国語施策・日本語教育

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議事 正書法について(5)

土岐会長

 今の正書法で原則を立てるのは,語表記であって,文表記は次の段階になる。同時にやることも考えられるが,まず,語表記を先にする。文法は,それの体系として現れるはずであろう。国民一般が現在国語の表記に漢字とかなを使っているという現実の生活のうえで,一つの基準をもつことが目標である。文の巧拙を考えることは,付随はするが,直接正書法の問題ではないと思う。

田 口

 先に語表記を決めてしまって,あとで文法に照らしてみて矛盾が出てくるのではないか。先に文法があってやるのでないと,格助詞の場合などに困る。ワードが適当かどうかは文法によって決めるのである。

土岐会長

 「は」と「が」が,どう違うかということは,表現の問題であって,正書法の範囲ではない。

田 口

 文法を前提としないで,語表記を決めてしまってよいか。

池 田

 今の問題は,小委員会で論ずべき問題ではないか。また,さきほど吉川委員の言われたように,正書法を取り上げるとき,現代かなづかいの問題を論議すると,学校ばかりでなく,世間が動揺するのではないか。

吉 川

 わたくしは動揺している。

大 塚

 わたくしは動揺していない。ここで言う正書法は,高津委員の言われたように,原則を決めるときに現代かなづかいが変るかもしれないという予測はできるが,その原則を決める場合は,現代かなづかいを土台として決めるべきである。現代かなづかいが変るものとすれば,当然変るべきものが変るので,心配はいらないと思う。

池 田

 このことが,このまま世間に流布されれば誤解を招く。そういうことはまずいのではないか。正書法を取り上げることに対して,世間に安心感を与えるようなことばが出てほしいと思う。

桑 原

 小委員会で正書法をやるについては,現代かなづかいをふまえてやる。現代かなづかいの精神をよしとして,学理的なものでやってみて,今まで説明できなかったことを説明できるようになればよい。総会でどう処理するかということは,総会で考えればよい。

吉 川

 高津委員の話を聞いていると,別の新しいかなづかいができるような印象を受ける。現代かなづかいはテンポラリーなものであって,近い将来に変るのだということでは動揺すると思う。

石 井

 わたくしは,正書法ができることによって,今までの当用漢字・現代かなづかいが位置づけできるようになると思う。

丸 野

 当用漢字との関係はどうなるか。当用漢字は動かさないで考えるのであるか。当用漢字の補正の位置づけをどうするのか。総会での結論が出ていない。

土岐会長

 当用漢字はそのまま存在している。補正案では削る字・加える字という考え方が出ているだけで,当用漢字表はそのままである。総会では,新聞社などで使っていくうちに社会習慣が出てくるであろうし,ある時期になれば削ってよい字は出てこないだろうし,加えてよい字はだんだん出てくる。そういう現実が作られるということであった。それが当用漢字の精神であろう。

丸 野

 当用漢字を変える場合の有力な資料ということであったが,あの28字はいつ採用になるか。これがいつ教科書などに用いられるのであるか。たとえば,「燈」は補正では「灯」になった。新聞では「電灯」と使い,一般では「電燈」と使っている。教育界などで矛盾を感じる。新聞だけが先走りしている形で困っている。こういう問題を先に決めてほしい。もし,補正が決まって漢字が変ると,正書法も変ってくるのではないか。問題を取り上げる順序が違うように思う。

大 塚

 今の話は正書法の一部である。小委員会で漢字を扱う場合に最初に検討される問題であると思う。

丸 野

 そういうことが,たとえば1年後には補正されるべいものであると決められる予想がつかないと,正書法は決められないのではないか。今までの話は,現代かなづかいにしても,第1部会で今日までやってきたことのくり返しにすぎないような気がする。

土岐会長

 第1部会の考え方と,正書法としてのここでの考え方とは違う。現代かなづかいについて言えば,第1部会は,原則の適用の範囲を整理することをやった。今度の問題は,どういう形で現れるかわからないが,別の考えが出てきている。これは,第1部会長も了解されていることである。

西尾所長

 この問題について社会で誤解するかもしれないという話が出たが,わたくしは,この問題を伺っていて,今までの当用漢字・現代かなづかいは主として文字として考えていた。過程としては語もはいっていたが,実施している間に現代かなづかい・当用漢字の威力をもっと発揮させるために語のほうから文字を考える。今まで決めたことを総合的に意味を発揮させるために取り上げた問題であろう。語の立場から考えるとき,現代かなづかい・当用漢字が変るか変らないかという問題ではなく,結果的には変るかもしれないが,現在あるものをどう取り扱って,もっと力のあるものにしていくかということではないか。問題点は,現代かなづかいに対する不安や動揺から起ったものではない。会長もまとめるためにいろいろ考えたので,全体としては現代かなづかいの不安定から起ったものではないと考える。

土岐会長

 そのとおりである。ただいまの西尾所長の意見は,社会の受け方を代表したものと承わっておきたい。では,このへんでこの問題を終り,続いて部会の報告に移りたい。原第1部会長は,所用のためさきほど退席され,有光分科会長は欠席であるから,第2部会の報告をお願いする。

颯田(第2部会長)

 第2部会では,標準語とは何か。標準語をどうすればよいかということについて,映画・演劇・ラジオなどについて検討してきた。教育方面では,教室でのことばについて,国語教室でやっていることを,東京都内の学校の現場の録音で聞いたが,わたくしどもが予想していたよりも進んでおり,たいへん参考になった。教室内での先生と生徒,生徒どうしの対話について詳しく調べたところ,生徒どうしの対話の中では望ましくないものもあるが,教室内ではいいものが多い。特に先生の中にはすばらしくいいものもあった。また,(1)敬語の問題については,根本が決まっていない。(2)男女の先生によって,こどもに対する「くん」「さん」の呼び方の違いの問題。(3)いいことばを選ぶにはどうしたらよいか。(4)第2部会の構成などについて問題となったが,さしあたり,教室のことばについての問題を取り上げることになった。現在,教室における国語の問題は予想していたよりはいいと思うが,よいほうと悪いほうとの差がひどいのは,全体から見て国語の時間が少ないのではないか。また,いい先生が少ない。いい先生の受け持っている教室はたいへんいい。先生の影響は大きい。先生の養成機関の問題をどうするか。ことばに対する窓口があってよいのでないか。標準語をどうするかなど,いろいろ問題はあって前途は遠いが,根本問題に一歩一歩近づきつつあるとは思う。

中 島

 新聞にローマ字学習の廃止問題が出ていた。これは国語審議会にも関係ある大きな問題と思うが,何かお聞き及びではないか。

土岐会長

 まだ詳しいことは調べていないが,おそらく多少のまちがいが含まれているのではなかろうか。問題として取り上げるとすれば,当然連絡があることと思う。
では,これで閉会とする。長い時間ありがとうございました。

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