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3 話しことばの問題
音韻について
- いわゆる方言地域と呼ばれる地域では,あらたまった場において,標準語的なことばで話そうとする場合であっても,その地域の方言音の影響からなまった発音をするおそれがあると従来からいわれている。ただ方言の音韻に関する調査が従来ほとんど方言研究者によって行なわれてきたために,その地域において話すときには,いつでもなまった方言音で話されているかのようにとれる報告が多い。老年層などは,あるいはそうかもしれないが,中年以下の層では必ずしもそうではなく,標準的なことばで話そうとするかぎり,かなりの程度まで標準的な音韻で話すのではあるまいかと推測される。しかし,その程度つまり土地の地域性や年齢や教育程度などの条件との関連がはっきりわからない。
- 回答によると,音韻に関する点では,全般的に次のようにいえそうである。
(1)いままでの方言研究家によって調べられていた方言音のなまりは,標準的なことばで話そうとする場合にも出るおそれがある。
(2)なまりの出る率は,都市性が濃いほど少なく,年齢が若いほど少なく,教育程度が高いほど少ない。
たとえば,いわゆるイとエの混同についていうと,東北地方の6県などの場合,従来次のように説明されていた。すなわち,東北方言では,イの発音もエの発音も同じように思われていて,その実際の発音は「せまいエである。発音している当人たちはこの事実に気づかない。したがって,当人たちに混同しているという意識は全然なく,実はイとエの二つを狭いエ一つで兼ねて使っているに過ぎない。混同と感ずるのは,標準語を聞き慣れている聞き手の側である。――方言研究家はいままでこう説明してきた。なるほど,老年層あたりではそうかもしれないが,青年層あたりになると,そうではなく,学校教育その他の影響で,狭いエのような発音が非標準的であることを認識し,エとイをはっきり区別して発音しようとする態度ができてきているのではないかと思われる。そう思われるふしがいくらもある。
以上は,方言母音のうちでも特に問題にされるイとエの混同の場合であるが,次にそれとならぶ有名なシとス,チとツ,ジとズの混同(混同する地域はイとエの混同の起こる地域に同じといわれている。)の場合も同じような傾向を示し,方言研究家が指摘するような混同は,都市性の希薄な地区の教育程度の低い老年層だけにとどまり,教育程度の高い層や青年層ではどんどん少なくなっていると報告されている。
シとス,チとツ,ジとズの混同は,さいわいに学校教育などの結果,現在の中年層以下では混同率が少なくなったらしい。しかし,この三つの場合以外のイ段とウ段の熟音にあらわれる母音(変的イとウの非標準性には気づかぬ場合が多いため,現在の青年層でも異様なイ段音やウ段音を発する率は減っていないようである。こうした発音は意思交換には一応さしつかえはないが,「全国のだれにでも正しい標準的な音を」という立場からいうと,このままにしておいていいとは言いきれないだろう。 - 以上のように,あらたまった場でものを言う時にも出る方言の母音は,現在の青年層(小学校児童層は別)について考えるかぎり,方言研究家が報告するよりもはるかに標準的な音に変わっていっていることが推定される。一般的に言って母音の類にくらべると,子音の類は概して標準化しやすい。したがって子音の標準化は,かなりの程度に達していると思われる。ただし標準的なことばの「標準」という線をどの程度に押えるかが問題である。
その押えかたによっては,いわゆる標準語指導の方法は現在の程度のままでもよいだろうし,あるいはもう一段と整備しなければならないことにもなるだろう。いずれにしても,現在までの成果があがったについては,最近の話し方教育やラジオ・テレビの急激な発展がそれぞれ大きな原因になっていると思われる。