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語形の「ゆれ」の問題 漢字表記の「ゆれ」について(報告)2



 「語源」と「語原」――「原」「源」は同字である。教育漢字であり,字画も少ない点からは,「原」のほうがよいのであるが,現在では,「原」は「はらっぱ」,「源」は「みなもと」というふうに意味が分化して使われる傾向にあるから,これからは,しぜん,「語源」と書くようになっていくであろう。「起源」「根源」「病源」「源泉」「源流」なども同様である。比較的に新しく造られたと思われる「給源」「財源」「資源」「震源」「熱源」などの語は,「源」を使って「原」は使わない。しかしながら,「原」から「もと」という意味をなくすことはもちろんできない。「原因」「原住民」「原料」など多くの熟語があるからである。
 「賞賛」と「称賛」――この場合も,「称」に「たたえる」という意味のあることは,一般に知らなくなってきているから,だんだん「賞」を使うことが多くなっていくであろう。これからは,「称」は「となえる」の意味の「称する」「称号」「愛称」「人称」「名称」などの場合に使い,「称賛」「称美」「称揚」「嘆称」などは,むしろ「賞」を使うことも考えられる。
 「肉薄」も,「薄」の字は「迫る」という意味であるから,当然「肉迫」と書いてもよいわけであるし,また,そう書くほうがわかりやすいといえるであろう。



 「付属」と「附属」――「附」「付」は古くから通じて使われている。「付」は字画が少ないので,今日では,「付属」を採ることが望ましい。同じように,これまで「附」と「付」とを使い分けてきた,「附加」「附記」「附近」「附言」「附則」「附随」「附帯」「附託」「附着」「附録」「寄附」「添附」「附する」,「付与」「付議」「下付」「交付」「付する」なども,すべて「付」の字でさしつかえないであろう。
 これは当用漢字表選定の際の方針でもあったが,同表には日本国憲法に使われている字として「附」をも採っている。音訓表では「付」に「フ・つける」の音訓を採り,「附」には「フ」の音のみを認めている。教育漢字では「付」を採って,「附」は採っていない。補正資料では,「附」を削る字の中に入れている。
 その他,字画が少ない,あるいはなるべくなら教育漢字であることが一つのよりどころとなりうる例としては,次のような語がある。

究 極(窮 極)   建 言(献 言)
古 老(故 老)   醜 体(醜 態)
重 体(重 態)   小 憩(少 憩)
小 食(少 食)   順 守(遵 守)
順 法(遵 法)   植 民(殖 民)
試 練(試 錬)   鍛 練(鍛 錬)
定 年(停 年)   年 配(年 輩)
配 列(排 列)   反 復(反 覆)
表 札(標 札)   表 示(標 示)
変 人(偏 人)   膨 張(膨 脹)
容 体(容 態)   乱 作(濫 作)
乱 造(濫 造)   乱 読(濫 読)
乱 発(濫 発)   乱 伐(濫 伐)
乱 費(濫 費)   乱 用(濫 用)
乱 立(濫 立)

 「遵」「錬」「濫」は憲法に使われている字である。補正資料では,これらを削る字の中に入れている。字源的に「錬」は「練」でさしつかえないし,たいていの場合「遵」は「順」,「濫」は「乱」でさしつかえないからである。 また,「膨脹」は「膨張」でさしつかえないから,「脹」も補正資料では削る字にしている。なお,「醜体」「重体」「容体」「順守」「順法」などをこう決めるには,多少の異論があるかもしれない。



 「何歳」と「何才」,「年齢」と「年令」――年齢を数える場合に,「歳」のかわりに「才」を使い,また,「年齢」の「齢」のかわりに「令」を使うことはこれまでもかなり普通に行なわれている。「才」「令」は教育漢字,「歳」「齢」はそうでないことなども考え合わせると,今後はこのような場合,「才」「令」の使用がいっそう一般的傾向になるであろう。これを一概にとがむべきではないと考えられる。
 「率直」と「卒直」――「率」を「利率」「円周率」など「リツ」と使う場合には問題はない。ところが,「ソツ」と使う場合,「率直」「率先」などの「率」に「卒」を使うことがこれまでも行なわれている。これは,「率」の字画が複雑なので,音通によって簡単な「卒」でまにあわせるのであろう。「卒直」「卒先」などは,今日では,漢和辞典にも記載するものがあるくらいである。そこで,これを広げて,「軽率」「引率」「統率」などの場合にも,「卒」を使うことが考えられる。そうすれば,「率」は「リツ」とだけ使って,「ソツ」には「卒」を使うようになっていくかもしれない。

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