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前田会長

 ただいま,各部会からの審議経過報告を承ったが,このうち,この第8期国語審議会の発足当初から問題になっていた点については,西島委員長から最終的な報告があったわけである。この報告は,いちおう小委員会としての結論でもあるので,まずこれについて,総会として了承すべきかどうかをおはかりしたい。わたしとしては,この小委員会の報告は,きわめて明確に問題点を解明していると思われるので,第8期国語審議会総会への報告としてこれを承認していただければ幸いである。みなさんの意見を伺いたい。

植松委員

 一言,確かめたいことがある。小委員会の報告中,当用漢字表および当用漢字音訓表の改善の方向として,これを基準として尊重することが望ましいという趣旨の表現があるが,これは現行の内閣告示の表現の改正を直ちに求める趣旨かどうかをお尋ねしたい。

西島委員長

 現行の国語施策を国民に公示したときの内閣告示の表現,特に当用漢字表の内閣告示の表現が妥当でないので,これを改める必要があるということである。しかし,これは違憲であるというような問題ではないので,即刻取り消したり,改めたりする必要はない。今後,漢字部会等で当用漢字表や当用漢字音訓表等を改定して,再度,告示で出す場合に,以上のような点を改めてほしいということである。いま直ちに,現行の当用漢字表等の告示・訓令の表現を改めることにでもなれば,戦後の国語政策が,なにか急変を起こしたかのような印象を国民に与え,かえって混乱をひきおこすおそれがあるので,取りやめたいということである。

植松委員

 わたしは,この報告の方向は大局的に賛成である。即刻,訓令・告示の表現を改めてほしいとも申さない。しかし世間の実情,ことに官庁等においては訓令によってきびしく制限を受けているものであるから,忠実にそれを守らざるを得ないかとも思うけれど,このために,まことに非能率で不便をきたしている。もし,この小委員会の結論が正しいものであれば,できるだけ早い機会に,現行の告示の制限的表現をゆるめることが必要ではないかと思う。

西島委員長

 小委員会の権限には,現行の国語施策について,すぐに,これを変更すべきだとか,すべきでないとかいう資格はない。植松委員の意見を総会として取り上げ,それがこの総会の決定ということにでもなれば変更してもよいけれど,小委員会がそこまで決めるのは,行き過ぎではないかという印象を受ける。

吉国委員

 植松委員の意見と関連して申しあげたい。わたくしは,内閣法制局のものであるが,われわれは戦後の国語施策に対し,例外がないくらいにこれに従い協力してきた。ただ,いまでも文語体のものとか,憲法が歴史的かなづかいであるとかといった特殊なものもあるけれど,これまで毎年制定されてきた多数の法令や省令などは,あくまで現行の訓令・告示に従ってきたものである。こんど小委員会から「当用漢字表および当用漢字音訓表は基準として尊重することが望ましい。」と報告されており,また,植松委員からも早急に現行の訓令・告示の制限的な表現をゆるめるようにとの意見が出ているが,もし,ゆるめられるのなら国語審議会としてはどこまでゆるめられるのか,それを具体的に示していただかないと法令の審査や公用文の作成に支障をきたすことになる。ある省では,1割程度の許容と考え,あるいは2割程度の許容と考えるというように各省間でもまちまちになるおそれがある。国民一般に対しては小委員会報告の姿にもっていくことが望ましいことかもしれないけれど,われわれにとっては,いま申したような事情で,現行どおり実施していかなければならないと考える。

植松委員

 吉国委員のいわれたことと,わたしの申したこととは矛盾していない。法制局が現行の告示に関する限り,それに従うのは当然のことである。ただ,そのためにわずか2,3行の文章を書くのにほねをおっている姿は,どう考えても非能率的であるので,こんどの小委員会の報告の方向にそって告示を改めるべきではないかと思うわけである。即刻変更すべきだとまでは申さない。

大野委員

 小委員会の審議経過報告に改善の方向として「当用漢字表および当用漢字音訓表を基準として尊重することが望ましい。」と述べているのは,現行のものをさしていっているのではなく,将来改定されるべき当用漢字表や当用漢字音訓表のことをさしていっているものと,わたしは了解していたが,はたしてそれでよいのか。この点を小委員会の一員として委員長に確かめたい。

西島委員長

 そのとおりにわたしも了解している。

前田会長

 ほかに意見がなければ,第8期国語審議会として,この小委員会の審議経過報告を承認したいと思う。異議はないか。なければそのように取り扱いたい。次いで漢字およびかな両部会の審議経過報告に移る。先に両部会長から,この報告は中間的な報告であり,結論を出すまでにはいたっていないという断わりがあった。そういうことから,この報告は,次期に引き継いで審議されるのが当然であると思うけれども,この総会として,この中間報告の方向をいちおう了承するかどうかおはかりしたい。わたしとしては,両部会の報告は,かなり前向きに前進していると思われるので,次期国語審議会で継続審議するというたてまえで大筋の方向を了承してはどうかと考えている。この点について意見はないか

小谷委員

 漢字部会では,「当用漢字音訓表」の検討に際して,「われわれが考えようとするものは,今後一般社会で現代の日本語を書き表わすためのものとしてであって,漢文,あるいは専門語,学術語,固有名詞等に及ぼそうとするものではない。」という態度をとっておられるようでるが,専門語,学術語において新しいことばがどんどん生まれつつある。あるものは,何年かを経ると新聞紙上に非常によく出てくる可能性をもっている。現にそういう方向からの切実な要求があるとすれば,そういうものも漢字部会でお考え願えないものかと思う。

岩淵漢字部会長

 わたしどもも,ことばのほうから考えていくと,小谷委員のいわれるとおり,専門語や学術語等は,どうしても一般社会に流れ込んでくるし,当然そういったことばを隔絶させておくことはできないと考えている。しかしわれわれは,専門語や学術用語等の分野まで足を踏み込んでどうこうできるものではないし,また,ある程度作業を限定する必要もあるので,一般社会を対象に考えようということになったわけである。この考えは小委員会の報告にある考え方とも全く一致するものである。

佐藤委員

 漢字部会が,漢字の問題をことばの問題と関連して考えていること,ことばを書き表わすという立場で考えていることは,たいへんけっこうなことで,わたしも同感である。これは必然的にそうあるべきであって,今後の審議にあたってもこの方向をもっと強めてほしい。一例をあげると,「天」に「あめ」という訓を認めるかどうかは,現代語としてそのことばが普通に使われるかどうかで判断すべきだということである。なお,そういう観点からいうと,漢字部会では「現代雑誌九十種の用語用字(国立国語研究所編)」をよりどころに検討されているようであるが,国語の将来について考える場合に,これだけにたよってよいかどうかは問題である。さしあたっては,今回の報告をもとに,次の期における審議を進めてほしいとは思うけれども,同時に,当面の問題だけでなく,遠い将来の国語についても審議していく必要があろう。
(灘尾文部大臣出席。)

前田会長

 ただいまのご意見は,次期国語審議会に引き継ぐというか,とにかく記録にとどめて参考に供したい。ほかにご意見はないか。それでは,両部会の中間報告の大筋の方向を第8期国語審議会として了承していただきたい。なお,前回(第68回)の議事要旨の確認は時間の都合上,本日は省略させていただく。もし訂正箇所等があれば,のちほど事務当局に申し出るということで確認にかえさせていただく。第8期国語審議会の総会もこれで最後であるが,ここで文部大臣からごあいさつがある。

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