国語施策・日本語教育

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次第 第1部会

森戸会長

 次に,昭和40年7月31日付けで社会教育局長から調査局長に就任された蒲生芳郎氏を紹介する。(蒲生調査局長を紹介。)では,引き続き,各部会の審議経過報告をお願いする。

宇野委員

 議事進行に関してお願いしたい。これまでこの総会では吉田提案の採否が問題になっているが,その取り扱い方によっては部会の審議経過報告の修正もありうると考えるので,まず,吉田提案から先に審議されたい。

森戸会長

 まず,部会の審議経過を承り,その後に他の問題も審議したい。では,第1部会から審議経過報告をお願いする。

相良第1部会長

 第1部会の審議経過を報告する。
 第1部会は,国語表記の基準について審議し,これまでの国語施策の問題点について検討することを任務としている。昭和39年5月以来,部会を開くこと5回,別に小委員会19回,特別委員会5回を開いた。
 会議の進め方や検討すべき問題について語し合った結果,当用漢字表・同音訓表・同字体表などの問題について審議する「漢字に関する小委員会」と,現代かなづかい・送りがなのつけ方・外来語の表記の問題について審議する「かなづかい・送りがなに関する小委員会」との二つの小委員会を設けて審議を進めた。漢字の小委員会では,まず,当用漢字表の問題を取り上げ,かなの小委員会では,送りがなのつけ方の問題を取り上げた。いずれも,いちおうの審議結果を得たが,最終的な結論に到達するまでにはいたらなかった。


当用漢字表の再検討について


送りがなのつけ方の再検討について

森戸会長

 ただいまの第1部会の報告に関し,質問なり意見なりを承る前に,皆さんのご了解を得ておきたいことがある。それは,今期の部会報告の取り扱い方についてである。先日の運営委員会で相談したところ,今期の報告は両部会とも,あくまでも審議の経過であって,まとまった結論というものではなく,今後,さらに慎重な検討を要するものであるから,これは総会に対する報告だけにとどめ,次期に申し送ってはどうかということになった。そういうことであるから,この点をお含みのうえ,質問なり意見なりを伺いたい。

藤堂委員

 第1部会の報告のなかに,当用漢字表の「まえがき」の修正案があり,そこには「この表以外の漢字を使用する場合には,読みがなをつけることが望ましい。」としてある。ところが,第1部会に提出したわたしの原案では,「この表以外の漢字をぜひとも用いたい場合には,ルビまたは読みがなをつける。」となっていた。つまり,わたしの原案では,これまでの当用漢字表の行きすぎを多少手直ししたいという気持ち,同時に,第7期国語審議会の発足した目的もそこにあったという考え方から,世間一般ではあくまでも当用漢字表の範囲内でとするけれども,それでは文筆家や新聞社などで不便をこうむるという場合にだけ当用漢字表外の漢字の使用も認めるという趣旨であった。しかるに第1部会では,わたしの原案から「ぜひとも」を削除し「望ましい」をつけ加えて,漢字の無制限な使用を助長するおそれのある表現に改めてしまったが,はたしてこれでよいかどうか,総会の席上で各委員のご判断をいただきたいと思う。

市原委員

 わたしがこの席上で発言をするのは,伝統的なものを無視する戦後の傾向は行きすぎであるという観点に立って日本の在来の文化を高く評価し,かつ,愛するうえの発言であること,ならびに親しい仲である藤堂委員を個人攻撃するかたちになっているのは,大義親を滅するという意味から発言していることを,まず,承知しておいてほしい。藤堂委員は第1部会において,ある委員の質問に対し,日本の国語から漢字を全廃するという意図である旨を明言されたのである。

細川委員

 市原委員の発言は初耳である。事実そうであるなら,これは根本的な重要問題である。藤堂委員に真意を伺いたい。

吉田委員

 藤堂委員は愛川委員の質問に答えて,究極において漢字全廃を目標としていると・確かに明言された。これは細川委員のいわれるとおり根本的な問題であり,わたしの提案はまさにこの漢字全廃の問題をさすものであるから,この問題から,まず審議してほしいがどうか。議事進行上迷惑ならば,のちほど,時間は与えてほしい。

森戸会長

 その問題は,部会報告のあとに,と考えている。ただし,提案趣旨・説明については前回の総会でじゅうぶんに時間を与えてあるので,承知しておいていただきたい。

藤堂委員

 こどもの議論のようであるが,わたしが愛川委員の質問に答えたのは,1,000年,2,000年先のことで,つまり,今後,漢字の使用度が現状の平行線をたどるか,増加するか,滅少するかとなると,いずれは長い歴史の流れから,漢字は先細りになるであろうと申したにすぎない。

細川委員

 1,000年先のことまでわれわれが,審議するのは,まことにこどもらしい着想であるが,藤堂委員は,いずれそうなるであろうということから,そちらに近づけるのがたいせつだといわれるのか,そこを聞きたい。

藤堂委員

 漢字はいずれ減少していくと考えるものの,当用漢字表による漢字制限が急激にすぎた傾向もあると思われるし,まして,それによる不便や抵抗のあることを考えれば,もっとも現実的な手直しを考えていかなければならないと思っている

宇野委員

 藤堂委員は,この「まえがき」の修正案では漢字の使用を助長するおそれがあるといわれるが,漢字がいずれ減少していくといら情勢にあるものなら,漢字を野放しにしてもそういう心配は起こり得ないと思われる。それに,漢字は究極において零になるということと,零にはならないということとは非常な違いであり,わたしには漢字が零になるとは考えられない。それよりも,われわれは現時点における国語問題を審議し,そして,日常生活に不便をきたさないように国語政策を考えていくことが,国民の文化生活をより向上させるものであると考える。次に,さきほどの第1部会の報告では,われわれが当用漢字表の性格を審議する前に,具体的な字種の選定にはいったかのように受け取られるが,事実はそうでなく,われわれは当用漢字表の性格をいちおう「基準」「基本」と考えるという了解のもとに字種の選定を行なったということを知っておいてほしい。

森戸会長

 藤堂委員の漢字全廃に関する発言については,遠い将来のことでもあり,ここに持ち出して論議するのは生産的でなく,おかしいので,この問題は会長が預かることとしたい。

佐藤委員

 当用漢字表の再検討における審議の態度,ならびにその過程で考慮されるべきことがらとして,「資料に現われた使用度数は尊重するが,これだけにこだわらない。」とあるが,「こだわらない。」ということの意味がよく理解できない。それにわたしは,当用漢字を決めるにあたっては,現代語における基本的な語いと並行して考えなければならないと思っている。基本語いといっても1次的,2次的というふうな区別はあるにしても,どうしても必要な,また,ぜひ義務教育で教えなければならないというものがあるはずである。特に,日本語における同音語は,文字の上で区別していかなければならないから,当用漢字音訓表とも関連して考える必要があろう。第1部会ではその点まで考慮されたものかどうか。

相良第1部会長

 漢字の使用度数にこだわらないでというのは,必ずしも使用度数の高低だけにとらわれることなく,その漢字がたくさんの熟語を構成するかどうかとか,漢字構成上の基本型であるかないかとかの,あらゆる点を考慮してということである。
 また,基本語いの問題にしても,わたしは正確にどれが基本語いであるかということは知らないが,現代語として日常生活に必要なもの,ぜひ,漢字で表わさなければ意味が不明確になるものなどを,いちおう,考慮して検討したつもりである。

塩田委員

 第1部会の報告では,「当用漢字表の再検討については,音訓表や字体表とも関連があるので,今後,それらの審議をしたうえで,総合的に最終的な結論を出すことが望ましい。」としているが,最終的な結論というのは,「まえがき」の修正部分をも含んでのことか,わたしの了解では,第1部会では,少なくとも「まえがき」については,すでに決定したように記億しているがどうか。それに,「このような『まえがき』では漢字の無制限な使用を助長するようになりはしないかという意見もあった。」ということであるが,第1部会の状況では,これは,ごく少数意見にすぎなかったものである。なお,日本文芸家協会から国語審議会長あてに吉田提案に関して質問状が寄せられているが,それに回答する必要があるかどうか,吉田提案と関連してその問題も審議してほしい。

平林委員

 文章を書く者の立場としては,どうして現在の当用漢字表から「煩・但・悦…」など多くの漢字を削除するのか,理解に苦しむ。藤堂委員は1,000年後には漢字はなくなるということであるが,こういうことをするから漢字がなくなるのではないか。

市原委員

 藤堂委員の考え方では動植物名はかな書きにするということであるが,万葉以来発展してきた日本文化を,自然を愛し平和を愛する国民がどうして動植物名をかな書きにしなければならないのか。わたしは日本民族のひとりとして,このような考えはぜひとも改めてほしいと思う。

池田(弥)委員

 審議経過というのは部会から総会に対する報告であって,これが国語審議会の決定にならないというなら,そういう点については,今後,さらに慎重に審議しようということでよいのではないか。それに動植物名をかな書きにすることと,国民が自然を愛し平和を愛することとは性質の違うものであり,また,そういう表記をいちいち昔にもどしていては,第57回国語審議会を第1回にもどさなければならないことになるので,こういう議論は議事進行上,会長に預かっていただけばよいのではないか。

森戸会長

 質疑は部会報告のなかの具体的な問題点についてお願いする。基本的な考えがあっても簡潔にお願いしたい。

吉田委員

 当用漢字表から削除される漢字のなかに「丙」があるが,この字は来年は「丙牛(ひのえうま)」で盛んに使われる字である。再考してほしい。

細川委員

 当用漢字表の再検討では,刑法関係の漢字は加えられ,憲法関係の漢字は削除されているが,何か片手落ちの印象を受ける。憲法は国家の最高法規でもあるので・削除された漢字を全部復活せよとはいわないが,よく考え直してほしい。それに官庁用語の基礎的なものについても検討してみる必要があろう。

愛川委員

 細川委員の意見に全面的に賛成である。憲法は義務教育上,ぜひ読ませなければならないし,また,広く普及する必要があるので,憲法用語の漢字は,そのまま残しておきたい。

塩田委員

 きょうの部会報告はすべて次期に継続審議されるということであるが,すでに「まえがき」のように第1部会で一つの決定事項があるとすれば,それをこの総会で審議し,決定してもよいのではないか。従来の慣行からいっても当然ではないか。

千種委員

 第1部会では当用漢字表の出し入れはもとより,その「まえがき」についても慎重に審議はしたけれども,その内容については,いま,各委員から指摘のあったように,まだまだ審議すべき問題点が残されている。このじゅうぶんでない部会報告を総会で決定してしまうということは,とてもできることではない。わたしは,きょうの部会報告は,審議の経過報告にすぎないと承知している。

宇野委員

 きょうは部会から総会に対する報告だけで,それを総会が了承したということにはならないのか。まことにおかしな話である。もし,そうなら,今期の国語審議会は,何もしなかったということになるが,それでもよいのか。

池田(弥)委員

 今期は何もしなかったということであるが,わたしはそうは思わない。当用漢字表の個々の字には問題はあるけれども,このような漢字の出し入れをはじめようとしたこと,それに,当用漢字表制定後20年を経過した今日,その制約をゆるめていこうということは,今期の一つの大きな成果であると,わたしは受け取りたい。

森戸会長

 きょうの部会報告については,この総会でいちいちその内容についてまで審議し,了承を得るわけにはいかない。きょうは,総会が部会からの報告を受けたということで皆さんがたに了承していただけるか。(賛成多数。)
 では,引き続いて,第2部会の報告をお願いする。

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