国語施策・日本語教育

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3 人名用漢字の問題

人名漢字に関する声明書

国語審議会


 国民の読み書き能力を向上させ,教育を高めるためには,国語表記法の改善が必要である。その具体的方法として,漢字の整理とその使用の調整とが必要であることも,また動かしがたい方向である。国語審議会は,国語国字問題に関して,常にこの原則が守られることを要望し,最近問題になっている人名の表記についても,これを念頭において考えるべきであると信ずるものである。
 戸籍法において,子の名に用いる漢字が限定されるようになったのは,昭和22年12月22日公布の戸籍法第50条に「子の名には,常用平易な文字を用いなければならない。常用平易な文字の範囲は,法令でこれを定める」とし,同月29日公布の司法省令戸籍法施行規則第60条において,常用平易な文字を,(1)当用漢字表に揚げる漢字(2)かたかなまたはひらがな(変体がなを除く)としたことに基くのである。
 当用漢字表は政府の採択するところとなり,昭和21年11月16日内閣訓令によって,実施の運びとなったのであるが,当時の国語審議会は,当用漢字の選定にあたって,固有名詞(特に地名・人名)に用いられる漢字については,法規上その他に関係することが大きいので,別に考慮することとしたのである。しかしながら,これは主として既存の固有名詞についてのことであったが,これから新しくつけられる子の名や官庁・会社などの名称は,なるべく当用漢字表によることが望ましいという態度をとったのであった。戸籍法および同施行規則が制定されたのは,それから1年を経た後のことであって,この法令による処置は,国語政策の一つとしての当用漢字表制定の趣旨が学校教育においても,一般社会においても,すでに相当に理解され,かつ実践されている事実に即して,これを推進する目的のもとにとられたものであろう。
 いったい子の名というものは,その社会性の上からみて,常用平易な文字を選んでつけることが,その子の将来のためであるということは,社会通念として常識的に了解されることであろう。そして一般に漢字の読み書きの困難な点から,その整理を必要とする事情を考え合わせれば,子の名に用いる漢字を当用漢字によることにしたことは,原則として国語政策の方向に合致するものと言えよう。
 しかるに,最近この問題に対して論議が起り,国会においても審議されることになった。国語審議会においても,固有名詞部会の先議事項としてこの問題を取り上げ,従来人名に用いられることの多かった漢字を資料として審議し,慎重に検討を加えた結果,別紙に掲げる程度の漢字は当用漢字表以外に人名に用いてさしつかえないと認めた。子の名の文字には,社会慣習や特殊事情もあるので,現在のところなお,当用漢字表以外に若干の漢字の使用はやむを得ないと考えるからである。
 子の名に用いる漢字が社会慣習によるものであり,またそれには特殊な事情の存することも事実であるが,かりに子の名に用いる漢字が無制限に認められるとしても,学校における漢字教育が現在においても将来においても,学習上そこまで及ぼしにくい事情にあるとすれば,当用漢字の基準に従うことが,その子の幸福であることを知らなければならない。地名・人名の表記については,さらに一歩を進めて,かながきにすることが最も適当であるという提唱も,つとに行われている。これは読み方の不明確な地名・人名が社会生活に各種の不便を伴うからである。このことも今後研究すべきであろう。
 国語審議会としては,社会一般が国語改善の重要性を認識し,国語の平易化に協力して,文化の民主化に寄与することを期待するとともに,人名の文字についても,その社会性を理解し,子の名に用いる漢字が良識をもって選定されることを念願するものである。



 政府は,「人名漢字に関する建議」を採択して,5月25日内閣告示第1号をもって「人名用漢字別表」を制定公布し,同日内閣訓令第1号をもって政府部内各官庁に対し,この趣旨が国民一般に徹底するように努めることを希望した。これに基いて,法務府においても,同日法務府令第97号をもって戸籍法施行規則の一部を改正し,こどもの名まえに漢字を用いる場合は,当用漢字表1850字と人名用漢字別表92字との範囲内でつけることができるようにした。

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