国語施策・日本語教育

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議事 懇談

土岐会長

 今後の審議事項について懇談を願いたい。懇談は題目はどの方面でもよいが,事務当局からお手もとにあげてある予定事業項目にお話しの中心をおいていただきたい。

時 枝

 今後の審議事項についての懇談の前に提案したいことは,従来の審議会かなぜ改組されなければならなかったかということと,国語研究所が設置されたことである。今後どういうようにやっていくかをはっきりさせたい。この際,運営や心構えを確認していくことがたいせつだと思う。説明なり意見を伺いたい。

辻田局長

 従来の審議会は官制に基き,文部大臣の考えにより委員をお願いした。今度の改組は,特別に委員会をつくり,推薦母体から候補者を出していただき,委員会で選考して推薦したかたを大臣からお願いした。構成の委員が従来と比べて民主的になっているのである。

時 枝

 委員の選出方法が民主的になっただけでは改組された意義がない。もっと重要な意義があったのではないか。従来世間の批判の目がある。それに対する反省として改組が考えられた。それは選出の方法ではなくて,運営の方法にあると思う。

颯 田

 時枝氏の意見は,今後のゆき方を決めればおのずから決まることである。新しい委員は,むしろ古いことを知る必要はない。

大 野

 きょうもらった書類を拝見すると,文部省で出した告示・訓令は縦書き・横書き・漢数字・アラビア数字などいろいろであるが,これらは今後どうするか。

土岐会長

 同じように統一しなければ非能率的である。今後は左横書きに統一するようにしたい。

大 野

 文部省管内だけに使われるのか。

土岐会長

 国語審議会で決まったものは,適当の方法で社会全体に広がっていくようにしていた。

時 枝

 颯田委員の発言の意義が理解できない。今までなにをやってきたかを知らなくてもいいとは無責任である。新しく委員になった人々には疑念や考えがあると思う。国語研究所が設立されたことは,審議会に対してどういう役目をするかを考えなければならぬ。責任あるかたから説明を願いたい。

颯 田

 これまでの審議会のことは,安藤前会長から説明があった。もう少し詳しいことを知るのは必要なことかもしれないが,知らなくてもいいこともたくさんある。これまでのいきさつがどうしても必要ならばあえて反対しないが,これからどうするかを考えたほうがたいせつである。

青 野

 わたくしは新たに委員になった者であるが,改組しなければならなかったおもな理由を知る必要がある。単に委員選出の形態が変ったというだけではすまされない。立ち入った説明は要求しないが,わたくしの選挙母体へ報告する義務がある。

中 島

 今までのことをつつくという意味でなく,時枝氏から一応説明を承りたい。

緒 方

 中島氏に賛成。

颯 田

 改組の理由を聞く査問会のようになっては不愉快な印象を与える。わたくしは任期がきたから変ったくらいにしか解しない。

土岐会長

 時枝氏に聞いてはどうか。

時 枝

 改組委員のひとりとして,個人的な意見を述べる。従来審議会は調査と研究の機関をもっていない。したがって改革の立案決定に不備な点がある。この点世の中から非難された。それを補うために国語研究所が設立された。研究所の調査研究が織りこまれるのがたいせつである。今まで公布されたものは,審議の経過が世の中に発表されていない。今後は内部に意見が対立している場合でも,できるだけ世間に発表することが必要である。今までは決定を急ぎすぎた。総会の日にぜひとも決定するというありさまであった。わたくしは国語専門の者であるが,それでも即座に決定しかねることが多い。ここにお集まりのかたは各界の有識者であられるが,ただちに決定しうるかどうかわからない。運営の手続上考えるべき点である。審議会でこんな意見があったということを,世の中に明らかにするだけでもたいせつなことである。

 今のお話に参考までに申し上げる。わたくしは前に中国地名・人名の書き方の審議に関係した者である。審議会で決めたそのことに対する意見よりも,決めたことを強制するのはけしからぬという意見が強い。決められたことには不賛成ではないが,強制するのは気に入らぬという。せっかくいい案が決定されても,実施の面に遺憾な点がある。新しい審議会でなにかいい方法はないかと反省させられる。

土岐会長

 今までのあり方,新しい審議会の対社会的のあり方,今後の進め方について,時枝氏の意見を了承してゆく方向でよろしいか。

時 枝

 わたくしの意見はまったく個人的のものであるから,そのつもりに願いたい。

緒 方

 予定事業項目のなかに,国語の標準の制定というのがあるが,標準とはなにか。

保科事務官

 国語の使い方がまちまちになっているのを,なにかよるべきところを決めようというのである。たとえば発音・アクセントなど,地方的にも個人的にも違うから,“よるべき標準”という意味で,このことばを使っている。

緒 方

 標準を決めるということと,標準に従うということと,どういう関係になるか。

保科事務官

 かなづかいについていうと,旧かなづかい・新かなづかいといろいろの方式があるが,それによったらいいか。どの標準によったらいいかを学術的に検討していくのである。

園 田

 放送協会のかたの参加がないようだが。

原課長

 放送関係からはN.H.K評議員颯田氏が推薦されて委員となっておられる

中 島

 表記法については,ローマ字のこともはいると思うがどうか。

原課長

 ローマ字調査審議会があって,そのほうに任せた形になっている。密接な連絡をとるため,7名のかたが両方の委員をかねている。

時 枝

 審議会の予定事業項目などを役所で天下り的に決定して,このように提出するのは,審議会の民主制を害する。

原課長

 そのプリントは,事務当局でお話し合いの参考にさしあげたまでで他意はない。

緒 方

 われわれは白紙である。このようなものがあっても別にそれにとらわれることはない。そのくらいの常識はもっている。むしろなにも話し合いの材料がないよりはいい。

佐々木

 国語研究所との関係がよくわからない。

原課長

 簡単にいえば,国語審議会は国語改良政策の立案・調査・審議にあたる。国語研究所は学術的,基礎的の研究機関である。両者の関係はできるだけ密接にして,審議・調査の上に必要があれば,いつでも研究所から材料を出してもらう。

佐々木

 国語研究所と審議会が重複して,屋上屋を重ねるように思う。

時 枝

 研究所は純粋の学術的研究よりも,実際に国語政策を解決するために設立された。審議会は審議機関である。

佐々木

 審議会で決定する前に,研究所でもう一度研究してもらうのか。

時 枝

 従来その手続が欠けている。

土岐会長

 国語研究所の西尾所長がオブザーバーとして出席しておられるから,説明を聞いてはどうか。

西尾所長

 国語研究所は国語および国民の言語生活を総合的,科学的に調査し,確実な国語政策を樹立するのを目標とする。時枝氏は純粋な学術的研究でないと言われたが,いわゆる科学のための科学でないという意味である。しかし審議会の付属機関でなく,独立した研究機関である。審議会で方策をたてるに必要な基礎資料の調査には,できるだけお役にたちたいが研究所自身でも必要な題目で研究を進めている。

颯 田

 西尾所長のお話では,喜んで調査研究はやるが,付属機関ではないと言われた。そう解釈してよろしいか。

西尾所長

 付属ではない。独立機関として進めている。

松 坂

 時枝氏にだいたい賛成であるが,全面的に了承してよろしいかという会長の発言は少し誤解を生じる。従来は審議会のなかだけで決めて発表し,実施する点に非難があったので,それを改めなければならぬ。しかし審議会のなかでどんな話し合いが行われたかを発表しさえすればよいというのは政策は決定すべきではないと聞える。新しい審議会令案の1項目に,国語研究所のとりきめを尊重するものとするというのがあったが,反対があってなくなった。審議会は,どこにも拘束されずに審議すべきである。国語研究所としめくくりにおいて違う。とりあえず考えられる良識によって政策を決める場合もある。長い目で見て改められねばならぬこともあるが,必要上とりきめねばならぬ場合もあって,研究所と審議会とは性格が違うのである。

有 光

 審議会は,従来文部省にだけ任かす誤りを少なくし,援護するために当面の問題について文部省にアドヴァイスするというゆき方であった。もう一つのあり方は,根本的永遠の対策を決めるために,たやすくは結論に達しない。慎重な権威のあるゆき方がある。

千 種

 他に機関がないのであるから,実際面へのはたらき方を進めていただきたい。分科会・専門委員会をつくるときは,法律の専門委員会もつくってほしい。法律がどんな文で書いてあるかは,国民の一般文書・判決文などに影響するところが大きい。審議会が推進力になってほしい。

中 島

 言語は生きものであるから,ことばについて永遠ということはない。フランスのアカデミーのようなゆき方はむずかしい。国民一般の常識で,できるだけ科学的基礎の上に立って,現実的な問題の諮問に応じて意見をいうのがいいと思う。永遠の策とか,高踏的なのはむりである。言語政策の決定などということは,性質上官庁で決めるのはむりであるから,文部省の方針を実際の行う面で審議会の必要がある。

有 光

 アメリカの教育使節団はローマ字の採用を勧告しており,ほかのことばに換えろというような極論も一部にはあるが,そういうことはある程度飛躍しなければできない。われわれは日本語を使うことを前提として当面の問題について考えなければならぬ。来年度の教科書の基準をどうおくか。文部省だけに任せておくかなどについても,国語審議会か関係するかどうか。

時 枝

 審議会の将来の性格について意見がある。従来はある方向に決定しようということに急いできた。改革にたずさわるのではなくて,審議していくのが根本であるから,ただちに決定することはできるだけつつしんでいただきたい。

松 坂

 それは誤解されるおそれがある。国語審議会令第1条第1項にも,しるされていることだが,国語は改善されなければならぬという前提のもとに,いかに改善するかを具体的に討議すべきである。

土岐会長

 いろいろよい意見が出たが,とうてい1日で議論は尽きないから年内にもう1回総会を開いて,当面の問題,根本の問題を具体的に決めていきたい。審議会令第10条により,委員の出席が過半数でなければ会議を開かれないから,欠席のないように願いたい。なお,旧審議会の安藤会長,長い間おほねおりいただいた保科幹事長に対し,拍手をもって感謝の意を表したい。

(一同拍手)

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