国語施策・日本語教育

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議事 現代かなづかい・当用漢字表の再検討について

土岐会長

 学校における言語訓練の実態を調査するとすれば,その方法はどうするか。

中 島

 実態調査とは,かなづかいのことか。

土岐会長

 当用漢字・現代かなづかいが学校でどんなに行われているか,それを調べて整理した上で考えてはどうか。

中 島

 そういう場合に不安がある。当用漢字・現代かなづかいについては天下りがしゃくにさわるから,この際もとにもどしてやろうという空気がある。文学者は漢字には困っているが,現代かなづかいには必ずしも反対ではない。舟橋氏は本日欠席だが,現代かなづかいは不便ではないとの個人的言質は得ている。しかし,文学者のなかには,新聞が採用すると自分たちも用いなければならないから天下りだという不思議な考え方をする人がいる。世論調査もよいが,せっかく慣れてきたものを変にかき乱し,反対論に火をつけるようなことのないようにしたい。

藤 森

 この際,へたにうろついて,もとにもどしてはならない。全面的にやるか,科学方面だけに限ってやることにするかなどについて考えたい。

 漢字については全面的に考えてほしい。

土岐会長

 部会をつくる方法について話し合いたい。

千 種

 ただいますぐに部会をつくるよりも,一般的に論議を尽すことのほうが必要である。

金田一

 相反する意見をもつものが腹を割って話し合い,落ち着くところへゆくようにしなければ変なものになる。今までの話を聞いていると,少しも矛盾でないものを矛盾とおっしゃるかたがある。フジワラとフヂハラにしても,前者は現代語音を表記したものであり,後者は古典語を表記したもので,その間には千年の隔たりがある。千年たてば発音も書き表わし方も変るのが当然である。現代英語と中世英語とについてもやはり同じようなことがある。また旧かなづかいを知らねば,現代かなづかいが正しく書けぬと言われるが,かなづかいというものは1語1語について決められるべきものであって,一つのプリンシプルから教えられるものではない。文部省発表のものは理論を示したものではなくて,方針を示したものにすぎない。1語1語について教えられるべきかなづかいのためには,1日も早くかなづかい辞典が作られなければならない。いまさら根本的にやりなおしたりするのは,せっかくの進歩的な方針を中途でくじくおそれがある。

照 井

 部会をつくる前にじゅうぶん話し合うのがよい。そうしているうちに方向が決まる。

緒 方

 自然科学方面では事実に関する裏付け資料なしに意見が出されることはないのに,人文科学に関する問題では意見だけ多くて裏付けの示されることが少ない。調査資料の提供を受け,その裏付けの上に話を科学的に進めてゆきたい。

宮沢副会長

 再検討が誤解を招くという意見には同感である。まず,すなおに現代かなづかい・当用漢字表が現在どう行われているかを調べてみる必要があろう。

時 枝

 調査すれば逆行になりはしないかという御心配があるようだが,心配しないで率直にやっていただきたい。習字の問題が横道を通って国会に提出されたことを,副会長はどう思われるか。

宮沢副会長

 今後そういう問題は,当方へ連絡をとってくれるように希望を述べることはできると思う。

金田一

 さきほど述べたことに関して誤解のないように。当用漢字表に絶対に新しい漢字を入れないという意見ではない。

緒 方

 一度堅い決心で決めたものを調査しなおすのは,決心がゆるいという誤解もあるが,決めたものを客観的に調べてみることは当然やってよいと思う。

中 島

 国会からの委員の2名は。

原課長

 参議院のほうはだいたい了解がついたが,衆議院のほうが決まりしだいなるべく早く手続をとるつもりである。

松 坂

 学術用語と教科書検定のお話があったが,当用漢字表は専門用語には触れていない。現段階では,あらゆる学術用語を当用漢字の範囲内でまかなおうとすることはむりである。教科書については,ごく普通のことばは当用漢字外の字で書いてもよいことになっている。世論調査についてはランダム式で調査したらと思う。もちろん作家や学者の反対は多かろうが,それは金持にたくさん税金のかかることの賛否を問うようなものである。しかし,国語は国民全般のものである。この夏発表になった「読み書き能力調査」でも,満点はわずか4.4%,国民の86%は小学教育だけしか受けていないのだから,調査の結果,反対論が多くなるとは思わない。

颯 田

 反対者は一部の人だけだから,そういう人たちを集めてよく話し合えば,なんでもなく解決する。広く一般の人が集まれるような会合を開いて納得のいくように話すことが必要である。

緒 方

 会議では豊富なデータを持っていれば驚かないが,貧弱な資料しか持っていないとなにも言えない。みなが同じデータを持って話すのでなければ会議はできない。

石 黒

 わたくしは,別な立場から,まだ当用漢字表・現代かなづかいについての世論調査をする時期にはなっていないと思う。世論調査には発言権の強い人たちの意見だけが反映して妥当でない結果が出ると思う。毛筆習字の問題の調査の結果を見せてもらったが,理解ある父兄は正科としてやることを不必要と答え,下町の父兄はぜひ正科にするようにと言っている。児童生徒では女子のほうがやりたいと答えている。世論調査はよほど慎重にやらなければならない。当用漢字・現代かなづかいは現在のおとなのために決められたものではなく,将来のおとなのために決められたものである。その人たちにはまだ発言権がない。世論調査よりも,国語課あたりで問題になっている点の資料を集めて修正していってはどうか。

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