国語施策・日本語教育

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議事 審議

土岐会長

 質問はないか。なければお手もとにさしあげた印刷物によって,今後の審議事項について審議を進める。この前の総会で文書で御意見を提出していただくことにした。これは,皆さんからお寄せくだすった御意見をそれぞれの項目に分けて整理したものである。――(審議資料〔総1〕の項目を読む)――5ページの下の大きなわく,原委員の御意見から先に審議してほしい。(項目を読む)
 意見の1については,国語審議会政令の規則があるが,ローマ字調査分科審議会に属する委員の選挙について当局からお話を承りたい。

小林局長

 政令第85号,国語審議会令に,「第6条 審議会に,ローマ字に関する事項を担当させるため,ローマ字調査分科審議会(以下「分科会」という。)を置く。第7条 分科会に属する委員及び臨時委員は,文部大臣が指名する。」と規定されている。これによると,分科会に属する委員は文部大臣指名ということになっているが,従来は会長と御相談をして指名することになっている。ここに原委員から選挙との御意見が出ているが,運営上の内選考という意味ならばできないことはない。しかし,選挙によって法的に指名されるものとはならない。

土岐会長

 選挙ということは,参考案を作ることであるか。

 そうである。

土岐会長

 デリケートなもので,結果的には問題を含むかもしれないが,一応,選挙のような形にして適当な人の名を書いてもらい,その結果としては発表せずに参考として御意向を伺う方法としたらどうか。選挙となるとかたくなる。

 わたくしが選挙と申したのは,法律的のものではない。趣旨は,審議会を構成している委員の意見が反映されていればよい。

土岐会長

 今まではそういう手続でなく行われていた。

田 口

 参考的なものにしてもらいたい。部会でなら時間もじゅうぶんあるから,反対者を説きつけることもできるが,総会では時間がないからそれができない。選挙にすると賛成者ばかりが集まってしまうおそれがある。反対のかた,門外のかたにもはいってもらうようにしたい。部会の審議はゆっくり時間をかけてじゅうぶんにやってもらいたい。

土岐会長

 門外の人とは。

 審議会の委員の中でローマ字問題について白紙の人,何も知らない人である。

土岐会長

 適当と思われる人の名を伺いたい。参考にするという意味で10人〜15人ぐらいの人数を選んでいただきたい。

高 木

 門外の人だけを選ぶのか。

土岐会長

 ローマ字のベテランでない人,いわゆる門外で適当だと思う人という意味で。
(各自がひとりだけ選ぶのかが問題となる)3人ぐらいではどうか。

遠 藤

 10人選ぶことにしたらどうか。その人が白紙の人かどうかわからない。

時 枝

 わからないから,けっきょくでたらめにならないか。抽象的に注文をつけたらどうか――専門家は選ばないとか――。

土岐会長

 いわゆる門外か門内かわからない。

時 枝

 かりに指名するとすれば,どんな方針でやるのか。

土岐会長

 まず,国語教育・国語学というわくをおき,その方面の人を入れる。その中には世間では門内と考えられている人もあるかもしれないが,広く国語教育・国語学という分野からはいってもらう考えである。いわゆる門内・門外を一つにして考え,ローマ字調査分科審議会を構成したい。もしこれが妥当なら改めて選挙をやらず,御意見だけ伺ってもよい。

時 枝

 そのへんのところが妥当だと思う。

遠 藤

 できるだけ公平にするという委員の意向を反映させるために,会長・副会長のほかに選考委員を2〜3人選んで決めたらどうか。

土岐会長

 では参画するかたを決めていただく。指名の手続についての相談役として適当と思われるかたを1名ずつ各委員に選んでもらい,票数の多い人から3人めまでのかたがたにお願いしたい。


(舟橋委員出席)

松 坂

 会長・副会長は加わることとして,この選挙から除くことにしたほうがよい。


――〔選 挙〕――

土岐会長

 意見の2 伊藤委員提案の「部会審議の進行を早めてほしい。」は当然だと思う。 意見の3 提案者の大塚委員はまだ見えていないが,このことは今までやっていることで,西尾国語研究所長が見えているから御意見を伺いたい。

西尾所長

 御指名によって一言申し上げる。国語審議会と国語研究所と国語課の仕事は三位一体ということで協力してゆくことになっており,わたくしのほうは,研究を任務として設立されてから6年,こんど新庁舎も一ツ橋に移転し,だんだんと調査研究を進め,国語政策の基礎資料を作成している。なにしろ,問題が大きく,範囲が広いので,まだそのときどきの資料を国語審議会へ提供する運びには至っていない。今までは,その資料を作成するための資料を作っているので,調査研究として審議していただく段階までに達していないが,これまでの調査では,人名用漢字別表の決定の際,漢字使用の実態などがあり,今後とも評議員会の御注意もいただき,資料調査室を設け,全般にわたってどういう資料があるか,中間的な御報告ができるように昨年からなっている。

土岐会長

 意見4 について颯田委員から説明を願う。

颯 田

 今までの部会では,細かい事項についての研究ということに終ってしまいがちであった。しかし,われわれとしては調査はできない。専門調査員もあるそうだが。分けてしまうと微に入り細をうがつようになって,大学の研究室や研究所でやるようなことをやるようになる。細かいところは研究所などに任せて,研究材料はほかで作り,何をどうするかということについてもう少し審議があってもよい。しかし,これは逆もなりたつが。

土岐会長

 国語審議会として第3期は第3期の考え方によるのが当然だが,審議会での大方針を整理しようということで審議した結果をまとめたものが「国語問題要領」であって,審議会の審議方針はあの中で決められている。「国語問題要領」について意見を述べることはよいが,改めて大方針を考えるということよりも,その中のどれを扱っていくかを決めることがたいせつである。審議すべき議題は出ているのであるから,これを大方針のもとで考えてはどうか。

颯 田

 大方針が抽象的だと独断的になるおそれがある。部会になると,末端になり,国語研究所でやるようなことをやるようになる。大方針で行われていると思っても,形式だけに流れるおそれがある。部会に早く分けて,出席率もよくないとすれば,実際問題として実施面からもう少し考えたい。大方針の実施方法・手段を審議したらどうか。

舟 橋

 これまでの部会の経験から,颯田委員の意見はうなずける。部会のほうが強いのか,総会のほうが強いのか。わたくしは標準語部会につごうのつくかぎり出席した。金田一先生の講義を聞いてありがたかった。教室に出ているような気持がした。細かい点で部会の功績は高く評価されていい。ただし,ある部会で決めたことを総会で簡単に否決されると,部会でやったかいがない感じがして,腹をたてたくなることもある。これは微妙な問題である。できれば,総会も部会も,もっとしばしばやるといいが,出席が困難である。総会はある程度部会よりも強いという申合せがあってもよい。しかし,大方針の問題は総会にはかる。会長・副会長は全部の部会をよく見てタクトを振ってもらわないと,部会の方向がまちまちになって困る。部会によっては,ある部会だけ独走したものがある。この点,颯田委員の意見は重大だと思う。

土岐会長

 今までの経験から見ると,ローマ字調査分科審議会で出された結果は,総会で審議し,一応建議までもっていこうとしたが,そこまでいかなかった。外国語・外来語の表記も部会では建議するはずであったものが,総会では業績を多としても建議には至らず,漢字も部会で考えたよりも,総会で御承知のような形で取り扱われた。どちらが重いか軽いかというのでなく,どちらも審議を尽した形となった。ただ,部会で綿密にやったことを総会でプロセスを考えず,いっぺん見てぐあいが悪いとなるとまずいから,部会長の報告を聞いて,総会で審議していくようにしたい。

舟 橋

 しかも,わたくしは部会の体面が総会でつぶれたような感じを受けた。納得ずくの話合いではない。総会が無理をしている。部会で細かい審議をやって総会で否決されることは残念である。こんどは部会で決めたことを総会で納得できないなら,部会を作らないほうがいい。

土岐会長

 部会として建議に値するものだとしても建議は総会にかけないとできない。そして建議するかしないかは総会で考えるのである。

上 野

 颯田委員の意見に至極賛成。総会・部会の権限がはっきりしない。総会は大方針を決める,部会は大方針に従って具体案を作る。漢字は国字の政策からいって,将来ふやすのか,減らすのか,ゼロにするのか,何万字までふやすのかということを決めるのが総会の仕事で,どの字をふやし,どの字を減らすのかという仕事をするのが部会である。株式会社でいうと大きな政策は取締役会で決め,具体的な仕事は部課長会議でやり,総会で決めている。国として,減らしたいのかどうかを決めてしまえばいい。当分総会を続けて,国の政策として根本方針を決め,それから部会を作ればいい。日本の国語国字をどうするかという根本方針をはっきり決めてほしい。

土岐会長

 総会はそうした性格をもつことを確認するというのか。

上 野

 今の問題では,総会として,漢字は増減のどちらにするのかということである。

土岐会長

 国語改善のうえから漢字をふやすほうがよいか,減らすほうがよいかということを総会で決めるのか。

上 野

 それを決めてほしい。旧式にもどるのか,折衷にするのか,それでないと部会の委員の選び方によって,ふやす人が多ければふえる。

大 住

 これまでの部会では,当用漢字・現代かなづかいの範囲でやるという方針のもとに審議をやってきた。漢字をふやすか減らすかということは,新たな問題として取り上げるべきだ。

遠 藤

 ある方針がたった場合,反対の意見を持った人はどうするか。委員をやめてしまうのか。

颯 田

 反対の人が多くなった場合,いちいち意見が通らないからやめるなどといえば,わたくしなど年中やめていなければならない。会議とゲームとは違う。

大 住

 やめるとかやめないとかは本人の自由で,会議としては,そのようなことがあっても成立する。漢字は希望としては,減らしたほうがいい。外国に行ったときに気がついたことだが,外国の法律家は,たとえば民法の法律家でも,商法も,刑法・農業・工業のこともよく知っていて,みな常識が発達している。どうしてそのようであるかというと,外国には国語の重圧ということがない。日本では国語の重圧があるために,ほかのほうに手が回らないからだ。先日トルコから帰ってきた人の話では,トルコでは第1次大戦まではアラビア文字を使っていたが,アラブ人で新聞を読めるものが15%だったのが,戦争に敗れてローマ字を使うようになってから50%が読めるようになった。国語の重圧は,他の知識の害になる。当用漢字を使うことが気分とかニュアンスだけの問題なら国語の重圧を除くほうが重大だ。本日の時事新報・毎日新聞にかな書きで「ルジ……」(屡次)ということがあったが,わからなかった。「ルジ」では新聞記者自身にもわからなかったし,読者にはましてわからない。人にわからない字で書いてもだめだ。少ない漢字で意思を表すことだ。当用漢字を3倍にしろというのは大胆な意見である。

舟 橋

 賛成ならはいれというので委員になったのではない。代表的意見で決まっているならば,言うことはない。選考を受けたときは意見は決まっていなかったので,個人としては反対するために出てきたのである。

大 住

 今決まっているのは,永遠に決まっているものというのではない。その時代の事情の変更によって,ふやすならふやすで新しく提案すべきだ。

土岐会長

 部会を作るとすれば,委員から提出された意見を集約していけば部会ができる。なお,総会で話し合って部会を作るという方向をとるか。

時 枝

 総会で根本方針を決めなくても,部会はできる。当用漢字を再検討しようという意味の会ならよい。具体的な問題に即して根本方針を考えていこうとしたのである。既定の事実というものはないと思う。

土岐会長

 前の漢字部会では,第1期では漢字をどう扱うかを考え,第2期では,一つ一つの漢字について初めから調べていった結果,偶然増減とも28字ずつという形が出てきた。修正するのではなく再検討ということで考えた結果がああいう結果になったのである。

時 枝

 第2期の部会は,当用漢字の精神をもういちど確認しようとしての立場から考えた。これはくずしてもいい。

舟 橋

 総会だけでまとまらないから,部会を作ろうといったのではないか。

土岐会長

 漢字もあるし,かなづかいもあり,また固有名詞といろいろあり,国語改善の方向をとりながらやっていこうという常識で考えられたからである。

舟 橋

 前に当用漢字を決めるときにどうやって決めたかというような大きな問題があった。こういう大きな問題を総会で審議したらどうか。前の部会(標準語)ではいい仕事をしたと思っている。しかし,部会の最後の決が出ないうちに任期がきた。そんなことのないように,総会でも少しもんでから部会を作ったらいい。

土岐会長

 総会でいろいろな問題を取り上げているうちに,およそどんな問題を取り上げるかという項目ぐらい出てくるのではないか。漢字を取り上げるというのも一つの事項にする。固有名詞は別にする。標準語はある程度原則はたったが,なお,話合いがふじゅうぶんと思われる。漢字・かなづかいを1本にし,文字表記の問題としてまとめたほうがよいなどのこともある。また,地名の整理の問題,公用文と法令用語の問題にしても両方いっしょにするか別にするか話合いをするにしても,いくつかの項目に分けて検討していってはどうか。

高 木

 議事進行上申し上げる。今お話しになった問題について,重点的にやる御準備があれば伺いたい。部会構成について,資料の生の問題について考え,重点的にしぼっていって,賛否を聞いてはどうか。

土岐会長

 これからの部会の設定がどういうことになるかは考えていない。これをどんなぐあいに整理するかは,きょうの御発言によって考えたいと思う。これを部会構成の準備とし,部会の構成は会長指名ということになっているから,漢字制限一辺倒になるおそれはない。

波多野

 部会の中には,根本方針とは別にしていいものもある。総会によって成立させられるものと,そうでないものと2本立てにやってもらいたい。根本方針は総会で,そうでないものは部会を作って。――そうでないと,任期が切れてしまう。

緒 方

 刷り物ではあれだけ読んでも新しいかたにはじゅうぶん御了解になれないものもある。部会の性格についても,決めるとき,一応全部が同じ判断をもたなくてはならないが,あの資料ではふじゅうぶんだ。全部が同じ知識をもっていないと,はじめての人にはむずかしい。新しい人にもわかるような方法をとり,席を改めてこれまでのいきさつの説明から始めてほしい。

土岐会長

 国語審議会報告書をさしあげてあるので,あれを読んでおわかりになったことと思っていた。

緒 方

 わたくしは,そうでないことを発見した。

高 津

 あの本を読むと,まず一定の方針が決まっていて,それによって審議されていたように思われる。まず問題の定義から始め,問題の出し方を総会にはかって始めたらどうか。

土岐会長

 部会では,たとえば標準語とは何かという定義づけから始まり,これで部会が進行した。

高 木

 今までの刷り物は見ていない。が,これを(審議資料〔総1〕)どうするかを考えてもらいたい。前のを読まなくてはわからないなら読んでくればいい。前のを読まないからわからないにしても,これからどうしたらよいかを考えたい。これは生のままだが,新しい問題としてどうまとめるか総会の意見として話合いできる。波多野委員の発言のように,これは総会にはかる必要なしとすればそうする。ここで同じような意見をくり返しているのはどうかと思う。たとえば,漢字の問題を一例とすれば,いろいろの意見が出たが,それは広い視野から出てきたものではない。これでは審議が進まない。前の刷り物はこの次までに読んでくるとして,新しい意見をどうまとめるか考えてほしい。はなやかな問題は,賛否両者を委員にして審議する。波多野委員の言われたように2本立てにしたら議事の進行がはかどると思う。

土岐会長

 (ただいま,3時10分だが,10分ほど休憩する。)
 その前に,さきほど,選んでいただいた結果,有光,颯田,原各委員にローマ字調査分科審議会に属する委員の選考の御相談をお願いする。


―3時45分 再開―

土岐会長

 休憩中に,会長・副会長に有光・颯田・原委員が加わり,ローマ字調査分科審議会に属する委員についての話合いをした。その結果は次の12名である。これらのかたがたについては,皆さんの意向をくんで,指名の手続をしたいと思う。まだ決定前だが,一応お耳に入れておく。しかし,これはあくまでも会長としての腹案にとどまるもので,必ずこのとおり指名されるというわけのものではないことを御承知おき願いたい。


有光,石井,遠藤,大塚,桑原,下村,田口,照井,中島,野間,波多野,吉田 各委員


 以上,12名のかたがたにお願いしたいと思っている。部会を作ることについては,具体的にどうまとめたらいいか。皆さんの中で,これこれこういう方面に意見もあるし,興味もあるからと進んで加わっていただくのもよい。今までは,御意向を推察して適当な部会に加わっていただいたのであるが,標準語の中には,話しことば・演劇・ラジオ・映画等に結びついたものを広く含めて考えていく。今までの経験だと部会が多すぎ,かけもちのためかなりご迷惑だったと思う。部会の数を少なくして,内容を広くし,やっているうちにいくつかに分けたほうがよいということになれば分れてもよいと思う。こういう方法をとってはどうか。

高 木

 いいと思う。

上 野

 わたくしはしんまいでよくわからないが,今までに決まっているものをもういちどふり返ってみる必要はないか。報告書では,方針が打ち出してないし,将来こんなふうにもっていくということもわからない。

土岐会長

 方針は決まっている。当用漢字を3倍〜10倍にしたいという意見があったが,国語教育の面からは,そんなことは考えられないという意見も出た。漢字の問題一つでさえ,当用漢字だけでは改善されないという見方がある。一方国語教育の振興の面で,その条件からはどうするかということがある。

上 野

 それを考えて,国としてどういう方針を決めてあるか。総会では,そういうことを討論して多数決で決めていく。今の当用漢字を増減するという技術上のことは部会でやる。

 ごもっともな意見であるが,大きな問題を総会で取り上げて決めるにしても,部会で,皆さんの委託を受けた人々によって研究したほうが,議事進行がうまくいくのではないか。漢字をふやすか減らすかは,決まったものではない。すべて総会の決議を経なければ公表できないものである。総会は部会へ委託すると考えたらどうか。大きな問題をじかに総会でやっても決まらないから,部会では判断の材料を提供するということである。

上 野

 方針の決定を委託するのか。

 ここではいくら議論してもわからない。判断の材料を提供することを委託することにおいて部会ができる。

上 野

 株式会社では,人員の2割を整理するという場合,整理することは取締役会で決め,具体的な案は部課長会議で決めている。

 会社と審議会とは違う。

大 住

 総会で何を取り上げてもいい。漢字をふやすことを条件にしてもいいし,ふやすことの可否を条件にしてもいい。総会としてふやす希望があるなら,取り上げて部会に委託すればいい。

有 光

 今まで,国語審議会で決めたことが,対外的に誤解されている面もあるので,当面している問題を今後はこうしなければならないということで国語白書が出た。今度は新しい委員も多いので今まで取り上げたもの,再検討すべきもの,残っているものなど国字国語問題についての題目を取り上げていく。そうすれば,出発点がそろっていくと思う。たとえば,漢字の問題だけでもこれだけの議論が出たのだと簡単に説明していただけると,今,国語審議会の置かれている立場を理解してもらえると思う。その結果,どの問題とどの問題を取り上げるかということになり,すぐに部会に委譲するということも考えられよう。総会で問題になりそうな題目を出してもらい,従来の経過を話し,皆さんの意見に添えてやってみたらどうか。

土岐会長

 けっきょく,審議する事項を大きく分けると,国語表記の問題として,公用文・法令用語・漢字かなづかい。標準語の問題として,ことば――マスコミュニケーションと結びつけて。国語教育の問題として教育面での扱い方。(ローマ字の問題は分科会で別に考える。)
 おおよそ以上の三つに分けてみて,これについて問題を考えていただく小委員会を作り,総会で審議する原案を作って,それを次の議題として取り上げていったうえで部会を作ってはどうか。

有 光

 従来の経過を説明しながら,今後の方針に結びつけていってはどうか。

時 枝

 国語教育だけを特別に出す必要はない。すべて教育と結びついている。

土岐会長

 教育面には教育課程のこともあるから,別に問題として考えられる。たとえば,ひらがな・かたかなは表記の問題でもあるが,国語教育の問題であって,教育課程審議会に関連していく。国語審議会がイニシァチブをとれない。ただ国語審議会としてはどう考えたらいいか考えておいていい。

時 枝

 逆に国語教育の面から,漢字・かなづかいを考えなくてはならない。

土岐会長

 国語教育の面から,漢字をふやせという意見が出たら表記の問題と教育の問題と向き合わせて考えていくのである。

舟 橋

 教育とは学校教育だけをいうのか。教育が学校教育だけなら,教育の比重が重すぎる。自分は広い意味の教育と考えていた。

土岐会長

 学校でも社会でも教育されなければならない。社会生活をするうえで,これをする前の学校教育である。学校教育・社会教育を含めて広い意味で取り上げられなくてはならない。

舟 橋

 広い意味なら,小説用語審議会もほしくなる。表記と標準語は同じ性質だが,教育は違う。小説まで教育にはいるなら,全部の構成メンバーがはいるから賛成だ。作家としての立場は小説も国語教育と肩を並べたい。

土岐会長

 学校で習い,社会として必要があることを身につけていくことを広い意味で教育という。

時 枝

 教育という概念を広くとれば,あらゆる面に教育はつながっている。前には,当用漢字は教育と結びつくといわれていたが,当用漢字の補正は,教育の面とは一応切り離されていると言われている。ここで審議するものは常に問題にされている問題である。新聞で使うのは別の問題だ。教育を念頭において審議していけばよい。

土岐会長

 当用漢字の再検討を,学校教育から切り離したのは,義務教育では,当用漢字全体としては未解決の問題である。

時 枝

 意見の相違である。

土岐会長

 三つの大きな問題に分けて考えてはどうか。

高 木

 三つに分けるということも,小委員会にはかったらどうか。意見を含めて,意見の中の細かいことも小委員会にはかったらどうか。

土岐会長

 修正意見のように思う。

遠 藤

 会長の言われた教育の面には問題があり,ここですぐ決めにくい。わたくしにものみこめない。のみこめないままで決めるよりも,小委員のかたがたの判断と会長の意見によって徹底させたほうがよい。小委員会でだいたいを決め,そのうえでさらに小さく決めたい。

土岐会長

 では3名連記で選んでいただきたい。票数の多いかたから順に5人のかたにお願いしたい。会長・副会長を除く。


――投 票――


(大塚委員出席,投票を辞退)

松 坂

 国語教育から切り離された問題で重要な問題がある。当用漢字の音訓は,学校教育で何を求めるか。送りがなも一定していない。小学校の上級生でもかたかなをよく知らない。学校教育が国語政策から切り離されていても,教育上の大きな問題である。これは三つの永久政策にうたわれたもので,ほうっておくのは怠慢だと思う。力こぶを入れて審議してほしい。

波多野

 教育部会の設立を希望する。国語は一般識字 universal literacy の根本方針を国語審議会で決定してほしい。わたくしは,教育課程審議会の「初等教育教育課程分科審議会会長」に指名されたが,教育課程審議会では,根本方針は立てることができない。ここで決めてもらえば,それに応じてやっていけると思う。そうした意味から,国語問題のfundamental education と literacy について決めていただきたい。

土岐会長

 前に学術用語分科審議会から問合せがあって,それに対して返事をしたが,あなたのほうからはどうか。連絡・問合せが出てくると,将来の結びつきも効果的と思うが。

波多野

 初等中等教育局の初等教育課と連絡してみたい。教育課程審議会は文部大臣の諮問に応じて開くことになっている。今は諮問事項がないから会は開いていない。

遠 藤

 かたかなの問題で,小学校1年から教えたほうがいいか。国語表記の中で考えていく…というのは今までやっていないか。

松 坂

 やっていない。

遠 藤

 表記にしても,標準語にしても,すべて教育に結びついている。表記部会ができれば,そこで教育の面も全部出していくのが,ほんとうの行き方ではないか。

松 坂

 国語教育の担当が違うので遠慮もあったのであろう。

小林局長

 かたかなを1年から始めることについては,国会で問題となっている。この問題は,国語審議会で論じていただいていい。中央教育審議会でも重要な問題として出ている。どちらがすぐれているかという優劣は別として,国語教育上の問題として国語の権威者が集まっているこの会で取り上げて決めていただいていい。この審議会の審議なしに決められるのは困る。

石 井

 会長の意見も了解したが,時枝委員の意見ももっともだと思う。この中に教育部会ができると,専門にそのほうへいってしまうから運営上困るだろう。たまたま問題になったが,かたかな・ひらがなの問題は文字の優劣だけでは決まらない。指導上の問題もある。大方針を考えるのはいいが,教育上の実施面で考えるのは別である。教育課程・指導の面でそれぞれやるべき面がある。
 教育部会が生れるのはありがたいが,運営上で懸念されるから善処してほしい。

西 本

 教育者が総会で一般論を論ずるよりも,部会で取り上げてじゅうぶん審議するほうがよい。

高 津

 国語審議会と教育面のことは,切り離して考えてはどうか。だいたいの方針を決めてから,学校教育にどう応用するかを決める部会を作ったらどうか。

土岐会長

 小委員会は,きょうの話合いを考えてどうやったらよいかいろいろな形で原案を出し,この次の総会でそれについて話合いを願ったうえで部会を作ることに決める。

有 光

 さきほどの松坂委員の意見だが,検討しなければならないものを,教育部会でしなければならないか,漢字部会でしなければならないか,やり方を議論する前に,問題点を確認しあってから,問題を扱う部門を考えたい。まず部会を作るよりも問題を見落さないよう項目を考えるほうが大事だ。同時に部会を作ることが浮んでくればそれでもいい。

土岐会長

 小委員会を作って,根本方針,部会の構成,議題いっさいを含めて小委員会にお任せいただくこととする。
 さきほどの投票の結果は次のとおりである。有光,颯田,時枝,原,舟橋,松坂(同点者があったので6人とする。)この6委員に,会長・副会長が加わり,小委員会を開く。

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