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議事 正書法について(3)
吉 田
逆に,「ヒッパリ強サ」というときは「引張り強さ」と書かなくてはいけないということになる。
大 塚
送りがなの問題が含まれるのはそういう意味である。発音と意味との1対1の対応,むずかしいが一つの決まりを作っていこうというのが日本のオーソグラフィーと考える。
土岐会長
「引張り強さ」は「ヒキハリ強サ」とも読めるが,語との対応で「ヒッパリツヨサ」と読むのだと決めるわけであろう。
金田一副会長
そういう語をそういう字で書くといってもいいのではないか。
大 塚
語には必ず音があり,「ヒキハリ」では別の語であるといっていい。
時 枝
アメリカの chicago は,「シカゴ」「チカゴ」と音が動いている。「シカゴ」が標準的だと決めることとは別ではないか。あの土地をどう書き表わすかということが正書法ではないか。
大 塚
わたくしはそうはとっていない。「chi」が「チ」と「シ」に対応すると認めるのが正書法であると考える。オーソグラフィーによって「シカゴ」と読むのである。意味と文字を対応させるだけが正書法ではない。
時 枝
漢字の場合はどうか。山は「ヤマ」とも「サン」とも読める。
大 塚
「東」は「トウ」「ヒガシ」と対応すると考える。それがオーソグラフィーである。
池 田
「にほん」か「にっぽん」か決めなくてはいけないか。
大 塚
両方ともあると決めればよい。
池 田
「ハイ」「ハエ」の場合は。
大 塚
決まらないかもしれないが,決めていけばいいと思う。英語でも,「i」を「アイ」「イ」と読む。
石 井
正書法と表記法と,いろいろいわれているが,当用漢字の音訓の整理が必要である。送りがなが,普通には「終る」,小学校では「終わる」と二とおり使われている。「おわる」ということばを写すときは,「終る」と書き,「おえる」というときは,かながきにするというようなことが決められるといい。「取り締り」「取締役」,「受付」「受け付ける」なども,こどもの心理の上からは,「取り締り役」「受け付け」のようにやるというものもあるが,これらも書き表わし方が決まっていれば問題がなくなるのではないか。
土岐会長
このへんで国語研究所の意見を聞かせてもらってはどうか。
西尾所長
取り立てて申し上げることはないが,仕事をしている目標は,この問題と関係があると思う。現代語の調査研究事項としては,話しことば・書き言葉・地方言語の語い調査をやっている。語いの実態を調査し,基本語いが明らかになってから言語能力の発達とあわせて,規範的なものを決めて現代標準語辞典に到達しようとしている。その際,どう書き表わすことが標準的かということも自然出てくると思う。国語審議会でやっていることと結びついてくる。国語審議会でやっている標準表記法をたてるためにやっているのと同じ方向の仕事をしていると考える。今伺ったことは,わたくしどもの仕事のうえに参考になった。標準表記法が考えられることによって話しことばの標準も確立していくと思われる。わたくしのほうからお役にたつものはさしあげたいと思っている。
時 枝
ことばの「ゆれ」の調査をしたということであるが,文字の「ゆれ」は調査していないか。
岩淵部長
総合雑誌などについて,語い調査をし,語の「ゆれ」のひん度数を出した。自然いろんな表記法が出てくると思う。
高 津
オーソグラフィーなら一定しなければ成り立たない。ことばを三とおりも四とおりも書き表わせるようなものなら,ほんとうの意味のオーソグラフィーとはいえない。漢字とかなの場合は厳密にはオーソグラフィーは考えられない。現代の語いが全部集まってからのほうがやりよいと思う。たくさんの資料があって漢字とかなのコンビネーション,送りがなを整備すればひとりでに出てくると考える。
土岐会長
資料はどの程度必要か。
高 津
相当数集まったときに,当用漢字も検討し直す。辞書を作って,あらゆる場を示す必要がある。分析してみて矛盾せず一定していればよいと考える。
時 枝
一定したものというのは,何か正しさを見ているのではないか。その決定のため研究調査をして一定しなければならないというのだろう。
土岐会長
妥当な,ということでいいのではないか。
時 枝
正しいということが問題になる。
楓 井
漢字・かな・送りがなの問題は,基準がないために現場ではいちばん迷うもとである。送りがなにしても,教科書・公用文・新聞とあらゆるもので不統一である。どうしたら統一されるだろうか。統一されることは希望しているが,どうしたら実際に行われるだろうか。一つの基準さえあればそれに従ってゆける。漢字かなまじりになると表記がばらばらになってしまう。これらを統一するためにも,まず正書法で送りがななどの基準を決めてもらいたい。現在は当用漢字で縛られているので無理が出ている。