国語施策・日本語教育

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次第 その他

阿部会長

 次に,この審議会の運営について,ご意見をお聞きしたい。同時に,この説明についてのご質問があればお願いする。

横田委員

 国語審議会の委員として何名かははじめてであり,国語問題については全くの白紙である。今の説明でだいたいわかったが,問題がどういうところにあったのか,審議の内容,経過を知りたいと思う。最近の審議の経過の印刷したものはないか。次に,国語問題の審議の基準となるもの,国語白書を見ておかなければならないと思うが,どうか。そして,この審議会がどのくらいの回数を開き,どういう問題を取り上げるのか。次の会合までに研究してくる必要もあろうから,お聞かせ願いたい。

緒方事務次官

 国語白書というのは,正しくは「国語問題要領」といい,昭和25年に国語審議会が審議の手がかりとして作ったものである。そのプリントをお配りする。最近の国語の問題点については,ご参考までに申し上げたい。
 戦後の国語審議会によって新しい施策が次々と打ち出された。政府としては,これを内閣訓令として行政機関に実施する一方,告示として一般にもその趣旨の徹底を図ってきた。国語については,二つの考え方がある。一つは,杜会生活を向上させ,教育上の負担を軽減するため,国語をできるだけやさしくしようとする考え方,もう一つは,文化の継承,創造という面から,国語に対して,みだりに人為をもって改変すべきでないという考え方である。
 後者の考え方をとるかたがたから,戦後の国語政策は,個人の自由な表現活動を制限するものであり,過去の文化,特に古典が読めなくなり,また社会の要求にも合致しないものがあるという批判が行なわれた。そして,国語の施策が内閣訓令という形で実施されることに反対し,案そのものをもっと国民に周知徹底させるべきであるという意見が述べられている。
 漢字の問題をとってみても,もっと漢字の数をふやし,字体を旧に復し,音訓表を撤廃すべきであるという意見もあれば,かなづかいについても,旧かなづかいにすべきであるという意見もある。送りがなについては,例外が多く,表音の傾向を示すものであるから再検討すべきであるという意見もある。
 これらのことが問題点であると思うが,文部省としては,国語の大綱について決めていただくというのが,大臣あいさつの趣旨であります。

白石委員

 国語審議会の運営に関することでお尋ねしたい。
 東京新聞に,この審議会のほかに専門委員会をつくり,そこで調査研究した結果を,審議会で審議するという,いわば二重構造になるというようなことが報道されていた。もし,そういうやり方をやるなら,委員として知っていなければならないから,文部省の意見をお聞きしたい。もう一つ,国語の問題は歴史につながるものであるから,専門家の意見を尊重しなければならないことを申し上げる。

緒方次官

 この段階において,審議会そのものでは大綱的なものを審議し,専門的なことは専門調査員を設けて調査し,その案を審議会にはかって決めてはどうかという考えをもっている。これにしても,皆様のご意見を拝聴して,従っていきたい。別に確定した意見をもって臨んでいるわけではない。

梅悼委員

 国語の問題については,国立国語研究所が活動していることを存じている。「国語問題要領」にもあるように,国語政策の立案に参考となる資料をつくるということになっているようだが,国語審議会との関係はどうなっているか。

田中局長

 国立国語研究所は文部省の所轄機関であり,国語審議会とは直接の関係はない。しかし,国語の問題を考えていく上には,基礎的なデータが必要なことはいうまでもなく,従来も国語研究所から,文部省や審議会に資料を提供してもらい,それを参考しつつ審議してきた。その点では,密接な関係があり,今まで留意してまいったつもりである。今後もなお,留意していきたいと思う。

森戸委員

 わたしが文部省にいたころ,国語研究所ができた。国会からも国民の国語運動連盟からも要望があり,作った。純粋の研究は,各大学の研究室でやればよく,これは国語政策と関連する事がらを研究するのが主要な目的の一つであったと記憶している。国立国語研究所と国語審議会とは密接な関係にあることは確かだが,審議会で扱っていることに研究所はどれだけ取り組んでいるか。科学的な調査を行なっているというが,ふじゅうぶんなものがあるのではないか。外からではわからないが,この前の国語論争は感情論であり,科学的な基礎が欠けているように思う。国立国語研究所の成果によって,議論が進められるようになりたいものである。大学の研究所と違う意味で,国語審議会の課題に即しながら科学的調査研究をしてもらいたい。もっと密接になってよいと思う。

藤堂委員

 国語審議会としては,大筋のところをやって,具体的なことは研究所でやってもらうとよい。実施上の経験のあるもの,たとえば,当用漢字表などを材料にして大方針を検討してはどうか。それがよいものであれば再確認し,手直しが必要なら専門委員会を設ければよい。すでにできているものからやっていただけるとよい。送りがなは,まだ実施の期間が短いから,古いものからもう一度やってほしい。

吉田委員

 国語研究所の資料が,これまでの国語審議会の決定に,どれくらい実績として貢献してきたか,伺いたい。
 将来,国語審議会から国語研究所にこういうことを研究してもらいたいという希望が出た場合,予算と人員とをもっているかどうか。

田中局長

 従来,国語研究所の基礎的な研究成果については,国語施策を決定する場合には,貴重なデータとして参考にして決めてきたつもりである。あるいは,ふじゅうぶんな点もあったかと思う。われわれも,最近の批判もあることゆえ,さらに基礎的な調査を進めるため,来年度の国語研究所の事業として,表音文字である漢字とかなの機能と本質をどうとらえるか,話しことばの点についてもさらに研究を進めていく意味において人員要求をしている。本格的に内容を充実していきたいと考えている。

梅棹委員

 国語研究所長も見えていることであるから,どういう形で連絡をつけていくか伺いたい。この席上で,これこれの資料がほしいというときに,提出してもらえるのか。

田中局長

 従来も資料の提供を得,意見もきいているので,今後も国語研究所の協力を求めたいと考えている。

井深委員

 わたしはしろうとであるが,国語問題は時間がかかるものである。簡素化を今やっても,生きてくるのは10年先となる。今までのはわれわれの経験というか,学んできたことを土台として考えているのだが,もっと先の時点で考えなければならないと思う。小学校で教えている文字のどこにむずかしさがあるかを研究しなければならない。将来文化が変わってくることをも予想しなければならないであろう。かたかなとひらがなの問題にしても,小学校では正しい形を与えなければならない。ひらがなでは,正しい形がとりえない気がする。完全に科学的にはあくできるものからはいるのがいちばん簡単である。ひらがなをなくすことはできないが,どれがいちばん能率的かを考えてほしい。

熊沢委員

 今までの業績を見ると,ことばを,人間から離れて社会に存在するものとして,それを対象として整理してきたもののように思う。ことばを使う人間そのものを考えることが必要である。そのような心がまえをもつと同時に,科学方面や文学方面で,もし言語文学をある程度整理統一したら,どういうさしつかえが生ずるか,そういう方面のジャンルと,ことばを使う人のほうも考えなければならない。国語教育では,国語の施策をどう取り入れるかについて考えている。国語審議会にも,国語教育に関する事項というのがあって,取り上げることができるようになっている。このように,あげられる条件をできるだけあげて,ことばを人間に直結しながら考えていってもらいたい.国語研究所に資料を出してもらって,検討を進めていきたいものである。

阿部会長

 いろいろ意見が出たが,この審議会をどう運営するか。会長のいすにすわったばかりでまだよくわからないが,いま一,二回総会を開いておのずからおちつくところを待つか。私案として,運営委員会をつくって,方式を考えてもらうか。どうしたらよいか。

細川委員

 運営委員会を設けるか,設けないかについても,意見があることと思う。一,二回はかってにしゃべらせてはどうか。名論卓説,あるいは「めい」の字が違うかもしれないが,つまらんことを言ったり,いいことを言ったりするのを聞く必要がないか。

阿部会長

 一,二回続ければ,おのずから向かうところがあるというご意見のようだが……。

西尾委員

 希望を述べさせていただきたい。一つは,国語審議会がどういうことをやってきたか,どういう問題があるかという横田委員のご質問に対し,次官がお答えになってはっきりしたことである。今までの国語審議会が国語改善のためにどういうことを考えてきたかということについて,簡素化ということばで説明された。表記にしても,はたして簡素化ということばで尽くしているかどうか。わたしは,当用漢字表,現代かなづかいをつくったときの臨時委員であった。当時は,簡素化という考え方ではなかった。国民に,もっと親しみやすい,わかりやすい書き表わし方をという方針で考えたように思う。外来語であろうと漢語であろうと,耳で聞いてよくわかることばは親しみやすく,文字を思い浮かべなければわからないことばは耳遠い。
 簡素化といえば,文化の程度ということが問題となってくる。表記の方法をわかりやすくすることが文化の程度を下げるというのはわからない。こういう考え方を土台としたら,国語審議会の理解として欠けたところが起こりはしないかと懸念した。国語審議会の仕事に理解をもった批判が必要ではないか。批判の中には,かつて制定された当時臨時委員であった者から見ると,誤解を前提としているものがあるようである。これは国語問題解決のために不幸なことである。単なる感情論を越えて,実際の国語問題そのものについての考え方を理解し,国語改善なり教育なりの向上に最善の案を政策として確定する必要がある。
 国立国語研究所については,昨年まで所長をしていた責任上,それに関して申し上げる。国語研究所ができたときは,国語課と国語審議会と国語研究所とは三位一体であるといわれた。しかも,めいめい独立の機関で,国語審議会の下部構造でもなければ,国語課の下請けでもない。研究所は,国語の独立した研究機関で,仕事の上では協力しようということで出発した。当時の文部大臣森戸委員からご説明があったが,国語審議会は任期が2年であるため,その間に報告ができるような調査をしなければならないが,国語研究所はそういうことではない。もと文部省に国語調査会があり,廃止されて,昭和9年に国語審議会ができた。当時は,審議の資料になる調査研究が足りなかった。昭和23年12月に国立国語研究所設置法案が国会にかけられたが,これは当時の各種機関の強い要望があったからである。すなわち,国語問題の解決はきわめて重大である,かつての文部省の機関ではできない,もっと大規模でなければならない,政変のたびに動くような無力なものは,国語問題のような深く広い研究はできないといったようなことで,比較的規模の大きい研究所ができた。
 設置法の第1条には,「国語及び国民の言語生活に関する科学的調査研究を行い」とあるが,これが主たる任務であり,「あわせて国語の合理化の確実な基礎を築く」というのが設置の目的である。昭和24年にわたしが所長に任命されてから,所員会議を行ない,この研究所は国語の科学的な研究を目的として設置されたが,大学の研究室とは異なり,われわれの国語を合理化し,国語問題を解決するための資料を科学的に研究しようということになった。まず,現代国語の実態を調査し,どういう問題が発生しているかを調査することになった。
 国語審議会と足並みをそろえる資料は,研究所が設立されると同時にはできない,研究の時間をいただいて,しばらくは,国語研究所は何をしているかといわれるようでなければならないと話し合っていた。審議会が必要とするような基礎資料は,機関の性格上時間がかかるものなので,国語研究所は協力しないという非難を受けたことを承知している。国語研究所では,現代語についての研究業績を報告書のような形で刊行しているので,ご利用くだされば,審議の資料になるものもできていると思う。今までも研究報告がお役にたってきたつもりである。
 国語研究所の性格と任務に関したご意見を承ったので,当時の責任者であった関係上,ご説明申し上げ,国語研究所を理解していただきたいと思った。

阿部会長

 いろいろお話もあろうかと思うが,本日はこのへんで閉会とすることにし,次回はいつがよいか。では,会長に一任していただく。本日は,どうもありがとうございました。

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