国語施策・日本語教育

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次第 第1部会

森戸会長

 本日の議事は各部会の審議経過の報告をうかがうことであるが,なお,そのほかに,吉田委員の提案について審議する予定である。

相良第1部会長

 昨年10月の総会以降の第1部会の審議経過の報告を申し上げる。第1部会は,漢字に関する小委員会とかなに関する小委員とに分かれて審議を進め,その後,それぞれ5回の会合を開いた。漢字の小委員会は当用漢字表について,かなの小委員会は送りがなのつけ方について再検討をしている。両委員会ともある程度審議は進んでいるが,まだ部会としてまとめるほどの段階になっていないので,ここでは小委員会の審議経過を申しあげる。
 漢字に関する小委員会では,まずこれまで,すなわち,第1期・第2期,第5期,第6期の審議会で当用漢字表を再検討してきた審議の結果ならびに当用漢字表の性格,選定の方針・基準について検討した。その中で,特に問題となったのは,当用漢字表が日常使用する漢字の範囲を示したものであるという点である。この範囲という考え方を基準または基本という考え方に改めたらどうかということである。また,表外字を含む語については,できるだけ言いかえ・書きかえをし,漢字・かなのまぜ書き,いわゆるだき合わせはやめるという立場に立って,やむをえない場合には表外字を使ってふりがなをする方法をとるべきだという意見も出た。範囲を,基準なり基本なりに改めて表全体をゆとりのあるものにするということについては,これまで当用漢字を実施してきた公用文,教育,新聞等との関係もあるので,今ただちに結論を出さず,いちおう基準と考えるという線で,具体的に実際の審議を進めることになった。
 そこで,当面の審議資料として,国立国語研究所が昭和31年度の雑誌について調査した報告,「現代雑誌九十種の用語――用字第2分冊・漢字表」を取り上げて,使用度数の少ない当用漢字と,ある程度使用度数のある表外漢字とについて審議・検討する一方,日本新聞協会に依頼して,新聞方面における漢字使用の状況ならびに意見を提出してもらうことにした。
 最初,当用漢字表の中から削る字について審議したのであるが,その際,審議の態度ならびにその過程で考慮されるべき事がらとして,次のような発言があった。

  1. 調査資料に現われた使用度数は尊重するが,これのみにはこだわらない。
  2. 日本国憲法に使われている漢字でも,日常あまり使われないものは,必ずしも入れなくてもよいのではないか。
  3. 当用漢字補正資料の漢字については,特に考慮したい。
  4. 字形の繁簡や漢字構成上の基本型であるかどうかというような点も考慮したい。

 当用漢字表の中で使用度数の少ない字について,特に問題になったのは30字内外である。
 次に,当用漢字表に加える必要があると考えられる字,および固有名詞などの字として考慮すべき字については,現在審議中である。現在までのところ,200字ほど審議した。
 なお,新聞協会からは,第1次の回答として,次のようなことを回答してきた。さらに具体的なものは,もう少しあとになるもようである。

(回答文)

 新聞放送界は,当用漢字表の再検討によって,表記上の不便・不合理が是正されることは歓迎するものであるが,字種の大幅な入れ替え・増減が行なわれると,表記方式や新聞製作の過程に混乱を生ずる恐れもあり,影響するところが大きいので,当用漢字表の再検討に当たっては,次の事項に留意されることを要望する。

  1. 補正案を含めた字種の入れ替えないし増減は,必要最小限度にとどめること。
  2. 審議に当たっては,広く各方面の意見を参照し慎重を期することはもちろん,成案は即時実施することなく,一定期間世間にさらして批判を仰ぐこと。

このほかにも,音訓表・字体表について意見を述べてきている。
 次に,かなづかい,送りがなの小委員会の審議は,これまでのところ,主として,基本的・原則的な問題を中心にしているが,中でもくり返し論議がかわされたのは,送りがなに基準は必要かどうかという問題であった。多数の委員は,やはり,なんらかの基準は必要であるという考え方である。しかし,基準などはいらない,したがって,現行の告示は廃止して,送りがなは各自が自由に書くのにまかせることとして,この審議は打ち切るのがよいという意見をくり返し強く主張された委員もあった。
 しかし,このご意見も,よくよく話し合いを重ねてみたところ,全然なんの基準もいらないというのではなくて,複雑な規則で人をしばろうとすることに対する反対意見と了解されたのである。その結果,小委員会は,現行の告示の基準について,問題となる点を洗いあげて,今後どのようにしたらよいかを考えることとした。
 この点について,前期の国語審議会の報告書には,「全体として送りすぎている点,それから例外や許容が多すぎる点などが取り上げられる。特に,複合名詞の送りがなが問題となる。」というように指摘されている。小委員会の席上でも各委員からいろいろご指摘があったのであるが,それを要約してみると,考え方としては,だいたい四つばかりにまとめることができると思う。
 その第1は,現行のものの送りすぎを改めようというのである。
 第2は,現行の規則を整理して,もっとすっきりしたものにしようといろ考え方である。
 第3は,送りがなは語の識別のためにもなるのであるから,その見地から音訓表や現行の送りがなの規則を見直してみようという意見である。
 第4は,音節の数をもとにして考えたら,もっとすっきりとした妥当な規則ができるのではないかという考え方である。
 この四つは,互いに重なりあっているのであるが,そのいずれを中心にして考えるにしても,現行の基準の問題点を洗いあげることが必要である。そのための資料として,国立国語研究所から,雑誌九十種の送りがなの実状を調べたものを出してもらった。また,国語課からは,新聞の送りがなの実状を比較した資料を出しもらった。そして,これらのものを利用して,今後,具体的にどうしたらよいかの案を考えてもらうために,小委員会の中に特別委員会を作り,その仕事にあたってもらうことになった。特別委員は,高津委員・寺西委員・中田委員のお三方にお願いすることになり,第1回の会合を3月2目に開いた。いずれ仕事がある程度まで進んだら,小委員会や部会の皆さんにもご検討いただいた上で,総会にはかることになると思う。
 以上のほか,小委員会では,審議の立場と方法についても,いろいろ意見が出た。そして,国民一般のよりどころとして,最終的には辞典の形にまとめたものを作るべきであろうが,その前に審議会としては,やはり全体としての方向を定め,基準を考えることが必要であろうということになった。とのような了解で,今後,小委員会の審議が進むものと考えている。

森戸会長

 これは,第1部会に設けられた二つの小委員会のそれぞれの審議経過の報告であり,さらに各小委員会で検討の上,それぞれ第1部会にはかり,改めて総会に報告されるはずのものであるが,ご意見があればこの機会にうかがって,今後の審議の参考にしたい。

宇野委員

 当用漢字表の性格についてであるが,小委員会では,いちおう基準または基本という考え方で審議している。今後,審議を進める関係もあるので,範囲とするか基準とするかについて,総会の判断をうかがっておきたい。この段階で判断するのが早すぎるということであれば,最後の総会では明らかにされると考えていいか。

森戸会長

 部会としての検討を終え,第1部会の報告として総会に提出された場合に,その点を考えるのが順序であろう。

西原委員

 範囲は運用の概念であり,基準は判定の概念である。この両方を並べて当用漢字表の性格を議論しても問題の解決にならないのではないか。

宇野委員

 基準とは最低の必要限度という意見で,義務教育で少なくともこれだけはぜひ習得させる必要のある基本的なものであり,社会では当然,これ以外のものの使用が許されるわけである。範囲とは概念としては,これ以外,1歩も出てはいけないというものである。

吉田委員

 ある基準を示し,これ以外は使えないという制限を課するような方針,したがって,いわゆる漢字とかなのだき合わせの表記を奨励することのないようにしてほしい。

西尾委員

 必要最小限度のものを義務教育で教える基準とすると,社会ではそれ以外の漢字が使われているのであるから,当用漢字表を基準と考えるのが合理的であろう。しかし,制定の際,あえて範囲としたことも尊重しなければならない。それは義務教育の場で徹底して教える以上,これだけ覚えていれば社会生活が営めるという保証が必要であり,少なくとも公用文や新聞の報道欄では,これを範囲と考えざるをえなくなる。もっとも,新聞の文芸欄や専門的な記事は別扱いであるが。

市原委員

 範囲をネガティブでなく,ポジティブに解する意見には賛成である。新聞等でもふりがなを活用すれば,なにも問題はなくなる。

森戸会長

 かなづかい・送りがなに関する小委員会の報告について意見はないか。格別のご意見がなければ,第2部会の報告をしていただく。

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