国語施策・日本語教育

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議事 審議

土岐会長

 では,総会を続ける。
 二つの部会の所属委員名を申し上げる。


第1部会:
池上,上野,大住,楓井,倉石,高津,佐藤(為),竹田,千種,時枝,殿木,中島,野間,服部,原,舟橋,前田(賢),前田(雄),松坂,丸野,吉川,吉田 各委員 以上22名


第2部会:
池田,石井,遠藤,大塚,河竹,酒井,颯田,佐藤(孝),渋沢,菅原,田口,田村,照井,中村,西本,野島,波多野,古谷各委員 以上18名

土岐会長

 なるべく早い適当な時期に,それぞれ第1回の部会を開いて部会長を決めていただく。

松 坂

 任期の2年は短い。総会の意思表示として任期の延長のことを当局にお願いしたい。わたくしは6年説を考えている。

小林局長

 文部省には現在,20近くの審議会があるが,いずれも通例任期は2年である。国語審議会の特性として長くすることも考えられないこともないが,他の審議会との均衡もあり,この審議会だけ任期を延ばすことは困難ではないかと思う。

土岐会長

 推薦協議会で構成を考え,必要に応じて任期を考慮するという方法で,規則変更の困難を補うことも考えられる。

吉 川

 ただいまの指名で,わたくしは第1部会にはいった。前に舟橋委員から当用漢字の数を3倍にしてほしいという意見が総会であったが,それに対して菅原委員から10倍説が出た。菅原委員は第2部会だから,本日,10倍説についての意見をお聞きしておきたい。

菅 原

 わたくしが10倍といったのは,ニュアンスで現在ある数に10を掛けるという意味ではない。舟橋委員の3倍といったのは,平素の同氏の意見と違って遠慮しているから,ふだんの考えを出してほしいと思って言ったのである。小説家は,この漢字の問題で困っている。著作権侵害ではないかという考えの人もいる。根本的な問題は制限のしかたにあるのではないか。

時 枝

 当用漢字の問題で前から主張しているが,当用漢字の性格があいまいだ。これは一つのわくである。わくの中で,いっさいをまかなうのが根本的な性格であろうが、このわくに問題があると思う。わくの性格をはっきりさせることが必要である。わくは漢字の必要性の最少限度のものであって、他の漢字を拒否するものではないという性格をもたせたい。たとえ3倍にしても10倍にしても問題はある。漢字を制限するのではなく,整理するという方向で検討したらどうか。

波多野

 わたくしは,女子の大学に関係しているが,学生に当用漢字で書かれた小説・俳句を読ませても読めない。わたくしの学校の学生は,10人から15人にひとりぐらいで選ばれた優秀な者であるが,それでいて読めない。現在以上に漢字をふやせばもっと読めないだろう。ふやすなら,どうしたら学習できるか,完全に習得できる方法を考え,学習とあわせて漢字の方策をやってほしい。

楓 井

 現代かなづかいは制定以来8年経過し,一部の人を除いては新聞・雑誌その他で広く実行している。
 しかし,「じ・ぢ」「ず・づ」の通則はよいとして,2語の連濁・連呼はもとのままで,どちらを書いてよいかわからない。
 かんづめ,さしずめ,さしづめ(しょうぎ),力ずく,手なずける,おのずから,…ずくめ,…づくし,もとづく,気づく,きずく(築),よこづな,なかんずく,夕づく,ゆうずう,じしん(は「じ」),ちきゅう(は「ち」),ものをいう(言),かみをゆう(結),むつかしい,むずかしい
 「は・ひ・ふ・へ・ほ」は語頭以外は「わ・い・う・え・お」となるのが普通であるが,
ほほ――ほお,ほほえみ――ほおえみ などに悩まされる。
 以上のような不統一を検討して,だれにも納得のいくように研究修正してほしい。

遠 藤

 小・中学校の教育の現場で,先生がたが困る点は,は行音の使い方である。
 とおり―とうり,おおさか―おうさか など。
 現場と直結して,現場で困っている問題を反映させて研究審議してほしい。先生がたにも,現代かなづかいの精神と理論がよくわかっていない。現代かなづかいの表記法について考えてほしい。

松 坂

 さきほど菅原委員が著作権侵害…をいわれたが,そういう人のあることは聞いているが,それは誤解である。その問題は,新聞社と作家との相対ずくのもので,国語審議会でも,政府でもそういうさしずはしていない。義務づけられているのは,法律・公用文だけである。社会一般に対しては,協力を求めているだけである。教育では義務教育で教えられる限度で教えているのである。当用漢字によって教育を制限したのではない。

野 島

 教育の現場で国語の授業をみて感じるのだが,中学校あたりでも漢字が読めないことである。読むことだけに追われて文を鑑賞し要旨をつかむことができない。生徒・児童が当用漢字を読みこなせないという実情である。成人して社会人となった場合,新聞・雑誌を読む習慣をつけたり,本を読むことに興味をもったりさせるためには,読めなくてはならない。従来の漢字の指導法にもよるが,現在の当用漢字でも相当困難である。どういうふうに整理するかも,このような事情を参考にして,じゅうぶん資料を集めて研究してほしい。かなづかいの問題も漢字を含めて,だれにもわかるすっきりした形のものにしてほしい。

佐藤(為)

 わたくしは読売新聞社で,毎年新入社員の採用試験の答案を見ているが,漢字に対する知識が低下していることがわかる。各大学の国文出の受験者約100人について漢字の読み方の成績を調べたところ,次のような結果が出た。
 (漢字は当用漢字の範囲でやっているが,表外の字でも普通に使われているものは含んでいる。パーセントは読めなかった人数を示す。)

肥沃 17%,旗幟 87%,糜爛 60%,無垢 13%,茅屋 84%,
首魁 37%,歪曲 46%,滲透 6%,奢侈 40%,藉口 90%,

 なお,かなづかいについては,大学卒業者でもほとんど知っていない。今の学校ではどういうふうに教えているかお聞きしたい。

野 島

 教えてはいるが練習の機会が少ない。

時 枝

 読めるようになってほしいというのか,漢字を減らせというのか。

佐藤(為)

 いたずらに漢字をふやすより,全部の人が読めるようにしなくてはいけない。社としては,新聞記者として必要な文字をテストした。

時 枝

 読めるようにするには,教育でやっていかなければならない。社会生活で必要があるものは,なんとかして教えなければならない。

田 口

 ただいまの佐藤・時枝両委員の意見を伺って,証明法の問題から当用漢字のわく内とわく外との両方の近接パーセントをとって,わく外のパーセントがきわめて低いときは妥当となる。近接わく内外の調査をして比較してやってみたい。

佐藤(為)

 これは結論ではない。結論にいたる一つの過程として示したのである。部会で,教育関係のかたの意見をお聞きしたい。

遠 藤

 現在は,書けない,読めないについてのどん底であろう。これから,上向きになるのではないか。

吉 川

 漢字には,ふりがなをどの程度用いるか。こどもの書物についても,もっとふりがなを採用したい。

白石課長

 当用漢字表制定の趣旨からは,ふりがなを用いないというたてまえである。

大 塚

 ふりがなは用いたほうがよいと思う。理科の教科書で,はじめは通則にはずれた漢字に初出のものだけふりがなをつけたが,今では初出のものだけでなく,何回でもつけることにしている。
 字体の整理について,もっと違った形で考えたい。写真の電送のように点で文字を表している場合,どこまで簡略にしてまちがえずに読めるかということで研究したい。文字の目的からいって,既成の字をもとにせず,全部の人がやさしく使えるようにしたい。同じ量に対してインフォーメーションの数を増すことが必要である。

時 枝

 それは表現の問題である。わかりやすいか,わかりにくいかを考える必要がある。センテンスの組立がルーズで無関心である。

遠 藤

 第2部会で発言したいと思っていたが,作文など何を書いているかわからないのがある。これは単語の問題ではない。卒業論文などに対して何を書いているかを口頭試問するしまつである。中学・高等学校の生徒は,人にわかるようなものの言い方,書き方ができなくなってきている。これは漫画やスポーツ欄の弊害もあるのだろう。語いの問題だけではなく,文章全体について考えてほしい。

土岐会長

 いろいろお話が出て,審議の方向や方針がはっきりしてきたと思う。これは第3期の大きな展開と考えられる。では,これで散会する。

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