国語施策・日本語教育

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議事 質問,意見等

土岐会長

 今までの,各部会・分科会の報告に対して質問はないか。
 まず,第1部会の現代かなづかいの問題について意見を聞きたい。その前に,さきほど文部大臣からお話があった「かなの教え方」についての問題は,相当いろいろな問題が出ることと思われる。本日ここで御意見を伺うのは,時間的にも無理なので,御迷惑でも,近いうちにもういちど総会を開いて意見を伺うことをおはかりする。 (異議なし)
 では,3月16日(水)に,「かなの教え方」の問題について総会を開くことにする。
 続いて,現代かなづかいの問題の取扱について,さきほどの部会長の報告で明らかであるが,現行のものでやるか。根本的改革をするかの二つについて伺いたい。


時 枝

 今の二つの方向に対して意見を述べる。さきほどの部会長の意見には理由が示されていない。わたくしの率直な意見を申せば,現行のものでも行き過ぎていると思う。できることなら,白紙にもどして検討し直してほしい。わたくしの根本的な考え方は,ことばは習慣によって機能を達成するものである。この場合たいせつなものは文字言語である。新しい字体ができたために,同じ字に二つの書き方が出ている。これで簡易化されたかどうか疑わしい。文字が動揺していてはいけない。かなづかいの場合もそうである。言語の習慣を変えないで整理するならばいい。現行のものは,いろいろ問題がある。そのいちばん大きなものは,現代かなづかいはしっかりした基準がないということである。あることばについては,文部省に聞いても答えられないものもある。それらをほったらかしておいて,今いじることはかえって混乱を招く。現行のものについてしっかりした基準を示す方向にもっていってほしい。

土岐会長

 現状に即して,徹底化を計るということ,現在あるかなづかいの存在を認めて,どう学習させていくか迷わずにやっていくということであるか。

時 枝

 単なる普及徹底ではない。

土岐会長

 現状維持であるし,根本的改革ともとれる。

時 枝

 たとえば,「おおさか」「おうさか」など,どちらを書いてよいかわからない。これをどういう立場ではっきりさせるかということがたいせつである。

田 口

 ことばを整理するときの主目的はコミュニケーションを容易に,能率的にするためであるというよりほかに何もないのではないかと思う。
 「し・す」「ち・つ」の濁りについては,新しい字を作ることを許してもいいと思う。「は・へ・を」についても別の字を使ってはどうか。一つの文字が二つ以上の音をもつのは,根本的に進化していないからと考える。そういう道が開かれればすっきりする。その場合,ローマ字の書き方を参考にして考えてはどうか。ローマ字では「オーサカ」の場合,oの長音としてouを使わない。最終の目的を決めてほしい。

土岐会長

 この問題についての意見・質問に対する答は,ここで部会長を中心にしてもらうようにしたい。

松 坂

 この問題については,わたくしが火付け役の感があるので申し上げる。

  1.  現代かなづかいとローマ字とを関連して考えるとき,一つの国語を国語審議会が,現代かなづかいと,ローマ字とで別々の立場で音理論を立てることは困る。これを,どちらかに近づけるようにしなくてはならない。以前,ローマ字のつづり方のときにも修正案を出したこともあるが,採用されなかったために,国語審議会の負担になっている。
  2.  現代かなづかいは,終戦直後のいろいろな状況から早く決めた。旧かなづかいから移るにはある程度の妥協がなければ実施できないから現行のような形で決まったが,実施後10年たったので,改めてもいいという時期に来ているのではないか。これは当用漢字補正案と同じような取扱をして,まず,改正案を発表して国民の批判を求めるようにしてはどうか。

石 井

 学校教育では,小学校の3〜4年の児童のノートについて,先生が「は・へ・を」をいっしょうけんめいに直している。「を」は抵抗が多いとすれば,「は・へ」だけでも改訂されれば,こどもも,先生も楽になり,教育の能率は上がると思う。以上事実を申し上げる。

 わたくしは,この問題について,総会で審議の方針を決めていただくことんを希望する。根本的改訂をしろとか,現行のものでやれとか総会で指示を与えてくださればありがたい。技術的なことは第1部会に任せてほしい。総会では大方針を決めてもらえばいい。総会としての意思表示をしてほしい。

田 口

 「は」を二つに読むことに,こどもは疑問をもつ。ことばは自然法則ではなく約束である。
 別の字を作るのは数がふえるから,特殊の字を使わないで,「へ」を「え」とするか,日本語のかな書きのつけはなし,句読点まで考える。現状について理解できるようにすることを決めてもらいたい。

金田一副会長

 現代かなづかいの方針が徹底すれば,問題にはならない。
 発音に近づけることは理想であるが,あまり理想案に直進すると実行はできないのではないか。現行のものは,おとなでも,これならば実行可能という程度で妥協したため,原則としては「は・へ」と書くとしたのであるこの原則とするということから見れば,こどもが「は」を「わ」と書いても許容されることで,いちいちやかましく直さなくてもいいことになる。現代かなづかいの原案は「わ」「え」であったが,そうすると,今までと字面があまり違いすぎ,目からの抵抗が大きいから,「へ」「は」と書いてもよいという許容案であったのを,新聞方面から,逆に「は」「へ」を原則として,他を許容する案にしてくれ,そうすれば明日からでも実行できるという意見が出た。そういういきさつから,現行のような形で決まったのである。これから言えば,こどもが発音どおり「わ・え」と書いても,見送っておいていいはずである。さきほど,時枝委員のお話に,現代かなづかいははっきりした基準がないと言われたが,原則には,現代語音に基くとはっきり書かれている。「キョウ」の発音は,今日では「きよう」「きやう」「けう」「けふ」の区別はなくなっているから発音どおり「きょう」と書く。これが鉄則となっている。「はひふへ」と「わいうえ」の関係も同様である。
 奈良時代には13の特殊かなづかいがあったが,平安時代には,すでに区別がなくなっていた。紫式部や源順でさえも,あ行とや行の「エ」などの区別を知らなかった。発音の区別がなくなったものを区別せず,口に合わせて書いたから,あれほどの平安朝文学ができたのである。
 現代かなづかいは,これに範をとっていけばいい。しかし,おとなは,旧かなづかいに慣れているから抵抗を感じるだけである。
 「お」の長音なども,文部省の方針は一応決まっている。どれ一つとして原則で押しきれないものはないと思う。

時 枝

 現代語音に基づくといえば,「は・へ」は「わ・え」とならなければならない。

金田一副会長

 それは実行できる程度に妥協したのである。

時 枝

 もう7〜8年たったのだから,理論的にも一歩進めなければいけないのではないか。「ち・つ」の濁音はどうして「じ・ず」にしないのか。

金田一副会長

 「は・へ」は「わ・え」と書いても黙認している。一応原則はあるが,何事にも例外はある。

石 井

 「は・へ」をこどもが「わ・え」に書くことを許容しても,教科書には「は・へ」となっている。もう一歩進めて教科書を直してほしい。

金田一副会長

 新聞方面では,まだ時期が早いといっている。

 さきほどから申し上げているように,わたくしは,現行のものを認めて不便な点を直すか,または,根本的改革をするかの二つのうちどちらかをはっきり決めてもらいたい。

中 島

 こういう議論を続けていても,部会と同じことになる。現行のものを認めて不備な点を直すこと,田口委員の意見のように新字を作ること,「は・へ」を「わ・え」にするというような根本的改訂の論が出ている。
 わたくしの持論は,言語は生き物であるから用字法も慣習を重んじなくてはならない。新聞などで「は」がおかしければ,「わ」が多く出るはずである。最近は,自分だけは「わ」を書くという人もある。こどもにしてもそうである。使う人の数が多くなれば政策の基礎ができてくる。いきなり規則を変えることは無理である。
 現行のものの不備な点を整理するということが実際的ではないか。「わ」を書くものが多くなったときに,根本的改革になるのであって,実際問題として,今変えることは社会生活上困る。変えるにしても10年ではまだ早すぎる。現代かなづかいはマスコミュニケーションで行われている現行のものを認めて,不備な点を整備していく。ただ,刺激のために改革案を示すことはいいと思う。教科書で「は」を「わ」にすることはできても抵抗が多いだろう。現状維持のためにも急進的な意見には反対である。

土岐会長

 現状を検討して,もっともよく使われる形にして,不合理なものをなくし実行しやすいものにするというように,現実と妥協してゆくのが穏当であると了解していいか。

  (1) 現行のものを全般的に認める。不合理な点を直して実行しやすいようになる。(2) 全面的改革はしない。(3) 細かい審議は部会でするということでいいか。

千 種

 部会で心配していることは,部会で変えると決定しても総会で否決されればそれまでであるということではないか。しかし,総会でこれを変えろという決議をせよというのは困る。部会で審議もしていないものに対して,総会が決めてしまうことになる。部会で審議する前に総会で審議してもいいが,部会で審議の結果どうなるかわからないものを総会で決定することはどうであろうか。

中 島

 「じ・ぢ」「ず・づ」などを変えることは,改革になるのか,整理になるのか。

 「じ・ぢ」「ず・づ」などについては,ことばことばで使い方が決まっているから,これを一本にするということは根本的改革になる。なお,部会で審議する方向について決めてほしい。現行維持でやれといっても問題はあるし,根本的改革にしても問題はある。このどちらかを総会で決めても部会の仕事はなくならない。細かい点についてではない。

有光分科会長

 現状維持で趣旨を徹底さすか,根本的改訂をするかについて,多少の整理はこのうちのどちらにはいるのか。

 この二つの場合以外がありうるかを部会で考えたが,事実問題としてはあまりあるまいと思う。現在の部会の意見は対立している。出席委員のうちでは改訂意見のほうが多い。しかし,数の多少で決められない問題なので総会にはかるのである。

中 島

 改訂しても社会生活のうえで気のつかないものもあるし,助詞「は・へ」のように大きく響くものもある。現状をあくまで維持するのには問題があるから,さしあたり,社会生活上影響の少ない部分は変えてもいいのではないか。

 さしあたり,やれるのは,同音の連呼における「ち・つ」の濁りのようなものについての場合,改訂といえば改訂といえる程度で可能ではなかろうか。

時 枝

 現代かなづかいは現代語音に基いて書くというのも理論であり,抵抗に対して処するというのも理論である。抵抗に従っていくという根本のプリンシプルに,現代語音に基いてやるということを補足して賛成する。

松 坂

 部会では,現行のものを直さないで整理することと,将来はこうしたほうがいいという改訂案を示すという二つのことをやるようにしてほしい。

緒 方

 部会の決定を総会でひっくり返されるのは困るが,部会は少数で意見をまとめるというたてまえと思うので,今まで出た意見をお含みのうえ,総会でのだいたいの方向をつかんでいただいたうえで,部会の審議をやってもらいたい。
 部会長も本日の総会の空気はお察しのことと思う。これまでの議論はどれもむだにならずに生きている。よろしくお任せしたい。

土岐会長

 現代かなづかいの問題はだいたいこれで終りとし,ローマ字の問題,第2部会について御質問があれば伺いたい。 (なし)
 なお,「かなの教え方について」の問題は,この次の3月16日の総会ですることにする。そのとき時間があれば,本日残った問題についても御意見を伺いたい。
 では,本日はこれで散会する。

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