛けを2009年にやったわけですから,これは速やかに最低限のアクセスが国民の間にできるような方向で考えていく。そのときには当然権利者への一定の配慮をした上での合意というものを速やかに形成していくべきだろうと思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【前田構成員】
検討事項[1]のウのところで,原則的に権利者の許諾を得ることというのが挙げられているのですけれども,権利者の許諾を得るのであれば,どういう対応であろうと構わないと思うのです。むしろ権利者の許諾を得なくてもできる場合があるとすれば,それはどういう場合かということを議論するのが効率的なのではないかと思います。
その観点からしますと,今お話が出ておりました絶版その他の理由によって一般に入手することが困難な図書館資料を,他(ほか)の図書館の求めに応じて複製物によって提供することは,現行法の下でも31条1項3号で認められているわけでありますけれども,現行法で認められているのは,複製物を提供する場合に限られていて,これを他(ほか)の図書館に送信して提供することは認められていないということになると思うのですけれども,これについては,権利制限をして,権利者の許諾を得ることなく送信により提供するということにしてもいいのではないかと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。具体的な御提案でございました。
【三田構成員】
こういう絶版になったものは,もう商業利用がされないから,権利制限にしてもいいのではないかという議論が出そうというか,今出つつあるわけでありますけれども,今,時代は全く変わっておりまして,全く絶版になっているものでも,業者さんに100円払えばデジタルファイルにすることができます。最近そうやって100円でデジタル化したものを,アップルのアップストアに,これは一般のユーザーが出してしまって,大問題になっておりますけれども,もしも著作者が自分で100円払って自分の本をデジタル化して,アップルなりグーグルなりにアップしておくということは,今すぐにでもできることであります。したがって,長く絶版になっているからといって,全くそれが商業利用されないということは,今では全くなくなってしまいました。ですから,絶版しているからいいんだというような区分けは,これからはできないだろうというふうに思っております。
しかしながら,著作者自身がやるにしろ,出版社がやるにしろ,しっかりとしたデジタル画像をそろえるということには手間がかかります。そんなことよりも,国会図書館さんに既にあるデジタルデータを,例えば100円でも200円でもお金を頂いて送信するということであれば,それに賛成する著作者は多いのではないかなというふうに思いますし,出版社に対しても何らかのインセンティブを与えるということであれば,大きな反対は起こらないのではないかなと。わずかなお金を皆さんに提供することで,全(すべ)てがうまく流れていくのではないかなというふうに思います。
先ほど来,アクセス数を制限するというような話も出ておりますけれども,せっかく利用者が地方の公共図書館に行ってアクセスしようと思ったら,ほかの図書館が借りているのでできませんということになるよりも,その図書館さんが50円でも100円でも払うことにして,幾らでも同時アクセスをしてもいいんだというふうにした方がはるかに便利だろうと思います。
私はアクセスを制限して不便にするよりも,国民全(すべ)てが便利に利用できるということが,これからの文芸文化,出版文化の支えになるだろうと思いますし,それに対して全く無償であるというと困るわけでありますけれども,非常にわずかなお金でも便利になって,多くの人がどんどん利用するということになれば,著作権者に対して一定のお金を配分することができるようになるわけでありますから,ただで利用してやろうということではなくて,5円でも10円でもいいから払うと。
特に申し上げたいのは,ヨーロッパの先進諸国では紙の本を図書館から借りるということに対しても,国が補償金を払っております。図書館は有償であるというのが世界標準の常識になっているということを御理解いただきたいと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
確かに図書館が……それでは,常世田さん。
【常世田構成員】
少し整理する必要があるんではないかなというふうに思います。国会図書館にあるものがアーカイブ化されて,国民の一人一人に直接提供されるというのは,これは全く新しいビジネスモデルだということで,別に考える必要があるだろうと思います。それから,全国の公立図書館が新しく出版される電子的なコンテンツを購入して,利用者に提供すると。これも新しいビジネスモデルですから,恐らく許諾ベース,契約ベースでやるということになりますので,これは別にしたいと思います。
先ほどからお話ししているのは,従来の国会図書館から公共図書館に提供されて,市民はその図書館まで出かけていって閲覧をしていたという範囲,これくらいのレベルについては,従来の手間とコストの範囲で担保されなければ,行政的なサービスのダウンにつながるのではないかなというお話をしているので,限定的なところについては従来ぐらいのもので国民が全部担保されるということが必要だということなので,その辺整理する必要があるだろうと。
それから,出版界が国会図書館の資料を全部デジタル化して,そのコストを出版界がお持ちになった,あるいは出版社がお持ちになったということであれば,それは商業ベースで存分に御商売されればいいと思うんですが,ともかく127億以上の巨費を,税金をかけてデジタル化したということでありますので,これはやはり税金を使ったということで国民が利用しやすくなるということは,ある程度考えるべきだろうというふうに思います。
それから,図書館が資料を提供することによって,あたかも経済的な損失が発生しているような議論があるんですが,実は不思議なことに図書館で大量に本を貸している自治体の本屋さんというものは,同規模自治体の本屋さんよりも売上げが多いというような数字がたくさん出ております。つまり図書館で本を貸して,図書館でいろんな本を読むことによって,購買意欲が刺激されて,そして本が売れるというような事実があるわけで,これは先ほど糸賀委員がおっしゃったようにデジタル化されても,様々な情報が提供されることによって購買意欲が刺激されるということが起こってくるんではないかなというふうに思います。ですから,一般的なイメージと全く逆だということであります。その辺を是非御検討いただきたいというふうに思います。
それから,ヨーロッパで図書館の本を貸すことによって補償金が支払われていると三田委員おっしゃいましたけれども,三田委員も御存じだと思いますけれども,100%経済的な損失に対しての補償という考え方でこのコストを負担している国は少なかったはずです。むしろ報奨,御褒美,つまり文化的なことに対して作家の人たちが様々な活動をしていることに対する報奨という意味が多いと。そういう国の方が多かったと思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【片寄構成員】
今の常世田さんのお話で,図書館活動を活発にしている地域の本屋さんの売上げが,他地域に比べて売上げが高いという御指摘なんですが,私の方に上がっている情報では,そちらの図書館がその地域の書店さんから本を購入しているから高くなっているのも一つの要因としてあるんじゃないかと。本を貸していることによって,買いたいという衝動で本を買っているという側面とプラスしてあるんじゃないかというふうに言われているので,それをちょっと補足しておきたいというふうに思います。
それと,やはり糸賀委員が言ったように,私もやっぱり今,市場に出回っている多くの本をまず優先的にやるべきではなくて,段階的にやっていくことが必要なんではないかなというふうに思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【常世田構成員】
確かにかなり図書館活動活発な自治体の図書費というのは,そこそこの額がある自治体もあるわけでありますが,御存じのように現状では地元の本屋さんから買う図書館というのは減っております。専用の企業から直接買うというようなパターンも多い。それから,例えば浦安,私がいたまちでは,もともとの地元の本屋さんは書店協同組合というのを作っていて,そこに確かに資料費が落ちておりますけれども,それ以外の大型のチェーン店が3つも4つも図書館が活動を始めてから開店して,つぶれているところがないというような状況を見ると,そういうチェーン店には図書費は落ちておりませんので,やっぱり総合的に売上げは上がっているというふうに考えていいんではないかなというふうに思っています。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
はい,お願いします。
【瀬尾構成員】
今まで皆さんの御意見を伺っていて,まず一つ言えることは,全体論を考えるということが非常に重要だということを最初に申し上げました。それは必要なんですが,今の電子化の中で,全(すべ)てのレイヤーのプレーヤーが変わるべきなんだろうと思います。出版も著作者も図書館も利用者も,変わらざるを得ない時期が来る。それがかなり早く来るんじゃないかと思います。
それを考えると,今の議論の中で,この議論を詰めて全体論を出して,しかも国が全(すべ)て取りかかるとすると,限定的にならざるを得ないというのは,多分さっき糸賀構成員がおっしゃったのは,これは結論だと思います。今の状況でいくと。ということは,長く議論をして,全体に取り組もうということを4年も5年もかけているということは,やはり難しいんだろうと思います。ただ,ここは検討会ですから,全体を見つめて論としてどれが望ましいかは出すべきであろうと思いますけれども,それを元にしつつ,やはり限定的に早い段階での実施,それは現在への対応かもしれません。地方図書館と国会図書館との関係の問題を修復するだけかもしれませんが,それを作っておく。それがインフラの第一歩になって,本当に電子化が来て,書籍が世界の流れとして変わってきたときには,多分今お話ししている議論というのの大部分は流れてしまうような話であるかもしれない。つまり現実の方が強くなって,収益を今までのように取れなくなることが出てくるのかもしれないし,いろいろそういう現実が出てくると,意外と大したことないかもしれないし。ただ,そういう現実に合わせて今の言った利害は調節されていくべきであろうし,その中で変わらざるを得ない状況で全(すべ)てのプレーヤーが変わっていくんだろうというふうな感じがいたしました。
つまり,全体論という一つの構成を議論されるということを望みますし,それと同時に,国会図書館から地方図書館へ,これまでのサービスを維持するためにどんなシステムができるのか,今の段階でどういうシステムが構築できて,どういう問題があるのかを考えて,それを少なくとも早期に実現するような話で議論を持っていけば,多分この検討会の実効が上がるのではないかなというふうに思います。はっきりこれは常世田構成員も先ほどお話しされたように,レイヤーと切り離さないと何かちょっと,いつまでやっても難しいのかなという気がいたしましたので,ちょっと最初の御提案と矛盾するようですが,今のような御提案をさせていただきたいというふうに思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【糸賀構成員】
今,何人かの方の発言に私も触発されて申し上げますけれども,今も言われるように,結局これまずは優先順位がどこが高いのかということを考えていくべきだろうと思いますね。それから,私はこれはもうアメリカだけじゃなくて,アジアの諸国もそうです,特に韓国,中国あたりですよね。そういうデジタル化を進めて,それを広く国民に使ってもらうという,こういう環境を整備しようとしております。
私はできるところから,もうどんどん私は流していって,配信していって,国民が使えるようにするべきだろうと思います。そのときに,先ほど前田委員が言われたように,私も許諾を得るということが必要なんですが,逆に考えれば,許諾がなくてもどこまでできるのか,無許諾でどこまでできるのかということを考えて,まずそこをやっていくべきだろうというふうに思います。
一方で,そういう配信を希望しない方々に対しては,これは継続して協議をする。それはお金を一定程度プールして,それを著作者や,場合によっては出版社にも配るというか,配分するというような仕組みというのは当然考えられますが,一方で学術出版でありますとか,著者の中にも別に私は経済的権利を求めないと。多くの人たちに読んでもらえて,それを使っていろんなことを国民が知的再生産につながるんであれば歓迎するという方も間違いなく一方でいるんですよね。この方たちの善意が今のままでは生かされないんですよ。私はその方たちの善意をまず生かすことを考えていくという提案をしたいと思います。
そういう意味では,今,片寄委員からもありましたように,私も今,市場で出回っているものは,これはやっぱりなかなか図書館で無料で配布するのはこれは難しいと思いますし,現に図書館自体もそんなことは考えていません。やっぱり自分たちは提供したいんだけれども,これが買えない,あるいは手に入らない,それが国会にデジタル化されている。そうであれば,それは極めて安いコストで北海道であれ,沖縄であれ配信できるんであれば,それは私は送信していくべきだろうと思います。そのときに,利用形態は限定的という意味で,今日提案されているような同時アクセスは制限する。それから,プリントアウトもできない。
ただし,やっぱり私はそこは,そこまで限定したんであれば,やはりお金を取るということは必要ないと思います。お金を取るための,実は徴収事務というのもかなりかかるんですね。先ほど来,例えば50円でもいい,100円でもいいという話がありますが,そのお金を取るための徴収コストというのはもっと高くなってしまうと思います。私は極めて限定的な利用の範囲で,無償で提供されていくべきだろうと思います。
それから,先ほど重版が直ちにできるという御指摘が三田委員からございました。現状では確かにそうなっております。私,そういうことをやってくれる著者の方はいいんですよ。私のものはどうぞ読んでほしいから,すぐにデジタル化できるから。問題はそういうことにも気がつかない。でも,自分の知らないところで自分の著作を読もうと思っている人たちが実はたくさんいるということを日本の図書館は実践で示しているわけですよ。そういう方たちのニーズにこたえるためにも,早く提供するために,まずは無許諾でできる範囲を決めていく,そこを国会図書館から流していくという方向で考えていくべきだろうと思います。
それから,今までの議論にも出ていないんですが,もう1点最後につけ加えますが,そのためには,実は図書館そのものに全国民がアクセスできないと,これ意味ないんですよ。図書館が,皆さんどこにでもあって,日本に住んでいる人はすぐに図書館に行けるとお考えかもしれませんが,まだ図書館が設置されていない自治体があります。町村部でいいますと,まだ4割ぐらいの自治体には,実は公立図書館がないんですね。これは市町村合併が進んだんで,見かけの数字ではかなり図書館の設置率が高くなっているんですけれども,実際には図書館にアクセスできない。そもそもそういう国民がまだまだいます。ですから,こういう提案をする一方で,国としてはやはり図書館の設置を促し,まずは国民が全(すべ)て身近な図書館にアクセスできる。その図書館に行けば,たくさんの知の財産にアクセスできるというような方向で考えていくべきだろうと思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【里中構成員】
何かいつまでたっても進まないような気がするんですけれども,私が単純過ぎるのかもしれませんが,そもそも書籍とは何ぞやというのが,本の形にとらわれ過ぎているんじゃないかなと思うんですよ。要するに,人々は本を買うときというのは,その本という物体を買うつもりでいながら,実は中身の情報を買っているわけですよね。これが売れれば売れるほど,売上げは伸びるし,著者も版元も喜ぶということで来たわけなんですけれども,中身の情報こそが書籍だということを考えれば,デジタルであったとしても,これを多くの人に読まれれば読まれるほど本来喜ばなければいけないわけですよ。それはお金要る要らないに関(かか)わらず,自分の書いたものに多くの人が賛同してくれたり,共感してくれたり,感動してくれると,それは著者としてはうれしいです。そして,版元としては,デジタルという形であろうと,書籍,本という物体であろうと,自分のところで編集したものが読んでもらえればもらえるほど,それが売上げにつながれば,何の不安も文句もないと思うんですよね。
ところが,図書館では従来,ただで住民に閲覧サービスをしてきたという前提で考えるから,いろんなことがぎくしゃくするんじゃないかなと単純に思いました。ですから,デジタル時代なんですから,本当に読んでくださった方から少しずつ徴収するということさえクリアできれば,かなり住民全員にとっても知的環境は上がるんじゃないかなと思います。
その徴収の仕方なんですけれども,一々一々1件当たり幾らって取るというと,それは手間を考えますと,かえって赤字になってしまうと思うんですけれども,一般のネットサービスでやっているような通信料がかかるというものってありますよね。あれで自動的に何かそっちへ入ってきて,後からそれを配分するなり何なり,その仕組みができれば手間はそうかからないんじゃないかなと思ったりもしました。
あと,図書館があるところでは本が売れるという話でしたが,少ない事例では何とも言えない。アメリカの場合は,それはグーグルを見て本を買う人はいるかもしれませんが,日本の場合,特に若い人たち向けの本の場合,なぜ本を買わないのかといって,返ってくる答えが,家が狭いからと。置いておけないから,引っ越しの機会に本を処分する。ですから,新古書店があんなにはやるわけですよね。古本という形でどんどん出ていってしまう,まだきれいな本が。そして,置いておきたい本,また読みたい本も,やはり手放してしまうと。多くの方が結婚を機会に,特に男性はこんな本ばかり置くと家賃が高くつくからということで,弱いですよね,新婚当時っていうのは男性は,妻に対して。捨てろと言われて,捨てたくないんだけれども,預かってくれと言われた本が,この私でも部屋にいっぱいぐらいあります。担当者たちが結婚するときに,それを条件にしか結婚してくれないと言われたので,泣く泣く本を手放すと。その場所の問題というのがあるんですね。10年に一度ぐらい読みたい全集とか,やっぱりそういうのも預かってくれと言われて,10年ぐらいたったら頑張って,もっと広いところへ越すから戻してほしいと言われて30年たちますけれども。
そういうことがあって,子どもたちへのアンケートでも何で買わないのかと。あるいは買ってもすぐ手放すのはなぜかというと,住宅事情の線もあるんですね。だから,ほかの国の事例とは余り参考にならないのじゃないかなとも思いました。
すみません,とにかく単純過ぎる話なんですが,この電子媒体であれ中身の情報が書籍の中身であるという観点で読むには,当然本を買って読むのと同じように,何がしか払っていただくということが前提になればすっきりしないかなと思いました。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【金原構成員】
もう同じことの繰り返しになるかもしれないんですけれども,先ほど糸賀先生もおっしゃっていましたけれども,従来の出版事業,あるいは図書館の存在に影響を与えない,あるいは図書館の購入というんですかね,そういうのに影響を与えない範囲で,国会図書館のデジタル配信を考えるということは,出版にとってもいい刺激になるだろうと。自分でこんなこと言うの変かもしれないんですけれども,我々出版界が電子配信を積極的にやって,日本中で発行されているものは全(すべ)て電子で国民に届くという,そういう体制がもしできていたとするならば,こんなこと考えなくてもいいんだろうと思うんですが,残念ながらそこまで至っていないわけです。そういうことを刺激する意味でも,国会図書館のせっかくあるデータを使って一定範囲,非常に制限を加えたところで,既存のその出版事業に影響を与えない,著作者の権利,収入に影響を与えないという範囲において,こういう形で配信をする,それは公共図書館経由かもしれない。それはどちらでもいいと思うんですが,そういうことを考えていくというのは,最終的には出版界,それから,著作者にとってプラスになるんではないかなというふうに思います。ですから,そこは前向きに検討していただきたいと思うんですが,ただし,出版物,著作物の種類によっては,相当影響を与える分野もある。
例えば地図のような出版物は,現在グーグルでもどこでも無料で地図が見られるということになると,最新版の同じような目的の地図はもうほとんど買う人はいないんではないかと。少なくとも,私は個人的にはもう地図というものは買ったことがないですよね。地図のようなものであるとか,あるいは辞典・辞書類ですね。こういうようなものについては,仮に古いものが絶版になっていれば,じゃあそれを載せてしまったら,じゃあ新しいものはどうなるのかというと,多分売れないでしょう。それから,画面で閲覧することによって,十分用が足りるものです,辞典類,あるいは事典とかそういうようなものについては,非常に影響が大きいだろうと思います。
したがって,この2ページ目の分類のところについても,慎重に考えるべきではないかなというふうに思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【瀬尾構成員】
話をちょっと具体的な部分でちょっと申し上げたいと思いますけれども,例えば国会図書館から公共図書館にこれまでのサービスと同等のサービスを維持するために配信するということについて,重版とか予算がおりて非常に大きくなったために,どこまでがいいかというのは一つの議論だと思いますし,どこまで補償金云々(うんぬん)の話はあると思うんですけど。
法律を否定するわけじゃないんですけど,権利制限をしたからといって,もう何をやってもいいし,話合いが持たれないとか,そういう権利制限がないから絶対,全然やってはいけないとか,そういう一方的な話ではなくて,例えば権利制限を万が一したとします。したとしますけれども,じゃ,例えば書籍さんや雑誌協会さんや学者さんや,みんな団体があります。そういうところにこれ来月これを配信しますと告知をして,著者なり関係者からこれは困ると。うちでこれ飯の種だから困るんだという申出があったものについては,またの機会に見送るとかね,幾ら権利制限があっても。そういう話合いができるんじゃないかなと。
私,一つのこれを日本的と言って,いい意味でも悪い意味でもあるのかもしれないんですが,日本には法律によって白と黒を決めるだけではなくて,当事者同士の話合いの場というのをきちんと制度化していくことで,かなり円滑にいろんなものが進んでいくのではないかなというふうに思います。例えばアメリカのように,裁判と法律だけで全(すべ)てが決められるとすると,かなり日本にはそぐわない僕は気がする。だから,例えば今のような法律を大本のよりどころにはするけれども,その後で協議をしたり,いろいろ話し合ったりするような場をあらかじめくみ上げておくということでできるんではないかなというふうに思っています。
公共図書館と国会図書館との関連に関して,実は公共図書館がどの程度そういう配信についてルールを実施できるかとか,いろんな問題もあるのかもしれませんけれども,これは国会図書館さんがお認めになった,今までの公共図書館さんとの図書館間貸し出しで問題がなかったということであれば,そのルールというものを準用していき,かつその流すものに関して権利者,若しくは出版社さんときちんとしたルールづくりをすれば,かなりの部分は流れていくのではないかなというふうに思いますので,全体の法律とともに制度設計というか,システム設計みたいなことを考えれば,そのレベルであれば意外と案ずるより産むがやすしのようなシステムではないかなというふうに感じました。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【糸賀構成員】
基本的に今,瀬尾委員が言われることに私も賛成ですね。実はこれ10日ほど前でしたっけ,内閣府の知財戦略会議というところに呼ばれまして,実はその会議には今日この席にいる方も何人かも同席していましたし,中村伊知哉委員がそのときは座長を務めていらっしゃいました。そこで意見発表したときに,最後に結論を申し上げて,これはもう里中委員もそのときにもいらっしゃいましたけれども,私はせっかくここまで国費,つまり税金を使ってデジタル化を進め,先ほど申し上げたように,著作権法という法律も整備してきたものですから,著作者の中で,あるいは権利者と言ってもいいです,権利者の中で,自分は電子配信してもかまわないという方たちの善意を生かすためにも,そういう方たちの書籍は全国の公立図書館を通じて,この中に,大学図書館を含めてもいいかもしれません,遠隔地の読者であっても,そういう方たちに配信できるようにした方がいいでしょうと。そうしないと,ここまで投入した国費が私は無駄になってしまうと思いますね。それから,知の再生産,最初に言いました,この再生産が進まなくなりますよ。知の循環型社会ということを国も進めております。
ただし,電子配信は困るという方も当然一方でいらっしゃいます。この方たちの人権はちゃんと守らなければいけません。電子配信は困るという方たちは,配信をとめておいて,別室で話し合いましょうと私は言ったわけです。それは今,瀬尾委員が言われるようなそういう協議の場をきちんと設けて,そこで例えばお金の配分でもいいでしょう。一定の権利が配分されるような仕組みは,それは考えていきましょう。でも,それはどう考えても時間がかかりそうだから,まずは許諾してくださる方,先ほどこれは前田委員が言われるように,無許諾でも構わないと言っている方たちのものは配信できる方向にしていった方がいいでしょう,それによって,それぞれウイン・ウインの関係になれると思いますね。読者はもちろんのこと,それから,それを望んでいる著者,出版社。一方でそれを望まない方たちには,ちゃんと経済的な補償の仕組みを考えていきましょうと。やれるところからやりましょうというのはそういう意味です。
それから,先ほど金原委員も言われたように,こうすることでいろいろな読み物,本にアクセスすることで,日本の中に一定の読書層が生まれるんですよ,間違いなく。本を読み,本を通じて知識を得て,それでまた社会的活動をやったり,自分自身も著作活動をやる人も出てくるかもしれません。そういう読者層がまだまだ日本は貧困だから,先ほど里中さん言われるように,買う人が少ないんですよ。買う人は自分は本を読まないけれども,本だけ買うんだなんてことあり得ません。本を読む,その本は自分で買って読むものもあれば,図書館に行って借りて読むものもあれば,友人から借りて読むものもあれば,無料でダウンロードして読むものもあるんです。そういう読者層を広げておけば,本を買う,今度は購買層に間違いなくつながっていくんですよ。そういう意味での読者層を作ることが,日本の知の基盤になると思います。
その基盤整備という意味で,できるところからまずは国会図書館が配信をしていく。それによって,いい循環になれば,必ず購買力も伸びていくというふうに考えています。そのことを裏づけているのが,アメリカのグーグルの実践です。これを我が国は,税金を使って国策として進めようとしているわけですから,その一貫性を保つ意味でも,国会図書館が配信できることからまず進めていく,それによって出版社,著者,読者,その3者の共存共栄を図っていくべきだろうと思います。
以上です。
【瀬尾構成員】
続けてすみません。今,糸賀構成員の言われた話なんですけれども,これもうちょっと突っ込みますと2つあると思うんですよ。一つは今,著作者というふうに,権利者と言ってもいいですけど,のレイヤーで許諾というふうに,これ著作権上の問題もそういうふうになってきます。
もう一つ,先ほどから重版とかそういう基準も示されていました。これはまた別のレイヤーで,出版社という,今特定の権利はございませんけれども,これまで著作者とともに非常に密接に関(かか)わって出版文化を支えてきたレイヤーの人たち,この2つの話がまじってしまうと,単純にそうしないと権利者ではないから,じゃあ出版社は関係ないのかと。そういう話になってしまいますので,私はこれは出版というものに対して,その権利のあるなしに関(かか)わらず,出版社のきちんとした御意見と,著作者の意見と,その3つが,でも,私は相反するとは思っていないんですよ。今,糸賀構成員がおっしゃるように,それは相反せずにきちんと回ると思いますが,その話合いとかルールづくりというもの,これはなぜかというと電子書籍のほかの構築にも非常に出版社の立場をどう考えるかというのは,非常に大きなポイントになると思いますので,この中できちんと3者の中で話し合って,それこそウイン・ウイン・ウインの関係に持っていくような状況というのが望ましいというふうに思います。蛇足かもしれませんが,ちょっとつけ加えさせていただきました。
【糸賀構成員】
ごめんなさい,今,瀬尾構成員が言われましたね,私,この前の知財戦略会議での一方で,当然出版社に対して一定の隣接権のようなものを認める必要があるだろうということは申し上げております。つまり著者の中には,これは自分がどんどん配信して構わないと言っても,出版社自身が,いや,それはまだまだ売る可能性がある。したがって,そうは簡単に認められないという可能性もあります。そういう意味では,出版社に対して何らかの権利を一定程度認める必要も併せて考えていかなければいけないだろうと思います。
それを含めて,いわばオプトアウトの原則を作るということです。つまり無許諾でできるようにしておいて,自分は困る,あるいは出版社の中でももう少し待ってほしいというところに対しては,オプトアウトでそこから抜けられるようにしていくべきだろうと思います。
それから,先ほど重版ですよね。むしろ全国の図書館でかなりアクセスされているというものについては,これは重版すれば,ある程度市場が成り立つということも分かります。今のところその知る手だてがあんまりないんですよね。出版社に聞きますと,せいぜい読書カードか何か送られてきて,この本をまたお宅の出版社で出しているあの本を復刻してほしいというぐらいしか分かりませんが,国会図書館から配信することで,それだけのアクセスがあるものについては,これは十分復刻しても市場が成り立つんじゃないかということも分かります。そういう意味では,出版社にとっても私は利便性が高くなる。おっしゃるとおりで,ウイン・ウイン・ウインの関係になるだろうと思います。是非そういう方向を目指していただきたいと思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【里中構成員】
すみません,今のお話なんですけれども,確かに知財の会議でそういう話出ました。そこで私もまた余計なことを言ったんですけれども,出版社がもう既に出版権というものは保障されていますよね。出版権の中には,出版社の出版権を持つ者の許諾なくして複製物は作れないというふうになっていますよね。だから,それで全部処理できるんじゃないかなと思っているんですけれども。
【糸賀構成員】
そうじゃないですよ,出版権は出版社持っていませんよ。
【金原構成員】
出版社について御配慮いただきましてありがとうございます。今の里中構成員のお話ですけれども,出版権については,出版物として発行するということについての権利は,確かに出版社に委(ゆだ)ねられているんですが,もともとの著作物をデジタル化すること,それから,それを配信するということについての権利は,出版権では及ばないです。したがって,出版権だけではこのデジタル化全体の問題に対応することは,出版社としては現在のところはまだできない。
だから,でも,こういう状況の中で,やっぱり著作者の権利と出版社の権利がぶつからない範囲で,出版社がかけた投資に対して何らかの回収する方策というものは作らないと,結局デジタル配信が進まないだろうと思うんです。ですから,出版権だけでは,つまり申し上げたいのは,出版権の設定だけでは不十分だということで,何らかの法制度が必要なんではないかということについて,瀬尾構成員と糸賀構成員に今お話を頂いたということです。
【瀬尾構成員】
先ほどちょっと隣接権の話になっちゃったんで,ちょっとなぜさっきそれは別にしてと申し上げたかというと,一つの権利について検討する云々(うんぬん)というのは,これはいいですよ。検討し始めた是非も含めて。
ただ,それをやって,それが前提になって先ほどのようなルールづくりが行われるとすると,この議論が延々と先ほど言ったスピード感に欠けるので,この隣接権についてとか,出版社の立場というのは,とりあえずこれまでの実績があることをお認めした上で,ルールを作っていくことはいいんですが,隣接権となると,あたかも隣接権が前提のような議論になってしまうと,これスピード感からいって,もともとの話から相当きついと思っておりますので,この検討の会議の中で,出版社さんから,出版社さん固有の権利をというお求めがあることも聞いておりますし,その議題にも載っていると思われますけれども,それとこのお話をリンクさせて一遍にしてしまうと,議論は厳しいし,ちょっと私はあえて別の議論にしていただいた方がいいかなということを,そういうニュアンスも含めて先ほど申し上げたというところです。
【渋谷座長】
今の御発言はあれですか,金原委員に対するものですか。
【瀬尾構成員】
全体的な話として。
【渋谷座長】
金原委員は出版権のことをおっしゃったわけで。版面権のことではないですね。
【金原構成員】
出版権の範囲についてのお話を先ほどさせていただいたんですが,今,瀬尾構成員のお話しになったのは,隣接権として出版社の出版権ではないところの新たな権利の創設というものが,何らかの形で必要でしょうけども,だけど,この議論の中でその話をするとややこしくなるから,別のところに委(ゆだ)ねましょうと,そういうことですよね。
【糸賀構成員】
失礼しました。私がうっかりそういうことを申し上げたので,混乱したんだと。私は一定,出版社に対してやっぱり一定の配慮が必要だろうという意味で申し上げました。
それから,これはむしろ隣接権というのは権利を認めるよりは,契約といいますかね,出版契約上のルールをもう少し明確化して,出版社に対しての一定の配慮をした契約のルールが定着すれば,何も私は権利として認める必要はないだろうと思います。
私,あくまで,そこまで申し上げないで,配慮しなければ,これは納得しないだろうと。つまり,オプトアウトが著者だけだというふうなことにすると,これはなかなか納得していただけないんで,合意形成を図る意味でも,そういう配慮はしましょうと。それはちゃんと出版するときの契約のルールの明確化というふうな方向でも解決はできるだろうと思っています。
どうも失礼しました。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
三田構成員。
【三田構成員】
糸賀さんが言われるように,これはスピードが大事だろうというふうに思います。私の考えでは,何か仕分けをしてボーダーを決めようというのは,実は時間がかかるのではないかなという懸念を持っております。
それから,権利処理の機構を作るのに,大きな時間がかかるかと考えますと,これは時間をかけなければいいわけですね。例えば今,複写権センターというものがあります。大企業がコピー機で複写をすると,お金を払うと。これ出版社が集めて出版社経由で,文藝家協会などは直接もらっておりますけれども,そうでない著作者に対しては出版社経由で払っております。ここに出版社がかんでいるわけですね。そのときに出版社に例えば隣接権があるかとか,版面権があるかというとないわけでありますけれども,出版社さんにやっていただいているわけであります。
ですから,今回の配信についても,出版社と権利者が集まって一つの機構を作って,一定のお金を徴収するということは,それほど時間をかけずにできるのではないかなというふうに考えます。
ただ,ここでオプトアウトする人,インの人というふうに分けると,これはそれの事務処理が大変なんですね。私の考えでは,全部一律,物すごく辞書とか高価な本は別として,普通の単行本の形をしているものは一律,これはユーザーに配信をした場合でも100円ぐらい取って,なぜかというと,今スマートフォン向けのテキスト文書の配信が400円ぐらいであります。今回のものは画像でありますし,ダウンロードはできないものでありますから,それ以上のお金は取れないと思うんですね。200円か100円かだと思います。そのお金を全(すべ)て,もうただでいいよと言っている人も含めて,全部100円取って,それを一定にプールをすると。その中には要らないよという人もあるでしょうし,それから,多分私は1968年までの書籍でありましたらば,大部分がオーファンワークスであろうと。行方不明だろうと思います。支払不能だろうと思います。
しかし,その中でお金を要るという人が出てきたら,その人に対してはちゃんと払うということを検討しなければいけません。文藝家協会のような組織に属している人に対しては,そこで団体ごとに,写真家協会なら写真家協会にまとめて払っていけばいいわけでありますけれども,いかなる組織にも属していない人が,私はお金が欲しいと言って名乗り出てきたときに,その人が本物かどうかは分かりません。特に古いもので,孫の代になっていたり,ひ孫の代になっていたりしたら,関係者が数十人になって,それがばらばらに権利を主張されるということもあります。その調整に実は何十万もかかるということはあるんです。1回閲覧されて100円払うのに,それだけのお金をかけることは事実上難しいと思いますが,しかし,お金は要らないよと言う人も含めて,全部100円ずつ取って,それを積み上げたらある程度まとまったお金がプールされるわけですね。
これは現行の裁定制度でありますと,供託金を出して名乗り出る人がいなかったら,それは国が取ってしまうんですが,そうならないようにプールしておいて,問題が生じて裁判でも起こったときに,そのお金で対処していくというような,クレーム処理費として積み上げていくと。
それから,事務経費もそのプールしてあるお金から出していくということで,うまく運用し,なおかつ文化庁さんが見張っていて,プールがたまり過ぎたら,それを例えばもっと公共的なものに使うとか,今,著作権情報センターがやっているような著作権の研究に使うとか,そういうことも含めて,国がある程度見張りながらプールしたお金で権利処理をしていくと。非常に大ざっぱで簡素な,職員の数もそれほど使わずに一括処理できるようなシステムを工夫すれば,早期に実現できるというふうに私は考えます。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
三田構成員,その図書館が徴収した料金というのは,著者に支払う,あるいは団体に属する著者に支払うということが前提なんですか。
【三田構成員】
ええ。その出版社と著作者で作る管理センターのようなものですね。著作権管理センターのようなものに,情報とともに払う,どの本が読まれたかという,これは国会図書館に聞けば,それはできるというお話でしたので,情報とともに,それとアクセス回数の情報とともに,例えばユーザーが100円だったら,図書館は例えば50円でもいいし,10円でもいいわけであります。10円でいいんだったらば,例えば村役場に端末を置いて,これ本はないけれども,図書館だということにして,1回50円なりでもお金を払って,村人に読んでいただくということも,端末をつなげばいいだけですから,簡単にできてしまうだろうと思います。
そういうシステムで,また,それが著者によっては1回しか読まれていないと。その100円を我々文藝家協会も教材からお金を取っておりますが,1回しか利用されていない方,500円払うというのに,銀行振込で500円かかるというふうなことも起こり得るわけです。これもっと広範囲に100円を払うためにどうするんだということが出てくると思いますが,これもプールしておけばいいんです。一定金額になるまではプールするということにすると,大半がプールになると思います。
ですから,そのお金を運営資金に回していくということを文化庁さんにお認めいただくというようなことで,全(すべ)てのシステムはうまくいくだろうと思いますが,いかかでしょうか。
【渋谷座長】
私,先ほど質問しましたので,一言だけですけれども,その出版社に支払うということはおっしゃらないんですか。
【三田構成員】
手数料として払うべきだろうと思います。それはなぜかといいますと,オーファンワークスが余りに多いようだと,これはまずいと思うんですね。やはりちゃんと権利者が分かっている人がいて,それで一部オーファンワークスがあるんだという状況にする必要があります。もちろん実際にアクセスされる回数は分かっている著作者の方が多いだろうと思いますけれども,しかし,やはりオーファンワークスのオーファンにならないように,情報を集める作業が必要であります。
文藝家協会等に所属していない著作者でも,し出版社は情報を持っております。古い記録が残っている場合もありますし,現在でも幾らかずつでもお支払いしているケースもあると思いますので,そういう著作者に関する情報を全国の出版社さんに提供いただいて,その見返りといいますか,インセンティブとして1回のアクセスについて幾らか出版社に還元をするというようなシステムが可能ではないかなと。そうすると,隣接権とかそういうものを設定しなくても,手数料というような形でお支払いできるのではないかなと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。
【糸賀構成員】
今,三田構成員や瀬尾構成員のような著作者,あるいは権利者の方から前向きの提案を頂いていますので,これは是非こういう方向で国会図書館の方の配信ができるような方向を具体的に作っていくべきだろうと思います。
今,三田構成員が言われたような,仮にお金を徴収すると。それをどう配分するか。これは私が言ったように,原則無許諾で権利制限しておいて,無許諾でできるようにする。そのときに確かにオプトアウトと私申し上げましたが,誰(だれ)かが,いや,私のは困ると言ったときに,その人が本人かどうか,あるいは著作権の正当な継承者かどうなのかというのは,確かに分からないところがあるんですね。それは一方で,仮にお金を取って,それを後で配分しようとしたときだって,そういう意味では個人にはやっぱりなかなか配分は難しいと思いますね。どうしてもこれは,例えば文藝家協会でありますとか,ペンクラブだとか,推理作家協会だとか,そういうふうな団体に配分するという方向で考えなければいけないんだと。そういうときに一定程度やっぱり出版社への配慮というのも私は必要なんだと思います。
そう考えると,これ,利用者個人から取るよりは,私は図書館がある程度まとまったコレクションについて,国会からアクセスできるようにしていく。そういう意味での一定の金額を国会図書館に払うのがいいのか,別の組織を作ってそこに払うのがいいかはともかくとして,図書館としてやっぱりそれは負担していくべきだろうと思います。
そういう意味では,つまり公立図書館を設置している地方自治体の負担ということになりますね。それは当然資料費の一部をそちらに回すことで,自分たちは買わないけれども,アクセスができる。あるいは保存のためのスペースを使わなくても,アクセスできるわけですから,やっぱり応分の負担は必要だろうと思います。それが幾らがいいかというのは,なかなか微妙ですけれどもね。
それから,一方で今の大学図書館に入れている,要するに電子雑誌と同じ考え方ですね。ある程度まとまったものを契約でアクセスできるようにすると。そのときに,だから,個別のタイトルは選ばずに,どのタイトルも,どんなにアクセスしても料金は変わらないという固定料金にしておけば,一々利用者からは負担してもらわなくても私は済むだろうと思います。
それから,特に公立図書館の場合,実は子どもさんの利用というのがあるわけですよ。特に私は中学生,高校生ぐらいが今,国でも奨励している,例えば調べ学習なんかやっているときに,学校図書館残念ながら蔵書貧弱です。これは公立図書館に行ってもなかなかない。そうしたときに,例えば国会図書館の本にアクセスできるとなったときに,子どもたちの学習の範囲は広がるわけですよ。ところが,それをアクセスするたびに子どもさんから50円,100円取れるかというと,これなかなか取りにくいと思いますね。当然お年寄り,年配の方で,地元の歴史を調べている,あるいはいろいろな郷土に伝わるようなことについて調べている,それが各地の伝説として伝わっているとすれば,そういうものも国会図書館からアクセスできるわけですよ。そういう年金生活者からもお金を取るというよりは,これはやはり私は終始一貫として国策でやるべきだと。つまり税金を投入してやるんだと。そういう意味では,私は公立図書館が税金を使ってそういうもののアクセスするような環境を整えていく方が一貫していると思います。
そのかわり,繰り返し言いますが,税金を使って公共セクターが介入するんですから,民間の出版市場に,一部ね。であるから,これは抑制的,極めて禁欲的な範囲でしか利用はできないだろうと。そこから先,もっと自由に使いたい方は,どうぞお金を出して電子書籍をダウンロードするなり,別の方法を考えていく。今でも国会図書館は郵送で,一部のコピーのサービスはしておりますから,そちらは当然お金がかかるわけです。そういうふうなお金をかけて,そちらのサービスを受け取るというふうにすれば,お互いにバランスがとれていいのではないかというふうに思います。つまりお金の取り方は,必ずしも利用者個人から取るだけが方策ではないというふうに考えております。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【瀬尾構成員】
今の糸賀構成員のお話なんですけど,最初の会議のときに申し上げましたように,各地方行政さんの図書館とか,そういう公共サービスに対する認識というのが,やはり今から一歩でも二歩でも出ていただかないとならない。
逆に言うと,今の認識のまま,例えば一部を電子的なものに対する費用,資料費として採択すると,そうすると,当然全体の枠が決まっていた場合,ほかが抑制されてしまって,逆に電子的なものはある一定の金額に対して読める本数とか提供できる資料数が多いとなると,より効率のいい資料購入の手段であるというようなとらえ方で,例えば一定の予算の中で,簡単に言って電子にどんどん行っちゃって,本買わなくなっちゃうという最初からのものがあると思うんですね。そういうふうなことはあってはいけないわけなんだけど,やはり今回のことは各行政さんが公共図書館に対してどういう位置づけをしているかという部分に関しては,かなりきちんとした,それこそ国でやるんですから,国がその図書館に対する意義づけとか,今回の施策の内容を相当慎重にして,また逆に指導するぐらいのものがないとできないと。各地方行政さんにお任せした段階で,いきなり上意下達をやったら,そういう混乱が起きることでもあるので,国としての取組であるということは,地方行政との国レベルの連携が必須なことであろうというふうに考えます。
【糸賀構成員】
ありがとうございます。瀬尾構成員のおっしゃるとおりだと思いますね。つまり,これは国策としてやる以上,一定の法整備も必要でしょう。それから,財政的な措置というものが求められます。それから,先ほど申し上げましたように,これ図書館がそもそもない地方自治体がまだあるわけですよね。それを図書館を置かないことには,そもそもどんなにやってもアクセスできない人たちが出てきてまいります。
そういう意味では,多分この場にも文部科学省の生涯学習局の方もいらしているんだと思います。そういうふうなほかの施策と一体となってこれは進めていくことで,本来の目的が達成すると。それは瀬尾委員のおっしゃるとおりです。その辺は是非我々も働きかけにいかなくちゃいけないし,図書館関係者にもその辺の理解を深めていく努力はしたいと思います。ありがとうございました。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【常世田構成員】
国会図書館と公立図書館との限定的な話から,かなり一般的な話に広がってしまっているんですけれども,もう一つ重要なポイントがあろうかと思います。それはちょうど1年前に著作権法の改正がされて,その改正の主要なポイントの一つが,障害を持った方に対するアクセシビリティの向上ということがあって,単に視覚障害者だけではなくて,様々な障害を持った方が図書館を利用するときに,その障壁をなくすための権利制限というのが拡大されたわけであります。
この点でいうと,国会図書館の今回のアーカイブ,あるいは新しく出版される電子媒体を公立図書館が購入をして,契約ベースで使用権を獲得するというようなことをやって,市民に提供するときに,様々な障害を持った方が,その障害に合った使いやすい状況を,コンテンツのフォーマットやデータの形として担保する必要があるだろうと。これは実際には健常者には使えないような形で,果たして障害者だけが使うのかというような問題がもちろんあるんですが,大原則としてはやはり健常者と差がないような形での使いやすさというものが担保されなければ,法の前の平等ですとか,知る権利というものが保障されないと。この辺についても,是非検討していく必要があるんだというふうに思っております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
そろそろ終了の時刻が近づいておりますけれども,大変有意義な御議論を頂いたと思います。
国会図書館の送信サービス自体について,特に強い反対の御意見はなかったように伺っておりました。ただ,どういう形態のサービスを提供するかについては,これまでの紙媒体の書籍を前提にした図書館システムというのがあるわけですから,なるべくその枠を外れないように,しかし,無償サービスにするという御意見と,それから,それの対極には各家庭へ有料で送信するサービスというようなものを考えられていいんではないかというような御意見があったように思います。もちろんいろいろなニュアンス,条件がつけられておりますので,こんなふうに簡単に2つに分けるということはできないわけですけれども,あえて申しますと,私の理解した範囲ではそのような筋の御議論があったかのように思われるわけでございます。
これは今後いろいろ皆様方で御議論を頂いて,見解を形成し,定着させていくということになるかと思います。
【片寄構成員】
確認なんですが,三田先生がおっしゃっていたサービスというのは,ここでいいますパターン1なのか,パターン2なのかというと,パターン2ですよね。家庭への配信ですか。
【三田構成員】
これは出版社さんと御相談で,家庭への配信についても有料で,その一部を手数料として出版社さんにお払いをすると。それのお金が10円,20円だとまずいと思うんですが,出版社さんが自分でアーカイブして配信するときの手間や,その料金と比べて妥当なお金が出版社さんに入るというのであれば,抵抗はないだろうと。
【片寄構成員】
家庭でのアクセスが可能であれば,別に地域に図書館がなくてもいいわけで,そうすると,糸賀委員との話がちょっとかみ合っていなかったなというふうに思って。そうすると……
【渋谷座長】
パターン2でしょう。
【片寄構成員】
パターン2ですよね。
【三田構成員】
例えば家庭で,例えば100円払うという場合は,例えばクレジットカードを登録するというようなことが必要でありますが,お子さんはクレジットカードを持っておりません。そういう場合にどうするかということで,お子さんに図書館まで来ていただくというのも大変なので,どうするかということなんですが,そういうものは地域の図書館が一括して管理して,お子さんがその図書館に登録してパスワードか何かもらって,それで家庭の端末から読むと。その場合,子ども料金みたいなものを設定して,図書館さんからお金を払っていただくというようなことも考えられると思いますね。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【瀬尾構成員】
私が申し上げていましたのは,最初に申し上げましたように,全体の家庭とか全(すべ)てを含めた配信システムという大きな話もあるのかもしれませんが,今回に関しては,やはり地方公共図書館と国会図書館さんというものを軸にした部分に限定して,お話を進めていかれた方がよいのではないかと私は思いまして,私の申し上げた部分というのは,あくまで国会図書館さんを中心とした図書館システムの中でのお話ということで申し上げておりました。一応これは……。
【糸賀構成員】
私も同様です。その範囲で議論してました。パターン2です。
【渋谷座長】
私がまとめめいたことを言って,第3の意見といいますか,貴重な御意見を省略してしまいましたので,誤解を招いてしまったと反省しております。
三田委員の御意見ですと,今後形成されていく民間の電子書籍ビジネスにとっては,大変脅威になるわけで,そのあたりのことも今後は考えていかなければならないと。  
【三田構成員】
ユーザーの端末に配信するということに関しましては,今後の出版社がやる有料配信との兼ね合いで考えるべきだろうと思います。
一方で,図書館が家庭に配信するということも,アメリカなどでもう既に実施されております。例えばこれから普通の新刊書が電子書籍しか出ないと。私は文芸書なんてそれになるんじゃないかというふうに思っておりますけれども,すると,図書館で読めなければいけないわけですね。そうすると,電子書籍なんですから,これはユーザーの端末に送ったっていいわけであります。そういう場合は,デジタル書籍を図書館が図書館価格で,ちょっと多めに払っていただいて,アクセス制限をして,それから,その受け取る側(がわ)のユーザーは図書館に登録をして,1館例えば2,000人というような限定で配信,もちろん無償で配信して料金は図書館が払うというようなシステムも,これからは考えなければいけないだろうと思います。
この国会図書館の配信でも,そのやり方も可能だろうということなんで,絶対にユーザーには配信しないということではなくて,いろんな可能性があるということで,少し何ができるかということをもう少し議論していけばいいのではないかなというふうに思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【田中構成員】
今日の話は,配信の話がほとんどであったと思うんですが,検討事項の2の検索サービスについては,今,公共図書館の範囲の中だけということではなくて,全(すべ)てインターネット上で利用できるような公共サービスとして,そこは進めさせていただきたいというふうに考えます。
先ほどスニペット表示等がないと,検索しても効果がないんではないかという御意見があったと思うんですが,それと従前から出ていますのは,本の内容によっては,先ほども出ていましたように,辞書とか,あるいは中をちょっと見られればそれで用が済んでしまう本は,やはり商業的な売上げにも関係する可能性があるということもありますので,そこの部分については,検索は全部できるかもしれないけど,スニペットであれ,中がちょっとでも見られるようにできるというところについては,個別にそれはやめてほしいというような,そういう話がセットであるべきかなと思いますので,その話はまたちょっと御検討をいただければと。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。
それでは,定刻がまいりましたので,まだまだ御議論は尽きないかと思いますが,残念ながらこのあたりで終了ということにさせていただきたいと思います。
事務局から連絡事項がございましたら,お願いします。
【鈴木著作権課課長補佐】
長時間にわたりまして,貴重な御議論ありがとうございました。
次回につきましては,来月あたりで日程を調整し,開催をさせていただきたいと思っております。
以上でございます。
【渋谷座長】
それでは,これで第4回の検討会議を終わらせていただきます。
本日は大変ありがとうございました。

12:01 閉会

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