国語施策・日本語教育

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議事 国語審議会委員等推薦協議会について

 〔再開〕

土岐会長

 では,推薦協議会の委員の互選に移りたい。これは文部省の省令にあり,7人以上15人以内で構成されることになっている。これまでの5期,10年余り続いた国語審議会で,推薦協議会の委員が7人のときも12人のときもあったが,人数の多少にかかわらず,非常な苦心をして次期の委員を推薦している。これは,各分野の学識経験者に関係官庁の職員を加えたものである。そのつど,新しいかたに加わっていただくように努め,その新しい委員が非常に熱心に審議されたことも事実である。
 これからおはかりするのは,第6期の委員を推薦する協議会の構成をどうするか,人数や方法について。

成瀬委員

 前回の総会でも述べたことであるが,もう一度はっきり申し上げたい。この推薦の方式は他の審議会の委員を選ぶ方法に比べて,一見民主的のようであるが,選ばれた構成メンバーと見ると,毎回同じかたが選ばれており,表音主義者が多数を占めている。それに少数の反対者を加える,反対者は少数であるということは,形式的には民主主義でも,その実は専制的である。
 次に,言語と文字の関係について述べる。文字は言語の符号というが,文字となって書かれたうえでは読む機能が生じてきて,あくまでも読む側から考えられなければならない。日本の国字改良の歴史や中国の場合などを考え合わせると,漢字を廃止すればよいというのは,まったく歴史を無視した考え方といえる。

土岐会長

 推薦協議会について決めてから,お話の続きをしていただきたい。

成瀬委員

 この問題が考えられなければ,推薦できないと考える。

大塚(嘉)委員

 次の委員を決める法規上のきめに従っていただきたい。時間を延長してもいいことになっているのであるから,推薦したあとで,その人たちに対して希望をのべることとし,まず推薦の人数・方法につい考えたい。(賛成)

西原委員

 学説はおもしろく伺ったが,会議には会議の形がある。結論をさきに言っていただきたい。

土岐会長

 当面の議題に返っていただきたい,他の委員のご賛同もあるので。

舟橋委員

 推薦協議会の考え方が変わらない以上,現審議会の首脳部がどうしてもはいってしまう。成瀬委員の発言もあるのであるから,協議会に関する規程などについて,どうしたらいいか具体的に考えたい。

土岐会長

 委員の良識によって,今後の審議会のあり方などをお考えのうえ,互選してほしい。

舟橋委員

 その推薦母体に問題がある。すぐに互選に移れというのでは,けっきょく,前と同じことになることを是認されたことになる。新しい現状に即していくようにしたい。

土岐会長

 互選のたてまえであるから,それに従っていくというのである。新しくということは,委員の判断で考えたい。そうでないと,選挙は考えられない。

高木委員

 成瀬委員の発言が中断されたままで終わるのはどんなものか。理論を簡略にして,議事につながるところまで伺うことにしては。

土岐会長

 議題としたことに集約していきたい。趣旨を伺っていると,それに関連した発言があるはずで,意見が出尽くしたあとでないと推薦できないことになりはしないか。

舟橋委員

 もしできないとしてもやむをえないのではないか。成瀬委員の発言も,けっきょくは,推薦協議会の議事に結びつくものであろう。

西原委員

 簡単に趣旨を述べることにしてはどうか。

土岐会長

 それではどうぞ。

成瀬委員

 簡単にと言われれば,ことばのたりない点が出てくるかもしれない。審議会の中で,一方がかなやローマ字への方向をめざして,一方がそれに反対するというのであれば,国語審議会としてじゅうぶんな機能を果たせないと考えたため,意を尽くして,意思の疎通を図りたいと考えた。
 日本で国語問題がある方向をとって現われたのは,明治28年である。雑誌「帝国文学」に国字改良論が出,坪内逍遥がそれに対する反対論を書いている。その要旨は,字は読むためのものである。意字のほうがつづり字組織のものよりすぐれている。学ぶときの便不便よりも,読むときの便不便をと論じている。日本では,表音文字論者には言語学者が多く,発音の正確さと,見て音が浮かぶ便宜とを主張しているが,文字は読むために便利なものでなくてはならない。表音文字に対して国文学者が反対するのは,文学や文字に対して常に関心をもっているからである。中国では,象形文字を作り,読むのに便利であるという方向に発達した。これは象形であるので,同音異義の語があっても問題にならないが,日本では形をすてて表音化した場合には,意味がわからなくなる。雑誌に載った事務革命という所論は,事務処理のうえでかなが役だつことを述べているにすぎず,電報などは電報用語という特別の決まった形式のあることである。これらが事務上便利であるという点では同感であるが,それをただちに日常使用するすべてのことばをかな書きにせよということに結びつけることは納得できない。言語の機能と文字の機能とが違ったものであるという認識のうえに立つならば,国語審議会として円満な運営も可能になると思うのであるが,1,000年以上の伝統をもち構成上もすぐれている漢字を捨て,ただ表音文字にたよるというのは承服できない。なお,科学の進歩した現代に漢字ではどうにもという意見をもつかたもあるが,科学の発達を漢字が阻害しているとは思わない。けっきょく,表音主義が国字をかなにするということを譲らない限り,また現在の構成が変わらないままで,国語政策を議論することはできないものと考える。国語審議会はなお存続したほうがいいと思うものの,同じメンバー,同じ首脳部で続けられることには反対である。推薦協議会が従来の弊を改められないなら,それがどのような規則に基づくものであろうとも,規則を改める方法を考えていただきたいし,かりに推薦という形式が変えられず,推薦することが委員に義務づけられているならば,少なくとも現在の委員はすべて次の委員にはならないという申し合わせをしたい。よしあしは別として,当用漢字から送りがなのつけ方までいちおうの成果があったのである。構成員を一新して,全然新しい人たちから,これら一連の政策を批判をしてもらいたいというのが結論であり,その段階に達しているものと考える。

土岐会長

 会議の時間を延長する。

前田(賢)委員

 けっきょく,われわれは,次の委員に推薦された場合,辞退しようということのようであるが,現在の制度では,各人の責任と見識を信頼して互選する以外にはない。審議会は,あらゆる主張の人が集まって,中正な結論を出すべきである。ある主張をもつ人に退いてもらうということには反対である。また,長年委員であったかたにも言及されたが,ある程度は残っていただいて,従来の経過の説明や意見を聞くことも必要であろう。国語の将来のためにも,すべて新しい委員だけに任せるということは賛成しかねる。

颯田委員

 科学の分野では,漢字で書くために困る場合がある。しかし,それが科学の進歩を阻害する第一義的のものであるといったことはない。

西原委員

 成瀬委員の発言でも,多少の疑義は付しているが,審議会の成立には賛成されている。漢字が読むばかりでなく,書くものとして自覚されてきたことについて歴史をふりかえることは詳論しないが,かな文字などを主張する人がいては,会議の純粋を妨げるということでは,会議の意義も,内容の多面的になることも望めない。現在までの委員すべてにやめてもらうなどは,一種の革命である。推薦の形をとらないとすると,文部省が決めることとなる。むしろ今までの方式がいい。

塩田委員

 総辞退論も,結論として意見を述べるのは許されるのではないか。表音主義者と同席できないというのも,圧倒的多数に対することばで,その全部を締め出してほしいというのではなかろう。国語問題協議会の資料によれば,審議会の構成員を表音,表意主義者別に人数をあげて示している。第1部会の審議は主張が先に立って,事実の裏づけはあとであり,結論を急ぎすぎているが,これは正しいあり方とは思えない。互選の方法はともかくとして,世間が改選後の動きに注目しているおりでもあり,少なくとも公正で,表音主義者の集まりと思われないだけの努力と配慮をしてほしい。

大塚(嘉)委員

 委員の良識にまかせて,推薦の人数・方法などのことを進めてほしい。

舟橋委員

 文芸家協議会から,国語審議会の問題について,文部大臣に進言した。それは,協会側から見ると,国語審議会が先走りをし,表音主義にかたよる度合いが強いと思われたからである。今まで,とかく小説を書くうえでの便不便などから考えていたが,今度は評論家・劇作家なども含めて考えなければならないということになった。この推薦のことを拙速に強行すれば,世論や協会の要望も無視されたことになる。協会の中では進歩的な意見の人もいるが,それらの人も国語審議会の一方的,革命的なやり方には一致して反対している。独善的な推薦には賛成しがたい。

山岸委員

 こうした活発な意見を聞いたのははじめてである。これらの発言はすべてこの審議会や国語政策に対する熱意の現われであろうし,その中には世間の一部の声も反映されているので,虚心に反省すべきこともあろう。反対に,誤解に対して,それをぬぐいさることも必要である。まだ意見があるのであれば,推薦のことは,次回でやってはどうか。

土岐会長

 今までのご意見を大きくまとめると,きょう互選をするか,それとも,23日までにもう一度開くかである。

舟橋委員

 これだけ重要なことを「その他」として通知し,審議の時間を与えないというのはおかしい。

土岐会長

 「その他」となっていたのは,事務当局の手続き上の問題で,その点,わたくしも遺憾であると言っておいた。

成瀬委員

 わたくしの発言の趣旨は,従来の方法では変化がないということである。他によい方法があるのであれば,総辞職などとは言わない。国語問題に造けいの深い人に残ってもらうという意見は,その偏向性を認めたこととなる。よく考えるためにも,もう一度開くことを希望する。

宇野委員

 「その他」に推薦のことが含まれていようとは考えなかった。国語政策に批判もあることであるから,改組も望ましい。事務的に可能であれば,もう一度開いてほしい。

颯田委員

 わたしは表音主義者か象形主義者かわからないが,この審議会にはいっていると,どちらかにならざるをえない。

実方委員

 部会長は,部会で各人の発言を自由に取り上げておられたが,結論を出すとあれば,どこかにまとめるほかはない。省令を変えて協議会の委員を選考するとすれば,任期中にはまにあわない。選ばれた人が皆の発言を聞き,さらに世論をも聞き,広く国民の国語問題を考えるというたまえで運営することにしてはどうか。したがって,推薦の人数はできるだけ多いほうがいい。

円地委員

 いろいろの意見があるが,要は話し合いのできる広い場がなければと思う。ともかく,22日に再開してほしい。

土岐会長

 他に意見はないか。22日にもう一度開くことにしても,その日に,話し合いによって,推薦協議会を置くかどうかを決めるというのであれば,任期中に決まらない場合もありうる。22日には,推薦協議会を作るため,省令にあるとおり,原則的には互選しなければならない。

千種委員

 表音・表意両方の立場の人がはいり,じゅうぶん協議すればいい。いまさら規定が変えられない以上,きょう,選挙をやってほしい。(賛成)

成瀬委員

 それでは率直に言うほかない。わたくしが延期していただきたいというのは,このままの形で互選をするのでは,推薦協議会の委員も,次の新しい国語審議会の委員も少しも変わらないのであるから,方法について考えるためである。もっと具体的に言うと,10年以上委員であったかたはやめていただいてはどうか。会長も副会長も勇退されていいのではないかということである。互選され推薦されたというのであるからというのであれば,いつまでたっても変わらないのであるから,そのためによい方法を考えたい。その考える時間を与えてほしいということである。

土岐会長

 やめるとかやめないということは,それぞれの判断で決めるべきことである。この席では,各委員の良識をもって推薦協議会の委員を選べばよいのである。良識をもって互選するということが,われわれに与えられた任務である。意見を述べるのは自由であるが,そのようなことで推薦協議会の委員を制約することは賛成しかねる。ご意見によれば,推薦協議会を設けることには賛成のようであるから,そうしてはどうか。

舟橋委員

 では,それに反対の者は,どうしたらよいか,退席するか。千種委員はきょうこのまま互選をやれと言われるが,それではこれまでやったことが水のあわである。「その他」として集められて,推薦協議会の互選のことを強行されるのは,どうしても釈然とできない。

山岸委員

 この次に延ばすことに賛成である。

岩下委員

 成瀬委員の発言は,会長にやめてもらうとか,10年以上続いたかたはやめてもらうとか言っているが,それでは推薦協議会の権限の否定である。反対の意見を述べることはさしつかえないが,それを総会で決めるというようなことは適当でない。

成瀬委員

 総会で決めないとすると,どこで決めるのであるか。従来の方法では,従来のことしか出てこないのである。その場合どうしたらよいのか。

岩下委員

 今の成瀬委員の発言は,相当に,わたくしに影響を及ぼし,また,ここに出席の委員のかたの意見のうえに現われてくるものと信ずる。

成瀬委員

 わたくしは,従来2期,国語審議会の委員をやってきた。今日までのことを見ていると,会長は,ことごとに委員は入れかわっている,新しくなっているといわれるが,多数が変わっていると言われながらも,実態はそうではない。そういう会長のもとでやると,従来のものと少しも変わらないものになることは明らかである。この点,会長が反省をなさるべきではないか,ということを申し上げたい。

土岐会長

 国語審議会は審議会であり,委員がそれぞれ意見を出し合って審議をするところであり,会長はそれを運営するだけのことである。わたくしが,その審議について,とうやれとかどういう結論を出せとか言ったことが一度でもあろうか。わたくしが会長をしているために,その審議がどうこうというような意見は,国語審議会の委員全体に対して失礼ではないのか。あたな自身をも含めて,委員がその職能を果たすのにじゅうぶんではなかったことになるではないか。国語審議会が将来どうなろうとも,今までのところ,国語審議会の運営をする会長としての職能のうえで,わたくしがいるために審議の内容や方向が動かされたということは,今までに一度もなかったはずである。

実方委員

 かりに,文部省令を改正するようなことであれば,もっと早く議題として出すべきであった。22日には,規定どおりに考えるべきである。

高津委員

 22日にやることとして,それまでに最善の方法を考えたい。

舟橋委員

 いろいろの発言もあり,意見も述べたが,要は委員を選ぶしくみがどこかまずいところがあるのではないかということである。こうした話のあとで,すぐ投票にはいることはできない。なお,22日は,ただいまの議論のままの継続にしたい。

土岐会長

 22日は,継続の形で行なうこととする。推薦協議会を作るための委員を選ぶということでやっていただく。
 なお,第39回総会で,このほかに白書部会を設けることが議題となったが,第5期ではそこまで運ばなかったことを認めていただきたい。また,従来の例に従って,第5期の報告書を出すことも了承されたい。

大塚(嘉)委員

 推薦協議会の委員は決まらなかったが,部会報告は了承されたのであるから,内容を具体的に新聞発表してほしい。

土岐会長

 それは,今までの例のとおり,自然に外部に伝わると思う。

児島委員

 国語審議会が文部省の所管であるよりも,各官庁を超越した特別の審議会とし,経費予算を多くし,地域的の不便も考えて,地域別にもやっていくべきであろう。審議は集約して,しかも気長にやるべきである。内容が重大であるのに,一般の会議のような形でやっているのはおかしい。過去の経験の必要であるが,新しい展開を期待する世論もあるから,大局的な構想を立ててもらいたい。

土岐会長

 では,これでいちおう散会する。


午後5:40 閉会

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