国語施策・日本語教育

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議事 かなの教え方について

土岐会長

 それでは議事を続ける。
 まず,「かなの教え方について」であるが,これは重大な問題である。どういうわけで,これが本日の議事にのぼったかといえば,かねてお配りしてある資料のとおり,昨年12月20日,中央教育審議会会長から文部大臣にあてた答申によるのである。

かなの教え方についての答申
(昭和29.12.20 中央教育審議会会長から文部大臣あて)


 本審議会は,かなの教え方について,総会において慎重に審議した結果,次の結論に到達しましたので,答申いたします。


 小学校児童に,ひらがなから教えることについては,現場の教育者および学者,一般社会人の間にも,相当異論のあるところであるから,文部省は,国語審議会ならびに教育課程審議会に付議して,その取扱を慎重に研究せられたい。


 そこで,文部省から今年2月4日,国語審議会会長あてに,次のような連絡があった。


かなの教え方について
(昭和30.2.4 文部大臣から国語審議会会長あて)


 さる昭和29年12月20日,中央教育審議会会長から別紙のとおり「かなの教え方についての答申」がありました。つきましては,この問題について,貴審議会におかれましてよろしく御審議くださいますようお願いいたします。


 この指示に従って,本日の総会で審議することをおはかりする。これについていろいろの事情をじゅうぶん御承知のかたもあるとは思うが,お考えいただく材料をここで申し上げておいたほうがよいかと思う。
 現在は,小学校でひらがなから先に教えているが,これは戦後からである。戦前は,かたかなを先に教えていたが,こうなった事情については,配布した参考資料「現行教科書のひらがな先習になった事情」に,だいたいの経過が示されてある。
 昭和28年3月5日,参議院文部委員会で山本有三氏が質問の形で,学習の点から考えて,かたかなが先のほうがいいのではないかと述べ,かたかな・ひらがなの歴史の沿革のようなことを述べている。これが政治的に現れたものの一つである。また,配布した「ひらがな万能では困る」以下の新聞の切り抜き等の載ったパンフレット,明治37年3月,元良・松本両博士の研究として発表された「片仮名平仮名読ミ書キノ難易ニ関スル実験報告」(大意)がある。
 この心理学者の側の発表は,かたかながよいという結論になっている。この結論だけで学習の難易を考えれば,かたかながよいということになる。しかし,戦後は現実的な文字生活から考えてひらがなから教えることになったので,必ずしもかたかなの学習の難易から理由づけられるかどうかは,ここで審議を願わなければならない点である。さきほど文部大臣から,かたかながいいか,ひらがながいいかというお話があったが,中央教育審議会答申の「ひらがなから教えることについて異論がある。」ということを,ひらがなから教えることをやめて,すべてかたかなにすべきだと解釈するのは性急であろうと思う。
 これは,他の文字組織を考えてもいいとも言えるのである。このことを具体的に考えると,ひらがな・かたかなの学習の問題のほかに第3番目の考え方がある。現在の日本のことばには,ひらがな・かたかなのいずれかで書くことばがある。ミルク・キャラメル・パンのような外来語,外国語的なもの(外国の地名・人名を含めて)が,かたかなで書かれているのが社会的現実である。これらをかたかなで書くのは社会的現実であるから,同時に習ってもいいのではないかという考え方もあろう。つまり,ひらがな・かたかなを国語教育の現実の面から併用して,正字法(オーソグラフィー)として考える。
 さらに,もっと広げて考えれば,ひらがな先習でもなく,かたかな先習でもなく,ローマ字から教えてはどうかという解釈もなりたつのではないか。つまりもう一つの文字組織であるところのローマ字もはいりうると考えることもできると思うが,今はそこまで考えるべき議題ではない。
 カナモジカイのパンフレットもあるが,東京都公立小学校長国語教育研究会などの意見書では,「ひらがなから先に指導しているが,学習上の児童の能力の発達から考えて適当である。現場の文字生活の実態や,社会の現実についてじゅうぶん検討した上で審議してほしい。そうでないと,ひじょうな混乱をきたす。」といっている。
 第3の考え方としてさきに述べたような,正字法として,ひらがな・かたかなを同時に教えることについては,実験学校をおいて調査しているが,まだ結論は出されていない。
 以上申し上げたことを参考として,この問題についてお考えを願いたい。そこでこの問題をまず議題として皆さんの御意見を伺うべきであるが,これについては意見が多く出ると思うから,本日はしばらくあとに回し,各部会・分科会の中間報告を先にしたいと思うが,おはかりする。
(異議なし)

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