国語施策・日本語教育

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議事 懇談

舟 橋

 日本ローマ字会の声明書について,説明を伺いたい。

土岐会長

 きょうの会議は公開であり,いろいろ関係のかたも見えているからお話ししてもよいと思うが…。

波多野

 そうお願いしたほうがよい。

土岐会長

 用意も何もないがお話しする。舟橋委員の御発言の内容は,わたくしの所へも来た日本ローマ字会の声明書と解説書のことと思う。皆さんの所へもいっているかもしれない。あれは日本ローマ字会の立場からすれば,あるいはああいうふうな解釈もなりたつかもしれない。しかし,必ずしも客観的立場から判断されていないように思われる。あの声明書の内容は委員選出のときのことを問題にしているように思われる。要するに,あの声明書は,「委員を選ぶとき,それぞれの関係団体の意見を聞いて,その機関にはかって出されるべきである。」と考えているようである。推薦協議会の規則を法律的に見れば,あるいはそう考えることもできるかもしれない。今度,7人の委員で推薦協議会をもって考えたのは,――有光委員その他のかたもおられるから,違っていたら修正していただきたい。――国語審議会の中でローマ字の問題は,かねがね要求されていたローマ字つづり方の単一化が一応決まった。ローマ字教育をもっと推進するためには,教育者の養成が必要であり,また,必修にすることが必要であるという前提もあって,決まったことであるが,教育の実際面については第3期で考えることとなったのである。その点をどう扱うかは,第3期の意向で決めていくことにしたい。どう処理していくかは,総会の意向を伺って,ローマ字調査分科審議会の審議の参考としていただくわけで,これは必ずしもローマ字調査分科審議会の審議を拘束するものではないが,その構成や運営は第3期のローマ字調査分科審議会の意向によることとしたのである。したがって,今度の委員の中には,特にローマ字運動者,ローマ字論者としての委員ははいっていないのである。ローマ字関係の団体に対しては,連絡をしなかったのであり,日本ローマ字会その他の団体が有力であるかどうかは別問題である。なお,あの解説書の中に,わたくしと大塚委員の名が出されているが,推薦協議会としては大塚委員もわたくしもローマ字論者というのではなく,別の分野から選んだわけである。

松 坂

 新しい審議会に対する希望を三つ申し上げる。
 第1 当用漢字は,さいわいに各方面に相当広く行われ,たとえば,「あいさつ」はかな書きにするとか,「聯」を「連」として使うことになって,それぞれの検討の結果,むずかしい漢字の使用をやめたのであるが,その審議会の意向は公になっていない。「使い方は勝手にせよ。」としないで,審議会はこういう方針で決めたのだということを謙虚な気持で一般社会に発表するべきである。
 第2 左横書きについては,官庁の文書では一応実行されているが,民間の実務文書については,審議会とは無関係に行われている。政府は横書きを実施しているが,民間は縦書きが多く,縦横混乱の時代を現出している。審議会は,これに責任をもって対処しなければならない。
 第3 国語審議会令第1条の2に「国語の教育の振興に関する事項」をうたってあるが,おろそかになっている。たとえば,「送りがな法」もまちまちであり,その制定は早くから望まれていることである。終戦後,かたかなを第2学年で教えているが,第6学年になってもかたかなの読み書きができないというふつごうが起っている。ひらがなの字体でも,一筆か二筆かわからないものもある。

舟 橋

 わたくしは,国語審議会の委員を4年ほどやってきた。総会にも出席し,審議会の線に沿うようにやってきたのであるが,今回また選ばれた。今回は,文芸家協会から委員が4人選ばれており,わたくしの意見は全作家の代表的に意見ではないが,――松坂委員の意見に逆らうのではないが――当用漢字の数が少ない。今の3倍ぐらいに拡大してほしい。作家側としては,当用漢字表ははなはだ不便である。理事会ではわたくし以上に強い意見を述べている人がある。小説のための当用漢字でないといわれればそれまでである。新聞などでは「(原文のまま)」としているが,作家は国語審議会の線にだんだん近づいてはいる。大衆にわかりやすい小説を書くためには,現在の当用漢字は字数が少なくて無理である。今回の任期中はわたくし個人として相当皆さんと反対の立場にたった意見を述べることもあるかもしれない。

中 島

 今,舟橋委員から発言があったが,あれは舟橋委員の意見であって文芸家協会の意見ではない。舟橋委員とわたくしとは論争するかもしれないが,これをもって文芸家協会が割れているとお考えにならないように願いたい。当用漢字表が既成の事実であることは認める。わたくしは,当用漢字表は漢字制限ではなく,これだけは読み書きともにできるように覚えてくれという字であると解している。あの表の漢字を読めないものが多いということに注意したい。だから,松坂委員のいわれたように教育ではこの線までしぼって教え,文芸家協会との間の話合いで,歩み寄りができるだろうと思う。作家がせっかくわかりやすく書こうとしても,大衆が読み違えていたのでは悲劇である。案外,大衆は読めないのである。
 当用漢字は教えてゆくべきものだと考える。

舟 橋

 国語審議会に対してもっと強い意見をもっている人もいる。
 新聞でわたくしは新かなづかいにしたが,旧かなづかいでなければ書かないという作家もいる。中島委員の説はもっともなことである。わたくしは中島委員と対立するのではなくて,現状を申し上げたわけである。当用漢字表の補正にしても同じ字数を出し入れしている。そんな字数に関係なく,反省する時がきたらどんどん拡充していっていただきたい。以上は,中立的な立場で申し上げたのである。

土岐会長

 教育面のことで話があったが,推薦協議会の委員の立場から考えても,国語審議会は,教育の面にもっと結びついていく必要があるし,また,マスコミュニケーションの方面において,社会的に発展していかなくてはならないと思う。今度の委員には,この方面に関係の深いかたがおられる。新しい委員がたの考えをお聞きしたい。では,まず石井委員からどうぞ。

石 井

 わたくしは,現場の先生と接する機会が多いのでよく聞くことだが,現場の先生は,当用漢字・現代かなづかいが決まったので,それをもとにしてカリキュラムを組んで教えている。それが何年かたたないうちに変る。この変るということが教育ではやっかいなことなのである。今,いっしょうけんめいやっているが,義務教育の9か年が終らないうちにまた変るのではないか。そういう懸念にとらわれている。教育の立場から言うと,いちど決まったものは,なるべくお変えにならないようお願いしたい。国語審議会が今までいろいろ重要な仕事をしてこられたことに感謝しているものであるが,漢字とかながことばから少し離れて文字だけというような感じを受ける。標準語部会と関連して,つまり,ことばと関連して文字を考えていただきたい。そうすると,今の漢字でもまだ多いと感ずるのではないか。
 教育の現場では,いろいろの立場から命令・指示が出てくると,同じものであっても迷ってしまう。文部省でもその面を通して御指示いただきたい。出方によって,教育界で取り違えるといけないから,事務的に現場に関することは,その所管を通じて,通達を一本化していただきたいと思う。

舟 橋

 国語審議会も,第3期は前とは新しく委員も変ったのであるから,今までの方針が根本的に変るのではないだろうか。不都合なことは変えていってよいのではなかろうか。一概に変更を拒むのはどうかと思う。いろんな意見を聞いて,去年よりはことしと変っていってよい。柔軟にやってほしい。

石 井

 まったく変えないというのではない。改善は決して拒まないが,ひんぱんに改めることは困る。文字だけでなく,ことばも考えていただきたい。あまり変ると混乱を増すことになる。そういう事実だけを述べたしだいである。

土岐会長

 少数意見を尊重することも当然ではあるが,皆さんの意向の落ち着くところに落ち着けていきたいと思っている。では,野間委員,東京都の指導部長として国語の面からの御意見を…。

野 間

 国語の指導ということで話すのは困るが…。現場を回るのが仕事であるので,現場の先生から意見をよく聞くが,今,石井委員の言われたとおりである。変っては困るが,どの幅で変えられるかによって大きく現場に影響するものであるから,やむをえないものはしかたがないとして,できるだけ当用漢字表や現代かなづかいは変えてもらいたくない。ただいま,都の教育研究所で,11月から調査したいと思っているが,社会科・国語科・理数科で提出されている漢字がどう違っているかを調査しようと思っている。また,筆順の基準を決めてくれとの話もある。現場の実績だけを申し上げた。

土岐会長

 では,野島委員から,学校関係の御意見を・・・。

野 島

 わたくしは,文海中学に勤めているが,現場で実際に生徒児童を指導しているものは,国語審議会で決まったことを,どのように能率的に指導するかをいっしょうけんめいにやっているが,審議会のことを研究しているのは一部であって,大部分は決まったとおりをやっている。皆さんがたの御意見を拝聴しながら,また,現場の意見も聞いて,現場の声の反映として,国語審議会への御参考にしたいと思っている。現場の声が審議会の中に反映していって,実際に普通教育で使われるものが,だいたいこれであるという声を反映させたいつもりで,お伺いしたわけである。

土岐会長

 菅原委員,どうぞ。

菅 原

 さきほど,舟橋委員・中島委員の発言があり,わたしも文芸家協会のものであるが,どんな意見でも流れるほうへ流れてゆき,落ち着くものだと考えている。芝居をやっているものとして,ことばは,文字で見るより話すことばとして関心をもっている。話すことばとしては,学校を出て芝居の研究所へはいってくるが,根本問題となることばのもっている意味,文字の奥をつっついていくことが今までに全然行われていない。たとえば,教科書の中の会話を学校では読むことばとして処理されているのではないか。巌谷小波先生の流れをくむ紙芝居の行き方は,社会に残された問題である。ことばを単語にして投げつけて,ふところにほうりこまないと感じないというふうに感じている。ニュアンスとか含みを出すのが芝居の仕事である。現在の作家の作品ですら,ひとりの俳優ではやりにくい。シェークスピアのものとか,現在の作家でも,久保田万太郎氏・三島由紀夫氏までは,ひとりの俳優でできる。
 当用漢字もそうであるが,どんどん伸ばしていって,今の10倍も読みうるものを消化していくことが必要であると思う。読むことと話すことが遊離しすぎているのではないかと思う。

舟 橋

 さきほどわたくしは3倍と申し上げたが,実はたいへん遠慮して言ったわけで,今10倍と言われたのではじめて賛成者を得たようなわけである。今までは,まわりから相当抵抗を感じており,なかなか思うことが言えなかったが,今度は思いきって言ってみたいと思っていたところである。実は中島委員から転向しろと言われたが,転向できなかった。少数意見としてわたくしも含めて審議したことになってしまい,けっきょく,中島委員の意見が通ってしまったというようなわけで,ひがんでいたが,これからはそうでもなくなった。

土岐会長

 田村委員どうぞ。

田 村

 今までみなさんのお話を伺っていて,わたくしなどがここに出てきたのが場違いのようである。わたくしのやっている仕事は,文章ではなく,ことばを音に出して聞いていただくということで,お聞きになるかたによくわかるように,楽しく美しくと努力しているつもりである。だからことばはたくさんあってほしいと思う。芝居はわたくしひとりでするのではなく,作中人物によっていろいろ細かい言い方などがあって,それらを使い分けるには,ことばはたくさんあればあるほどいいと思う。

土岐会長

 高津委員,どうぞ。

高 津

 今までお話を伺って,日本語全体としてお考えくださるようにお願いしたいと思う。漢字制限で語いが制限されるなら反対する。言いたいことが言えないのなら,漢字制限などやめるべきだ。やるならどういう目安で,やるのかが問題となるだろう。漢字を制限するにあたって,日本語の語いを全部お調べになっただろうか。ある程度の辞書といったものが漢字制限で作られただろうか。

土岐会長

 その点,松坂委員からお話し願えるか。

松 坂

 わたくしは責任者ではないが,古典とか,特別のものは困るが,現代のものでは1850字でまかなえると信じている。

高 津

 日常語が書き表わせるということか。

松 坂

 そうである。たとえば「あいさつ」ということばは,漢字を使わなくても書ける。漢字制限は,決して語いを制限するのもではない。

高 津

 語いそのものが制限されるということが心配である。もういちど,語いが制限されているのではないかということを検討してみたらいいと思う。

土岐会長

 次に高木委員,国文学という立場から御意見を…。

高 木

 わたくしはどういう立場で国語審議会の委員に選ばれたかわからなかった。名簿の肩書には愛知県立女子短期大学長とあるので,現場の意見を述べなければならないかと心配していたが,国文学の立場からというのであれば,自由に話せそうである。いろいろお話を伺っていて,今,感じたことは調査ということが審議会ではじゅうぶん行われていないということである。語いをどの程度調査したかという高津委員の希望・意見であるが,委員の学識経験をもち寄るのがこの会であろう。しかし,学識経験のみでは,客観的な,具体的な面で欠けてくるものがあろうから,個々の問題について調査をもっとやって,ある程度材料を提供してほしい。予算があるか,可能であるかわからないが,国立国語研究所もあることだからもう少し調査的なものを提供してほしい。
 小説は,作家のほうでは3倍なくては書けないという。また,当用漢字の範囲内で書けるというまったく対立した立場があるので,そういうことを調査したらよいと思う。学識経験を支持する客観的な資料があったら,なおよいと思う。

土岐会長

 調査資料がないということだが,国語研究所があって,そういう調査はだんだんとできている。また,今後その意をくんでやっていただきたい。西尾所長も見えているが,国語研究所は,今後,資料が各委員に渡るようおはかり願いたい。

高 木

 大衆にはむずかしくて小説が読めないということと,3倍なくては困るというものとの対立があるが,現在新聞小説あたりを調査して,常識を裏づけるため研究所にお願いしてはどうか。

土岐会長

 次に佐藤(孝)委員,どうぞ。

佐藤(孝)

 わたくしは,音の記録・分析ということが仕事である。最近では,音を記録・分析する技術が進んで,「ビジブル スピーチ アナライザー」(ソナグラフ)という機械ができ,それがわたくしの所と,通信研究所と,国語研究所とにある。これを活用することによって,日本語のいろいろなことがわかるであろうと思う。

土岐会長

 なお,御意見があったら,手紙で国語課のほうへ出していただきたい。この次の総会に提出したいと思う。では,会議室のつごうなどもあるので,10月7日(木)午後1時半から,この次の総会を開くことをあらかじめお含み願う。
 次には,部会をどうするか,審議をどう進めるか,また,ローマ字調査分科審議会に属する委員の指名も決まるであろうから,そのほうの仕事も進めておきたい。

緒 方

 この前,部会の設置について話し合ったときは,すでに原案ができていたので心理的に抵抗を感じた。この次の総会には白紙で願いたいと思う。

中 島

 部会はあまり多くてはいけない。なるべく少なくしたい。

土岐会長

 あまり多くの部会を作らないほうがよいことは,経験が示している。

吉 川

 前の審議会では,部会はいくつあったか。

白石課長

 漢字部会・表記部会・標準語部会・法律公用文部会・術語部会・固有名詞部会。ローマ字調査分科審議会中に,わかち書き部会・教育部会の二つで,つづり方については前述のように部会を設けずにやったが,これをかりに一つの部会として数えれば,つごう九つである。

土岐会長

 それではこれで散会する。

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