第3章 出土品の保管・管理の現状と課題及び改善方策

1 出土品の保管・管理の現状と課題

(ア) 収蔵量及び増加量の状況
 平成7年3月現在で,地方公共団体に保管されている出土品の総量は約459万箱に達しており,これを都道府県,市町村別にみると,都道府県に約177万箱,市町村に約282万箱となっている。平均すると1都道府県当たり約38,000箱,1市町村当たり約1,000箱である。
 保管されている出土品を種類別にみると,土器が全体の70%を占め,次いで瓦類が9%,石器・石製品が6%,木製品が4%,鉱滓類・木炭が2%,以下自然礫・自然石,動物遺体,埴輪,植物遺体,金属製品・人骨・骨角器などが続く。
 出土品の増加量をみると,平成2年度から6年度までは年間約30万箱づつ増加している。増加のペースは年によってほとんど変わりがなく,発掘調査の事業量も同様に増加していることから,今後も同様のペースで増加し続けることが予想される。

(イ) 保管・管理のための施設及び保管・管理の状況並びに課題
 保管・管理のための施設としては出土品保管専用の恒常的施設(鉄筋・鉄骨,軽量プレハブ,木造等)と仮置き用の暫定的施設(本来は別目的の鉄筋・鉄骨施設,軽量プレハブ,木造施設,テント等)がある。
 出土品のうち恒常的保管施設に保管されているのは約213万箱(約47%),暫定的施設に保管されているのは約246万箱(約53%)となっている。このうち約197万箱が軽量プレハブ,テント等の簡便な施設に保管されている。
 各施設における保管状況をみると,恒常的施設,暫定的施設を通じて棚に収蔵されているものが約191万箱(42%),床に積み上げられているものが約243万箱(53%),戸外に野積みのものが約15万箱(3%)となっている。
 また,保管されている出土品のうち未整理のものが約40%を占めている。
 このため,保管・管理を要する出土品の選択や合理的な保管・管理のために必要な施設の整備,出土品整理の促進により野積み等の不適正な状況にあるものの解消,が早急に取り組むべき課題である。
 整理済みで整理棚に収納されている出土品について,その収納方法をみると,材質,遺存状況(完形品かどうか等),報告書に登載されたものであるか否か等の区分で収納方法を区別している地方公共団体は616団体(33都道府県,583市町村)で全体の約25%である。
 収納スペースを効率的に利用するためには収納方法を区別する方がよいと考えられるので,この方法の積極的活用を検討する必要がある。
 出土品を,出土した遺跡単位で一括して保管しているかどうかについてみると,出土遺跡ごとに一括して保管しているところが33都道府県(65%),1,937市町村(84%)の計1,970都道府県・市町村となっている。文化庁では出土文化財の地方公共団体への譲与に際して,一括保存を指導しているが,前述の収納方法の区別化を含めて,合理的な保管・管理を行う場合には,必ずしも一括保管にこだわる必要はないものと考えられる。
 出土品の管理のための登録や検索についてコンピューターや台帳によりシステム化を行っているところは271都道府県・市町村(都道府県の53%,市町村の10%)となっており,総体としてシステム化は進んでいない。適切な保存と積極的な活用のための管理のあり方として改善を要する点である。

2 改善方策

(1) 保管・管理の方法

(ア) 基本的な方向
 出土品を適切に保存・活用し,かつ,保管スペースを効率的に利用していくためには,種々多様な出土品を一律に取り扱うのではなく,その性格・重要度・形状,保管の方法,活用の頻度,報告書記載の有無等の諸要素を勘案して出土品を区分し,その区分に応じて保管・管理の態様をいくつかの種類・段階に分け,適正かつ体系的に保管・管理を行うこととすることが必要である。
 この場合,出土品の保管・管理は必ずしも同一遺跡からの出土品は同一の地方公共団体で一カ所に一括して保管するという考え方にとらわれる必要はなく,柔軟な考え方に立った対応が必要と考えられる。
 なお,出土品の暫定的施設での仮置きや床・屋外での積上げ状態を解消し,適正な保管・管理を進めるには,まず発掘調査現場から取り上げてきたまま未整理の状態で保管されているものの整理を進める必要がある。
 整理作業を促進させるためには,整理作業体制や作業を効率的に実施できる整理場所の充実等が必要である。

(イ) 出土品及び保管・管理の態様の区分
 適正かつ合理的・効率的な保管・管理のための出土品の区分を行うについては,次のような要素を総合的に勘案する必要がある。

  • (1)種類・形状・形態の要素
     出土品の性質,完形品・破片等の区別,出土品の大きさ・重量等(人工物であるか自然物であるか,完形品であるか破片であるか,通常の保管施設に収納できる大きさであるかどうか等)の要素である。
  • (2)材質・遺存状況の要素
     出土品の材質(金属製品・土製品・木製品等の別)及び破損・劣化の程度,保存処理や劣化防止の措置を経常的に執る必要があるか否か,保管・管理のための特別の施設・設備を必要とするか否かの要素である。
  • (3)文化財としての重要性の要素
     出土品の文化財としての重要性の程度(ひいては活用の可能性の高低)の要素である。
  • (4)発掘調査報告書・記録等への登載の有無の要素
     発掘調査報告書や記録等に登載され,その存在が広く知られたものであるか否かの要素である。
  • (5)整理済み・未整理の要素
     発掘調査による出土品として体系的な整理作業を完了したものであるか否かの要素である。
  • (6)活用の状況・可能性の要素
     活用の頻度・内容等の要素である。

 出土品については,上記の各要素を総合的に勘案して作成した方針に基づき,必ずしも一遺跡出土品一括保管の考え方にとらわれずに保管・管理することも可能とすることが適当である。この場合,保管・管理に際しては,たとえば次のような3区分があると考えられる。

  • (1)種類・形状・形態,文化財としての重要性の要素を総合的に勘案し,展示・公開等による活用の機会が多いと考えられるもの。
     常時展示するものは展示施設において保管・管理することになるが,それ以外のものについても,種類・形状・形態や活用の頻度を考慮し,一般の収蔵庫とは別の施設で保管・管理することも考えられる。材質・遺存状況において脆弱なもの,特別の保存措置を要するものについては,適切な収納・保管設備,空調などの環境調整設備を整備することが必要となろう。
  • (2)文化財としての重要性,活用の頻度等において(1)の区分に次ぐもの。
     報告書に記載されたものとそれ以外のもの,完形品とそれ以外のもの,展示・公開や研究資料としての活用の可能性の多少等の観点で,さらに数区分に分けることも考えられる。(2)の出土品については,保存及び検索・取出しの便と収蔵スペースの節約を考慮しつつ収蔵箱に入れ収蔵棚に整理する等,適正な方法で保管・管理する。
  • (3)文化財としての重要性,活用の可能性・頻度が比較的低いもの。
     必要があれば取出しが可能な状態で,保管スペースを可能な限り効率的に利用できる方法で収納する。

(ウ) 保管・管理に際しての情報管理
 前述のように出土品を区分して保管・管理する場合には,それと同時に,どの出土品がどこに保管されているか等の情報が管理され,保存・活用の要請に対し的確に対応することができるようになっていなければならない。
 このためには,コンピュータを利用する等により,出土品の名称・内容・数量・発見時期・出土遺跡名,発掘調査報告書への登載状況,保管の主体・場所等に関する情報・記録を作成の上組織的に管理し,新たな出土品が加わった場合の登録や情報の取出しが必要な場合の検索等が円滑に行えるシステムを整備することが必要である。
 このことは,特に,出土品を他の施設で保管・管理する場合には,不可欠のものである。

(2) 保管・管理のための施設の整備等

 出土品について上述のような体系的な保管・管理を行うためには,各地方公共団体において恒常的な施設を充実し,適正な保管・管理を可能にするだけの設備やスペースを確保する必要がある。また,保管・管理のための施設の整備に際しては,地震等の災害に耐えうる構造のものとする必要がある。
 このような施設としては,従来,各地方公共団体において,埋蔵文化財収蔵庫,歴史民俗資料館,埋蔵文化財調査センター,出土文化財管理センター等が設置されてきているが,今後とも,出土品の保管・管理方針に沿った適正な保管・管理が行われるよう,各地方公共団体における出土品保管施設の整備とそのための財政的措置が必要である。
 出土品の適切な保管・管理のためには,施設の整備とともに専門的知識をもった職員による出土品の保管・管理の体制が置かれることが必要である。
 また,適切な保管・管理のための新たな施設・設備・器具類の開発も必要である。これまでは市販のコンテナケース箱,鉄製の棚等を利用しての保管が主体であったが,より適切な保管・管理のためには既存の施設・器具等の改善や新規開発も望まれる。

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