国語施策・日本語教育

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議事 第2部会の報告/ローマ字調査分科審議会の報告

土岐会長

 では,次に第2部会の報告をしていただく。

池田第2部会長

 第2部会は,昭和34年5月の第1回以来,18回の会合を開いた。この部会は,第4期の話しことば部会とはやや異なり,新聞・放送等マスコミとの関係を考えることになっているので,しぜん,文字の問題などを扱うことにもなってくる。そこで,国語の語形の「ゆれ」の問題を取り上げることになった。国語の中には,表記・発音・アクセント・語法の各方面において,語形が確定しないでゆれていて,そのいずれを採ってよいか迷うものがたくさんある。したがって,そのような語形のゆれの整理統一を図ることは意義のあることと考えられ,今回は,それらのうち,漢字表記のゆれと発音のゆれとに限って審議した。初めは,各種の資料から漢字表記あるいは発音のゆれている語を集め,一語一語についてその標準形を選ぶ方針を採り,漢字表記のゆれについては第1読会を終わったのであるが,その後,問題の所在なり,全体の傾向なりを示す白書のような形にまとめることになった。そして,審議のいちおうの結論として,別冊「語形の『ゆれ』について」を作ったのである。このうち,第1部「漢字表記の『ゆれ』について」は,かなりまとまったものになっているが,第2部「発音の『ゆれ』について」のほうは,審議回数の関係で審議がじゅうぶんでないうらみがある。そこで,全体として,さらに審議を重ねる必要があることを認め,次期国語審議会において継続審議していただければけっこうなことと考える。以上のようなわけで,これで「ゆれ」を整理統一しようとまでは考えていない。ただ現状と方向がこうなるのでなはかという報告にとどまるものである。

土岐会長

 これらの報告についての意見・質問は,ローマ字調査分科審議会の報告が終わってからにしていただきたい。

有光分科会長

 第5期の国語審議会ローマ字調査分科審議会は,昭和34年6月12日に第1回の会合を開いて以来,今日に至るまで18回の会合を重ね,ローマ字のわかち書きのしかたについて審議してきた。具体的な審議にはいる前に,いわゆる単語認定の問題とか,品詞分類の問題とか,漢字かなまじり文のわかち書きとの関連とかについても検討したが,これらはいずれも単にローマ字文についてだけの事がらではないので,分科会として取り上げないことにした。資料としては,昭和22年に文部省から発表された「ローマ字文の書き方」を取り上げ検討した結果,わかち書きにおいて特に問題となるのは,第1に助詞,第2に助動詞,第3に複合語の書き方であり,その中でも,特に助詞,および助詞と助詞とが重なった場合の書き方に問題があるから,これを取り上げるべきであるとの意見が採択され,この問題について審議することになった。いろいろの助詞と,その用例を集めたものを資料として検討した結果,助詞と助詞とが重なった場合,助詞の種類とその音節数とによって,一続きに書いたほうがよいか分けて書いたほうがよいかの原則ともいうべきものが決められるのではないかと思われたけれども,さらに検討していくうちに例外が出てきて,けっきょく,この面からわかち書きを決めることはむずかしいと思われるにいたった。これについて,詳しくはお手もとの「報告」の3ページから5ページをごらんいだきたい。ここまで審議を進めてきてから,具体的な審議をいちおう打ち切り,ローマ字のわかち書きはどうあるのが望ましいかについての審議にはいり,各委員から活発な意見が述べられた。その意見のうちおもなものは,「報告」の5ページから7ページに収めてあるが,これをごくおおざっぱに言うと,次の二つに分けることができるように思われる。すなわち,第1は,その語の使い方に応じて語形のうえでも区別があらわれるように一続きに書いたり,分けて書いたりするほうがよいというのであり,第2は,なるべく常に同じ語形として書き表わすようにしたほうがよいという,この二つの立場・考え方である。この二つの立場・考え方は,ただいまのところでは,どちらも考えようによっては妥当なものと思われるのであって,どちらがより妥当であるかを決めることは,きわめてむずかしいことと思われるのである。そこで,次に,また別の角度から,助詞と助詞とが結びついた場合の書き表わし方について具体的に審議することにして,いろいろな助詞どうしのあらゆる可能な組み合わせの表をつくり,その一つ一つについて検討していった。その結果についての詳細は「報告」に譲って,ごく簡単に述べると,「ぼくにかい。」とか,また少し古風な言いまわしではあるが,「わたしにかえ。」などという場合の「かい」や「かえ」などは,一続きに書くこととし,そのほかの助詞と助詞とが結びついた場合,たとえば,「どこからか現われた。」とか「何かがある。」とか「ここまでぐらいにしておこう。」などにおける「からか」「かが」「までぐらい」などは,すべてそれぞれの助詞ごとに分けて書くことにした。しかし,この助詞と助詞とが結びついた場合の書き表わし方についての審議はまだ一部を終えたばかりであって,全体の見通しをつけるまでにいたっていない。したがって,分科会としては,現段階においては,わかち書きの根本方針,ないし,わかち書きの原則というべきものを打ち立てるまでにはいたっていないのである。以上,今期の分科会の審議経過をありのままに述べて報告とする。

土岐会長

 これまでの報告について,質問や意見があればどうぞ。

舟橋委員

 第1部会の結果について訂正を求める意味ではないが,意見を述べる。当用漢字表が決定された際も,目にあまるむずかしい漢字は簡単にしてもいいと思っていた。地名・人名のかな書きも同様で,はしにも棒にもかからないものからやっていくべきである。また,かなで書くかどうかを当事者の判定にまかせるということでは,今までの例を見てもわかるように,地名・人名は,かな書きにしなければならない方向にもっていかれることは明らかである。刑法でも同様で,全体にこれまでのようなむずかしい漢字を使っていては,運営上にもふつごうであろうという点では同感であるが,先方に渡されると,もっと強い線になるのではないか。法律は重大な事がらを扱うものであり,特に刑法の用語は,それ自体に特別な意味をもっている。それを変えずに,別の語に変えられるものかどうか。また,資料の中にやさしくしたために法律的な意味や感じが変わってくるものや,しいて直す必要のないものも少なからずある。国語審議会という責任ある立場から,この報告が拡大解釈されないことを強く希望しておく。

宇野委員

 当用漢字表は,その適用範囲から固有名詞や学術用語をはっきりと除外している。その後,学界特に科学関係では,自発的に用語を修正する動きがある。法律用語には特殊の概念規定がある。それを単にその語を書き表わすのに用いられる漢字が当用漢字表にないからといって,その語そのものを否定したり,比較的やさしい字形の漢字もそのために使わないようにしたりしているのは納得できない。不備な漢字表によって,刑法の用語を拘束することは妥当でない。また,表にある字でありながら,漢語的表現であるといって改めるのも不満である。ただ,この報告が先方の参考に供される程度のものであるということで,小委員会の席上では強く主張はしなかったが,このような考えをもつ委員のいることをはっきりさせ,今後の審議の運営を考慮してもらいたいため,くり返して発言した。

千種委員

 実際上,既成の法律の概念を変えるのはむずかしい。現代の法治国家では,法律を知らないからといって刑罰や責任を免れることはできない。そのため,法律の内容は,一般国民が知ろうとすればできるだけ知りやすい形をとるような配慮をすべきで,当用漢字表が世に行なわれ,教育もそれによっている現状では,法律文がこれに基づいて書かれているようになることも至当なことと考える。

成瀬委員

 法律の趣旨はそうとしても,当用漢字表は絶対なものではないし,世の中では表外の字が多く行なわれている。法律の面でも,考え直していただきたい。現在行なわれている刑法の用語から受ける罪悪感などの庶民の感覚も重視していただきたい。

土岐会長

 あとに推薦協議会の議事が残っているので,予定よりも時間が延長されるかもしれないが,それでいいか。(発言なし。)では,延長されることがあることもお含みのうえ,発言をお願いする。

成瀬委員

 推薦の問題をどうしてもきょううじゅうに決めなければならないか,疑問である。

土岐会長

 任期中に次期の委員を選ぶ推薦協議会を作るたてまえであり,3月23日までが任期であるから,それまでに決めなくてはならない。

高津委員

 では,先に推薦協議会の委員を互選してはどうか。

土岐会長

 できれば,報告に関する議事を終えてからにしたい。

千種委員

 漢字をかなにかえても,刑法の条項の適用は変わらない。個人としては,用語から受ける罪悪感などはあまり関係ないように思える。

塩田委員

 第1部会の報告に異義があるのではないが,「さしつかえない限り」を宿題として,すなわち,継続して審議すべき問題として,今後解決していってほしい。このままでは混乱をきたす。

宇野委員

 第2部会の報告について,今後どういう処置をとられるのか。

池田第2部会長

 結論が出なかったので,継続審議にしてほしいということである。

宇野委員

 結論をまって発表するもの一つの方法であるが,試案的なものを世間に流して,よいとなったらそのうえで決めればいい。これも公表してはどうか。そして,これらを新聞などでも扱ってほしい。

土岐会長

 総会としては公開であるから,建議はむろんのこと,報告も自然に世の中に伝わる。従来のそのように扱ってきたし,報道機関にも希望していることである。次にローマ字調査分科審議会の報告についてはどうか。ご意見なければ,これらの報告についてご了承いただけたものとする。

(10分間 休憩)

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