電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議(第12回)議事録

1.日時
平成23年9月30日(金)  15:00〜17:00
2.場所
文部科学省旧庁舎6階第2講堂
3.議事
  1. (1)「出版者への権利付与に関する事項」について
  2. (2)その他
4.出席者(敬称略)
糸賀雅児,大渕哲也,片寄聰,金原優,里中満智子,渋谷達紀,瀬尾太一,田中久徳,常世田良,中村伊知哉,別所直哉,前田哲男,三田誠広
【渋谷座長】
それでは,ただいまから「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」,第12回を開催させていただきます。本日は,ご多忙の中,ご出席いただきまして,大変ありがとうございます。
議事に入る前に,本日の会議の公開につきましては,予定されている議事内容を参照しますと,特段非公開とするには及ばないと思われますので,既に傍聴者の方には入場していただいているところでございます。この点,特にご異議はございませんでしょうか。

(「異議なし」の声あり)

【渋谷座長】
また,カメラ撮りにつきましては,会議の冒頭までとさせていただきますので,配布資料の確認まででご了承願います。
本日は,森副大臣がご出席されて,ごあいさつを賜るという予定でおりますけれども,ご到着がおくれているようでございますので,議事に入らせていただきまして,途中でおみえになりましたら,議事を一時中断して,ごあいさつをいただきたいと,こういうふうに考えておりますので,よろしくお願いいたします。
それでは,事務局から配布資料の確認をお願いします。
【鈴木著作物流推進室室長補佐】
 それでは,配布資料の確認をさせていただきます。議事次第の下半分に書いてありますけれども,まず資料といたしまして,検討事項3「出版者への権利付与に関する事項」についてでございます。両面刷りで12ページのものでございます。
そして,参考資料1といたしまして,前回おまとめいただきました「デジタル・ネットワーク社会における図書館と公共サービスの在り方に関する事項」につきまして,既に各構成員にはご案内させていただきましたが,制度改正に関する内容についてもまとめさせていただいておりますので,現在,意見募集をかけているところでございます。その実施要項について,参考資料1として配布させていただきました。この結果につきましては,またこの会議の場で報告させていただければと思っております。
参考資料2といたしましては,本検討会構成員名簿となっております。もし過不足等ございましたら,事務局にお申しつけいただければと思います。
以上です。
【渋谷座長】
資料はもれなく配布されておりますでしょうか。
それでは,議事に入りたいと思いますけれども,本日は,議事次第にもありますように,「出版者への権利付与に関する事項」につきまして,ご議論をいただきたいと考えております。
まず,事務局のほうから,資料につきましてご説明をお願いいたします。
【鈴木著作物流推進室室長補佐】
それでは,資料の内容について説明をさせていただきます。資料は,検討事項3の「出版者の権利付与に関する事項」についてです。
前回,前々回と,調査結果の報告,さらには出版者の方からの必要性についてのご説明などいただいております。それに対しましての各構成員からのご意見などもいただいておるところですので,その内容を整理させていただいているところです。
まず,資料の3ページからごらんいただければと思います。「出版者への権利付与」につきまして,まず1といたしまして,「出版者への権利付与」の内容についてでございます。出版者に著作隣接権を付与するためには,その意義や必要性,さらには電子書籍の定義,範囲などの論点について検討が必要であると考えられているところでございます。そして,出版者から示されました権利の具体的な内容。前回など提出されました資料におきましては,保護の対象,保護の享受者,保護の始期,権利の内容といった点につきましてご説明をいただいたところでございます。
そして,それらに関しまして,各構成員から出されましたご意見といたしましては,日本独特の制度のあり方もあって,よく制度改正の必要性を含めて検討することが必要であるといったご意見ですとか,権利者の数が増えるということによって,二次利用等に係るハードルが上がるのではないか。さらには,電子書籍ビジネスの発展に悪影響を与える可能性があるのではないかなどのご意見のほか,権利を持つことは,同時に責任や義務を持つことであり,その取扱いについて,どのようなあり方を考えておられるのか。また,電子書籍の作成,発行の実態はさまざまなものがあるというところから,その権利の主体として,発行者などをどのように認めていくかということについては十分な検討が必要であるのではないかといったご意見が出されたところです。
もう1つのポイントといたしましては,「出版者への権利付与」の必要性についてということにつきまして,まず出版者側から,権利付与について,どのような観点から必要性があるのかということについてご説明をいただいたところです。大きく分けますと,「電子書籍の利用・流通の促進」からの観点,そして「出版物に係る権利侵害への対抗の促進」の2つに大別されるところでございます。
そして,「電子書籍の利用・流通の促進」の観点からとしましても2つに整理できるかということで,まずは「出版者による出版物に係る権利処理」の促進,そして,もう1点といたしまして,出版者の電子書籍ビジネスへのさらなる進出の側面から必要性が説明があったところでございます。
まず,「出版者への権利付与」と,その「出版物に係る権利処理」との関係についてでございます。検討すべき論点として,冒頭,資料で掲げさせていただいておりますけれども,いかなる理由で出版者が主体的に権利処理を行うインセンティブとなるのか。権利処理の円滑化に当たり,権利付与が必要不可欠なものと言えるのかどうなのかというのが1つの論点のポイントになるかというふうに考えられると考えております。
そして,このポイントにつきまして,出版者側といたしましては,権利付与により出版者に主体的な権利処理を行うインセンティブが与えられる。それにより円滑な出版者の流通が可能になるということ。さらには,権利処理の窓口となるための基盤が整うといった点。さらには,出版物にかかわるさまざまな権利などの情報を把握していくというところにおきましては,集中的な権利処理システムを構築することを目指したいというお話があったところでございます。
そして,これらに対します構成員からのご意見といたしましては,権利付与によることが権利情報などの管理の十分なインセンティブを与えるということとの関係性が不明確ではないかといった意見が出されたところでございます。また,集中管理システムの構築は有益なものであり,そのような取り組みについては重要性が高いのではないかというご意見もあったところでございます。
そして,「電子書籍ビジネスへの更なる進出」の関係についてでございます。これにつきましても,検討すべき論点として2点挙げさせていただいておりますけれども,まず,出版者から示されましたご説明の内容といたしましては,出版者の投資回収の保護を図ることで,より積極的な投資を誘導し,電子書籍販売の伸張等,豊富なコンテンツの流通が実現できるということ。さらには,権利付与によりまして,固有の権利を持つ出版者の資産として有効に活用することが可能となるといったご説明があったところでございます。
そして,これらに対します構成員からのご意見といたしましては,その見通しや適否につきまして,経済学的,社会学的な観点からさらなる検証が必要ではないか。さらには,権利がないということがどのような点で電子書籍ビジネスへの進出を阻んでいるかについて,より具体的な見解を示してもらえればといったご意見があったところでございます。
そして,必要性の大きなポイントといたしましては,権利侵害への対抗の促進についてといったところでございます。これにつきましては,前回既に資料で提出させていただいた内容と基本的には変わっておりません。
まず,1点といたしましては,契約による対応で,3点を示させていただいております。出版者に対する著作権の譲渡といった観点,そして独占的利用許諾契約による債権者代位権の行使,そして「出版権」の規定の改正による対応といった契約による対応として,前回の資料では挙げさせていただいているところでございます。
そして,もう1つの対応策といたしまして,出版者を著作隣接権者として保護することによる対応といった点。こちらにつきましても,前回資料として提出させていただいている内容と基本的に変わっているところはございません。
そして,新たに追加した点といたしましては,何らかの出版物に係る権利保全のための規定の創設による対応といった視点です。現在,著作権法第118条におきましては,無名・変名の著作物の発行者は,その著作者のための権利保全の対応を行うことができるという規定がございます。このような規定を他の著作物の利用といいますか,電子書籍につきましても規定することが可能であるかどうかといったことも考えられるのではないかというご意見があったところです。
そして,最後ですけれども,著作権法以外の現行制度に基づいた対抗措置による対応です。著作権法上の制度における対応以外に,現行の違法出版物による対抗策を最大限に実施することも重要ではないかと。例えば,「プロバイダ責任制限法」に基づく信頼性確認団体としての対応といった視点などが示されたところです。これに対しましては,各プロバイダの対応のあり方に左右されてしまい,確実性に欠けるといったご意見もあったところでございます。
以上が,本日提出させていただきました資料の内容でございます。これらにつきましてご議論いただければと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。それでは,ただいまのご説明へのご質問も含めまして,ご意見等ございましたら,よろしくお願いいたします。
なお,先ほど副大臣がおみえになるということを申しましたけれども,お忙しいようで,おみえにならないそうでありますので,改めておことわりいたします。
本日は,議題が1つでありまして,たっぷりと時間がございますので,どうか自由なご議論を賜ればと思います。今,事務局から説明がありましたけれども,この資料の内容ですね,出版者への権利付与ということでまとめられてはおりますけれども,具体的に見ていきますと,いろいろな方面で考え方が分かれていて,例えば,電子書籍の利用・流通の促進とか,権利侵害への対抗の促進と,大きく2つに論点を分けて説明がされているというように,論点自体は広がりがあるように思います。ですから,そのことをどうかご認識の上,各論点についてご意見を賜ればと思っております。
それでは,どうぞよろしくお願いいたします。どなたからでもどうぞ。
【三田構成員】
この資料で,まず最初に三省懇談会で示された方向ということで,あたかも何か対立する論点があって,これによって両論併記といいますか,この対立を克服しなければすべては解決しないというような問題提起が前提となっているというように見えてしまうと,ここが一番の問題だろうと思います。まず,この三省懇談会で語られたことというのは,今から1年以上も前のことであります。そこから話はかなり先に進んでいるんですね。ですから,今さら1年以上も前の問題点を,こういうふうに冒頭に掲げるということが,私としては大変に不本意であります。
それで,私もこの三省懇談会に出席しておりましたけれども,そこで話されたことというのは,日本ではまだまだ電子書籍のコンテンツが不足している。アメリカのように,いろいろな,既に出された紙の本の大部分が電子化されるというような状況にないねと。これを何とか克服しようということで,さまざまな議論が交わされたわけでありますけれども,そこで,私も提案したことでありますけれども,日本には,一番大きな問題としては,縦書き・ルビつきの標準フォーマットがないので,端末ごとにお金をかけて,表示方法を開発しなければいけないということ。
それから,漢字にJISコードやユニコードの番号がついていない外字・異体字というものが現実に多数存在しております。これが印刷所のデータとしては,印刷所ごとの外字ナンバーになって収録されているということで,印刷所にある紙の本のデータをすぐに電子書籍として利用できないと。結局のところ,電子書籍,コンテンツをつくるごとに,大変な手間をかけてコンテンツをつくらなければならないので,非常にコストがかかると。これが最大の問題点であるという認識を出席者の方々もお持ちになったと思います。
それで,この標準フォーマットをつくるということについては,総務省さんが補助金を出していただきまして,EPUBの縦書きを開発するとか,それからシャープさんのものと携帯用のものとの互換性を図る実験をするとか,かなり大幅にハードのほうは前進をしております。
それから,外字・異体字についても,経済産業省さんから補助金をいただきまして,例えば,凸版印刷のデータと大日本印刷のデータが互換できるような,そういうシステムの開発というものを現在検討しております。こういう問題が早期に解決できましたらば,既に紙の本になっているコンテンツを電子書籍にするというのは,もっとコストダウンできます。あたかも,ここには著作者が何だかんだ出版契約をしようとしたときに,ぐずぐずしているのでコンテンツができないというような,そういうニュアンスの書きぶりになっておりますが,こういうものはコストが下がって,著作者にこれだけの配分があるんだということが確立されましたら,一挙に解決するものであります。ですから,契約の問題は,こんなふうに著作権を出版者に委譲するというような,非常に日本の慣習に合わない乱暴なやり方でやる必要は全くないと,簡単な契約ですべて問題は解決するというふうに私は思っております。
また,さらにその先のほうに,外国の状況をよく調査して,それで日本のほうを改革しようというようなことも書かれているわけでありますけれども,例えばアメリカを例にとりましたら,アメリカというのは,日本のように本屋さんに本を出版社が置いてもらって,後で決済するというようなことではありません。本屋さんが本を売るときには,普通の物を売るときと同じように,出版社から物を買って,それを売り切るということをやります。ですから,出版社としては,本屋さんに向かって宣伝をしなければ本を買ってもらえないということがあるので,事前に本屋さんにモチベーションを与えるような宣伝をしなければいけないので,例えば抜き刷りをつくって配布するとか,もう先に映画会社やテレビ局に売り込んで,出版と同時にドラマや映画の企画が出されるとか,そういうことをやることによって,本屋さん向けの販売促進をするということをやるわけです。そのために著作権を出版社が預かって対応するということをやっているわけです。
日本の場合は,出版社がある程度の本をつくって,営業の方が本屋さんに行って,これを平積みで置いてくださいというのが一番の宣伝になるということで対応しておりますので,著作権を出版社に委ねる必要は全くないというふうに私は考えております。もしも,著作者が出版社に権利を委譲するんだというような提案がなされたら,これはすべての著作者がびっくり仰天して,大反対するだろうと,えらい騒ぎになると。非常に危険な提案であると私は考えております。
ただし,紙の本が自炊業者等によってPDFファイルにされ,それがネットに流出するということが現実に起こっております。これを出版社さんに責任を持って対応していただくためには,例えば,画像の版下みたいなものを出版社さんに委ねます。これは著作権を委ねることではありません。印刷のもとになっている版下をつくったということで,出版社に,その画像をつくった権利を委ねるということであります。これは,権利を委ねるということによって,出版社さんに責任を持っていただくということで,著作者としては,自分の権利の一部を切り取って出版社に委ねるというような受け取り方はしておりません。むしろ出版社がもともと持っている当然の権利をはっきりさせて,ネット流出等に対応していただくという,こちらからお願いしたいというぐらいのものであります。
前回,こちらで出版社さん,書協さん等が,こういう権利が必要なんだという提案がありましたけれども,私はそれをじっくり聞いておりまして,大体私が思ったとおりの,非常にささやかな権利の要求であります。著作者の権利を奪い取るというような姿勢は全くなかったというふうに私は理解しております。
ところが,この資料に書いてあるような,全く対立する概念を,両論を並べておくということになると,今まで著作者が持っていた権利を出版社と著作者が奪い合って綱引きをするというように読めてしまうところがあります。こういうふうに対立をあおるような書きぶりがありますと,解決する問題も全く先へ進まなくおそれがあるというふうに私は懸念いたしております。前回の出版社さんのささやかな要求というものをもっと正確に判断して,より合理的で現実的な対応というものを探るべきではないかと思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。ほかに。
【金原構成員】
今,三田構成員がお話になったことは,全く私も同感でありまして,きょうまとめていただいた資料は,過去2回くらいのこの検討会議の意見もありますが,それ以外にも三省デジ懇のときからスタートしていますから,三田先生がおっしゃるとおり,1年くらい前に出された意見もあると思います。これをよくよく読んでみますと,幾つかの項目については,過去2回の検討会議,特に前回の出版者サイド,書協からかなり時間を頂戴して,縷々説明を申し上げたことによって,かなりの部分は説明済みであるというふうに思っております。あるいは,その懸念については,前回の会議で解決済みのものがあるのではないかなと思っております。
例えば,3ページ目の下から2つ目の矢印の,権利者の数が増えるところであるとか,あるいは4ページの下から2つ目の,どういったことがインセンティブになるのかというようなことについては,前回説明を申し上げて,私どもでは皆様にご理解をいただいたのではないかなというふうに思っております。
したがいまして,これは網羅的にまとめていただいていますから,これはこれでよろしいかなとは思うんですが,もう既に問題ではないということも含まれていると思っておりますので,ぜひその趣旨でご理解をいただきたいと思っております。もし説明がまだ足りないということがあれば,それはもちろん私ども喜んでご説明申し上げますが,既に幾つかの項目については解決済みであるというふうに私どもは理解をしております。
今,三田構成員がおっしゃったように,私どもが,少なくとも出版側と著作者の側では意見の対立というものはほとんどないというふうに思っております。あとは,三田先生が,今ささやかな権利というふうにおっしゃっていただいたんですけれども,それを具体的に,どのようにまとめていくかという議論に移っていくべきではないかと思いますので,ぜひそういう趣旨でご議論いただきたいと思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。それでは,片寄構成員。
【片寄構成員】
お2人の構成員のお話を聞いて,私も全く同感でございまして,ある意味,電子書籍の流通促進を諮るためには,出版者への法的保護の強化とか何らかの法的保護が必要ではないかということに関しては,大体ここにいらっしゃる構成員の方々のコンセンサスが得られているのではないかと私は考えております。
これからの議論は,そういった意味では,方向についてというふうに絞って議論を深めていく必要があるのではないかと思っております。必要である,必要でないかというような議論をする段階はもう既に過ぎているというふうに考えておりますので,ぜひとも方法について絞ってご議論をしていただければと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。前田構成員。
【前田構成員】
今,コンセンサスが形成されつつあるのではないかというお話をいただいたのですが,私は,出版社の権利付与には,インセンティブを設けて流通促進を図るという観点と,それから違法対策のために権利が必要だという観点との,2つ大きな観点があると思うんです。
まず後者のほうについて,侵害対策のために出版者が何らかの権利を持つことが必要であるということは非常によく理解ができて,そのための手段として何があるかということで,このペーパーでは,出版者に著作権を譲渡するとか,債権者代位を行使するとか,あるいは電子的な出版権を設けると,隣接権類似の権利を付与すること以外に3つの提案がなされております。
その3つの提案のうち,私の理解としては,出版者に対する著作権の譲渡というのは,先ほどもお話がありましたように,当事者が必ずしもそれを意図しているわけでもありません。真実の意味での権利の譲渡を意図しているわけでもないのに,出版社の権利行使のためには譲渡するしかないというのは,ちょっと乱暴な議論だと思いますし,その議論というのは,比喩的に言うと,民法には地上権とか賃借権などの権利の定めがありますけれども,所有権を一時移転することによって同じ効果が実現できるから地上権という権利等が要らないかというと,そういうわけではありませんので,それと同じように,当事者の意思に対応した制度がないとすれば,それはおかしなことなので,やはり著作権の譲渡で侵害対応ができるからというのは,あまり適切な発想ではないのではないかと思います。
それから,独占的利用許諾契約に基づく債権者代位権の行使ができるじゃないかという点があるのですけれども,この債権者代位権の行使というのは,あくまで便法でありまして,本来の債権者代位権の行使ではなくて,それを転用して何とか実務的に妥当な解決を図れるようにする工夫であって,これがあるから出版者が権利行使の根拠を持たなくてもいいということにはならないだろうと思います。
あと,出版権の規定の改正によって,電子出版に関しても,出版権類似の制度をつくるということが残る方法として考えられますが,それがいいのか,それとも著作隣接権類似の制度による権利付与がいいのか。このどちらがいいのかということを検討しなければいけないんじゃないかと思います。
つまり,電子出版を含めた流通の促進という観点においては,隣接権類似の権利を付与するのがいいのか,電子出版権的な権利――設定出版権を拡大するという方向で対応するのがいいのか,この議論が必要になるのではないかと思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。最後におっしゃったのは,隣接権類似の権利を与えるか,それとも出版権を整備するかという,その選択だということですね。
【前田構成員】
はい。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。片寄構成員,こういう議論になっていくとよろしいわけですね。
【片寄構成員】
ですから,今,前田先生がお話になられた,著作隣接権にかわる方法が3つされているんですけれども,それを,まず最初に,これがどうなのかという議論をされて,それとあわせて話をするということは難しいと思うので,まずどちらを先に話をしたほうがいいのか。著作隣接権の必要であるという説明は,もう既に前回しているので,新たに出てきた独占的利用許諾契約というのは議論されていないということもあるので,そちらの問題をまず最初に議論を深めていただいて,それで対抗できるのかどうかということをするやり方も,話の進め方もあるのではないかと思いますが。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。
【前田構成員】
議論の進め方に関して私が思いますのは,やはり今,あくまで対象を印刷物に限った制度としてではありますが,出版権という制度が現にあるわけでありまして,電子出版権を設けるということのほうが,やはり現行法と整合性があり,それと非常に近いものでありますので,まずは電子出版権を設けることによって問題の解決が図れるかどうかを検討し,それでは不十分であると,流通促進の面では,それでは不十分であるということならば,隣接権の検討に進むというのが議論の進め方として適切なのではないかと思います。
【渋谷座長】
はい,金原構成員。
【金原構成員】
まとめ方としては,前田先生のおっしゃったとおりだと思います。残っている方法は,出版権の範囲の拡大をして,電子まで広げるという方法と,それとは別の出版者の固有の権利というものを創設することによって,インセンティブを高めて,侵害行為に対応すると,この2つのうちどちらかであるという整理は,私は全くそのとおりだろうと思います。
では,出版権の範囲の拡大ということですが,現実の問題としては,現在,紙媒体の出版物においては,出版権というものを設定した上で出版物を発行するということになっておりますが,現実には,その出版権の設定すら,出版社としては著者と結べないという状況がある中で,これを電子の世界にまで広げようとしても,果たしてほんとうに機能するのであろうかという危惧があります。もし電子媒体における出版まで出版権を拡大するということが,完全な意味で実行可能であるならば,あるいは,それが何らかの形で法律上担保されるのであれば,これは私どもも,それを決して拒否するわけではありませんし,むしろそれによって権利の保全が図られるだろうと思いますから,決して反対するものではないんですが,これが電子にまで広がると,果たして今度は著作者の方が,広がった範囲の電子まで含めて出版権の設定に同意していただけるかどうかということについては,これまで,隣に今,里中先生もお座りですが,直接間接に,さまざまな機会でお話をすると,もちろんそれに同意していただける著者の方もたくさんいらっしゃると思います。しかし,完全な意味で,これが実行できないと,やはりインセンティブは出てこないし,侵害行為には対応できない。そうすると,残る方法は,やはり出版者の権利設定によって,著者の先生方がお持ちの複製権であるとか公衆送信権を侵害しない範囲で対応するということが一番いいのではないだろうかという,そういう判断をしているわけです。
【里中構成員】
話がここまで進んできて,今さらということなんですが,もうあまり機会がないかもしれませんので,そもそも論なんて今言うべきことではないんですけれども,どうしてこう対立構造に見えてしまうかという,その理由の1つとして,日本の出版の独自のあり方があったと思うんです。おそらく明治以降,お互いに信頼関係において,非常に日本人的な情の部分で著作者と出版社というのがつき合ってきたという,そういう関係があると思います。ですから,契約に関しましても,いろいろなことに関しましても,何となく受けとめてきた著作者もたくさんいるということは事実です。
今回,そもそもこの委員会,電子書籍の流通と利用促進とかとなりますと,うまく流通して,うまく利用されるにはどうしたらいいかということなんだと思うんですが,先ほどちらっと感想を述べましたけれども,まるであたかも著作者が出版社が電子化することに対して非常に抵抗しているかのように,もし誤解されたとしたら,それはちょっと違うなという感想を持ちました。
こんなこと,ぶっちゃけてお話っていけないんですけれども,私がかかわる世界,漫画ですけれども,最初のころ,「塩漬け」という言葉を出させていただきましたが,今,各出版社が漫画に関して,電子化をして,配信をしてということに取り組んでおります。ただ,そこで取り上げられ,電子化される作品はどういうものであるかといいますと,今売れる作品なんですね。かなり多くの作品が忘れ去られたまま塩漬けになるんじゃないかと,そのような危惧もあったわけです。正直申しまして今もあります。
ですから,より流通が促進されて,電子書籍というものの世界が活性化するのであれば,著作者にとっては大歓迎なんです。正直申し上げて,一番最初に作品を書かせていただいた出版社から単行本も出たり,文庫本も出たり,電子化されて配信されたりすると,著者にとっては,それが一番安心だし,楽なんですね。
ところが,もともとの出版社に,自分たちの作品をすべて電子化して,何とかしてくださいとはとても言えません。表向きは,「言ってくだされば」とかって言ってくださったりするんです。明治以来の友情の上にね。(笑)ところが,多くの著作者は,そんな厚かましいことを自分で言えないんですね。この世界では。やはりお声がかかって,その上で,「あなたの作品を電子化したいんですけど」と言われたときに初めて,「ああ,お声がかかった」って思われる,そういう世界ですから,声がかからない限りは置いてきぼりになるわけです。だから,どんどん電子化してほしいというのが,ほとんどの著作者の本音だと思います。それは収入に結びつくわけですから。でも,ほとんどがされません。
だから,出版社とはかかわりのないところといいますか,新しく出てきた電子版の制作会社,そちらと話をして,もとの出版社から,「いいですよ」と。「そちらで出してもいいですよ」と言われたものについて,電子化に参入して,そこから収入を得られたという人もたくさんいるわけです。そういう何だか非常に,「今どき,そんな時代じゃないでしょう」と言われるようなことも現実としてあります。いまだに。
ですから,ここに描かれているような雰囲気ですね。出版社は電子化したいんだけれども,作者との話し合いが難しいがゆえになかなかできないということは,それはおそらく,ごく一部の大変売れている作家の方だけの話だと思います。出版社に文句を言っているわけではなくて,出版社も何か慈善事業でやっているわけではありません。それなりの収益を上げなければいけないわけです。これまで一生懸命,収益を上げて,新しい表現方法の発掘を担ってきたわけですよね。その出版社に対して,収益の上がらなさそうな作品まで電子化しなさいなんて,おそらく過去,だれも言えなかったと思います。ですから,言わないまま来たし,出版社もそれをしなくてよかったわけですよね。そういう背景も少しはご理解いただきたいことがあります。
ですから,著作者たち,特に私の分野,漫画なんですけれども,何かここで出版社の権利が大きくなるというと,まず心配するのは,これからますます出版社以外との仕事がしにくくなるのではないか。そうすると,これまでほんの少し実現していた新しく立ち上がった数多くの電子版制作会社ですね。電子版制作会社から配信会社に対して配信をお願いして,今,世に出回っているという,それで読める電子書籍はいっぱいあります。その道が,もしかしたら,もとの出版者の意図により左右されるんじゃないかという,非常に子供っぽいんですけれども,そういうおそれがあるということで,何かといろいろと申し上げてきたということをご理解いただきたいと思います。
私の個人的な意見ですが,これを機会に,日本の出版の世界のわかりやすい契約を,すべて契約書で交わす。そして,権利関係もお互いにきちんとわかりやすく共有し合って,明治時代から脱却すべきだと,そう思います。その辺がオープンになれば,こんな何かまるで対立構造のようなものではなくて,著作者も安心して任すことができ,出版社のほうもいろいろ冒険ができて,なおかつ先端の利益が得られるということ。お互いに享受できる,そういう世界をつくっていくべきだと思います。もともとそれがあれば,こんなことで長い時間かけなくても,簡単に言えば,違法コピーに対して著者側と版元がタッグを組んで,どう対抗していくかという具体策,そこからスタートできたはずですし,電子版の流通促進に関しても,より積極的な議論に持っていけたような気がしております。
ですから,さまざまな意見とか具体策が出ておりますけれども,より作品を生かすことができ,かつ著作者の権利も守られつつ,出版社も伸び伸びと仕事ができるというふうになると,そのためには,やはり具体策を1つ1つ,これから検討していき,それが法的に可能であるかどうか。可能でないなら,法改正をするか,それとも可能な方策を見出すかというふうに絞っていったほうがいいと思います。
さまざまな契約で,法で決めてしまうよりも,もしかして,個々の契約で,個々の作者によっては著作権譲渡してもいいという人は結構出てくるかもしれません。あるいは,期限付きでですね。試しに何年だけやっているよとか,そういう著作者も出てくるかもしれないんですね。それが既にある権利を,どちらがどう生かすかということをもう少し幅広く個々のケースについて考えてもいいんじゃないかなとは思います。著作権譲渡については,とんでもない反対意見も出てくるのはわかりますけれども,著者によっては,自分がやってもいいとなると,それは個々の著作権者の自由裁量の中でできることですから,そういう実験的取り組みを,年度を区切ってやる方が出てきてもいいなとは思っております。まだ契約において,欧米型に沿うのかどうかはわかりませんけれども,個々の契約で著作権の中の一部の部分を出版社と共有するとか,そういう契約書を個々の作者と版元とで交わす。そういう具体的な方策ですね。これは法改正じゃなくて。そういうことができると思いますので。
まとめに入るところで,何か1つの方向を目指してまとめるのは無理かもしれないと思いますので,てんでんばらばらの感想なり意見なりになりましたが,思うところを述べさせていただきました。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。それでは,糸賀構成員。
【糸賀構成員】
今,論じられている問題は,基本的に著作者と出版者の間の関係のことだから,その当事者が既に納得しているんだから,今さら議論を蒸し返す必要がないというような趣旨だったろうと思います。
ただ,この会議の,これはいずれ何らかの形で報告書といいますか,会議の記録が公表されるとなると,これは大半の人は,いわば読者であって,利用者の方が見るわけですよね。そういう方たちから見ても,この出版者と著作者の関係がこれで納得できるというようなものになっていれば,これは別に言ってみれば三者がそれぞれ満足するわけで,「めでたし,めでたし」で終わるんだろうと思います。
やはり,この会議としては,必ずしも著作者と出版者だけではなくて,私のように,どちらかというと利用者といいますか,読者に近いような立場にいる人間もいるので,そういう人間からも,今ご提案のものが納得できるかどうかというところなんだろうと思います。
それで,今の議論を聞いていると,ちょっと私もよくわからなくなってきたんですけれども,出版者への権利を付与する1つの背景というか目的は――目的と言ったらいいんですね。電子書籍の流通・利用の促進なんですね。これが促進されるために,例えば著作隣接権のようなものを与えるのか,あるいは契約によって一定の権限を出版者も持つようにするべきなのか。それを考えていくに当たって,検討するべき事項を洗い出すというのが,この検討協力者会議の趣旨というか,ミッションなんだろうと思います。ある1つの方向で答えを見出して,それで行くべきだというような提案ができるのかどうか。それは確かにコンセンサスが得られて,提案できれば,私もいいと思いますが,差し当たり,どういうことを検討していかなければいけないかという検討事項の洗い出しというところにあるんだろうと思います。
そういう意味では,でも,こういう問題点もあるんじゃないかという指摘は,私はしておく意味はあるだろうと思います。みんなが満足しちゃって,何の問題もない,これで行くべきだというよりは,「でも,ちょっと待ってね」と。読者の立場から考えると,ほんとうに,要するに読者としては多様なコンテンツが,容易に安く入手できればいいわけですよね。そういう立場から見たときに,これは出版者のほうに行っての権利を――どういう形で与えるかわかりませんけれども,与えたことによって,読者が受けるデメリットという可能性はないのかということを探る必要が私はあるだろうと思うんです。
それも最終的につぶせれば,もちろん権利付与ということで私はいいんだと思いますけれども,そう考えたときに,ほんとうに電子書籍の流通・利用の円滑化につながるのかどうか。そういうインセンティブがきちんと出版者側に作用するかどうかなんですね。私は,この会議で繰り返し申し上げてきましたが,そこの因果関係,あるいは道筋というのは,いまひとつ明確ではないと思いますね。それは,当事者の方は,当然これでうまく行くんだとおっしゃいますけれども,はたから見て,その論理が極めてわかりやすいというようには思えないんですね。
例えば,きょうのこの資料,どこから行きましょうかね。やっぱり5ページですかね。例えば,そういう出版者からの主張がありますと。5ページの下のところに,「出版者の主張に対する構成員からの主な意見」というのが2つ挙がっております。この最初のほうの文章もちょっと,私は事前に見たときには何となくわかったのが,今読み返しても意味がよくわからないんですけれども,「出版者の権利付与により出版物の利用に係る許諾を与える立場となることと,著作権者に係る情報等の管理などのための十分なインセンティブが出版者に与えられることの関係性が不明確」というよりも私は,この文章,よくわかりませんけれども,単純に言って,電子化された書籍の流通円滑化が進むという因果関係,出版者に一定の権利を与えることで,それが促進されるのか。どこかにも書かれていましたけれども,やはり新規のプレーヤーの新規参入をこれが促すのかどうかだと思いますね。現代社会で,つまりそういう規制を外して,いろいろなプレーヤーがここに参入してきて,さまざまな電子出版物が世に流れると。それによって利用者というか,私は,言い換えれば,やはり「購買者」と言ってもいいと思うんです。消費者であり購買者は,その中から多様な選択ができるという,それがいいんだろうと思います。
でも,一方で,これまでの出版社と著作者の結びつき,今の議論を聞いていても大変チームワークがとれていて,あうんの呼吸でどんどん議論が進んでいくところがあると,それだけ既得権益を持った人たちが,よりその既得権益を強固にするのではないか。これは単なる危惧かもしれませんよ。私の余計な勘ぐりかもしれませんよ。でも,そういう可能性もあるわけなので,そういう既得権益の結びつきが強固になって,新規のプレーヤーが入りにくくなるのではないかと。ましてや排他的な権利を与えるわけではないでしょうから,場合によっては著作者が,「いや,ほかの出版社とやりたい」と,手を組むというようなことも当然やりやすくなるような制度設計になっていなければいけないだろうと思います。
その点,そういう危惧される点もあるということを,この会議の意見としてつけておくことは,私は意義があるだろうと思います。実際にそれが制度化されたり,法改正される際には,その点への配慮をきちんとやっていただければ,私も異存はないし,読者の側も満足するだろうと思います。それが一番大きな点ですね。
それと,やはりちょっとわかりにくい,むしろちょっと前田構成員にお尋ねしたいんですけれども,先ほど言われたような3つの可能性といいますか,これは多分,この資料の7ページのところにある「契約による対応」のところに挙げられた3点を言われたのではないかと思うんですが,それでよろしいですか。
そうすると,これは,ここには「出版物に係る権利侵害の対抗の促進」への対応として挙げられているわけですよね。この報告書というか,きょうのこの資料は,全体の構成がわかりにくいんですが,この(2)の権利侵害への対抗の(1)は何なのかというのをずっと先ほどから探していたんですが,いろいろなろに(1)があるものですから,それはやはり,4ページに出てくる,4ページの中ほど下にある「(1)電子書籍への流通の促進」と対応がつながっているのだろうと思います。つまり,利用・流通の促進のための措置というか,提案と,権利侵害,いわゆる違法な出版物でありますとか,権利侵害への対抗策の話というのは,私はやはり別なんだろうと思います。それで,利用・流通の促進という意味では,先ほど申し上げたように,ほんとうにこれが流通・利用の円滑化・促進になるのかどうか,そこの因果関係で,とりわけ既得権益を保護する方向にベクトルが作用するのではないかということの危惧,それが払拭されればいいだろうと思います。
一方,権利侵害への対抗の促進という意味では,契約のやり方,必ずしも新しい法改正を伴わないやり方もあるだろうと。そういうふうなものの組み合わせで考えていって,あとは最終的に,これはもっと別の場で,その中の優先順位をつけるなり,実際にどれが現実的に効果が上がる方法なのか。これも前に申し上げましたけれども,問題点があったときに,その問題点に効くような特効薬を見出すことは確かに必要です。でも,特効薬というのは,その問題の症状に効く,効くだけで済めばいいんですが,思わぬ副作用をもたらすことがあります。そういう副作用をもたらさないで,ほんとうに問題となっていることの解決につながって,読者と著者と出版社,それぞれが満足できるか。少なくとも不満足が最少になるのかどうか,その辺の道筋というのをもう少し確認していったほうがいいだろうと思います。
そういう問題点が幾つかあるということを挙げておくことは,この検討協力者会議として私は意義のあることだと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。中村先生,お願いします。
【中村構成員】
糸賀構成員の発言に関連してのことなんですが,私は今回,しっかりと論点を提示していただいて,さまざまな手段についても分類して網羅をしていただいたと思います。権利の付与,制度の変更については,観念論といいますか,定性的な話はよくわかりました。
1点,同様に懸念しておりますのは,では,そういった権利付与なり制度変更を導入した際に,どういう経済社会的な効果が生ずるかということでありまして,例えば,これも繰り返しこれまで申し上げてきましたけれども,流通促進というものを目指す場合に,じゃあ,どの程度,経済的にそのような量的な効果がこれで発生するのかと。あるいは,副作用として考えられるものは何か。この6ページ目の一番下のほうにも,「経済学的,社会学的な観点等からの更なる検証が必要」と書かれています。私は,「経済学的な」検証でなくても,少なくとも「経済的な」シミュレーションぐらいはアセスメントしておくべきだろうと思います。それは,通常の行政の分野で制度変更が行われるときに,行われるものは事前検証ということでありまして,何らかの方向性を我々はここで出すのであれば,その説明責任も我々は対外的に国民に対して負うということを認識しておく必要があるだろうと思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。それでは,瀬尾構成員。
【瀬尾構成員】
大分議論もいろいろまとまってきつつあるのか,結論が出てきつつあるのか,いろいろな見方があると思いますが,やはり私も,随分これについていろいろ考えさせられて,ここ数回,非常に考えさせられたところが多いです。ただ,やはり私が考えていることの一番根本にあるのは,今,書籍の電子化というのは,日本の文化の曲がり角にあると私は思っています。ほかのものが,ただデジタル化して便利になるだけではなくて,いろいろな仕組みが,この文字のデジタル化によって変わっていくところに私は来ているんじゃないかなというふうに感じています。
その中で,私は電子化は進めるべきだと。それによって,いろいろな新しい世界と,いろいろな精神的な文化の構築,いろいろなことが実現に近づいていくんじゃないかと。私は非常に促進するべき,しかも今生きている人間として,これにきちんと携わって進めていくべきだと思っています。
最初に,この電子書籍の会議の中で,書籍さんの話も出てきておるんですけれども,基本的に書籍さんが出版社がどうであるのかという議論ももちろんあります。私は,これは物をつくっている立場の人間としましても,出版社さんは大変近しいし,今までいろいろ一緒に物をつくってきたパートナーでもあります。ただ,その出版社さんが,そもそもこれからどういうふうなありようをするのかとか,それをここで話すというようなことは,あまりにもちょっと大き過ぎるような気がしているんです。
ここで私は,話すべきなのは,いろいろな係累もあるけれども,電子書籍が進展して,普及して,日本がきちんと日本なりの変革をしていくために何をしたらいいのか。出版社さんが,例えば今度の隣接権にしても,それをやることで電子書籍の出版が進むのか,進まないのか。この前,私は初めてそれをヒアリングのときに伺いました。一般的に考えて権利処理が複雑になる。権利が新しく創設されれば,権利処理は複雑になって,当然流通が滞る方向に行くかもしれないという不安があったんですね。でも,それをこの前,書籍さんは,責任を持って電子書籍を進めると。そのためのインセンティブとして隣接権を訴えているとおっしゃった。はっきりそういうふうにおっしゃったんですね。つまり,目先の,主語が「何とか出版社」とか,「何とか社」ではなくて,「日本の出版文化」という主語を使って,出版社さんがきちんと対応してくださるということだという,責任ある発言として私は受けとめました。なので,そういうふうなインセンティブがあれば,これは全書籍の流通に対して考えるべきであろうというふうに発言いたしました。
同じように,国会図書館さん,図書館さんが日本の情報センターとしていくことは,非常に電子書籍の中で重要なプレーヤーです。出版社さんも重要なプレーヤーです。みんな,その重要なプレーヤーが一丸となって行かなければ,新しいシステムはできない。その中で出版社さんが,そういう責任ある言葉をおっしゃったということについて,私はそれに対しての説明,より納得できる説明ということもあるかもしれないけれども,私はその言葉を非常に信じて重みを持っています。
ただ,現時点で出版の業界を見ると,みずからマーケットをつくってやるというよりは,やはり各個者の利益が優先し,機構が林立し,そして,もっと大きなインフラに飲み込まれていきつつあるような状況を危惧しております。ですから,それに対して,きちんとした電子書籍の流通と促進に対して対抗するような,それを安心させて,納得させていただける部分について,ここで議論して,そして法的な細かいことや何かに関しては,それはちょっとここの場ではないのかなというふうに思います。具体的にどんな内容が必要かとか,それに関しては,ちょっとここの議論ではないのかなと思っています。ただ,電子書籍流通に関して,どれだけプラスかマイナスかという点には絞って,きちんとその説明責任を果たしていただき,責任ある言葉をいただいていく中で,この中での完全な1方向の結論は出ないでしょうけれども,何らかの結論は出てくるんじゃないかなと思っております。
それと,書籍さんがこの前説明された中で,1つ気になっていることは,スケジュール感。電子書籍がどんなふうに進捗していくのかというのは,世間的には非常に早く期待されていました。ただ,最近,停滞という言葉も出てくるように,それがとまっているというふうなことを言われてきています。これはどんな原因があるのか。もしこれが出版者さんが,確固たる法的な地位がないために滞ってしまっていて,そういうことが起きているのかどうか。これもわかりませんけれども,でも何らかの形で,そういう現状を打破できるような方向がこの中でうたえればいいかなということを考えています。ただ,ちょっとその現実の期待感のスケジュール感と,出版さんが,今おっしゃっている,例えば権利付与をした後の世界とかいうふうなスケジュール感と考えると,やはり今の日本の立場と,それからいろいろ進歩してくるインフラとの間でちょっとギャップがあるというふうには思わざるを得ない。
ですので,なかなかこの場で,先ほどから結論をというふうなことで1つにまとまらないというふうなお話は出ていますし,私もそれはそれでいいと思いますが,あくまで電子書籍を流通すべきだというふうな視点というのが,もし皆さんにあるとすれば,その視点でご議論いただいて,そのお題に対しての答えはここでしっかり,基本コンセプトとしては持っていただきたいと思います。ちょっと枝葉末節に流れ過ぎると,不適当な議論に陥る可能性があると思います。私は,図書館さんと出版者さんというのは,この重要な電子書籍の中での主たるプレーヤーであると思っていますし,もちろん権利者もですけれども。ですので,その発言に関しては,やはり重視すべきだというふうには思っております。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。それでは,どうぞ。
【里中構成員】
申しわけありません。長くしゃべるわりにはポイントを欠いていて,誤解を与えたようなので,ちょっと訂正したいと思います。
先ほど申し上げたかったのは,このまま進んでいって,不安材料もいっぱいあるということを申し上げたかったんです。まず,片寄構成員のほうからは,著者側と出版社は,完全に合意に至ったかのようなお話がございましたが,私の立場からは,「イエス」とは申し上げられません。なぜならば,ほかの著者の方たちのこの問題に対する明確な答えとか感想とか全部聞いていないからなんですね。ですから,ここの場で,漫画家として,私が漫画家全員の何かを背負いながら,片寄構成員のほうから,著者側と合意に至ったと言い切られてしまうと,すごく責任を感じますので,それは,「さあ,どうなんでしょう」としか私は申し上げることができません。
あと,先ほどちらっと申し上げたのは,これまでの電子書籍ビジネスを開拓してきたのは,出版社以外の制作会社だということなんですね。その制作会社の方たちは,出版社に申し出て――初期の段階ですよ。初期の段階では,出版社に,あの作品を使いたいと申し出て,そこでいい答えが得られないので,すき間をとって,著者のところに契約に来られたということあたりからスタートしたのがほとんどなんですよ。今は,著者のほうも,やはり出版社には気を使いますので,一応「出版社に話を通してくれ」とか言って,出版社を通して,制作なさっているというか,出版社と契約して制作なさっている会社も増えましたが,これはもう大小というか,大はなくて中小ですね。中小は山ほどの会社があるわけです。スタート時点は自分のところで配信というのが主だったんですが,今は大手さんに配信をお願いして,電子データ版を自分のところで制作する。その契約を漫画家個人と結んでいる。結べる作品は,いわゆる出版社で,「もう要らないよ」と言われた作品が主なんですね。
ですから,そういうことをご理解いただきたいと言ったのは,ここに期待を込めてなんですけれども,出版社が積極的に,現在,日本の大手出版社が積極的に電子書籍の流通・利用を促進すると言い切られるのであれば,より多くの作品を自社で電子化して配信に乗せていただきたいということなんです。これは,もうこの場で話すことじゃなくて,希望を込めて個々で契約のときにお話しすべきことなんですが,ですから,何かちょっと違和感を感じるのは,出版者が権利を持つと電子書籍の利用・流通が促進されるかどうかについては,私は確信も持てませんし,これまでの経緯から見て,果たしてどうなのかなという,ちょっと危惧は持っております。ものすごく悪い言葉で言えば,出版社も仕事ですから,売れそうもない作品までは手を出さないだろうなとしか,今のところ,まだ思えません。ですから,何か積極的な姿勢を示しておられるのに申しわけないんですけれども,まだそういう危惧があるので,果たして言い切れるかどうかということが1点。
それと,権利付与に関しましては,出版社が権利を持つと違法コピーに対する法的対抗措置がとりやすいという,その論点でずっと来られました。そうであるならば,それは必要なんじゃないかなとは思いますが,どこまで有効なのかどうかについては未知数な部分もありますので,100%出版者が権利を持ったら,100%違法コピーは撲滅できるんですねという子供っぽい変な言質をとろうとは思っておりませんが,危惧はやはりしております。
ですから,いろいろ踏まえまして,積極的に前向きに出版社にもぜひ頑張っていただきたいし,日本の出版文化の独自性というのも保ちたいという立場から,出版者の意見にはなるべく寄り添いたいと頭では思いながら心がついていかないという,そういうところがございますので,先ほど最初に発言したところで,もし誤解がありましたら,私は危惧しながらも,今後,あの意見が出なかったじゃないか,あの立場の人,つまり,これまで電子書籍のもとをつくって制作してきた中小のデジタル版制作会社がこれから先どうなるのかということを日本社会として放っておいていいのかと。彼らも頑張ってきたのに,彼らの意見とか立場というのはほとんどこの委員会で反映されていない。大手の配信のところの意見は反映されています。でも,そういう方たちというか,あまたの多くの会社はどうなるのかなというと,これは社会全体にとってどうなんだろうなと,ふと思いますので,こういう意見も一応心配事として出たということがないと,ここで一たん閉めて次に進むと,何か積み残しているじゃないかと,後から言われると,いろいろと思いますので,申し述べさせていただきました。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。それでは片寄構成員。
【片寄構成員】
私のコンセンサスを得るということで里中先生に誤解を与えたということでは申しわけありませんが,私が申し上げたかったのは,電子書籍の流通促進,それは権利侵害対策も含めてですが,それにはやはり何らかの法的評価というのが必要であると。これについては,ある程度皆さんの一定のご理解は得られているのかなという意味で申し上げたわけです。全体像で総合的に理解を得ているというような意味ではありませんでした。なので,それはちょっと補足して説明させていただきます。
それから,出版社が本気で電子書籍の流通促進をしているのかということですが,今現状,出版界というのは,全体で売上を落としております。この中でどうすれば,もう1度多くの著作物を読者に届けられるかと考えておりまして,それはやはり電子書籍に踏み出していかなければいけないだろうということがありまして,これは各社,そのようになっておりますけれども,これをするに当たって,先生方の許諾等々を含めて,積極的なプランニングができないというか,もう少し基盤をいただいて,長期的なプランニング,あるいは戦略を練れるような方法もあるといいなと。それから権利処理体制を権利をいただいたことによって,全体が構築できると。これによって電子書籍の流通促進ができるというようなこともあわせて,当然その前には,権利侵害を,権利をいただいて,迅速に主体となってできるということも含まれますけれども,そういった意味で,流通促進は出版界としてもぜひ進めたいと本気で思っております。でありますので,時間が緩いんじゃないかとかスピードが遅いんじゃないかというご指摘はあるかもしれませんが,意思あるいは思い,姿勢は,そのように多分全社そのように思っております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。三田構成員。
【三田構成員】
私なりに論点を整理して,もう1度,だめ押しで言いたいことがあります。三省デジ懇に出ているときに,ネット業界の方とか端末メーカーの方々が,どうしてコンテンツが増えないんだろうというような疑問が提出された記憶があります。それで,例えばアメリカのように,著作権とか,あるいは出版権全権を出版社の窓口にして委ねておけば出版者と話をするだけで,どんどんコンテンツができるというようなお考えで,ここに書かれてあるような提案をされたという経緯があったのではないかと思います。
しかし,今,里中さんが言われたように,ある出版社に,何か本を出したときに,出版権全権を全部渡してしまうと,例えば,従来,文庫本というものがあります。ところが,文庫本を出していない出版社があります。そういうところに全権を委任してしまいますと,その本は永遠に文庫本にならないわけです。それで,著者に著作権があるのなら,本が出ても,その本が全く流通しなくなったら,この本を別の出版社から文庫本にするというような提案もできるわけです。
電子出版についても同様のことが言えます。1つの出版社,本を出したときに全権を委任してしまいましたら,里中さんが「塩漬け」というふうに言われたように,出版社がその権利を囲い込んでしまって,文庫本にもしないし電子本にもしないと。かえってコンテンツの流通は妨げられるというふうに私は思っております。
一方で,非常にささやかな権利だというふうに私は申しましたけれども,本をつくるためには,版下というものが必要であります。現在はコンピューターで版下をつくりますので,文字情報と,それからレイアウト情報がパッケージされて,情報として,どこかであるわけです。これの権利を出版者さんに委ねるということでありましたらば,その権利を持っている出版者さんは,その情報をもとにして電子書籍をつくるということも低いコストでできるわけです。ですから,この権利を委ねておけば,単に違法コピーの流出をとめるだけではなくて,ここから新たな電子出版をするということも非常にコストを低く簡単にできるということで,コンテンツの流通を促進することになるだろうと私は考えます。
糸賀先生のご懸念のように,何か出版社と著作者が権利を囲い込んでしまって,新たなプレーヤーが出る機会を奪うのではないかというご懸念も確かに理解できるのでありますが,これまでの経緯を見てきましたら,出版社と著作者は,なるべく安い値段で本をつくっていくということをずっと続けてきました。
日本には再販制度というものがあります。本を安売りできないという制度があるんですが,この制度があるから,本に高い値段をつけて安売りさせないというような出版社も著作者もおりません。安売りができないから,もとの定価をできる限り安くして読者に提供するということをやりますし,現在では,新書が増えております。ハードカバーよりも安い値段で読者に本を提供したい。
それから,書き下ろし文庫というものが非常に増えております。書き下ろし文庫というのは,初版が2版,3版ないと,出版社も書き手も苦しいのでありますが,1万5,000部とか1万部とか,あるいは新書だったら初版7,000部というものもあります。これは出版社もそれだけでは赤字を承知で,しかし,はっきり言って,今の本を買う人が貧乏になっておりますので,なるべく安くしないと読者に届かないということで,身を削るようにして安い本を出しているわけです。そうやって1人でも多くの方に本を読んでいただきたいという思いを持っておりますので,出版社にそういうデータも含めた権利を委ねて,それを用いて出版社が安い値段で電子書籍を流通させることができるようになりましたら,コンテンツの流通は大幅に促進されるだろうと私は思います。
ただ,里中さんのご懸念も私はわかります。というのは,漫画とか写真とかいうのは,漫画をかくことが,もう版下なんですね。写真も,デジカメで写真撮ったら,それが,そのものを配信できるわけです。だから,そういう情報を提供する側が,あらかじめそこまでつくったものにプラスして出版社に権利を与えてしまうということの懸念はあるだろうと思います。私は,漫画と写真集については,出版契約のひな型みたいなものをつくって,みんなで合意をした上で出版契約のひな型みたいなもので対処すればいいだろうと思います。
ただ,現状では,普通の出版に関して,契約をあらかじめ結んで本を出すということはやられておりません。契約書というものが存在しますが,本が完成して,後で私のところに送られてくるんですね。ページを開けてみたら,6カ月以内に原稿を書けと書いてあるんですが,もう,ほぼできているんですね。これが現状であります。そういう現状を踏まえた,漫画と写真以外の多くの本は,全部を契約で決めるということは現状では難しいと思います。
ですから,大体の大まかな権利を出版者に委ねるということを1つの基本の慣例にして,それをある程度,著作権法の中に書き込むということは有意義ではないかと。そのことによって,より安価にコンテンツを読者のもとに必ず提供できるというふうに私は考えております。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【瀬尾構成員】
今,写真という分野について,三田構成員からおっしゃいましたので,写真集というのは,確かに1枚ぽっきりの場合も多いし,写真という分野のことについて特殊性もあるし,いろいろなことがあります。写真集の出し方とかもあります。ただ,これははっきり申し上げておきますと,私どもの理事会を含めた部内で,この隣接権を諮ったときに,やはり里中構成員のおっしゃるような懸念から反対の意見が大変多うございます。やはり,これは厳しいという声が多い。
ただ,私は,ここに出てきていて,写真という分野の権利を代弁するだけではないつもりでおります。逆に社会的に,ほんとうにそれがいい方向に行くのであれば,回り回って,絶対写真という分野もよくなるであろうし,そういうことについて,きちんとした説明責任を果たしていきたいと思います。もしそれが写真の内部で,私は認めない,おまえはおれたちの権利を代弁しないということであれば,私じゃない人がいいんでしょう。ただ,私が出させていただいている以上は,そういうふうなスタンスで,ベストであると,先ほど糸賀構成員がおっしゃった,利用者でもある,権利者でもある。それは全員が回らなかったら長い時間で破綻します。だれかが泣いていたら。私はそういうシステムだと思う。だから,そういう大きなサイクルの中にはまるのか,はまらないのか。そして,これは単純な権利の調整ではなくて,大きなビジョンと,ある意味で施策的なディレクションの中で決められる話だと思うので,あえてこういう話をしているし,書籍さんのお申し出に関しても,可能性というふうな言葉を申し上げている。
それと,やはり信頼関係ということもありますし,ここで私は権利の調整をしてはいけないと思っているんです。権利の調整というのは,常に相反しますから。ただ,最終的に,大きなサイクルをきちんと流すことができれば,きっとそのサイクルの中にいる構成員にとっては,最終的には大きなプラスになる。そのためには,きちんとしたビジョンと,やはり主語を目先の利益に置かない部分での発言,構成が必要だろうというふうな立場でお話をしています。ですので,今,契約で写真と漫画さんというようなお話がございましたけれども,大きな制度の中では,そういった分野,分野のことももちろんございますけれども,私は,それは写真に限らず,どの分野であっても大きくきちんとそのサイクルが回れば,きちんとみんな,よく動くし,より創作が日本にあふれてきて,利用者もすべてが満足できるような方向に向かえるというふうに思っています。
ですので,とかく先ほどから,ちょっと権利利害調整的な議論になりがちな部分もあるかと思いますけれども,やはりそういうふうなことではなく,少なくとも私は考えたほうが,これは分野のためでもあるし,全体のためでもあるというふうにして発言をさせていただいております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございます。
【糸賀構成員】
今,発言いただいた三田構成員や瀬尾構成員の言われるように,確かに電子出版の流通が促進されて,読者の手元に円滑に届くようになるのであれば,別に私も異論はありません。
ただ,私,この会議としては,先ほど申し上げたように,いろいろな問題点を洗い出すというところに意味がある。その一方で,この会議の構成員には,やはり読者代表とか消費者代表というような方たちが参加していないわけですから,そういう方たちの目線に立ったときの意見というものも吸い上げなければいけないんだろうと思います。そういう意味で,すべてがハッピーで終わるというわけではなくて,こういう点に対して問題がある。そこを配慮してほしいというふうな言及は,この報告書に何らか,とにかく一般の方に公表するわけですよね。そのときに,そういう視点はぜひ必要だろうと思います。
それで,とにかくきょうの資料の,構成だとか文言について,私,最後にちょっと,やはり改善点は多々あるように思うので指摘しておきたいと思います。
4ページのところで,ここから,この資料というか報告の中核部分になるわけなんですけれども,大きな[2]「出版者への権利付与」の必要性等。ここがとにかく全体として2つに分かれるんですね。(1)が,電子書籍の利用・流通の促進,(2)が出版物に係る権利侵害への対抗の促進――「対抗の促進」というのも何か変な日本語ですけれども,権利侵害への対抗措置ということなんですね。
それで,この(1)の電子書籍の利用・流通の促進の中で,「権利処理の促進」ということが1つ,それから,もう1つが「電子書籍ビジネスへの更なる進出」。つまり,これは先ほどから申し上げている新しいプレーヤーが入ってくるかどうかなんですよ。今発言された方々は,申しわけないけれども,ほんとうに既存の出版者であり著作者なんですよ。今度は,ほんとうに一般の方たちも,自分の創作したものを発表する。今まで書籍の出版・流通にかかわらなかったビジネスの人たちが,新しい電子書籍のプラットホームをつくっていこうとしているわけです。こういう方たちへの配慮というのは,私はやはり必要だろうということです。もちろんそれは,ここにいらっしゃる構成員の方々ですと,当たり前だというふうにおっしゃるかもしれませんが,それは一般国民がこの報告書を見たときに,そういう視点がやや私は欠けているんじゃないかと。そういう意味で,問題点は問題点として解決していくべき課題は課題として,きちんと上げていくべきだろうと思います。
例えば,今度はその次の5ページに行きますと,「出版者から示された主な主張」というのが3点出てまいります。この一番上のポイントのところで,最後の文章,「出版物のより円滑な流通(二次利用等)が可能になり,著作者の利益につながる」と,こう書いてあるんですよね。だから,ここには消費者と著作者の利益にはなっても,読み手にとってどうなんだろうかというのが欠けている。
そうすると,今度は5ページの下の,「出版者の主張に対する構成員からの主な意見」。先ほど申し上げたように,この文章は,ちょっと申しわけないけど,私は悪文だと思います。よくわからない文章ですが,少なくとも前半の「出版者への権利付与により出版物の利用に係る許諾を与える立場」,ここまではいいんです。「となることと」,この問題を取り上げたのは,電子書籍の利用・流通の促進なんですから,電子書籍の流通・利用を促進に向けた十分なインセンティブが出版者に与えられ,それが読者の利益につながるということの関係性が私は不明確なんだと思います。その辺,やはりちょっと文言等,読者にとっての利益につながるかどうかというところがポイントだと思います。
それから,6ページで,これは先ほど中村構成員が言われたとおりだと私も思います。下のほうの構成員からの主な意見で,経済学的,社会学的な観点というのは,どなたが発言されたのかわかりませんが,ちょっと学問的な観点というよりも,これはやはり経済的な観点,あるいは社会的な影響,そういうふうな視点からであって,別に学問的な検証をここで求めているわけではないだろうと思います。
そして,問題は7ページなんですが,ここから今度は,先ほど言った権利侵害への対抗措置なんですね。ここで,「契約による対応」というのが7ページの上のほう,1)に挙がっています。ところが,これのマル3は,「出版権」の規定で,いわゆる電子出版権のようなものの規定を新たに設けるという意味だと私は受けとめました。これが契約による対応というカテゴリーのもとに含まれるのかどうかは,私はちょっと法律だとかの専門ではないので,よくわかりませんが,これは「契約による対応」と言っていいのかどうか,ちょっとよくわかりません。
とにかく,この権利侵害への対抗ですけれども,これは前回の会議というふうに私は申し上げまして,前回受け取った資料を家に持ち帰って,またよく検討したんですけれども,やはり,今の電子出版物の流通の中で,違法な手続,違法な手段による利用がどの程度あるのかは,やはりよくわからないんですね。それは,私は金額ベースでもいいし,流通している量を,例えば何ギガバイトとかでもいいですよ。これだけ正当な手続によって流通しているものに対して,違法に流通しているのはこのぐらいの割合なのだ。したがって,これはきちんと権利侵害に対する対抗措置をとらなければいけないんだと。そうしないと,ほんとうに出版界が危ういんだということはよくわからなかったです。その辺は,もう少し,どの程度損害があるのか。単純に金額ベースで言って,例えば,1,000億円流通している中で,そういった違法のものなどが1億程度だったら,それは大したものではないとも言えるわけです。逆に,そこにいろいろと,「対抗措置」とここに書いてある,対抗手続をとることによって,健全なほうの流通が妨げられてはいけないんだろうと思います。そういう意味で,先ほどから申し上げている,こういったことをやったときの副作用についても配慮しておかなければいけないと思います。
誤解のないように申し上げておきたいんですが,私はやはりそれは違法な出版物の流通というのは,それは決していいことではないし,それは断固取り締まるべきだと思います。ですが,バルブを強く締めようとしたがために,本来流通するべきものも流通量が減ってしまうというのはまずいだろうと。そこのバランスはきちんと考えていく必要があるだろうと思います。
そういう意味で,大きく全体が2つに分かれていて,前半が電子出版物の流通や利用を円滑化するためにとるべき方策,そして後半は権利侵害への対抗と。この両方への対抗措置が,両方に効果的に効けばいいんですけれども,一方には有効であるがために,他方にとってはかえってそれが妨げになるというようなことも考えられます。それが両方を,いわゆる一石二鳥ですね。一石二鳥で両方をきちんと実現することができるのであれば,それはいいことだと思いますが,そういった方策を考えていくためには,確かにそれぞれにとっての権利の侵害,そして権利が義務と相まって,どういうふうに作用するのか。そういうことについて慎重に考えていかなければいけない。その指摘は,今回のこの協力者会議の場でしておくべきであろうと思います。
そういう意味では,基本的な構成は,もう少し全体の構成を,これは数字だけではなくてアルファベットも使って,ちょっとわかりやすくする工夫はしていただいたほうがいいし,文言についても,やや精査しておくべき必要があるだろうと思います。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【金原構成員】
ここでの論点は,今,糸賀構成員がおまとめになったとおり,流通の促進を図るということと,それから権利侵害に対応する。この2つが要点でありまして,これを両方とも満足させなければならないわけです。
それで,流通の促進はどうするのかというと,これはもう私どもの出版社と著作者の間で,電子流通が可能になるような取り決めをどんどんやって,著者と出版社の間で,どういう形で何を,どのような方法で配信するかということをどんどん決めて,契約なり,そのほかの方法によって,出版社がそれを技術的な対応を図ってやっていくことに尽きるわけで,それがなければ,決して流通の促進にはつながらないだろうと思います。
じゃあ,そこはどうするのかというと,もちろん我々はそこを積極的に推し進めますというお約束をすることしか,これを今,数字上,これがいわば数千億円,あるいはどのような金額で,これが達成できますということは,これは何ともこの時点ではお答えしようがないわけですが,それはもう出版社を信頼していただいて,「やります」と言っている以上,約束違反にならないように我々はご指導いただきたいと思っています。それはもう前回でも,そのような話は出版側からお伝えしたつもりでおります。
もう1つの問題は,この権利侵害にどうやって対応するかですが,実は,この2つの問題は裏腹の問題でありまして,権利侵害に対して,出版者が一定の権利を持つことによって,侵害者に対応するというのは,これはもう,ここでもかなり議論されていますし,そのとおりであるわけですが,それが担保されることによって,流通の促進が図れるんだろうというふうに思っています。図るだろうと思っているのではなくて,そのとおりなんです。そこの権利の保全がなければ,結局,流通の促進も図れないわけで,何か必ずこの電子の世界では,流通させることによって侵害が起きるという過去の例を見てみればお分かり頂けると思います。
そうすると,じゃあ,それに対して何らの対抗手段もとれないということになると,出版としては二の足を踏んでしまう。それが現状です。ですから,出版者に対しては何らかの権利の創設がなされるということは,流通の促進にも基本的につながることであるというふうに我々は考えています。
そこで,車輪の両輪のように,1つの権利が,今,糸賀先生は一石二鳥だとおっしゃったんですが,まさにこれが一石二鳥なんだろうと思っています。権利の創設によって流通の促進も図れる。それから,権利の侵害に対しても対抗できるということにつながるんだろうと思っています。
それは,出版社と著作者の利益にもつながることですが,必ず読者の利益にもつながると思います。違法な侵害者によって,安価な値段で買えることが読者の利益だということなら,それはまた別の話ですが,糸賀構成員もそんなことを言っているのではないということを先ほどおっしゃっていましたから,やはりそれにはしかるべき対抗手段をとらなければいけないと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
【瀬尾構成員】
よろしいですか。先ほどのお話にちょっと,創造サイクルを維持するというお話をさせていただいたんですが,私は,あと糸賀構成員のおっしゃったことと非常に根底にあるものは近いんですが,例えば,流通がデパート主体であったりとかした時点で,ネット流通,オークション等によって流通が変わりました。個人が売り手であり書い手であるという時代に変わって,より大きな変化があった。これによって社会はある意味で豊かになっただろうと思うし,広告もネット広告によって,今までの広告モデルも大きく変化をしてきている。つまり,大きな新聞,民放という大きなメディアすらも変貌せざるを得ないぐらいの変化が来ている。これは非常に小さなものがたくさん参入することによって大きなものを動かすというふうな状況が来ていると思います。
今回の電子書籍についても,実はそういうふうなことが起こり得る可能性がある。つまり,たくさんの出版物が小さくいっぱい出てくる可能性がある。ただ,私は,出版社というのは,もっとそんなもので揺らぐような伝統とかの蓄積ではないと思っておりますし,ただ,変貌せざるを得ないとは思っています。
ただ,それを,そういう時代が来る前に,例えば流通が変わる前にデパートさんが規制をかけて,そういう個人流通を措置するようなことがあってはいけなかったし,そういうことは実際になかったわけですが,今,出版さんがやろうとしていることが,そういう弊害が起きてしまうとすると,それは既存の体制を維持することには役に立っても,大きな意味での電子書籍の流通に関してはマイナスになるというふうには思います。ただ,そういうところも含めて,私はきちんと出版さんが今までのノウハウを生かしたマーケットや何かにきちんと力を出していき,そういうことに対しての,文化に対しての保全を図っていくというふうなことを担保だと思っているし,そういうことの議論だと思っています。
ですから,今までの既存の体制がただ来るだけではなくて,新しい電子書籍の体制の中で出版という業種の皆さんが,これまで以上にリーダーシップと新しいマーケットをしていく。それについては,今言った小さな新しいコンテンツの創造を阻害しないというのは,これが私は前提だと思っていますし,まさかそういうふうなことを意図されているようなことは絶対にないと私は信じた上で,先の発言をしています。それが文化に対する責任を負うという言葉です。その旧来の体制を維持するのではなくて,文化と新しい創造サイクルに対して主導的な立場をとるというのは,そういうことも含めての言葉であろうかと私はとったので,ああいう発言をさせていただきました。
もっと説明をということであれば,必要なのかもしれませんが,やはりそういうことに対する配慮というのを,この会議で欠いてはいけないというのは,全くそのとおりだと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。
私も発言したいことがあるのですけれども,お許し願えますか。
1つは,里中構成員の発言の中にあったのですけれども,中小のデジタル書籍の製作会社の人たちがいると思うんです。この電子書籍時代を迎えて,黒船到来と,大慌てしたのは,既存の紙媒体の出版社だったと思うのです。しかし,黒船が到来したことが,自分たちの商売の機会ですね,商機であるというので,参入をしてこようという人たちもおそらくいたのだろう,あるいはいるのだろうと思うんです。そのようなデジタル書籍の制作会社の声というのは,この検討会には反映されていませんね。糸賀構成員の発言の中には,消費者とか読者の声が反映されていないというご趣旨もあったと思うのですが,もう1つ,そういう人たちの声が反映されていない。
そうしますと,電子書籍の利用・流通の促進についてというテーマなんですけれども,これは既存の紙媒体の出版社にとって促進につながってほしいということで,いろいろおっしゃってきたわけです。けれども,それ以外のデジタル書籍の制作会社は,どういうことを希望しているのかなと。これは,まだ業界というものが形成されておらず,その声をこういう場に届ける窓口がないわけですから,今回の検討会に,そういった見解が反映されなかったのはやむを得ないとは思うのですが,我々は,想像をたくましくして,その方たちの見解,意見ですね。そういうものも考えてみる必要があるのではないかということが第1点なんです。ですから,出版者への権利付与の必要性とあるんですが,この出版者の中には,既存の紙媒体の出版者だけでなくて,中小のデジタル書籍の制作会社も本来は含めて考えるべきであったろうと,そういうふうに思うわけです。
それから,2つ目は,出版物に係る権利侵害の対抗の問題ですが,これについては冒頭に前田構成員が,出版権の規定の改正か,それとも著作隣接権類似の規定の創設かという,こういう選択肢を示されたわけですけれども,これは侵害行為への対応ですから,日本国内だけの問題ではなくて,よその国で侵害が行われたときに,その国の裁判所に訴えて勝てるような権利でないといけないんですけれども,著作隣接権を出版者に与えている国は,おそらく世界中で1つもないと思います。
そういう権利を,例えば外国の裁判所で,著作隣接権の侵害があったと言って訴えてみても,これは国際私法という法律の世界の話になるんですが,多分その国の公序に反するということで,そういう主張をしても認めてもらえないと思うんです。安全なのは何かといったら,自分は著作権者であると。これはどの国もベルヌ条約に入っており,著作権を保護しなければいけないから,著作権者であるという主張をするか,それとも契約上,こういう権利を与えられていますという主張をするか,どちらかだろうと思うんです。契約の効力は,どの国でも認めることになっていますので,そういう主張の仕方もある。
ですから,前田構成員にお尋ねしたいんですけれども,選択肢が2つ挙げられましたけれども,外国で訴訟を起こすということを考えると,やはり出版権。これは契約に基づく権利ですので,こちらを与えたほうがよいのではないかということですね。
それから,著作権者という主張をしても外国の裁判所は認めてくれると思うのですが,そのときは,出版者が著作権の譲渡を受けておくということだと思います。ただ,その著作権の譲渡というと,音楽著作物の著作者がJASRACにすべての著作権を譲渡してしまうというのとは違って,電子書籍の海賊版を押さえればいいわけですから,公衆送信権だけ譲り受けて,それを出版者が外国で行使するということにすればいいのではないかなと。あまり著作権の譲渡ということについてアレルギーを起こす必要はないように私には思えるのですけどね。時代が変わっていますから,いつまでも昔の感覚でいたのでは対応できないように思うんです。
以上,ちょっと権限濫用でしたね。(笑)長く発言し過ぎましたけれども,そういう2つのことを考えておりました。  三田構成員,お願いします。
【三田構成員】
私の理解では,前回の出版者さんの,こういう権利が欲しいという説明の中に「隣接権」という言葉はなかったと理解しております。ただ,ちょっと前から,「隣接権」という言葉がひとり歩きしていたことは事実でありますが,私の理解としては,我々は出版をするときに,出版契約書を結びますが,契約書がなくても,日本の著作権法には,これこれのことであるというようなことが書いてあります。そこに含まれているものは,まず複製権。その本の複製権と,その複製権全部ではなくて,ある単行本を出すと,その形の複製をつくる権利と,その複製を譲渡する権利ですね。これを出版契約の中で出版者に委ねていくということであります。
前回の出版者の要望でありましたらば,その形の本をつくるために必要な版下であるとか,版下をつくるために必要な電子情報ですね。こういうものを出版者に委ねてほしいということでありましたので,それを一定期間,譲渡しておくということであればいいのだろうと思います。
それとは全く異なる形態の出版物をつくる場合は,この権利はないと。つまり,著作権そのものを委ねるわけではないんだというようなことを私は出版者のご要望から理解をいたしておりましたし,ですから,前回の出版者の要望では,その出版者に権利を与えることが,電子書籍を出版する権利を与えるということではないんだと,こういうふうに思っております。
ただ,このことによって,違法なデータの流出がないということになれば,出版者は安心して,新たに電子書籍をつくることもできますし,データを持っておりますから,それを使って,電子書籍をつくることも非常にコストが安くなると。つまり,このことによって,当該の紙の本を出した出版者の電子書籍をつくりやすくなるということはあるだろうと思います。そのことがコンテンツの促進になるというふうに私は理解しております。
ということで,隣接権をあげるよということを私は認めたわけではなくて,この出版者に必要な権利を委ねる必要があるということを申し上げているわけであります。
以上です。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。前田構成員,お願いします。
【前田構成員】
海外での権利侵害に対して,どう対抗するかということなんですけれども,もともと海外での権利侵害に対して権利を行使しようとするときには,保護が求められる国の法律によるわけですので,日本法をどうしようが,基本的には関係ないことだと思うんです。先ほどご指摘がありましたように,著作権の譲渡ということであるならば,著作権は基本的には属地主義ですから,1つの著作物について,日本の著作権と中国における著作権とは別個の権利として存在しているということになると思うんですが,その中国における著作権を出版者に譲渡するということであれば,出版社は中国において著作権者として権利行使できることになるんだろうと思うんですけれども,我が国の著作権法制度をどういうふうにしたらいいのかということがここでの検討課題ではないかなと,私は勝手に想像しており,そうであるならば,外国での権利行使の問題というのは,その国の著作権法制の問題であって,日本の法律がどうのこうのできることではありませんので,とりあえずの検討課題としては,我が国の制度をどうするかということになるのかなと,私のほうとしては思っておりました。それが正しい理解かどうかは,ちょっと自信はないんですが。
【渋谷座長】
私も大まかなことしか申し上げられませんでしたので,今正確に説明していただくと,前田構成員がおっしゃったことになりますね。
【糸賀構成員】
先ほど座長が発言されて,中小の出版社――出版社というよりは,これまで例えば,出版とあまり縁がなかったところですら,電子書籍に関しては,場合によっては,ここに参入することがあり得るわけですよね。先ほど申し上げましたように,そういうプラットホームといいますか,そういう手段を持っているところが,実はたくさんあるわけです。今,海外の例もありましたけれども,例えば,日本の出版物を海外の資本が参入してきて,これを流通させる。特に漫画とかというのは,もう今,世界中で読まれていますので,そういうものを取り上げる可能性は十分あるわけですね。
私が先ほどの発言の中で,新規のプレーヤーが参入しやすいという意味の中には,座長が言われるような,そういう中小といいますか,それこそ今まで出版社というカテゴリーに含まれなかったような人たちも当然入ってくるんだろうと思います。
さらに,これは電子書籍に関しては,いわゆる再販制が適用されませんから,価格についても,いわば自由につけられるわけですね。そうした競争原理がある程度働いているんですよ。ただし,私,これは出版文化というのは,完全に競争原理がなじむかどうかということに関しては,私も書籍だとか学術出版にかかわる立場にいる1人の人間として,単純に競争原理で,安ければいいというものでもないだろうと思っています。ですけれども,独占的に,ある著者と出版者が契約なり関係があって,そこしか出せないと。もっと低廉な価格で,もっと多くの人がアクセスしやすいような環境が用意できるのであれば,要するに,この国全体の知の力というものの底上げを図るためであれば,そこはもっと自由にいろいろなプレーヤーが参入できたほうがいいだろうという意味合いです。
それを促す方向に,例えば著作隣接権にしても,新たな電子出版権にしても,そういうものを設けることで,そういう方向にベクトルが働くのであれば,私はもちろん賛成です。ただ,ほんとうにそうなるのかなというようなところが,やや懸念される点があると。先ほど金原構成員が。いや,もうそれは本気で,ここで明言するんだから大丈夫だというふうにおっしゃっていただきました。大変心強いので,私もそれならお任せしようかと思いますけれども,でも,そこをきちんと押さえていますよということは,この我々の会議から出すメッセージとして,ちゃんとこのメッセージを読み取る方たちに伝わるように文言はちゃんと書くべきだろうと。それを,もうこっちはお互いに納得しているんだから,これで大丈夫ですよというよりは,やはり読者や国民,そういった方たちに対するメッセージ性があるような報告書でないといけないと思います。一部の専門家,一部の業界関係者だけが読むというものではありませんから,これは広く国民の方たちが読んで,確かにこうやってもらえれば,自分たちにとっての利益につながる。それがひいては日本全体の国益につながっていくんだということがわかるようにしていただければいいと思います。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。大渕構成員。
【大渕構成員】
この場は割と,ようやく前回ぐらいから,今議論しているテーマの内容が徐々に明らかになりつつあるという感じで,なかなか今まで発言しにくかったところがあるんですけれども,今,糸賀委員が言われた点は大変重要な点を含んでいると思いまして,これは最終的には,報告書という形で示すことになるので,一定の範囲では,もうあうんの呼吸のようにわかっていることでも,紙に出ていなければ,読者のほうは,この検討会は何を検討していたんだろうというふうなことで,説明責任というような話かどうかは別として,ある程度一般の人から見ても,この人たちはこういうことを検討したんだなというところがもう少しわかるように出ている必要があるんじゃないかなという点では,1つ言えるのはどこまで検討できたか,あるいは今後どの点が検討が必要かというあたりの,先ほど言われたような整理あたりぐらいは示すということで,これでもうすべて解決したというのか,今後こういう点も検討が必要であるというところはきちんと出す必要があって,それで法的なところは細かいところに入ると,私はすぐそちらのほうに行ってしまうんですが,今まで非常に自粛してきて,ただ,これ,今まで外縁があまりはっきりしなかったので議論しにくかったんですが,最低限言えそうなのは,現行法でどの程度処理ができて,できない範囲はどこかというあたり,まだいろいろ言い出すと,詰めるべき点がありますし,強いて言いますと,こういうような権利を付与することに伴って,先ほど社会学的というのは言い過ぎじゃないかという話がありましたけれども,法的なインパクト,あるいは経済社会的なインパクトというのがどういう方向に働くのかというところたりは,きちんと詰める必要があって,例えば6ページのあたりに,「メリット,見通しについて云々」というような抽象的な形で書かれていますけれども,これは「メリット,見通し」と書いてあるだけで,別にそんなに,細かいデータを出すことは難しいとは思いますけれども,何も数字とか統計とかも入らずに,「見通し,メリット」と言うだけでは,読んだ人が,ここの検討会では何を検討していたのかということにもなりかねませんので,それは今後,もっと具体化のために何か詰めていくべきだとか,何かしらのことを書かないといけないので,そのあたりは,ただ,これは時間も迫っているし,限界はあるかと思うんですが,これですべて済んだわけじゃなくて,今後こういう点はきちんと,これは1つのステップになって,次の検討に行くかと思うんですが,「ここまではやりました。今後はこういう点を詰めていきます」と,そういう形でまとめていくこと,ファイナルでみんな納得して線が出れば別ですけれども,そうじゃなければ,そのあたりはきちんと示していかないと,ここで何をやっていたんだと言われかねませんので,このあたりは注意していく必要があるのではないかと思っております。
【渋谷座長】
どうもありがとうございました。ほかにいかがでしょうか。
それでは,そろそろ時刻が迫ってきております。このあたりで本日の会議はお開きということにしてよろしゅうございましょうか。
それでは,そのようにさせていただきます。事務局から連絡事項がございましたら,お願いします。
【鈴木著作物流推進室室長補佐】
長時間にわたります議論,ありがとうございました。本日の議論を踏まえまして,また次回につきましては,その議論の内容を整理した形での資料を提出させていただければと思っております。
また,次回の検討会議の開催日程ですが,現在調整中でございます。決まり次第,またご連絡させていただきたいと思っております。
【渋谷座長】
それでは,これをもちまして,第12回の会議を終わらせていただきます。本日は,大変ありがとうございました。

── 了 ──

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