経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006に基づく著作権等管理事業法の見直しについて

1.概要

 法令に関連する規制 については,経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006(平成18年7月7日閣議決定。以下「基本方針2006」という)に基づき,各府省において法律ごとの見直し年度・見直し周期を公表することとされている 。
 著作権等管理事業法(以下「管理事業法」という)については,その原始附則第7条に基づき,施行後3年を経過した場合における見直しが平成15年度から17年度に行われたが,基本方針2006の閣議決定の時点において有効な見直し条項がなかったことから,見直し条項のない法律の見直し年限は5年間を基本とするとの内閣府方針に従い,平成23年度を見直し年度に設定し,文部科学省ウェブページにおいて公表 している。
 管理事業法に関連する規制は,以下の8項目とされており,これらについて,基本方針2006に基づき,本年度中に見直しを行うことが求められている。
  1. 著作権等管理事業(以下「管理事業」という)の登録(第3条)
  2. 登録事項の変更の届出(第7条第1項)
  3. 著作権等管理事業者(以下「管理事業者」という)の地位の承継の届出
    第8条第2項)
  4. 管理事業者の廃業の届出(第9条)
  5. 管理委託契約約款の届出(第11条第1項前段)
  6. 管理委託契約約款の変更の届出(第11条第1項後段)
  7. 使用料規程の届出(第13条第1項前段)
  8. 使用料規程の変更の届出(第13条第1項後段)

  1. 規制改革会議ウェブページ(http://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/lawnotice/index.html#law)抜粋
     『本件における「規制」とは,第2次臨時行政改革推進審議会「公的規制の緩和等に関する答申」(昭和63年12月1日)において示されている定義にしたがう。すなわち本件における「規制」とは,一般に国や地方公共団体が企業・国民活動に対して特定の政策目的のために関与・介入するものを指す。それは,許認可等の手段による規制を典型とし,その他にも,許認可に付随してあるいは,それと別個に行われる規制的な行政指導や価格支持等の制度的関与などがあると考えられている。』
  2. 基本方針2006(抄)
    第2章  成長力・競争力を強化する取組
    2.民の力を引き出す制度とルールの改革
    (1)規制改革
    ・ 国の法令に関連する規制(通知・通達等を含む)について,各府省において平成18年度中に法律ごとの見直し年度・見直し周期を公表するとともに,見直し基準に基づき,平成19年度以降必要な見直しを行う。

2.管理事業法に関連する規制の見直しの進め方

 基本方針2006に基づく法令に関連する規制に係る見直しの方針については,「規制改革・民間開放の推進に関する第3次答申」(平成18年12月25日規制改革・民間開放推進会議)において,「規制の一定期間経過後見直し基準」(以下「見直し基準」という)が定められている。
 「見直し基準」によると,見直しは次のような視点に沿って行うものとされている。
  1. 経済的規制は原則廃止,社会的規制は必要最小限との原則の下での規制の抜本的見直し
  2. 免許制から許可制への移行,許可制から届出制への移行等より緩やかな規制への移行
  3. 検査の民間移行等規制方法の合理化
  4. 規制内容・手続について国際的整合化の推進
  5. 規制内容の明確化・簡素化や,許認可等の審査における審査基準の明確化,申請書類等の簡素化
  6. 事前届出制から事後届出制への移行等事後手続への移行
  7. 許認可等の審査・処理を始めとする規制関連手続の迅速化
  8. 規制制定手続の透明化
  9. 不合理な規制の是正による社会的な公正の確保
 また,見直し結果については,その結果及び理由をホームページ等で公示すること,特に,見直しの結果,その制度・運用を維持するものについては,その必要性,根拠等を明確にすることとされている。
 以上に基づき,規制に係る事項に関する見直しに際しては,直接の当事者となる管理事業者のみならず,当該事業実施における利害関係者(権利者,利用者等)からの意見聴取も必要と考えられることから,平成23年9月12日から10月11日までの間に,管理事業法に関連する規制に関する意見募集を実施し,広く国民から意見を募集したところ,合計58通(団体42通,個人16通)の意見が寄せられた。  なお,寄せられた意見には,1.に掲げた8項目の規制内容に直接関連しない意見もあったことから,見直しの対象となっている事項に対する意見を整理した上で検討を行った。
 また,今回の見直し結果に関しては,意見募集の結果を踏まえた文化庁見解を,平成23年11月9日に開催された文化審議会著作権分科会法制問題小委員会に報告したものである。

3.管理事業法に関連する規制に関する検討結果

(1)管理事業の登録(第3条)

  1. 現行制度の概要
     管理事業法は形式審査による登録制度を採っており,登録要件自体も新規参入を容易にするとの観点から必要最小限のものとなっている(第6条)。
  2. 意見募集の内容
     利用者側から,特に新規参入の管理事業者に対する信頼性がなく,本当に当該事業者に著作物の利用許諾権限があるか分からないことなどから,管理事業者の登録制度を廃止し,許可制に移行すべきとの意見や,登録制度を維持するのであれば,登録要件を厳格にすべきとの意見があった。さらに,事業を行う能力のない管理事業者が散見されることから,許可制に移行した上で,現在登録されている管理事業者の事業内容や管理実態を再点検し,事業の実施許可又は不許可を再認定すべきとの意見があった。
     また,管理事業の適正化のために,管理事業の登録制を存続させるべきとの意見があった。
  3. 検討の結果
     著作権の集中管理業務の規制を許可制から登録制に改めた管理事業法の趣旨を踏まえると,再度許可制を導入することは適切ではない。現行では,形式審査権のみを有する登録制度であるため,登録申請時に管理事業者の実態に立ち入って審査を行うのは難しいので,登録後,実態面で問題のある管理事業者について,文化庁としては,管理事業法第19条,第20条及び第21条に基づき,適正な指導監督を行うとともに,管理事業者の実態を注視していくこととし,引き続き,管理事業の登録制を維持することとする。

(2)登録事項の変更の届出(第7条第1項)

  1. 現行制度の概要
     管理事業者は,文化庁長官に提出した登録申請書の記載内容に変更があった場合には,その旨を2週間以内に届け出なければならないこととされている。
  2. 意見募集の内容
     利用者側から,登録事項の変更が登録拒否に該当する場合もあるため,届出制ではなく許可制にすべきとの意見や,届出内容と実態に齟齬がある場合には罰則を課すべきとの意見があった。さらに,登録事項の変更に当たっては,利用者又は利用者団体からの意見聴取義務及び意見聴取内容の届出義務を課すべきとの意見があった。
     また,管理事業の適正化のために,登録事項の変更の届出制を存続させるべきとの意見があった。
     管理事業者からは,変更の決定から文化庁に届け出るために要する時間が実務上2週間を超えてしまう場合が少なくないことから,2週間の期間を遵守することが困難であるとの意見があった。
  3. 検討の結果
     (1)と同様,形式審査により登録した事項の変更であるため,その届出時において,現状以上に規制を強化することは適切ではない。さらに,変更の届出を怠った場合には,罰則の適用もある。
     また,管理事業法施行規則第8条第2項では,添付資料として「登記事項証明書又はこれに代わる書面」を求めていることから,文化庁は,法人である管理事 業者が2週間以内に登記事項証明書を準備することが困難な場合には,登記事項証明書に代わる書面として,総会の議事録等を認めており,届出期間を変更する必要はないと考える。

(3)管理事業者の地位の承継の届出(第8条第2項)

  1. 現行制度の概要
     管理事業が他の法人に全部承継されることとなる事業譲渡,合併,分割が行われた場合は,当該法人が,当該管理事業を行っていた従前の管理事業者の地位を承継することとなるが,当該法人は,地位の承継の日から30日以内に,その旨を文化庁長官に届け出なければならないこととされている。
  2. 意見募集の内容
     利用者側から,管理事業者の地位の承継は,利用者に大きな影響を与える場合があるため,届出制ではなく認可制にすべきとの意見や,管理事業者の地位の承継に当たっては,委託者並びに利用者又は利用者団体からの意見聴取義務,意見聴取内容の届出義務及び地位の承継の事実の公示義務を課すべきとの意見があった。
     また,管理事業の適正化のために,管理事業者の地位の承継の届出制を存続させるべきとの意見があった。
  3. 検討の結果
     当初の事業開始に当たり,登録制を導入している趣旨から,当該管理事業の全部承継についても,許可制にすることは適切ではない。また,管理事業者が事業譲渡等を行うか否かの判断は,当該事業者がその責任において決定するものであり,それに当たり,委託者や利用者に対してその旨を事前に説明等することは,その後の当該事業を円滑に実施するためには必要不可欠であり,事業譲渡等を行う前に,当事者間の契約関係等の事情に応じて適切な方法・内容でなされるべきものであるため,事業譲渡等の行為について,委託者等からの意見聴取義務等を一律に課すことは適切ではない。また,事業譲渡等の結果,仮に,管理委託契約約款が変更される場合には,当該約款に基づき,事業を承継した事業者から委託者へ管理委託契約継続の意思確認手続が行われること,同様に,使用料規程が変更される場合には,管理事業法第13条第2項に基づき利用者等への意見聴取の努力義務が課されることにかんがみても,事業譲渡等そのものについて事前の意見聴取義務等を課す特段の必要性は認められない。文化庁においては,管理事業者の状況等を適切に把握することで対応は可能であることから,管理事業者の地位の承継の届出制を維持することとする。

(4)管理事業者の廃業の届出(第9条)

  1. 現行制度の概要
     合併,破産,解散等の理由により,管理事業者が管理事業を行わなくなった場合には,当該管理事業者の元役員等は,その日から30日以内に,その旨を文化庁長官に届け出なければならないこととされている。
  2. 意見募集の内容
     利用者側から,管理事業者が廃業に至った場合には,著作権の新たな管理方法が決定するまでは廃業前の管理事業者による条件を継続していることとみなす等の定めや,そのための供託制度等の定めを置き,権利者と利用者の関係を円滑にする措置を講ずるべきとの意見があった。
     また,管理事業の適正化のために,管理事業者の廃業の届出制を存続させるべきとの意見があった。
  3. 検討の結果
     (3)3.と同様に,廃業に当たり,委託者,利用者への事前説明等を行うことは管理事業者として必要不可欠であり,当事者間の契約関係等に応じて適切な方法・内容でなされるべきものであることから,一律の措置を講ずることは適切ではない。文化庁としては,状況把握や指導を行うことで対応は可能であることから,管理事業者の廃業の届出制を維持することとする。

(5)管理委託契約約款の届出(第11条第1項前段)

  1. 現行制度の概要
     管理事業者は,管理委託契約の種別,契約期間,収受した著作物等の使用料の分配方法,管理事業者の報酬等を記載した管理委託契約約款を定め,あらかじめ,文化庁長官に届け出なければならないこととされている。
  2. 意見募集の内容
     利用者側から,管理能力のない管理事業者が存在するため,管理委託契約約款の届出制を廃止し,認可制にすべきとの意見があった。
    また,管理事業の適正化のために,管理委託契約約款の届出制を存続させるべきとの意見があった。
  3. 検討の結果
     管理委託契約約款は,権利者が管理事業者へ著作権等を委託するか否かを判断するために重要なものであるため,その作成及び届出を義務づけるとともに,委託契約締結の際の約款の遵守義務,著作権等の管理を委託しようとする者に対して約款の内容の説明義務を課し,これに係る罰則も定めており,規制を強化することは適切ではない。文化庁としては,管理事業法第19条により,管理事業者に対して一定の対応が可能であることから,管理委託契約約款の届出制を維持することとする。

(6)管理委託契約約款の変更の届出(第11条第1項後段)

  1. 現行制度の概要
     管理事業者は,管理委託契約約款を変更しようとするときは,あらかじめ,文化庁長官に届け出なければならないこととされている。
  2. 意見募集の内容
     利用者側から,管理事業の適正化のために,管理委託契約約款の変更の届出制を存続させるべきとの意見があった。
  3. 検討の結果
     (5)3.と同様,文化庁としては,管理事業法第19条により,一定の対応が可能である。また,届出制を存続させるべきとの意見を踏まえ,引き続き,管理委託契約約款の変更の届出制を維持することとする。

(7)使用料規程の届出(第13条第1項前段)

  1. 現行制度の概要
     管理事業者は,利用区分ごとの著作物等の使用料の額,実施の日等を記載した使用料規程を定め,あらかじめ,文化庁長官に届け出なければならないこととされている。
  2. 意見募集の内容
     利用者側から,管理能力のない管理事業者が存在すること,管理事業者が使用料を恣意的に決めることができることから,使用料規程は,届出制ではなく,使用料規程の内容の妥当性や,利用者団体との協議その他の調整が十分に履行されたことを認可要件とする認可制にすべきとの意見があった。
     また,管理事業の適正化のために,使用料規程の届出制を存続させるべきとの意見があった。
  3. 検討の結果
     管理事業法では、管理事業者の使用料規程は届出制とし、基本的には、事業者間の競争を通じ市場原理により適切な額に収斂するという考え方を採用していることから、これ以上管理事業者に過度な義務を課すことは、この基本原則の大幅な変更にもなりかねず、適当ではないと考える。
     なお、現行法においても、意見聴取努力義務規定違反や、管理事業者が著しく高い使用料を設定した場合は、文化庁は使用料規程の実施禁止期間の延長命令等により、管理事業者に対し是正措置を求めることができるため、文化庁としては、現行法の適切な運用を行うことで対応は可能であることから、使用料規程の届出制を維持することとする。

(8)使用料規程の変更の届出(第13条第1項後段)

  1. 現行制度の概要
     管理事業者は,使用料規程を変更しようとするときは,あらかじめ,文化庁長官に届け出なければならないこととされている。
  2. 意見募集の内容
     利用者側から,管理事業の適正化のために,使用料規程の変更の届出制を存続させるべきとの意見があった。また,使用料の高騰が生じないような制度にすべきとの意見があった。
  3. 検討の結果
     (7)3.と同様,これ以上管理事業者に過度な義務を課すことは適当ではなく,届出制を存続させるべきとの意見を踏まえ,引き続き,使用料規程の変更の届出制を維持することとする。

4.結論

 今回,管理事業法に関連する8項目の規制に関し,幅広く意見募集を行った結果,規制の緩和を求める意見は僅かであったが,他方,ほとんどの項目において,利用者側から,何らかの規制の強化を求める意見が多くみられた。
 個別の項目に寄せられた意見と検討の結果は前述のとおりであるが,規制を緩和する方向において見直しを行うというP.2の「見直し基準」における視点を踏まえると,それぞれにおいて直ちに管理事業法を改正し対応すべきと考えられる事項は無かった。

 なお,利用者側から,現行法の厳格な運用が求められていることから,文化庁においては,管理事業法第19条,第20条及び第21条に基づき,管理事業者への指導監督を適正に行っていくこととする。

以上

ページの先頭に移動