事業詳細

地域・学校・大学博物館とSNSとを協調させた「紀州地域 文化財の匠」育成事業

実行委員会
紀州経済史文化史研究所地域活性化事業実行委員会
中核館
和歌山大学紀州経済史文化史研究所

事業目的

上記のような課題に対応するために――従前の方策では文化財の価値や意義が届きづらかった層に積極的に情報を届けるために、本事業では、従来どおりの展示活動を行なうだけではなく、ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を用いて、様々な世代、多様な関心を持つ地域の人々の生活に密着したデジタル・ソーシャル・ネットワークのなかに、地域の文化財・文化資源についての「物語」(文化財の来歴や意味付けとなる情報)を飛び交わせることを目指す。そして、様々な「仕掛け」を施した展覧会を鑑賞すること、我々が企画する体験型ワークショップ・イベントに参加することや地域の小中学校等の学校現場と共働することによって、デジタル・デバイス上のものでしかない個々のネットワークを、文化財を取り巻く実体的な人と人との社会的関係(たとえば本研究所がこれまでにも取り組んできた「和歌祭における祭礼芸能」に参加すること等)に遷移させることを試みたい。

加えて、「SNS事業」は、従来型の展覧会・情報発信(博物館から観覧者へ。A to B)という形だけではなく、①実際に観覧・体験した人から本研究所へ(B to A。アンケートタイプ)という形はもちろん、②実際に観覧・体験した人々相互の情報共有・議論(B and B)という形、③観覧・体験できなかった人々・元々関心の薄かった人々をも巻き込んだ情報共有・議論(B and C)を促し、また④それらの議論がまた本研究所に届けられるという可能性(from B and C towards A)も秘めている。このような特性を活かし、本研究所に所蔵・寄託される文化財のみならず、他館や地域の寺社に所蔵される文化財、民俗芸能やそれを伝承・維持しようとする営みとしての文化資源のそれぞれが、紀州地域の社会に暮らす人々にとって、あたかも「自分たちの文化財・文化資源」であるかのような感覚を抱かせるような仕組みを構築したい。本事業では、文化財それぞれの情報が開かれ、また相互に繋がり、その繋がりが地域社会にも連なっている「開放系の文化財収蔵庫」――オープン・アーカイヴス――を地域に現出させ、文化財の守り手を育成しつづけるシステムの構築を最終的な目的とする。そして、地域社会におけるこのような役割は、各分野のスペシャリストを教職員という形で保持しながらも小回りの利く、教育学部を備えた地方国立大学の研究組織を兼ねた大学博物館にしか担えないものであると考える。

事業概要

昨年度までの「SNS事業」を検証した結果、所期の目的を達成するためには、地域の方々が「体験」できる機会をより増大させること([体験→投稿→共有→体験]サイクルの確立)、さらに、未来の文化継承者を育成するためには初等・中等教育との一層の連携が不可欠であるとの結論を得た。したがって、本事業では、【1:地域社会と大学博物館との連携として公開講座・体験型イベントの発信】【2:初等・中等教育と大学博物館との連携】【3:文化財オープン・アーカイヴス構築を目指したSNS活用事業】を調和的に運営する。中でも、【1】【2】で提案する体験型イベントでは、その参加回数や習熟度に応じた「紀州地域 文化財の匠」育成プログラムを構築する(Lehrlingレアリング:見習→Gesseleゲゼレ:職人→Meisterマイスター→TAKUMI:匠)。これは一般参加者の体験・参加に一定の「はりあい」を持ってもらうための「遊び心」的工夫であると同時に、将来的に、熟練した参加者には、新たな参加者の指導者として関わってもらうための――文化財の守り手を育成するための仕組みを構築しようとするものである。

各事業の概要は次の通りである。【1】高校生から地域の高齢者の方々までを対象に、古文書解読講座はもちろんのこと、文化財の扱い方・修復の方法についての講座、本研究所の収蔵品保全のために行なっている曝書を公開すること等、文化財(有形・無形・民俗・記念物・文化的景観等)についての調査・研究の方法を体験的に学ぶ機会を作ることで、将来的には市民参加型文化財調査が行なえるまでの仕組みを構築する。また、本年度に企画する展覧会に連動させた体験イベントとして「和歌山の近代産業遺産をめぐるバスエクスカーション」「犬鳴山七宝瀧寺と修験の道トレッキングツアー」および公開シンポジウムを開催する。修験道体験には、近隣自治体の文化財担当者の連絡協議会である「葛城二十八宿連絡協議会」の協力を仰ぎ、文化財講座では、和歌山県立博物館を始めとした公立博物館学芸員と連携する。【2】「百人一首かるた」「和歌祭の芸能体験ワークショップ」「くずし字解読」といったコンテンツを地域の小学校・中学校への「出張型イベント」として開催する。前二者は、本研究所所員(教育学部教員)および学生を中心に複数年にわたって既に実行されており、実現可能性は高い。【3】体験型イベント等と本研究所における展覧会企画との連動させつつ、特に高校生・大学生世代をターゲットにしたSNS上のイベントを本学学生によるアイデアをもとに企画する。同時に、SNSというデジタルツールに距離を感じる人々にとってもアプローチできるよう、記録をかねたニューズレターを年4回刊行する。

実施項目・実施体系

  • 地域社会と大学博物館との連携事業
    • (1)紀州地域 文化財の匠 育成プロジェクト
      • ①地域住民・大学生を対象とした文化財調査・保全のための講習会(地域A)
      • ②市民参加型文化財調査(和歌祭見学会・曝書・虫干し等)(地域B)
    • (2)展覧会と連動させたエクスカーション開催
      • ①和歌山の近代産業遺産をめぐるバスエクスカーション開催(地域C)
      • ②犬鳴山七宝瀧寺の修験の道を歩くトレッキングツアー開催(地域D)
    • (3)展覧会と連動させた公開研究会開催
      • ①葛城修験二十八宿に関連する公開シンポジウム開催(地域E)
  • 初等・中等教育と大学博物館との連携事業
    • (1)小・中学校における教育活動との連携
      • ①「百人一首セレクト20」「和歌山万葉かるた」普及のための出前授業(学校A)
      • ②「百人一首セレクト20」「和歌山万葉かるた」大会イベントの開催(学校B)
      • ③「くずし字を読んでみよう会」出前授業(学校C)
      • ④「和歌祭 芸能体験ワークショップ」の開催(学校D)
    • (2)高等学校における教育活動との連携
      • ①「秋の紀州研 公開講義」の開催(学校E)
  • 文化財オープン・アーカイヴス構築を目指したSNS活用事業
    • (1)オープンアーカイヴス構築のためのSNS番組発信事業
      • ①SNS配信についての方針検討会議(会議A)
      • ②大学生によるSNS配信内容検討会議(会議B)
      • ③大学生によるSNSコンテンツ作成と配信(番組)
      • ④フィードバックと精査のための検討会議(会議C)
    • (2)オープンアーカイヴスの成果としてのニューズレター発行事業
      • ①ニューズレター編集のための検討会議(会議D)
      • ②地域に発信すべき原稿の収集(原稿収集)
      • ③ニューズレター発行(NL発行)
      • ④ニューズレター発送(NL発送)
  • 事業総括
    • (1)事業総括
      • ①実行委員会会議(会議E)
      • ②報告書の作成と公開(報告書)

事業実績(PDF)

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