第六話「間違いやすい敬語(3)~謙譲語I VS 謙譲語II」理解度チェックの解答

第1問 : (ア) 明日,小学校のときの担任の田中先生のところに伺います。

「田中先生」は,「訪問する」という行為の向かう先(訪問される相手)に当たるので,向かう先を立てる謙譲語I「伺う」を使っているものが適切です。「参る」は謙譲語IIで,聞き手の加藤先生に対する丁重な言い方です。

第2問 : (ア) 適切である

部員に「言っておく」「伝えておく」ということを,謙譲語II(丁重語)の「申す」を使って表現したもので,「顧問の先生」に対して改まって述べた言い方ですから,適切です。

第六話「間違いやすい敬語(3)~謙譲語I VS 謙譲語II」解説

【1】加藤先生に向かって,もう一人の恩師である田中先生のことを話題にして「明日は,田中先生のところに参ります。」と言いました。田中先生を十分に高める気持ちで言ったのですが,これで良かったのでしょうか。

【解説1】

「参る」は謙譲語IIです。つまり相手に対して改まって伝えるための敬語であって,話の中に出てくる第三者を立てるための敬語ではありません。したがって,この言い方では,田中先生を立てることはできません。田中先生を立てるのであれば,「田中先生のところに伺います。」と言えば良いでしょう。「伺う」は謙譲語Iであり,<向かう先>の人を立てることができるからです。

【解説2】

「明日は,田中先生のところに参ります。」と言ったとき,「参る」という敬語を使えば,第三者である「田中先生」を立てる気持ちが表現できると感じている人も多いようです。もちろん,「田中先生」を相手にして「田中先生のところに参ります。」と言えば,相手である田中先生に対して丁重に述べることになるため,結果として田中先生に敬意を示すことになります。このような使い方との関連から,加藤先生を相手に述べたとしても,田中先生を立てているように感じられるのでしょう。

しかし,例えば,「田中先生」を「弟」に入れ替えて,「弟のところに参ります。」と言ったとき,「弟」を立てていると感じる人はいないでしょう。仮に「参る」が話の中に出てくる第三者を立てる敬語だとすれば,自分の「弟」には使うことができないはずです。ところが,「弟のところに伺います。」は,明らかな誤用であるのに対して,「弟のところに参ります。」は問題のない敬語の使い方です。「参る」は,飽くまでも「加藤先生」に対して丁重に述べる敬語として働いているのであって,話の中に出てくる第三者である「弟」を立てる働きはないのです。したがって,同様に,第三者である「田中先生」も立てる働きはないと言えるわけです。

以上述べたことを整理すると次のようになります。(いずれも,相手は加藤先生。)

[1]田中先生のところに参ります。→加藤先生に対して丁重に述べたもので,田中先生を立てているわけではありません。

 [2]弟のところに参ります。→加藤先生に対して丁重に述べたもので,自分の弟を立てて述べているわけではありません。全く問題のない用法。

 [3]田中先生のところに伺います。→田中先生を立てて述べたもの。

 [4]弟のところに伺います。→自分の弟を立てて述べることになるため,誤用となります。

【2】「御持参ください」,「お申し出ください」,「お申し込みください」などといった言い方には,「参る」や「申す」など,本来自分に使う敬語が入っているのでいつも気になっています。これらは,適切な使い方なのでしょうか。

【解説1】

「参る」や「申す」は,謙譲語IIに当たる敬語です。しかし,「御持参ください」,「お申し出ください」,「お申し込みください」などといった表現の中に含まれる「参る」や「申す」は,謙譲語IIとしての働きは持っていないと言ってよいでしょう。したがって,これらの表現を「相手側」の行為に用いるのは問題ありません。

【解説2】

「御持参ください」「お申し出ください」という表現が気になる場合には,「お持ちください」「おっしゃってください」などと言い換えれば良いでしょう。「お申し込みください」は,状況によっては「御応募ください」などに代えることができます。

【3】社長から,課長である私が,部下に企画をもっと積極的に出せと指示しておくように言われました。「はい,そのように申し伝えておきます。」と返事をしたのですが,これでは部下を高めることになってしまうのでしょうか。

【解説】

「申し伝えておく」というのは,「そのように部下に言っておく」あるいは「そのように部下に伝えておく」ということを,「申す(謙譲語II)」という敬語を使って表現したものです。つまり,ここでは,「相手」である社長に対して改まって述べたものであって,その<向かう先>である「部下」を立てるものではありません。したがって,問題のない使い方です。

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