日本語教育研究協議会 第6分科会

第6分科会 「『地域日本語教育のための教え方の事例と教材の活用』−VT法(ベルボ・トナル),TPR(全身反応教授法),フォトランゲージ,『リソース型生活日本語』等を使って−」
関口明子(社団法人国際日本語普及協会(AJALT)事業部長)


関口それでは,始めさせていただきます。国際日本語普及協会の関口と申します。よろしくお願いいたします。(拍手)
15:30から17:30までの2時間ですが,たくさんのものを何かの参考にしていただいてお持ち帰りいただきたいと思って組んでおります。1枚ペラっとしたA4のものが一応次第になっておりますが,お持ちでしょうか。「地域日本語教育のための教え方の事例と教材の活用」です。
私たち地域の日本語支援にかかわる者が一体何ができるのだろうか,どのようにして支援を行っていったらいいのだろうかということで,御参加の皆様は本当に頭がいっぱいになっていらっしゃるかと思うんですが,今回地域の日本語支援の試みとしていろいろなことをなさっている方にその試みを御紹介をしていただこうと思います。
いろいろな工夫をなさっている武蔵野市国際交流協会の事例から入りたいと思いますが,まず最初に部屋の四隅というアクティビティー*1を杉澤さんがやってくださいますので。ボランティアの方を募集をなさるんですよね。

*1 アクティビティー 活動。行動。


杉澤午前中のセッションのときに,教員向けに何か活動をなさっていますかという御質問をいただいて,国際理解教育の活動の中で教員ワークショップをやっていますというお話をさせていただいたんですが,その4年間の教員ワークショップでの実践研究の取り組みの中で,国際理解教育で使われている参加型の手法というのを日本語の学習の場で使えるんではないかということで,2年間,実際に後で出てくださる宮崎さん,河北さんを中心にMIA*1で取り組みをしてきました。今日は,その手法の二つを御紹介したいと思います。
フォント*2が教科書体で書かれているハンドアウトなんですが,これはメールで送ったときはゴシック*3でいったんですが,ここに来たら文字が化けてしまってフォントランゲージになってしまったんですけれども,その中に下の四角の中に「ひろげてみませんか教え方,学び方!参加型学習ワークショップ」というのを3時間かけて行います。
11月15日,「10:00から13:00」になっているんですが,「10:00から13:00まで」の3時間ですので,ここだけちょっと訂正だけさせてください。もし御興味のある方はぜひ御参加いただきたいと思います。
それでは部屋の四隅をやりたいんですが,ボランティアを15人募集したいと思います。上に上がっていただいてどういう形でやるかを皆さんに見ていただきたいと思うんですが,上がっていただける方15名,我こそは。出た人が得をするのが参加型ですので。見ているのでは分からない。ぜひ,どうぞ上がってください。先着15名。前に座っていらっしゃる方の方が出やすい。よろしくお願いします。
やはり若い方の方がアクティブなのかもしれない。と言うと,結構私若いと思っていらっしゃる方,もうちょっと出ていただけないでしょうか。どうでしょう。
それでは,部屋の四隅というワークをやります。これは日本語の教室のときにもアイス・ブレーキング*4等に使えると思います。まず,お部屋というのは大体四隅あります。四つのコーナーを使ったアクティビティーです。ここを一つの隅にします,ここを一つの隅にします,こちらを3か所目,4か所目にします。私が今から質問を出します。自分の回答に最も近いというところに動いていただきます。
では,1問目いきます。日本の現在の外国人の登録者数は185万人と言われています。人口の約1.4%を超えています。この人数は「多いと思う,物すごく多いと思う」「まあまあ多いんじゃないですか」「余り多くないと思う」「全然少ないと思う」。移動してください。「まだまだ少ないよね」と思う人がこちらですね。日本語学習をやっていると,外国人に悩まされているという方が多いんですが,意外とまだまだ少ないよねという方が多いようですが。
それでは,「すごく多いね」という理由をちょっと聞いてみたいと思います。なぜそう思われましたか。

*1 MIA 武蔵野市国際交流協会。
*2 フォント 同一の大きさや書体で欧文活字のひとそろい。
*3 ゴシック 和文書体のひとつ。
*4 アイス・ブレーキング 授業等の導入部分でリラックス(安心)できるように工夫された活動。


参加者身の回りにそんなにたくさんの人がいないように思うからです。

杉澤身の回りには,日本語学習の場にはたくさんいるけれども,普段生活しているとそんなに多くは感じられない。
これをやっていくときに,「お名前は?」とかいろいろ聞いたりします。
では,185万人は「まぁ多いんじゃないですか」。なぜそう思われますか。

参加者185万人が,どこにいるかにも問題があると思うんですけれども,結構,都市部に集まっているんじゃないかなと思って。結構185万人が固まっているんじゃないかと思って,多いんじゃないかと思います。

杉澤なるほど。ちなみに,どこにお住まいでしょうか。

参加者東京・練馬区から来ました。

杉澤練馬区は多いんですよ。人口の5%ぐらいいるんじゃないですか。
なるほど。暮らしている地域によっても感じ方が違うということですね。
では,「まだまだ少ないんじゃないですか」。なぜそう思われましたでしょう。

参加者1.4%ということですよね。消費税ぐらいになったらちょうどいいかなと思うんですけれども,消費税より低いので。

杉澤何か,どこを基準にしているかよく分からない(笑)。では,「まだまだでしょう」という一番先に立っていらっしゃる方はなぜそう思われますか。

参加者私は広島から来たんですけれども,広島大学に日本語学科があって,国際都市・広島には多いんです。でも,ちょっとよそに行ったときには余り見かけないし,国際的には少ないと思います。

杉澤なるほど。国際都市というか,国際という観点から言うと,日本の外国人の人数はまだこんなに少ない。
では,2問目にいきます。地域の日本語学習支援活動は「楽しい,もう楽しくてしようがない」「まあまあ楽しい」「余り楽しくない」「全然楽しくない」。はい,動いてください。さすが,壇上に出てこようと思われる方なので「楽しくてしようがない」。では,「物すごい楽しい」とお一人いますけれども,どこが楽しいんでしょうか。

参加者お友達がたくさんできることです。

杉澤日本語学習支援やっていませんね,楽しんでいます。では,「まあまあ楽しい」。楽しくないところはどこですか。まあまあ楽しい,でもちょっとだけ楽しくない。どこが楽しくないですか。

参加者やっぱり自分の力不足を感じるところじゃないでしょうか。

杉澤向学心に燃えていらっしゃいますね。
では,お一人だけ「何か余り楽しくないよね」。なぜですか。

参加者なかなかうまく教えられなくて悩んでしまいます。

杉澤教え方がなかなか難しい。それぞれ,日本語学習支援の軸足をどこに置いているかによって楽しさが大分違うようです。
では,3問目にいきます。ここに乗っていらっしゃる方はどこに住んでいますか。「北海道・東北・信越」「関東・東海」「北陸・近畿」「中国・四国・九州・沖縄」。どうぞ。
これは文化庁の全国大会だからこういう質問にしました。ほとんど関東・東海の方でしたね。ありがとうございます。
今,3問だけ質問を準備しましたけれども,日本語の学習者によっては,学習者の姿が見えていると,このように質問をつくっていくと学習者自体が自分たちのクラスにどういう人たちがいるかということが一目瞭然で分かるというワークです。一応ハンドアウトにそのやり方とか趣旨が書いてありますので,解説は時間がないので割愛させていただきます。
四隅の場合,グループ分けも実はできます。本当は三つに分けたかったんですが,うまく分けられなかったので,すみません,こちらから5名ずつ座ってください。適当で結構です。
では,次にフォトランゲージを紹介したいと思います。

河北こんにちは。武蔵野市国際交流協会の河北です。

宮崎宮崎です。よろしくお願いします。

河北これから河北が,フォトランゲージのファシリテータを務めます。ただいま御紹介のありましたフォトランゲージを早速始めたいと思います。各グループにこれから写真を5枚ずつ配ります。

宮崎今,配っています写真と同じものがお手元の資料にあります。資料を御覧ください。資料の写真は白黒で,1〜5まで順番がついています。壇上で使う写真は,サイズはA4で,カラー写真です。

河北では皆さん,5枚の写真の中から一番好きな写真を1枚選んでください。1枚の写真を複数の方がお選びになっても結構です。理由を考えながら選んでください。では,2分間差し上げますので,選んでください。

宮崎会場の皆様も,お手元の資料から一番好きな写真を1枚お選びください。その理由もお考えください。

  (写真選び)

河北では,グループの中でお互いにその写真を選んだ理由を発表してください。1人ずつ,全員が発表します。3分差し上げます。

宮崎会場のみなさまもお近くの方と5人ぐらいでグループになり,選んだ写真をもとに,理由を説明し合ってください。

  (グループ討論)

河北3分たちました。では,ちょっとここでどんなふうに選ばれたのか伺ってみたいと思います。こちらの方は,3番の犬の写真を選ばれました。どうしてですか。

参加者私は今マンションで暮らしているんですが,家族,子供たちとか私自身も犬が飼いたいんですけれども,マンション暮らしですし,それから長く家を留守にすることが多いのでちょっと今あきらめているんですけれども,この写真を見て,多分マンションでこの大きいワンちゃんを飼っていらっしゃるのを見てとてもうらやましい,それから何か一生懸命しつけをしていらっしゃるところかなという感じで,すごく微笑ましくて半分うらやましいという気持ちでこれを選びました。

河北微笑ましくてうらやましい。同じ写真を選ばれた方がこちらのグループにもいらっしゃいます。どうしてですか。

参加者カメラ目線ではない写真を選ぼうと思ったんです。ナチュラル*1な写真がいいなと思って。おじいさんのもそうだったんですけれども,一番自然体はやはりこれかなと思いました。

*1 ナチュラル 自然なさま。


河北ありがとうございました。 では次に,各グループで話し合って5枚の写真にランク*1をつけてください。ランクをするときの視点は「豊かさ」です。豊かだなと感じる順に1番から5番までランキング*2をお願いします。4分差し上げます。

*1 ランク 順位。順位付け。
*2 ランキング 順位(を付けること)。


宮崎会場の皆様も御一緒にお願いします。

  (グループ討論)

河北すみません,ちょっと時間は短いんですけれども,時間が押していますので,皆さんランクが決まったようですから。御自分の選んだ写真を持ってランクどおりに並んでください。こちらのグループはこちら,このグループはここ,写真を持って1〜5でお願いします。
順番が決まりましたようです。見てください,いかがでしょうか。順番はグループで同じですか,違いますか。本来でしたらばグループごとでも,こうやってここでワークをしている全員ででも,振り返りをしていただきます。今日は時間の都合上,その振り返りはいたしません。会場の皆様は全部が見えるんですけれども,それぞれにいろいろと御感想をお持ちだと思います。……では,せっかくですのでフォトランゲージの一番おもしろいところ,どうしてこういうランクになったかを聞きます。

参加者この写真(5番)はやはり日本的家族の団らんですか,それから記念の日でお孫さんがいて,喜寿か米寿の方にパソコンを贈って,それを娘さんたちがにこやかに見ているという豊かさと団らんと,日本的な家族の形を選びました。

河北ありがとうございます。グループで,どうしてこういう順番になったかをちょっと簡単に教えていただけますか。

参加者やはり一番豊かなというのに選ばれたのは(5番),今の方と同じように精神的にも物質的にもとてもみんな幸せそうで豊かだということと,それから2番目(2番)は御夫婦でゆとりある御旅行のような,物質的にもゆとりがありそうという感じ。3番目,4番目はとても迷ったんですけれども,犬が飼えるゆとりがあるということで3番,こちら(1番)は何をしているのか分からない2人ということで,ちょっと豊かじゃないかも。5番目(4番)は,学生のひとり暮らしで一番貧しいかなという感じです。

河北では,ここでフォトランゲージを終わります。御協力ありがとうございました。どうぞお席の方へお戻りください。

宮崎参加型の手法はいかがでしたでしょうか。今日は時間の関係でとても慌ただしくいたしましたが,時間をもっとゆっくりとって丁寧にしていただけるといいのではないかと思います。
また,今日はこのような会場ですので日本人だけでいたしましたが,学習者と学習支援者が一緒に行うということがとても大切な視点ではないかと考えています。では,簡単に今日の参加型の手法の二つを振り返ってみたいと思います。まず最初の「部屋の四隅」ですが,これはアイス・ブレーキングによく使われる手法です。壇上で参加くださった方も,会場で御覧になった方もお分かりいただけたかと思いますが,全体を概観することができ,また,全体と「私」との位置関係を知ることができたと思います。次のフォトランゲージですが,まず写真を選びましたね。

河北「私」が「私」の好きな写真を選び,その理由を発表しました。「私」がだれからも否定されることなく,みんなに受け入れられました。

宮崎「私」がみんなに受け容れられるということがとても大切な点だと思います。次はランキングをしました。これは5人のグループで協力して一つのタスクをこなしました。いわゆる最近言われます共働作業があったわけです。

河北今日は豊かさを視点に考えていただきましたが,価値観の違いが見えたと思います。

宮崎今日は,全員日本人でしたので,価値観の違いはあまり見えなかったのかもしれませんが,外国籍の方が入ると違った展開が期待できるように思います。昨日の午後こちらでセッションがありましたが,マイノリティーの方にどのようにして声を出していただくのか,また異文化をどのようにして受け入れることができるのかというような議論がありましたが,マイノリティーも声を出せる,異文化を認め合うことができるという仕掛けがこの手法の中に入っていると思います。そして全体の中に流れているのがコミュニケーションです。日本語によるコミュニケーションであり,これが日本語学習に重なってきます。ところで,フォトランゲージというのは今日のような形でいかなければいけないんですか。

河北いえ,そうとは限りません。いろいろな方法があります。写真をたくさん床の上に広げておいて自分の好きな写真を選ぶ,1枚の写真を見てストーリーをそれぞれにつくる。

宮崎今日は,「好きな写真を選んでその理由を話し合う」という手法に加えて,「ランキング」という手法を取り入れたものです。それから今,河北さんがおっしゃったようにストーリーをつくるということも楽しめます。また,写真は今日は5枚使いましたが,1枚でも大丈夫です。
それから一つの写真の使い方ですが,例えば今日の3番の写真です。人が指を指しています。この指さす方向に何があるんでしょうかというようなことを話し合って楽しむこともできます。また,5番の写真ではこの一部を隠しておいて,みんなが笑っている,何を見て笑っているんだろうかということを考えていくこともできます。ところで,今日使った写真は?

河北一番人気の3番の犬の写真ですけれども,ここで指を指している女の人は,先ほど部屋の四隅をしてくだすった杉澤さんです。杉澤さんの愛犬です。それから,一番豊かではないという評価をいただいたこの写真に写っている隅っこの若者は愚息でございます。そして,この評価の高かった楽しそうな写真,ここで笑っている人は宮崎さんです。

宮崎というふうに皆様も仲間の中で写真を持ち寄って,最後に「実は……」と種明かしするのも楽しい方法だと思います。ここに学習者の写真が加われば,バラエティー*1はもっともっと増すと思います。
先ほどもお話ししましたが,今日は時間の都合上割愛いたしましたが,最後の最後の仕上げとして,全員で,あるいはグループで振り返りをいたします。この振り返りをすることによって,参加型の手法の意味がより深まるだろうと思います。

*1 バラエティー 様々であること。


河北皆さん,いかがでしたでしょうか。参加型の手法をぜひお試しいただきたいと思います。
これで参加型手法の紹介を終わります。ありがとうございました。(拍手)

関口どうもありがとうございました。このフォトランゲージを実際に武蔵野市でなさっている授業を私は拝見しました。そのときは外国人の方がたくさんいらして日本人の方の方が少なかったと思うんですが,写真を見ながら自由に話していました。そして,同じ写真をやはり文化が違う人が別の発想でいろいろ感想を言っているのがとても楽しそうで,コミュニケーションが豊かに交わされていたのを思い出しました。
それでは次に,私どもAJALTは1980年から現在までインドシナ難民の日本語教育に携わってまいりましたけれども,その中でインドシナ難民の人たちが日本語の音も聞いたことがなく,なかなかうまく音が出せない。そういう人たちにどうしたらうまく音が出せるだろうかといろいろな工夫をしてまいりましたが,その中の二つほど御紹介したいと思います。国際日本語普及協会の梶川明子がお話しいたします。よろしくお願いします。

梶川初めまして。梶川明子と申します。多分30分か40分くらいのデモンストレーションになるかと思いますが,よろしくお願いいたします。(拍手)
まず,TPR(トータル・フィジカル・レスポンス)という教授法なんですが,御存じの方いらっしゃいますか。クラスでよくお使いになっていらっしゃいますか----知っているけれども,使っていないという方が多いかと思います。
では,VT法*1という発音矯正の存在を御存じの方−−大分いらっしゃいますね。では,実際にお使いの方−−本当に2,3人でしょうか。分かりました。
今日はこれから,本当にTPRのことをお話しするだけでも大体3時間,VT法のお話をするだけでも3時間はかかるんですけれども,これを35分で皆様とともに進めていきたいと思います。どうしても変とか,ちょっとすみません,ここが分からないと私は先に進めないんですけれどもという方がいらっしゃいましたら,ちょっとお手を挙げていただきたいと思います。
まず,VT法という発音矯正の方から少し御紹介していきたいと思います。レジュメの方はこちらの「学び方のひとつの可能性」と書いてあるものなんですけれども,実は私は日本語教育を始めましたのがインドシナ難民が初めでした。ベトナム難民の方たちに初めて日本語を教え始めたわけなんですけれども,国際救援センターというところで新日本語の基礎を使って教え始めました。
そのときに非常にベトナム人の発音が日本語らしく聞こえないという当時の私たちの悩みがありまして,そのころ主任だったAJALTの岩見という主任教師からこの発音を何とかしてあげてちょうだいというお話がありまして,我々で発音指導の方法を考えることになりました。発音の指導法を考えてみよう,何とか日本語らしく聞こえるようにしたい。
というのは,例えば「つ」が「ちゅ」に聞こえる。「いちゅ」とか。母音の「あ」が非常に緊張していて,全体的に多分日本語よりも緊張性が高い。「ワーターシハータンデ」。それは「私はタンです」という発音なんですが,そのように聞こえる。そして例えばあっと思ったのが,ある日ディクテーション*2をしていまして,学習者のクラスの3分の2ぐらいが「ズビンコック」と書いたんです。私はそれをクラスの10分休みのときに回収して,「ズビンコック」って私は一体何を言ったんだろう,私はどんな発音したんだろうと思って。何だと思いますか,「ズビンコック」って。

*1 VT法 ベルボ・トナル法。言調聴覚法。
*2 ディクテーション 書きとり。


参加者郵便局。

梶川そうなんです。私が「郵便局」という言葉を3回言ったら,「ズビンコック」と書いてきたんですね。ですので,彼らの耳には「ゆ」は「ず」に聞こえるし,「きょ」の後に「く」が来たら,何か入っているみたいだけれども,拗音は聞き取れなかったということなんだと思うんです。それでたまたま私の友達がこのベルボ・トナル法でロベルジュ先生*1という先生からフランス語を学習して……。
まず,ベルボ・トナルの理論というのを少し簡単に御説明しますと,発音の矯正でも,言語の指導法でも,言葉を教えるときでも,小さいところから入っていってだんだんに大きく積み上げるという方法と,それから大きいところから入っていってどんどん小さい,細部の方に意識を向けていくという教え方があると思います。まさにVT法というのは大きいところから,マクロからミクロに向かっていくということなんですね。それで,その考え方の中は,例えば簡単に御説明するとこういうことだと思います。
皆さんは,隣にだれかがいる,そして何か話している,でも何を話しているかは分からない。しかし,それは日本語ではないようだということは分かるという経験はどなたにもあるかと思います。まさにベルボ・トナルというのはそこのところが根っこになっております。まず,それぞれの言語にはそれぞれの特徴的なリズム*2とイントネーションがあって,そのリズムとイントネーションが発音をそれぞれ統合しているのである。それが直れば日本語らしく聞こえるし,英語らしく聞こえるし,あるいは韓国語らしく聞こえるということなんだと思います。
それで,もう一つベルボ・トナルで大切なことは,声を出すというか発音を出すのはこの辺だけではありません。口とかのどとか鼻だけではなくて,体全体も関係していますよという説明がよくなされています。というか,それが原理なんですけれども,そこのところはよく説明しているのは,例えば赤ちゃんが「あー」とか「うー」とか初めて声を出すときに,直立で「あー」とか「まー」とか言っている赤ちゃんはいないはずで,必ず足をバタバタさせながらとか,「ぱっ」と言うときもちょっと手を開いてみたりとか,足を蹴ってみたりとか,体の動きが伴っているというようなところから大きな筋肉を動かして,のどの筋肉も一緒に動かそうという発想。
それから,音を出すときには例えば私たちは母音を出すときには「あー」と何も邪魔をするものはありませんが,「たっ」あるいは「ぱっ」という子音を出そうと思ったときには息を邪魔する例えば唇であったり,舌の先であったりして,何か音が真っすぐいかないように邪魔するものがあって初めて「た」とか「ぱ」とかいう音が,「か」とか「まー」でも全部そうですけれども,子音はそうなっていると説明されると思うんですが,その舌の動きですとか息の強さですとか,長さとかいったものを体を使ってイメージ化して運動しながら発音しやすくするという発想です。
ここまでいいでしょうか。全然意味が分からないという方,いらっしゃいますか−−では,大丈夫ということで次に進めたいと思います。そういうような理屈がありまして,まずベルボ・トナルというのはリズムとイントネーションを大切に考えています。そして話し言葉の準備段階としてよく行われているのが,童歌を日本語らしいリズムで切って練習するというものなんですけれども,これは歌うのではなくて言ってみる。言うときに,日本語のリズムは基本的には二つ,(手を上下に)1・2,1・2だと言われています。ちょっと一緒にやってみましょうか。
実は私は,救援センターに戻って救援センターの先生方にベルボ・トナル法というのをお伝えしなければならないという使命が当時あって,上智大学の言調聴覚論のセンターの方に通い詰めた時期がありまして,そこでこの手の動かし方とかも結構厳しかったんです。なぜかというと,ヒラヒラすると緊張度が高まるとか言われて,今度は大きいともっとだめとか,そんなふうに直されました。実は日本語というのは世界の言語の中では緊張度がかなり低いというふうに言われているようで,こんなふうに大きくするとどんどん緊張度が高まっていってしまって,まるでスタッカート*3のように切れて聞こえてしまう,切れて発音してしまうということがあってよくないというふうに指導していただきました。
ちょっと練習したいと思います。右手で構いません。これで1ですね。次に出すのが2なんです。この間に小さい山をかくようにして1・2,1・2。そうですね,皆さん大変にすばらしいです。そしてこのまま「凧,凧揚がれ」と言います。「凧,凧揚がれ。天まで揚がれ」。これが基本なんです。このときに大きくしないでくださいと私はしかられまして,このぐらいで動かすように。なぜなら,日本語は緊張性が低いからであるというふうに言われました。
初めのころ,これをクラスでやっているときにみんなが「タコ,タコ,アガレテンマデアガレ」という状況に陥りました。クラスが暗くなってしまうんです。これはもともとは難聴の子供たちにどうやって耳の聞こえをよくするかというところから外国語の発音矯正の方に持ってきたものです。耳の聞こえないお子さんたちにどうやって聞こえをよくするか,どうやって発音できるようになるかというのを生涯かけた先生たちがいろいろな方法を開発なさっているので,もし生粋のVT法の先生がいたら大変に申しわけないんですけれども,やはり私はクラスが暗いのは困るんですね。この動作は基本です。でも,変えました。
どう変えたかというと,今皆さん上手になさってくださったんですけれども,学習者の方はそんなに上手にできないんですね。なぜなら,日本語も言わなければならないし,このリズムも切らなくてはいけないと「タコ,タコ……先生,タコ何ですか」という世界になって,大変これはちょっとどうかなという時期がありました。それでクラスは楽しい方がいいと思って,(指をならす)皆さん,おできになりますか。できない方はひざをたたいていただいてもいいんですけれども,ずっと何か楽しい。「♪〜凧,凧揚がれ。天まで揚がれ」。この「揚がれ」が上昇アクセントと言われていますけれども,そんなふうにして。本当は歩いてもいいんですね。「♪〜凧,凧揚がれ」とかいってダンスなんかもしながらできると思います。
「凧,凧」がうまく言えない,この童歌がなじめない,「先生,タコ何ですか,アガレ何ですか,タコ食べますか」とかいろいろなことがクラスの中で起きることがありますので,もしそうであれば1・2,1・2でリズムを2拍で切っていってすぐにあいさつ表現に持っていく。例えば「こん・にち・は・休」「こん・ばん・は・休」。
ちょっとやってみましょうか。「さよ・う・なら・休」。
これでどんどん文のリズムの切り方に続けていくことができるわけです。「きの・う・ぎん・ざに・いき・まし・た・」。やってみましょうか。「きの・う・ぎん・ざに・いき・まし・た・」。
でも,これってちょっと変じゃないですか。「きの・う・ぎん・ざに・いき・まし・た・」なんていう日本語は余りないはずなんですね。これは2拍のリズム,最初のところです,話し言葉への準備段階です。
ですのでこれをどう発展させるかというと,自然のリズムになるようにこれを速くするんじゃないんですね。これは大変なのでどうするかというと,この中に意味のある言葉のまとまりを入れていくようにします。つまり「きの・う」じゃなくて「昨日」で一つですね。「銀座に行きました」。これが言えるようになると,いきましょうか。「きのう・ぎんざに・いきま・した」・休み。大分,変わってきますよね。
そして最後は,「昨日,銀座に行きました」。二つです。いきましょう,「昨日,銀座に行きました」。これだけで随分,練習ができるんですね。
クラス全員で最初はやっていって,では,すみません,タンさんです。タンさん,どうぞ,一緒に。「♪〜昨日銀座に行きました」。

*1 ロベルジュ先生 クロード・ロベルジュ。VT法の第一人者。主な著書は『VT法による英語発音指導教本』(共著),『日本語発音指導』(共著),『ウェルボトナル法入門』(監修),『話しことば指導の技法』(監修)など。
*2 リズム 周期的に反復・循環する動き。律動。文章などの調子。韻律。
*3 スタッカート 音楽で1音符ずつ切り離して歯切れ良く演奏すること。


参加者♪〜昨日銀座に行きました。

梶川OK,上手です。はい,チュンさん。

参加者♪〜昨日銀座に行きました。

梶川ランさん。

参加者♪〜昨日銀座に行きました。

梶川OK,いいですねといってどんどん回していって,必ず1人か2人かはできないんですけれども,そこは置いておいて「もう1度いきますよ」と言いながらどんどん回していくと,これだけでものすごい文型練習になるということがあります。これは私は文型練習のつもりではなくて,一つでも今日持って帰ってもらいたい表現というのをベルボ・トナルを使ってどんどん練習していく。
ただし大切なことは,文を覚えましょうと言うのではなくて,発音練習ですよ,きれいに発音する練習をしましょうということを言っておくと,学習者のモチベーションも実は全然違ってくるということがあります。
さて,これが基本的なVT法の考え方なんです。しかし,学習者によってはどうしても直らない個別の音があります。例えば「ず」が「ずぅ」,「つ」と「ちゅ」とか,それから「ひゃくえん」が「ヒヤックエン」となったりとか。
中国人の学習者で「ワラシハ(私は)」。「な」とか「た」とかが「ら」になってしまう。それで「アロホウ(あの本)」とか「アロホン(あの本)」。みんな,彼が日本語を話すときにこんなになって聞いているんですけれども,何,何,何が言いたいの?
そのぐらい初めは分からなくて,それをどういうふうに直すかということも実はベルボ・トナルで考えている,体を使って,あなたの発音はここが日本語の正しい発音に比べると足りないんですよということをイメージ化できるということをしています。例えば,「な」はベルボ・トナルの方では緊張性は真ん中ぐらい,ちょっと弱いぐらいで,時間が長い。だけど彼の場合は「ら」と「な」の違いが分からない。VT法では「ら」の方は「な」に比べてずっと短いということなので,彼の間違いからみるとですよ。ですので,最近始めたのは,ちょっと手の指の先に水をつけておいてこれをはじく。それで「ぷらっ,ぷらっ,ぷらっ」。ちょっとみんなでやってみましょう。「ら,ら,ら,ぷらっ,ぷらっ」。本当は水がついているんですね。この短くふり切る軽い動作と「な」の動作とを比べてもらう。
「な」の方はどうしたかと言うと,ここにテープがあります。これをはがすときにピッとはがしてはだめなんですよ。これはちょっと柔らかいので,もっとべたっと張っておけば,ここで(テープをゆっくりはがしながら)「ん〜な」とか「ん〜ま」。全然違いますよね。「ん〜ん」から始めます。ちょっとやってみましょうか。「ん〜のぅ」。
毎日言ってもらったのは,「あのぅ,あれ何ですか」というのを「あの〜,あれ,ん〜なんですか」というのをしつこくしつこく練習していただきました。このVT法で分かったことは,確かに直ります。でも,次の日はまた戻っているんです。
でもこれはすばらしいなと思ったのは,私は救援センターの現場で発音プロジェクトというのをやっていまして,いろいろな発音の矯正の仕方があったんですけれども,ウエハースを使った発音指導があって,舌がちょうどくるところに小さなウエハースを張っておくんです。その一番いいところに舌の先が届いたら,ベロッと舌を出すとくっついている。なかなか上についていてくれないんですね。「先生,おいしい」とか言って食べている学習者もいて,ウエハースメソッドもだめとかとかいろいろやっているうちに残ったのがベルボ・トナル法でした。
そんな感じで始めていて,直らないんではなくて,直るきっかけがまずできたということに喜びを見出すということが大切なんではないかなというふうに考えます。
こういう話があって,あるベトナム人の学習者が教会にお勤めできるようになって,牧師さんのお手伝いをすることになった。彼はマリア様の像を持って,このマリア像に何とかかんとかと言わなくてはいけないのに,どうしても「マリア像」と言えないんですね。何と言うと思いますか。「マリアじょう」になってしまうんですね。「ぞ」というのはここのところの振動がありますので「ずー」と言って広げていく,そのまま広げる。「ずずずず〜……ぞう」。そのときはできるんですけれども,「じょ」というひねった音にどうしてもなってしまう。
彼はどういうふうに直したかというと,こつは分かった。だけど,どうしても自分の母語が緊張すると「マリアじょう」になってしまう。毎日歩きながら「ぞ,ぞ,マリア像,マリア像」と家から勤めの教会に行くまでに「ぞ,ぞ」と言いながら練習しましたということでした。そのぐらい大変なこと,そのぐらいモチベーションが必要なことだと思います。でも,きっかけがあげられたというだけですばらしいんではないかと思います。
さて,次にTPRということをお話ししたいと思うんですけれども,5人ぐらい来ていただいてもいいでしょうか。TPRというのはそちらに書いてあるように全身反応,要するにこれはジェームズ・アッシャー*1という心理学者が自分の子供が……
  (参加者壇上いすへ)
  例えば(手を上げながら)タップ,タップ,タップ,タップ(参加者起立)。
(手を下げながら)スゥ,スゥ,スゥー(参加者着席)。
(手を上げながら)タップファ,タップファ,タップファー(参加者起立)。
(手下げながら)スゥファー,スゥファー(参加者着席)。
何も日本語で説明していないんですけれども分かるわけですよね。これが一応TPR。現場から,状況から何をしなければならないかということを聞き取っていくというものなんです。

*1 ジェームズ・アッシャー T.P.R.(トータル・フィジカル・レスポンス)を提唱した心理学者。

  これ以上はちょっと難しいので日本語でしたいと思うんですけれども,よくやっているのは,「右手を上げてください」。分からないですよね。(動作をしながら)右手を上げてください,右手を上げてください,右手,右手……。下げて,下げて。右手を上げて。下げて,下げて。右手回して,回して,回してください,回してください。
これはもちろんみんな日本語だから分かっているんですけれども,さっきみたいに「タップ」とかいって,何を言われているんだろうと分からない人は,呆然としながら,少しずつ自分が理解したことはこれでいいんでしょうかということを体で反応して,自分は正しいんでしょうかというフィードバックを教師の方に送るわけです。教師はそれを見て,この文の意味が分かったなということが分かるわけですね。これは文の形式ではなくて,文の意味に焦点が当たっている,文法より意味の伝達が大切であるという考え方なんだと思います。
しかし,これをやっていて私がよく分からなかったのは,TPRというのは「立ってください,座ってください」この間は無言なんですね。誰が無言というと,学習者は返事をしたり日本語の文を産出しなくてもいいんです。ということは,とてもリラックスした不安のない状況で教師の言葉を聞くことができる。だから緊張が下がって日本語が,あるいは学習している言語がどんどん頭の中に入って理解していくことができるという考え方なんですが,この先にあるのは,ただ聞いているだけなのという疑問だと思いま。でもそうではなくて,アッシャーが言うには,十分に理解が深まって,ここのところまで来たら,ぽんと自分で同じ文,あるいは先生から聞いた文をつなぎ合わせて,言葉と言葉をつなぎ合わせてさらに新しい言葉をつくってくれるというふうに言っています。
しかし,そこで一つ疑問が残りました。「立ってください」とか「座ってください」とか言えるようになっても日常のコミュニケーションとどうつながっていくのかなというのが少し分からない点だったんです。しかし,聞き取る力は非常に伸びます。
これは多分,皆さんがTPRを知っています,でも実際には使っていますと言った方が少なかったというのと,私が感じた日常のコミュニケーションとどうつなげていったらいいんだろうかという疑問と重なるのかなというふうに感じています。
ここからちょっとお話ししたいことは,これを日常のコミュニケーションにどうつなげるかということなんです。もちろん先生方は十分にいろいろな教室活動をなすっていて,私なんかが言うようなことはないと思うんですけれども,小さい何かでも持って帰っていただければうれしいなという気持ちでやってみますので,どうぞ温かいまなざしで見ていただきたいと思います。
要するにTPRというのは教師が指示を与えて,そのとおりに動いて,もう1度まとめますと,そしてその日本語がどんどんたまっていったら,たまった時点でポンと出てくる。その沈黙の時期は学習者にあげてください,大切なことです。そしてもっと大切なことは,その現場から話されている言葉の意味を聞き取っていく類推力,推理力を開発していくことなんですよというふうに言っています。それは本当にすばらしいと思います。
これをコミュニケーションにもうちょっとつなげたいと思ったときに,今「立ってください」というところを,例えば教室の中に皆さんよくお使いの絵カードのようなものを張っておきます。例えばこれは病院ですよね。また,別なところにはレストランのようなものを張っておきます。
ここで生徒がいるとします。(動作をしながら)「タンさん,レストランに行ってください,レストランに行って,行って」。もちろん分からないんです。
この間もこれをやっていたんですけれども,学習者の方は呆然としながら,でも先生の身振りとか,「行って!」とか言っているので何か動かなくてはいけないんだと思っておずおずしながら行って,「行って」と言われているのでとにかくレストランに行きます。「いいですよ,行って,行って」と行ったらタンさんは何をしたかというと,これを取ってこいと言われたんだと思って,取ってきてしまったんですね。それは間違いはたくさんあるんですけれども,そうではなくて「行ってください」そしてまた「帰ってください」「行ってください」「帰ってください」「病院へ行ってください」「レストランへ行ってください」もちろんもっといろいろな場所があるんですけれども,そういうことをやっているときに,学習者が動いている間中,私が学習者のしていることを日本語で説明する。つまり,学習者が歩いている間「タンさんはレストランへ行きます,行きます」「病院へ行きます,病院へ行きます」。学習者はそれを見ているわけですから,「病院へ行きます,行きます,行きました」というようなことをどんどんやっていると,並んでいる学習者の方は「行きます?行きました?」どうも先生はここで起こっていることを説明しているようであるということに気がついてきます。
さらによく観察していると,学習者の中の何人かはしばらくすると「行きます,行きます」と小さい声で一緒にリピートしています。そして最後に私が例えば「行きま」ぐらいでやめると「た」とか言っているんですね。そうすると,「ました」と「ます」というのが少しずつ分かってきて,移動が終わったときには「た」と言っている。だんだん分かってくる。
そしてその中で,私の方が今度は「どこに行きましたか,だれと行きましたか,何で行きましたか」というような質問ができるように,よく皆さんも教室で使っていらっしゃると思うんですが,こういう車ですとかバスですとかを持って一緒に行ってもらうという流れの中でまず初めに,「行きます」,「車で行きます」というようなことをどんどん聞かせる。すると,自分たちの記憶の容量を超えない程度にリピートしはじめる。このリピートしている長さというのが今日の彼らの長さだなと思ったらそこに焦点を絞り込むという練習を繰り返しました。今日のというか,今この瞬間の彼らの日本語の段階だなということを考えて,それをどんどん聞かせていく。
この段階では聞いている,しばらくすると私が「どこへ行きましたか」というようなことを聞いていくと,生徒の方は「どこ」というのは一番最初にこのTPRをする前に「レストランはどこですか,病院はどこですか,本屋さんはどこですか」,みんなが「あそこ,そこ,あそこ」という感じで,「どこ」に関しては十分慣れるように練習しておきます。そんな感じで普通の練習とTPRをつなげ,TPRの中で実際に動く中でまず初めに大切な語を聞き取り,その後,質問に対して答える。それも1語文でも,最初のうちは彼らの日本語のレベルはここである。「何で来ましたか」「車」それでも私はいいと思うんです。もちろんさっきの横溝先生ではないんですけれども,車で行きましたね,車で行ったんだ,ふーん車で行ったのねという普通の日本語をどんどん聞かせて,でも彼らの部分は「車,車行きました」というふうになっていくように指導していききます。それがステップ1です。
ステップ2になったら,今度は学習者同士で質問したことを答える,質問する,そうすると文の形はだんだんと難しくなっていくということがこのTPRの中でどんどん繰り広げられていくわけです。ただ,この教室作業の中だけで終わってしまっては,ただの教室作業なんですね。
さらにもっと,日本語の文は同じなんだけれどもイメージ的にレベルを複雑にしていくということで,どこの駅にもあると思うんですけれども,北海道とか旅行のパンフレット*1をみんなに渡して,これをいきなりポンポンと渡すと教室の中はすごい騒ぎになります。「先生,何ですか,何ですか」。おもむろに「どこに行きたい?」と聞くわけです。「行きたい」が分からないので騒ぎになっているんですけれども,クラスの中でレベル差があれば「行きたい」がすぐ分かって教える学習者がいます。同じ国の単一言語のクラスだったらそれも可能なんですが,「行きたい」が分からなければ一応教科書などを開いて訳のところを確認してもらいます。行きたいの意味が分かったら,どこに行きたいかな,たくさんある見本の中からみんなが一生懸命探し出すわけです。
この間一人の人が山形の温泉を見て,どうしてもそこに行きたい。当然,これはどこですかという心の動きになるわけです。ですので,一応白地図と日本の地図は用意しておきます。「先生,どこですか」と言われたら,「山形,ここです」。そのときに彼は初めて「ここです」ということが分かって,でもそれだけでは終わってしまうので,白地図を渡して山形を探してもらって,山形と東京の遠さというのを見てもらって,色鉛筆を用意しておいてそれを塗ってもらう。そして何で行きたいか,だれと行きたいかというようなことを書き込んでいってもらうわけです。
最後には一人の学習者が皆の前で発表をします。そうすると不思議なことに,私はだれだれとどこそこに行きますというようなことが言えるようになっているんです。その間もベルボ・トナルを合間合間に入れていっているわけです。つまり学習者の気持ちが動いた先というのを見計らって言葉をどんどん入れているのでどこかで学習者の言葉が,先ほど中間言語というお話,ここで聞いていらっしゃった方は御存じだと思うんですけれども,みんな間違いではないんだ,みんなのしていることは間違っている日本語ではなくて,そこを通るんだから許してあげてというようなお話があったんではないかと思うんですけれども,その説には私も大賛成なんです。でも,クラスが2時間とか3時間あった中で中間言語を見据えて放っておくこともできないので,やはり少し正しい日本語というか,ここは意味を覚えていってもらいたいとか,助詞をちょっと覚えていってもらいたいとかいうときには今のベルボ・トナルを使って,(指をならす)これで刻みながら「さあ,発音の練習をしましょう」といってどんどん発音練習を入れていきます。そうすると,本当に自然のやりとりの中でどんどん文は正しく構築されていく。気持ちは,意識はコミュニケーションに向いているんですけれども,頭のどこかこの辺には正しい日本語を発音という形でどんどん練習しているという印象が残ります。
とにかく初めに現場型の日本語から始めます。「行ってください」とか言いながら動きながら始めて,そこを叙述するような形を通ってその間にいろいろな自然のやりとりがあって,本当にやるたびにおもしろいんですけれども。
あるとき山形の温泉に行きたいと言った人は,パンフレットの中に露天ぶろに女の人が背中を向けて,ちょっと背中が見えているきれいな写真があったんです。「ここにどうしても行きたい,これはどこだ」「山形」。そうしたら隣の人も「私も私も,先生,私も」。露天ぶろ行きたいのね,これは露天ぶろですよと言ってぱっと見たら,露天ぶろがあったんです。「チュンさんも天ぶろへ行って」と言ったら,チュンさんは「違います,違います。先生,違う。同じじゃない」。どういう露天ぶろだったかというと,こっちは一人女の人が入っていたんですけれども,こっちはおばあちゃんたちがぎっちり入っている,混浴の秘湯の温泉だったんですね。なので,どうも本人としては違う,こっちの静かな,どうも若い女の人がいるところに行きたいということを伝えたかったらしいんですけれども。教室では大爆笑でした。そんなことで,はじめはTPRを使って現場の状況や動きから理解を深め,最後にはプレゼンテーション*2という。言語依存型の発表にいきつく。その合間,合間にVT法を使って間違いを修正していくということを,国際救援センターから発したTPR,勉強させていただいたTPR,それからVT法を使って今現在はやっています。唐突ですけれども,終わっていいでしょうか。とても時間が気になっていますので。ありがとうございました。(拍手)

*1 パンフレット 仮とじの薄い冊子。
*2 プレゼンテーション 発表。


関口ありがとうございました。朝からずっといろいろ勉強なさっていらっしゃる方々,ちょっとお疲れかと思いますが,いかがでしょうか,少し休憩をした方がよろしいですか。突っ走ったら困る,休んだ方がいいという方,ちょっと手を上げていただけますか。突っ走らせていただきます。皆様の御意見を尊重したいと思いますので。
それでは引き続きまして,やはり地域の日本語教室の中でぜひ活用していただきたい教材の素材の御紹介をしたいと思います。この教材素材は『リソース型生活日本語』という名前でAJALTのホームページに公開しているものです。御覧になったことのある方はちょっと手を上げていただけますか。教材素材の中身を御存じの方,手を上げていただけますか。−−ぐっと減りましたが,でもあちこちに……。
では,今日初めて名前を聞いたという方,ちょっと恐れ入りますが,手を。−−たくさんいらっしゃいます。分かりました。それでは,教材素材についてお話をしていきたいと思います。
  〔スクリーン〕
  これから御紹介しますこの教材素材は本当に全く無料でお使いいただけるものですので,ぜひたくさんの皆様にお使いいただきたいと思います。そしてたくさん御意見をいただきたいと思います。皆様と一緒に改善して,いいものにしていきたいと思っております。ハンドアウトを皆様にお配りしてあるかと思いますが,裏表で入っておりまして,5枚,10ページあります。そしてこの「リソース型生活日本語」についての概要等は4ページに説明が書いてございます。ですからまた後ほどゆっくりお読みいただけたらと思います。そして,4ページの上の方にAJALTのホームページのアドレスが載っております。そこから入っていただければと思います。
また,パソコンをもしお使いでない方,インターネットをお使いではない方も御家族,あるいは周囲の方でどなたか今はお使いになっていると思うんです。後ろに目次というものを皆様にお付けしてあります。この奥に目次詳細というものが入っているんですけれども,目次はこれですべてですので,ここを御覧になって,こことここを出してプリントしてというふうにお願いすれば,御自身がインターネットを余り好きではないという方はそういう形でお使いになることも可能ですので,インターネットは関係ないからいいわというふうにおっしゃらないで,ぜひ関心を持っていただきたいと思います。
それからもう既に御存じの方,手を上げられた方がいらっしゃいますが,7月25日に目次を改訂いたしました。全体的には今までのものとそんなに大きな変化はございませんが,細かく中身がよりよくなっているかと思います。今までは素材自体が650枚程度でした。今は770枚程度になっておりまして,素材自体も増えました。それ以外に200枚ぐらいのところでいろいろな変更,皆様の御意見等も参考にさせていただいて,訂正したりそれから追加したり,順番を変えたりということの変化が出ておりますので,もう既に前の目次をお持ちの方,あるいは何かでお使いの方は今回お渡ししたものと差し替えていただきたいと思います。
『リソース型日本語』の向かって左側の方がトップページ*1です。右側の方が教材素材の例になっておりますが,リソース型というふうに私どもは命名しました。実は今,文化庁はできるだけ国立国語研究所の協力のもとに,片仮名を排除していくという動きが出ています。それでこの「リソース型」を変えようかと私どももいろいろ考えたんですが,「資源型」とか「素材型」とかそういう形に変えようかという話も出たんですけれども,ある程度「リソース型生活日本語」という名前で皆さんに知っていただいているということもありまして,これはこのまま使わせていただいております。

*1 トップページ 最初の頁。

  この『リソース型生活日本語』に関しましては平成10年度,どこの地域でも使える,地域で生活している外国人のための教科書が欲しいという御依頼が文化庁からございまして,いろいろ検討したんですが,やはりどこでも使える本を1冊というのは無理ということが私どもの結論だったんです。では,そのかわりに地域や学習者に合わせて書き換えられるそのもとになるもの,たたき台になるものをつくろう,これが『リソース型生活日本語』です。
この『リソース型生活日本語』の基本的な考え方としましては,日本で生活する外国人のための日本語です。地域での自立した生活を目指す。だれかに頼まなければ自分がやりたいことができないということでは,なかなか市民として快適な生活を送るのが難しいです。そういう意味で,一人で自分のやりたいことができるようになりたいという学習者の希望をもとに作成したものです。それに行動達成型,問題解決型と書きました。何かができる。ある目標を立てまして,それができるためにどうしたらいいか。バスで一人で自分の行きたいところに行くためにはどういう日本語が必要で,どういう手順でやったらいいのかという問題解決型のものでございます。
そして,これは支援者支援の教材素材というふうに考えていただきたいと思います。学習者がそのまま直にこの素材を使ってという以前に,支援者の方に学習者の授業に使っていただけたらという支援者支援教材素材という形でおつくりしたんですけれども,結果としまして今アクセス*1してくださっている中に,やはり漢字圏の方が圧倒的に多いですが,学習者の方がかなり会員として入ってくださっています。
それから,生活文化情報も入れてあります。これは学習者,そして支援者に役立つ情報ということで入れてございます。行動達成型,目的達成型,問題解決型といいますのは,例えばレストランに入るという一つの目的があったときにどのようなものがクリア*2できなければいけないか。人数を告げて,メニューを見て,注文して,お料理が来て,お金を払ってこれで家族を連れてレストランに行って帰ってくることができる。この部分を学習する。
ただ,そのためにいろいろな問題があります。最近,立て札が立っています,人が並んでいたりしています。これは一体何なんでしょうか。禁煙席,喫煙席というようなものもあります。子供用の椅子が欲しいんだけれども,それはどういうふうに。あるいはメニューは見たけれども,分からない,何を注文していいか分からない,水が欲しいんだけれどもどうしよう,言ってはいけないのか,ただではないと思っている人もいます。料理が遅い。違う料理が来てしまった,どうしよう。追加したいんだけど。子供がお茶碗あるいはお皿を割ってしまった。自分の国ではテーブルのところに勘定書が来るんだけれども,これはどうなのか。いろいろな問題があるかと思います。
そしてそれを解決して初めてレストランに行けるということなんですけれども,そういうことを考え,例えばレストランに入るということですと,「リソース型生活日本語」の中にレストランで食事をするという項目がございます。
そこにはすべてを入れてございませんが,1から7まで,例えばレストランに入るということですと,「いらっしゃいませ,何名様ですか」「5人です。3歳の子がいるんですが」「では,お子様用のいすを御用意いたします。禁煙席でよろしいですか」「はい,お願いします」「係の者が御案内いたしますので,少々お待ちください。こちらへどうぞ」という最初のやりとりがあります。
普通に進んでいったらこういう形になりますが,例えば「禁煙席でよろしいですか」と聞かれて分からなかったら,「えっ,禁煙席?」という言い方で先に進むことをストップすることができる。でしたら学習者は「えっ,禁煙席?」。例えば何か言って分からない言葉をもう一回「えっ,何々」という言い方を知っているだけで先にどんどん進まなく,何か日本人はいろいろな手だてで説明してくれるということがございます。こういうことも載っております。
そして次に,メニューを見て注文する。では,このメニューの中のもので学習をしてみる。そして注文をしてお水を依頼して,お料理が来てお金を払うというような一つの流れが,目次の「レストランに入る」というのをクリック*3していただきますとでてきます。
『リソース型生活日本語』の特徴としましては,今までお話ししましたようにこれは教材の素材で,このままというよりもこれをたたき台に,これをヒント*4にしていただいて,何かしらいいものを地域に合ったものをつくっていただきたいということです。インターネット上に無料で公開しております。

*1 アクセス 接続。
*2 クリア 課題を突破すること。
*3 クリック コンピュータのマウスを使ってボタンを押して話す操作。
*4 ヒント 暗示。示唆。

  つくり変えることを前提としております。これが完成品というよりも,私どもは東京の港区に事務所がございますからその周辺のいろいろなものを使っておりますので,その地域の方はその地域のものでそこを取りかえていただくということになっております。やさしいものから順番に入れられているものではない,順番はありません。たくさんの引き出しの中にいろいろなものが入っていて,この学習者にはこれとこれを学習させたい,一緒に勉強していきたいというものを取り出していくというものです。
今,パワーポイントで御説明しているのは皆様にお渡ししてあります御説明の中にすべて入っておりますので,これはただ御覧になるだけで大丈夫です。目次は一応1から6までに分かれています。1が生活開始に必要な行動,2番,家庭生活を営むために必要な行動,3番,社会生活を営むために必要な行動,4番,職場生活を営むために必要な行動,5番,人間関係を良好に保つために必要な行動,6番,困ったときに対処するための行動というふうに六つに分けてあります。
1番は生活開始といいましても日本に来てすぐということよりも,日本に来て何年かして引っ越しをします。アパートを変わります。そうしたらその地域で新しくそこから生活が始まる。そこを意識しております。
それから2番目の家庭生活を営むために必要な行動というのは,昨日のシンポジウムにお嫁さんとして日本にいらした方が,本当に私たちにいろいろ勉強になることをお話しなさいましたけれども,そういう家庭生活の中に異文化のある方々のためにというのが2番目のものです。3番目の社会生活を営むためにというものは,一般的にすべてです。デパートで買い物をしたり,コンビニに行ったり,美容院に行ったり,病院に行ったりということ。自立した社会生活を送るために,一人で行動できるようになるということを目指しています。4番目は職場生活が円滑にいくためのものです。
それから5番目の人間関係を良好に保つためにというのは,池田岩さんですか,昨日のシンポジウムでお話をしてくださった中国の方,お嫁さんですけれども,日本語教室に通って自分の人間関係を広げてもらった,それがとてもうれしかったというお話がありました。まさにその人間関係を良好に保つことは,文化が違う日本でとても大切なことだと思いますが,その部分を扱ったものが5番目です。
そして6番目は困ったときに対処する。先ほどの「えっ,禁煙席?」というような普通に流れないときに,何か分からなかったとき,音を聞いて分からなかったとき,絵を見て意味が分からないとき,語彙の意味が分からないとき,そういうときにどうしたらいいというものです。
その行動達成のための必要な要素ということで,日本語の構造として語彙と文法,それから技能としては聞く,話す,読む,書く,この4技能を入れてあります。それから機能として,機能はたくさんあるわけですが,一応私どもは15種類にもう限定してしまいました。おわびを言う,呼びかける,相談する,自分の方からクレームをあらわす,褒める,謝るとか,これは15に限定いたしました。
では,その使い方ですけれども,これは先ほど御説明しました4ページにアドレス*1が載っておりますが,入っていただきますとAJALTのホームページが出てまいります。このようなホームページですけれども,トップページに「リソース型生活日本語」という文字がありますので,そこをクリックしていただきますとこのようなトップページが出ます。そして左側にメニューがございますので,概要とか使い方とかをクリックしていただきますと読むことができます。これはどなたでも読むことができます。
しかし,先ほどから説明しています目次に入るには,会員になっていただかなければいけないんです。お金は全くかからないんですけれども,一応いろいろな意味で私どもが外国人に支援をしてくださっている方に支援をしたいということで,どういう方がここにアクセスしてくださっているのか,どういう方が希望してくださっているのかということを把握させていただきたいということで会員になっていただいております。左のメニューに「会員登録」という項目があるんですけれども,そうしますとこういう画面が出てきまして,ここに赤い星印がありますが,ここを埋めていただきたいと思います。該当しないことがありましたらすべて「なし」と入れていただければ結構です。ブランクですとだめなんですね。「なし」と入れていただければ大丈夫です。
そうしますと最初のページの会員ID*2,ほとんど直後にIDが戻ってまいりますから,それをここに入れていただいてEnter*3を押していただきますと中に入っていくことができます。そうしますと,今の御説明した皆様のお手元にお配りしてあります目次が出てまいります。ここの中でいろいろなものをクリックしていただくと,中に入っていくことができます。例えば2番目の家庭生活を営むために必要な行動の中に,「文化習慣の違いをお互いに理解する」という部分があります。そこをクリックしますと,習慣が違っていて間違ってしまったことを説明するという部分があります。それをクリックしますと,このような素材が出てきます。

*1 アドレス (メールアドレス)インターネット上で電子メールを送受信するための宛先。
*2 会員ID 会員の識別子。コンピュータネットワークなどで利用者を識別するための符号。
*3 Enter パソコンのEnterキー。

  ハルオというのはお舅さんでマイさんはお嫁さんなんですが,「味噌汁はちゃんとお碗を持って食べなさい」「そうなんですか,私の国では反対です。持つのは行儀が悪いんです」「ふぅん,国によって違うんだね」という会話が出てきます。
二人の関係が分からないときは下の社会文化情報のところにありますので確認してください。お碗を持って食べないのがお行儀が悪いというふうに私たちは考えがちですが,そうではない。それは習慣が違うだけで,ほかの国に行ったら持つ方がお行儀が悪いんだということを入れることによって,日本の人たちにもそれを意識して気づいてもらいたいという思いがこもっています。
社会生活を営むためにはこのようにたくさんいろいろあるんですけれども,例えば子どもの教育機関と関わるというところには学校関係のものが入っております。例えば小学校の学期末に通知表をもらうというようなものがあります。そうしますと,最初に通知表について担任から説明を聞いて,通知表をもらって読んで,通知表の家庭欄に書くというのがあります。今でも家庭欄というものがあって,お母さんあるいはお父さんが家庭欄に子どもの様子を書かなければいけないというのがあります。そういう部分で,例えばこれは木村マリアさんはメイちゃんの通知表に家での様子を書きました。「メイはとても元気です。ときどき友達の家に遊びに行きます。日本語がとても上手になりました。うれしいです」というただただ本当に短文を連ねただけでも担任の先生は様子が分かります。ですから日本語教室でこういうことも勉強できたらお母さんはうれしいかなというふうに思います。「メイは友達がいません,ときどき家で泣きます。日本語がよく分かりません,とても心配です」こういう短文を書くことによって,家での様子が担任の先生に分かってもらえるということです。
そのようないろいろな教材素材が770枚入っております。これは検索もできるようになっています。例えばキーワード検索で「学校」と入れますと学校にかかわることがこのような形で出てまいります。そういう検索もできます。それから,文型検索で例えば,存在の「ある」を検索すると存在の「ある」を使った教材リストがが出てまいります。それから,「おわびを言う」などの機能を検索したいと思いましたらこのように出てきます。
『リソース型生活日本語』の活用方法としましてはいろいろございますが,例えば目次の活用も授業でいろいろ考えられます。今回,中は非常に分量が多いので目次だけの翻訳がもう少しで完成いたしますが,9か国の翻訳を作成しております。現在作成しております言語は,中国語,韓国語,英語,ポルトガル語,スペイン語,ベトナム語,カンボジア語,ミャンマー語,ペルシャ語,そしてちょっとタイ語がおくれておりますが,一応この言語の目次の翻訳を作成中です。この目次の翻訳ができましたら,どんなことを自分は学びたいかというのを母語で見ていただいて,それから勉強するということもできるかと思います。それから先ほどの検索機能も活用できますし,会話素材を使って教室の中でやっていただくということもできるかと思います。それから練習問題を作ってみるということも可能かと思います。
最後に目次の改定につきましてお話しいたします。例えばごみのことですけれども,もう既にお使いの方,あるいは前の目次を御覧の方は目次を全部見ても「ごみ」という言葉が出てこないんですね。それで利用者の方から,一番地域で必要なごみが入っていないのでぜひ入れてほしいですというメールをいただきました。教材素材としては入っているのですが見つけ出しにくいといいますか,目次の最初に載っていないとなかなか入っていってもらえないということで,今は目次に「ごみ」の項目を載せて,分かりやすくしました。これは一つの例ですが。
そのような形で目次の変更といいますのは,中身を大幅に変更というよりも使いやすいように,目次から素材を見つけ出しやすい形にいたしました。
今ちょっと連絡を受けましたが,この目次の5と6が逆になっています。生活開始に必要な行動というスタートが6ページになっておりまして,その後ろが5ページです。よろしくお願いいたします。
それから,後ろに素材が出ています。これがごみの教材素材なんですが,7月24日までのごみの素材は,写真が載っているページがあります。これ1枚だけだったんですが,今はこのように増えております。そういう形でタイトルは変わっていなくても中が随分変わっておりますので,ぜひもう1回見直していただけたらと思います。これは最初に「引っ越しのあいさつに行ってごみについて聞く」。
それから「ごみの出し方のチラシをもらう」ということで,チラシそのものも中に入っております。「ごみの分け方・出し方のちらしを読む」という部分がありますが,ここにもチラシがちょっと載っておりますが,本物はもう少しくっきりはっきりしているんですけれども,これはコピーなので。これを実際に授業でお使いになるときは当然地域でそれぞれ違っておりますので,その地域のごみの出し方をやっていただく。そういう意味で,これはサンプルとしてお考えいただければと思います。
本当に大急ぎでこの『リソース型生活日本語』につきましての御説明をいたしましたが,ぜひお帰りになって中を見ていただきたいと思います。それを見ていただいてぜひ会員になっていただいて,いろいろここをこうやったらもっといいとか,私たちの地域ではこれはこんなふうに使えるとか,そういう御意見をぜひいただきたいと思います。
時間がもう押しておりますが,この中で既に活用していらっしゃる方,ちょっとお手を上げていただけますか。いかがですか,どういうふうに。

参加者私,浜松市国際交流協会のホリと申しますが,去年,静岡県国際交流協会の方で内藤先生がリソース型を教えてくださいまして,国際交流協会の中でも活用させていただいております。プリントアウトをして,例えばごみの出し方ということで場面シラバスの教え方をするんです。学習者が家に帰ってどうやって言っていたかなというところの復習素材としてプリントアウトしたものを渡して,分からなかったらまた次の機会に学習者が,分からなかったんだけれどもという話をしてくるので,学習者と教師側が同じ素材を使って予習,復習まですべてが使えるので非常に活用させていただいております。

関口ありがとうございます。プリントアウトしたものを学習者のお宅に持ち帰ってもらって,そしていろいろそれを勉強して,何か分からないことがあったらまた教室に持ってきてもらう。

参加者うちの協会は本当にバックグラウンド*1が様々な学習者が来ているので,大体年間300人ぐらいの学習者が私どもの協会で勉強しているんですが,やはり主婦の方もたくさん増えている中で,主婦の方も労働者の主婦の方と,またビジネスマン*2の主婦の方とニーズが全く違うところがあって,同じテキストを渡したとしてもそれを拒否する学習者もいるんです。そういうところでは,このコンピュータを使ってやるんだということを説明しますと非常に満足を得るみたいで,パソコンを使うということが楽しいようで「見たよ」なんて言いながらやらせてもらっているんですが,なかなか書き込みもできなくて申しわけないんですけれども,非常に活用させていただいております。

*1 バックグラウンド 事情。環境。
*2 ビジネスマン 実業家。会社員。


関口ありがとうございます。ほかに,私はこんなふうに活用していますよということをお話しいただける方はいらっしゃいますか。宇都宮の方はいらしていますか。活用していらっしゃると,お聞きしたんですが。

参加者宇都宮から参りました民間の国際交流団体の者なんですけれども,実は宇都宮市は企業研修生ということで中国から研修生を毎年,何十名か受けております。AJALTさんの『じっせんにほんご〜技術研修編〜』を主にして使っているんですけれども,あれだけでは足りなくて,結局職場に行ったときに初めの日にはどうしたらいいのかとか,職場でこんなことがあったらどうしたらいいのかとか,そういうことに対してどう答えたらいいのか私も分からなかったんですけれども,『リソース型生活日本語』の職場生活のところにいろいろありますね。そこから何点か抜粋して私なりにアレンジ*1してテキストをつくって,それを使っております。その勉強というのは教科書にはない形ですごく喜んで,生き生きとして勉強しております。

*1 アレンジ 整え,配列すること。脚色すること。


関口ありがとうございます。またお使いになって,ここがとても使いにくかったというようなことをぜひ,メニューのところに掲示板というものがございます。そこに御意見をいただきますとこちらからお返事いたしますし,ほかの方もそれを御覧になれます。そこからまた別の御意見もいただけます。ぜひ掲示板もお使いいただけたらと思います。
職場のことですが,私たちは難民の人たちにずっと日本語を教えてきました。その人たちが日本語を勉強した後,仕事につきます。そして社会的ないろいろなことを社会適応指導で学んでいるんですけれども,働き出して1か月とか2か月たつとすごい勢いで「先生,うちの社長はうそつき。私が外国人だから」と怒りの電話がかかってくるんです。最初に聞いていたお給料の額と自分がもらったお給料の額が全然違うと言うんですね。それでだまされたとすごく怒るんです。そのようなわけでこのリソース型の中にも,給与明細について聞くというところを入れました。そして「これちょっと少ないと思うんですが」という質問にいろいろ答えているという場面があるんですが,それは実際にそういうことで訴えてくる人たちが多かったということによります。ほかにございますか。では,全体的に何か御質問ございますでしょうか。よろしいですか。
私も今,地域に住んでいる小学生あるいは中学生のお子さんを持っているお母さんたちに夜,日本語を教えています。そのお母さんたちは7年も8年も日本に住んでいて,お子さんが小学校に通っているんですが,学校の名前や担任の先生の名前などは全然分かりません。ひらがなも読めない人が多いです。地域に日本語教室はたくさんあるんですが,そこに行っていなかったんです。教室に来ている人たちは情報をキャッチして教室に来ていますけれども,行っていない人たちがまだまだたくさんいるということですね。本当に8年も日本に住んでいて,自分のことを自己紹介もできないのです。今,平仮名の勉強からしていますが,その平仮名の勉強も「個人面談」とか「給食」そういう学校のことにかかわる語彙を一緒に学ぶという方法をとっています。自分のお子さんの学校のことに少しずつ自分もかかわっていけるという自信を持ってもらいたいなと思ってやっております。
この2時間の間に,欲張っていろいろないい試みをやっていただきました。できればそれぞれがみんな3時間ぐらいずつあったらよかったなと思うんですが,なかなか時間もなく不手際なこともあったかと思いますが,どうぞお許しいただきたいと思います。
今日はありがとうございました。(拍手)
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