出土品の取扱いについて(報告)〈概要版〉

平成9年2月
埋蔵文化財発掘調査体制等の整備充実に関する調査研究委員会

第1章 出土品の取扱いに関する基本的な考え方

1 出土品の価値とその取扱いの制度
 発掘調査に伴う出土品は我が国の歴史や文化を理解する上で欠くことのできない歴史的遺産であり,発掘調査の成果としての出土品を文化財としていかに適切に保存・活用していくかが埋蔵文化財行政の大きな課題となっている。
 また,発掘調査に伴う出土品は,そのほとんどが所有者不明のものとして出土した地方公共団体所有となっており,文化庁の指導により当該地方公共団体で一括して保存・活用されている。

2 出土品の保管・管理の現状と課題
 現在,地方公共団体に保管されている出土品は約459万箱(出土品量を60cm×40cm×15cmのプラスチックコンテナ箱に換算。以下同じ。)に上り,ここ数年毎年約30万箱づつ増加していっている。
 保管・管理の現状は,暫定的な保管施設保管が246万箱で半数強を占め,屋外野積みが約15万箱ある。保管されている出土品のうち未整理が約4割を占め,整理棚に収納されているのは191万箱である。
 出土品の保管・管理の現状は好ましいものではなく,また,現に多くの地方公共団体において,すでに収蔵され,今後増え続ける出土品の取扱いに苦慮しており,その取扱いのあり方は文化財保護行政上の大きな課題となっている。
 なお,平成7年11月の総務庁行政監察局「芸術文化の振興に関する行政監察結果報告書」においても,出土品の状態や活用の可能性等に応じた保管方法の効率化を図るための取扱い基準を定めることが求められている。

3 出土品の取扱いの今後のあり方
 出土品の保存・活用の現状及び発掘調査事業量の増加に伴い,従来以上に出土品の保管・管理のあり方が問題となることが予想され,その取扱いの基本的な考え方と取扱いの基準を明らかにする必要がある。
 出土品の取扱いに関する基本的考え方と取扱いの基準は,出土品の種類,性格,活用のあり方等に係る各地域の事情を反映する必要があり,文化庁で大枠を示し,各都道府県がより具体的な方針を定めることとするのが望ましい。
 今回の報告はこのような観点から,(1)将来にわたり保存・活用を要する出土品の選択のあり方,(2)出土品の合理的な保管・管理のあり方,(3)出土品の活用のあり方について検討しまとめたものである。

第2章 将来にわたり保存・活用すべき出土品の選択

1 現状と課題
 現在,多くの地方公共団体において発掘調査に伴う出土品の保管・管理に苦慮する状況となっており,出土品の取扱いに関する基本的考え方及び取扱いの基準を示す必要がある。また,実態上は多くの地方公共団体において,特定の種類の出土品について,発掘調査の過程や出土品の整理等の段階で,地域の実情や出土品の重量その他の物理的性格等に応じ,発掘調査担当者の経験に培われた方法により保管するものの選択を行っているが,このような選択的取扱いについて,一般的な方針・標準を定め意識的に実施している例はなく,各地方公共団体間の取扱いの差が大きい。

現在,地方公共団体において発掘調査現場や出土品整理等の段階で,出土品の選択を行い一定量のみを保管することとし,又は,記録をとるのみで保管は行わない扱いとしているものとしては,近世以降の瓦,近世以降の遺跡の遺構を構成する井戸枠・木樋・建物基礎材,住居・炉遺構・集石遺構・礫群等に使用されている自然石,古墳の葺き石・石室の石材,貝塚の貝殻,炭焼き窯跡から出土する木炭,近世以降の製鉄遺構・鍛冶遺構に伴う鉱滓,植物の種実や植物遺体,住居跡や土坑等の埋土等がある。

このため,出土品の取扱いを改善するためには,保管・管理する必要のある出土品の選択についての基本的な考え方及び一定の標準を定め,それに準拠して保管・管理の対象とする出土品の選択を行うこととする必要がある。この場合,出土品の選択に関する考え方及び標準は,大枠を文化庁で示し,それをもとに各都道府県がその地域の具体的な標準を定めることとする。

2 改善方策

  • (1)基本的な考え方
     出土品は,国民共有の貴重な文化的遺産であり,学術的にも豊富な情報を提供するものであるが,そのもつ重要度は一様ではない。また,出土品の種類,性格や形態も様々である。
     したがって,出土品については,まず,将来にわたり文化財として保存を要し,活用の可能性のあるものであるかどうかということを基準として選択を行い,保存・活用を要するものとされたものについて将来にわたって保管・管理することとする。
  • (2)選択の標準の大枠
     出土品の選択に際しての判断の要素・視点となる事項,選択の標準・方針の考え方の大枠は次のとおりである。
    出土品の種類 出土品を人間活動との関係の深さで分類した場合,人又は人の活動に直接関係するもの(人の遺体又はその一部・人自体の痕跡等,道具,道具製作時の副産物,古墳等の遺構を構成していた素材,原料・食料等)と,自然物(自然環境を示すもの)とに分類することが考えられる。この場合,人間活動と距離があるものほど選択幅が広くなると考えられる。
    時代 出土品が製作され,埋蔵された時代の要素。
    地域 出土品が出土した場所,地方あるいは歴史的・文化的区域の要素。例えば通常分布する文化圏の外で出土した場合の取扱い等。
    遺跡の種類・性格 出土した遺跡の種類・性格の要素。通常出土しないような種類の遺跡から出土した出土品の取扱い等。
    遺跡の重要度 出土した遺跡の重要度の要素。出土した遺跡の重要度が高い場合の一括資料としての取扱い等。
    出土状況 出土状況,特に遺構との関係に関する要素。遺構に伴って出土したかどうか等。
    格性の有無であるか否かの要素。型作りによる規格品が大量に出土した場合の取扱い等。
    出土量 同種・同型・同質の出土品の出土量の要素。製鉄遺跡の鉄滓,貝塚の貝殻等同一遺跡から同種・同型・同質の出土品が大量に出土する場合の取扱い等。
    残存度・遺存状況 出土品の残存の程度の要素。
    文化財としての重要性 文字や絵画がある等の出土品自体がもっている文化財としての性格・重要度の内容の要素。
    移動・保管の可能性 出土品の大きさ・形状・重さ,それによる移動・保管の可能性の要素。
    活用の可能性の要素 出土品の将来的な活用の可能性の有無・程度に関する要素。
  • (3)選択を行う時期及び対象
     保管・管理を要する出土品の選択は,発掘調査の段階,出土品の整理作業の段階,それ以降の段階等いずれの時点でも行うことができるものとする。選択は現在収蔵・保管されているものについても行う。
  • (4)保管・管理を要しないものとされた出土品の取扱い等に関する留意事項選択の結果,保管・管理を要しないものとされた出土品については廃棄その他の処分を行うこととなるが,その場合,処理したものが,将来,無用の誤解・混乱を生ずることのないよう十分配慮するものとする。

第3章 出土品の保管・管理の現状と課題及び改善方策

1 出土品の保管・管理の現状と課題
 出土品のうち恒常的保管施設に保管されているのは約213万箱(約47%),暫定的保管施設に保管されているのは約246万箱(約53%)である。全体を通じて棚に収蔵されているものは約191万箱(42%),床に積み上げられているものが約243万箱(53%),屋外に野積みのものが約15万箱(3%)となっている。
 出土品の管理のための登録や検索についてシステム化を行っているのは都道府県の53%,市町村の10%であり,余り進んでいない。

2 改善方策

  • (1) 基本的な方向
     出土品を適切に保存・活用し,かつ,保管スペースを効率的に利用していくため,必ずしも従来の,同一遺跡からの出土品は同一の地方公共団体で一カ所に一括して保管するという考え方にとらわれず,出土品の性格・重要度・形状,保管の方法,活用の頻度,報告書記載の有無等の諸要素を勘案して出土品を区分し,その区分に応じて保管・管理することを可能とする。
  • (2) 出土品及び保管・管理の態様の区分
     出土品の保管・管理のための区分を行うについては,(1)種類・形状・形態の要素,(2)材質・遺存状況の要素,(3)文化財としての重要性の要素,(4)発掘調査報告書・記録等への登載の有無の要素,(5)整理済み・未整理の要素,(6)活用の状況・可能性の要素等を総合的に勘案するものとする。
     この場合,例えば,常時展示するもの及びその予備軍,報告書記載の出土品等の前記に次ぐもの,活用可能性・頻度が比較的低いもの等に区分して保管することが考えられる。
  • (3) 保管・管理に際しての情報管理
     出土品を区分して保管・管理する際には,コンピュータ利用等により,出土品の名称・内容・数量・発見時期・出土遺跡名,発掘調査報告書への登載状況,保管の主体・場所等に関する情報・記録を適切に管理する。

3 保管・管理のための施設の整備等
 出土品の体系的な保管・管理を行うため,各地方公共団体において恒常的な施設を充実するとともに,適正な保管・管理を可能にする設備やスペースの確保が必要。施設の整備とともに専門的知識をもった職員による出土品の保管・管理の体制が置かれることが必要である。

第4章 出土品の活用の現状と課題及び改善方策

1 出土品の活用の現状と課題
 出土品の展示,貸出等の活用の状況については,展示・公開,学校教育での利用,研究目的の活用等の目的のものが多いが,総じて活発でない。また,出土品の保管・管理情報を提供する体制も整備されていない。
 出土品の展示・公開は博物館等で行われる場合が多いが,出土地に建設された駅等で展示されている例もある。地方公共団体のうち出土品の展示・公開専用施設をもっているのは約45%であり,専用展示・公開施設がない地方公共団体での出土品の活用は総じて活発でない。

2 改善方策

  • (1) 基本的な方向
     埋蔵文化財の保護や発掘調査に対する国民の理解と協力を促進するためにも,出土品の積極的 な活用を図ることが必要である。
     このため,出土品の一括保管の考え方にとらわれず,積極的な活用のため条件を整備するとともに展示・公開のための施設・体制の整備や保管している出土品に関する情報の地方公共団体間や研究機関等による共有も必要である。
  • (2) 新たな活用方法の開発
     従来の活用は,公立博物館での定型的な方法による,出土品中の優品の展示・公開が中心。今後は,(ア)博物館等展示専用施設における活用の改善・充実,(イ)学校教育での活用の拡充,(ウ)各地域の住民に対する活用の工夫,(エ)民間施設を有効に利用した活用,(オ)他の地方公共団体や外国との連携,(カ)学術的な活用等,出土品の積極的な活用を推進する。
  • (3) 展示・公開施設の充実等
     地方公共団体においては,出土品の展示・公開等その活用の推進のための施設の設置を進めるとともに,既存の施設についても,より積極的な活用に適した施設として充実・改善を図ることが必要。また,出土品の広範な活用のため,出土品の保管・管理や活用状況に関する積極的な情報発信が必要である。
ページの先頭に移動