第1章 出土品の取扱いに関する基本的な考え方

1 出土品の価値とその取扱いの制度

  1. 出土品の文化財としての意義
     発掘調査に伴う出土品(注)は,文献資料とは異なる特質を備え,我が国の歴史や文化を理解する上で欠くことのできない情報を提供する貴重な歴史的遺産である。
     近年,青森県の三内丸山遺跡の発掘調査や島根県加茂町での多数の銅鐸の発見等,我が国の歴史を理解する上において重要な発見が相次いでなされ,また,考古学上の新たな発見の積み重ねにより,我が国の歴史像が次第に明らかになってきており,国民の発掘調査や遺跡に対する関心が高まってきている。出土品についても,学術上の意義にとどまらず,我が国固有の文化を具現する文化的遺産として広く活用しなければならないという認識が高まっている。
     また,多くの市町村において,地域の特性を生かした特色ある地域づくりが進められているが,発掘調査に伴う出土品を地域の文化財として活用し,個性豊かな地域づくりに取り組んでいる市町村も多い。
     このような国民や地域社会での幅広い関心や認識の高まりに応え,発掘調査の成果としての出土品を文化財としていかに適切に保存・活用していくかということは,今後の埋蔵文化財行政の大きな課題の一つということができる。
  2. 出土品の取扱いに関する制度とその運用
     発掘調査に伴う出土品のうち都道府県教育委員会等による鑑査の結果文化財と認定されたものは,ほとんどが所有者が判明しないものであるためその所有権は国庫に帰属する。
     国庫に帰属した出土品は,その学術的又は芸術的価値,適切な保存・活用の必要性等にかんがみ国において保有することとされたものを除き,地方公共団体へ譲与することを原則とすることとされている。実際上も国が保有しているものは毎年1~3件程度であり,近年は,国で保有したものについても出土した地元の地方公共団体において保管し,活用しているものがほとんどである。
     出土文化財については,それが文化財保護法や地方公共団体の条例により重要文化財等として指定されない場合,現状変更や移動・公開等について法的な規制を受けない。しかし,文化庁では,出土文化財を地方公共団体へ譲与する際,当該出土文化財を適切な施設において一括して保存・活用すべきことを求めている。また,出土文化財の名称・内容,出土地・遺跡名等を記載した台帳を備えるとともに,滅失,毀損,所有者・所在地の変更については都道府県教育委員会を経由して文化庁に報告することを求めている。(ただし,譲与された出土文化財の活用のあり方や貸出し等の取扱いについての考え方や指針は示されていない。)
     このように,発掘調査に伴う出土品については,実態的には,ほとんどすべてが出土地の地方公共団体の所有となり,その地方公共団体で一括して保存・活用するという仕組みとなっている。

2 出土品の保管・管理の現状と課題

  1. 出土品の保管・管理の現況
     地方公共団体における出土品の保管・管理の現状をみると,現在,地方公共団体で保管されている出土品は約459万箱(出土品量を60cm×40cm×15cmのプラスチックコンテナ箱に換算。以下同じ。)に上り,ここ数年毎年約30万箱づつ増加している。
     保管・管理の状況としては,暫定的な保管施設に保管されているものが246万箱で半数近くを占め,屋外に野積みされているものも約15万箱ある。
     また,保管されている出土品のうち未整理のものが約4割を占め,整理棚に収納されているものは191万箱と半数に満たない。
     このような状況は,出土品自体の保存・活用の観点からは好ましいものではなく,現に多くの地方公共団体において,すでに収蔵され,さらに毎年増え続ける膨大な量の出土品の取扱いに苦慮しており,その取扱いをどのように行っていくかは文化財保護行政上の大きな課題となっている。
     埋蔵文化財に関する現行の制度ができた昭和20年代以降,経済・社会情勢は大きく変化し,発掘調査量も急増し,それに応じて埋蔵文化財保護に関しても開発事業との調整のあり方,行政の体制,発掘調査の方法等においてめざましい発展をとげてきた。
     発掘調査の段階,整理作業の段階での出土品の取扱いや保管・管理のあり方についても各地方公共団体において工夫が積み重ねられ,改善のための努力が行われてきた。
     そのような改善努力がなされてきた一方で,現在,多くの地方公共団体において出土品の保管・管理を含む取扱いに苦慮する事態となっている背景・理由としては,およそ次のようなものがあると考えられる。
    • (ア) 近年,増加する開発事業に伴って発掘調査量が増加したこと。
    • (イ) 特に,近年,多量の出土品を伴う近世の遺跡の発掘調査が多くなったこと。
    • (ウ) 発掘調査自体の精密化により,調査対象となる出土品が増えたこと。
    • (エ) 多量の出土品の整理等を行うための時間や体制が十分でなかったこと。
    • (オ) 出土品の取扱いに関する明確な方針がなかったため,上記(エ)の事情もあり,発掘調査に伴う出土品をとりあえずすべて収蔵するといった取扱いがなされる例もあったこと。
    • (カ) 出土品の保管・管理に必要な施設の整備等が十分でなかったこと。
  2. 出土品の取扱いに関する問題点の指摘
     出土品に関する関心が高まり,その保存・活用が従来以上に求められる一方で,上記のように,多くの出土品が,未整理なまま,あるいは好ましくない形態を含めてさまざまな形で保管・管理されるという状況となっており,出土品を保管・管理している地方公共団体からは,このような状況に対し,出土品のうち保管・管理すべきものについての考え方を含め,出土品の保管・管理のあり方に関する方針を定めることを求める意見が強く出されている。
     また,平成7年11月の総務庁行政監察局「芸術文化の振興に関する行政監察結果報告書」においても,地方公共団体の中には出土品の保管スペースの確保に苦慮し,活用されている出土品が少ないものがあることが指摘され,出土品の状態や活用の可能性等に応じた保管方法の効率化を図るための取扱い基準を定めることが求められている。

3 出土品の取扱いの今後のあり方

 以上のような現状や地方公共団体の意見等を踏まえ,かつ,今後,発掘調査事業量の増加に伴って各地方公共団体において従来以上に出土品の保管・管理のあり方が大きな問題となってくることが予想されることを考えると,出土品の取扱いについての基本的な考え方とそれに基づく取扱いの基準を明らかにする必要があると考えられる。また,発掘調査に伴う出土品のすべてをそのまま将来にわたり保管・管理していくことは,出土品の適正な保管・活用を図る観点からも適切ではない。むしろ必要な選択をした上で保管・管理の対象とすることが適切であると言える。

 この場合,出土品の取扱いに関する基本的考え方等は,出土品の種類,性格,活用のあり方等に係る各地域の事情を反映したものである必要があることから,文化庁においてそのあり方の大枠を示し,各都道府県がその地域におけるより具体的な方針を定めることとするのが望ましい。

 この委員会による出土品の取扱いに関する調査・研究は,このような視点で,出土品の保管・管理の現況を基礎としつつ,

  • (1) 将来にわたり保存・活用を要する出土品の選択
  • (2) 出土品の合理的な保管・管理のあり方
  • (3) 出土品の活用のあり方

 について検討し,それらに係る施策の方向を提言しようとするものである。

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