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議事 審議4
高津委員
両方のご意見を聞いていて,ごもっともであると思うが,これは舟橋委員のこの前の発言に近いが,一つの折衷案である。そのやり方は,この前推薦協議会の委員であった7人のかたにはご遠慮願って,それ以外のかたが,今後の推薦協議会の委員になっていただくということである。ご賛成が得られれば,前の7人のかたにはご遠慮願うことになるので変則ではあるが,両方の意見をとって考えた。
土岐会長
前の第5期の推薦協議会の委員のかただけを除くという形では,なぜ第5回だけを除いたのかというとこになる。
高津委員
難点があることは承知しているが,皆がいいと言えば,それでよいのではないか。
実方委員
この場の空気から考えると,舟橋委員のご意見もじゅうぶん考えたい気がする。前の総会から引き続いて,会長・副会長・部会長について,かなりいろいろの意見や批判が出ているが,それにもかかわらず,会長その他から,具体的に候補者を示すというのは適当でないように思われる。それでは,協議会の成立について,これらのかたがたにあまりに多くの比重がかかってしまうことであり,できるだけ避けていただきたいことである。舟橋委員の意見は,さらでだにご苦労の多い会長にさらに負担をかけることであり,かりに,案を示したあとで全員の同意が得られないとしたら,会長としてひっこみのつかないことになってしまうのである。きまりきった意見ではあるが,ここのところは委員の良識を信頼して,今までの意見をじゅうぶん考慮しながら推薦するということにして,互選することにしてはどうか。会長が独断の考え方に従って,推薦委員会の委員を推薦するようなことはご遠慮申し上げなければならない。
若原委員
あくまでも互選がほんとうである,会長の推薦とか指名とかは,ひとりの反対があればできないことであるから。
高辻委員
さきほど申し上げたのは,つまり会長が候補者を出して……という方法は,方法について全員の一致がないとぐあいが悪い方法であるということである。
児島委員
どんなに時間がかかってもいいから,論議を尽くしたい。推薦協議会全体として,国語審議会としてはどういうあり方が望ましいと考えられているか知りたいと思っている。重大な案件を第6期の国語審議会に任すということであるから,その委員を推薦する協議会の委員の選び方は,形式に走るだけではすまされないものと思う。最後が互選であることは明らかなことである。
土岐会長
互選にかわる方法の案が提出されたのであるから,そのほうに賛成されるかどうかについて決をとるか。
高辻委員
それはいずれも互選である。特別の手段を用いるかどうか,用いたそのやり方に異議がないかについての決をとればいいのである。
若原委員
会長指名による方法で互選するということに対しては,ひとりでも反対者があったらいけないのである。
高辻委員
その方法では,全員一致の承認が必要である。ひとりでも反対する者があってはいけないので,それだけわかれば足りるのである。
土岐会長
ひとりでもあってはいけないということであれば,決をとるまでもない。発言から見て,反対される方が多い。
西本委員
議事進行のために,けじめをつけてはどうか。
高辻委員
会長の判断は正しいと思うが,けじめをつけるかどうか。
土岐会長
けじめはついていると思う。
西本委員
なぜ,ちゅうちょされるのか。
土岐会長
ひとりでも異議があれば成立しないということであるから,けじめはついていると言っているのである。
颯田委員
確認してほしい。
西本委員
四方八方に考慮を払っていられるのは多とするが,そのようにしていれば,夜10時になっても会議は終わるまい。次から次へと議題を進めたい。
土岐会長
ひとりでも異論があれば成立しないのであるが,どのくらい反対があるかを知る必要はないか。
舟橋委員
高辻委員に伺いたい。ひとりでも反対があれば取り上げられないというのが通念なのか。そのようなこと,ひとりでも反対であれば,多数決でなくてもいいという判例でもあるのか。
高辻委員
方法論についての議論である。互選というのは,言うまでもなく各自の中から選挙するのであるが,今問題になっているのは,便法でやり,それを互選の形をとったことにしようとするものである。互選という形について,その方式について決めるという中では,多数決ということがあろう。また,その結果,多数の票を得た人が委員になるということも当然である。議事内容については,互選の方法・方式がまだはっきり決まっていない。万人の異議のないような方式だと欠陥が生じない。ご指摘の世上一般にも,その例が多いということについては,その結果について,異議なく選挙されたものと認めるという了解がついていればこそ行なわれているのである。その了解が事前であれ,事後であれ,ついていればいいのである。了解しないというのであれば,問題にならない。
舟橋委員
わたくしは,国語審議会では,全部多数決であると考えていた。ひとりが強情を張って,いやだと言うとこわれるものなのか。きょうの提案は,やはり多数決ということだと思っていたが,どちらが多いかわからないのに,決定的にせずに,ひとりでも反対があれば通らないということははじめてのことである。ほかのことではそのようなことはせず,このようなことで提案が葬られるようであれば,とうていわれわれの意見が通ることなどは考えられない。あしたまで任期があるが,それをやめてこの場から退席したい。このような推薦協議会の作り方では,自分たちの意見が通るわけはないので,おどかすわけではないが,やめさせていただきたい。
土岐会長
もう少し話し合っておきたい。
塩田委員
では,もう少し意見を述べたい。もし,このままで松坂委員の意見のとおりに,互選に移ったとする。国語審議会の方向は,カナモジカイの主張するほうへ進んでいるとさえ思われるのである。これは人の問題ではない。むしろ国語の根本問題であるから取り上げているのである。松坂委員は,個人の主張を固執したことはないと言われたが,送りがなのときはどうであったか。送りがなの最後の修正案を審議する会に列席したが,議論が沸騰した。活用形から送るだけでは難読・誤読が起こること,今までの慣習をどう生かすかの問題であり,あの程度でもまだ審議の余地があり,もう一度国語審議会でやるべきであるという主張をしたのである。あの送りがなのつけ方の方向は,松坂委員などの合理主義的な方向であった。それをそのまま貫けばまだしものことであったろうが,なまじわたくしどもがはいっていたために,実におかしなものになってしまったのである。カナモジ論の方向へ国語審議会が進んでいくということは,われわれとしてたえられないことである。そのために,今までどおりの互選に強く反対し,熟慮すべきであると主張し続けたのである。カナモジ化に進んでいく方向が変わらないかぎり,舟橋委員の発言と同様に,国語審議会の今後の方向に対して,深い憂慮をもって立ち去るよりほかはない。
高辻委員
国語問題そのものについていろいろのご意見は,わたくしにでも至極もっともと思われる点があり,そのような議論をたたかわされることは,別に驚くにたらないことである。しかし,任期満了を直前に控えた現実の問題として,塩田委員の言われた応用面にたずさわるひとりとして,ときどきのお尋ねに答えたものである。当面の問題についての一つのご提案は確かにりっぱな提案であるが,それは,各委員がすべて賛成することが必要なのである。ひとりでも反対があれば,それを取り上げることができないものである。
舟橋,塩田両委員の発言に関して,わたくしがお願いするということは筋合いが違うかもしれないが,わたくしどもは,公務上このほかの審議会にも出席する場合が少なくない。そのため,審議内容について反対だとか,少数では極端な意見に走りやすいということを発言されても不思議なこととは思わない。ただ,反対だからその席から退くということは,委員である責務を放棄されることになるので,できるかぎりは,その責務を放棄することを避けていただければ幸いであると考えるしだいである。舟橋,塩田両委員のご意見は非常に参考になり,圧倒的多数かどうかは別として,根本の意見・態度については,それを支持するかたもあることであり,委員を推薦する際の心構えとして役にたったものと考えられ,両委員の発言は決してむだなものではなかったと考えられる。
会議という機関では,一部の人,少数者の意見が取り上げられないことがあるというのは,多数決を主とする考え方からすれば,必然的な結果といえるのであり,自説が通らなかったからやめるということは避けていただきたいのである。会議というものは,しゃべることに意味があるのである。反対の立場をとるかたも,不幸にして全員の一致した賛成は得られなかったとしても,りっぱなご意見であり,少なくともわたくしとしてはある程度理解しているし,他のかたも多分影響されていることと考える。影響が決して皆無ではなかったのである。両委員には,任期を全とうしていただきたいと思う。
舟橋委員
高辻委員から慰留のおことばをいただいたが,自分の意見が通らないからすぐにやめると言ったのではない。10年間しんぼうしてきたのであり,この間に,会長・副会長がわたくしの意見を考慮してくださったために,これまで委員としていることができたのである。表音化などの主張とは関係ない公平なかたも委員の中にはいられるし,大塚,西本両委員に対しても何も含むところはないが,わたくしの命取りとなったのは,両委員の公平な意見であり,これがわたくしをこの座にいたたまれない思いに追い込んだのである。松坂委員の信念や主張は,10年前と同じであり,少しも変わっていない。審議会の審議というものが,テーゼとアンチテーゼとがあり,そして,アウフヘーベンされるようなぐあいにいくものであれば,高辻委員の発言をまつまでもなく,退席するということは申し上げないですむのであるが,きょうの松坂委員の発言では,まさに水と油である。わたくしが意見を述べ,なんらかの影響を与えようとしても,油と水であって,もはやここにいても何もならないんだという感を強くする。せっかく高辻委員から言われても,任期中責任を全うしたいと考えるのはやまやまであるが,こうしてこの席にいても無意味であるから,率先して任務を放棄してもやむをえないと考えるのである。
土岐会長
多くの意見が出たが,やはり規定に従って互選をやる以外に運営の方法がないのではなかろうか。
高辻委員
わたくしもそのような気がするが,千種委員の意見はどうか。
千種委員
ご意見と同じである。互選とある以上,規則に反することはできない。互選を別の方法でかえるということは,高辻委員の説明のように,全員の賛成がないとぐあいが悪い。わたくしは,審議会に出て来て,舟橋委員が出席されているのを見ると,非常にうれしく,楽しい気持ちになるのであり,舟橋委員は,そのような人がらのかたである。今まで委員として出ていられたのであるから,互選にも参加していただきたい。互選された協議会のかたがたが,いかなる委員を推薦するかは,そのかたがたの判断によることであるが,舟橋委員の意のあるところも,じゅうぶん含んでいただいて,信頼するよりしかたがない。別の方法について,全員の賛成が得られないかぎり,互選に賛成していただきたい。
土岐会長
互選を行なうについて,選ばれたあとの心構えをも含めて,選んでほしいということである。
宇野委員
互選をする前には,このような意見があったから考慮して互選するということで互選をしてしまう。推薦協議会ではこれらの意見がじゅうぶん考慮され,そのとおりになるのであれば,問題はないのであるが,方法はともかくとして,結論が大事なのであるから,もし,もとのままであったらどうするか。この点か考慮されて,新しい委員が選ばれるのならいいが,今の審議で,かりに,互選することを,そのような方法を承認して推薦委員を選んだとするとする。どういうかたを選ばれるかわからないが,推薦協議会ができてしまうと,それがどのような委員を推薦したとしても,われわれとしては,無条件に承服したようなものである。われわれの任期は,すぐ終わる。われわれの立場から考えて,われわれが心配するのは,そうした事態となったとしたら,つまり,意に反する委員構成で次期国語審議会が成立した場合には,われわれの責任が実に重大であるということである。そうした方法をのんだということが,重大なのである。
土岐会長
ごもっともであるが,互選したという責任が委員の推薦にまで及ぶというのはいかがなものか。推薦協議会で行なった委員の推薦が不適当と思われたときは,われわれめいめいが批判を加えることはあると思うが,推薦が適当でないということはわれわれの責任でないと思う。推薦の責任の大部分は協議会が負うべきであり,そのためにも,じゅうぶんに考慮して推薦をすべきであるということであろう。
実方委員
わたくしどもが協議会の委員を互選しようとするときに,舟橋委員がこの席にあって,いろいろと意見をお述べになるということは,それだけでも,参会者多数にとって有益なことであると思う。
推薦協議会でどのような案を出そうとも,それは協議会自体で考えることであり,われわれは,文部省令に従って,忠実に行ないたいと思うだけである。そういう形で選んだときに,賛成・反対などを比例代表として選ぶのでなく,議を尽くしたうえで,互選でやることを希望する。推薦の場合,10名のときも13名のときもあろうが,予定した人数より,たとえば,ひとり多いからどうするといった場合には,できるだけ多い線で考えていただきたい。推薦協議会に対する注文は,それぞれの委員がもっているであろうから,それは,互選が終わり推薦協議会の委員が決定してから発言し,そのかたがたに含んでいただくことにしたい。議を練ることは必要であるが,出た意見の数によって比例代表などということは考えたくない。
土岐会長
互選の方法について念のため伺うが,人数を決めて投票した結果,最後に同点となったときはどうするか,そういう場合のことも決めておかなければならない。
西本委員
10人と決めておく。その他の問題が起こった場合は,審議会の良識にまつということではどうか。
若原委員
10人と決めて,10人目に同点の者が何人かいたら,それについて決戦投票をやればいい。はっきり人数を決めておけばいい。
百瀬委員
数字ではっきりさせておいたほうがよい。同点者が何人かいた場合は,予定された人数になるまで投票によって選んでいけばよい。
児島委員
初めから人数を決めておくことに賛成である。同点者が出た場合には決戦投票をするとして,はっきり決めておくことである。舟橋委員は,場合によれば,退席するといわれた。個人の考えはどのようであれさしつかえないが,審議会の委員として互選には参加してほしい。審議会の中の何派が合理的な主張をもっているかなど考えていないが,かりに,流れがあるとするなら,その流れのかたたちが,最善を尽くして自己の主張を述べ,推薦協議会の推薦の際に,その主張をじゅうぶん考慮してもらうのが最も正しいやり方であろう。舟橋委員たちが互選に参加することを前提にするのでなければ,人数など決めてもしかたがないのでないか。互選に参加するということが前提である。
西本委員
賛成である。
土岐会長
12人を互選することにしたいが,どうか。
舟橋委員
やはり退席したいと考えているが,児島委員も委員として任期を尽くせと言われ,千種委員も同じことを言われた。わたくしとしては,5分ばかりで退席を考えたいし,児島,千種委員などとも相談したい気がするのである。
土岐会長
互選の人数を決めてからではどうか。
児島委員
舟橋委員の発言に,慰留されているので話をしたいと言われる。今ここで,2分か3分退席してもいいか。
土岐会長
12人の委員を選ぶこととし,互選をするまで休憩したい。(賛成)12人の中には,本日欠席の委員のかたもむろん含めて選出していただく。
では,これから10分休憩する。(10分間 休憩)
〔再開〕
土岐会長
ただいまから再開する。互選は,12人連記,委員の名まえを印刷してある用紙に,○をつけていただく。12人のところに同点者があったら,決戦投票とする。
成瀬委員
発言したい。
土岐会長
今述べたのは,さきほど決定したことについての事務的な説明である。互選のことはすでに決まっていることをお含みのうえ,どうぞ。
成瀬委員
ただいま休憩中に,舟橋,山岸,塩田,宇野委員とわたくしが,これまで議論されてきた推薦協議会の問題について話し合い,どうしてもわれわれの主張が入れられなければ,退場するかどうかについて相談した。その結果についてご報告する。その前に,ひとこと申し上げる。西本,大塚(嘉)両委員は,省令の条文どおり互選することが民主的であるといわれる。それは,形のうえでは確かに民主的ではあるが,この国議審議会の成立から考えるとどうであろうか。この審議会は,戦後まだじゅうぶん論議できない状況にあったとき,すなわち進駐軍のいたころに作られたものである。元来,これまでも国語政策の案は,なくなられた保科孝一氏が数十年前に作られた案がもとになっているということである。戦争中,ある職についていたために,戦後パージにかかった人が多い。ある人がその職にいたためにパージにかかったかどうかはともかくとして,当時の有力な国語論者が,この会合に,はいることができなかったという事情がある。この意味合いで,国語審議会は,初めから不備の点があって発足した会であったという認識を,わたくしはもっている。
今日ただいままで,われわれはその不備を指摘し,適当な処置をして正常な国語審議会にしようということを主張してきた。この前の総会ときょうの総会で続けて申し上げたことは,ことばと文字がいかなるものであるか,文字が国語や言語生活のうえにいかに重要な役割をつとめているかということである。表音主義的な主張をもつ人が,その主張をあくまでも貫こうとするかぎり,国語審議会を正常な状態にもどすことはできないものと考える。今までの国語審議会が,このような方針できていることは,ご承知のことと思う。このような状態のもとで行なわれる互選は,前にも述べたように,永久政権を続けるにすぎないものであるとして,われわれ5人は,退場することとした。
さきほども申し上げたとおり,わたくしの,会長その他に対しての発言が,ときに激烈にわたったが,これは心情がそういうところにいたったためのもので,この際,お許し願いたい。土岐会長個人に対しては,文学史家としての立場から,今後ともいっそうのご示教をいただきたいものと思っている。ただ国語審議会においては,考える立場が異なっているため,この互選には加わらないで退場する。
〔宇野,塩田,成瀬,舟橋,山岸各委員退場(午後5:55)〕