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議事 ローマ字教育について
土岐会長
ではローマ字教育の問題に移る。ローマ字教育のことは,この前の総会に報告があって,それに対しいろいろの御質問や御発言があった。けっきょく時間がじゅうぶんになかったので,もう一度部会を開くことにした。その部会で修正をほどこしたものがお手もとに配布してある印刷物である。これについて部会長から改めて御報告願いたい。
石 黒
ローマ字教育については,この前の総会で,一応報告したのであるがその際の御質問や御意見に答えて,部会を開き,さらに全面的に案を練りなおしたのである。どんな点を修正したかというと,
1について−この前のものには「1年を通じて40時間以上……」というように時間数を入れてあったが,今度これを省いたのである。40時間以上というのは,現在のローマ字学習についてそのようになっているし,また,昭和22年以来の経験から,これぐらいが適当だろうというのでさきの案には入れておいたのだが,絶対的のものではないし,なお,研究を要するので,今回は省いたのである。
2・3について−そのままである。
4について−表現を改めて誤解をされるおそれのないようにした。
5について−最後に「なお,高等学校以上においてもローマ字を使う機会を与えることが望ましい。」ということをつけ加えた。これは第13回総会において,「高等学校については全然述べられていない……」ということだったので,はっきり文面に出したのである。
部会では今述べた修正箇所以外に修正する必要はないだろうということとなって,このような案になったのである。
なお,この報告について,部会の希望としては建議にまでもっていきたいのであるが,ローマ字教育の問題は各方面に影響するところも多いし,またたとえ,これが建議されたとしても,実施に移すまでには,少なくとも,教科課程審議会にかけ,学習指導要領を改訂し,大学学術局の手もわずらわさなければならないということがある。本日の総会で現委員の任期がいっぱいとなるから,ここでこの報告を適当だと認めていただけば,次の審議会の部会でできるだけ早く建議の形になるようにしていただきたいとお願いするしだいである。
ローマ字教育に関する部会は,ローマ字調査分科審議会の部会とせず,まず国語審議会の部会として設置して,ローマ字教育に関する一般的事項について審議し,次いで具体的事項を取り上げる段階となってから,ローマ字調査分科審議会のなかへ部会を移すこととなっているから,総会がこの報告の趣旨をお認めくださることを部会としては希望する。
土岐会長
部会長の説明に対して質問はないか。
吉 田
第4項は,国語科以外の教科書のなかでは,ローマ字を使ってもさしつかえないということか。
石 黒
そうである。
時 枝
ただいまの部会長の説明によれば,この報告にもられた事がらを次の審議会に譲るということになるが,そうするとこの決定が,次の審議会にある拘束を与えることも考えられる。つまり,次の審議会は,この趣旨に従ってこれを具体化してもらいたいということになる。
土岐会長
それはどうなるかわからない。現在の部会としては,そのように要望したのであるが,それを取り上げるか取り上げないかは,次の部会自身の判断によって決めればよいのである。
時 枝
そういう意味で,これが最後的決定でないということはわかるが,第13回総会で有光委員が質問されたような根本的な事項について審議をする必要があるように思う。
土岐会長
根本的審議の時間かないから,部会長としては持ち越しにしてはどうかというのである。
時 枝
では,きょうの総会は,単に報告を受けたということにとどまって報告の内容をうんぬんするわけではないのか。
土岐会長
そういうわけである。
時 枝
総会でこの報告を認めたいということになると,次の審議会の部会で拘束力というまでにはならないにしても,少なくとも,審議の土台にはなる。だからきょうは内容のよしあしを判断しないで,単に報告を聞きおくだけということでよいか。
福 田
はっきりと価値判断をしないとしても,少なくとも総会が受理するに値するりっぱな報告であるということは認めているのではないか。
土岐会長
受理しなければ否定することになる。受理したということは,受理するに値するということを判定したことになるだろう。
時 枝
この報告の内容が価値あるものであるということになると,もっと言いたいことがある。
土岐会長
この報告が全体として,ローマ字教育の今後の方向を決めるものとして考える価値のあるものと判断したのでなければ,総会で受け入れたことにはならない。
吉 田
報告を受理したということは,報告内容を肯定したことになると思う。これは次の審議会に対して多少の拘束力をもつことになるだろう。
千 種
「受理した」というのと「聞いた」というのではだいぶ違ってくる。
吉 田
だから,報告の表現によってだいぶ違ってくるわけだ。
千 種
印刷物には「……報告します」とあるが,これが単にこのまま要録に載せられるのならばさしつかえないわけだ。「受理」ということになると,意志表示があったということになる。
土岐会長
この総会がローマ字教育部会の報告を聞いたということと,次の審議会へまわすということは別々に決めるべきである。
吉 田
しかし,この総会で聞いたことは,そのまま次の部会へまわることになるのではない。
時 枝
しかし,この総会としては,報告内容の可否は決めていないのである。
土岐会長
内容についてはさらに審議を重ねることになるのである。
颯 田
わたくしも部会の報告書を書いたが,それは現在の審議会の総会へ出すために書いたので,次の審議会のことはまったく考えていなかった。
土岐会長
話しことば部会としてはそうであっても,ローマ字教育部会としては次の審議会で引き続き審議してもらいたいという希望があったのである。
颯 田
たとえ委員は任期が切れて,改選になるにしても,国語審議会は一つのものであるからくり返しいつまでもそんなことをしていることになると限りがないことになる。
土岐会長
昭和9年に国語審議会が設置されて以来,改組される前までは,そういう形のものであったが,改組後は委員の任期が2年になり,前の2年の業績に対してその次の委員が批判的になりうるたてまえになっている。
時 枝
ローマ字教育部会のこの報告にもられた結論に対しては,われわれが責任を負うべきであって,あとへまわすことはいけないと思う。
土岐会長
それではまず,「報告を聞いた」ということにし,部会長としてはこの結論を次の審議会で早く具体的な建議の形にしてほしいと希望している点をどう取り扱うか決めたい。
時 枝
では内容の審議はしないことになったのか。
土岐会長
そのとおり。
千 種
「受理した」ということになると,次の審議会で引き続いて審議しなければならないという拘束力をもつことになる。「聞きおく」だけなら拘束力はなく,新しい審議会へ提案され,それが受け入れられてはじめて審議事項となるのである。
颯 田
「受理」とか「聞く」とかいって問題にしているが,総会と部会との関係をそう離れたものとして考えることは困ったことである。あたかも国語審議会のなかに部会と称する独立国のようなものがたくさんあるようなことになる。
土岐会長
そういうわけではない。部会の結論は総会にかけて建議して採決するかしないかをはかるのである。ローマ字教育部会は,最初ローマ字調査分科審議会のなかに設けず,国語審議会に設置し,具体的事項を審議するときになって分科審議会に移すことになっていたのだから,ここではそういう形で受けて,問題をローマ字調査分科審議会へまわしたらどうか。
時 枝
意味がわからない。今までローマ字教育部会は審議会の部会であった。そこで,ある程度一般的な事項を決めたが,さらに同じ部会でもっと基本的な審議をしていかなければならないと思う。
土岐会長
しかし,この問題は,教育課程審議会・学習指導要領関係・大学関係といろいろ関連するところが多いから,分科審議会へまわしたらどうかというのである。
時 枝
わたくしはあくまでも,国語審議会自体の問題と考える。
千 種
次の委員へまわす前に,現在のローマ字調査分科審議会のほうへ移すというならともかく,そうでなければこれを基礎として,もう一度総会にかけることにしたほうがいい。
土岐会長
それは分科審議会の裁量による。
松 浦
分科審議会へまわすことは,いまさらここではからないでも,第8回の総会で「異議なし」ということになっている。
土岐会長
なってはいるが,ただいまは具体的問題の処理を問題としているのである。
照 井
国語審議会の総会がローマ字教育部会を設けて,問題を審議させた目的は,なにらかの具体的結論を期待していたのではないか。それにもかかわらず単に聞きおくだけでは,部会をあまりにも軽く見たことになりはしないか。だからきょうのところは,この報告を少なくとももう一度考えなおす価値のあるものとして取り上げてよいのではないか。内容にはまったく触れず単に聞きおくというのではいけないと思う。
千 種
部会を軽視するというのではなく,きょうは現任委員最後の総会で,時間の関係上やむを得ない処置なのではないか。
照 井
それならばよいのだが。
石 黒
部会としては,そういう結論を出したのであるが,まだ研究しなければならない問題もあるし,また他の委員のかたがたにはそれぞれの御意見があることと思う。わたくしがさきほど次の新しい審議会で考えてほしいと申したのは,この報告の内容を動かさずにそのままの形でというのではなく,一応こういう線で結論を出したのだということは考えていただけると思ったので申したわけである。
土岐会長
この報告をローマ字調査分科審議会へまわすという処置について御意見を伺いたい。
時 枝
わたくしの考えていることを申し上げたい。わたくしもローマ字教育部会の委員のひとりである。審議の間にいろいろの疑問を出したのだがまず問題になるのは委員構成である。部会の委員は確か会長の指名で決まったと思うが,その大部分がローマ字関係者である。わたくしだけが局外者といってもさしつかえないほどである。そして結論として出された各事項は教育上の問題として重大な影響を含んでいる。わたくしとしては,この案の内容については,総会においてみなさんのじゅうぶんな審議を経なければならないものと考えていた。
「説明資料」にある少数意見にしても,数は少数であるが,ある意味では1対1であり,半数意見と考えてもよいものがあると思う。その意見を総会で審議してほしいと考えていたので,さきほどから,いろいろとめんどうなことを申し上げたのである。
照 井
部会の報告は,部会の総意であるから結論を出すに至るまでの部会内のいきさつをここで述べる必要はない。わたくしはこの報告を総会が受理することをまず希望する。受理の処置はいろいろの問題があって,なかなか簡単にいかないだろうが,それはともかくとして,まず受理してほしい。
土岐会長
だから部会の報告を総会が聞き,その取扱を分科審議会にまわすということにすればよいと思うがどうか。(賛成の声あり)
大 塚
審議のしかたに対して,多数とか少数とかいうことが,かかりあいになっていたとすれば,これは問題である。時枝委員はローマ字関係者以外の者は自分ひとりだと言われたが,わたくしの見るところでは,確かにローマ字関係者と思われる者は当初は,12名の委員中3名である。もっとも審議の途中で変わった者は別問題である。だから,ここでは審議の内幕には触れずに結果を考えていただきたい。そして具体的処理は分科審議会に任せることにしたい。(賛成の声多数)
土岐会長
それでは分科審議会長である安藤委員にわたりをつけることになるのだが,ここに出席している委員で分科審議会に属している委員の意見を聞いて,よいとなったならば,まわったことになる。
吉 田
じゅうぶんに審議をしている時間がないから,もう一度考えなおしてもらうという意味か。
土岐会長
そうではない。分科審議会へまわしてしまうのである。次の審議会へまわすのでなく,現在の審議会の分科審議会へまわすのである。
安 藤
分科会へまわすという議決をしてもらってもよい。
土岐会長
まわすという取扱に対して,総会の総意として賛成したのだからけっきょく議決の形をとったことになる。
安 藤
では,分科審議会として,委員を決めて部会を設ければよいのか。
土岐会長
そのとおり。では,そのように取り扱うことにする。