第4章 出土品の活用の現状と課題及び改善方策

1 出土品の活用の現状と課題

(ア) 活用の状況と問題点
 出土品の活用方法として現在一般的に考えられるのは,展示・公開,学校教育における利用,学術研究用の資料としての利用などがある。
 平成6年度において自ら公開し,又は他へ貸し出して活用を行った地方公共団体の実績では,展示・公開を内容とするものが339件と最も多く,次いで学校教育における利用を目的とするものが106件,研究目的のものが38件となっている。
 この現況を出土品の総量及び全国の出土品を保管している地方公共団体が2,757団体であることとの対比でみると,出土品の活用は,少数の優品が展示・公開されることがある程度で,総体としては必ずしも活発とはいえない状況であるといえる。
 活用がこのような状況となっている背景・理由としては,文化庁による出土品の一括保存・活用の指導があったことや出土品の整理が進んでいないこと,展示・公開事業の企画や他からの要請があまりないこと,展示・公開のための施設・設備や体制がないこと等が挙げられる。
 出土品を広く活用するためには,各地方公共団体間において,どのような出土品がどこに保管・管理されているかという情報や出土品の展示・公開その他の活用状況に関する情報を提供できる体制が形成されている必要があるが,現在のところこれらについては埋蔵文化財調査センター等調査機関の年報・広報誌等に記載がある程度であり,そのような体制・仕組みにはほど遠い状況である。

(イ) 活用のための施設の状況と問題点
 出土品の活用のうち展示・公開が行われた施設についてみると,博物館等展示を目的として設置された施設での展示が最も多いが,一部の地方公共団体では発掘調査の原因となった開発事業により建設された駅や建物等の施設で,当該発掘調査による出土品を展示するために貸出しを行っている例もある。
 学校教育における活用としては,余裕教室を利用した常設展示や体験学習の教材として利用する例が多い。
 出土品の展示・公開のための専用施設をもっている地方公共団体は,出土品を保管している2,749地方公共団体のうちの約45%である。
 そのような施設をもっていない地方公共団体にあっては,公民館や廃校の一画等に出土品を展示しているところもあるが,一般向けの展示・公開は全く行っていないところも多い。

2 改善方策

(1) 保管・管理の方法
 埋蔵文化財の保護や発掘調査に対する国民の理解と協力を促進するためにも,国民がいろいろな機会にさまざまな方法で出土品に触れることができるように,その広範な活用を図る必要がある。
 このためには,従来行われている方法を拡充するともに,従来の方法とにとらわれず出土品の種類・性格に応じた新たな活用方法を開発し,積極的に具体化する必要がある。
 また,それを可能とするために,出土品の一括保管の考え方にとらわれないこと等,より活発な活用のための条件を整備するとともに,展示・公開のための施設・体制の整備や保管している出土品に関する情報の地方公共団体や大学・研究機関等による共有も必要である。

(2) 新たな活用方法の開発
 従来の活用は,ほとんど公立博物館等公的な施設におけるかなり定型的な方法による出土品中の優品の展示・公開が中心である。
 国民が出土品のもっている価値をさまざまな形で享受できるように,従前から行われている活用についてはその方法等の大幅な拡充を図るとともに,さらに新たな活用方法を開発し,これを積極的に具体化する必要がある。
 このような施策は,基本的には各地方公共団体においてそれぞれ工夫する性格のものであるが,そのいくつかを例示すれば次のとおりである。

(ア) 博物館等展示専用施設における活用の改善・充実
 博物館等展示専用施設における展示は,最新の調査成果を反映させるような常設展示の更新や速報的な展示の企画等,発掘調査の成果を地域に広く公開するためにも積極的に進めることが望まれる。
 このため,発掘調査組織と博物館等との連絡・協力関係を強化する必要がある。
 また,展示方法としても,出土品の種類によっては,見るだけではなく直接触れることのできるようにする等の工夫も必要である。

(イ) 学校教育での活用の拡充
 児童・生徒が地域や国の文化を理解していく上において,出土品は地域の歴史を物語る生きた資料であり,学校教育の教材として優れたものである。学校教育での出土品の積極的な活用や活用のための資料の作成が望まれる。
 また,大学での教育においても,生きた教材としての出土品の積極的な活用が望まれる。
 この場合,学校の授業等において出土品を活用する際には,出土品の提供や解説資料の作成のみでなく,埋蔵文化財専門職員による説明も併せて行う等,より効果的な教材としての活用方法を工夫することも必要であろう。

(ウ) 各地域の住民に対する活用の工夫
 発掘調査自体については,従来から,現地説明会等によりその成果の地域への公開が図られてきたところであるが,出土品についても,このような現地説明会における活用とともに,市町村役場や公民館等の住民に身近な公共施設における出土品の展示や地域の行事の際の出品等,地域住民が直接出土品にふれることができる機会を積極的に設けることも必要である。

(エ) 民間施設を有効に利用した活用
 公開・展示の場所を公的な展示専用施設に限る必要はない。
 たとえば,発掘調査の原因となった開発事業により建設された施設での展示等,民間の,展示用施設でない施設における活用にも積極的に対応する必要がある。

(オ) 他の地方公共団体や外国との連携
 出土品の活用の場所については,出土した地域やその地方公共団体内に制限する必要はなく,国内の他の地域や外国における展示・公開や研究資料としての活用も有益であると考えられる。
 たとえば,他地域あるいは外国との典型的な出土品の相互貸借等,有無を相通ずる出土品の相互交流による広範囲な活用は,我が国の多様な文化と歴史に対する理解を深める上からも有益であると考えられる。
 この場合,貸し出した出土品の種類や数量のみでなく,必要に応じ,出土品の形状や状態に関する情報も記録し,貸借した出土品の適正な取扱いが確保されるようにすることが必要であろう。

(カ) 学術的な活用の推進
 従来も発掘調査で中心的な役割を果たした大学や研究機関への出土品の貸出し等は行われてきたが,さらに広範囲の大学や研究機関に対し教育や研究のための資料として提供することは学術的進歩・発展にとっても有効なことと考えられる。
 そのためには,広く大学・研究機関・関係学界への保管・管理されている出土品に関する情報提供等のための恒常的な連携・連絡の方途を確保しておくことが必要である。

(3) 展示・公開施設の充実等
 地方公共団体,特に市町村においては,出土品の展示・公開等その活用の推進のための施設の設置を進めるとともに,既存の施設についても,より積極的な活用に適した施設として充実・改善を図る必要がある。
 埋蔵文化財保存センター等の埋蔵文化財の発掘調査等の拠点となる施設の設置・整備に際しては,出土品の展示機能にも十分配慮し,発掘調査の成果を住民に還元できるように配慮することが望ましい。
 また,出土品の広範な活用のためには,出土品の保管・管理や活用状況に関する情報の広報誌・コンピューター利用の情報ネットワークなどを活用して相互に発信することが有益であり,そのシステムの開発の研究も必要である。これらの施策の積極的推進が必要である。

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