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次第 漢字部会の審議経過について
前田会長
では,引き続き漢字部会から部会の審議経過報告をお願いしたい。
岩淵漢字部会長
漢字部会では,第66回総会に報告した資料「当用漢字表音訓整理の考え方について」〔総−14〕をもとに,具体的な音訓の検討を進めてきたが,前回にはその一部を報告したとおりである。しかし,そのおり新聞などによって,漢字部会が審議した音訓は,二十数個の音訓だけのような誤解を世間に招いたのは残念なことであった。これから報告するものは,前回の具体的作業の引き続きである。
〔漢字部会当用漢字音訓表審議経過報告〕
- 「雑誌九十種の用語用字」によって,当用漢字の使用法を調べ,それによって検討した。
- 検討を必要とした漢字は621字であって,音訓の総数は844個であった。
- 第1読会として,採用してよいもの,採用しないもの,再検討を要するものにふり分けたが,これは,ひととおり審議したにとどまり,結論を得るまでつめたものではない。 また,この報告にあげた音訓は,例示であって,審議したもののすべてを尽くしたものではない。
- 第2読会としては,特に異字同訓,同字異訓という角度から、改めて審議する。
また,特殊の取り扱いをしたものについても,さらに検討を加えたい。 - 現行音訓表で認められているものの中で,省いてよいものがあるかどうかを検討する。
- いわゆる熟字訓についても検討する。
- 一般社会と義務教育との関係を考えるために,音訓表の段階づけを検討したい。
1 | 漢字の音訓は,漢字に即していえば,その読み方であるが,語または語の成分を表わすものと考えられる。 | |||
行 | コウ(カウ)〔漢音〕 | 507 | 行動 銀行 | |
ギョウ(ギャウ)〔呉音〕 | 82 | 行儀 修行 | ||
アン〔唐音〕 | 5 | 行在所 行脚 行燈 | ||
いく(ゆく) | 562 | 行く 行く末 売れ行き | ||
おこなう | 170 | 行なう 行ない | ||
開 | カイ | 180 | 開始,開拓,公開 | |
ひらく | 119 | 開く,開き扉 切り開く (展,拓) | ||
ひらける | 0 | |||
△あける | 23 | 開ける〔他〕〔自〕 開け放す 年開け (明 37 空 2) | ||
△あく | 5 | 開く (明 30 空 12) | ||
描 | ビョウ(ベウ) | 10 | 描写 素描 寸描 | |
えがく | 48 | 描く 描き出す | ||
△かく | 51 | 描く 描き入れる 絵描き (書く 219) | ||
正 | ショウ〔呉音〕 | 113 | 正月 正直 正面 | |
セイ〔漢音〕 | 153 | 正確 正常 修正 | ||
ただしい | 43 | 正しい | ||
ただす | 4 | 正す | ||
△まさ | 10 | 正しく 正に 正夢 | ||
遅 | チ | 5 | 遅延 遅刻 | |
おくれる | 20 | 遅れる 遅れ 手遅れ | ||
おくらせる | 1 | 遅らせる | ||
△おそい | 14 | 遅い (←→早い,速い) | ||
(注) 数字は「雑誌九十種の用語用字」によって知られる使用度数。以下も同じ。 |
2 | 漢字の意味と訓とは必ずしも一致しないが,関連性がある。従来の音訓表で音だけを認めた漢字について訓を認めることは,無意味ではない。(和語を漢字で書けるようにすることである。) | |||
〔例〕 | ||||
乾 | カン | 17 | △かわく 18 △かわかす 1 (△ほす5) (ほす−干21) | |
緩 | カン | 12 | △ゆるむ 1 △ゆるめる △ゆるやか | |
殖 | ショク | 14 | △ふえる 1 △ふやす | |
炊 | スイ | 7 | △たく 8 | |
垂 | スイ | 6 | △たれる 7 △たらす 1 | |
鮮 | セン | 22 | △あざやか 11 | |
体 | タイ | 463 | テイ 3 △からだ 52 | |
独 | ドク | 90 | △ひとり 15 | |
赴 | フ | 2 | △おもむく 8 | |
崩 | ホウ | 5 | △くずす 7 △くずれる 14 | |
本 | ホン | 785 | △もと 8 (もと−元67) | |
円 | エン | 673 | △まるい (まるい−丸96) | |
殴 | オウ | 0 | △なぐる 9 | |
履 | リ | 21 | △はく 5 |
3 | 訓は漢字使用の歴史から見ると,各種のものがあるが,現在常識的に訓と考えられているものをとりあげる。(実際に語として行われているものを取り上げる。) | |||
〔例〕 | ||||
魚 | ギョ | うお 15 △さかな 21 | ||
怒 | ド | いかる 14 △おこる 36 (怒る イカル,オコル) | ||
訪 | ホウ | おとずれる 30 △たずねる 30 (訪れる,訪ねる) | ||
危 | キ | あやうい 5 あやぶむ 2 △あぶない(危い) 7 | ||
巧 | コウ | たくみ 11 △うまい 12 | ||
固 | コ | かたまる 4 かためる 9 △かたい 19 (「堅い」14) | ||
角 | カク | つの 0 △かど 13 | ||
壊 | カイ | △こわす 4 △こわれる | ||
懐 | カイ | △なつかしい 9 △ふところ 5 (△いだく2) | ||
交 | コウ | まじる 1 まじわる 1 まぜる 1 △かわす 7 | ||
入 | ニュウ | いる 140 いれる 312 △はいる 245 |
4 | 特殊な読み方は,漢字一字一字の音訓としてではなく,一語一語として取り扱う。(将来新しく造語する場合の成分とはしない。) | |
〔例〕 | 上手(ジョウズ) 木綿(モメン) 街道(カイドウ) 開眼(カイゲン) 掃除(ソウジ) 凡例(ハンレイ) 三味線(シャミセン) 小児(ショウニ) 遊説(ユウゼイ) 権化(ゴンゲ) 暴露(バクロ) 数珠(ジュズ) 回向(エコウ) 久遠(クオン) 相殺(ソウサイ) 庫裏(クリ) 煩悩(ボンノウ) 神道(シントウ) 風情(フゼイ) 景色(ケシキ) 弟子(デシ) 白髪(シラガ) 海原(ウナバラ) 八百屋(ヤオヤ) 八百長(ヤオチョウ) 心地(ココチ) |
5 | 音便等によって生じた特殊な語形 |
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6 | 同音異義語を漢字で区別する。(異字同訓) |
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7 | 多義語の意味の区別を漢字でする。(異字同訓) |
ただし,区別しがたい場合が多いから慎重にする必要がある。 | |
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○ 現行当用漢字および別表字と音訓 | |
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別表字881字は,義務教育期間に必須せしむべきものとされている。全体で1,672個の音訓を学習しなければならない。しかし,これらのうちには特殊のものも含まれているから,基本的なものを選び,一方,ある程度の訓を加えるとすると次のようになる。別表外の字についても,同様な取り扱いをする。 | |
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以上の報告の中で,まちがった点などがあれば,部会委員から直接訂正や補足説明を願いたい。
大野委員
いま,漢字部会長から報告のあった音訓検討の結果は,これからの文章を書くという立場から検討したものである。読める必要があるかどうかという立場については,まだ検討していない。