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5 ローマ字教育の問題 ローマ字調査分科審議会2
今期のローマ字調査分科審議会に属する委員は,国語審議会令第7条によって,昭和32年1月23日に文部大臣の指名があり,第1回分科会は昭和32年2月20日に開かれた。まず,分科会長の互選を行ない,投票の結果,倉石委員が選出されたが,当日倉石委員は欠席だったので,大塚委員が仮に座長となって懇談の形で,各委員が意見,希望などを述べた。
倉石委員に対しては直ちに分科会長の受諾方を求めたが,当時,倉石委員は健康がすぐれず,これを辞退された。そこで,第2回分科会(昭和23.5.13)の席上でこの処理について図った結果,やむを得ないことと認め,ふたたび分科会長の互選をすることとなった。投票の結果,大塚委員が分科会長に選出され,以後大塚分科会長の司会で審議が進められた。
まず,ローマ字教育の問題を取り上げ,第8回分科会(昭和32.11.4)で分科会としての意見をとりまとめ,これを第36回国語審議会総会に報告した。
この報告の要点は,
- ローマ字に関すること,およびその教育について,戦後文部省で審議され,実施されてきたことの概要について述べ,
- ローマ字文による国語教育が,昭和22年度から,「ローマ字教育実施要項」にもとづいて義務教育で実施されるようになったこと。そして,「国語教育の徹底と社会生活の能率を高め」るうえでローマ字が役にたちつつあることは実証されてきたが,「ローマ字によって読み書きを行なう習慣が国民一般に普及する」ことを期待できるまでにはいたっていないのが実情であること。
- つづり方については,ローマ字教育が実施された当初は,いわゆる訓令式・日本式・標準式の三とおりのつづり方が行なわれていたが,のちに「ローマ字つづり方の単一化」を図り,訓令式にもとづいたものを第1表とし,他の2式をまとめて第2表とするつづり方がまとめられ,昭和30年度このかた教育界では第1表に掲げられたつづり方が広く用いられていること。
- わかち書きのしかたについては,国語審議会としてはまだ結論に達していないが,近い将来において決定し,統一する必要が認められること。
- ローマ字教育は国語教育に次のような効果があると認められること。
- 児童・生徒に語意識(単語と文の構造の意識)を与えるのに特に効果があること。その結果として,
(i)国語のきまり(文法)が明らかにされる。
(ii)そのため,読解力・国語力をつけやすい。
(iii)すなわち,国語の力がつく。 - ローマ字は1種の音素文字であるから,
(i)音素間の変化のある日本語の変化がよく表わされる。
(ii)なまり音を正したり,正しい発音を指導したりしやすいこと。 - 児童でも国語・国字問題について考える力がつくこと。
- このローマ字教育には反対の意見もあるが,それらの意見は「学習指導要領」(注昭和26年改訂版)によって指導しないところからきた意見であると認められること。
- ローマ字の理論と実用についての社会の情勢。
- 結びとして,ローマ字教育を11年前にふみ出したことは,正しい施策と認めてもよかろうとされたこと。
について述べたものであった。(なお,この報告は「第36回国語審議会総会議事録」に前文が掲載されている。)
ところが,この「結び」のなかに,「……ローマ字教育を義務教育で必ず行なうことが関係方面において考慮されなければなるまい。」とあった点について,第36回国語審議会総会においては,「……単なる報告ではなく,国語審議会の要望ととれる。……」から,「このままでは問題であり」,分科会は総会の意向をくんでさらに審議を続けるべきであるとされた。
そこで分科会としてはひきつづきローマ字教育のことに関して審議を行なう予定であったが,昭和33年1月18日に教育課程審議会から,教育課程の改定について中間発表があり,さらに3月15日にはその答申が行なわれ,ローマ字教育については,「ローマ字学習は,国語学習の一環として第4学年以上においてすべての児童に対し,文字・言語および簡単な文章の読み書きを行なうものとすること,なお,単独のローマ字教科書は使用しないで,国語教科書の中で,これを取り扱うこと。中学校において継続学習させることが望ましい。」とされた。
よって,分科会は第9回(昭和33.1.27)から第14回(昭和33.6.9)まで6回の会議において,この新しい事態に対して分科会としてとるべき処置・方策について審議した結果,新しくローマ字文のわかち書きについて審議を進めていこうということになった。