HOME > 国語施策・日本語教育 > 国語施策情報 > 第9期国語審議会 > 第73回総会 > 次第
次第 庶務報告/前回の総会議事要旨の確認/学術審議会学術用語分科会からの連絡について
前田会長
第73回国語審議会総会を開く。最初に委員の異動などがあったので国語課長から報告させる。
国松国語課長
委員およびかな部会長の異動について報告する。昭和44年5月26日付けで平林委員が辞任され,後任に田中(澄)委員が発令された。また,昭和44年7月1日付けで遠藤(五)委員が辞任され,後任に高橋委員が発令された。また,かな部会長が昭和44年5月12日付けで村上部会長から佐々木部会長に交替になった。たお,昭和44年7月1日付けで小川文化部長から吉里文化部長に交替した。
前田会長
次いで前回(第72回)の総会の議事要旨の確認をお願いする。既に事前に送付済みでもあり,現在までのところ修正意見も出ていないので特に異議がなければ確認されたものとしたい。(異議なし。)
次に,学術審議会の学術用語分科会会長から国語審議会会長あてに「キリスト教学」の用語の審査案を完成した旨連絡があった。これについては従来の慣例に従って会長名で回答をしたいと思うが,国語課長から,この間の事情についていちおうの説明をお願いしたい。
国松国語課長
学術審議会学術用語分科会会長から連絡のあった「キリスト教学」の用語の審査案はかなりの量の用語である。その抜粋の一部は資料2(1)「学術用語の制定について」に添付してある。この審議経過は資料2(2)「キリスト教学用語の審議経過の概要」に述べてあるとおりである。なお,その他の学術用語がどのように制定されているかということについては資料2(3)「学術用語の制定・普及について」にしるされている。つまり専門分野を34に分けて審議しているわけであるが,そのうち資料2(4)「『学術用語集』一覧表」にあるように,既に13分野について成案が出ており,「学術用語集」という形で編集・刊行されている。今回の「キリスト教学」用語は,20年の審議を経て,今日,いちおうの原案がまとまったので,国語審議会のほうに連絡があったものである。国語審議会の事務を預かっている国語課として,いちおう,この内容を審査した。審査は既に学術用語分科会の中で,各専門分野共通の基準ができているので,それに照らして中身を見,事務的に字体とか,かなづかいなどについて,誤りのあるところを修正するようにした。本日,総会の了承が得られれば,国語審議会会長名で学術用語分科会会長あてに回答をし,学術審議会のほうは,それを受けた後,文部大臣に答申をするという段取りになっている。
前田会長
質問がなければ,前例に従って,会長名による「よろしくお取り計らいください。」という趣旨の回答をしたい。
大野委員
わたしはこれまで2期にわたって国語審議会委員をつとめているが,こういう報告を受けたのはきょうがはじめてである。寝耳に水で簡単に了承することはできない。既に国語審議会は第8期に,漢字の字種に関して諮問を受けており,これに対して答申する義務を負っているが,こういうような作業が,ほかのところでどんどん進行しているというのはおかしい。以前に漢字部会で漢字の字種について検討したおり。学術審議会の関係者から学術用語について説明を聞いた記憶はあるが,こういう形でまとめるというようには伺わなかった。今回の「キリスト教学」の用語の審査案は,現行基準の少ない字数の中で無理をしてやりくりし,こういう案を作成しているわけである。こういう作業が長期にわたって進められていたということはわたし自身はもとより,他の委員もご存じないことと思う。そういうわけで,簡単によいとか悪いとかの意見は述べられない。
前田会長
学術審議会も国語審議会も,文部大臣に答申するという点では同じことである。学術審議会の学術用語の審議と国語審議会の審議との関連は,最終的には,文部大臣が二つの審議会からの答申を総合的に判断されるものと思われるので,この際,国語審議会としては,慣例どおりの回答をしておくのが妥当ではないかと思う。そして国語審議会は独自の見解でこれまでの審議を進めていけばよいと思う。つまり。現在,学術用語に関して文部大臣から学術審議会に対して諮問が出ている以上,いますぐ国語審議会として,どうこういう時期でもないように思う。
大野委員
前田会長の考えは,このことに関してわれわれは意見を述べることができないということなのか,意見を述べるつもりがないということなのか。それとも意見を述べる材料がないということなのか。
前田会長
適当な機会に見解を述べることはあるかもしれないと思う。
大野委員
国語審議会がこの案に対して賛成とかなんとかいうことがおかしいとわたしは思う。
前田会長
賛成という意味の回答ではなく,従来の例により「したいならしてください。」という意味の「よろしくお取り計らいください。」という意味の回答をしようというのである。
大野委員
わたしの考えでは,第7期までと第8期以降とでは国語審議会の考え方が変わったはずだと思う。つまり第7期までは戦後に決めたいろいろな方針を徹底し,普及させることにあったと思う。そういう意味で学術用語も当用漢字1,850字の範囲内で考えるということが,おそらく学術用語制定の方針であったろうと思う。ところがそういう戦後のやり方について,いろいろな疑問点があるから,再検討せよ,ということが,第8期の初めに文部大臣から表明されたわけである。
だから学術審議会から学術用語の制定について申し入れがあったとしても,再検討のさいちゅうにある国語審議会としては,返事のしようがないわけである。むしろ,われわれとしては,そのことについて現在審議中であるから,こちらの審議を待ってほしいというほうが当を得ており,それをしないのが怠慢であったということであろう。
国松国語課長
この問題について,若干追加説明をしたい。専門用語については当用漢字表の使用上の注意事項に「専門用語については,この表を基準として整理することが望ましい。」とある。「望ましい」という表現であるので,ほかの規定と少し違うと思われる。それに対して,学術審議会の学術用語分科会のほうでは,学術用語審査基準を定めて,それで統一している。この審査基準は現在の学術審議会でも,いちおう今までの基準によっていこうということで決めたもので,その内容は,現行の当用漢字表の趣旨にそったものである。
将来当用漢字表の改定があったときには,あらためて学術用語審査基準を考え直すが,それまでは学術用語の制定をとめるというのではなく,いちおう現行の基準に従って学術用語を制定していくというのが学術審議会のほうの考え方であると聞いている。
次に,「よろしくお取り計らいください。」というような回答を出した最近の例は,昭和39年であるが,それ以前には,もっと詳しく内容を検討して具体的な意見を添えていた。現行の施策について,少し改善を考えるようになってからは,いま申し上げたような表現で,会長名で回答をするというように変わってきた。
大野委員
ともかく当用漢字表について再検討中のところへ,いきなりこういうものをもってきて,たとえ「よろしくお取り計らいください。」というような非常に簡単な回答にしろ,回答するというのはおかしなことである。
たとえば数学用語で,「函」が当用漢字表にないために。「関数」と表記されるようになったが,こういうことがよいか悪いか,漢字の字数を考えるうえで非常に重要な問題になってくる。学問に関する術語というのはまことにたいせつなもので,普通一般に新聞の社会面等で,どれくらいの漢字を使うかということと同一に論じることはできたい性質のものである。
今後,術語との関連で当用漢字表の字数をどの程度に考えていくかということが将来の漢字問題のいちばん重要な点であろうと思っている。
前田会長
大野委員の発言の趣旨は理解しているつもりである。いずれ国語審議会としての基本的な原則についての結論が得られた場合には,あらためてこの問題の取り扱い方を,たとえば一般問題小委員会などで検討する可能性もあるし,それに答申される主体はいずれも文部大臣であるということからも,当然,そこで調整される可能性もありうるわけだから,この問題は,「よろしくお取り計らいください。」という程度の回答だということで現在の段階ではきわめて事務的に処理したいと思うがどうか。
大野委員
少なくとも,そういうことならば「われわれは漢字の字数の問題についても学術上のことを考慮に入れて検討するはずであるが,まだ,それに手が及んでいない。したがってそちらがもし急いで決めるのなら,しかたがないが,できれば,こちらの案の出るまで待ってほしい。」という趣旨を詳しく述べておくほうが,現在の国語審議会の立場を考えた行き届いたやり方ではないかと思う。
安達文化庁次長
ただいまの問題は,それぞれ別個の審議会である以上,「待ってほしい。」などというのも問題がありはしないかと思われる。そこでたとえば,次のように回答してはどうか。
「よろしくお取り計らいください。なお,この字種の問題については国語審議会でも検討中であることを申し添えます。」と。
前田会長
ただいまのような回答でよいか。(異議なし。)それでは,そのように取り計らいたい。