国語施策・日本語教育

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議事 正書法について(1)

土岐会長

 ただいまから第31回総会を開催する。
 この前の総会で正書法についての小委員会ができ,その第1回を3月1日に開いた。小委員会委員14人のうち3人欠席,11人のかたがたにわたくしが加わって12人で話合いをした。当日の話合いの内容をまとめて報告する。
 なお,報告のうち,御理解のいかない点,不足の点があったら,当日出席された委員がたに補足していただくこととする。お手もとに資料として「語音について」をさしあげたから,参考にしていただきたい。
 3月1日の小委員会では,舟橋委員が所用のため中途退席の予定であったから,最初にその意見を述べられた。それによると,当用漢字・現代かなづかいにしても学問的裏づけがないままに,不安定な時期に制定されたものであるから,まず,そういうものをはっきりさせるべきで,あやふやなまま正書法を取り上げることはやめてもっと堅実な方向にいきたいということであった。これに対しては,むしろこの際,正書法を考えることによって,はっきりしたものが打ち立てられるという意見が出て,けっきょく,正書法について考えていくことになった。
 正書法は,オーソグラフィーの訳であるが,「正」は,正邪の「正」という意味の印象を与えるから,「語の表記」ということで話を進め,改めて,正書法ということを定義づければそれでもよいということになった。最後的に「正書法」と確定したのではないから,その点は,きょうお考えいただきたい。
 また,現在,教育の現場では,当用漢字・現代かなづかいで教育が行われているが,これらを検討することによって,当用漢字や現代かなづかいが変るのではないかという不安を与えるという意見があり,また,これに対して,教育の現場でも,現在,当用漢字・現代かなづかいに対して矛盾を感じているから,そのことを考えて,社会的に大きなショックを与えないような方法で正書法を考えていくのがいいという意見があった。
 正書法ということばについては,「標準表記法」ではどうかということであったが,「標準」という語に問題があり,「国語の合理的な表記法」ではどうかということになった。しかし,「合理的な」という語もしばらく避けることとして,一応「国語の表記法」ということで考えていくことになった。国語の表記法といっても,その現実に立って処理するわけで,つまり漢字・かなまじり(ひらがな)を考えると同時に,かたかなの位置を考える。したがって,かなばかりで書くことやローマ字などはさしあたり別の問題とすることになった。フォニームの問題は,それを考えなければならなくなった場合,触れることがあろうが,そのために文字組織を変えることなどを予想することは避けることにしたのである。次に,表記の「ゆれ」については,現在,国語研究所でも,調査が進められている。「ゆれ」は,その一つを採って基準とすることが正書法のゆき方であると考える。また,語の表記,文の表記の二方面があるが,ここでは,語の表記にかぎって考えていく。送りがなは考える。符号のようなものは考えない。すなわち,漢字・かなづかい・送りがなについて考えていく。ところで,現代かなづかいは「現代語音にもとづいて,現代語をかなで書き表わす」ということであるが,その語音ということをどういうふうに考えたか,語音にどういう意味をもたせてあるか。その点から「語音」の意味を調べてみると,三とおりのことばが一つになって表わされている。(資料「語音」について)すなわち,語音とは音韻と同じ意味に使ったもので音韻意識とも言われた。国語学的にはそれでわかるが,一般には発音そのままのことのように誤解する向きがある。現代かなづかいについての非難も,認識のずれもそこから来ているとみられる。語音とは語を背景にした音韻であると解すれば,そこに語意識というものが出てくる。「連濁」「連呼」「オ列長音」「てには」を考えるのに語意識で考えれば,現代かなづかいをオーソグラフィーとして考えることができる。
 それから,資料の問題であるが,資料はできるだけ多くなくてはいけないが,資料を集めることと,原則を考えていくことは並行してやっていけるものと考えられた。現実の上に立って理想的なものを考え,原則を立てて基準を作る。この基準は,縛るというようなものでなく,妥当の線を示すものである。
 また,これらと第1部会の審議との関係は,第1部会は第1部会独自の立場で別個に進めていく。小委員会では,正書法として考えていき,第1部会の審議とはあとで調整していこうということである。
 以上が小委員会でまとまった意見であるが,きょうの総会での御意見を合わせて,さらに小委員会でまとめていきたいと考えている。そうすることによって,明治以来の国語・国字の改革のうえで,表記の総まとめの基本的なものが出るのではないかと考える。この報告について,当日出席された委員のかたに,訂正なり補足なりしていただきたい。

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