国語施策・日本語教育

HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第3期国語審議会 > 第29回総会 > 議事

議事 第1部会

土岐会長

 では,議事にはいる。まず,第1部会から報告を願う。

原(第1部会長)

 第1部会は表記に関する部会で,昭和29年12月に発足し,今日までに15回の会議を開いた。そこで,何を審議するかについて研究した結果,比較的簡単にかたづくものから手をつけようということになり,まず,現代かなづかいの問題を取り上げることにした。しかし,実際手をつけてみたら,実は,なかなか簡単ではなかったのである。現代かなづかいについて,部会では,(1)現行のものの適用上の疑問点について,それぞれの語例を示せばよいという現状維持説と,(2)現行のものは歴史的かなづかいが残存し,現代語音に基くという趣旨が徹底していない部分があるからこれを改訂すべきであるという改訂説の二つに分れ,これが最後まで対立した。改訂説の中にも,全面的改訂の意見もあれば,一部分の改訂で事たりるという意見もある。だいたいの空気としては改訂説のほうが多いようであったが,一方,国語審議会が今これを改めることは時機が早すぎるという慎重論も相当強かった。
 そこで,これらのことを,本年3月の第24回総会に中間報告して,総会の意向をただしたのである。総会でもあまりはっきりした意見は得られなかったが,現状維持説が多少強かったようで,なお,告示の一部分を改訂するぐらいのことはやむをえないだろうというような印象を受けた。その後,部会を開くこと8回,総会の意に沿って,現代かなづかい適用上の不明確な点について,一語一語について審議した結果,別紙「現代かなづかいの適用について」〔総29-1〕を決定したのである。
 この案は,四つの部分から成り,まず(1)は,現代のかなづかいの中で最もむずかしいと言われる2語の連合によって生じた,「ぢ・づ」を「ぢ・づ」と書く場合である。2語の連合といっても,実際には人によってその認定の一致しないものがあり,しかも漢字に影響されるところが大きいのである。今までは,告示にあげてある語例が少なかったので,「ぢ・じ」「ず・づ」いずれにしてよいか迷うものもあったのであるが,そうしたものは早く判断のつくように決めた。これからは,この少数の例外を記憶すれば,あとはたいがい「ぢ・づ」と書けばよいのである。これまで「づ」と書いたもので,今回「ず」と書くようになったものは,「かたずく」「くちずて」「ことずて」「ひとずて」「たずな」などである。「かたずく」は「もとづく」と比較して,多少問題がありそうだが,「もとづく」のほうは告示の中に出てくるので,そのままにして,一応「かたずく」だけを「ず」と書くことにした。なお,これまで「ず」と書いていたのを,今度は「づ」と書くようにしたものは一つもない。
 次に,(2)は同音の連呼によって生じる「ぢ・づ」の場合である。これについては,筋が通らないから,「じ・ず」にしたらどうか,少なくともこの程度の改訂はよいだろうという意見もあったが,この改訂は告示を改正しなければならないので一応現状のまま見送ることにした。
 (3)は,旧かなづかいがで,に発音されるものは,と書く語例のうち,長音とまぎらわしいものである。「塩」「顔」などは「しお」「かお」と書いて問題はないが,「大きい」「遠い」は「おおきい」「とおい」と書き、「王様」「峠」は「おうさま」「とうげ」と書かなければならないのは困難とされている。しかしながら,「お」と書く語例は少数なので,これを全部記憶すれば,あとは「お」と書けばよいのである。ここにあげた語例で「お」と書くもののほとんどを尽している。
 (4)は,助詞は,と書かないで,と書くことを本則とするが,「あるい」「もしく」などは,どう書くかということである。これもこれまでどおり一様にを用いることにした。
 以上は,別紙の説明であったが,要するに現代かなづかいの適用上,まぎらわしい点を一語一語解決し,1〜2の語を除いては,大部分これまで主として行われていた書き方を確認したのであるが,結果から見て,何もやらなかったというようなことになったとも言えよう。これによって,現代かなづかいがいっそう円滑に使用されることを期待する。今回は,いろいろな事情を考えて,現代かなづかいの告示を改めない範囲で,適用上の疑点を解決することに努めたが,なにぶんにも,現代かなづかいは,成立当時の事情によって,歴史的かなづかいとの対比の上に組み立てられ,部分的に旧かなづかいの残存した箇所もあり,これらは成立当時においてはやむをえない処置であったが,今日では,現代語音に基いて,これらに整理を加える必要があると考えられる。これは審議中にもしばしばくり返された。しかし,これに対しても部会の中には反対の少数意見もあり,少数意見ではあるが,なかなか強いものであったし,また,逆に全面的に改訂するという強い意見もあった。で,なお,世論を聞き,各方面に与える影響を考えると同時に,学術的調査研究をも行って,慎重に検討しなければならない大きな問題である。部会は,総会でこの問題の解決が考慮されるよう希望するものである。この成績について,第1部会はよくやったと認めていただきたい。以上で第1部会の審議報告を終る。

トップページへ

ページトップへ