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語形の「ゆれ」の問題 発音の「ゆれ」について(報告)2
「シュッパツ」と「シッパツ」(出発)――これは,拗(よう)音の直音化といわれる現象である。「芸術」「伸縮」「新宿」「輸出」などの場合にも起こる問題である。「シュッパツ」を「シッパツ」と発音するのは「クヮ・グヮ」が「カ・ガ」になったように一般的なものであるとはいえない。
国研の調査によれば,第1回・第2回を通じて,採る形として「シュッパツ」が絶対的多数(80%以上)である。理由としては,本来の形65%,規範に合う38%,一般的33%,共通語的27%,語感がよい22%,言いやすい17%,ていねい12%などがあげられている。
以上から考えて,やはり字音に即して,本来の形「シュッパツ」に従うべきであろう。しかしながら,ここに属する語の中には,類音語があるなど特殊な場合のほかは,直音「シ・ジ」に近く発音することを認めざるをえないものもあるであろう。
「センセイ」と「センセー」(先生)――これは,二重母音の長音化(〔ei〕→〔e:〕)といわれる現象である。「経済」は「ケイザイ」か「ケーザイ」か,「衛生」は「エイセイ」か「エーセー」かなどもこの問題であって,主として漢字に現われる。
国研の調査によれば,第1回・第2回ともに,採る理由としては「センセイ」「センセー」がほぼ同数(45〜54%)である。理由として,「センセイ」は本来の形37%,ていねい20%,規範に合う・語感がよい各18%,一般的・共通語的各17%などがあげられ,特に九州に「センセイ」を「一般的」「本来の形」「言いやすい」とする者が多い。「センセー」には言いやすい33%,一般的32%,変化の傾向にそう20%,口頭語的15%,共通語的12%などがあげられている。使う形としては,国語研究・国語教育関係者に「センセー」が多く,新聞・放送等各界には「センセイ」が多い。
NHKの放送文化研究所の「放送言語の研究の現状」によれば,「〔ei〕を〔e:〕と発音するのは,全国的な現象ではない。九州の熊本・宮崎・鹿児島県,四国の徳島県では,ほとんど全地域が〔ei〕である。九州の福岡・佐賀・長崎県,それに高知・和歌山県では〔ei〕を使う場合がある。」とし,また,「日本語アクセント辞典」でも,その凡(はん)例の中で「ケイケン[経験],セイカク[性格]などにおけるエ段音の次のイは,特に改まって,一音一音明確に言う場合いは,イと発音されるが,日常,自然の発音では長音になる。」といって,両方を認めている。
以上から考えれば,現在のところ,「センセイ・センセー」は両様を認めないわけにはいかないであろう。
なお,現代かなづかいの表記では,「せんせい」と書くが,発音のうえでは含みをもたせている。
「イバル」と「エバル」(威張る)――これは母音「イ」「エ」(〔i〕〔e〕)相通の現象である。「イボ・エボ(疣)」「ニンジン・ネンジン(人参)」「ミミズ・メメズ(蚯蚓)」「シッキ・シッケ(湿気)」「アジキナイ・アジケナイ(味気無い)」「イヤキ・イヤケ(厭気)」などもそうである。
関東・東北をはじめ,「イ・エ」の音の区別をしない地方は諸所にあるが,これは一般的になまりと考えられている。したがって,「エバル」は方言的であるから,標準的な形としては「イバル」を採るべきであろう。
同じように,「マ行・バ行」(〔m〕〔b〕),「ダ行・ザ行」(〔d〕〔z〕),「ヒ・シ」(〔〕〔
〕),「サ行・シャ行」(〔s〕〔
〕),「ザ行・ジャ行」(〔d〕〔
〕)などの相通なども,おおむねなまりとして扱ってよい。
たとえば,
キミ(キビ) | (気味) |
ケムリ(ケブリ) | (煙) |
サムイ(サブイ) | (寒い) |
トモス(トボス) | (点す) |
カナダライ(カナザライ) | (金盥) |
ナデル(ナゼル) | (撫でる) |
ノド(ノゾ) | (咽喉) |
ヒト(シト) | (人) |
ヒトツ(シトツ) | (一つ) |
ヒバチ(シバチ) | (火鉢) |
シチ(ヒチ) | (七) |
シチヤ(ヒチヤ) | (質屋) |
ヒョーシ(ショーシ) | (表紙) |
サケ(シャケ) | (鮭) |
サカン(シャカン) | (左官) |
ザクロ(ジャクロ) | (柘榴) |
タンザク(タンジャク) | (短冊) |