前文 文化芸術資源で未来をつくり,「文化芸術立国」へ

 我が国は,諸外国を魅了する有形・無形の文化財を有しているとともに,日本人には地域に根付いた祭りや踊りに参加する伝統がある。また,我が国では,多様な文化芸術活動が行われるとともに,日常においても,稽古事や趣味などを通して様々な文化芸術体験が盛んに行われてきた。

 こうした日本の文化財や伝統等は,世界に誇るべきものであり,これを維持,継承,発展させることはもとより,日本人自身がその価値を十分に認識した上で,国内外への発信を,更に強化していく必要がある。

 また,経済成長のみを追求するのではない,成熟社会に適合した新たな社会モデルを構築していくことが求められているなか,教育,福祉,まちづくり,観光・産業等幅広い分野との関連性を意識しながら,それら周辺領域への波及効果を視野に入れた文化芸術振興施策の展開がより一層求められる。

 他方で,人口減少社会が到来し,特に地方においては過疎化や少子高齢化等の影響,都市部においても単身世帯の増加等の影響により,地域コミュニティの衰退と文化芸術の担い手不足が指摘されている。また,昨今の経済情勢や,厳しさを増す地方の財政状況などからも,地域の文化芸術を支える基盤の脆(ぜい)弱化に対する危機感が広がっている。文化芸術が生み出す社会への波及効果を,こうした諸課題の改善や解決につなげることも,求められている。

 オリンピック・パラリンピック東京大会(以下,「2020年東京大会」という。)は,我が国の文化財や伝統等の価値を世界へ発信するとともに,文化芸術が生み出す社会への波及効果を生かして,諸課題を乗り越え,成熟社会に適合した新たな社会モデルの構築につなげていくまたとない機会である。

 本基本方針は,文化芸術資源で未来をつくり,以下のような「文化芸術立国」の姿を創出していくための国家戦略となることを目指す。

我が国が目指す「文化芸術立国」の姿

(1)
 子供から高齢者まで,あらゆる人々が我が国の様々な場で,創作活動へ参加,鑑賞体験できる機会等を,国や地方公共団体はもとより,芸術家,文化芸術団体,NPO,企業等様々な民間主体が提供している。
(2)
 全国の地方公共団体,多くの文化芸術団体,文化施設,芸術家等の関係者により,世界に誇る日本各地の文化力を生かしながら,2020年東京大会を契機とする文化プログラムの全国展開等がなされている。
(3)
 日本全国津々浦々から,世界中に各地の文化芸術の魅力が発信されている。 東日本大震災の被災地からは,力強く復興している姿を,地域の文化芸術の魅力と一体となって,国内外へ発信している。
(4)
 2020年東京大会を契機とする文化プログラムの全国展開等に伴い,国内外の多くの人々が,それらに生き生きと参画しているとともに,文化芸術に従事する者が安心して,希望を持ちながら働いている。そして,文化芸術関係の新たな雇用や,産業が現在よりも大幅に創出されている。
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