国語施策・日本語教育

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議事 提出資料について

土岐会長

 この審議会は,国語の改善と,国語教育の振興のためにつくられたものである以上,佐野委員の御意見の方向をとるはずのものと思う。それでは,提出資料について御説明を願いたい。

緒 方

 わたくしの提案2項目のうち,特に第2の「放送用語の改善について」のことを考慮していただきたい。

(注) 緒方委員提出資料
(1) 電話用語・応対用語などの標準制定について。
(2) 放送用語の改善についての部会の設置理由。

  1.  これまではN.H.Kの一つであったが,これからはいくつもの放送会社ができるから,第三者的立場で国語審議会が取り上げてよいと思う。
  2.  N.H.Kはアナウンサー本位であるが,こちらは広く放送者一般の用語を対象とする。

(3) 資料―国際疾病・傷害および死因統計分類の日本語選定に関する資料

服部(静)

 生きたことばの移り変わりの記録がほしい。国民生活に文字よりも影響力の多い,話しことばの改善に力を入れていただきたい。

(注) 服部委員提出資料(1)
(1) 分ち書きに関する準則の制定。
(2) ことばのうつりかわりを見守りながら,純正なことばの成長を補導する機動的な部会の設置。
(3) 資料―科学用語の整理に関する報告。

田 口

 学術用語については,進歩的な意見を受け入れたい。漢字・かなまじり文の表記には,国語系統のかたに通則を示してもらい,学術用語を決めたい。

(注) 田口委員提出資料
(1) 学術用語の改良について次の意見をもっている。

  1.  機械―英語では machine が machining, machinery 等に一つの語根が変化しうるのに,日本語ではそでない。また,turning-machine, hobbing machine, bending machine, 等やさしいことばで機械の種類を示しうるのに,日本語では旋盤・ホブ盤・曲機械等としるしている。また,machining はよくしるせない。この種の変化の法則が国語の方面で研究していないことが非常な無責任な話で,技術者が国語を愛しないというわけではない。
  2.  英語で,condenser, cake などを辞引を引くと,(電)蓄電器(機)凝結機(物)集光鏡,ケーキ菓子,ケーク粉鉱を熔鉱炉へ入れるため焼き固めたもの等の記がある。英語辞典は科学用語を一般の人が知りうるが,日本語辞典は学術用語を別の辞典で引かねばならない。これは科学知識普及に大害をしている。この種の訳語法の通則を日本語として示してほしい。
  3.  国語学者はまず日本語の語根と,その変化の通則を将来の日本語のためにつくってほしい。
  4.  この通則を各学会に示して,この通則によってつくりうる学術語とつくりえない学術語(すなわち例外)とを返事してもらう。
  5.  この例外をどう処理するかを国技審議会で審議して次の通則を示す。これを各学会,その他一般に示して批判を求める。
  6.  かなづかいについて―明治初年から,理学界ではdi をヂ, zi をジとあてはめることを習慣とし,また法則としたこともあった。ラヂオをラジオと決めたとき,これらの学界に対しなんらの諮問をしてない。これは手続法を無視したものである。
     放送協会で聞いてみると,その諮問があったそうであって,そのとき責任者は協会内の数氏と相談しただけで,さしつかえなしと返事したとのことである。これは問い合わせる相手をじゅうぶん調査しなかった罪と,さしつかえなしと返事する権限のない人が返事をした罪である。この審議しなおしを提案する。また,かなによって,外国音を写す通則を発表すべきであり,この点も審議すべきである。

(2) 日本語を声を出して読む方法について小委員会をつくってほしい。声を出して読むのに音量,音質,呼吸法,めいりょう度(電気方面),声の美しさ,はっきりの程度,その他各種の分類があるので専門委員会で案を作りたい。

土岐会長

 敬語の問題は,国語課にお願いして資料を作ってもらった。

千 種

 法律用語と公用文の民衆化については,審議会が推進力となりたい。

(注) 千種委員提出資料

法律と公用文
  1.  現在行われている法律にもむずかしいことばや文章が少なくない。ことに刑法系の法律にそれが多い。
     たとえば,
     政府ヲ覆シ又ハ邦土ヲ僣覆シ(第17条),犯人臟置,証憑湮滅(第7章)焼燬(第108条),壅塞(第124条),臟物ノ寄藏故買牙保(第356条)
     罪本重カル可クシテ犯ストキ知ラサル者ハ其ノ重キニ従ツテ処断スルコトヲ得ス(第38条)
  2.  新憲法・新民法の用語文章も研究の余地がある。
     たとえば,
     「日本国民たる要件は,法律で(これを)定める。」(第10条)などの(これを)は必要かどうか。
     「罷面」「希求し」「遵守する」は「免ずる」「希い」「守る」としてはどうか。
     拷問など,ほかのことばを考える。「何人も」(第16条)ということばは不要か。翻訳的ことばが多い。
     たとえば,
     「維持されなければならない」(第24条)
     また,たとえば,短いことばの,
     「天皇は」(第1条)「皇位は」(第2条)に句読点をうつがよいかどうか。
     新民法の「隠匿」「抵触」「控除」「伸長」は「隠す」「異なる」「差引く」「のばす」ではどうか。
     「婚姻の取消は,その効力を既往に及ぼさない。」(第748条)は「結婚の取消の効力はさかのぼらない」ではどうか。
     憲法の文章用語改正意見については大阪の「国語をよくする会」発行の「文書と能率」に書かれている。
  3.  近ごろの法文は当用漢字を採用し,当用漢字以外はかなを使っているが,ことばなおしをしないとかえってわからない。
     たとえば
     土じょう場,ていけい場,ろう学校,蓄,骨ぱいへい獣,当せん金,売いんらん用,めいてい,よう船,口くう,しゅんせつぞう物,はい用,かん水,きう水,こう報,はいきゅう,工しょう
    (法制意見局参事官 澄田智氏「法律のいろは」1949年10月号13ページ)
  4.  公文書についても研究すべきことが多い。
     「国語をよくする会」発行の「文書と能率」5号
     「公用文作成基準の文例」特集号
     「法文の口語化」巌松堂発行
     口語体判例文例集

 刑法の起草に漢学者が参加したように,将来,法文の改正には国語学者の参加を望む。

阿 利

 新聞社では,当用漢字が緩和されれば仕事がスムーズに行く。

(注) 阿利委員提出資料

  1.  熟語にした場合困るもの
    仇 虎 頻 凄 狙 且 糞 妖 膳 靴 籠 蹴 賭 燭 悠 傘 繩

    •  一部の人々には平和的,民主的な国家にとってありうべからざる漢字,たとえば,「隷」「拷」「虐」など取り除けという主張もありますが,これは極端かもしれませんが,なかには一考してよいと思うものもあります。
    •  代用語を用いて語感のぴったりしないもの
       偵 罹 尖 俸 牒 凸 凹 縛 拉 媒
       その反対に当用漢字にあるにもかかわらず無いものと思って,最近はほとんどかなを使用しているものに,
       マサツ(摩擦) 推せん(薦) 委しょく(嘱) さく(搾)取 ふ(触) れる等
       これはいっそう推進したいと思う。
    •  現在使われなくなった当用漢字,たとえば,朕・霊等は完全に除いてもよいと思う。また水害の場合に橋梁流出の梁のごときもその一つ,またこれも当用漢字にはないが,つい使い慣れているために書きやすい字に漠(・)筈・戻・肚・裡・湧・貰等がある。
       これらのうち緩和できるものなら,当用漢字中に取り入れてもいい字があると思われる。
    •  比較的使用度数が高くて当用漢字にないために不便を感ずる語は,(鋭化)・(する)・(何」たれ」の場合も)・淘汰(戦)・嫌・厭・厄・泥・甚・捻・轢・頑・呂・棟・麓・瞳・綴・尻・溝・(制)覇(権)
       以上の字は必ずしも絶対必要とはいえませんが,よく出る場合がある。
    •  たとえば,新聞記事の見出し編集の場合,字数の制限を受ける上に,適当のいいかえことばがないというような場合に起りやすいことです。
      「首相きょう重大発言お膳立すでに完了」
      などの場合,お膳立を準備とでもすればよいでしょうが,日常身近なやわらかいコトバは「お膳立」が使いたいところです。ところが平常,時間に追いつめられ,紙面に制約を受けたりするために,当用漢字の範囲を逸脱することがよく起きるようです。また特殊の用語はかな書きにしてはかえって意味が通ぜず,かついいかえことばもなかなか思いつかぬという場合がたくさんあるものです。病名とか学術用語には,特にその例が多いようです。そこでわれわれが日常不便と思った例を2,3あげてみますとわたくしどもの新聞社の例を申し上げますが,本社の工場で使用している活字のケースは,
       かな(ただし,このなかに数字壱・弐・参等を含む)を除いて2011字を収めています。(内訳は大出張499,出張956,その他の当用漢字380,固有名詞用漢字186―固有名詞用漢字を除いた字数が当用漢字数字1850字より少ないのは上述のようにその一部がかなのケース中に収められているからです。)
       それでも当用漢字制定の趣旨はあくまで尊重すべきで,新聞社が卒先して簡易化に努めねばならぬと考えまして,現在の当用漢字を補正するにしましても,1850字を限度として改廃するのがよいと思います。
       現在新聞社の文撰工が拾わなければならぬ漢字は,固有名詞の漢字が現在のままならば相当に多い数となっています。

  2.  各新聞社とも「新かなづかい」に関しては特殊の寄稿等を除いては厳守していますが,当用漢字のほうは採用当初からみるとしだいにくずれてきているようです。
     その理由は,新聞紙の編集が非常に時間に制限されていることと,最近は紙面が少ないために簡略な文字を使うようになったのがいちばん大きな原因ではないかと思われます。

服 部(静)

 この資料は,わたくし個人のではなく,学会こめてのいちばん多い例を出したものである。

(注) 服部委員提出資料(2)
生物学の分野で多く用いる字で当用漢字表にないものの例

生物学の分野で多く用いる字で当用漢字表にないものの例

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